説明

汚染土壌の除染方法及び装置

【課題】汚染された土壌を短時間かつ簡便に除染でき、二次廃棄物の発生が少ない処理の方法及び装置を提供すること。
【解決手段】汚染土壌と除染用溶媒は混合槽5で攪拌され、ろ過装置8で固液分離される。固形分は乾燥装置10に送られる。固形分は乾燥装置10での乾燥終了後に排出される。ろ液は蒸発装置12で加熱蒸発し凝縮器14で凝縮後、除染液タンク3に戻る。蒸発装置12からの残渣液は蒸発乾固装置21で溶媒成分を蒸発回収し、乾燥した固形分を排出する。この固形分残渣は回収され、セメント固化処理設備に送られ、固化剤、練錬水と混合されモルタルペーストとなり、ドラム缶等の容器に排出される。モルタルペーストは水和反応により硬化し固化体となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質に汚染された汚染土壌から放射性物質を分離除去することにより、汚染土壌を除染する除染方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性物質であるセシウム−137は半減期約30年でバリウム−137の準安定状態に禁制遷移を通してベータ崩壊し、バリウム−137の準安定状態から基底状態への遷移を通じてエネルギー662eVのガンマ線を放出する放射性核種であることが知られている。セシウム−137は、通常原子炉内におけるウラン等の核燃料が核分裂反応を起こすことで生成する、核分裂生成物の一部としてのみ発生する。同様に核分裂生成物の一部として発生するセシウム−137、134等の放射性セシウムが原子力関連施設から系外放出される場合、セシウムはアルカリ金属の水酸化物または炭酸塩等の塩として土壌に付着する。そして、土壌中の水分により電離、イオン化し、セシウムイオンは主に土壌中の粘度成分に吸着される。吸着後のセシウムイオンは、土壌中に含まれる水分の存在にも関わらず、土壌粘度成分の有する大きな分配係数により、地表面あるいは土壌深さ方向への移行が抑制される。このため、放射性セシウムは土壌の深さ10cm程度までは到達するものの、それより深い地点まではほとんど浸透しない。セシウム−137に汚染された土壌からは上記のガンマ線が発せられており、人がこれを浴びると所謂外部被爆を引き起こす場合がある。また、上記土壌を含む埃等を経口吸引することで、所謂内部被爆を引き起こす場合がある。内部被爆において、セシウムは人体の筋肉部分に蓄積することが知られており、このような場合にはプルシアンブルー等の薬剤を摂取する対応が必要となる。このような内部被爆の低減策として、土壌表面とそれよりも深部の土壌との入れ替えにより埃等へのセシウム混入を回避することが可能な場合もある。しかし、入れ替え作業時の埃の飛散や外部被爆抑制には効果が低く、このため根本的に土壌を除染する方法が必要とされている。その一方、上記のように放射性セシウムが系外放出される場合には広い範囲の土壌が汚染される場合があり、大量の土壌を短時間かつ簡便に除染する技術が必要となる。また、その際、放射性廃棄物の処理処分に関する負担を軽減する観点から、出来るだけ二次廃棄物の発生を抑制することが望ましい。
【0003】
従来、放射性セシウムの吸着剤として、特許文献1、2に記載されるような、あるいはプルシアンブルー等のフェロシアン化化合物と凝集剤の組み合わせがあり、これらによりセシウムを汚染水から分離除去する技術が開発されてきた。また、このように凝集、あるいはキレート化された放射性核種を含む排水を酸化処理した後にイオン交換処理することで放射性セシウムを安全に回収する技術が開発された(特許文献3)。しかし、これらの処理においては、凝集剤や使用済みイオン交換樹脂等の二次廃棄物が大量に発生する課題があった。また、これらの処理技術は汚染水処理のためのものであり、その適用の前に土壌からのセシウム脱離を促進させる必要がある。これは、土壌に吸着されたセシウムは、水と接触しても、分配係数が大きい場合は容易に土壌から脱離しないことに起因する。しかし、上記技術にはそのような機能がないため、現状、セシウムが吸着した土壌の除染のためには適用困難であった。
【0004】
そこで、特許文献4に記載される技術では、Csを含む放射性各種で汚染された土壌をアンモニア水または無水アンモニアを含む液体(アンモニア性液体)と混和し、土壌中に含まれる微細粒子成分(粘土分)に放射性核種が主に吸着されることを利用して、その他の土壌成分を沈降分離する方法が開示されている。沈降分離後の粘土分を含む液相は蒸留によりアンモニア性液体が分離回収されるので、放射性廃棄物は粘土分のみとなり、二次廃棄物の発生量が低減される。本方式は、うまく機能すれば土壌除染と二次廃棄物低減が実現でき、有望と考えられる。しかし、実際には、土壌に含まれる粘土分が多い場合、実質的に除染が困難となること、液相は粘土分の混入により高粘度化し、蒸留分離には著しい時間が必要となるため、現実的ではない。特許文献4ではこれについて、アンモニア混合後、さらにアルカリを添加することにより粘土分のような微細粒子成分の分離を促進するとしている。しかし、本発明者らの実験によれば、液相からの粘土分の分離性は改善されない。これは粘土分自体がアルカリ性を帯びており、アンモニアのようなアルカリの共存下、あるいは更にアルカリを添加しても静電的な反発力が大きくなるだけでコロイド状態の分散が強まり、凝集効果等による分離性向上が期待できないことに起因する。
【0005】
一方、海外においては、原子力施設周辺地域の環境回復や発電所での事故対応として、汚染した表面土壌を剥ぎ取り、管理区域内に保管管理する対策が取られる場合もある。しかし、このような管理区域では膨大な量の汚染土壌を保管する必要があり、国土の狭い日本では適用が難しいと考えられる。また、芝生やひまわり等の植物を汚染土壌に植えてセシウムを吸収させ、それらを焼却減容し少量の焼却灰を管理する、所謂ファイトレメディエーションの方法を採用する場合がある。しかし、本方式では年間除染率は10%程度であり、この場合、放射能濃度が実質的に無視できる状態、例えば十半減期相当の時間経過による減衰状態(元の放射能濃度の1/1000)に達するのに要する除染期間は66年となる。このため、本方式は比較的汚染の少ないエリアにて適用可能である。従って、放射性セシウムに汚染された大量の土壌を短時間かつ簡便に除染でき、二次廃棄物の発生が少ない技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−526833号公報
【特許文献2】特許2000761号公報
【特許文献3】特許2978542号公報
【特許文献4】特許2908030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した実情に鑑み、放射性物質であるセシウムに汚染された汚染土壌を短時間かつ簡便に除染でき、二次廃棄物の発生が少ない処理の方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を解決すべく鋭意検討を行った結果、比較的イオン半径がセシウムイオンに近く吸着性が大きいアンモニウムイオンを含む極性溶媒で汚染土壌を洗浄し、ろ過等による固液分離を行い、除染された土壌を元にあった場所に戻すと共に、分離した液相部分を加熱蒸発させた上で凝縮させることで回収、再利用する方法を見出した。これに関する作用機構について、以下に説明する。一般的に、固相と液相が存在する系において、イオンの吸着挙動は質量作用則に由来する、以下の基礎式(1)(イオン交換平衡式)に支配される。
【0009】
K’=KHj・{Q/(Zj・C0j)}Zj−1
=([H+]/C0j)Zj・(qj/Q)/{(Cj/C0j)・([Hresin]/Q)zj} (1)
ここで、qj(t、x):元素jの吸着量、Cj(t、x):元素jのイオン濃度(mol/L)、C0j:元素jの初期イオン濃度(mol/L)、zj:元素jの電荷、KHj:選択係数、Q:樹脂の交換容量(mol/L)、 [Hresin]:樹脂交換基残存量(mol/L)である。
【0010】
土壌に吸着されているセシウムイオンはアンモニウムイオン等、過剰量の他の陽イオンが上記土壌に供給されると、それらの土壌への吸着や液相中におけるセシウムイオンの希釈の効果により、セシウムは土壌から脱離し液相(溶媒)中に移行する。これにより土壌からのセシウムの脱離及び液相への移行が可能となる。その際、土壌から実質的にほとんどのセシウムが吸着されている粘土分を事前に分離しておくと、除染用の溶媒と混合させる土壌量が低減するので、処理効率が向上する。粘土分の分離には例えば、水中への土壌混合/静置後に液相を回収し、液相中に浮遊する微粒子成分をろ過等により回収することで実現できる。本発明で見出している極性溶媒とは、水等の極性・揮発性溶媒に炭酸アンモニウム等のアンモニウム塩を溶解させたものである。アンモニウムイオンはセシウム脱離能力や揮発性の観点から重量濃度30%以上のものが望ましい。このような場合、除染用の溶媒はその揮発性により蒸発回収/再利用が容易となる。そして、セシウムを含む二次廃棄物は使用済の除染用溶媒を蒸発させたあとの残渣(液体、固体いずれの場合を含む)となり、その発生量を著しく低減することが可能である。残渣は回収し、セメント固化等の放射性廃棄物処理を行った上で保管管理される。液体のままであれば、容器内で保管していても破損や腐食で容易に流れ出し、保管管理の施設の外に漏洩するが、セメント固化によりセシウム等の放射性核種は特定の領域(固化体内)に閉じ込められるので、その保管管理が容易となる。溶媒の蒸発回収の際、使用済溶媒を減圧環境下において遠心薄膜蒸発機等で高速回収すると、溶媒再利用の頻度が向上するので、少ない溶媒量で土壌処理が可能となる。これは設備規模や使用済溶媒に起因する二次廃棄物発生量の低減に寄与する。そして、これらの技術を取りまとめることで、目的とする放射性セシウムに汚染された土壌を短時間かつ簡便に除染でき二次廃棄物の発生が少ない処理が実現できると発明者は考え、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は以下を包含する(図1)。
(1)アンモニウム塩を溶解させた極性溶媒で汚染土壌を混和洗浄した後、固液分離し、使用済溶媒を加熱蒸発させた後に凝縮回収することを特徴とする、汚染土壌の除染方法及び装置。
(2)使用済溶媒を加熱蒸発させた後に残る残渣を回収し、セメント固化を行うことを特徴とする、上記(1)記載の汚染土壌の除染方法及び装置。
(3)使用済溶媒の加熱蒸発について、減圧環境下において遠心薄膜蒸発機を用いることで実施することを特徴とする、(1)記載の汚染土壌の除染方法及び装置。
(4)酸性凝集剤を添加して混合した上で固液分離することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、pHが中性の環境で、過剰量のアンモニウムイオンを汚染土壌に供給することによって、吸着されているセシウムを土壌から脱離させて溶媒中に移行させることができ、これまで困難であった土壌の除染が可能となる。アルカリ性環境ではセシウムイオン及びアンモニウムイオンの活量が低下し、セシウムが土壌から解離する効果を著しく低下させる。また、酸性凝集剤の添加は、土壌中の微細粒子が有するアルカリ性を中和し、静電反発による分散を抑制することで微細粒子の凝集効果を高めるので、その固液分離性が高まる。その際、除染用の溶媒は揮発性を有するため、蒸発回収と再利用が容易となり、二次廃棄物の発生量を著しく低減することが可能である。セシウムを含む蒸発残渣を回収しセメント固化することで、保管管理が容易な安定状態とすることができる。また、使用済溶媒を減圧環境下において遠心薄膜蒸発機等で高速回収することで溶媒再利用の頻度が向上し、少ない溶媒量で土壌処理が可能となるので、設備規模や使用済溶媒に起因する二次廃棄物発生量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係わる汚染土壌の除染装置の全体構成を説明する図。
【図2】使用済溶媒の再生装置の構成を説明する図。
【図3】セメント固化処理装置の構成を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る汚染土壌の除染方法及び装置を、図面を参照して詳細に説明する。
本発明に係る汚染土壌の除染方法及び装置では、アンモニウム塩を含む極性溶媒を除染用溶媒として用い、汚染土壌と混合してpHが中性の環境で過剰量のアンモニウムイオンを汚染土壌に供給することで、土壌に吸着されているセシウムを土壌から脱離させ、溶媒中に移行させるのが重要となる。
【0015】
混合槽は、周囲へのアンモニアに伴う異臭拡散防止のため、実質的に十分密閉された容器が望ましい。そのため、混合槽への汚染土壌の供給には、スクリューフィーダー等を用いるのが望ましい。混合槽からの排気はスクラバー等のアンモニア吸着工程を含む排ガス浄化を行った後、系外放出される。また、土壌と除染用溶媒の混合物は比較的粘度の高いスラリーとなるため、攪拌翼は高粘度に対応できるものが望ましい。そのような攪拌翼には、例えば日立プラントテクノロジー社製のねじり格子翼等がある。混合槽の容器や攪拌翼等、除染用溶媒と接する部位について、過剰なアンモニウムイオンの存在により混合スラリーが弱いアルカリ性を示す場合があるため、耐アルカリの材料、例えばステンレス等の耐食性金属やポリプロピレンやポリスチレン等のエステル結合を持たない樹脂素材が用いられていることが望ましい。本混合工程において、土壌と溶媒の供給を行い所定時間の攪拌混合を行った後にスラリーを排出するバッチ処理、または土壌と溶媒の供給、攪拌混合、スラリー排出を同時に実施する時間帯を有する連続処理のいずれも適用可能である。
【0016】
混合槽から排出されたスラリーは、ろ過等により固液分離される。大量の土壌を処理する際の操作性及びコストの観点から、本発明では、ろ過方法として砂ろ過の適用が望ましいと考える。ろ過の後、固形分はアンモニウム塩分の更なる除去のため、乾燥工程に送られる。ここでは、固形分が所定の温度で加熱されることで、アンモニウム塩分が揮発する。揮発したアンモニウム塩分を含む排気は、スクラバー等のアンモニア吸着工程を含む排ガス浄化を行った後、系外放出される。これにより、系外への異臭拡散を防止する。除染とアンモニウム塩分の除去が終了した乾燥済の固形分は、系外排出され、除染済の土壌として元の場所に戻すことが可能となる。その際、周囲へのアンモニウム塩に伴う異臭拡散防止のため、乾燥装置の容器は実質的に十分密閉された容器が望ましい。そのため、本容器からの固形分排出には、スクリューフィーダー等を用いるのが望ましい。
【0017】
混合槽から排出されたスラリーのろ液は、蒸発装置に送られて加熱され、溶媒分が蒸発される。その際、減圧環境下で加熱することで溶媒分の沸点が低下するので、溶媒分の蒸発は容易となる。蒸発装置として、遠心薄膜蒸発機、あるいはその他の分子蒸留装置を用いることで、通常広い伝熱面積と大きな総括伝熱係数が得られるため、短時間での蒸発が可能となるので、その適用が望ましい。そのような装置の例として、例えば日立プラントテクノロジー社製のコントロ等がある。蒸発装置の容器や槽内構造物、送液配管、ポンプ等、除染用溶媒と接する部位について、アンモニウムイオンの存在により被濃縮液が弱いアルカリ性を示す場合があるため、耐アルカリの材料、例えばステンレス等の耐食性金属の適用、あるいはポリプロピレンやポリスチレン等のエステル結合を持たない樹脂素材の表面コーティングを施した構造材を用いることが望ましい。
【0018】
蒸発装置から排気された溶媒蒸気は、凝縮されて凝縮液とされた後、溶媒の種類により、所定の槽に送液される。溶媒として、炭酸アンモニウム等のアンモニウム塩を溶解した揮発性溶剤を用いる場合、溶剤とアンモニウム塩分が主に回収される。このため、アンモニウム塩を再生するための酸成分を添加混合する工程に、凝縮液は送液される。例えば、炭酸アンモニウムの場合、添加混合する酸成分はドライアイスとなる。凝縮工程での排気について、アンモニウム塩分を含むため、スクラバー等のアンモニア吸着工程を含む排ガス浄化を行った後、系外放出される。これにより、系外への異臭拡散を防止する。凝縮器の容器や槽内構造物、送液配管、ポンプ等、除染用溶媒と接する部位について、アンモニウムイオンの存在により凝縮液がアルカリ性を示すため、耐アルカリの材料、例えばステンレス等の耐食性金属の適用、あるいはポリプロピレンやポリスチレン等のエステル結合を持たない樹脂素材の表面コーティングを施した構造材を用いることが望ましい。
【0019】
蒸発装置から排出される残渣液について、セシウムが濃縮されており、このまま回収してセメント固化処理を行うことが可能である。また、その一方で、更なる減容、あるいは液体ではなく固体での回収を行う場合、上記残渣液はさらに蒸発乾固を行う装置に供給される。蒸発乾固装置は、通常縦型の反応槽内面に被乾燥液を供給し、攪拌翼で液を槽内面に広げつつ、乾燥した固形分を掻き取る。掻き取られた固形分は重力落下等により、装置外に排出される。蒸発乾固装置では、広い伝熱面積と大きな総括伝熱係数が得られるため、短時間での乾燥が可能となる。そのような装置の例として、例えば日立プラントテクノロジー社製のセブコン等がある。蒸発乾固装置から排出される蒸気は、凝縮器を経由して溶媒分を分離回収の後、アンモニウム塩分が残存する前提で、スクラバー等のアンモニア吸着工程を含む排ガス浄化を行った後、系外放出される。蒸発乾固装置から排出される固形分にはセシウムが更に濃く濃縮されており、回収してセメント固化処理される。
【0020】
以上で説明した汚染土壌の除染方法及び装置に含まれる除染・溶媒回収システム、回収溶媒の再生システム、及び残渣のセメント固化システムの一例をそれぞれ図1〜3に示す。図1〜3に示す方法においては、汚染土壌タンク1から汚染土壌が汚染土壌供給装置2を用いて混合槽5に供給され、除染液タンク3から除染用溶媒が除染液供給装置4を用いて混合槽5に供給される。
【0021】
供給された汚染土壌と除染用溶媒は、混合槽5により攪拌混合を受ける。これにより、過剰量のアンモニウムイオンによって、汚染土壌からセシウムを脱離させ、溶媒中に移行させる。混合槽5の排気は、スクラバー等のアンモニア吸着工程を含む排ガス浄化装置6に送られた後、系外放出される。土壌と除染用溶媒の混合物はスラリーとなる(スラリー生成手段)。
【0022】
ここで必要に応じて、固液分離剤タンク42から固液分離剤が固液分離剤供給ポンプ43により、混合槽5に供給され、スラリーに添加される(添加手段)。固液分離剤について、ポリ塩化アルミニウムなどの酸性(陽イオン系)凝集剤を用いることが出来る。これは土壌中でセシウムを吸着する粘土成分が陰イオン系の凝集効果を有する物質であるためである。これにより、水中で浮遊する粘土の微粒子成分が凝集し、固液分離しやすい状態となる。連続プロセスにより処理を行う場合には、混合槽の後段にスラリーと固液分離剤を混合するための専用の槽を用意することが望ましい。必要に応じて固液分離剤との混合を行ったスラリーは、スラリー排出装置7によりろ過装置8に送られる。
【0023】
スラリーは、ろ過装置8により固液分離される(固液分離手段)。固形分は、アンモニウム塩分の更なる除去のため、固形分供給装置9により乾燥装置10に送られる。乾燥装置10にて、固形分から発生するアンモニウム塩分を含む排気は、排ガス浄化装置6に送られた後、系外放出される。乾燥終了後、乾燥装置10から土壌排出装置11により固形分が排出される。排出された固形分は、除染済土壌として元の場所に埋めもどすことが可能である。ろ過装置8から排出されるろ液は、ろ液送液ポンプ23、背圧を与えるニードル弁17を通して蒸発装置12に送られる。蒸発装置12にて、ろ液は加熱蒸発される(蒸発手段)。その際、蒸発装置12は減圧装置13により槽内部が減圧され、これにより、蒸発回収が容易となる。減圧装置13からの排気は排ガス浄化装置6に送られた後、系外放出される。蒸発装置12として、遠心薄膜蒸発機、あるいはその他の分子蒸留装置を用いることで、通常広い伝熱面積と大きな総括伝熱係数が得られるため、短時間での蒸発が可能となる。
【0024】
炭酸アンモニウム等のアンモニウム塩を揮発性の極性溶剤に溶解したものを溶媒に用いる場合、蒸発装置12から排気された溶媒蒸気は、凝縮器14にて凝縮され、回収溶剤1として回収される(回収手段)。ここでは、溶剤とアンモニウム塩分が主に回収される。回収溶剤1(凝縮液)は、図2に示すように、送液ポンプ34により再生装置15に送られる。再生装置15では、酸成分タンク33に入っている酸成分が酸成分添加装置16から供給されて、酸成分と回収溶剤1とが混合される。炭酸アンモニウムの場合は、酸成分としてドライアイスが供給される。再生装置15での混合によりアンモニウム塩が再生され、これが溶剤に溶解した溶媒は除染液タンク3に戻される。
【0025】
蒸発装置12から圧力調整弁18、送液ポンプ19、残渣液タンク24、送液ポンプ25を通して排出される残渣液は、弁30を開き、このまま残渣液回収タンク26で回収してセメント固化処理設備(セメント固化処理手段)20に送られる。更なる減容、あるいは液体ではなく固体での回収を行う場合、上記残渣液は、さらに弁29を開き、蒸発乾固装置21に供給される。蒸発乾固装置21では、攪拌翼で液を槽内面に広げつつ、残渣液が乾燥処理を受け溶媒成分が蒸発し、乾燥した固形分が掻き取られ重力落下等により、装置外に排出される。蒸発乾固装置21から排出される蒸気は、凝縮器27を経由して溶媒分を分離回収の後、排ガス浄化装置6に送られた後、系外放出される。回収された溶媒は蒸発装置12での排出蒸気が凝縮回収されるのと同様の手法により回収される。蒸発乾固装置21から排出される固形分残渣は、固形物残渣回収タンク28で回収され、セメント固化処理設備20に送られる。
【0026】
そして、図3に示すように、セメント固化処理設備(セメント固化処理手段)20では、蒸発装置12からの残渣液または蒸発乾固装置21からの固形分残渣を保持する残渣タンク39から、残渣供給装置40により、残渣液又は固形分残渣の供給を受ける。また、固化材タンク35から固化剤供給装置36により固化剤の供給を受ける。そして、混錬水タンク37から混錬水供給ポンプ38により練錬水の供給を受ける。
【0027】
セメント固化処理設備20では、これら残渣液又は固定分残渣と固化剤と混練水とが混合される。そして、混合物であるモルタルペーストが、モルタルペースト排出装置41によりドラム缶等の容器22に排出される。排出されたモルタルペーストは、容器22内で水和反応により硬化し固化体となる。
【0028】
なお、上記の装置については、セメント固化処理設備20を除き、分割して車両に搭載し、汚染土壌の発生場所に直接装置を持ちこみ、除染を実施することが望ましい。その場合、蒸発装置12からの残渣液または蒸発乾固装置21からの固形分残渣は回収し、別の場所に設置されているセメント固化処理設備20に送り、集中的に固形化処理するのが合理的で望ましい形である。これにより、大量の土壌を除染設備がある場所まで移送する必要性がなくなる利点がある。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
〔前処理〕
炭酸セシウム46mgをイオン交換水2Lに溶解し、これに試薬モンモリロナイト(クニピア)220gを添加し、常温常圧にて4日間、300rpmで攪拌混合した。そして、モンモリロナイト浸漬液を遠心分離(3000rpm、10分)の後、吸引ろ過し、ろ液中のセシウムイオン濃度をICP-MSを用いて測定し、その結果から固形分であるモンモリロナイトへのCs吸着量を評価した。その結果、モンモリロナイト1g当たり0.137mgのセシウムが吸着していることが分かった。また、固形分であるモンモリロナイトをろ紙ではさみ2週間自然乾燥したもの(以後、調整済モンモリロナイトと呼ぶ)の一部(2g)を濃塩酸20mLに溶解し、ろ過した。ろ液中のセシウムイオン濃度を測定したところ、上記と同程度の値となった。
【0031】
〔比較例1〕
前処理の調整済モンモリロナイト11gを計量し、100mLビーカーに採取し、濃度30wt%の試薬アンモニア水24gを添加し、ビーカー上部をパラフィルムで密閉した。そして、これを常温常圧にて、攪拌速度300rpmで24時間攪拌の後、混合液の吸引ろ過を試みたが、凝集性がなく、ろ過できなかった。そこで、ポリ塩化アルミニウム20mLを添加したが、凝集性及びろ過性に関する改善はなかった。これは本除染溶媒である高濃度アンモニア水のアルカリ性が強すぎて、凝集に適した中性領域から逸脱しているためと考える。
【0032】
〔比較例2〕
前処理の調整済モンモリロナイト11gを計量し、100mLビーカーに採取し、試薬炭酸アンモニウム0.6gと試薬アセトン85.5gを混合した溶液を添加し、ビーカー上部をパラフィルムで密閉した。そして、これを常温常圧にて、攪拌速度300rpmで24時間攪拌の後、混合液の吸引ろ過を実施した。なお、その際、炭酸アンモニウムはアセトンに十分溶解せず、固形分を含む溶液であった。そして、ろ液のセシウム濃度を測定し、調整済モンモリロナイトから除去されたセシウム量を評価したところ、調整済モンモリロナイト1g当たり4×10-4mgであった。この結果から、極性溶媒であってもセシウム塩が十分溶解しない場合には、セシウムの除染が困難であることが分かった。
【0033】
〔実施例1〕
前処理の調整済モンモリロナイト11gを計量し、100mLビーカーに採取し、試薬炭酸アンモニウム10gをイオン交換水15gに溶解した水溶液を添加し、ビーカー上部をパラフィルムで密閉した。そして、これを常温常圧にて、攪拌速度300rpmで24時間攪拌の後、混合液の吸引ろ過を実施した。そして、ろ液のセシウム濃度をICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)により測定した結果、25.6ppmとなった。この結果を用いて調整済モンモリロナイトから除去されたセシウム量を評価したところ、調整済モンモリロナイト1g当たり0.058mgであった(除去率42.5%)。この結果は、セシウムの除染に有意な結果である。式(1)より、モンモリロナイトにおけるセシウムイオンとアンモニウムイオンの間の選択係数KCsNH4は次式(2)で表現される。また、モンモリロナイトのイオン交換能が1.15eq/kgであり、除染処理後に吸着サイトが実質的にほぼ全量アンモニウムイオンに置換されることを仮定すると、選択係数の値は以下のような値となる。
【0034】
KCsNH4=KHNH4/KHCs
=(qNH4/qCs)([Cs+]/[NH4+])
=2.58×10-2 (2)
一方、除染前におけるモンモリロナイトへのセシウム吸着量をqCs0とすると、除染率α(=1−qCs/qCs0)を定義すると、除染処理されるモンモリロナイト質量M(kg)、除染液量V(L)には以下の関係が成立する。
【0035】
[Cs+]・V=M・(qCs0−qCs
=M・α・qCs0 (3)
これらから、モンモリロナイト単位量当たりに必要となる除染液量V/Mは次式で示される。
【0036】
M/V=α/(1−α)・qNH4/([NH4+]・KCsNH4
=2.95・α/(1−α) (4)
従って、本実施例におけるα=0.425を式(4)に適用する場合、M/V=2.18となる。このことは、本プロセスによる除染を4回実施すると、90%の除染が可能となり、その際におけるモンモリロナイト単位量当たりの全除染液量は4・M/V=8.72となる。また、α=0.9を実現するM/Vは、式(4)より26.55となり、4段システムの方が除染液量は少なくなることがわかる。なお、同様の実験を、試薬炭酸アンモニウム10gをイオン交換水15gに溶解した水溶液を24時間攪拌の後、混合液の吸引ろ過を実施する前に、ポリ塩化アルミニウム10mLを添加し混合したところ、急速に凝集が起こり、吸引ろ過は極めて短時間で実施できた。また、ろ液中のセシウム濃度についても同程度で、除染性能には影響がなかった。
【0037】
〔実施例2〕
実施例1の、調整済モンモリロナイト11gと炭酸アンモニウム水溶液25gを混合し吸引ろ過したろ液(セシウム濃度25.6ppm)10mLについて、500mLフラスコ内で薄層化し60度に加熱の上、減圧し液相を蒸留回収した。その結果、流出液としてアンモニアを主成分とする水溶液を回収した。また、フラスコ内の残渣については、イオン交換水50gで溶解の上で、これをC種高炉セメント100gと混合後、スチロール製容器内にて30日間静置すると、硬化した固化体が作成できた。
【0038】
上記した汚染土壌の除染方法及び装置によれば、アンモニウム塩が溶解された極性溶媒と汚染土壌を混合してスラリーを生成し、そのスラリーをろ液と固形分に固液分離し、ろ液を加熱して溶媒分を蒸発させ、その溶媒蒸気を凝縮して回収するので、土壌からセシウムを脱離させて液相に容易に移行させることができる。そして、アンモニウム塩を含む極性溶媒は、その揮発性により蒸発回収と再利用が容易である。したがって、セシウムを含む二次廃棄物は、使用済の除染用溶媒を蒸発させたあとの残渣(液体、固体いずれの場合を含む)となり、その発生量を著しく低減することが可能である。したがって、セシウムに汚染された汚染土壌を短時間かつ簡便に除染でき、二次廃棄物の発生も少なくすることができる。
【0039】
特に、スラリーに酸性凝集剤を添加することによって、土壌中の微細粒子が有するアルカリ性を中和し、静電反発による分散を抑制することで微細粒子の凝集効果を高めるので、その固液分離性を高めることができる。
【0040】
また、アンモニウム塩に炭酸アンモニウムが用いられている場合には、回収工程で回収した凝縮液に酸成分としてドライアイスを供給して混合することによって、アンモニウム塩を再生することができるので、再び除染用溶媒として再利用することができ、二次廃棄物の発生量を低減することができる。
【0041】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施の形態では、汚染土壌の除染方法において、スラリーに酸性凝集剤を添加する工程を含む場合を例に説明したが、かかる工程は必須ではなく、省略することもできる。
【符号の説明】
【0042】
1・・・汚染土壌タンク、2・・・汚染土壌供給装置、3・・・除染液タンク、
4・・・除染液供給装置、5・・・混合槽、6・・・排ガス浄化装置、
7・・・スラリー排出装置、8・・・ろ過装置、9・・・固形分供給装置、
10・・・乾燥装置、11・・・土壌排出装置、12・・・蒸発装置、
13・・・減圧装置、14・・・凝縮器、15・・・再生装置、
16・・・酸成分添加装置、17・・・ニードル弁、18・・・圧力調整弁、
19・・・送液ポンプ、20・・・セメント固化処理設備、21・・・蒸発乾固装置、
22・・・容器、23・・・送液ポンプ、24・・・残渣液タンク、
25・・・送液ポンプ、26・・・残渣液回収タンク、27・・・凝縮器、
28・・・固形物残渣回収タンク、29、30、31、32・・・弁、
33・・・酸成分タンク、34・・・送液ポンプ、35・・・固化材タンク、
36・・・固化剤供給装置、37・・・混錬水タンク、
38・・・混錬水供給ポンプ、39・・・残渣タンク、40・・・残渣供給装置、
41・・・モルタルペースト排出装置、42・・・固液分離剤タンク、
43・・・固液分離剤供給ポンプ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質を含有する汚染土壌の除染方法であって、
アンモニウム塩を含む極性溶媒と前記汚染土壌を混合してスラリーを生成するスラリー生成工程と、
該スラリーをろ液と固形分に固液分離する固液分離工程と、
該固液分離されたろ液を加熱して溶媒分を蒸発させる蒸発工程と、
該溶媒分の溶媒蒸気を凝縮して回収する回収工程と、
を含むことを特徴とする汚染土壌の除染方法。
【請求項2】
前記スラリーに酸性凝集剤を添加する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の汚染土壌の除染方法。
【請求項3】
前記アンモニウム塩として炭酸アンモニウムが用いられている場合に、前記回収工程で回収した凝縮液に酸成分としてドライアイスを供給して混合し、前記アンモニウム塩を再生する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の汚染土壌の除染方法。
【請求項4】
前記蒸発工程で排出される残渣を回収してセメント固化させる工程を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の汚染土壌の除染方法。
【請求項5】
前記蒸発工程では、減圧環境下において蒸発が行われることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の汚染土壌の除染方法。
【請求項6】
前記蒸発工程では、前記ろ液を減圧環境下で加熱して溶媒分を蒸発させる遠心薄膜蒸発機が用いられることで実施することを特徴とする請求項5に記載の汚染土壌の除染方法。
【請求項7】
放射性物質を含有する汚染土壌の除染装置であって、
アンモニウム塩を含む極性溶媒と前記汚染土壌を混合してスラリーを生成するスラリー生成手段と、
該スラリーをろ液と固形分に固液分離する固液分離手段と、
該固液分離されたろ液を加熱して溶媒分を蒸発させる蒸発手段と、
該溶媒分の溶媒蒸気を凝縮して回収する回収手段と、
を有することを特徴とする汚染土壌の除染装置。
【請求項8】
前記スラリーに酸性凝集剤を添加する添加手段を有することを特徴とする請求項7に記載の汚染土壌の除染装置。
【請求項9】
前記アンモニウム塩として炭酸アンモニウムが用いられている場合に、前記回収手段により回収した凝縮液に酸成分としてドライアイスを供給して混合し、前記アンモニウム塩を再生する再生装置を有することを特徴とする請求項7又は8に記載の汚染土壌の除染装置。
【請求項10】
前記蒸発手段によって排出される残渣を回収してセメント固化させる処理を行うセメント固化処理手段を有することを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の汚染土壌の除染装置。
【請求項11】
前記蒸発手段は、前記ろ液を減圧環境下で加熱して前記溶媒分を蒸発させる処理を行うことを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか一項に記載の汚染土壌の除染装置。
【請求項12】
前記蒸発手段は、前記ろ液を減圧環境下で加熱して前記溶媒分を蒸発させる遠心薄膜蒸発機と、該遠心薄膜蒸発機の槽内部を減圧させる減圧装置を有することを特徴とする請求項11に記載の汚染土壌の除染装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−72763(P2013−72763A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212312(P2011−212312)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)