説明

汚染地盤の浄化材及び浄化方法

【課題】 粘性土層であっても浄化することのできる汚染地盤の浄化材及び浄化方法を提供する。
【解決手段】 有機塩素化合物によって汚染された汚染地盤の粘性土層に加えられ、前記有機塩素化合物を分解する微生物を活性化させることで、前記汚染地盤の粘性土層を浄化する汚染地盤の浄化材であって、グリセリンと、デンプン含有物とを含有することを特徴とする汚染地盤の浄化材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機塩素化合物で汚染された粘性土層を有する汚染地盤の浄化材及び浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤中に常在する微生物(単に微生物と称する)を活性化することで、トリクロロエチレン(TCE)等の有機塩素化合物(VOCsと称する)を分解させ、VOCsで汚染された汚染地盤を浄化するための浄化材が知られている。
【0003】
特許文献1の土壌浄化方法では、各種の栄養分を含んだ水溶性の浄化材を汚染地盤に導入することで、微生物によるVOCsの分解を促進して汚染地盤を浄化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007‐268450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の浄化材は水溶性であることから、地盤に導入した場合に、粘性土層の上の帯水層に含まれる地下水に溶解し、分散してしまう虞がある。このため、十分な量の浄化材を長期間にわたって、粘性土層に留まらせることは困難であった。すなわち、前述した浄化材によって、粘性土層を十分に浄化することは困難であった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、粘性土層であっても浄化することのできる汚染地盤の浄化材及び浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための本発明は、有機塩素化合物によって汚染された汚染地盤の粘性土層に加えられ、前記有機塩素化合物を分解する微生物を活性化させることで、前記汚染地盤の粘性土層を浄化する汚染地盤の浄化材であって、グリセリンと、デンプン含有物とを含有することを特徴とする。
【0008】
本発明の汚染地盤の浄化材は、グリセリンと、デンプン含有物とを含有している。グリセリンは、比重が水よりも大きいため、地下水を含む帯水層の下に存在する粘性土層に向かって浸透していくが、水溶性であるため、帯水層において地下水に溶解し、分散しやすい。このグリセリンに対して、デンプン含有物を混合した本発明の浄化材では、例えばデンプン分子の隙間にグリセリンが入り込んだ状態のままで、グリセリンをデンプン含有物と共に粘性土層まで沈降させることができる。
【0009】
このため、帯水層においてグリセリンが地下水に溶出してしまうことを防止でき、粘性土層に浄化材をより確実に導入することができる。粘性土層に導入された浄化材のうち、低分子であり土への吸着性が低いグリセリンは汚染土層に速やかに拡散し、有機塩素化合物(VOCs)を分解する微生物(微生物)の栄養分となり微生物を活性化することができる。さらに、この浄化材では、グリセリンよりも分解されにくい高分子からなるデンプン含有物を含有しているため、グリセリンが微生物に消費された後であっても、デンプン含有物によって微生物を活性化することができる。よって、粘性土層の微生物を長期間にわたって持続的に活性化することができ、粘性土層を十分に浄化することができる。
【0010】
また、本発明の汚染地盤の浄化材において、前記デンプン含有物は、片栗粉を含有することが好ましい。これによって、汚染地盤に導入するのに適した粘度を有する汚染地盤の浄化材を提供することができ、より容易且つ確実に粘性土層を浄化することができる。
【0011】
また、本発明の汚染地盤の浄化材において、前記デンプン含有物は、小麦粉を含有することが好ましい。これによって、浄化材に含有されるグリセリンが地下水へ溶出してしまうことをより効果的に抑制できるため、より確実に粘性土層を浄化することができる。
【0012】
また、本発明の汚染地盤の浄化材において、前記デンプン含有物は、片栗粉に加えて、小麦粉又はコーンスターチの何れか一方を更に含有することが好ましい。これによって、グリセリンに対して片栗粉が分散した状態で、浄化材を汚染地盤に導入することができるため、より確実に粘性土層を浄化することができる。
【0013】
また、前記課題を解決するための本発明は、有機塩素化合物によって汚染された汚染地盤の粘性土層に、グリセリンと、デンプン含有物とを含有してなる浄化材を導入し、前記有機塩素化合物を分解する微生物を活性化させることを特徴とする汚染地盤の浄化方法である。また、本発明の汚染地盤の浄化方法では、地表から前記汚染地盤の粘性土層に達するように設けられた井戸に前記浄化材を導入することが好ましい。また、本発明の汚染地盤の浄化方法では、前記汚染地盤の粘性土層に、前記浄化材を導入するための導入管を地表から挿入する工程と、前記汚染地盤の粘性土層に挿入した前記導入管を引き上げながら、前記導入管から前記汚染地盤の粘性土層に前記浄化材を導入する工程とを行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粘性土層であっても十分に浄化することのできる汚染地盤の浄化材及び浄化方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は、VOCs汚染現場の地下水を添加した対照区のVOCs濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(b)は、VOCs汚染現場の地下水にグリセリン及び小麦粉を含有する浄化材を添加した場合のVOCs濃度と経過日数の関係を表すグラフであり、(c)は、VOCs汚染現場の地下水にHRC(Hydrogen Release Compound;徐放性栄養剤)を添加した場合のVOCs濃度と経過日数の関係を表すグラフである。
【図2】(a)は、グリセリンの溶出確認試験の工程を説明するための模式図であり、(b)は、グリセリンの溶出確認試験の工程を説明するためのその他の模式図であり、(c)は、グリセリンの溶出確認試験の工程を説明するためのその他の模式図である。
【図3】(a)は、VOCs分解確認試験の工程を説明するための模式図であり、(b)は、VOCs分解確認試験の工程を説明するためのその他の模式図であり、(c)は、VOCs分解確認試験の工程を説明するためのその他の模式図である。
【図4】(a)は、汚染地盤に形成された井戸の模式図であり、(b)は、(a)に示す井戸に注入された本実施形態に係る浄化材の模式図であり、(c)は、(b)に示す浄化材において粘性土層に拡散したグリセリンを示す模式図であり、(d)は、(b)に示す浄化材において粘性土層に拡散したグリセリン及びデンプン含有物を示す模式図である。
【図5】(a)は、汚染地盤に挿入された導入管の模式図であり、(b)は、(a)に示す導入管から導入される本実施形態に係る浄化材の模式図であり、(c)は、粘性土層に導入された浄化材の模式図であり、(d)は、(c)に示す浄化材において粘性土層に拡散したグリセリンを示す模式図であり、(e)は、(c)に示す浄化材において粘性土層に拡散したグリセリン及びデンプン含有物を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<<<汚染地盤の浄化材について>>>
本実施形態にかかる汚染地盤の浄化材は、グリセリンと、デンプン含有物とを含有し、VOCsによって汚染された汚染地盤に導入される。この汚染地盤は、地下水を含有する帯水層の下に粘性土層を有しており、この粘性土層が浄化の対象となる。
【0017】
尚、VOCsには、テトラクロロエチレン(PCE)、TCE、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン(1,1−DCE)、シス−1,2−ジクロロエチレン(Cis−DCE)、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,3−ジクロロプロペン、トランス1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニルモノマー等が含まれる。
【0018】
また、VOCsを分解する微生物としては、嫌気条件下においてPCEやTCEをエチレンにまで分解して無害化できる嫌気性のデハロコッコイデス属細菌が含まれる。尚、この他の微生物としては、メタノバクテリウム属、メタノサルシナ属、メタノロブス属、アセトバクテリウム属、デスルフォバクテリウム属、デスルフォモニル属、デハロスピリルム属、デハロバクター属、デハロバクテリウム属、クロストリジウム属等の嫌気性分解菌が挙げられる。
【0019】
これらの微生物は、水素を利用してVOCsを脱塩素化する。これによって、微生物はエネルギー(ATP)を獲得して増殖すると共に、TCEをCis−DCE、塩化ビニル(VC)を経てエチレンにまで分解して無害化する。
【0020】
浄化材に含まれるグリセリンは、水よりも比重が大きいため、帯水層の下方の粘性土層まで浸透する。そして、土への吸着性が比較的低いため、粘性土層においても拡散する。また、グリセリンの分子量は約92である。すなわち、グリセリンの分子量は、一般的に高分子化合物に分類される分子量(1000)よりも十分に小さい。このため、グリセリンは、低分子化合物に分類される。
【0021】
低分子化合物であるグリセリンは、微生物によって容易に分解される性質を備えており、この微生物を活性化する栄養分となる。しかし、グリセリンは水溶性であるため、グリセリン単体を汚染地盤に導入しても、帯水層の下の粘性土層に到達する前に帯水層の地下水に溶解し、分散されてしまう。
【0022】
デンプン含有物は、片栗粉(馬鈴薯デンプン)、小麦粉、コーンスターチ、米粉、きな粉(大豆粉)等のデンプンのうち少なくとも1種以上を含有したものである。このデンプン含有物は、1000以上の分子量を有する高分子化合物であり、低分子化合物のグリセリンよりも分解されにくい。このため、グリセリンよりも長く微生物を活性化することができる。
【0023】
また、粉体状のデンプン含有物をグリセリンと混合することで、浄化材をデンプン含有物の分散液によって構成できる。このように、分散液状の浄化材とすることで、デンプン含有物を汚染地盤へ容易に導入できる。また、この分散液に水を含ませないようにすることで、グリセリンやデンプン含有物を高い濃度で汚染地盤に導入できる。
【0024】
さらに、本実施形態にかかる浄化材では、デンプン含有物の混合によって、その比重をグリセリンの比重よりも大きくすることができるため、より確実に帯水層の下の粘性土層まで浄化材を導入させることができる。
【0025】
加えて、本実施形態にかかる浄化材では、デンプン含有物におけるデンプン分子の隙間にグリセリンが入り込むため、グリセリンがデンプン分子に包まれたような状態になる。これにより、汚染地盤に導入した際に、粘性土層よりも上方の帯水層において、グリセリンが地下水に溶出してしまうことを防止できる。よって、粘性土層により確実にグリセリンを浸透させることができる。
【0026】
本実施形態にかかる浄化材において、グリセリンとデンプン含有物との割合は、例えば、浄化材全体を100としたときに、デンプン含有物が10〜80となるように配合される。以下、表1に示す材料及び割合で作製した浄化材に関し、水に対するグリセリンの溶出量を確認するための溶出確認試験について説明する。
【0027】

【0028】
===溶出確認試験について===
溶出確認試験の方法について図2(a)乃至(c)を参照して説明する。溶出確認試験では、図2(a)に示すように、脱イオン水が1900mL添加された2Lの容量を有するメスシリンダー1に、表1の作製条件に基づいて作製した浄化材を投入した。この場合において、メスシリンダー1の水位は、メスシリンダー1の底から36.7cmとなる。そして、図2(b)に示すように、5分間静置したメスシリンダー1内の1500mL部分(メスシリンダー1の底から約26.9cmとなる高さ)の溶液を、ピペット2で採取した。この採取した溶液から、遠心分離もしくはろ過によってデンプン含有物の粉体を除去した後の溶液について、TOC(トータルオーガニックカーボン)を測定した。さらに、図2(c)に示すように、60分間静置した後のメスシリンダー1内から同様に溶液を採取し、デンプン含有物の粉体を除去した後の溶液のTOCを測定した。
【0029】
尚、デンプン含有物は水に溶解しないため、デンプン含有物の粉体を除去した後の溶液のTOCから得られる炭素量はグリセリンに由来する。このため、TOCから得られる炭素量によって、浄化材から水に溶出したグリセリンの量(溶出量)が確認できる。
【0030】
また、比較用として、グリセリン単体とHRCについても同様にTOCを測定した。ここでHRCとは、主成分としてグリセリンを含有する市販の浄化材のことである。
【0031】
===溶出確認試験の結果について===
溶出確認試験のTOCの測定結果を表2に示す。グリセリン単体が水に全溶解した場合のTOCは2200ppmであった。そして、グリセリン単体が水に全溶解した場合のグリセリンの溶出量を100%とし、2200ppmに対する各浄化材のTOCから、グリセリンの溶出率を求めた。
【0032】
表2に示すように、本実施形態にかかる各浄化材の5分静置後のグリセリンの溶出率は、いずれもグリセリン単体のグリセリンの溶出率及びHRCにおけるグリセリンの溶出率よりも低いことがわかった。また、本実施形態にかかる各浄化材の60分静置後のグリセリンの溶出率は、グリセリン+小麦粉(3)を除いて、グリセリン単体のグリセリンの溶出率及びHRCのグリセリンの溶出率よりも低いことがわかった。
【0033】
以上より、本実施形態にかかる浄化材では、帯水層に含まれる地下水へのグリセリンの溶出を、グリセリン単体やHRCを用いた場合よりも抑制できるといえる。尚、表2から、グリセリンの溶出率は、グリセリンと小麦粉とが40:60の割合で配合された浄化材〔小麦粉:(1)〕において、最も低くなることが確認された。これは、小麦粉がたんぱく質を多く含むためと考えられる。また、本実施形態にかかる浄化材では、デンプン含有物の割合が多いほど、グリセリンの溶出率が低くなる傾向があることがわかった。
【0034】

【0035】
===粘度確認試験について===
本実施形態にかかる浄化材を汚染地盤に導入する場合、地盤への浸透性や施工性の観点からすれば、浄化材の粘度は低いほうが好ましい。そこで、表1に示す作製条件に基づいて作製した各浄化材の粘度を確認する粘度確認試験を行った。
【0036】
この粘度確認試験では、表1の作製条件に基づいて作製した各浄化材の粘度をデジタル粘度計で2回測定し、平均を算出した。尚、粘度の測定は、室温(25℃)において行った。また、比較用として、グリセリン単体及びHRCについても同様に粘度を測定した。
【0037】
===粘度確認試験の結果について===
粘度確認試験の結果を表3に示す。表3より、片栗粉のみを用いた浄化材の粘度が一番低く、施工性などの観点からみた浄化材としては、最も適していることがことわかった。尚、片栗粉を用いた浄化材では、小麦粉及びコーンスターチをさらに添加することで、グリセリンに対する片栗粉の分散性をより高められることがわかった。この場合、片栗粉に対する、小麦粉もしくはコーンスターチの配合の割合は、片栗粉:小麦粉もしくはコーンスターチ=9:1〜1:9とすることが好ましいといえる。
【0038】
さらに、グリセリンとデンプン含有物とを60:40の割合で配合し、さらにこのデンプン含有物において片栗粉とコーンスターチとを50:50の割合で配合した浄化材〔片栗粉+コーンスターチ:(2)〕がより好ましいといえる。この浄化材では、粘性を適度な値に調整できると共にグリセリンの溶出を抑制できる。さらに、グリセリンに対するデンプン含有物の分散性を高めることもできる。よって、施工性とVOCsの浄化との両方の観点から粘性土層を効率よく浄化できるといえる。
【0039】
尚、表2及び表3より、たんぱく質を多く含むデンプン含有物質を含有する浄化材ほど、粘度が上昇する傾向がある一方で、グリセリンの溶出防止効果が高いことが確認された。
【0040】

【0041】
===VOCs分解確認試験について===
表1に示す、グリセリンが60%であって小麦粉が40%の割合で配合された浄化材〔グリセリン+小麦粉:(2)の浄化材〕について、VOCsを分解する効果を確認するためのVOCs分解確認試験を行った。
【0042】
VOCs分解確認試験について図3(a)乃至(c)を参照しつつ説明する。VOCs分解確認試験で用いたサンプルは、次の手順で作製した。
【0043】
先ず、図3(a)に示すように、VOCs汚染現場から採取されたVOCs汚染地下水3(120mL)を100mLのメジューム瓶4に注入した。そして、微生物の成長をより促進するために、TCEの飽和溶液(1mL)をメジューム瓶4に添加した。このメジューム瓶4にさらに、表1に示す小麦粉40%〔グリセリン+小麦粉:(2)〕の浄化材5(0.18〜0.6g)と、pH緩衝剤6(0.18〜0.6g)とを添加した。
【0044】
浄化材5を添加することで、メジューム瓶4の内容物のpHは酸性に傾こうとするが、pH緩衝剤6によって中性領域に維持される。内容物のpHを中性領域に維持する理由は、微生物によるVOCsの分解が、pH6より大きくpH9より小さい中性領域において良好に行われるためである。このようなpH緩衝剤6としては、例えば炭酸水素ナトリウムが好適に用いられる。
【0045】
次に、図3(b)に示すように、上記のサンプルが封入されたメジューム瓶4を逆さにし、20℃〜22℃で養生した。尚、比較用に、前述したVOCs汚染現場の地下水をメジューム瓶4に注入し、浄化材5は添加しない対照区を作製した。また、前述した浄化材5に代えて、VOCs汚染現場の地下水にHRCを添加した比較例も作製した。そして、これらの対照区及び比較例を上記のサンプルと同様に静置した。尚、上記のサンプル及び比較例において、汚染地下水3に対する浄化材5又はHRCの重量比は0.15%に定めた。
【0046】
そして、図3(c)に示すように、作製したサンプルについて、メジューム瓶4におけるヘッドスペースのガスを採取し、VC濃度、Cis−DCE濃度、1,1−DCE濃度及びTCE濃度を所定日数が経過するごとにPID検出器によって測定した。同様に、対照区及び比較例についてもメジューム瓶4におけるヘッドスペースのガスを採取し、VC濃度、Cis−DCE濃度、1,1−DCE濃度及びTCE濃度を測定した。
【0047】
===VOCs分解確認試験の結果について===
VOCs分解確認試験の結果を図1に示す。すなわち、対照区の試験結果を図1(a)に、サンプル(本実施形態の浄化材)の試験結果を図1(b)に、比較例の試験結果を図1(c)にそれぞれ示す。
【0048】
対照区については、微生物によってTCEが分解される際の中間生成物であるCis−DCEの濃度がやや上昇しているものの、VCの濃度が全く上昇しておらず、TCEはあまり分解されていないことが確認された。一方、本実施形態の浄化材については、約40日間でTCE、Cis−DCE、VCが分解されることが確認された。また、比較例については、約60日間でTCE、Cis−DCE、VCが分解されることが確認された。
【0049】
以上より、本実施形態の浄化材によって、効率よくVOCsを分解して汚染地盤を浄化できることが確認された。ここで、小麦粉、片栗粉、コーンスターチ等のデンプン含有物と、グリセリンとを主に含有する本実施形態の浄化材は、HRCよりも安価である。このため、本実施形態の浄化材は、HRCを用いて汚染地盤を浄化するよりも、安価に汚染地盤を浄化できるといえる。
【0050】
<<<汚染地盤の浄化方法について>>>
===第1の実施形態について===
前述した浄化材を用いた、本実施形態にかかる汚染地盤の浄化方法について、図4(a)乃至(d)を参照しつつ説明する。本実施形態にかかる汚染地盤の浄化方法では、先ず、図4(a)に示すように、汚染地盤に対して、地表から帯水層Aの下に存在する粘性土層Bまで達する井戸7を設ける。尚、この井戸7は、地表から粘性土層Bに達するように設けられたボーリング孔であってもよい。
【0051】
この井戸7に、図4(b)に示すように、前述した浄化材8を導入し、井戸7における粘性土層Bの高さ位置まで浄化材8を充填する。この際、浄化材8は、グリセリンがデンプン含有物のデンプン分子の隙間に入り込んだ状態で、帯水層Aを通過して粘性土層Bまで達する。これによって、浄化材8は、帯水層Aにおいて、グリセリンが地下水に溶出してしまうことを防止できると共に、粉体状のデンプン含有物も容易に井戸7に導入することができる。このため、グリセリンやデンプン含有物が地下水で希釈されることを抑制しつつ、浄化材8を粘性土層Bまで浸透させることができる。さらに、浄化材8は、グリセリン中にデンプン含有物が分散した分散液である。浄化材8に水が含まれていないため、グリセリンやデンプン含有物の濃度を高めることができる。また、この浄化材8は、水よりも比重が大きいため、水中を落下する。その結果、帯水層Aの下の粘性土層Bまで、浄化材8を確実に導入させることができる。
【0052】
図4(c)に示すように、高濃度の状態で浄化材8が粘性土層Bに導入されると、先ず、低分子化合物であり土への吸着性が比較的低いグリセリンが速やかに拡散していく。このように高濃度のグリセリンが供給されることで、粘性土層Bに常在する微生物が活性化される。これによって、VOCsが分解されるため、粘性土層Bの汚染浄化を速やかに開始できる。また、グリセリンが消費されても、図4(d)に示すように、高分子化合物であるデンプン含有物が粘性土層Bに徐々に浸透して微生物の栄養分となる。このため、粘性土層Bの微生物を長期間にわたって持続的に活性化することができ、十分に粘性土層Bを浄化することができる。
【0053】
ここで、浄化材8がデンプン含有物として小麦粉を含有する場合、粘性土層Bに対応する井戸7の下半部分において、グリセリンに混合された小麦粉が半固化する。これによって、井戸7の形状に応じた縦長状に浄化材8が留まるため、粘性土層Bの全体に浄化材8を供給できる。つまり、小麦粉を含有する浄化材8を用いることで、粘性土層Bをより確実に浄化できるといえる。
【0054】
===第2の実施形態について===
前述した浄化材を用いた、本実施形態にかかる汚染地盤の浄化方法について、図5(a)乃至(e)を参照しつつ説明する。尚、図5(a)乃至(e)に示す構成のうち、前述した図4(a)乃至(d)に示す構成と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。本実施形態にかかる汚染地盤の浄化方法では、先ず、図5(a)に示すように、導入管9を地表から粘性土層Bに達するまで挿入する。導入管9は、例えば金属性の管状部材であり、導入管9の中空部分から汚染地盤に対し、浄化材8を導入することが可能となる。
【0055】
次に、図5(b)に示すように、導入管9を地表まで引き上げつつ導入管9から浄化材8を導入する。これによって、例えば、図5(c)に示すように、粘性土層Bに浄化材8が充填される。この際、浄化材8は、グリセリンがデンプン含有物のデンプン分子の隙間に入り込んだ状態で、粘性土層Bに充填される。このため、浄化材8では、粘性土層Bと接する帯水層Aから、グリセリンが地下水に溶出してしまうことを防止できると共に、粉体状のデンプン含有物も容易に粘性土層Bに導入できる。従って、グリセリンやデンプン含有物が地下水によって希釈され難く、粘性土層Bに浄化材8を効率よく浸透させることができる。
【0056】
図5(d)に示すように、粘性土層Bに充填された浄化材8は、先ず、土への吸着性が比較的低いグリセリンが粘性土層Bに速やかに拡散していく。グリセリンが高濃度で供給されることで、粘性土層Bに常在する微生物は活性化される。これによって、VOCsが分解され、汚染地盤の粘性土層Bを速やかに浄化できる。また、グリセリンが分解されても、図5(e)に示すように、デンプン含有物が粘性土層Bに徐々に浸透して微生物の栄養分となる。このため、粘性土層Bの微生物を長期間にわたって持続的に活性化することができ、より確実に粘性土層Bを浄化することができる。
【0057】
さらに、浄化材8がデンプン含有物として小麦粉を含有する場合、前述した井戸7の場合と同様に、粘性土層B中においてグリセリンに混合された小麦粉が半固化するため、粘性土層Bをより確実に浄化することができる。
【0058】
===その他の実施形態について===
前述した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更、改良されると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【0059】
前述した汚染地盤の浄化材は、グリセリンに対するデンプン含有物の分散液状であることとしたが、特にこれに限定されるものではなく、例えば、デンプン含有物が固化した固体状であってもよい。
【0060】
また、前述した第1及び第2の実施形態にかかる汚染地盤の浄化方法では、粘性土層Bに対する部分のみに浄化材8を充填することとしたが、特にこれに限定されるものではない。例えば、汚染地盤の粘性土層Bに加え、帯水層Aや他の層に浄化材8を充填してもよい。これによって、汚染地盤全体を長期間にわたって効率よく浄化することができる。
【符号の説明】
【0061】
1…メスシリンダー,2…ピペット,3…汚染地下水,4…メジューム瓶,5、8…浄化材,6…pH緩衝剤,7…井戸,9…導入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機塩素化合物によって汚染された汚染地盤の粘性土層に加えられ、前記有機塩素化合物を分解する微生物を活性化させることで、前記汚染地盤の粘性土層を浄化する汚染地盤の浄化材であって、
グリセリンと、デンプン含有物とを含有することを特徴とする汚染地盤の浄化材。
【請求項2】
前記デンプン含有物は、片栗粉を含有することを特徴とする請求項1に記載の汚染地盤の浄化材。
【請求項3】
前記デンプン含有物は、小麦粉を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の汚染地盤の浄化材。
【請求項4】
前記デンプン含有物は、コーンスターチを更に含有することを特徴とする請求項2に記載の汚染地盤の浄化材。
【請求項5】
有機塩素化合物によって汚染された汚染地盤の粘性土層に、グリセリンと、デンプン含有物とを含有してなる浄化材を導入し、前記有機塩素化合物を分解する微生物を活性化させることを特徴とする汚染地盤の浄化方法。
【請求項6】
地表から前記汚染地盤の粘性土層に達するように設けられた井戸に前記浄化材を導入すること、
を特徴とする請求項5に記載の汚染地盤の浄化方法。
【請求項7】
前記汚染地盤の粘性土層に、前記浄化材を導入するための導入管を地表から挿入する工程と、
前記汚染地盤の粘性土層に挿入した前記導入管を引き上げながら、前記導入管から前記汚染地盤の粘性土層に前記浄化材を導入する工程と、
を行うことを特徴とする請求項5に記載の汚染地盤の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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