説明

汚染成分拡散防止用混合物及び汚染成分拡散防止方法

【課題】従来の汚染成分拡散防止技術に比べ、汚染土壌中に含まれる汚染成分に対して、安定し、かつ優れた浄化能力を有する汚染成分拡散防止用混合物及び汚染成分拡散防止方法を提供することにある。
【解決手段】汚染土壌中に含まれる汚染成分を吸着する吸着剤と、透水係数及び厚さを調整するため、前記吸着剤に対し、所定の割合で混合される希釈材とで混合物を構成し、該混合物は、前記汚染成分を含有する水の空間速度が、1〜60(1/hr)であることを特徴とする汚染成分拡散防止用混合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染成分を含有する汚水を浄化するための汚染成分拡散防止用混合物、及びその汚染成分拡散防止用混合物からなる層を、汚染土壌と非汚染土壌との間に設け、汚染土壌中を流れる汚水の汚染成分を浄化して前記非汚染土壌へ流出させる汚染成分拡散防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒ素等の汚染成分を含有した土壌の処理方法としては、非特許文献1に示されているように、汚染土壌の分布範囲に前記汚染成分を不溶化するための薬剤を注入、又は注入・攪拌することで前記汚染土壌からの汚染成分の溶出量(土壌溶出量)を低下させる原位置不溶化措置や、前記汚染土壌を掘削除去し、水の侵入を防止するための遮水シート等で前記被汚染土壌を覆った後、汚染土壌を埋め戻すことで、汚染土壌が地下水に接することを防ぎ、前記汚染成分の溶出を防止する遮水工封じ込め措置などが用いられてきた。
【0003】
しかし、前記原位置不溶化措置では、前記薬剤を注入した土壌のpH、酸化還元電位、共存イオン種類又は土壌のイオン交換容量などが変化する結果、例えばpHが上昇する場合に鉛などの成分が溶出するような、不溶化措置する成分とは別の汚染成分が溶出する恐れや、不溶化の補助剤として用いたセメント自体からの6価クロムが溶出する恐れがあり、さらに、薬剤を大量に必要とし、汚染土壌との攪拌を必要とするため、コストがかり、作業性が悪いという問題があった。また、前記遮水工封じ込め措置では、前記汚染土壌全体を覆うことができるように、極めてサイズの大きな遮水シートを用意する必要があるため、コストがかかりすぎるという問題や、前記遮水シートは主に有機系の材料からできているため、破損し、破損部から汚染成分が流出する恐れがあった。
【0004】
このように、汚染土壌の処理方法としては、不溶化措置のように大量の薬剤を必要とせずに、汚染土壌中を流れる汚水に含まれる汚染成分が、隣接する非汚染土壌へ侵入しないようにするための簡便な方法が、現状では存在しない。
【0005】
また、上記した土壌の処理方法ではないが、地下水の浄化方法としては、例えば特許文献1に開示されているように、鉄粉等を含有する材料から形成される壁状領域を地中に設けることを特徴とする地下水浄化構造や、特許文献2に開示されているように、ゼオライトの表面に希土類金属の水酸化物又は酸化物を形成してなる浄化剤を含む地下水浄化領域を設けることを特徴する汚染地下水の浄化方法がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1の地下水浄化構造では、地下水中に含まれるヒ素を吸着するのではなく、金属ヒ素の形にして前記浄化領域中に不動化することから、一旦、不動化した金属ヒ素が、土壌のpHや酸化還元電位の低下に伴い、再び非汚染土壌へ流出する恐れがあり、また、特許文献2の汚染地下水の浄化方法では、ゼオライト表面に希土類金属の水酸化物又は酸化物を析出させるという高度な技術を用いているため、吸着剤のコストが高くなり、結果として施工コストが高くなるという問題があった。さらに、特許文献1及び2のいずれの地下水浄化技術も、前記浄化領域の透水性についての適正化が十分ではなく、前記汚染成分に対する浄化能力が十分でない上、安定性に欠けるという問題があった。
【非特許文献1】社団法人土壌環境センター、「土壌汚染に基づく調査及び措置の技術的手法の解説」、日本、社団法人土壌環境センター、平成15年9月、P102〜123
【特許文献1】特開2003−39080号公報
【特許文献2】特開2005−334749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、空間速度の適正化を図ることにより、汚染土壌中に含まれる汚染成分に対して、安定し、かつ優れた浄化能力を有する汚染成分拡散防止用混合物及び汚染成分拡散防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、汚染成分拡散防止用混合物及び汚染成分拡散防止方法について検討を重ねた。その結果、汚染拡散防止用混合物(又は汚染拡散防止層)の透水係数及び厚さを調整し、その空間速度を1〜60(1/h)とすることによって、前記汚染拡散防止用混合物(汚染拡散防止層)中の吸着剤と、前記汚染成分との接触時間が適正範囲となるため、接触時間が短くなることによる前記汚染成分の非汚染土壌への流出を防ぐとともに、接触時間が長くなることによる前記混合物(層)中での水の停滞を防ぐことができる結果、安定して優れた浄化能力を発揮できることを見出した。
【0009】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)汚染土壌中に含まれる汚染成分を吸着する吸着剤と、透水係数及び厚さを調整するため、前記吸着剤に対し、所定の割合で混合される希釈材とで混合物を構成し、該混合物は、前記汚染成分を含有する水の空間速度が、1〜60(1/hr)であることを特徴とする汚染成分拡散防止用混合物。
【0010】
(2)前記吸着剤は、希土類化合物を少なくとも含有することを特徴とする上記(1)記載の汚染成分拡散防止用混合物。
【0011】
(3)前記希土類化合物は、水酸化セリウム、酸化セリウム、水酸化ランタン、酸化ランタン及びこれらの水和物から選択される1種以上の希土類化合物であることを特徴とする上記(2)記載の汚染拡散防止混合物。
【0012】
(4)前記吸着剤は、Al、Fe、Si、P、Ca及びMgから選択される1種以上の成分を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項記載の汚染拡散防止混合物。
【0013】
(5)前記希釈材は、無機材、無機繊維材、有機材又は有機繊維材であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項記載の汚染拡散防止混合物。
【0014】
(6)前記吸着剤の前記希釈材に対する体積比が、0.001〜2であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止用混合物。
【0015】
(7)前記汚染成分がヒ素又はアンチモンであり、前記空間速度が20〜40(1/hr)であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止用混合物。
【0016】
(8)前記汚染成分が鉛又はクロムであり、前記空間速度が1〜15(1/hr)であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止用混合物。
【0017】
(9)前記汚染成分がフッ素であり、前記空間速度が5〜20(1/hr)であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止用混合物。
【0018】
(10)前記汚染成分がセレン又はホウ素であり、前記空間速度が1〜10(1/hr)であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止用混合物。
【0019】
(11)前記汚染成分が水銀であり、前記空間速度が1〜5(1/hr)であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止用混合物。
【0020】
(12)汚染土壌と、非汚染土壌との間に、前記汚染土壌中に含まれる汚染成分を吸着し、かつ透水性を有する所定厚さの汚染成分拡散防止層を設け、前記汚染土壌中を流れる汚水が、前記汚染成分拡散防止層の通過時に、前記汚染成分を前記汚染成分拡散防止層で吸着保持することを特徴とする汚染成分拡散防止方法。
【0021】
(13)前記汚染成分拡散防止層は、汚染土壌から発生する汚染成分を吸着する吸着剤と、透水係数及び厚さを調整するため、前記吸着剤に対し、所定の割合で混合される希釈材との混合物で構成され、該混合物は、前記汚染成分を含有する水の空間速度が1〜60(1/hr)であることを特徴とする上記(12)記載の汚染成分拡散防止方法。
【0022】
(14)前記汚染成分拡散防止層の、透水係数が1×10-3〜10 cm/秒であり、厚さが0.1〜10mであることを特徴とする上記(12)又は(13)記載の汚染成分拡散防止方法。
【0023】
(15)前記汚染成分は、ヒ素、フッ素、ホウ素、セレン、鉛、クロム、カドミウム、マンガン、アンチモン及びニッケルから選択される1種以上の成分であること特徴とする上記(12)〜(14)のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止方法。
【0024】
(16)前記汚染成分拡散防止層は、一旦、前記吸着剤と前記希釈材を混合した後、さらに前記希釈材と同一又は異なる希釈材を混合して形成することで、前記吸着剤及び前記希釈材の配置を均一にすることを特徴とする上記(12)〜(15)のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止方法。
【0025】
(17)前記吸着剤の含有量は、酸化添加溶出試験及びアルカリ添加溶出試験の結果をもとに決めることを特徴とする上記(13)〜(16)のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止方法。
【0026】
本発明によれば、従来の汚染成分拡散防止技術に比べ、汚染土壌中に含まれる汚染成分に対して、安定し、かつ優れた浄化能力を有する汚染成分拡散防止用混合物及び汚染成分拡散防止方法の提供が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
まず、本発明による汚染成分拡散防止用混合物について説明する。
本発明による汚染成分拡散防止用混合物は、汚染土壌中に含まれる汚染成分を吸着する吸着剤と、透水係数及び厚さを調整するため、前記吸着剤に対し、所定の割合で混合される希釈材とで構成される。
【0028】
本発明の吸着剤は、その名の通り、前記汚染土壌中に含まれる汚染成分を吸着するための材料である。前記汚染成分を有効に吸着することができる材料であれば特に限定はされないが、例えば、希土類化合物を含有すれば、ヒ素やフッ素などの前記汚染成分に対して高い吸着性を有する点で好ましい。また、前記希土類化合物は、
水酸化セリウム(Ce(OH)4、Ce(OH)3)、酸化セリウム(CeO2、Ce2O3)、水酸化セリウムの水和物((Ce(OH)4・nH2O、Ce(OH)3・nH2O)、水和酸化セリウム(CeO2・nH2O、Ce2O3・nH2O)、水酸化ランタン(La(OH)3)、酸化ランタン(La2O3)及びこれらの水和物から選択される1種以上の希土類化合物であることが、さらに高い吸着性を有することができる点で、より好適である。
【0029】
また、前記吸着剤は、Al、Fe、Si、P、Ca及びMgから選択される1種以上の成分を含有することが好ましい。入手しやすい成分であり、吸着する元素に対し、最適な成分を選択することで、吸着性能は希土類化合に多少劣るものの、コスト的な安価な施工ができるからである。
【0030】
なお、前記吸着剤の形状としては、特に限定はされないが、細かい粒状、特に、粒状、粉末状又は粘土状であることが、本発明の汚染成分拡散防止用混合物中に均一に含有され、安定した吸着能力を発揮できる点で好ましい。ここで、粒状とは平均粒径が0.75〜5mmのものであり、粉末状とは平均粒径が0.001〜0.75mmのものであり、粘土状とは、前記粉末状の吸着剤が約50%の水を含む状態のことである。
【0031】
ここで、前記汚染成分とは、前記汚染土壌中に含まれる人体に悪影響を与える成分のことであり、例えば、ヒ素、フッ素、ホウ素、セレン、鉛、クロム、カドミウム、マンガン、アンチモン及びニッケルから選択される1種以上の成分をいう。
【0032】
前記吸着剤の一例としては、セリウムを主成分とする複数の希土類化合物を含有する、日本板硝子(株)製「アドセラ(登録商標)」や、鉄系化合物を含有する(株)神戸製鋼所製の「エコメル(登録商標)」を用いることができる。
上記の各吸着剤の吸着性能を示すため、各汚染成分:ヒ素、鉛、6価クロム、セレン、ホウ素、水銀、フッ素及びアンチモンを100mg/lの濃度で含有する溶液に、各吸着剤を1g浸漬させて24時間揺動させた後、前記溶液をろ過し、吸着剤1gで吸着できる各汚染成分を測定し、元素量(mg)をmg/gの単位で示した。測定結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
本発明の希釈材は、本発明の汚染成分拡散防止用混合物の透水係数及び厚さを調整するため、前記吸着剤に対し、所定の割合(所定の体積比)で混合される材料のことである。そのため、透水係数及び厚さを調整できるような材料であれば特に限定はないが、例えば、無機材、無機繊維材、有機材又は有機繊維材を用いれば、細粒から粗粒まで選択、組合せでき、吸着剤と混合物の透水性を調整することができる点で好ましい。
【0035】
なお、前記無機材とは、例えば、珪藻土、砂利、砕石、砂、瓦礫、庭石、ガラス屑、ゼオライト、貝殻屑、陶器屑、石灰石又は石炭灰、焼却灰などの灰のことをいい、前記無機繊維材とは、例えば、ガラス繊維、アルミナ繊維、ロックウール、スラグウール又はチタン繊維などの長繊維又は短繊維のことであり、アスペクト比(繊維長/繊維径)が1〜2000の範囲にあるものをいう。
また、前記有機材とは、例えば、おが屑、布屑、紙屑又は活性炭などのことをいい、前記有機繊維材とは、例えば、アラミド繊維又はPET繊維などの長繊維又は短繊維のことであり、アスペクト比(繊維長/繊維径)が1〜2000の範囲にあるものをいう。
【0036】
また、本発明の汚染成分拡散防止用混合物は、前記汚染成分を含有する水の空間速度が、1〜60(1/hr)である。前記混合物中の空間速度を1〜60(1/hr)とすることで、前記混合物中の吸着剤と、前記汚染成分との接触時間を適正範囲とすることができるため、汚染成分の吸着を十分に行うことができるとともに、前記汚水の混合物中の通過をスムーズにすることができる結果、安定して優れた浄化能力を得ることができるからである。ここで、前記混合物の空間速度とは、汚水が前記混合物に接触する時間の逆数、つまり、単位時間当たりに前記混合物がそれ自体の体積に対する汚水の処理能力を示したものであり、以下の式で示すことができる。
SV=Q/V=Q/(S・h)
SV:空間速度(1/hr)、Q:汚水の流量(m3/hr)、V:混合物の体積(m3)、S:混合物の断面積(m2)、h:混合物の高さ(m)
【0037】
前記混合物の空間速度は、その透水係数や厚さの調整によって、1〜60(1/hr)の範囲にすることができ、前記混合物中の吸着剤は、その体積が小さくコストもかかることから、前記吸着剤と前記希釈材とを所定の体積比で混合することで、透水係数や厚さの調整を行うことが好ましく、前記吸着剤の前記希釈材に対する体積比が、0.001〜2であることが好ましい。
体積比が0.001未満では、前記吸着剤の割合が大きくなりすぎるため、吸着層は薄くなり吸着剤との接触時間を十分維持できず、また、吸着層を均一の厚みに施工しにく、接触時間を維持する為には、吸着剤の無駄が生じるからであり、一方、体積比が2を超えると、前記吸着剤の割合が小さくなりすぎるため、吸着する成分によっては吸着層を厚くする必要があり、厚い吸着層を設けるのは施工が困難な場合があるためである。
【0038】
また、前記混合物の空間速度は、汚染成分を限定しない場合には、1〜60(1/hr)の範囲にする必要があるが、特に、前記汚染成分を特定する場合、例えば、ヒ素又はアンチモンの場合には20〜40(1/hr)、鉛又はクロムの場合には1〜15(1/hr)、フッ素の場合には5〜20(1/hr)、セレン又はホウ素の場合には1〜10(1/hr)、水銀の場合には1〜5(1/hr)の範囲であることが好ましい。確実に各汚染成分の吸着浄化を行うことができる上、大きな透水性を得ることができるからである。
【0039】
続いて、本発明による汚染成分拡散防止方法について図面を用いて説明する。
図1は、本発明による汚染成分拡散防止方法を用いた土壌の構造を示す図である。
【0040】
本発明による汚染成分拡散防止方法は、汚染土壌1と、非汚染土壌2との間に、前記汚染土壌1中に含まれる汚染成分を吸着し、かつ透水性を有する所定厚さの汚染成分拡散防止層3を設け、前記汚染土壌1中を流れる汚水が、前記汚染成分拡散防止層3の通過時に、前記汚染成分を前記汚染成分拡散防止層3で吸着保持する方法である。
【0041】
上記汚染成分拡散方法を用いれば、前記汚染成分拡散防止層3により、前記汚染土壌1から流出した汚染成分を含有する水の浄化が可能となるため、前記汚染成分の含有がほとんどない水を前記被汚染土壌2へ送り出すことが可能となる。その結果、従来の汚染土壌処理方法のように、特殊な薬剤と混合させたり、土壌全体を包み込んだりする必要がなく、汚染土壌を通常の土壌と同様に扱うことができる点で有効な手段である。
【0042】
また、前記汚染成分拡散防止層3は、汚染土壌1から発生する汚染成分を吸着する吸着剤と、透水係数及び厚さを調整するため、前記吸着剤に対し、所定の割合で混合される希釈材との混合物で構成され、該混合物は、前記汚染成分を含有する水の空間速度が1〜60(1/hr)であることが好ましい。前記空間速度を1〜60(1/hr)とすることで、前述したように、安定、かつ優れた浄化能力を得ることができるからである。一方、前記空間速度が1未満の場合には、優れた浄化能力を有することができるものの、処理能力が小さくなるため、水量が多い場合は、吸着層がオーバーフロー現象を示し、吸着層が遮水層的な作用をする恐れがあり、安定して水の浄化を行うことができず、60超えの場合には、汚水の処理能力は優れているものの、接触時間が短くなり、浄化能力が劣る恐れがあるからである。
【0043】
さらに、前記汚染成分拡散防止層3の透水係数が1×10−3〜10 cm/秒であり、厚さが0.1〜10mであることが好ましい。前記汚染成分拡散防止層3の空間速度は、層の透水係数及び層の厚さhから定められるからである。
【0044】
さらにまた、前記汚染成分拡散防止層3は、一旦、前記吸着剤と前記希釈材を混合した後、さらに前記希釈材と同一又は異なる希釈材を混合して形成することで、前記吸着剤及び前記希釈材の配置を均一にすることが好ましい。前記汚染成分拡散防止層3中の前記吸着剤及び前記希釈材が、より均一に配置される結果、安定した浄化能力を発揮できるからである。なお、先に述べたように、前記吸着剤の前記希釈材に対する体積比が、0.001〜2の範囲内であることがより好適である。
【0045】
なお、前記吸着剤の含有量は、酸化添加溶出試験及びアルカリ添加溶出試験の結果をもとに決めることが好ましい。酸化添加溶出試験及びアルカリ添加溶出試験とは、参考文献(「重金属等不溶化処理土壌の安定性に関する検討部会報告−酸添加溶出試験法、アルカリ添加溶出試験法−」、(社)土壌環境センター)に記載されているように、前記汚染成分を含有した試料に所定の酸又はアルカリを添加し、攪拌・ろ過した後、ろ液を調べることで前記汚染成分の溶出量を測定する試験のことであり、この試験結果をもとに、前記吸着剤の含有量を定めれば、その後、前記汚染成分拡散防止層3が長期間の自然環境変化、多少の酸又はアルカリなど特殊な条件下の場合であっても、前記汚染成分の溶出を抑えることができるからである。
【0046】
また、図1に示すように、前記汚染土壌の上をアスファルトやコンクリートで舗装し、保護層4を設ければ、前記汚染成分が外に触れることがなくなるため、前記被汚染土壌以外への流出も抑えることができる点で好ましい。
【0047】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。例えば、図2(a)及び(b)に示すように、前記汚染成分拡散防止層3を地中に埋めて使用することも可能である。
【実施例】
【0048】
本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1は、セリウムを主成分とする複数の希土類化合物30質量%、水55質量%、残部がシリカ等の無機元素15質量%からなる粘土状の吸着剤(商品名「アドセラ(登録商標)(スラリー状)」日本板硝子(株)製)50g(比重=1.2、41.5cm3)と、ガラス繊維(平均繊維径0.8μmのガラス短繊維、「CMLF♯208」日本板硝子(株)製)500cm3及び微細砂(平均粒径0.3mmの砂)4500cm3からなる希釈材とを、体積比にして0.8:10の割合で混合することにより、汚染成分拡散防止層を形成した。なお、前記希釈材はスラリー状のため、混合性を考慮し、前記ガラス繊維と一度混合させた後、さらに前記微細砂を混合させる方法を用いた。形成された汚染成分拡散防止層の透水係数、厚さ及び空間速度は表2に示す。
【0049】
(実施例2)
実施例2は、セリウムを主成分とする複数の希土類化合物30質量%、水55質量%、残部がシリカ等の無機元素15質量%からなる粘土状の吸着剤(商品名「アドセラ(登録商標)(スラリー状)」日本板硝子(株)製)50g(比重=1.2、41.5cm3)と、ロックウール(平均繊維径4μmの岩石原料の綿状物、「エスファイバー(登録商標)」新日化ロックウール(株)製)500cm3及び微細砂(平均粒径0.3mmの砂)500cm3からなる希釈材とを、体積比にして1:1の割合で混合することにより、汚染成分拡散防止層を形成した。なお、前記希釈材はスラリー状のため、混合性を考慮し、前記ロックウールと一度混合させた後、さらに前記微細砂を混合させる方法を用いた。形成された汚染成分拡散防止層の透水係数、厚さ及び空間速度は表2に示す。
【0050】
(実施例3)
実施例3は、セリウムを主成分とする複数の希土類化合物40質量%と、その他シリカ等の無機元素を60質量%とからなる粒状の吸着剤(商品名「アドセラ(登録商標)(粒状)」日本板硝子(株)製)100g(比重=0.75、75cm3)と、砂(平均粒径0.75mm)1000cm3からなる希釈材とを、体積比にして0.75:10の割合で混合することにより、汚染成分拡散防止層を形成した。形成された汚染成分拡散防止層の透水係数、厚さ及び空間速度は表2に示す。
【0051】
(実施例4)
実施例4は、鉄化合物(商品名「エコメル(登録商標)」(株)神戸製鋼所製))からなる粉末状の吸着剤100g(比重=5.1、20cm3)、砂(平均粒径0.75mm)1000cm3からなる希釈材とを、体積比にして0.2:10の割合で混合することにより、汚染成分拡散防止層を形成した。形成された汚染成分拡散防止層の透水係数、厚さ及び空間速度は表2に示す。
【0052】
(実施例5)
実施例5は、セリウムを主成分とする複数の希土類化合物30質量%、水55質量%、残部がシリカ等の無機元素15質量%からなる粘土状の吸着剤(商品名「アドセラ(登録商標)(スラリー状)」日本板硝子(株)製)50g(比重=1.2、41.5cm3)、礫(平均粒径1.5mm)2400cm3からなる希釈材とを、体積比にして0.17:10の割合で混合することにより、汚染成分拡散防止層を形成した。形成された汚染成分拡散防止層の透水係数、厚さ及び空間速度は表2に示す。
【比較例】
【0053】
(比較例1)
比較例1は、鉄化合物(商品名「エコメル(登録商標)」(株)神戸製鋼所製))からなる粉末状の吸着剤100g(比重=5.1、20cm3)と、礫(平均粒径20mm)10000cm3からなる希釈材とを、体積比にして0.02:10の割合で混合することにより、汚染成分拡散防止層を形成した。形成された汚染成分拡散防止層の透水係数、厚さ及び空間速度は表2に示す。
【0054】
(比較例2)
比較例2は、セリウムを主成分とする複数の希土類化合物30質量%、水55質量%、残部がシリカ等の無機元素15質量%からなる粘土状の吸着剤(商品名「アドセラ(登録商標)(スラリー状)」日本板硝子(株)製)50g(比重=1.2、41.5cm3)と、砕石(平均粒径5mm)20000cm3からなる希釈材とを、体積比にして0.02:10の割合で混合することにより、汚染成分拡散防止層を形成した。形成された汚染成分拡散防止層の透水係数、厚さ及び空間速度は表2に示す。
【0055】
(比較例3)
比較例3は、吸着剤を含有せず、ガラス繊維(平均繊維径0.8μmのガラス短繊維、「CMLF♯208」日本板硝子(株)製)500cm3及び微細砂(平均粒径0.3mmの砂)4500cm3からなる希釈材によって、汚染成分拡散防止層を形成した。形成された汚染成分拡散防止層の透水係数、厚さ及び空間速度は表2に示す。
【0056】
(比較例4)
比較例4は、セリウムを主成分とする複数の希土類化合物30質量%、水55質量%、残部がシリカ等の無機元素15質量%からなる粘土状の吸着剤(商品名「アドセラ(登録商標)(スラリー状)」日本板硝子(株)製)50g(比重=1.2、41.5cm3)と、砂(平均粒径0.75mm)1000cm3からなる希釈材とを、体積比にして0.4:10の割合で混合することにより、汚染成分拡散防止層を形成した。なお、前記希釈材はスラリー状のため、混合性を考慮し、少量の前記砂と一度混合させた後、さらに残りの前記砂を混合させる方法を用いた。形成された汚染成分拡散防止層の透水係数、厚さ及び空間速度は表2に示す。
【0057】
(比較例5)
比較例5は、セリウムを主成分とする複数の希土類化合物30質量%、水55質量%、残部がシリカ等の無機元素15質量%からなる粘土状の吸着剤(商品名「アドセラ(登録商標)(スラリー状)」日本板硝子(株)製)50g(比重=1.2、41.5cm3)と、礫(平均粒径1.5mm)2000cm3からなる希釈材とを、体積比にして0.2:10の割合で混合することにより、汚染成分拡散防止層を形成した。形成された汚染成分拡散防止層の透水係数、厚さ及び空間速度は表2に示す。
【0058】
(比較例6)
比較例6は、セリウムを主成分とする複数の希土類化合物30質量%、水55質量%、残部がシリカ等の無機元素15質量%からなる粘土状の吸着剤(商品名「アドセラ(登録商標)(スラリー状)」日本板硝子(株)製)50g(比重=1.2、41.5cm3)によって、汚染成分拡散防止層を形成した。形成された汚染成分拡散防止層の透水係数、厚さ及び空間速度は表2に示す。
【0059】
上記で作製した汚染成分拡散防止層について試験を行い、各汚染拡散防止層の性能を評価した。試験方法及び評価方法を以下に示す。
【0060】
(評価方法)
試験用汚染土壌として、市販の鹿沼土1kgに100mg/lのヒ素溶液100mlを混入後、混合し、10日間開封系で放置したものを用意した。なお試験用汚染土壌は、環境省告示第46号溶出試験で溶出させた結果、ヒ素添加量の80%の溶出が確認でき、社団法人土壌環境センターが提案する酸添加試験では96%、アルカリ添加試験では90%の溶出が確認できた。
その後、図3に示す試験装置10を用いて試験を行った。断面形状が正方形で断面積が0.01m2のカラム11に、ろ過用のグラスウール12、各実施例及び比較例の汚染成分拡散防止層13及び前記試験用汚染土壌14を順次積層した後、前記カラム11の上からポンプ(図示せず)を用いて所定量の蒸留水(表2参照)を流し込み、前記カラム11から排出された水16を回収した。
そして、回収された水のヒ素濃度(mg/l)を、前記蒸留水を流し込んで1時間経過時点と、24時間経過時点でそれぞれ測定することにより、各汚染成分拡散防止層の浄化能力を評価した。
【0061】
【表2】

【0062】
表2によれば、実施例1〜5は比較例1〜6に比べて、回収された水のヒ素濃度が低く、汚染拡散防止層の浄化能力が高いことがわかる。一方、比較例1、2、5及び6は空間速度が大きいため、大量の水を処理することはできるものの、空間速度の適正化が図れていないため、浄化能力が低く、比較例3は汚染拡散防止層が希釈材のみで構成されるため、浄化能力に劣ることがわかる。また、比較例4の浄化能力は実施例1〜5と同様に高いものの、空間速度が小さすぎるため、時間当たりの汚水処理能力が低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、従来の汚染成分拡散防止技術に比べ、汚染土壌中に含まれる汚染成分に対して、安定し、かつ優れた浄化能力を有する汚染成分拡散防止用混合物及び汚染成分拡散防止方法の提供が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明による汚染成分拡散防止方法を模式的に示した図である。
【図2】本発明による汚染成分拡散防止層を地中に埋めて使用した状態を模式的に示した図であり、(a)は汚染土壌の下に汚染成分拡散防止層を設ける場合、(b)は汚染土壌を囲むように汚染成分拡散防止層を設ける場合を示す。
【図3】各実施例及び比較例の汚染成分拡散防止層の浄化能力を評価するための、試験装置を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0065】
1 汚染土壌
2 非汚染土壌
3 汚染成分拡散防止層
4 保護層
10 試験装置
11 カラム
12 グラスウール
13 汚染成分拡散防止層
14 汚染土壌
15 蒸留水
13 回収した水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染土壌中に含まれる汚染成分を吸着する吸着剤と、透水係数及び厚さを調整するため、前記吸着剤に対し、所定の割合で混合される希釈材とで混合物を構成し、
該混合物は、前記汚染成分を含有する水の空間速度が、1〜60(1/hr)であることを特徴とする汚染成分拡散防止用混合物。
【請求項2】
前記吸着剤は、希土類化合物を少なくとも含有することを特徴とする請求項1記載の汚染成分拡散防止用混合物。
【請求項3】
前記希土類化合物は、水酸化セリウム、酸化セリウム、水酸化ランタン、酸化ランタン及びこれらの水和物から選択される1種以上の希土類化合物であることを特徴とする請求項2記載の汚染拡散防止混合物。
【請求項4】
前記吸着剤は、Al、Fe、Si、P、Ca及びMgから選択される1種以上の成分を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の汚染拡散防止混合物。
【請求項5】
前記希釈材は、無機材、無機繊維材、有機材又は有機繊維材であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の汚染拡散防止混合物。
【請求項6】
前記吸着剤の前記希釈材に対する体積比が、0.001〜2であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止用混合物。
【請求項7】
前記汚染成分がヒ素又はアンチモンであり、前記空間速度が20〜40(1/hr)であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止用混合物。
【請求項8】
前記汚染成分が鉛又はクロムであり、前記空間速度が1〜15(1/hr)であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止用混合物。
【請求項9】
前記汚染成分がフッ素であり、前記空間速度が5〜20(1/hr)であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止用混合物。
【請求項10】
前記汚染成分がセレン又はホウ素であり、前記空間速度が1〜10(1/hr)であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止用混合物。
【請求項11】
前記汚染成分が水銀であり、前記空間速度が1〜5(1/hr)であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止用混合物。
【請求項12】
汚染土壌と、非汚染土壌との間に、前記汚染土壌中に含まれる汚染成分を吸着し、かつ透水性を有する所定厚さの汚染成分拡散防止層を設け、前記汚染土壌中を流れる汚水が、前記汚染成分拡散防止層の通過時に、前記汚染成分を前記汚染成分拡散防止層で吸着保持することを特徴とする汚染成分拡散防止方法。
【請求項13】
前記汚染成分拡散防止層は、汚染土壌から発生する汚染成分を吸着する吸着剤と、透水係数及び厚さを調整するため、前記吸着剤に対し、所定の割合で混合される希釈材との混合物で構成され、該混合物は、前記汚染成分を含有する水の空間速度が1〜60(1/hr)であることを特徴とする請求項12記載の汚染成分拡散防止方法。
【請求項14】
前記汚染成分拡散防止層の、透水係数が1×10−3〜10cm/秒であり、厚さが0.1〜10mであることを特徴とする請求項12又は13記載の汚染成分拡散防止方法。
【請求項15】
前記汚染成分は、ヒ素、フッ素、ホウ素、セレン、鉛、クロム、カドミウム、マンガン、アンチモン及びニッケルから選択される1種以上の成分であること特徴とする請求項12〜14のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止方法。
【請求項16】
前記汚染成分拡散防止層は、一旦、前記吸着剤と前記希釈材を混合した後、さらに前記希釈材と同一又は異なる希釈材を混合して形成することで、前記吸着剤及び前記希釈材の配置を均一にすることを特徴とする請求項12〜15のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止方法。
【請求項17】
前記吸着剤の含有量は、酸化添加溶出試験及びアルカリ添加溶出試験の結果をもとに決めることを特徴とする請求項13〜16のいずれか1項記載の汚染成分拡散防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−112970(P2009−112970A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290429(P2007−290429)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】