説明

河川におけるリター流動量計測方法、計測装置及び計測プログラム

【課題】河川の水の流れによって流動する全てのリターを対象にしてリター流動量を計測することを可能にする。
【解決手段】水面を浮遊しながら通過しようとするリター及び水中に没しながら通過しようとするリターを捕捉回収する手段に捕捉されるリターを計数することによってフローリター量Lfを計測するステップ(S1)と、撮影手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら通過するリターを計数することによって全体撮影リター量Laを計測すると共に水面を浮遊しながら通過しようとしてリター捕捉回収手段に捕捉されるリターを計数することによって部分撮影リター量Lpを計測するステップ(S2)と、L=Lf×La/Lp によって水面及び水中を通過する総リター量Lを算出するステップ(S3)とを有するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川におけるリター流動量計測方法、計測装置及び計測プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、河川の水の流れによって流動するリターの量を計測する技術に関する。
【0002】
なお、リターとは、樹木から落下する落葉・落枝等の総称である。
【背景技術】
【0003】
国際連合気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で採択された京都議定書において京都メカニズムの一つとしてクリーン開発メカニズム(以下、CDMと表記する)が盛り込まれている。そして、CDMを活用し、途上国における植林・再植林による二酸化炭素吸収源確保事業によって創出される二酸化炭素固定量を先進国の温室効果ガス排出削減量として組み込むことが認められている。この枠組みのもと、新規植林・再植林によって二酸化炭素固定量を増加させるCDMプロジェクトの実施ルールがCOP9で決定されている。さらに、通常のCDMに比べてより簡易な手続きを利用することができる植林・再植林を対象とする小規模CDMの方法論として「湿地における小規模CDM植林プロジェクト活動のための簡素化したベースライン及びモニタリング方法論」が承認されている。そして、例えばマングローブ植林小規模CDMについてはこの方法論に従って評価が行われる。
【0004】
マングローブ植林・再植林に関連する簡易化された小規模CDM方法論では、1)マングローブ樹木(陸上・地下部)における炭素貯蔵量,2)土壌あるいは堆積物における炭素貯蔵量,3)その他の温暖化ガス収支変化を炭素に換算した変化量の3つの炭素貯蔵プールについて言及されている。そして、マングローブ成熟林に関してこれらの予測・モニタリングに関連する科学的な未解明事項として、1)成熟林における樹木地上部・地下部の炭素貯蔵量の予測,2)成熟林における純生産量とその行方,3)主要な二酸化炭素吸収主体であるマングローブ樹木について、マングローブ氾濫域へ落下する枝葉等(即ちリター)の量,4)マングローブ氾濫域におけるこれらリターの分解速度と堆積物への埋没量,5)リター分解有機物や堆積物有機物粒子の水中における分解速度,6)マングローブ氾濫域における分解を免れたリターの流出量とその行方,7)マングローブ氾濫域における上流からの有機物流入の寄与の解明の7つが挙げられる。
【0005】
上記7つの科学的な未解明事項のうち6)に関連して、マングローブ氾濫域に落下した落葉のうち例えば潮汐などによる河川の水の流れによってマングローブ域外の沿岸に輸送されるマングローブリターは氾濫域内で分解しなかったとしても沿岸では分解されて最終的には二酸化炭素に戻るので、マングローブ氾濫域の二酸化炭素固定量を適切に評価するためにはマングローブ域外に流出するリターの量を正確に計測することが必要である。
【0006】
ここで、河川の水の流れによってマングローブ域外に流出するリターの量を計測する方法としては、例えば、河川の流域をビデオカメラによって撮影して得られる画像データに対して画像処理(非特許文献1)を施すことによって河川を流動するリターを計数することが考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】堤富士雄・立田穣:河川上を流れる葉の画像処理による自動カウント手法,電中研研究報告 R07002,10pp.,2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、河川の流域をビデオカメラによって撮影して得られる画像データを用いてリター量の計測を行った場合には、河川の水面を浮遊するリターを計数することはできるものの水中に没しているリターを計数することはできないので、河川の水の流れによって流動する全てのリターを対象にしてリター流動量を計測しているとは言えず、正確なリター流動量を計測することはできない。
【0009】
そこで、本発明は、河川の水の流れによって流動する全てのリターを対象にしてリター流動量を計測することができる河川におけるリター流動量計測方法、計測装置及び計測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の河川におけるリター流動量計測方法は、河川における流動リターを計数する基準面位置の流域の水面を浮遊しながら基準面位置を通過しようとするリター及び水中に没しながら基準面位置を通過しようとするリターを捕捉回収する手段を基準面位置の流域に設置すると共に該リター捕捉回収手段に捕捉されるリターを計数することによってフローリター量Lfを計測するステップと、基準面位置の流域を撮影手段によって撮影すると共に該撮影手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら基準面位置を通過するリターを計数することによって全体撮影リター量Laを計測すると共に撮影手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら基準面位置を通過しようとしてリター捕捉回収手段に捕捉されるリターを計数することによって部分撮影リター量Lpを計測するステップと、L=Lf×La/Lp によって基準面位置の流域の水面及び水中を通過する総リター量Lを算出するステップとを有するようにしている。
【0011】
また、請求項2記載の河川におけるリター流動量計測装置は、河川における流動リターを計数する基準面位置の流域に設置されて該基準面位置の流域の水面を浮遊しながら基準面位置を通過しようとするリター及び水中に没しながら基準面位置を通過しようとするリターを捕捉回収する手段に捕捉されるリターの量であるフローリター量Lfを記憶手段から読み込む手段と、基準面位置の流域を撮影する手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら基準面位置を通過するリターの量である全体撮影リター量Laを記憶手段から読み込むと共に撮影手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら基準面位置を通過しようとしてリター捕捉回収手段に捕捉されるリターの量である部分撮影リター量Lpを記憶手段から読み込む手段と、L=Lf×La/Lp によって基準面位置の流域の水面及び水中を通過する総リター量Lを算出する手段とを有するようにしている。
【0012】
また、請求項3記載の河川におけるリター流動量計測プログラムは、河川におけるリターの流動量の計測を行う際に、河川における流動リターを計数する基準面位置の流域に設置されて該基準面位置の流域の水面を浮遊しながら基準面位置を通過しようとするリター及び水中に没しながら基準面位置を通過しようとするリターを捕捉回収する手段に捕捉されるリターの量であるフローリター量Lfを記憶手段から読み込む手段、基準面位置の流域を撮影する手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら基準面位置を通過するリターの量である全体撮影リター量Laを記憶手段から読み込むと共に撮影手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら基準面位置を通過しようとしてリター捕捉回収手段に捕捉されるリターの量である部分撮影リター量Lpを記憶手段から読み込む手段、L=Lf×La/Lp によって基準面位置の流域の水面及び水中を通過する総リター量Lを算出する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0013】
したがって、請求項1から3に記載の河川におけるリター流動量計測方法、計測装置及び計測プログラムによると、流動リターを計数する基準面位置の流域における水面及び水中のリター量と水面のリター量との比を用いて基準面位置の流域を通過する総リター量を求めるようにしているので、水面及び水中のリター量の計測が基準面位置の流域の一部でありながらも基準面位置の流域の全体(即ち河川の全幅に亘り且つ水中も含む)を流動する総リター流動量が計測される。
【0014】
また、請求項4記載の発明は、請求項1記載の河川におけるリター流動量計測方法において、リター捕捉回収手段を複数設置して該複数のリター捕捉回収手段別にリターを計数することによってリター捕捉回収手段別にフローリター量Lfを計測すると共に複数のリター捕捉回収手段の設置位置に対応させて基準面位置の流域を分割して該分割した流域別にリターを計数することによって分割した流域別に全体撮影リター量La及び部分撮影リター量Lpを計測して分割した流域別に総リター量Lを算出するようにしている。この場合には、基準面位置の流域の部分によってフローリター量と部分撮影リター量との比の特性が異なる場合であっても、流域の部分毎の特性が反映された総リター量が算出される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の河川におけるリター流動量計測方法、計測装置及び計測プログラムによれば、水面及び水中のリター量の計測が基準面位置の流域の一部でありながらも基準面位置の流域の全体(即ち河川の全幅に亘り且つ水中も含む)を流動する総リター流動量を計測することができるので、河川の水の流れによって水面及び水中を流動する全てのリターを対象にしたリター流動量の計測が可能になる。また、計測期間が長期に亘る場合には特にリター流動量計測にかかる手間とコストとを抑制して総リター流動量を正確に計測することが可能になる。
【0016】
また、本発明の河川におけるリター流動量計測方法、計測装置及び計測プログラムによれば、基準面位置の流域の部分によってフローリター量と部分撮影リター量との比の特性が異なる場合であっても、流域の部分毎の特性を反映した総リター量を算出することができるので、基準面位置の流域全体でのリター流動量をより正確に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態の河川におけるリター流動量計測方法を説明するフローチャートである。
【図2】実施形態の河川におけるリター流動量計測方法をプログラムを用いて実施する場合のリター流動量計測装置の機能ブロック図である。
【図3】実施例1のフローリター量及び部分撮影リター量の計測結果を示す図である。(A)は計測対象河川の中央域におけるフローリター量の計測結果である。(B)は計測対象河川の中央域における部分撮影リター量の計測結果である。(C)は計測対象河川の右岸域におけるフローリター量の計測結果である。(D)は計測対象河川の右岸域における部分撮影リター量の計測結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1及び図2に、本発明の河川におけるリター流動量計測方法、計測装置及び計測プログラムの実施形態の一例を示す。本実施形態の河川におけるリター流動量計測方法は、図1に示すように、河川における流動リターを計数する基準面位置の流域の水面を浮遊しながら基準面位置を通過しようとするリター及び水中に没しながら基準面位置を通過しようとするリターを捕捉回収する手段を基準面位置の流域に設置すると共に該リター捕捉回収手段に捕捉されるリターを計数することによってフローリター量Lfを計測するステップ(S1)と、基準面位置の流域を撮影手段によって撮影すると共に該撮影手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら基準面位置を通過するリターを計数することによって全体撮影リター量Laを計測すると共に撮影手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら基準面位置を通過しようとしてリター捕捉回収手段に捕捉されるリターを計数することによって部分撮影リター量Lpを計測するステップ(S2)と、L=Lf×La/Lp によって基準面位置の流域の水面及び水中を通過する総リター量Lを算出するステップ(S3)とを有するようにしている。
【0020】
上記河川におけるリター流動量計測方法は、本発明の河川におけるリター流動量計測装置として実現される。本実施形態のリター流動量計測装置は、河川における流動リターを計数する基準面位置の流域に設置されて該基準面位置の流域の水面を浮遊しながら基準面位置を通過しようとするリター及び水中に没しながら基準面位置を通過しようとするリターを捕捉回収する手段に捕捉されるリターの量であるフローリター量Lfを記憶手段から読み込む手段と、基準面位置の流域を撮影する手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら基準面位置を通過するリターの量である全体撮影リター量Laを記憶手段から読み込むと共に撮影手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら基準面位置を通過しようとしてリター捕捉回収手段に捕捉されるリターの量である部分撮影リター量Lpを記憶手段から読み込む手段と、L=Lf×La/Lp によって基準面位置の流域の水面及び水中を通過する総リター量Lを算出する手段とを備える。
【0021】
上述の河川におけるリター流動量計測装置は、本発明の河川におけるリター流動量計測プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。本実施形態では、河川におけるリター流動量計測プログラムをコンピュータ上で実行する場合を例に挙げて説明する。
【0022】
河川におけるリター流動量計測プログラム17を実行するための本実施形態のリター流動量計測装置10の全体構成を図2に示す。このリター流動量計測装置10は、制御部11、記憶部12、入力部13、表示部14及びメモリ15を備え相互にバス等の信号回線により接続されている。また、リター流動量計測装置10にはデータサーバ16がバス等の信号回線により接続されており、その信号回線を介して相互にデータや制御指令等の信号の送受信(即ち出入力)が行われる。
【0023】
制御部11は、記憶部12に記憶されている河川におけるリター流動量計測プログラム17によってリター流動量計測装置10全体の制御並びにリター流動量の計測に係る演算を行うものであり、例えばCPU(即ち中央演算処理装置)である。記憶部12は少なくともデータやプログラムを記憶可能な記憶手段であり、例えばハードディスクである。メモリ15は制御部11が各種の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
【0024】
入力部13は少なくとも作業者の命令を制御部11に与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードである。
【0025】
表示部14は制御部11の制御により文字や図形等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0026】
そして、河川におけるリター流動量計測プログラム17を実行することによってリター流動量計測装置10の制御部11には、河川における流動リターを計数する基準面位置の流域に設置されて該基準面位置の流域の水面を浮遊しながら基準面位置を通過しようとするリター及び水中に没しながら基準面位置を通過しようとするリターを捕捉回収する手段に捕捉されるリターの量であるフローリター量Lfを記憶手段から読み込む手段としてのフローリター量読込部11aと、基準面位置の流域を撮影する手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら基準面位置を通過するリターの量である全体撮影リター量Laを記憶手段から読み込むと共に撮影手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら基準面位置を通過しようとしてリター捕捉回収手段に捕捉されるリターの量である部分撮影リター量Lpを記憶手段から読み込む手段としての撮影リター量読込部11bと、L=Lf×La/Lp によって基準面位置の流域の水面及び水中を通過する総リター量Lを算出する手段としての総リター量算出部11cとが構成される。
【0027】
なお、本発明においては、リター流動量の計測が行われる河川のことを計測対象河川と呼び、計測対象河川における流動リターを計数する河川横断方向の基準面が設定される位置の流域のことを観測流域と呼ぶ。なお、例えばマングローブ氾濫域から流出するリター量を計測する場合には、観測流域は計測対象河川上のマングローブ氾濫域の境界付近に設定される。
【0028】
本発明の実施にあたっては、リター捕捉回収手段を設置し、水面を浮遊しながら及び水中に没しながら観測流域を通過するリター量の計測を行う(S1)。
【0029】
リター捕捉回収手段としては、具体的には例えば、直方体状の格子に組まれたスチールパイプ若しくは塩化ビニールコーティングスチールパイプの枠体と直方体の5面に張られたナイロンの網とからなり、河川水面及び水中を流動して観測流域を通過するリターを捕捉回収するフローリタートラップが用いられる。
【0030】
リター捕捉回収手段は、計測対象河川の全幅に亘って設置される必要はなく、計測対象河川の横断方向の一部の幅を有するものであれば良い。また、リター捕捉回収手段は、計測対象河川の水面から水底までの全深度に亘るものでも良いし、想定されるリターの水没深度まで少なくとも達するものでも良い。
【0031】
S1の処理におけるリター捕捉回収手段の設置とリター量の計測とは、観測流域におけるリター流動量の計測が必要とされる期間(以下、計測期間と呼ぶ)に亘って行われる。
【0032】
そして、所定の時間間隔毎にリター捕捉回収手段が引き上げられ、捕捉されているリターが計数される。なお、リター捕捉回収手段の引き上げとリターの計数とは例えば5〜20分程度の間隔で行うようにしても良いし、30分〜1時間程度の間隔で行うようにしても良い。また、リター捕捉回収手段による計測は、計測期間中途切れることなく連続的に行うようにしても良いし、例えば、上記時間間隔(時間刻み)で計測を行う時間帯と計測を行わない時間帯とを交互に設けるようにしても良い。
【0033】
リター捕捉回収手段による計測によって、観測流域の河川横断方向(即ち計測対象河川の幅)のうちリター捕捉回収手段の幅部分を、観測流域の水面を浮遊しながら及び水中に没しながら通過する(正確には、通過しようとする)リターの量(以下、フローリター量と呼ぶ)が計測される。
【0034】
そして、S1の処理によって得られるフローリター量のデータが、計測時刻(時間帯)の情報と対応付けられてフローリター量データベース16aとしてデータサーバ16に蓄積される。なお、以下においてはデータベースをDBと表記する。
【0035】
本発明の実施にあたっては、また、撮影手段によって観測流域の撮影を行い、水面を浮遊しながら観測流域を通過するリター量の計測を行う(S2)。
【0036】
撮影手段としては、具体的には例えばビデオカメラが用いられる。そして、撮影手段は、観測流域の全体(即ち計測対象河川の全幅)について水面を浮遊するリターを撮影することができるように設置される。
【0037】
そして、撮影手段によって得られる画像に撮影されている観測流域を通過するリターが計数される。本発明では、観測流域の河川横断方向(即ち計測対象河川の幅)のうちリター捕捉回収手段の幅部分のみ対象として当該部分を通過するリターを計数する(S2−1)と共に、観測流域の全体(即ち計測対象河川の全幅)を対象として観測流域を通過するリターを計数する(S2−2)。
【0038】
なお、撮影手段によって得られる画像に撮影されているリターは、作業者が目視によって計数するようにしても良いし、ソフトウェア化された画像処理技術を用いて自動的に計数するようにしても良い(例えば、堤富士雄・立田穣:河川上を流れる葉の画像処理による自動カウント手法,電中研研究報告 R07002,10pp.,2007年)。また、画像処理技術を用いて自動的に計数する場合には、葉に含まれている葉緑素の撮像が可能になる一方で水面に浮遊しているゴミなどを無視してより正確な計数を行えることが期待できるので、赤外線カメラを用いることが望ましい。なお、赤外線カメラを用いる場合には、水面で太陽光線が強く反射している場所は避けることが望ましく、例えば立木の葉で覆われている場所や橋の下などを観測流域とすることが望ましい。
【0039】
撮影手段による計測によって、観測流域の河川横断方向のうちリター捕捉回収手段の幅部分のみを対象として水面を浮遊しながら通過するリターの量(以下、部分撮影リター量と呼ぶ)と、観測流域の全体を対象として水面を浮遊しながら通過するリターの量(以下、全体撮影リター量と呼ぶ)とが計測される。なお、部分撮影リター量は、実際には、水面を浮遊しながら観測流域を通過しようとしてリター捕捉回収手段に捕捉されるリターの量である。そして、全体撮影リター量は部分撮影リター量を含むものである。また、S2の処理において計測され得るリターは、撮影手段によって得られる画像上で認識され得るものであり、河川の水面に完全に浮いているものには限られない。
【0040】
ここで、S2の処理における観測流域の撮影は計測期間に亘って行われ、S2の処理における計測はS1の処理における時間間隔(時間刻み)と対応させて計測時刻(時間帯)を区切って行う。また、部分撮影リター量の計測は、S1の処理においてリター捕捉回収手段が設置されてリターが計数される時間帯については少なくとも行う。すなわち、フローリター量DB16aに記録されるフローリター量のデータに対応付けられている時刻(時間帯)と一致する時刻(時間帯)の部分撮影リター量のデータが必ず存在する。
【0041】
そして、S2−1の処理によって得られる部分撮影リター量のデータとS2−2の処理によって得られる全体撮影リター量のデータとが、計測時刻(時間帯)の情報と対応付けられて撮影リター量DB16bとしてデータサーバ16に蓄積される。
【0042】
そして、S1の処理において整備されたフローリター量のデータとS2の処理において整備された二つの撮影リター量のデータとを用いて観測流域を通過する総リター量の算出を行う(S3)。
【0043】
具体的には、制御部11のフローリター量読込部11aが記憶手段としてのデータサーバ16に格納されているフローリター量DB16aから時刻別のフローリター量の値を読み込んで当該値をメモリ15に記憶させると共に、制御部11の撮影リター量読込部11bが記憶手段としてのデータサーバ16に格納されている撮影リター量DB16bから時刻別の部分撮影リター量の値と全体撮影リター量の値とを読み込んでこれらの値をメモリ15に記憶させる。
【0044】
そして、制御部11の総リター量算出部11cは、メモリ15に記憶された時刻別のフローリター量Lfの値と部分撮影リター量Lpの値と全体撮影リター量Laの値とをメモリ15から読み込むと共に、観測流域の全体(言い換えると、計測対象河川の全幅に亘る基準面)を通過する時刻別の総リター量Lを数式1によって算出する。なお、数式1は河川におけるリター流動量計測プログラム17に規定しておく。
【0045】
(数1) L=Lf×La/Lp
【0046】
なお、撮影リター量DB16b内に記録されている全体撮影リター量のデータに対応付けられている時刻(時間帯)に一致する時刻(時間帯)が対応付けられている部分撮影リター量及びフローリター量のデータが存在しない場合には、全体撮影リター量のデータに対応付けられている時刻(時間帯)とより多く重複する若しくは最も近い時刻(時間帯)が対応付けられている部分撮影リター量及びフローリター量のデータを用いて数式1による計算を行う。
【0047】
そして、総リター量算出部11cは、算出した時刻別の総リター量Lの値を計測時刻(全体撮影リター量のデータに対応付けられていた時刻)の情報と対応づけてリター流動量算出結果DB16cとしてデータサーバ16に蓄積する。
【0048】
そして、制御部11は、撮影リター量DB16b内の全体撮影リター量のデータの全てについて処理を行ったときは当該撮影リター量DB16bについての処理を終了する(END)。
【0049】
ここで、上述の説明においては、リター捕捉回収手段の個数及び撮影手段の個数について特に言及していないが、これらは一つのみ設置するようにしても良いし複数設置するようにしても良い。
【0050】
そして、リター捕捉回収手段を複数設置した場合には、複数のリター捕捉回収手段の設置位置と対応させて観測流域を分割すると共に、リター捕捉回収手段別にフローリター量Lfを計測するようにする(S1)と共に、分割した観測流域別に部分撮影リター量Lp及び全体撮影リター量Laを計測するようにし(S2)、これら分割した観測流域別の値を用いて流域別に総リター量Lを算出する(S3)。そして、当該流域別の総リター量Lを合計したものを最終的な観測流域の全体を通過するリター流動量とするようにする。この場合には、フローリター量と部分撮影リター量との比が観測流域の部分によって大きく異なる場合に特に観測流域全体でのリター流動量をより正確に計測することができる。
【0051】
また、撮影手段についても、観測流域全体を一つの撮影手段を用いて撮影するようにしても良いし、複数の撮影手段を用いて撮影するようにしても良い。
【0052】
以上の構成を有する本発明の河川におけるリター流動量計測方法、計測装置及び計測プログラムによれば、計測期間については水面を浮遊するリターのみを計数することによって水中に没しているリターも含めたリター流動量を計測することができるので、計測期間においては水面を浮遊するリターのみの計数でありながらも河川の水の流れによって水面及び水中を流動する全てのリターを対象にしてリター流動量を計測することが可能になる。
【0053】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、各種DB16a〜16cをデータサーバ16に格納するようにしているが、これに限られず、記憶手段としての記憶部12に格納するようにしても良い。
【実施例1】
【0054】
本発明の河川におけるリター流動量計測方法について、実際の河川においてリター捕捉回収手段によるフローリター量の計測と撮影手段によるリター量の計測とを行うと共にこれらの計測結果に基づいて計測方法の妥当性の検討を行った実施例を図3を用いて説明する。
【0055】
本実施例では、沖縄県石垣島吹通川河口域のマングローブ域から流出するリター量の計測を行う場合を前提とし、吹通川を計測対象河川とすると共に吹通川上のマングローブ域の境界部分を観測流域とした。
【0056】
本実施例では、リター捕捉回収手段として45×45×150cmのスチールパイプ若しくは塩化ビニールコーティングスチールパイプ枠体と目合3cmのナイロン網とからなるリタートラップを用い、1日2回・3−5日間の下げ潮時に観測流域を通過してマングローブ域外に流出しようとするリターを計数することによってフローリター量を計測した(S1)。
【0057】
また、本実施例では、河口上の橋桁に3−5台のデジタルビデオカメラを観測流域全体(即ち吹通川全幅)を撮影することができるように設置し、観測流域を通過してマングローブ域外に流出するリターを計数することによって撮影リター量を計測した(S2)。
【0058】
なお、本実施例では、複数のフローリタートラップを設置し、河川の中央域と右岸域との別に各種の計測を行うようにした。
【0059】
時刻別のフローリター量の計測結果として、河川中央域について図3(A),河川右岸域について同(C)に示す結果が得られた。また、時刻別の部分撮影リター量の計測結果として、河川中央域について図3(B),河川右岸域について同(D)に示す結果が得られた。
【0060】
図3の(A)と(B)との比較及び(C)と(D)との比較から、水面を浮遊するリターと水中に没しているリターとの両方を計数した量であるフローリター量と、水面を浮遊するリターを計数した量である部分撮影リター量との間には比例関係があることが確認された。このことから、数式1によって総リター量を算出する本発明により河川の水の流れによって流動する全てのリターを対象にしてリター流動量が正確に計測され得ることが確認された。
【0061】
また、河川中央域についての結果(図3(A),(B))と河川右岸域についての結果(同(C),(D))との比較から、観測流域の部分によってフローリター量と部分撮影リター量との比が異なる場合があることが確認された。このことから、リター捕捉回収手段を複数設置すると共に観測流域を分割し、当該分割した観測流域毎に各種の計測を行うと共に総リター量を算出することによって観測流域全体でのリター流動量をより正確に計測することができることが確認された。
【符号の説明】
【0062】
10 リター流動量計測装置
11 制御部
12 記憶部
13 入力部
14 表示部
15 メモリ
16 データサーバ
17 リター流動量計測プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川における流動リターを計数する基準面位置の流域の水面を浮遊しながら前記基準面位置を通過しようとするリター及び水中に没しながら前記基準面位置を通過しようとするリターを捕捉回収する手段を前記基準面位置の流域に設置すると共に該リター捕捉回収手段に捕捉されるリターを計数することによってフローリター量Lfを計測するステップと、前記基準面位置の流域を撮影手段によって撮影すると共に該撮影手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら前記基準面位置を通過するリターを計数することによって全体撮影リター量Laを計測すると共に前記撮影手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら前記基準面位置を通過しようとして前記リター捕捉回収手段に捕捉されるリターを計数することによって部分撮影リター量Lpを計測するステップと、L=Lf×La/Lp によって前記基準面位置の流域の水面及び水中を通過する総リター量Lを算出するステップとを有することを特徴とする河川におけるリター流動量計測方法。
【請求項2】
河川における流動リターを計数する基準面位置の流域に設置されて該基準面位置の流域の水面を浮遊しながら前記基準面位置を通過しようとするリター及び水中に没しながら前記基準面位置を通過しようとするリターを捕捉回収する手段に捕捉されるリターの量であるフローリター量Lfを記憶手段から読み込む手段と、前記基準面位置の流域を撮影する手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら前記基準面位置を通過するリターの量である全体撮影リター量Laを記憶手段から読み込むと共に前記撮影手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら前記基準面位置を通過しようとして前記リター捕捉回収手段に捕捉されるリターの量である部分撮影リター量Lpを記憶手段から読み込む手段と、L=Lf×La/Lp によって前記基準面位置の流域の水面及び水中を通過する総リター量Lを算出する手段とを有することを特徴とする河川におけるリター流動量計測装置。
【請求項3】
河川におけるリター流動量の計測を行う際に、河川における流動リターを計数する基準面位置の流域に設置されて該基準面位置の流域の水面を浮遊しながら前記基準面位置を通過しようとするリター及び水中に没しながら前記基準面位置を通過しようとするリターを捕捉回収する手段に捕捉されるリターの量であるフローリター量Lfを記憶手段から読み込む手段、前記基準面位置の流域を撮影する手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら前記基準面位置を通過するリターの量である全体撮影リター量Laを記憶手段から読み込むと共に前記撮影手段によって得られる画像に撮影されている水面を浮遊しながら前記基準面位置を通過しようとして前記リター捕捉回収手段に捕捉されるリターの量である部分撮影リター量Lpを記憶手段から読み込む手段、L=Lf×La/Lp によって前記基準面位置の流域の水面及び水中を通過する総リター量Lを算出する手段としてコンピュータを機能させるための河川におけるリター流動量計測プログラム。
【請求項4】
前記リター捕捉回収手段を複数設置して該複数のリター捕捉回収手段別にリターを計数することによって前記リター捕捉回収手段別に前記フローリター量Lfを計測すると共に前記複数のリター捕捉回収手段の設置位置に対応させて前記基準面位置の流域を分割して該分割した流域別にリターを計数することによって前記分割した流域別に前記全体撮影リター量La及び前記部分撮影リター量Lpを計測して前記分割した流域別に前記総リター量Lを算出することを特徴とする請求項1記載の河川におけるリター流動量計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−3019(P2011−3019A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145647(P2009−145647)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】