説明

油の貯蔵方法

【課題】天井部付近に気相ベント装置を有するタンクに、昇華性物質を含む油を貯蔵する方法であって、昇華性物質によるベント装置の閉塞を防止し、よって長期にわたって安全に油を貯蔵することができるという優れた効果を有する油の貯蔵方法を提供する。
【解決手段】油の表面に、油より比重が小さく、かつ油と相溶性がない液体の層を存在させて貯蔵する。昇華性物質としてはナフタレン類をあげることができ、油としては重油をあげることができ、油より比重が小さく、かつ油と相溶性がない液体としては水をあげることができる。液体の層の厚さは10〜50cmが好ましい。層の厚さが薄すぎると層切れを起こす可能性がり、一方層の厚さが厚すぎるとタンクの有効容積を減少させることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油の貯蔵方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、天井部付近に気相ベント装置を有するタンクに、昇華性物質を含む油を貯蔵する方法であって、昇華性物質によるベント装置の閉塞を防止し、よって長期にわたって安全に油を貯蔵することができるという優れた効果を有する油の貯蔵方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば重油のような油を工業規模で貯蔵する場合、貯蔵タンクが用いられる(たとえば、非特許文献1参照。)。貯蔵タンクとして、円筒形で上部に固定天井部を有るものがある。天井部には、油の受払いに伴うタンク内部の圧力を調整するためのベント装置が設けられている。このベント装置は、その一端を天井部に固定された逆U字型の中空パイプであり、パイプ内には火気を吸い込むのを防止するための火炎伝播防止装置(金網や複数の加工された鉄板で構成されたフレームアレスター)及び鳥等の進入を防止するための網(バードスクリーン)が設けられているのが一般である。
【0003】
ところで、重油等にはナフタレン等の昇華性物質が含まれることが多い。昇華性物質を含む油を上記のタンクに貯蔵した場合、昇華性物質によりベント装置が閉塞し、ベント装置が本来の機能を発揮できず、油の受払いに伴いタンク内部の圧力の変化によりタンクが変形したり、著しい場合にはタンクが破壊するという懸念がある。
【0004】
【非特許文献1】化学プラント便覧 昭和47年発行 発行所:丸善株式会社 873〜875頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、天井部付近に気相ベント装置を有するタンクに、昇華性物質を含む油を貯蔵する方法であって、昇華性物質によるベント装置の閉塞を防止し、よって長期にわたって安全に油を貯蔵することができるという優れた効果を有する油の貯蔵方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、天井部付近に気相ベント装置を有するタンクに、昇華性物質を含む油を貯蔵する方法であって、油の表面に、油より比重が小さく、かつ油と相溶性がない液体の層を存在させて貯蔵する油の貯蔵方法に係るものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、天井部付近に気相ベント装置を有するタンクに、昇華性物質を含む油を貯蔵する方法であって、昇華性物質によるベント装置の閉塞を防止し、よって長期にわたって安全に油を貯蔵することができるという優れた効果を有する油の貯蔵方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いられるタンクは、天井部付近に気相ベント装置を有するタンクである。
【0009】
タンクの形状は、特に制限はないが、円筒形で上部に固定天井部を有るものをあげることができる。
【0010】
天井部には、油の受払いに伴うタンク内部の圧力を調整するためのベント装置が設けられている。このベント装置は、その一端を天井部に固定された逆U字型の中空パイプであり、パイプ内には火気を吸い込むのを防止するための火炎伝播防止装置(金網や複数の加工された鉄板で構成されたフレームアレスター)及び鳥等の進入を防止するための網(バードスクリーン)が設けられているのが一般である。
【0011】
本発明の対象となる油は、昇華性物質を含む油である。昇華性物質としてナフタレン類をあげることができ、より具体的にはナフタレンを例示することができる。また、油としては重油を例示することができる。
【0012】
本発明の最大の特徴は、油の表面に、油より比重が小さく、かつ油と相溶性がない液体の層を存在させて貯蔵する点にある。タンクに貯蔵される油は、ポンプ等による輸送が可能なように一定以下の粘度に維持する必要があり、そのため加温して貯蔵されている。かかる状況において、油中の昇華性物質が気体となって気相部へ放散されて上昇し、ベント装置付近で冷えて固体となって析出し、ベント装置を閉塞するのである。本発明によると、昇華性物質の気相への放散を防止することができ、よって昇華性物質がベント装置付近で冷えて固体となって析出し、ベント装置を閉塞するというトラブルを排除できるのである。
【0013】
油より比重が小さく、かつ油と相溶性がない液体としては水をあげることができる。液体の層は油の表面全面を覆うものであることが必要であり、また層の厚さは10〜50cmが好ましい。層の厚さが薄すぎると層切れを起こす可能性がり、一方層の厚さが厚すぎるとタンクの有効容積を減少させることとなる。
【0014】
本発明を実施には、要するにタンク内に、油より比重が小さく、かつ油と相溶性がない液体を供給すればよい。液体は自然に油の表面に浮いて層を形成し、本発明の効果を発揮することができる。
【実施例】
【0015】
次に本発明を実施例により説明する。
【0016】
比較例1
円筒形(直径15.5m×高さ12.185m)で上部に固定天井部を有し、天井部付近に気相ベント装置が設けられたタンクを用いた。ベント装置は、その一端を天井部に固定された逆U字型の中空パイプ(断面は内径200mmの円)であり、パイプ内にはフレームアレスター(16メッシュの網×13枚)及びバードスクリーン(8メッシュの網)が設けられている。
上記のタンクに重油(比重1.05)を貯蔵した。重油中には12wt%のナフタレンが含まれており、重油は温度35〜45℃に維持されていた。
上記の状態で冬季30日間実施した後、ベント装置を取り外して内部を点検した結果、パイプの内部に多量の白色結晶が析出しており、パイプの内部断面積は初期開口面積の0%程度にまで減少していた。なお、白色結晶を分析した結果、ナフタレンが63重量%であることがわかった。
【0017】
実施例1
円筒形(直径15.5m×高さ13.7m)で上部に固定天井部を有し、天井部付近に気相ベント装置が設けられたタンクを用いた。ベント装置は、その一端を天井部に固定された逆U字型の中空パイプ(断面は内径100mmの円×2ケ)であり、パイプ内にはフレームアレスター(16メッシュの網×13枚)及びバードスクリーン(8メッシュの網)が設けられている。
上記のタンクに重油(比重1.05)を貯蔵した。重油中には9.6wt%のナフタレンが含まれており、重油は温度50〜60℃に維持した。タンク内に水を供給し、油の表面に20cmの水の層を形成したこと以外は、比較例1と同様に行った。30日間実施した後、ベント装置を取り外して内部を点検した結果、パイプの内部に固体の析出は観察されなかった。
【0018】
モデル実験
図2の装置を用いた。容器A及び容器Bは直径8cm×高さ17cmの円筒であり、容器Aには副生重油(ナフタレン含量12wt%)150g、容器Bには副生重油(ナフタレン含量12wt%)150g及び水75gを入れた。容器を温度43℃のバスに入れ、窒素を流通させた。容器を通過した窒素は温度0℃のトラップに導かれた。6時間経過の結果を表1に示した。
【0019】
【表1】


*1 結果
○:トラップの内壁に固体の析出なし
×:トラップの内壁に固体の析出あり。固体は、分析の結果、ナフタレンであった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1タンク内の状況を示す概念図である。
【図2】モデル実験の実験装置を示す概念図である。
【符号の説明】
【0021】
(図1中の符号)
1 タンク
2 重油
3 水の層
4 タンクの天井部
5 ベント装置
6 フレームアレスター
7 バードスクリーン
8 払い用のポンプ
9 受け込み配管
10 水抜き配管
11 水補給配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井部付近に気相ベント装置を有するタンクに、昇華性物質を含む油を貯蔵する方法であって、油の表面に、油より比重が小さく、かつ油と相溶性がない液体の層を存在させて貯蔵する油の貯蔵方法。
【請求項2】
昇華性物質がナフタレン類である請求項1記載の方法。
【請求項3】
油が重油である請求項1記載の方法。
【請求項4】
油より比重が小さく、かつ油と相溶性がない液体が水である請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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