説明

油中水型乳化油脂組成物

【課題】食品添加物としての乳化剤を使用せず或いは使用量を最小限に減じた、乳化状態が安定した油中水型乳化油脂組成物を提供する。
【解決手段】乳酸発酵卵白を乳化材として含有する油中水型乳化油脂組成物とする。また、30〜75%の油相と70〜25%の水相からなり、乳酸発酵卵白を固形分換算で1〜15%含有する油中水型乳化油脂組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中水型乳化油脂組成物に関し、さらに詳しくは、製造工程中における水中油型への乳化相の転相や使用時における油水の分離が起こり難く、良好な風味を有する油中水型乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マーガリンおよび油中水型低脂肪スプレッド等の油中水型乳化油脂組成物は、脱脂粉乳または全粉乳、ホエー粉、ホエー濃縮物、カゼイン、発酵乳等のいわゆる乳蛋白を乳化材として、水相を分散相、油相を連続相とするように乳化して製造されているが、上記乳蛋白以外の天然食品成分を乳化材として使用した油中水型乳化油脂組成物は市販されていない。
また、マーガリンの水分含有率は22%以下(日本農林規格)と定められているため、その油脂含有率は78%以上のものが一般的であるが、近年食生活が向上して肥満や成人病が増加し食品のカロリーに対する関心が高まっており、油中水型乳化油脂組成物に関しても、従来のものより一層低カロリーへの要望が増大している。
これらの低脂肪(高水分)タイプの油中水型乳化油脂組成物を製造するに際しては、従来から、安定な乳化状態を保持するために、食品添加物に該当する乳化剤を配合する方法が実施されており、例えば、乳化剤としてHLB2以下のショ糖脂肪酸エステルを用いるもの(特許文献1)、または、乳化剤としてヨウ素価が30〜120のモノグリセリドとレシチン、ヨウ素価が30以上のジアセチル酒石酸モノグリセリドを併用するもの(特許文献2)等がある。
【0003】
【特許文献1】特開平5−30904号公報
【特許文献2】特開平7−39303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に低脂肪タイプの油中水型乳化油脂組成物は、製造工程中に乳化破壊が起こり易く、例えば、この組成物の予備乳化液を急冷可塑機に通過せしめる際に、分散相の水が滲み出たり、水中油型への転相が起こるなどの問題がある。また、製造した組成物を食パン等にスプレッドして使用する際に、油水の分離が起こるという問題もある。このような問題を解決する方法としては、前記のように乳化剤を配合することによる安定化が多く実施されている。
しかしながら、近年の消費者の健康志向の高まりから、乳化剤等の食品添加物を含む食品が忌避される傾向にあり、低脂肪油中水型乳化油脂組成物についても、なるべく乳化剤を使用せず、或いは使用量を減じたものが望まれている。
【0005】
本発明は、食品添加物としての乳化剤を使用せず或いは使用量を最小限に減じた新規な油中水型乳化油脂組成物を提供することを目的とし、さらに、低脂肪タイプであるにもかかわらず、製造工程中に水中油型への転相が起こらず、また使用時に油水の分離が生じず安定であり、かつ爽やかな発酵乳の風味を有する油中水型乳化油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、天然食品成分からなる乳酸発酵卵白が、油中水型乳化油脂組成物中で強い乳化力を示すことを見出し本発明を完成した。すなわち本発明は、
(1)乳酸発酵卵白を乳化材として含有することを特徴とする油中水型乳化油脂組成物、
(2)30〜75%の油相と70〜25%の水相からなり、乳酸発酵卵白を固形分換算で1〜15%含有することを特徴とする油中水型乳化油脂組成物、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、乳酸発酵卵白を含有しているため、その強い乳化力により、製造工程における予備乳化時や急冷可塑化時の転相や乳化破壊が起こり難く、また、本発明組成物を食パン等にスプレッドして使用する際に、油水の分離が生じない乳化安定性が高いものである。さらに、爽やかな発酵乳の風味を有するため、風味面において付加価値の高い製品とすることができる。
したがって、本発明組成物は、例えば新規なマーガリン、または、バター様或いはマーガリン様の油中水型低脂肪スプレッドとして、さらに、高水分の製菓製パン練り込み用油脂組成物等として広範な利用が期待できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳しく説明する。尚、本発明において特に規定しない限り「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0009】
本発明において油中水型乳化油脂組成物とは、水分含有率22%以下の一般的なマーガリンや、より水分含有率が高い低脂肪タイプの油中水型低脂肪スプレッド等、さらに、製菓用フィリング、製菓製パン練り込み用油脂組成物等のあらゆる種類の油中水型乳化油脂組成物を含むものである。
【0010】
また、本発明の油中水型乳化油脂組成物に含有させる乳酸発酵卵白とは、液状の卵白に乳酸菌を添加して発酵させることにより得られるものであり、かかる乳酸発酵は、一般的には、卵白に栄養源として乳酸菌資化性糖類を加え、さらに必要に応じ酵母エキス等の発酵促進物質を添加し、乳酸菌を1mLあたり好ましくは10〜10、さらに好ましくは10〜10供し発酵させればよい。
上記乳酸発酵卵白の原料として用いる卵白は、例えば、鶏等の鳥類の卵を割卵し卵黄を分離したものであり工業的に得られるもの、またこれを殺菌、凍結したもの、濃縮または希釈したもの、特定の成分(リゾチームやアビジン等)を除去したもの、乾燥させたものを水戻ししたもの等が挙げられる。尚、本発明の効果に影響を及ぼさない程度であれば、卵黄やその他の卵由来の成分を含んでいても差し支えない。
【0011】
また、上記乳酸発酵卵白の製造に用いる乳酸菌としては、一般的にヨーグルトやチーズの製造に利用される、例えば、ラクトバチルス属(Lactobacillus bulgaricus等)、ストレプトコッカス属(Streptococcus thermophilus、Streptococcus diacetylactis等)、ラクトコッカス属(Lactococcus lactis等)、ロイコノストック属(Leuconostoc cremoris等)、エンテロコッカス属(Enterococcus faecalis)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium Bbifidum等)等が挙げられる。 さらに、上記乳酸発酵卵白の製造に用いる乳酸菌資化性糖類としては、例えば、単糖類(グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、N−アセチルグルコサミン等)、二糖類(ラクトース、マルトース、スクロース、セルビオース、トレハロース等)、オリゴ糖類(特に3〜5個の単糖類が結合しているもの)、ブドウ糖果糖液糖等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。 また、上記乳酸発酵卵白の製造に用いる発酵促進物質としては、本発明の効果を損なわない範囲で発酵を促進するものであれば、特に限定するものではない。例えば、アミノ酸やペプチド等の蛋白質分解物、酵母エキス、ビタミン類、ミネラル類等が挙げられる。
【0012】
次に、上記乳酸発酵卵白の代表的な製法を説明する。まず、調製する仕込み液の質量に対して2〜8%の乾燥卵白、同1〜15%の乳酸菌資化性糖類、及び同0.5〜10%の発酵促進物質を清水に加え、乳酸、塩酸等の酸剤を用いてpH5〜7.5にpH調整し仕込み液を調製する。尚、酸剤としては風味の面から乳酸を用いるのが好ましい。得られた仕込み液を60〜110℃で5〜120分間加熱した後冷却し、乳酸菌スターターを1mLあたり10〜10になるように添加し、25〜50℃で8〜48時間発酵することにより乳酸発酵卵白が得られる。 尚、必要に応じて得られた乳酸発酵卵白を加熱殺菌し、高圧下で均質化処理を施してもよく、或いは、フリーズドライ、スプレードライ、パンドライ等の乾燥処理を施して粉末状にしておき、使用の際に清水等に溶解させるようにしてもよい。
【0013】
また、上記乳酸発酵卵白には、風味改善等の観点からあらかじめ菜種油等の食用油を含有させておくことが可能であり、その場合には、上記仕込み液を調製する際に、得られる仕込み液の質量に対して5〜20%の食用油を添加すればよい。 尚、本発明においては、本発明組成物を構成する各種原材料が、油相または水相のいずれに含まれるかの振分けにおいて、便宜上、乳酸発酵卵白は水相に含まれるものとして扱うが、上記のごとく乳酸発酵卵白にあらかじめ食用油を添加しておく場合、かかる食用油については油相に含まれるものとして扱うこととする。
【0014】
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、乳化材として上記乳酸発酵卵白を含有するものであり、その強力な乳化力により、本発明組成物の製造工程中での転相や使用時における水油の分離が生じ難いものとなっている。
ここで、乳酸発酵卵白が強い乳化力を有しているのは、乳酸発酵により卵白に含まれる蛋白質(以下「卵白蛋白質」という。)の乳化力が向上したことが原因であると推察される。すなわち、卵白蛋白質は本来親油性よりも親水性が強いが、乳酸発酵により酸変性を受け、卵白蛋白質の三次元構造の内部側に存在していた疎水性領域が外部側に現れることにより親油性が向上し、全体として乳化力が強化されたものと考えられる。
【0015】
本発明組成物に対する乳酸発酵卵白の含有量については、組成物を30〜75%の油相と70〜25%の水相からなる低脂肪タイプとする場合には、かかる組成物に対し乳酸発酵卵白を固形分換算(乳酸発酵卵白にあらかじめ添加した食用油を除く。以下同じ。)で1〜15%含有させることが好ましい。1%より少ない場合には、本発明組成物を食パン等にスプレッドした際に油水の分離が生じ易くなり、一方、15%より多くしたとしても、含有量に応じた効果の増大が期待し難く経済的でないからである。
また、本発明組成物を油脂含量が75%を超える高脂肪タイプとする場合には、乳酸発酵卵白を組成物に対し固形分換算で0.1〜1%程度含有させることで、製造時および使用時において安定した乳化状態を保持することが可能である。
【0016】
本発明組成物に乳酸発酵卵白を含有させる方法としては、本発明組成物の油相または水相を調製する際に、これらのいずれかに乳酸発酵卵白を分散または溶解させるようにすればよい。但し、本発明組成物の製造中や使用時における乳化安定性を高め、より油水の分離が生じ難いものとするためには、乳酸発酵卵白を水相中に分散または溶解させておくことが好ましい。
【0017】
次に、本発明組成物の油相に用いる油脂としては、食用動植物油脂、例えば、菜種油、コーン油、大豆油、綿実油、サフラワー油、パーム油、米油、オリーブ油、乳脂、魚油、牛脂、豚脂、及びこれらの配合油、水素添加した硬化油、エステル交換油、分別等を行った加工油等が挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わされて用いられる。また、かかる油相には、油溶性成分として、各種の色素、香料、抗酸化剤等を目的に応じて含有させることができる。
一方、本発明組成物の水相中には、乳酸発酵卵白のほか水溶性成分として、例えば食塩、アミノ酸系調味料、糖類、香辛料等の調味料、脱脂粉乳、ホエーパウダー、生クリーム等の乳製品、pH調整剤、保存剤等を目的に応じて含有させることができる。
また、本発明組成物における油相と水相の割合は、低脂肪タイプの組成物とする場合には、油相30〜75%に対して水相70〜25%が適当である。油相を30%より少なく水相を70%より多くすると、本発明組成物の製造工程中に乳化相の転相が起こり易くなる。一方、油相を75%よりも多く水相を25%より少なくする場合には、転相や分離の問題は生じ難いが、一般的なマーガリンと同程度の高脂肪タイプの組成物となる。
【0018】
尚、本発明組成物における上記の油相または水相には、本発明の目的を損なわない範囲で、乳化剤や乳化助剤を含有させることができる。例えば、乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、卵黄・大豆・菜種由来のレシチン等が挙げられ、乳化助剤としては、デンプン、デキストリン、カゼインナトリウム、ゼラチン等が挙げられる。また、これらの乳化剤や乳化助剤の配合量は、一般に得られる油中水型乳化油脂組成物に対し0.5〜3%程度である。
【0019】
次に、本発明の油中水型乳化油脂組成物の代表的な製造方法を説明する。まず、必要に応じて油溶性成分を油脂中に分散・溶解して油相を調製し、さらに、乳酸発酵卵白と必要に応じて他の水溶性成分を分散・溶解して水相を調製する。次いで、得られた油相を油脂が溶解する30〜80℃程度に加熱し、これに同程度の温度に加熱した水相を少しずつ加えながら撹拌して予備乳化液を調製し、かかる予備乳化液を、急冷可塑機等を用いて均一に混捏しながら冷却可塑化することにより本発明組成物を得る。急冷可塑機としては、パーフェクター、コンビネーター、ポテーター等が挙げられる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の油中水型乳化油脂組成物を、実施例および試験例に基づき詳述する。尚、本発明の組成物はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
〔実施例1〕
下記の方法にて、本発明にかかる低脂肪タイプの油中水型乳化油脂組成物を製造した。
(1)乳酸発酵卵白(液体)の調製
液卵白34%(卵白固形分換算4%)、グラニュ糖4%、酵母エキス0.05%、50%乳酸0.15%及び清水61.8%からなる卵白水溶液を攪拌混合し仕込み液を調製した。
得られた仕込み液を90℃で10分間加熱した後に冷却し、乳酸菌スターター(Lactococcus lactis subsp. lactis、Leuconostoc mesenteroides subsp.cremoris、Streptococcus diacetylactis、Lactococcus lactis subsp.cremoris)を仕込み液に対して0.02%添加し、30℃で24時間発酵を行った後、70〜90℃で加熱殺菌し、次いで高圧ホモゲナイザーを用いて10MPaの圧力で処理して乳酸発酵卵白(水分含量92%)を製した。尚、水分含量の測定は、常圧加熱乾燥法(海砂法)によった。
【0022】
(2)油中水型乳化油脂組成物の製造
上記(1)で得られた乳酸発酵卵白37.5部(固形分換算3部)に、脱脂粉乳2.5部、食塩2部、清水8部を加えてよく撹拌混合し、85℃で20分間殺菌した後65℃に急冷して水相50部を調製した。
次に、油相となる菜種硬化油(融点28℃)50部を65℃に加熱し、上記水相を徐々に加えつつ撹拌を続け油中水型予備乳化液100部を調製した。得られた予備乳化液を急冷可塑機を用いて均一に混捏しながら冷却可塑化し、本発明の油中水型乳化油脂組成物を製造した。
(3)評価
上記(2)で得られた油中水型乳化油脂組成物は、製造工程中の乳化破壊や転相が起きないことに加え、食パン上にスプレッドした場合においても油水の分離が認められず、安定した乳化状態にあるものであった。さらに、食欲をそそる爽やかな発酵乳の風味を有していた。
【0023】
〔実施例2〕
下記の方法にて、本発明にかかる低脂肪タイプの油中水型乳化油脂組成物を製造した。
(1)乳酸発酵卵白(菜種油含有)の調製
液卵白34%(卵白固形分換算4%)、菜種油10%、グラニュ糖4%、酵母エキス0.05%、50%乳酸0.15%及び清水51.8%からなる卵白水溶液を攪拌混合し仕込み液を調製した。
得られた仕込み液を90℃で10分間加熱した後に冷却し、乳酸菌スターター(Lactococcus lactis subsp. lactis、Leuconostoc mesenteroides subsp.cremoris、Streptococcus diacetylactis、Lactococcus lactis subsp.cremoris)を仕込み液に対して0.02%添加し、30℃で24時間発酵を行った後、70〜90℃で加熱殺菌し、次いで高圧ホモゲナイザーを用いて10MPaの圧力で処理して乳酸発酵卵白(水分含量82%)を製した。尚、水分含量の測定は、常圧加熱乾燥法(海砂法)によった。
【0024】
(2)油中水型乳化油脂組成物の製造
上記(1)で得られた乳酸発酵卵白50部(固形分換算4部。但し、上記仕込み液調製時に添加した菜種油5部を除く。)に、脱脂粉乳2.5部、食塩2部、清水5.5部を加えてよく撹拌混合し、85℃で20分間殺菌した後65℃に急冷して水相を調製した。尚、得られた水相は見かけ上60部であるが、便宜上油相に振分けるべき上記仕込み液調製時に添加した菜種油5部を除くと55部になる。
次に、油相となる菜種硬化油(融点28℃)40部を65℃に加熱し、上記水相を徐々に加えつつ撹拌を続け油中水型予備乳化液100部を調製した。尚、油相は見かけ上40部であるが、便宜上油相に振分けるべき上記菜種油5部を加えると45部になる。
得られた予備乳化液を急冷可塑機を用いて均一に混捏しながら冷却可塑化し、本発明の油中水型乳化油脂組成物を製造した。
(3)評価
上記(2)で得られた油中水型乳化油脂組成物は、製造工程中の乳化破壊や転相が起きないことに加え、食パン上にスプレッドした場合においても油水の分離が認められず、安定した乳化状態にあるものであった。さらに、食欲をそそる爽やかな発酵乳の風味を有していた。
【0025】
〔実施例3〕
下記の方法にて、本発明にかかる低脂肪タイプの油中水型乳化油脂組成物を製造した。
(1)乳酸発酵卵白(粉体)の調製
実施例1の(1)の方法により得られた乳酸発酵卵白(液体)を、フリーズドライヤー(東京理化器械株式会社製)を用いて常法によりフリーズドライし乳酸発酵卵白(粉体)を調製した。
【0026】
(2)油中水型乳化油脂組成物の製造
上記(1)で得られた乳酸発酵卵白(粉体)15部に、脱脂粉乳2.5部、食塩2部、清水45.5部を加えてよく撹拌混合し、85℃で20分間殺菌した後65℃に急冷して水相65部を調製した。
次に、油相となる菜種硬化油(融点28℃)35部を65℃に加熱し、上記水相を徐々に加えつつ撹拌を続け油中水型予備乳化液100部を調製した。得られた予備乳化液を急冷可塑機を用いて均一に混捏しながら冷却可塑化し、本発明の油中水型乳化油脂組成物を製造した。
(3)評価
上記(2)で得られた油中水型乳化油脂組成物は、製造工程中の乳化破壊や転相が起きないことに加え、食パン上にスプレッドした場合においても油水の分離が認められず、安定した乳化状態にあるものであった。さらに、食欲をそそる爽やかな発酵乳の風味を有していた。
【0027】
〔実施例4〕
下記の方法にて、本発明にかかる高脂肪タイプの油中水型乳化油脂組成物を製造した。
(1)乳酸発酵卵白の調製
実施例1の(1)と同様の方法により乳酸発酵卵白を調製した。
(2)油中水型乳化油脂組成物の製造
上記(1)で得られた乳酸発酵卵白5部(固形分換算0.4部)に、脱脂粉乳1.5部、食塩2部、清水6.5部を加えてよく撹拌混合し、85℃で20分間殺菌した後65℃に急冷して水相15部を調製した。
次に、油相となる菜種硬化油(融点28℃)85部を65℃に加熱し、上記水相を徐々に加えつつ撹拌を続け油中水型予備乳化液100部を調製した。得られた予備乳化液を急冷可塑機を用いて均一に混捏しながら冷却可塑化し、本発明の油中水型乳化油脂組成物を製造した。
(3)評価
上記(2)で得られた油中水型乳化油脂組成物は、製造工程中の乳化破壊や転相が起きないことに加え、食パン上にスプレッドした場合においても油水の分離が認められず、安定した乳化状態にあるものであった。さらに、爽やかな発酵乳の風味を有し、オイリーでコクのある食味で食欲をそそるものであった。
【0028】
〔試験例〕
本発明において、油相と水相の割合の変更と乳酸発酵卵白の含有量の変更が、本発明組成物の製造工程中または使用時の乳化安定性に与える影響について試験した。
まず、試験用のサンプルを製造した。すなわち、下記の表1に示す原料配合により実施例1の製造方法に準じて、A〜Gの7種類の油中水型乳化油脂組成物のサンプルを製造した。尚、使用した乳酸発酵卵白は実施例1の(1)で調製したものと同配合品であり、また、サンプルDは実施例1の組成物と、サンプルGは実施例4の組成物と同配合品である。
試験方法は、まず、A〜Gの各サンプルについて、それらの製造工程中における乳化相の転相の有無を観察した。結果は表1の「転相」欄に示す。また、製造工程中に転相することなく油中水型に乳化されたサンプルについて、各20gをナイフで掬って食パン上にスプレッドし、油水の分離の有無を観察した。結果は表1の「分離」欄に示す。尚、「転相」「分離」の各欄において、「+」は転相または分離が生じたことを、「−」は転相または分離が生じなかったことを示すものである。
【0029】
【表1】

【0030】
表1より、乳酸発酵卵白を全く配合しなかった場合には、その製造工程中で乳化せず、油中水型予備乳化液を調製することができなかったことから、乳酸発酵卵白は乳化材として有効に作用することが理解できる(サンプルA)。
また、本発明の油中水型乳化油脂組成物については、油相を30〜75%(水相70〜25%)とし、かつ乳酸発酵卵白を固形分換算で1%以上含有させた場合に、製造工程中に乳化相の転相が起こらず、食パンにスプレッドして使用する際に油水の分離が生じず乳化状態が安定していることが理解できる(サンプルC〜E)。
また、油相が75%を超え水相が25%に満たない場合には、固形分換算で1%に満たない少量の乳酸発酵卵白を含有させることで、製造工程中の転相や使用時の分離を有効に防ぐことができることが理解できる(サンプルG)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸発酵卵白を乳化材として含有することを特徴とする油中水型乳化油脂組成物。
【請求項2】
30〜75%の油相と70〜25%の水相からなり、乳酸発酵卵白を固形分換算で1〜15%含有することを特徴とする油中水型乳化油脂組成物。