説明

油中水型油脂組成物及びその製造方法

【課題】 本発明の目的は、低塩分であっても口中での解乳化が良好で適度な塩味が感じられる油中水型油脂組成物及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 食塩を0.4重量%以上1.0重量%未満含有する油脂組成物であって、35℃における導電率上昇において、平衡値の50%に達するまでの時間が50秒以内であることを特徴とする油中水型油脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低塩分であっても口中での解乳化が良好で適度な塩味が感じられる油中水型油脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2010年版食事摂取基準では塩分摂取目標量が低減された。成人男性では、9g未満、成人女性では7.5g未満となった。2009年に行われた国民健康・栄養調査では、日本人の1日の食塩摂取量は、男性11.6g、女性9.9gであった。前年に比べ減少しているものの、目標量には及ばないのが現状である。このため、食塩摂取量を低減させるべく、食生活全般に渡って広く減塩タイプの食品が望まれている。
【0003】
家庭用に市販されているマーガリン類は、大きく分けて、製菓製パン用マーガリンとテーブルマーガリンがある。製菓製パン用マーガリンには、食塩不使用製品はあるものの、テーブルマーガリンには、通常1.0〜1.8重量%の塩分が含まれている。この塩分量は、市販バターの塩分量と同程度である。ここで、マーガリンのような油中水型乳化油脂組成物では、同等の塩分濃度である他の食品と比較して塩味を感じにくい。塩分0.3〜1.0重量%程度の減塩タイプマーガリン類では、さらに塩味の発現が弱くなるため、充分な呈味が得られないことが問題であった。
【0004】
この問題を解決するために、平均冷却速度を5℃/秒以上とすることを特徴とする可塑性油脂組成物の製造法が開示されている(特許文献1)。しかしながら、この製造法では可塑性が良好な練りこみ用マーガリンを製造することができるものの、後述する実施例において示しているように充分な塩味を発現できない。
【0005】
また、リン脂質と乳化剤を併用することで口解けが良く、良好な風味の広がるスプレッドが開示されている(特許文献2)。しかしながら、低脂肪スプレッドの口溶けを改良することができるものの、塩分1.0重量%未満のスプレッドにおいては充分な塩味が得られない。
【0006】
このように、低塩分の油中水型油脂組成物であって、充分な塩味の発現を有するマーガリン類等の油中水型油脂組成物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4588007号公報
【特許文献2】特許第3459655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、低塩分であっても口中での解乳化が良好で適度な塩味が感じられる油中水型油脂組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、35℃における導電率の変化が一定の条件を満たす油中水型油脂組成物は、低塩分であっても口中での解乳化が良好で適度な塩味が感じられることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、食塩を0.4重量%以上1.0重量%未満含有する油脂組成物であって、35℃における導電率上昇において、平衡値の50%に達するまでの時間が50秒以内であることを特徴とする油中水型油脂組成物である。また、食塩は0.4重量%以上0.9重量%以下であることがより好ましい。
【0011】
また、前記の平衡値の50%に達するまでの時間は、好ましくは40秒以内、より好ましくは35秒以内、さらに好ましくは27秒以内である。
【0012】
さらに、前記油脂組成物の油相が61重量%以上であることが好ましい。
【0013】
さらに、前記油脂組成物がグリセリン脂肪酸エステルを含有することが好ましい。
【0014】
また、本発明は、掻き取り式冷却ユニット(Aユニット)及び混練ユニット(Bユニット)を少なくともそれぞれ1つ以上有する連続式の冷却混練装置であって、
(a)最初のAユニットにおける平均冷却速度が1.2℃/秒以上2.5℃/秒未満であり、(b)最終のBユニット出口のエマルション温度がその直前のAユニット出口のエマルション温度より1.5℃以上高いことを特徴とする食塩含有油中水型油脂組成物の製造方法である。
【0015】
また、本発明は、前記製造方法で製造されてなり、35℃における導電率上昇において、平衡値の50%に達するまでの時間が50秒以内であることを特徴とする油中水型油脂組成物である。
【0016】
また、前記の平衡値の50%に達するまでの時間は、好ましくは40秒以内、より好ましくは35秒以内、さらに好ましくは27秒以内である。
【0017】
さらに、前記油水中型油脂組成物の食塩含有量が0.4重量%以上1.0重量%未満であることが好ましく、0.4重量%以上0.9重量%以下であることがより好ましい。
【0018】
更に、前記油水中型油脂組成物の油相が61重量%以上であることが好ましい。
【0019】
さらに、前記油水中型油脂組成物がグリセリン脂肪酸エステルを含有することが好ましい。
【0020】
また、本発明は、掻き取り式冷却ユニット(Aユニット)及び混練ユニット(Bユニット)を少なくともそれぞれ1つ以上有する連続式の冷却混練装置を使用し、
(a)最初のAユニットにおける平均冷却速度が1.2℃/秒以上2.5℃/秒未満であり、(b)最終のBユニット出口のエマルション温度がその直前のAユニット出口のエマルション温度より1.5℃以上高いことを特徴とする油中水型油脂組成物の水相の呈味成分発現を増強する方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、低塩分であっても口中での解乳化が良好で適度な塩味が感じられる油中水型油脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は導電率の測定に使用する装置の概略図である。
【図2】図2は油中水型油脂組成物の導電率の変化を示した図である。横軸に添加後の経過時間(秒)、縦軸に導電率の平衡値に対する比率(%)を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明において用いられる油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、落花生油、カボック油、胡麻油、月見草油、カカオ脂、シア脂、サル脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0024】
本発明の油中水型油脂組成物の油相が61重量%以上であると、水相の呈味成分の発現の増強効果がより高い。
【0025】
本発明の油中水型油脂組成物は、乳化剤を含有することができる。乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の天然乳化剤が挙げられる。好ましくは、グリセリン脂肪酸エステルである。また、乳化剤の含有量は、特に制限はないが、本発明の油中水型油脂組成物中、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.1〜5質量%である。
【0026】
また、必要によりその他の成分を含有することができる。その他の成分としては、例えば、増粘安定剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0027】
本発明のマーガリン等の油中水型乳化油脂組成物の製造方法は、連続式冷却混練装置を用いて製造する。
【0028】
本発明の製造方法で使用する連続式冷却混練装置には、通常、当業者が使用する装置を用いることができる。具体的には、冷媒を通して油脂組成物の冷却を行う掻き取り式冷却機ユニット(Aユニット)及び混練ユニット(Bユニット)を少なくともそれぞれ1つ以上有するものである。連続式冷却混練装置としては、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター、ケムテーター等が挙げられる。
【0029】
上記のAユニットは、直列に複数配置できる。また、適所にBユニットを配置できる。その他必要に応じ、ホールディングチューブ、中間結晶管などを配置できる。
【0030】
例えば、ユニットを直列に接続する配置順として、AAB、AAAB、ABAB等が挙げられる。
【0031】
本発明の製造方法において、Aユニット入口での油脂組成物の温度は、40℃以上60℃以下が好ましい。温度が低いとAユニットの冷却前に油脂の結晶化がおこる場合があるため、好ましくない。
【0032】
最初のAユニットを通過させる際の平均冷却速度は1.2℃/秒以上2.5℃/秒未満である。好ましくは1.5℃/秒以上2.5℃/秒未満であり、更に好ましくは1.7℃/秒以上2.4℃/秒以下である。平均冷却速度が低すぎると油中水型油脂組成物の物性が充分ではなく、高すぎると充分な塩味を得ることができない。
【0033】
次に、Bユニットにおいて、冷却された油脂組成物の混練を行なって、油中水型油脂組成物を得ることができる。また、その後にAユニットを通過させるなど冷却の工程を加えても良いが、製品の滑らかさの点で、これらの冷却工程を加えないほうが好ましい。
【0034】
本発明の製造方法では、最終のBユニット出口のエマルション温度がその直前のAユニット出口のエマルション温度より1.5℃以上高くする。好ましくは1.8℃以上、更に好ましくは2.2℃以上、最も好もしくは2.5℃以上高くする。また、上限は特にないが、5.0℃以下が好ましく、3.5℃以下がさらに好ましい。温度差を所定の範囲にすることで充分な塩味等の呈味成分の発現を得ることができる。ここで、最終のBユニットの直前のAユニットとは、Aユニットと最終のBユニットの間にホールディングチューブ、別のBユニット等が配置されている場合であっても直前のAユニットという。
【実施例】
【0035】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。しかし、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0036】
以下において、使用油脂等は次の物を使用した。
パームステアリン(ヨウ素価32)(株式会社J−オイルミルズ社製)
パーム核油(株式会社J−オイルミルズ社製)
菜種油(株式会社J−オイルミルズ社製)
レシチン(株式会社J−オイルミルズ社製 レシチンFA)
グリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社製 エマルジーMS)
【0037】
〔導電率の測定方法〕
35℃における導電率は以下のように測定した。図1に示すようなジャケット式のガラスベッセルに恒温水槽(LAUDA RC6CP)で温調した水を通し、ベッセル内の脱イオン水(200g)を35℃とした。電極(RADIOMETER Analytical CDC641T)を一定の位置に配置した。このベッセルの脱イオン水に油中水型油脂組成物(2g)を添加し、スターラーで500rpmの攪拌をした。導電率の経時的変化を導電率計(RADIOMETER Analytical CDM230)で連続的に測定した。
【0038】
〔エステル交換油の調製〕
パームステアリン70重量部とパーム核油30重量部を配合した油脂に、触媒としてナトリウムメチラート0.5重量部添加して、80℃、30分間のランダムエステル交換を行った。通常の方法で精製をし、エステル交換油を得た。
【0039】
〔油中水型油脂組成物の調製〕
表1及び表2に示す配合で、油相分及び水相分をそれぞれ調製した。次に、約60℃に保温した油相に水相を攪拌しながら投入した。約10分間、混合攪拌し、油中水型の予備乳化物を得た。
この予備乳化物を、連続式冷却混練装置(AAB)において、表1及び表2で示す条件で最初のAユニットを通過させたのち、最後にBユニットで混練させ油中水型油脂組成物を得た。最初のAユニット入り口での予備乳化物の温度は45℃であった。
【0040】
得られた油中水型油脂組成物の塩味を専門パネラー10名による官能検査により評価した。また、物性の評価もおこなった。評価基準は以下のとおりである。また、油脂組成物の導電率の測定をおこなった。結果を表1、表2及び図2に示す。

<塩味感の評価基準>
◎:非常に良い
○:良い
△:やや弱い
×:弱い

<物性の評価基準>
○:良い
△:やや良い
×:悪い
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
実施例1〜6では、導電率の上昇において、平衡値の50%に達するまでの時間が、いずれも50秒以内であった。この場合、官能検査における塩味感も優れていた。一方、比較例1〜4では、導電率の上昇において、平衡値の50%に達するまでの時間が50秒以上であった。そして、官能検査における塩味感も充分ではなかった。また、比較例5では、経日的にざらつきを生じ油中水型油脂組成物としての物性が充分ではなかった。
以上の結果から、本発明の油中水型油脂組成物は、導電率の上昇において、平衡値の50%に達するまでの時間が50秒以内であれば、低塩分であっても口中での解乳化が良好で適度な塩味が感じられることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食塩を0.4重量%以上1.0重量%未満含有する油脂組成物であって、35℃における導電率上昇において、平衡値の50%に達するまでの時間が50秒以内であることを特徴とする油中水型油脂組成物。
【請求項2】
前記油脂組成物の油相が61重量%以上である請求項1に記載の油中水型油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂組成物がグリセリン脂肪酸エステルを含有する請求項1又は2に記載の油中水型油脂組成物。
【請求項4】
掻き取り式冷却ユニット(Aユニット)及び混練ユニット(Bユニット)を少なくともそれぞれ1つ以上有する連続式の冷却混練装置であって、
(a)最初のAユニットにおける平均冷却速度が1.2℃/秒以上2.5℃/秒未満であり、(b)最終のBユニット出口のエマルション温度がその直前のAユニット出口のエマルション温度より1.5℃以上高いことを特徴とする食塩含有油中水型油脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法で製造されてなり、35℃における導電率上昇において、平衡値の50%に達するまでの時間が50秒以内であることを特徴とする油中水型油脂組成物。
【請求項6】
掻き取り式冷却ユニット(Aユニット)及び混練ユニット(Bユニット)を少なくともそれぞれ1つ以上有する連続式の冷却混練装置を使用し、
(a)最初のAユニットにおける平均冷却速度が1.2℃/秒以上2.5℃/秒未満であり、(b)最終のBユニット出口のエマルション温度がその直前のAユニット出口のエマルション温度より1.5℃以上高いことを特徴とする油中水型油脂組成物の水相の呈味成分発現を増強する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−175949(P2012−175949A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41590(P2011−41590)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【特許番号】特許第4774129号(P4774129)
【特許公報発行日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】