説明

油中異物除去装置及び方法

【課題】潤滑油中の水分を連続して安定して除去することができる油中異物除去装置及び方法を提供する。
【解決手段】水分Wを含有する油11を所定量充填する内筒12と外筒13と、内筒12と外筒13との内部に水分Wを含有する油を供給及び排出する供給通路15及び排出通路16と、内筒12と外筒13とを一体として回転させる回転手段とを具備すると共に、前記内筒12が、スリット孔14を有する固定筒と、前記スリット孔14と同位置にスリット孔14を有するスライド筒との二層構造からなり、軸方向に前記スライド筒をスライドさせる際にはスリット孔14、14が合致して外筒と内筒とを連通してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油中の異物、水分等を除去する油中異物除去装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、油圧制御装置、ポンプ、エンジン、ピストン、軸受、弁などには潤滑油が使用されている。これらの製品に含まれる潤滑油は循環して再利用されているが、潤滑油を長期間に亘り循環使用することで、使用する際に潤滑油中に混入する金属粉等の固形物や、冷却用に用いた水等が混入し蓄積される。機器の磨耗の進行、潤滑油の循環障害、潤滑油の潤滑性能の低下、潤滑油の酸化劣化、装置の腐食などを防止し、これらの製品に含まれる潤滑油の品質および純度を維持することは、機器の耐久性を維持していく上で重要である。
【0003】
潤滑油の品質および純度を維持するため、従来、上記潤滑油に混入した上記固形物の除去方法としては、例えば静置法及び濾過法等がある。また、潤滑油に混入した水分の除去方法としては、例えば油分と水分との比重差を利用した静置法、遠心分離法、過熱法、電圧印加法、吸水材料に吸収させる方法及び吸着材料による濾過法等がある。
【0004】
更に、潤滑油中の固形物を除去すると共に油中の水分を除去する方法として、例えば、固形物及び水分を含む潤滑油を、遠心分離処理、油水分離槽又は重力沈降槽を用い、油水分離処理を行って固形物及び水分の一部を除去した後に、疎水性中空糸膜エレメントで処理して残部の固形物及び水分の一部を除去する方法がある。固形物のうち金属屑のような大きいものは遠心分離処理、油水分離槽又は重力沈降槽を用いた油水分離処理で分離し、固形物のうち金属粉のような小さいものは疎水性中空糸膜エレメントで分離すると共に、エマルジョン化した水分を疎水性中空糸膜エレメントにより分離し、水分の除去を行なうようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の疎水性中空糸膜エレメントでの分離では、フィルタの水分の除去性能が低下しても使用することが多いため、油中の水分を安定して除去することができない、という問題がある。
【0007】
本発明は、前記問題に鑑み、潤滑油中の水分を連続して安定して除去することができる油中異物除去装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、水分を含有する油を所定量充填する内筒と外筒と、内筒と外筒との内部に水分を含有する油を供給及び排出する供給通路及び排出通路と、内筒と外筒とを一体として回転させる回転手段とを具備すると共に、前記内筒が、スリット孔を有する固定筒と、前記スリット孔と同位置にスリット孔を有するスライド筒との二層構造からなり、軸方向に前記スライド筒をスライドさせる際にはスリット孔が合致して外筒と内筒とを連通してなることを特徴とする油中異物除去装置にある。
【0009】
第2の発明は、第1の発明の油中異物除去装置を用いて、水分を含有する油を除去する方法において、内筒のスライド筒を移動させて、スリット孔を開口状態とし、内筒と外筒との内部に水分を含有する油を所定量充満し、内筒と外筒とを一体として回転手段により回転させ、水分を遠心力により内筒内部から外筒内部に移行させ、その後スライド筒を移動させて、スリット孔を閉じ、次いで、水分含有量が多い油を外筒から外部に排出することを特徴とする油中から水分を除去する油中異物除去方法にある。
【0010】
第3の発明は、水分を含有する油を所定量充填する内筒と、内筒の周囲に所定間隔を持って設けられる外筒と、内筒内部に水分を含有する油を供給及び排出する供給通路及び排出通路と、内筒を回転させる回転手段とを具備すると共に、前記内筒が、スリット孔を有する固定筒と、前記スリット孔と同位置にスリット孔を有するスライド筒との二層構造からなり、軸方向に前記スライド筒をスライドさせる際にはスリット孔が合致して外筒と内筒とを連通してなることを特徴とする油中異物除去装置にある。
【0011】
第4の発明は、第3の発明の油中異物除去装置を用いて、水分を含有する油を除去する方法において、内筒のスライド筒を移動させて、スリット孔を閉塞状態とし、内筒の内部に水分を含有する油を所定量充満し、内筒を回転手段により回転させ、水分を内筒の内部壁面近傍に移行させ、その後スライド筒を移動させて、スリット孔を開放させ、水分含有量が多い油を外筒側に排出することを特徴とする油中から水分を除去する油中異物除去方法にある。
【0012】
第5の発明は、第1の発明において、前記外筒の内部に水分吸着フィルタ及び磁石を有することを特徴とする油中異物除去装置にある。
【0013】
第6の発明は、第2又は4の発明において、水分を除去した油を凍結させ、さらに残存する水分を凍結除去することを特徴とする油中異物除去方法にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る油中異物除去装置によれば、油中の水分等の異物を効率よく分離でき、油中から水分を含む異物を安定して除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例1に係る油中異物除去装置の概略図である。
【図2】図2は、油中から水分を分離除去する様子を示す模式図である。
【図3】図3は、実施例1に係る油中異物除去装置の断面概略図である。
【図4】図4は、実施例1に係る他の油中異物除去装置の断面概略図である。
【図5】図5は、実施例1に係る他の油中異物除去方法の概略図である。
【図6】図6は、実施例2に係る油中異物除去装置の概略図である。
【図7】図7は、油中から水分を分離除去する様子を示す模式図である。
【図8】図8は、実施例2に係る油中異物除去装置の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0017】
本発明による実施例に係る油中異物除去装置について、図面を参照して説明する。図1は、本実施例に係る油中異物除去装置の概略図である。図2は、油中から水分を分離除去する様子を示す模式図である。図3は、実施例1に係る油中異物除去装置の断面概略図であり、スリット孔が開放している状態と、閉塞している状態とを示している。
図1乃至図3に示すように、本実施例に係る油中異物除去装置10Aは、水分Wを含有する油11を所定量充填する内筒12と外筒13と、内筒12と外筒13との内部に水分Wを含有する油11を供給及び排出する供給通路15及び排出通路16と、内筒12と外筒13とを一体として回転19させる回転手段(図示せず)とを具備すると共に、前記内筒12が、スリット孔14aを有する固定筒12aと、前記スリット孔14aと同位置にスリット孔14bを有するスライド筒12bとの二層構造からなり、軸方向に前記スライド筒12bをスライドさせる際にはスリット孔14a、14bが合致して外筒13と内筒12とを連通してなるものである。
【0018】
このような油中異物除去装置を用いて、水分を含有する油を除去する方法について説明する。
図2は、油中から水分を分離除去する様子を示している。
1) 図1乃至図3に示すように、先ず、内筒12のスライド筒12bを移動させて、スリット孔14a、14bを開口状態とし(図3中、上段の様子)、内筒12と外筒13との内部を油11が連通自在としている。
2) このような状態において、供給通路15から内筒12と外筒13との内部に水分Wを含有する油11を所定量充満させる。
3) その後、内筒12を外筒13とを一体として図示しない回転手段により回転させ、水分Wを遠心力により内筒12内部から外筒13内部に移行させる(図2中、上段の様子)。
所定回数と所定時間回転させると、外筒13の壁面近傍が水分Wの多い状態となる(図2中、中段の様子)。
なお、回転手段による回転は、2000〜6000rpmの間とするのがよく、油の種類により適宜変更すればよい。
4) その後、スライド筒12bを移動させて、スリット孔14a、14bを閉じて(図3中、下段)、内筒12と外筒13との連通状態を停止する。この結果、内筒12の内部は水分Wが無い状態の油11Aが存在し、これに対して、外筒13の内部は水分Wが多い状態の油11Bが存在することとなり、両者が分離される(図2中、下段の様子)。
5) 次いで、水分Wの含有量が多い油11Bを外筒13に設けたドレン栓18を開放して、外部に排出するようにしている。
【0019】
このように、内筒12の内部には、水分Wが除去された油11Aのみが残存し、この水分が除去された油11Aを排出通路16から外部に排出し、この油を用いることができる。
【0020】
図4は、実施例1に係る他の油中異物除去装置の断面概略図である。
図4に示すように、外筒13の内面に水分吸着フィルタ50及び磁石51を有するものである。
水分Wが移行した際に、水分吸着フィルタ50により、内部においても水分を吸着するようにしている。
また、磁石51を設けることにより、油中に存在する金属粉等の劣化要因を除去することができる。
【0021】
図5は、実施例1に係る他の油中異物除去方法の概略図である。
図5に示すように、実施例1の油中異物除去装置10Aで、油から水分Wを除去した油11Aを凍結手段60により、残存する水分Wを凍結させ、その後分離手段61により、氷62を分離して、さらに水分Wが除去された凍結処理後の油11Cを得るようにしている。
この結果、油中異物除去装置10Aで水分Wが除去された油11Aからさらに、微粒の水分を除去することができ、精密機械で用いる油として用いることができる。
【実施例2】
【0022】
本発明による実施例に係る油中異物除去装置について、図面を参照して説明する。図6は、本実施例に係る油中異物除去装置の概略図である。図7は、油中から水分を分離除去する様子を示す模式図である。図8は、実施例1に係る油中異物除去装置の断面概略図であり、スリット孔が開放している状態と、閉塞している状態とを示している。
図6乃至8に示すように、本実施例に係る油中異物除去装置10Bは、水分Wを含有する油11を所定量充填する内筒12と、内筒12の周囲に所定間隔を持って設けられる外筒13と、内筒12内部に水分Wを含有する油11を供給及び排出する供給通路15及び排出通路16と、内筒12を回転させる回転手段とを具備すると共に、前記内筒12が、スリット孔14aを有する固定筒12aと、前記スリット孔14aと同位置にスリット孔14bを有するスライド筒12bとの二層構造からなり、軸方向に前記スライド筒12bをスライドさせる際にはスリット孔14a、14bが合致して外筒13と内筒12とを連通してなるものである。
【0023】
このような油中異物除去装置を用いて、水分を含有する油を除去する方法について説明する。
【0024】
1) 図7及び図8に示すように、内筒12のスライド筒12bを移動させて、スリット孔14a、14bを閉塞状態とする。
2) 供給通路15を介して、内筒12の内部に水分Wを含有する油11を所定量充満させる。
3) 内筒12のみを回転手段により回転させ、水分Wを内筒12内部の壁面近傍に向かって移行させる(図7中、上段の様子)。
4) 回転を続けていくと、水分Wが内筒12内部の壁面近傍に集中する(図7中中段の様子;図8中上段の様子)。
5) その後、内筒12が回転している状態で、スライド筒12bを移動させて、スリット孔14a、14bをほんの僅か開放させる(図7中下段の様子)。
6) この開放されたスリット孔14a、14bから水分W含有量が多い油11Bを外筒13内部に排出させる(図7中下段の様子;図8中下段の様子)。
このように、内筒12の内部には、水分が除去された油11Aのみが残存し、この水分が除去された油11Aを排出通路16から外部に排出し、この油を用いることができる。
【0025】
以上は、本発明の油中異物除去装置として、例えば潤滑油中の水分の測定を行なう装置について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、潤滑油以外の他の溶液中の水分の分析を行う装置等についても同様に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上のように、本発明に係る油中異物除去装置は、潤滑油中の水分等の異物を安定して除去することができる。
【符号の説明】
【0027】
10A、10B 油中異物除去装置
11 油
11A 水分Wが無い状態の油
11B 水分Wが多い状態の油
11C 凍結処理後の油
12 内筒
13 外筒
14a、14b スリット孔
15 供給通路
16 排出通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含有する油を所定量充填する内筒と外筒と、
内筒と外筒との内部に水分を含有する油を供給及び排出する供給通路及び排出通路と、
内筒と外筒とを一体として回転させる回転手段とを具備すると共に、
前記内筒が、スリット孔を有する固定筒と、前記スリット孔と同位置にスリット孔を有するスライド筒との二層構造からなり、軸方向に前記スライド筒をスライドさせる際にはスリット孔が合致して外筒と内筒とを連通してなることを特徴とする油中異物除去装置。
【請求項2】
請求項1の油中異物除去装置を用いて、水分を含有する油を除去する方法において、
内筒のスライド筒を移動させて、スリット孔を開口状態とし、内筒と外筒との内部に水分を含有する油を所定量充満し、
内筒と外筒とを一体として回転手段により回転させ、水分を遠心力により内筒内部から外筒内部に移行させ、その後スライド筒を移動させて、スリット孔を閉じ、
次いで、水分含有量が多い油を外筒から外部に排出することを特徴とする油中から水分を除去する油中異物除去方法。
【請求項3】
水分を含有する油を所定量充填する内筒と、内筒の周囲に所定間隔を持って設けられる外筒と、
内筒内部に水分を含有する油を供給及び排出する供給通路及び排出通路と、
内筒を回転させる回転手段とを具備すると共に、
前記内筒が、スリット孔を有する固定筒と、前記スリット孔と同位置にスリット孔を有するスライド筒との二層構造からなり、軸方向に前記スライド筒をスライドさせる際にはスリット孔が合致して外筒と内筒とを連通してなることを特徴とする油中異物除去装置。
【請求項4】
請求項3の油中異物除去装置を用いて、水分を含有する油を除去する方法において、
内筒のスライド筒を移動させて、スリット孔を閉塞状態とし、内筒の内部に水分を含有する油を所定量充満し、
内筒を回転手段により回転させ、水分を内筒内部の壁面近傍に移行させ、その後スライド筒を移動させて、スリット孔を開放させ、
水分含有量が多い油を外筒側に排出することを特徴とする油中から水分を除去する油中異物除去方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記外筒の内部に水分吸着フィルタ及び磁石を有することを特徴とする油中異物除去装置。
【請求項6】
請求項2又は4において、
水分を除去した油を凍結させ、さらに残存する水分を凍結除去することを特徴とする油中異物除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−136299(P2011−136299A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298896(P2009−298896)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】