説明

油入変圧器の劣化診断方法

【課題】油入変圧器における絶縁紙の平均重合度を十分に高い精度で推定し、かつ絶縁紙の平均重合度を推定するために要する作業量及びコストを低減する。
【解決手段】劣化診断方法では、絶縁油OLにおける油中ガス、全酸価及び耐電圧の各測定データを第1の入力因子群とし、油入変圧器20の使用開始時及び使用完了時にそれぞれ測定された平均重合度の測定データを第2の入力因子群とし、絶縁紙の平均重合度推定値を出力因子として、モデルの学習を行うことにより、平均重合度推定モデルを構築し、診断対象である油入変圧器20における複数種類の油中ガス、全酸価及び耐電圧の直近の測定データを平均重合度推定モデルに入力し、この平均重合度推定モデルにより油入変圧器20における絶縁紙の平均重合度推定値を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油入変圧器における絶縁紙の平均重合度を推定するための油入変圧器の劣化診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、油入変圧器に使われている材料には、以下のようなものがある。
(1)銅、アルミニウム等の導電材料
(2)絶縁油や絶縁紙、プレスボード等の絶縁材料
(3)けい素鋼帯等の鉄心材料
(4)鉄やステンレス鋼等の金属容器材料
これらの材料のうち、油入変圧器内で経年劣化が認められるのは、絶縁油や絶縁紙等の絶縁材料であると考えられている。絶縁油については、油劣化防止装置(開放型、空気密封型、窒素密封型等がある)の働きもあるため劣化は非常に緩慢であり、重要な特性である絶縁破壊電圧の低下度は小さい。
【0003】
一方、絶縁紙については、経年劣化による絶縁破壊電圧の低下度は小さいが、機械的強度の低下度は大きい(すなわち、紙がぼろぼろになる)。絶縁紙の劣化が進行すると、突入電流や外部短絡時に発生する電磁力による機械的ストレスによって絶縁紙に亀裂や損壊が発生し、絶縁破壊する危険性が増大する。
従って、油入変圧器の寿命は絶縁紙の機械的強度、特に巻線導体絶縁紙の劣化状態の影響を強く受ける。つまり、油入変圧器の余寿命とは、従来から、巻線導体絶縁紙の絶縁破壊、すなわち、絶縁紙の劣化(平均重合度の低下)状態によって決定付けられると考えられている。
【0004】
以下に、絶縁紙の平均重合度と、油入変圧器の余寿命及び劣化診断方法について考察する。
(1)絶縁紙の平均重合度
絶縁紙は、多数のセルロース分子が重合してできた重合体であり、このセルロースを構成する基本分子の数を重合度という。絶縁紙としての新品のクラフト紙の場合の平均重合度は、約1000である。この平均重合度は、絶縁紙が酸化劣化するとセルロース分子の鎖が切断されてセルロース分子の低分子量化、すなわち平均重合度の低下が起きる。例えば、30年使用した変圧器では、絶縁紙の平均重合度が初期値の約40〜60%(重合度400〜600)にまで減少すると言われている。
(2)油入変圧器の寿命
日本電機工業会規格JEM1463−1993では、1000[kVA]を超える油入変圧器の評価基準を定めており、一般的には、この規格に従い、平均重合度が450になると思われる時点が油入変圧器の寿命と定義されている。
【0005】
(3)現状の油入変圧器の劣化診断方法
変圧器の余寿命診断では、上記(2)の基準に従おうとすれば、コイル絶縁紙の平均重合度を測定または推定することが必要となる。しかし、稼動中の油入変圧器のコイル絶縁紙は簡単に採取することができないため、測定が困難である。従って、変圧器内部の採取可能な絶縁物(プレスボード、リード絶縁紙)の平均重合度や、絶縁紙の分解過程の生成物であるフルフラールやCO+CO量を測定し、その結果を用いた余寿命診断が行われている。これらの劣化診断方法は、例えば、非特許文献1や非特許文献2に記載されている。
【0006】
以下、各種の劣化診断方法について略述する。
(イ)重合度法
運転停止中の点検時等に、変圧器内部から絶縁に影響が無い部分のプレスボードやリード絶縁紙を採取して、絶縁紙の劣化度を診断する方法を「重合度法」という。この重合度法は、採取した絶縁紙の平均重合度から巻線コイルの最も温度が高い箇所(ホットスポット部分)のコイル絶縁紙の劣化度を推定し、余寿命を予測する方法である。
【0007】
(ロ)CO+CO法
絶縁紙は、劣化によって水やCO、CO等の種々の有機成分を生成する。劣化指標成分として有効なものとして、平均重合度とも相関性があるCO+CO、更にはフルフラールがある。このうちCO+CO法では、油中ガス分析を行い、絶縁紙の最終的な劣化生成物であるCO+CO量から平均重合度を推定して劣化診断を行う。
【0008】
(ハ)フルフラール法
セルロースの分解過程でアルデヒド成分のフルフラールが生成される。絶縁油の脱気処理を行ってもフルフラールは85%が油中に残り、気体中に拡散しない。このため、脱気処理の履歴がわかれば、脱気処理をしてあっても利用可能な方法である。
このフルフラール法では、測定したフルフラール量から、予め求められた相関関係に従って平均重合度を求めているが、フルフラール量に対して平均重合度にかなり幅があるため、劣化度合い(余寿命診断)の診断結果も大きな幅を持つこととなり、高精度での余寿命推定は非常に困難である。
【0009】
また、変圧器油の温度を測定してCO+CO濃度を予測し、その予測値と実際値との差が一定値以上になったときに絶縁劣化を検出するようにした油入電気機器の絶縁診断装置が、特許文献1に記載されている。
また、静止誘導電器の絶縁媒体(絶縁油)中のガス量を測定し、分解生成物の種類や生成量、生成比の変化から局部過熱、アーク放電等の異常を検出する静止誘導電器の異常診断方法において、分解生成物であるアセチレンの生成量を入力データとし、アーク放電等の異常現象を教師データとして学習させたニューラルネットワークを用いて静止誘導電器の異常を診断する方法が、特許文献2に記載されている。
【0010】
また、油入変圧器に対する一般的な保守作業として、絶縁油自体の劣化進行度を把握するために、油入変圧器からの絶縁油の定期的なサンプリングが行われ、このサンプリングされた絶縁油に対するガス測定、耐電圧測定及び全酸価の測定が行われる。ガス測定時には、例えば、水素、酸素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、エタン、エチレン及びアセチレンが測定され、あるいは、このガス群から選択された2種類以上の油中ガスが測定される。
【0011】
ところで、油入変圧器の余寿命を精度良く推定しようとする場合には、例えば、設備を一定期間以上に亘って休止する時期に、重合度法により絶縁紙の平均重合度を測定すると共に、定期的に絶縁油中のフルフラール量を測定する。そして、油入変圧器の余寿命を判断する際には、直近のフルフラール量測定値から得られた絶縁紙の平均重合度推定値を、重合度法による平均重合度測定値により補正し、この補正された平均重合度推定値に基づいて油入変圧器の余寿命を判断する。
【非特許文献1】「経年変圧器の信頼性維持技術の現状と動向」,経年変圧器の信頼性維持技術調査専門委員会,社団法人電気学会技術報告,平成15年3月10日,第922号,p.22−27
【非特許文献2】「第IV編 油入変圧器劣化診断」,電気協同研究,社団法人電気協同研究会,平成11年2月25日,第54巻,第5号(その1),p.158−168
【特許文献1】特開昭63−52071号公報(第2頁左下欄第14行〜第3頁右上欄第13行、第5図等)
【特許文献2】特開平6−82405号公報(段落[0025]〜[0036]、図1、図2等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、設備(油入変圧器)の休止時期でなければ、重合度法により絶縁紙の平均重合度を測定することができず、また絶縁油のフルフラール量を測定するには、油入変圧器から一定量以上の絶縁油を抜き取らなければならない。このため、油入変圧器の使用開始から使用終了(廃棄)までの長期間に亘り、上記のような方法で、絶縁紙の平均重合度を高い精度で推定し続けるには、その作業量及びコストが累積的に膨大なものになる。一方、多数の油入変圧器が設置されている大規模な製鉄所等の施設では、絶縁紙の平均重合度を効率的に推定することが強く求められている。
本発明の目的は、上記事実を考慮し、油入変圧器における絶縁紙の平均重合度を十分に高い精度で推定でき、しかも絶縁紙の平均重合度を推定するために要する作業量及びコストを低減できる油入変圧器の劣化診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る油入変圧器の劣化診断方法は、容器及び、該容器内に蓄えられた絶縁油中に浸漬されるコイルを有する油入変圧器の劣化診断方法であって、所定の検査周期ごとに測定された絶縁油に対する油中ガス、全酸価及び耐電圧の測定値を第1の入力因子群とし、少なくとも油入変圧器の使用開始時及び使用完了時にそれぞれ測定された前記コイルの絶縁紙の平均重合度の測定値を第2の入力因子群とし、前記絶縁紙の平均重合度を出力因子として、モデルの同定または学習を行うことにより、絶縁紙の平均重合度推定モデルを構築し、診断対象である油入変圧器における絶縁油から測定された絶縁油に対する油中ガス、全酸価及び耐電圧の測定値を前記平均重合度推定モデルに入力し、前記平均重合度推定モデルにより平均重合度の推定値を得ることを特徴とする。
【0014】
また本発明の請求項2に係る油入変圧器の劣化診断方法は、請求項1記載の油入変圧器の劣化診断方法において、絶縁油に対する油中ガスの測定時には、水素、酸素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、エタン、エチレン及びアセチレンからなる群から選択された2種類以上の油中ガスを測定することを特徴とする。
また本発明の請求項3に係る油入変圧器の劣化診断方法は、請求項1又は2記載の油入変圧器の劣化診断方法において、前記平均重合度推定モデルを、ニューラルネットワークを用いて構築することを特徴とする。
また本発明の請求項4に係る油入変圧器の劣化診断方法は、請求項1又は2記載の油入変圧器の劣化診断方法において、前記平均重合度推定モデルを、重回帰式を用いて構築することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記のように構成された本発明の油入変圧器の劣化診断方法によれば、油入変圧器における絶縁紙の平均重合度を十分に高い精度で推定でき、しかも絶縁紙の平均重合度を推定するために要する作業量及びコストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る油入変圧器の劣化診断方法について図面を参照して説明する。
図1には本発明の実施形態に係る劣化診断方法が適用可能な油入変圧器の一例が示されており、図2には本発明の実施形態に係る油入変圧器の劣化診断方法がフローチャートとして示されている。
図1に示されるように、油入変圧器20は、内部に絶縁油OLを貯留した略円筒状の金属容器22と、この金属容器22内にそれぞれ配置され、絶縁油OL中に浸漬されたコイル24及びタップチェンジャ26とを備えている。金属容器22には、その頂板部23に円形の点検窓30が開口しており、この点検窓30は蓋28により閉止されている。ここで、金属容器22及び蓋28は、ステンレス、炭素鋼等の金属材料により形成されており、必要に応じて表面部分に対し防錆処理等の表面処理がなされている。
【0017】
金属容器22の頂板部23には、点検窓30の外周側に1次側のブッシング32及び2次側のブッシング34が固定されている。ブッシング32、34は、それぞれセラミック等の絶縁材により円筒状に形成されており、下端側が頂板部23を貫通した状態で固定されている。ブッシング32、34の中心部には、導電性金属からなる端子部材36、38が貫通している。1次側の端子部材36は、金属容器22内で接続ケーブル40及びタップチェンジャ26を介してコイル24の入力端子(図示省略)に接続されている。また2次側の端子部材38は、金属容器22内で中間に接続ケーブル42を介してコイル24の出力端子(図示省略)に接続されている。
ここで、コイル24は、けい素鋼帯等からなる鉄心と、この鉄心の帯層間を絶縁する絶縁紙とを備えている(それぞれ図示省略)。またタップチェンジャ26内には絶縁紙からなるタップボード(図示省略)が配置されており、このタップボードは複数のタップ間を絶縁している。
【0018】
金属容器22には、頂板部23の上側に未使用の絶縁油OLを蓄えたバッファタンク44が配置されており、このバッファタンク44は、給油パイプ46を通して金属容器22内に連通している。油入変圧器20は、金属容器22内の絶縁油OLが何らかの原因で減少すると、その減少量と等しい絶縁油OLがバッファタンク44から金属容器22内へ補充されるようになっている。また金属容器22の周壁部には、その下端側に採油配管48を通してサンプリングバルブ50が接続されており、油入変圧器20では、サンプリングバルブ50を開くことにより金属容器22内の絶縁油OLを採取できる。
【0019】
次に、上記のように構成された油入変圧器20に対する本実施形態に係る劣化診断方法について説明する。
本実施形態に係る劣化診断方法は、絶縁油OL中の油中ガス、全酸価及び耐電圧に関する過去の測定データ入力ステップ(S1)、少なくとも油入変圧器20の使用開始時及び使用完了時にそれぞれ測定された平均重合度の測定データの入力ステップ(S2)、絶縁紙の重合度(平均重合度)推定モデル構築ステップ(S3)、診断対象となる油入変圧器20の測定データの入力ステップ(S4)及び平均重合度の推定ステップ(S5)から構成されている。
【0020】
以下、上記各ステップの内容を順次説明する。
(1)絶縁油OL中の油中ガス、全酸価及び耐電圧に関する過去の測定データ入力ステップ(S1)
油入変圧器20の絶縁紙の平均重合度推定モデルをニューラルネットワークにより構築するために、推定モデルの第1の学習データ(第1の入力因子群)として、過去に所定の検査周期毎に測定された絶縁油OLの油中ガスの測定データ、全酸価の測定データ及び耐電圧の測定データをそれぞれニューラルネットワーク(現実には、当該ニューラルネットワークがプログラミングされた演算装置等)に入力する。
【0021】
ここで、油中ガスの測定時には、基本的には、絶縁油OL中における水素、酸素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、エタン、エチレン及びアセチレンの量がそれぞれ測定される。但し、必ずしも、ここに挙げた全種類の油中ガスを測定する必要はなく、平均重合度の推定値に求められる精度等に応じて、上記ガス群から2種類以上のガスを適宜選択し、選択された2種類以上の油中ガスのみを測定するようにしても良い。
また、絶縁油OLの全酸価の測定方法としては、例えば、メチルレッドまたはニュートラルレッドを含む、アルカリでpHを一定に調節した低級アルコール溶液へヘキサンを添加した二層式試験液を用いる方法等を用いることができる。また絶縁油OLの耐電圧は、絶縁油に対する公知の耐電圧試験法により測定される。
【0022】
(2)少なくとも油入変圧器20の使用開始時及び使用完了時にそれぞれ測定された平均重合度の測定データの入力ステップ(S2)
油入変圧器20の絶縁紙の平均重合度推定モデルをニューラルネットワークにより構築するために、推定モデルの第2の学習データ(第2の入力因子群)として、少なくとも油入変圧器20の使用開始時及び使用完了時にそれぞれ測定された平均重合度の測定データをニューラルネットワークに入力する。
ここで、絶縁紙の平均重合度は、平均重合度推定モデルによる推定値の精度を高めるためには、油入変圧器20の使用開始時と使用完了時(一般には、廃棄時)に加え、使用開始時と使用完了との間に1回乃至複数回、測定することが好ましい。但し、絶縁紙の平均重合度の測定は、油入変圧器20の休止時しか行えないことから、このような機会が存在しない場合には、最低限、油入変圧器20の使用開始時と使用完了時にのみ絶縁紙の平均重合度を測定すれば、基本的には、平均重合度推定モデルによる推定値に対して必要な精度を確保できる。
【0023】
(3)平均重合度推定モデル構築ステップ(S3)
絶縁油OL中の油中ガス、全酸価及び耐電圧に関する過去の測定データ入力ステップ(S1)及び、絶縁紙の平均重合度の測定データの入力ステップ(S2)にて入力した各測定データを用いて、平均重合度推定モデルをニューラルネットワークにより構築する。このニューラルネットワークでは、前述した測定データのうち、平均重合度を出力因子として用いる。
【0024】
(4)診断対象となる油入変圧器20の測定データの入力ステップ(S4)
次に、診断対象の油入変圧器20について、第1の入力因子群を平均重合度推定モデル(学習済みのニューラルネットワーク)に入力する。具体的には、絶縁油OLを分析して得られた各種の油中ガス、全酸価及び耐電圧に関する直近の測定データを、それぞれ平均重合度推定モデルにそれぞれ入力する。
(5)平均重合度推定ステップ(S5)
上記入力ステップ(S4)により入力した測定データに対応する平均重合度を平均重合度推定モデルによって算出する。
【0025】
次に、本実施形態に係るニューラルネットワークによる劣化診断方法を、図3を参照しつつ具体的に説明する。
平均重合度推定モデルとしては、3階層型のニューラルネットワークを用い、重み結合の初期値を適宜設定することによって平均重合度推定モデルを構築(第1層〜第3層)した。本実施形態に係る劣化診断方法では、絶縁油OL中における複数種類の油中ガス(本実施形態では、水素、酸素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、エタン、エチレン及びアセチレン)の各測定データ、絶縁油OLの全酸価の測定データ及び絶縁油OLの耐電圧の測定データをそれぞれ第1の入力因子群とし、少なくとも油入変圧器20の使用開始時及び使用完了時にそれぞれ測定された平均重合度の測定データを第2の入力因子群とし、コイル24における絶縁紙の平均重合度推定値を出力因子として、モデルの学習を行うことにより、平均重合度推定モデルを構築する。この平均重合度推定モデルに、診断対象である油入変圧器20における複数種類の油中ガス、全酸価及び耐電圧の直近の測定データを平均重合度推定モデルに入力し、この平均重合度推定モデルにより油入変圧器20における絶縁紙の平均重合度推定値を推定する。
【0026】
これにより、油入変圧器20における絶縁油OLの油中ガス、全酸価の耐電圧の測定データをそれぞれ平均重合度推定モデルに入力するだけで、絶縁紙の平均重合度を十分に高い精度で推定できるようになるので、この平均重合度の推定値に基づいて油入変圧器20の余寿命を十分な精度で予測することが可能になる。
以上説明した本実施形態に係る劣化診断方法によれば、油入変圧器20に対する保守作業の一環として定期的に測定される絶縁油OLの油中ガス、全酸価の耐電圧の測定データをそれぞれ平均重合度推定モデルに入力すれば、絶縁紙の平均重合度を十分に高い精度で推定できるようになるので、重合法による絶縁紙の平均重合度の測定及び、フルフラール法による絶縁油OLのフルフラール量の測定をそれぞれ行う従来の劣化診断方法と比較し、絶縁紙の平均重合度を推定するために要する作業量及びコストを効果的に低減できる。
【0027】
なお、本実施形態の劣化診断方法では、フルフラール法により測定された絶縁油OLのフルフラール量をニューラルネットワークへの入力因子として用いていないが、上述した第1の入力因子及び第2の入力因子に加え、第3の入力因子としてフルフラールの測定データをニューラルネットワークへ入力し、平均重合度推定モデルを構築するようにしても良い。これにより、絶縁紙の平均重合度に対する推定精度を更に向上することが可能になる。
【0028】
また本実施形態の劣化診断方法では、ニューラルネットワークの手法を用いて平均重合度推定モデルを構築したが、絶縁油OL中における複数種類の油中ガスの各測定データ、絶縁油OLの全酸価の測定データ及び絶縁油OLの耐電圧の測定データ並びに、少なくとも油入変圧器20の使用開始時及び使用完了時にそれぞれ測定された平均重合度の測定データを多変数重回帰分析により処理して平均重合度推定モデルを構築することによっても、ニューラルネットワークを用いた場合と近似した結果が得られることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る劣化診断方法が適用可能な油入変圧器の一例を示す側面断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る劣化診断方法示すフローチャートである。
【図3】平均重合度推定モデルをニューラルネットワークにより構築する場合の入力因子及び出力因子の説明図である。
【符号の説明】
【0030】
20 油入変圧器
22 金属容器
23 頂板部
24 コイル
26 タップチェンジャ
28 蓋
30 点検窓
32、34 ブッシング
36、38 端子部材
40、42 接続ケーブル
44 バッファタンク
46 給油パイプ
48 採油配管
50 サンプリングバルブ
OL 絶縁油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器及び、該容器内に蓄えられた絶縁油中に浸漬されるコイルを有する油入変圧器の劣化診断方法であって、
所定の検査周期ごとに測定された絶縁油に対する油中ガス、全酸価及び耐電圧の測定値を第1の入力因子群とし、
少なくとも油入変圧器の使用開始時及び使用完了時にそれぞれ測定された前記コイルの絶縁紙の平均重合度の測定値を第2の入力因子群とし、
前記絶縁紙の平均重合度を出力因子として、モデルの同定または学習を行うことにより、絶縁紙の平均重合度推定モデルを構築し、
診断対象である油入変圧器における絶縁油から測定された絶縁油に対する油中ガス、全酸価及び耐電圧の測定値を前記平均重合度推定モデルに入力し、前記平均重合度推定モデルにより平均重合度の推定値を得ることを特徴とする油入変圧器の劣化診断方法。
【請求項2】
絶縁油に対する油中ガスの測定時には、水素、酸素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、エタン、エチレン及びアセチレンからなる群から選択された2種類以上の油中ガスを測定することを特徴とする請求項1記載の油入変圧器の劣化診断方法。
【請求項3】
前記平均重合度推定モデルを、ニューラルネットワークを用いて構築することを特徴とする請求項1又は2項記載の油入変圧器の劣化診断方法。
【請求項4】
前記平均重合度推定モデルを、重回帰分析を用いて構築することを特徴とする請求項1又は2記載の油入変圧器の劣化診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−168571(P2009−168571A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5831(P2008−5831)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】