説明

油入電気機器の異常診断方法及び異常診断装置

【課題】 油入変圧器等において、低温異常過熱等、分解ガスの発生量の少ない内部異常の発生を検出することのできる油入電気機器の異常診断方法及び異常診装置を提供する。
【解決手段】 油入電気機器Aの呼吸経路7上に異常診断手段8を取り付ける。異常診断手段8は、異常診断装置を備えており、異常診断装置は多孔質の合金を備えている。内部異常に伴い発生する炭化水素ガスを、油入電気機器Aの呼吸作用を利用して合金に吸蔵させる。これによって変化する合金の電位又は内部抵抗を測定することにより、吸蔵された水素量を推定し、油入電気機器Aの内部異常の発生有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油入電気機器の低温異常過熱の発生有無を判定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、油入電気機器の外部診断技術としては油中ガス分析が広く利用されている。油入電気機器の内部異常現象は、絶縁破壊や局部過熱等、発熱を伴うものであり、発熱源に接触した絶縁油や絶縁紙、或いは、プレスボードやベークライト等の絶縁材料は化学分解反応を起こし、一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO2)、水素(H2)やメタン(CH4)、エチレン(C24)、アセチレン(C22)等の炭化水素ガスを発生する。
【0003】
発生する炭化水素ガスは絶縁油に対する溶解度が大きいものが多く、その大部分が絶縁油中に溶解するので、油入電気機器から採取した絶縁油中のガスを抽出・分析して、そのガス量とガスの組成を測定することによって、油入電気機器内部の異常の有無と、異常の程度を判定することが可能となる。
【0004】
具体的には、下記非特許文献1の第5−1−1図や第5−1−2図に示すように、横軸にガス成分を順に並べ、縦軸に各ガス成分の中で、最大を1とした場合の比をプロットしてパターンを描き、その形状から内部不具合の様相、例えば、加熱や放電等の有無を診断するのである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】電気協同研究 第65巻 第1号 49頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
然るに、油入電気機器に低温異常過熱が発生した場合、絶縁油の化学分解反応により発生する前述した炭化水素ガスの量は少なく、また、油入電気機器は正常運転している場合においても炭化水素ガスを発生するので、油入電気機器が正常運転状態にあるのか異常運転状態にあるのかの判別が困難であった。密封形の油入電気機器であれば、発生したガスが長期間に渡って絶縁油中に残留・蓄積するので、油中ガス分析によって低温異常過熱の発見が可能であったとしても、短期間で発見することは非常に難しい。
【0007】
また、開放型の油入電気機器にあっては、発生したガスが吸湿呼吸器の呼吸作用によって吸湿呼吸器を介して外気に散逸するため、絶縁油中のガス溶存量が減少し、結果、低温異常過熱の発見が、油中ガス分析によっても、事実上、不可能であった。
【0008】
そこで、本発明は、炭化水素ガスの発生量が少ない低温異常加熱においても、異常を確実に発見することのできる油入電気機器の異常診断方法及び異常診断装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、機器本体を絶縁油とともにタンク中に収容してなる油入電気機器において、吸湿呼吸器を取り付ける呼吸経路上に配置した合金に、絶縁材料の分解ガスを吸蔵させ、このときの合金の電気的特性を測定することにより、吸蔵した分解ガス量を推定して、油入電気機器の低温異常過熱の発生有無を判定することを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記電気的特性は、電位又は内部抵抗であることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2の何れかに記載の発明において、前記電気的特性は、測定器にオンライン接続される外部のコンピュータによって観測することを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、機器本体を絶縁油とともにタンク中に収容してなる油入電気機器において、吸湿呼吸器を取り付ける呼吸経路上に配置した合金に、絶縁材料の分解ガスを吸蔵させた後、当該合金を加熱或いは電圧を印加することにより放出される分解ガス量から油入電気機器の低温異常過熱の発生有無を判定することを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記放出される分解ガス量を一定周期毎に測定することにより、分解ガスの発生速度の変化から低温異常過熱の発生有無を判定することを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の発明は、機器本体を絶縁油とともにタンク中に収容してなる油入電気機器の吸湿呼吸器を取り付ける呼吸経路上に、負極板として多孔質の合金と、電解液及び正極板を交互に重畳配置し、これらを収容するケースの互いに絶縁された上下面に吸気口及び排気口を備え、正極板又は負極板に収容ケースの上下面を電気的に接続して構成される異常診断装置を配置して構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によれば、低温異常過熱時に発生する分解ガスを合金に累積的に吸蔵させるので、低温異常過熱時に発生する分解ガスが少量であっても分解ガスを蓄積させることにより、低温異常過熱の発生を確実に判定することができる。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、合金の電位や内部抵抗等の電気的特性を測定することにより、合金に吸蔵させた分解ガス量を推定することができるので、非常に簡単に油入電気機器の異常診断を行うことができる。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、測定した合金の電気的特性を外部のコンピュータにオンラインで観測できるので、油入電気機器の異常を視覚的に理解しやすくなる。
【0018】
請求項4記載の発明によれば、一旦合金に吸蔵させた分解ガスを加熱或いは電圧印加することにより放出させ、放出させた分解ガス量を実測することにより異常診断を行なうので、正確な異常診断を行なうことができる。
【0019】
請求項5記載の発明によれば、合金の電気的特性や、合金の加熱又は電圧印加によって放出される分解ガスを一定周期毎に測定することにより、分解ガスの発生速度の変化を測定することができ、信頼性の高い油入電気機器の診断を実現することができる。
【0020】
請求項6記載の発明によれば、分解ガスを吸蔵させた合金を負極板と、電解液を介して配置される正極板との間の電位差又は内部抵抗の変化を測定することが可能となり、油入電気機器の低温異常過熱の発生の有無を、異常診断装置の電気特性の変化として把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の異常診断手段を取り付けた油入電気機器の正面図である。
【図2】前記異常診断手段の構成を示す正面図である。
【図3】前記異常診断手段を構成する異常診断装置の内部構造を示す縦断面図である。
【図4】本発明に係る油入電気機器の運転年数と分解ガスの発生量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図1乃至図4を用いて説明する。図1は本発明に係る異常診断方法を採用した油入電気機器(油入変圧器A)の正面図であり、図1において、1は油入変圧器Aのタンクであり、2はタンク1内に収容・固定される、鉄心やコイル等からなる変圧器本体である。
【0023】
3は変圧器タンク1内に充填されて、変圧器本体2を冷却および絶縁する絶縁油であり、4は変圧器タンク1の上部に取り付けられたコンサーベーターを示している。
【0024】
5は変圧器タンク1の下部に設けられて、変圧器タンク1内に充填した絶縁油3を抜き取る排油コックを示している。当該排油コック5には、注射器を接続してピストンを引く操作によって、ほぼ大気に晒すことなく変圧器タンク1内から絶縁油3を抜き取ることができる。
【0025】
6はコンサーベーター4の上部に一端を連結した呼吸管7の他端に接続される吸湿呼吸器であり、その内部にはシリカゲル等の吸湿剤(図示せず)が収容され、呼吸管7を介して変圧器タンク1内に湿った空気が流入することを防止している。
【0026】
8は本発明に係る異常診断手段を示している。異常診断手段8は、図2に示すように、収容箱8a内に分解ガス(例えば、水素ガス)を吸蔵する合金(水素吸蔵合金等)を備えた異常診断装置8bを収容して構成されている。水素吸蔵合金とは、水素を取り込む性質のある金属を合金化することによって最適化し、水素を吸わせることを目的として開発された合金であり、水素貯蔵合金とも言われる。
【0027】
次に、異常診断装置8bの構造について説明する。異常診断装置8bは、図3に示すように、上蓋9と、上蓋9との間に絶縁物10を介在させた収容ケース11を備え、収容ケース11内には、電解液(水酸化カリウム等)12、負極板として使用される多孔質の水素吸蔵合金13、及び、正極板(水素化ニッケル等)14が交互に重畳配置されている。
【0028】
そして、前記負極板としての水素吸蔵合金13は集電端子15によって上蓋9と接続されており、一方、正極板14は集電端子16によって収容ケース11に接続されている。なお、上蓋9及び収容ケース11の底面11aには、それぞれ貫通孔17,18が形成されている。
【0029】
以上のごとく構成される油入変圧器Aは、正常運転時においても、前述した化学分解反応によって炭化水素ガスが発生するが、ガス中の例えば水素の量と、油入変圧器Aの運転年数の関係は一般的に図4に示す比例関係となる。
【0030】
つづいて、前述した異常診断手段8によって油入変圧器Aの低温異常過熱を診断する方法について説明する。油入変圧器Aの内部に低温異常過熱が発生した場合、発熱源に接触した絶縁油3や絶縁紙等の絶縁材料は化学分解反応を起こす。
【0031】
この化学分解反応によって、水素等の炭化水素ガスが発生し絶縁油3中に溶解する。炭化水素ガスのうち例えば、水素の発生量は、図4に示すように、正常運転時と比較して増加し、正常運転時の比例関係から逸脱する。
【0032】
発生量が増加した水素は、図1に示す油入変圧器Aのコンサーベーター4中の絶縁油3の油面から呼吸管7内へ流入する。呼吸管7には、前述のごとく異常診断手段8が接続されているので、呼吸管7内へ流入した水素は異常診断手段8へと送られる。異常診断手段8へ送られた水素は、図2に示す収容箱8a内に流入し、収容されている異常診断装置8bの上蓋9に形成した貫通孔17(図3参照)から収容ケース11内に流入する。
【0033】
流入した水素は、収容ケース11内に収容した多孔質の水素吸蔵合金13に吸蔵される。これにより、水素吸蔵合金13の電位は上昇するので、負極板である水素吸蔵合金13に集電端子16を介して接続される収容ケース11の底面11aと、正極板14に集電端子15を介して接続される上蓋9間の電位差を測定することにより、水素吸蔵合金13によって吸収された水素量を推定できる。
【0034】
本発明は、合金14に吸蔵された水素量を推定することにより、油入電気機器Aの異常を診断するものであり、水素量の具体的な推定方法は以下に記す何れかの方法によって実現すればよい。
【0035】
例えば、単純に、図2に示す収容箱8aから異常診断装置8bを取り出し、電圧計を利用して、上蓋9と収容ケース11の底面11a間の電位差を測定することにより吸蔵された水素量を測定したり、水素を吸蔵することによって変化した異常診断装置8bの内部抵抗値を抵抗計を利用して測定することにより、吸収された水素量を推定ことができる。
【0036】
また、図2に示すように、収容箱8bに予め電圧計や抵抗計を接続可能なコネクタ19a及び19bを備えておけば、異常診断装置8bを収容箱8aから取り出すことなく収容箱8aに収容したまま、上蓋9と収容ケース11の底面11a間の電位差や内部抵抗を測定することができる。
【0037】
さらに、別の方法として、収容箱8bから異常診断装置8bを取り出し、異常診断装置8bを構成する水素吸蔵合金13を加熱するか、或いは、電圧を印加することによって、水素吸蔵合金13に吸蔵されている水素を外部へ放出させ、放出した水素量を実測することも可能である。
【0038】
このようにして推定・測定した水素量は、油入変圧器Aの低温異常過熱に起因して、絶縁油3や絶縁紙等の絶縁材料が化学分解反応を起こして発生したものであるから、推定・測定した水素量から低温異常過熱の有無を判定することが可能となる。
【0039】
なお、上述した電位差又は抵抗値、或いは、実測値を予め設定した一定周期で測定すれば、水素の発生速度の変化を把握することができるので、油入変圧器Aの低温異常過熱の発生の有無判定に有効である。
【0040】
また、測定した電位や内部抵抗の変化をLED等の表示手段を点灯させることにより、視覚的に認識しやすい構成としたり、電圧計や抵抗計を外部のコンピュータとオンラインで接続し、コンピュータのソフト上で観測して、低温異常過熱の有無管理を行っても良い。
【0041】
以上説明したように、本発明の油入電気機器の異常診断方法によれば、油中ガス分析で診断することが不可能な低温異常過熱の発生の有無を、呼吸経路上に配置した異常診断手段に分解ガスを蓄積することにより確実に診断することができる。
【0042】
そして、異常診断手段の取り扱いは非常に簡単であり、点検作業の負担を軽減することができるとともに、低廉な診断コストで油入電気機器の内部異常を確実に発見できるので、油入電気機器の予防保全に大いに資する。
【産業上の利用可能性】
【0043】
油入変圧器等の内部異常の診断に利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 変圧器タンク
2 変圧器本体
3 絶縁油
4 コンサーベーター
5 排油コック
6 吸湿呼吸器
7 呼吸管(呼吸経路)
8 異常診断手段
8a 収容箱
8b 異常診断装置
9 上蓋
10 絶縁物
11 収容ケース
11a 底面
12 電解液
13 負極板(多孔質の水素吸蔵合金)
14 正極板
15,16 集電端子
17,18 貫通孔
19a,19b コネクタ
A 油入変圧器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器本体を絶縁油とともにタンク中に収容してなる油入電気機器において、吸湿呼吸器を取り付ける呼吸経路上に配置した合金に絶縁材料の分解ガスを吸蔵させ、この状態における合金の電気的特性を測定することにより、吸蔵した分解ガス量を推定して、油入電気機器の低温異常過熱の発生有無を判定することを特徴とする油入電気機器の異常診断方法。
【請求項2】
前記電気的特性は、電位又は内部抵抗であることを特徴とする請求項1記載の油入電気機器の異常診断方法。
【請求項3】
前記電気的特性は、測定器にオンライン接続される外部のコンピュータによって観測することを特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の油入電気機器の異常診断方法。
【請求項4】
機器本体を絶縁油とともにタンク中に収容してなる油入電気機器において、吸湿呼吸器を取り付ける呼吸経路上に配置した合金に絶縁材料の分解ガスを吸蔵させた後、当該合金を加熱或いは電圧を印加することにより放出される分解ガス量から油入電気機器の低温異常過熱の発生有無を判定することを特徴とする油入電気機器の異常診断方法。
【請求項5】
前記電気的特性又は放出される水素量を一定周期毎に測定することにより、分解ガスの発生速度の変化から低温異常過熱の発生有無を判定することを特徴とする請求項1乃至請求項4記載の油入電気機器の異常診断方法。
【請求項6】
機器本体を絶縁油とともにタンク中に収容してなる油入電気機器の吸湿呼吸器を取り付ける呼吸経路上に、負極板として多孔質の合金と、電解液及び正極板を交互に重畳配置し、これらを収容するケースの互いに絶縁された上下面に吸気口及び排気口を備え、正極板又は負極板に前記収容ケースの上下面を電気的に接続して構成される異常診断装置を配置して構成したことを特徴とする油入電気機器の異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−248735(P2012−248735A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120209(P2011−120209)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000116666)愛知電機株式会社 (93)