説明

油圧ショベルの吊り金具

【課題】油圧ショベルのブームに設けたピンに回動を自在に取り付けられた、吊り作業においてワイヤを掛ける吊り金具が、機体振動などによってピンを中心に回動するのを防止し、さらに吊り穴へのワイヤ掛けが容易にできるようにする。
【解決手段】吊り金具20が、ピン穴22を挟んだ一側に形成されたワイヤを掛ける吊り穴24と、他側に形成された錘部26を備え、ピン穴22を挟んだ錘部26側の質量を吊り穴24側よりも大きく形成し、ピン穴22を油圧ショベルのブーム14から突出したピン28に回動自在に取り付けた状態において、錘部26側が上記質量の違いによってピン28の鉛直方向下方に位置付けられようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベルを、ワイヤを掛けて吊り上げる際に用いられるブームの部分に備えられる吊り金具に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンによって機体を吊り上げ搬送される油圧ショベルの典型例は、吊り上げる際にワイヤを掛けるのに用いる吊り金具を、機体前部の作業腕であるブームの部分および機体後部のカウンタウエイトの部分に備えている。
【0003】
ブームの部分に備える吊り金具の代表例(例えば、特許文献1参照)は、ブームを揺動作動させるブームシリンダが取り付けられるブラケットに通したピンの両端部に、あるいはブームの他の部位に設けたブラケットに通したピンの両端部に、回動を自在に取り付けられ先端にワイヤを掛ける吊り穴を有している。この吊り金具は、ピンに回動を自在に取り付けられているので、ワイヤを掛けクレーンで吊ったときに常にワイヤの引張方向を向くことができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−257179号公報(図1−図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したとおりの形態の油圧ショベルの吊り金具には、次のとおりの解決すべき課題がある。
【0006】
すなわち、ピンに回動自在に取り付けた吊り金具は、吊り作業を行わないワイヤを掛けないときには自重によって下方に垂れている。しかしながらこの吊り金具は、ブームシリンダを伸縮作動させたときの共回りや機体の振動などによって、ピンを中心に自在に回動し、シリンダに、あるいは周囲の部材に干渉し、それらを損傷させ、あるいは吊り金具自体が損傷される可能性がある。干渉を防止するために、ピンを長くし吊り金具がシリンダあるいは周囲の部材と干渉しないように外側にすると、ピンに作用する曲げモーメントが大きくなり、ピンの強度を上げるためにピンを太くしなければならない。
【0007】
さらに、吊り金具はピンの下方に垂れているので、吊り作業においてワイヤを吊り穴に掛けるとき、すなわちシャックル、フック等を吊り穴に取り付けるときには、その都度吊り金具を回動させて吊り穴を上方に位置付ける面倒がある。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、油圧ショベルのブームに設けたピンに回動を自在に取り付けられ吊り作業においてワイヤを掛ける吊り金具が、機体振動などによってピンを中心に回動するのを防止し、さらに吊り穴へのワイヤ掛けを容易にできるようにした、油圧ショベルの吊り金具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば上記技術的課題を解決する油圧ショベルの吊り金具として、ピン穴を挟んだ一側に形成されたワイヤを掛ける吊り穴と、他側に形成された錘部とを備え、該ピン穴を挟んだ錘部側の質量を吊り穴側よりも大きく形成し、該ピン穴を油圧ショベルのブームから突出したピンに回動自在に取り付けた状態において、該錘部側が上記質量の違いによってピンの鉛直方向下方に位置付けられる、ことを特徴とする油圧ショベルの吊り金具が提供される。
【0010】
好適には、該吊り金具の取り付けられるピンは、該ブームを揺動作動させるブームシリンダの一端が取り付けられたシリンダ取付ピンである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に従って構成された油圧ショベルの吊り金具は、油圧ショベルのブームのピンに回動自在に取り付けるピン穴の一側に吊り穴を他側に錘部を備え、ピン穴を挟んだ錘部側の質量が吊り穴側よりも大きく形成されているので、吊り金具は、錘部側をピンの鉛直方向下方にして「起上り小法師」のようにピンに取り付けられる。したがって、吊り金具が機体振動などによってピンを中心に回動するのを防止でき、さらに吊り穴は鉛直方向の上方に位置付けられるのでワイヤ掛けを容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に従って構成された油圧ショベルの吊り金具をブームのピンに取り付けた状態で示した(a)は側面図、(b)は断面図。
【図2】図1(a)のブームシリンダを一杯に縮めた状態の図。
【図3】油圧ショベルをワイヤによって吊った状態の典型例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に従って構成された油圧ショベルの吊り金具について、好適実施形態を図示している添付図面を参照して、さらに詳細に説明する。
【0014】
図3を参照して油圧ショベルをワイヤによって吊った状態の典型例について説明する。油圧ショベル2は、下部走行体4の上に上部旋回体6が取り付けられ、上部旋回体6には前方に作業腕装置8、中央に運転室10、後方にカウンタウエイト12が取り付けられている。作業腕装置8は、上部旋回体6に上下方向に揺動自在に取り付けられたブーム14およびブーム14と上部旋回体6の間に取り付けられブーム14を上下方向に揺動させるブームシリンダ16を、紙面に直角方向の両側に一対備えている。
【0015】
ブーム14の、一対のブームシリンダ16の一端が取り付けられる部分Xには、ワイヤWを掛ける吊り金具20(図1)が、ブーム14の両側にそれぞれ備えられている。カウンタウエイト12の上面部分Yには、ワイヤWを掛ける吊り金具が一対備えられている。油圧ショベル2は、ブーム14のX部分の吊り金具およびカウンタウエイト12のY部分の吊り金具それぞれに掛けたワイヤWがクレーンのフックZに掛けられ吊り下げられる。
【0016】
吊り金具20について図1を参照して説明する。吊り金具20は、長さL幅H厚さT(一部2T)の矩形板状に、鋼によって形成されている。長さLの中間L/2にピン穴22が形成され、ピン穴22を挟んだ一側にワイヤを掛ける吊り穴24、他側に厚さ2Tの錘部26が形成され、ピン穴22を挟んだ錘部26側の質量が、吊り穴24側よりも大きく形成されている。
【0017】
吊り穴24は、吊りワイヤWのシャックル、フックなどを掛ける所定の大きさに形成されている。吊り金具20の吊り穴24側の端は、吊り穴24を中心に半径H/2のRで円弧に形成されている。ピン穴22はブームシリンダ16の一端、ロッド端が取り付けられるシリンダ取付ピン28に回動自在に嵌合する大きさに形成されている。錘部26側の厚さ2Tの端は、半径Rの円弧に形成され、半径R厚さTの円板が片面に付加されて形成されている。
【0018】
吊り穴24、ピン穴22、錘部26の円板の中心は一直線上に位置付けられている。吊り金具20は、鋼板を溶接して、あるいは鍛造によって、一体に形成されている。
【0019】
ブーム14には、一対のブームシリンダ16、16のロッド端側をそれぞれ取り付けるピンである一対のシリンダ取付ピン28,28が側方に突出し、同一軸線上に備えられている。吊り金具20は、このシリンダ取付ピン28にピン穴22が、ブームシリンダ16のロッド端を取り付けた外側に嵌合されている。ピン28の突出端部には、吊り金具20の抜け止め用のリング30が、リング30およびピン28を貫通したボルト32によって固定されている。
【0020】
図1を参照して、上述したとおりの油圧ショベルの吊り金具20の作用・効果について説明する。
【0021】
油圧ショベル2の吊り金具20は、ブーム14のピン28に回動自在に取り付けるピン穴22の一側に吊り穴24を、他側に錘部26を備え、ピン穴22を挟んだ錘部26側の質量が吊り穴24側よりも大きく形成されているので、錘部26側を常にピン28の鉛直方向(矢印V)の下方にして「起上り小法師」のようにピン28に取り付けられる。したがって、吊り金具20の吊り穴24にワイヤを掛けないときの、吊り金具20が機体振動などによってピン28を中心に回動するのを防止できるとともに、吊り穴24は常に鉛直方向Vの上方に位置付けられるのでワイヤ掛けを容易に行うことができる。
【0022】
図1とともに図3を参照してさらに説明する。ブームシリンダ16を一杯に縮め、ブームシリンダ16と吊り金具20の位置が相対的に接近しても、吊り金具20は常に鉛直の方向Vを向いているので、吊り金具20がブームシリンダ16と干渉することがない。
【0023】
また、吊り金具20の取り付けられるピンを、ブーム14を揺動作動させるブームシリンダ16の一端が取り付けられたシリンダ取付ピン28とすることにより、吊り金具20を取り付けるためのピンを新規にブーム14に設置する必要がなく、吊り金具10を経済的に、低コストで、容易に設置することができる。
【0024】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、例えば下記のように、本発明の範囲内においてさまざまな変形あるいは修正ができるものである。
【0025】
本発明の実施例においては、吊り金具10は、ブームシリンダ16の一端が取り付けられたシリンダ取付ピン28に取り付けられているが、ワイヤを掛ける部位などによってはブーム14の他の位置に吊り金具10取付用のピンを設けてもよい。
【0026】
本発明の実施例においては、吊り金具10は、長さL幅Hの矩形に形成され、吊り穴24、ピン穴22、錘部26は一直線上に形成されているが、形状は矩形でなく穴等の配置は一直線上になくてもよい。
【0027】
本発明の実施例においては、吊り穴24部と錘部26部はピン穴22を挟んで同じ長さL/2の位置に対称に形成されているが、必ずしも対称でなくてもよい。
【符号の説明】
【0028】
2:油圧ショベル
14:ブーム
16:ブームシリンダ
20:吊り金具
22:ピン穴
24:吊り穴
26:錘部
28:シリンダ取付ピン(ピン)
W:ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピン穴を挟んだ一側に形成されたワイヤを掛ける吊り穴と、他側に形成された錘部とを備え、
該ピン穴を挟んだ錘部側の質量を吊り穴側よりも大きく形成し、該ピン穴を油圧ショベルのブームから突出したピンに回動自在に取り付けた状態において、該錘部側が上記質量の違いによってピンの鉛直方向下方に位置付けられる、
ことを特徴とする油圧ショベルの吊り金具。
【請求項2】
該吊り金具の取り付けられるピンが、
該ブームを揺動作動させるブームシリンダの一端が取り付けられたシリンダ取付ピンである、
ことを特徴とする請求項1記載の油圧ショベルの吊り金具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−185015(P2011−185015A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54615(P2010−54615)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】