説明

油圧式無段変速装置

【課題】作業車両等に適用される油圧式無段変速装置において、作業中にリリーフ弁を介しての油の排出が多過ぎて閉回路の油圧が回復しないことによるキャビテーションや伝動効率低下を防止する。
【解決手段】入力軸2と該入力軸に固設されたシリンダブロック3と該シリンダブロックの一側に配置されたポンプ斜板4と該シリンダブロックの他側に配置されたモータ斜板と該モータ斜板と一体的に回転可能な出力部材5とを有し、該シリンダブロック内にポンププランジャ31とモータプランジャ32と該ポンププランジャと該モータプランジャとを接続する油路とを備え、該油路に油路より油を排出するためのリリーフ弁11と油路に油を供給するための第一チャージチェック弁12とを備えるチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10を接続した構成の油圧式無段変速装置において、該チャージチェックリリーフ弁アセンブリに第二チャージチェック弁13を外装付設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式無段変速装置(以下、「HST」)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入力軸と、該入力軸に固設されたシリンダブロックと、該シリンダブロックの一側にて該入力軸周りに配置されたポンプ斜板と、該シリンダブロックの他側にて該入力軸周りに配置されたモータ斜板と、該モータ斜板と一体的に回転可能で該入力軸に対して相対回転可能な出力部材とを有し、該シリンダブロック内には、該ポンプ斜板に押接されるポンププランジャと、該モータ斜板に押接されるモータプランジャと、該ポンププランジャと該モータプランジャとを接続する油路とを備えるHSTが、例えば特許文献1に開示されているように、公知となっている。このHSTは、出力部材の回転方向が一方向であり、ポンプ斜板を中立位置にするとモータ斜板及び出力部材がシリンダブロックと同じ速度で回転し、ポンプ斜板を中立位置から一側に傾倒するにつれて出力部材が減速し、他側に傾倒するにつれて出力部材が増速するものであり、コンパクトな構成で広い変速域を確保できるものとなっている。このHSTは、例えばフロントローダを備えたトラクタ等の作業車両に備えられる。
【0003】
前記の特許文献1に開示されるHSTにおいては、前記油路より油を排出するためのリリーフ弁と、該油路に油を供給するためのチャージチェック弁とを組み合わせてなるチャージチェックリリーフ弁アセンブリが、前記入力軸内にて、該入力軸の径方向に延設された状態で備えられており、前記油路に接続されている。例えば前述のようなフロントローダ付きトラクタに該HSTを設けた場合、ローダを土砂に挿入する際に大きな負荷が車輪にかかり、その負荷トルクが、HSTの前記出力部材に及ぶ。この負荷がHSTの前記油路内における油の流れに対する抵抗となり、該油路内の油圧を異常に高め、HST、さらには該HSTの入力軸を駆動する原動機を破損するおそれがある。そこで、油路内の油圧が過剰に高くなった場合にリリーフ弁が開弁して、該油路より油を排出することで、該油路内の油圧を低減し、これらの破損を回避する。そして、該油路が低圧となることでチャージチェック弁が開弁して、該油路に油を供給し、低減した油圧を回復させるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−128469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、例えば前述のようなフロントローダを用いての作業時における出力部材にかかる負荷はかなり高く、また、継続してかかるため、その間、前記油路からはずっと油が抜け、油圧が過度に低減し、チャージチェックリリーフ弁アセンブリに備えられたチャージチェック弁を開くだけでは、前記油路内の油圧の回復が不十分なおそれがある。該油路内の油圧の回復が不十分であれば、該油路内にキャビテーションが生じ、該油路内の油によるHSTのポンプ・モータ間の伝動効率が低下する。チャージチェックリリーフ弁アセンブリにおけるチャージチェック弁を容量の大きなものにすれば、この問題は解消できるが、前述の如く、チャージチェックリリーフ弁アセンブリは、入力軸内において、径方向に延設された状態で備えられているので、構造上制約があり、実際上、チャージチェックリリーフ弁アセンブリにおけるチャージチェック弁の容量を大きなものにするのは不可能か、或いはその関連の構造を複雑化するという別の問題が生じてしまう。すなわち、入力軸内に設けられるようにコンパクトに構成すべきチャージチェックリリーフ弁アセンブリが大型化してしまうので、それを収納する入力軸を大きくする必要が生じる。或いは、大型化したチャージチェックリリーフ弁アセンブリを入力軸の外部に配置すれば、HST全体の大型化に繋がり、また、従来、入力軸内部に形成していたチャージ・リリーフ油路構造を変更する必要が生じる。いずれにしても、入力軸やHST全体のコンパクト性を確保したままでチャージチェックリリーフ弁を大型化するのは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。本発明に係るHSTは、請求項1に記載の如く、入力軸と、該入力軸に固設されたシリンダブロックと、該シリンダブロックの一側にて該入力軸周りに配置されたポンプ斜板と、該シリンダブロックの他側にて該入力軸周りに配置されたモータ斜板と、該モータ斜板と一体的に回転可能で該入力軸に対して相対回転可能な出力部材とを有し、該シリンダブロック内には、該ポンプ斜板に押接されるポンププランジャと、該モータ斜板に押接されるモータプランジャと、該ポンププランジャと該モータプランジャとを接続する油路とを備え、該油路に接続されるチャージチェックリリーフ弁アセンブリを備え、該チャージチェックリリーフ弁アセンブリは、該油路より油を排出するためのリリーフ弁と、該油路に油を供給するための第一チャージチェック弁とを備える構成となっており、該チャージチェックリリーフ弁アセンブリには、第二チャージチェック弁を外装付設している。
【0007】
また、請求項2に記載の如く、前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリ及び前記第二チャージチェック弁を、前記入力軸内に設けている。
【0008】
また、請求項3に記載の如く、前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリを、前記入力軸の一径方向に延設し、前記第二チャージチェック弁を、該チャージチェックリリーフ弁アセンブリより突出させて、該入力軸の他の径方向に延設している。
【0009】
また、請求項4に記載の如く、前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリの延設方向と前記第二チャージチェック弁の延設方向とを互いに直角としている。
【0010】
また、請求項5に記載の如く、前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリに、第三チャージチェック弁を外装付設している。
【0011】
また、請求項6に記載の如く、前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリ及び前記第二・第三チャージチェック弁を、前記入力軸内に設けている。
【0012】
また、請求項7に記載の如く、前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリを、前記入力軸の一径方向に延設し、前記第二・第三チャージチェック弁を、各々、該チャージチェックリリーフ弁アセンブリより突出させて、該入力軸の他の径方向に延設している。
【0013】
また、請求項8に記載の如く、前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリの延設方向と前記第二・第三チャージチェック弁の延設方向とを互いに直角としている。
【0014】
また、請求項9に記載の如く、前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリより、前記第二・第三チャージチェック弁を、互いに反対方向に突出している。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るHSTは、以上のように構成したので、以下に示す効果を奏する。HSTを、請求項1に記載の如く構成することで、チャージチェックリリーフ弁アセンブリ自体は既存のコンパクト性を保持したまま、該チャージチェックリリーフ弁アセンブリの有する第一チャージチェック弁と、該チャージチェックリリーフ弁アセンブリに外装付設した第二チャージチェック弁とを介して十分な量の油が前記油路に供給され、リリーフ弁の開弁により低下した該油路内の油圧を回復し、該油路内の油圧が不足した場合に生じるキャビテーション及び伝動効率の低下を回避する。
【0016】
また、請求項2に記載の如く構成することで、入力軸内以外に、チャージチェックリリーフ弁アセンブリ及び第二チャージチェック弁を設けるための構造や空間を備える必要がなく、HSTの構造の複雑化やHST全体の大型化を回避する。
【0017】
また、入力軸内では、チャージチェックリリーフ弁アセンブリの延設される入力軸径方向とは別の径方向に、チャージチェックリリーフ弁アセンブリと干渉する可能性のないスペースが確保されているので、請求項3に記載の如く構成することで、このスペースに第二チャージチェック弁が配置され、既存の入力軸のコンパクト性が確保され、HSTの大型化を回避する。
【0018】
さらには、チャージチェックリリーフ弁アセンブリの延設される入力軸径方向とは別の径方向のうち、該延設方向に対し直角の方向は、チャージチェックリリーフ弁アセンブリと干渉する可能性のないスペースを確保できる方向の一つであり、請求項4に記載の如く、この方向において、第二チャージチェック弁をチャージチェックリリーフ弁アセンブリより突出することで、従来からの入力軸のコンパクト性の保持を確実にし、HSTの大型化を回避する。
【0019】
また、リリーフ弁の開弁による油路からの油の排出量が多くて、チャージチェックリリーフ弁のチャージチェック弁及び第二チャージチェック弁のみによる油の供給量では油路内の油圧を回復できない場合に、請求項5に記載の如く、第三チャージチェック弁の追加により、チャージチェックリリーフ弁アセンブリのコンパクト性を確保したまま、さらに多くの量の油を前記油路に供給して、油圧の回復を図ることができる。
【0020】
また、請求項6に記載の如く構成することで、入力軸内以外に、チャージチェックリリーフ弁アセンブリ及び第二・第三チャージチェック弁を設けるための構造や空間を備える必要がなく、HSTの構造の複雑化やHST全体の大型化を回避する。
【0021】
また、請求項7に記載の如く構成することで、入力軸内の、チャージチェックリリーフ弁アセンブリとは干渉する可能性のないスペースに第二・第三チャージチェック弁が配置され、従来からの入力軸のコンパクト性が確保され、HSTの大型化を回避する。
【0022】
さらには、請求項8に記載の如く、チャージチェックリリーフ弁の延設方向に対して直角の方向において、第二・第三チャージチェック弁をチャージチェックリリーフ弁アセンブリより突出することで、チャージチェックリリーフ弁アセンブリと、第二・第三チャージチェック弁との干渉が確実に回避され、従来からの入力軸のコンパクト性の保持を確実にし、HSTの大型化を回避する。
【0023】
さらに、請求項9に記載の如く構成することで、入力軸内において、第二・第三チャージチェック弁同士の干渉も確実に回避される。
【0024】
添付の図面を参照しての以下の詳細な説明は、以上の、また、それ以外の発明の目的、特徴、効果を、より明白にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】HST1の油圧回路図である。
【図2】HST1の斜視図である。
【図3】HST1の側面断面図である。
【図4】HST1の平面一部断面図である。
【図5】HST1の後面図である。
【図6】サーボハウジング41、ポンプ斜板4、シリンダブロック3、モータ斜板52、モータ斜板ホルダ51を除いた状態におけるHST1の分解斜視図である。
【図7】図6の状態よりさらに、入力軸2を除いて、チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10A・10Bを示す状態としたHST1の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態としてのHST1について説明する。まず、図1より、HST1の油圧回路構成について説明する。HST1においては、油圧ポンプP、油圧モータM、及び、油圧ポンプP・モータM同士を接続する一対のメイン油路6・7が構成されている。油圧ポンプPは、エンジン等の原動機に接続される入力軸2の回転にて駆動されて、該一対の油路6・7を介して、油圧モータMとの間で油を給排し、これにより、油圧モータMの備える出力部材5を駆動する。出力部材5は、入力軸2に対して相対回転自在に、入力軸2に周設されるか、または、入力軸2と同一軸芯上に配置されている。なお、HST1の適用例として、例えば、該HST1を、副変速機構としてのギア変速機構を備える他の変速装置に装着し、該出力部材5の回転にて該ギア変速機構を駆動する。
【0027】
油圧ポンプPは、可動斜板であるポンプ斜板4を備えており、ポンプ斜板4の傾倒方向及び傾倒角度の変化により、出力部材5の回転速度が変化するものとなっている。ポンプ斜板4をどの傾倒方向に、またどの傾倒角度に配置しても、出力部材5の回転方向は一定である。ポンプ斜板4を中立位置にすると、油圧ポンプPからの油の吐出量が0となり、出力部材5は入力軸2と同じ速度で回転する。ポンプ斜板4は中立位置より両方向に傾倒可能であり、該中立位置より一方向における最大傾倒位置は、出力部材5の回転速度を0とする位置であり、該中立位置より他方向における最大傾倒位置は、出力部材5の回転速度を最大とする位置である。
【0028】
なお、本実施例では、ポンプ斜板4が中立位置より出力部材5を減速する側に傾倒する場合(以下、「低速設定時」とする)にメイン油路6が低圧側、メイン油路7が高圧側となり、ポンプ斜板4が中立位置より出力部材5を増速する側に傾倒する場合(以下、「高速設定時」とする)にメイン油路7が低圧側、メイン油路6が高圧側となるとの状態に設定されているものとする。
【0029】
HST1には、ポンプ斜板4の傾動を制御するための油圧サーボ機構Sが備えられている。油圧サーボ機構Sは、油圧シリンダ16、該油圧シリンダ16内に備えられる油圧ピストン16a、該油圧シリンダ16に対する圧油供給を制御することで該油圧ピストン16aの位置を制御する油圧パイロット式切換弁17、該油圧パイロット式切換弁17を制御する電磁式開閉弁18を備える。油圧ピストン16aからは、ピストンロッド16bが油圧シリンダ4の外部へと延出され、該ピストンロッド16bの先端に、ポンプ斜板4が連結されている。こうして、電磁式開閉弁18の制御に基づいて油圧パイロット式切換弁17が油圧シリンダ16に対するサーボ油の給排を制御し、これにより油圧ピストン16a・ピストンロッド16bを操作して、ポンプ斜板4の傾動を制御する構成としている。また、ポンプ斜板4は、フィードバックアーム4aを介して油圧パイロット式切換弁17に接続されており、ポンプ斜板4の動きが油圧パイロット式切換弁17にフィードバックされて、ポンプ斜板4の実際位置に対応して油圧パイロット式切換弁17が制御されるようにしている。電磁式開閉弁18は、図示しない電子コントローラからの指令信号に基づき制御され、この電子コントローラは、車両に備えられる変速操作具の操作や、入力軸2を駆動するエンジンの回転数制御等に対応して、電磁式開閉弁18制御用の指令信号を発する。なお、HST1には、該電磁式開閉弁18、該油圧パイロット式切換弁17、該油圧シリンダ16に対して油を供給するためのサーボ油ポート1aが備えられている。
【0030】
HST1には、前記一対のメイン油路6・7それぞれに接続される一対のチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10が備えられている。各チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10にはリリーフ弁11及びチャージチェック弁12が構成されている。リリーフ弁11は、その接続されているメイン油路6または7内の油圧が、油排出のために設定された閾値より高くなると、開いて、該メイン油路6または7より油を排出する。チャージチェック弁12は、該メイン油路6または7内の油圧が、油供給のために設定した閾値より低くなると開いて、該メイン油路6または7に油を供給する。
【0031】
さらに、一対のチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10のうち、少なくとも一方のチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10に、一以上の補助チャージチェック弁13を外装付設している。これにより、リリーフ弁11の開弁で排出される油が多くてチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10のチャージチェック弁12のみではメイン油路6・7内の油圧の回復が不十分な場合にも、補助チャージチェック弁13を介しての油供給により、該メイン油路6・7内の油圧を回復させて、キャビテーション及び伝動効率の低下を回避することができる。
【0032】
一対のチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10のうち、いずれか一方のみに補助チャージチェック弁13を外装付設する場合には、好ましくは、図1に示すように、低速設定時に低圧側となるメイン油路6に接続されているチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10に補助チャージチェック弁13を外装付設し、かつ、該補助チャージチェック弁13をメイン油路6に接続する。リリーフ弁11の開弁による油の排出量が過大になるのは、作業(例えば、ローダを用いての土砂掻上げ作業)を行う低速設定時に生じる現象だからである。これにより、低速設定時に高圧側となるメイン油路7より、該メイン油路7に接続されるチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10のリリーフ弁11を介して多量の油が排出されるのと並行して、低速設定時に低圧側となるメイン油路6に、該メイン油路6に接続されたチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10のチャージチェック弁12及び補助チャージチェック弁13より十分な油が供給されて、メイン油路7より排出された油量を補償するものである。
【0033】
HST1には、両チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10にチャージ油を供給するためのチャージ油ポート1bが備えられており、HST1外部に配設されるチャージポンプ等のチャージ油源に接続される。チャージ油ポート1bと両チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10とがチャージ油路8にて接続されており、チャージチェック弁12(及び補助チャージチェック弁13)が開くと、チャージ油ポート1bよりチャージ油路8に供給された油をメイン油路6または7に供給する。また、チャージ油路8からドレン油路9が分岐しており、リリーフ弁11が開くと、メイン油路6または7よりドレン油路9へと油を排出する。さらに、HST1には、該チャージ油の油圧を調整するための調圧弁15が備えられており、該チャージ油の一部を該調圧弁15へと導くための調圧油ポート1cが備えられている。
【0034】
次に、HST1の構造に関する実施例について、図2〜図7より説明する。HST1は、図1の油圧回路構造の説明でも述べたように、入力軸2を有する。入力軸2の一端部は、エンジン等の原動機に接続される接続端部2aとして突出している。以下、該接続端部2aを入力軸2の前端部2aとし、該入力軸2を前後水平方向に延設したものとの前提で、本実施例について説明する。
【0035】
図2〜図4に示すように、該入力軸2の前後途中部の外周面には、シリンダブロック3が相対回転不能に装着され(すなわち、入力軸2にシリンダブロック3が固設され)、該シリンダブロック3より前方にて、該入力軸2周りにモータ斜板アセンブリ50が構成され、該シリンダブロック3より後方にて、該入力軸2周りにポンプ斜板アセンブリ40が構成されている。
【0036】
図2〜図5等に示すように、ポンプ斜板アセンブリ40は、サーボハウジング41、ポンプ斜板ホルダ42、前述のポンプ斜板4等を組み合わせて構成されている。該斜板ホルダ42は、該サーボハウジング41の前部に固設されており、該可動斜板4は、該ポンプ斜板ホルダ42に前後傾動自在に装着されている。該サーボハウジング41は、入力軸2の円周面上に軸受43を介して相対回転自在に装着されており、例えば、HST1を主変速機構、ギア変速機構を副変速機構とする適用例においては、該ギア変速機構を収納するハウジングにサーボハウジング41を固設することが考えられる。
【0037】
サーボハウジング41内には、図3、図4に示すように、前記油圧サーボ機構Sの油圧シリンダ16が形成され、該油圧シリンダ16内には油圧ピストン16aが装着され、該油圧ピストン16aより前方に延設されるピストンロッド16bの前端が、サーボハウジング41より前方に突出し、このピストンロッド16bの前端に、図2〜図4に示すように、連結ヘッド16cが固設されている。図2〜4に示すように、ポンプ斜板4より、一対のアーム4bが上方に延出されており、両アーム4bは、連結ヘッド16cの左右両側に配置されて、図2、図3に示すように、水平の枢支ピン4cを介して連結ヘッド16cに枢支されている。これにより、連結ヘッド16cを介して、ピストン斜板4を油圧ピストン16a・ピストンロッド16bに連結しており、油圧ピストン16a・ピストンロッド16bの前後方向の摺動により、ピストン斜板4を傾動させるものとしている。
【0038】
サーボハウジング41にはさらに、油圧サーボ機構Sの油圧パイロット式切換弁17及び電磁式開閉弁18が設けられている。油圧パイロット式切換弁17は、図2、図4に示すように、サーボハウジング41の上端より鉛直に、サーボハウジング41内に装着されており、電磁式開閉弁18は、図2、図4、図5に示すように、サーボハウジング41の後端面に装着され、そのスプールをサーボハウジング41内に嵌入している。また、図2、図3、図5に示すように、サーボハウジング41の左右一側面(本実施例では前方に向かって右側面)に沿って、フィードバックアーム4aが延設されている。フィードバックアーム4aの前端はポンプ斜板4に枢支され、後端は、サーボハウジング41に枢支されて、該サーボハウジング41内にて油圧パイロット式切換弁17に接続されている。さらに、図2、図4、図5に示すように、サーボハウジング41の上端には、図1のサーボ油ポート1aに該当するサーボ油ポート41aが開口している。また、サーボハウジング41内には、図6、図7よりわかるように、調圧弁15が配設されており、サーボハウジング41の後端面には、図5に示すように、該調圧弁15に連通する図1の調圧ポート1cに該当する調圧ポート41bが開口している。
【0039】
図2〜図4等に示すように、モータ斜板アセンブリ50は、前述の出力部材5、モータ斜板ホルダ51、モータ斜板52等を組み合わせて構成されている。図4にて示すように、該出力部材5の後端と該モータ斜板ホルダ51の前端とが接合されて、該出力部材5とモータ斜板ホルダ51とがボルトにて締結されて一体状となっており、これら接合された出力部材5及びモータ斜板ホルダ51が、軸受53を介して入力軸2の円周面上に相対回転自在に装着されている。出力部材5には、例えば、前述の適用例においては、副変速機構としてのギア変速機構に連動連係されるギアが固設される。図2〜図4に示すように、モータ斜板ホルダ51の後端部に、モータ斜板52が、該モータ斜板ホルダ51と一体回転自在に設けられている。こうして、該モータ斜板52、斜板ホルダ51、及び出力部材5が、モータ斜板アセンブリ50全体として一体状に、該入力軸2に対して相対回転自在に、入力軸2周りに配設されている。
【0040】
図2〜図4に示すように、シリンダブロック3には、油圧ポンプPを構成する複数のポンププランジャ31と、該ポンププランジャ31と同数の、油圧モータMを構成する複数のモータプランジャ32とが備えられている。これに関し、本願では明確な図示はないが、シリンダブロック3内には、入力軸2の軸芯方向に見て、該入力軸2を中心とする円周上に、ポンププランジャ孔3aとモータプランジャ孔3bとが交互に配列されており、各ポンププランジャ孔3aにポンププランジャ31が、各モータプランジャ孔3bにモータプランジャ32が、それぞれ、入力軸2の軸芯方向に往復動自在に嵌入されている。図2〜図4に示すように、ポンププランジャ31の頭部は、シリンダブロック3より後方に突出して、ポンプ斜板4に押接されており、モータプランジャ32の頭部は、シリンダブロック3より前方に突出して、モータ斜板52に押接されている。
【0041】
さらに、図2、図4に示すように、シリンダブロック3には、各ポンププランジャ孔3aに連通する複数のポンプスプール弁孔3cと、各モータプランジャ孔3bに連通する複数のモータスプール弁孔3dとが形成されており、図2〜図4にてわかるように、各ポンプスプール弁孔3cにはポンプスプール弁33が、各モータスプール弁孔3dにはモータスプール弁34が、それぞれ、入力軸2の軸芯方向に摺動自在に嵌入されている。図3、図4に示すように、ポンプスプール弁33の頭部はシリンダブロック3より後方に突出しており、図2〜図4、図5、図6にてわかるように、該シリンダブロック3の後端とサーボハウジング41の前端部との間にて入力軸2に被装されたスプール弁リテーナ44に形成された溝44aに嵌入されている。一方、図2〜図4に示すように、モータスプール弁34の頭部はシリンダブロック3より前方に突出しており、図2〜図4、図5、図6にてわかるように、該シリンダブロック3の前端と斜板ホルダ51の後端部との間にて入力軸2に被装されたスプール弁リテーナ54に形成された溝54aに嵌入されている。
【0042】
全ポンプスプール弁孔3cと全モータスプール弁3dとは、図3に示される、シリンダブロック3内に形成した油路3e・3fを介して連通しており、油路3eが図1のメイン油路6に、油路3fが図1のメイン油路7に相当する。
【0043】
図3に示すように、入力軸2内には、その軸芯に沿って前後水平方向の油路2bが形成されている。該油路2bは、図3及び図5に示すように、サーボハウジング41より後方に突出される入力軸2の後端にて開口しており、この油路2bの開口端を、図1のチャージ油ポート1bに相当するチャージ油ポート2cとしている。また、図3、図4、図6、図7にてわかるように、入力軸2内の、シリンダブロック3にて囲まれる部分には、油路2bを油路3e(すなわちメイン油路6)に連通可能なチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10(「10A」とする)と、油路2bを油路3f(すなわちメイン油路7)に連通可能なチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10(「10B」とする)とが、前後に並設されている。各チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10は、入力軸2の直径方向に延設されていて、入力軸2の軸芯方向に見ると、一方のチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10が他方のチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10に対しての直角方向に延設されている。
【0044】
本実施例においては、低速設定時に低圧側、高速設定時に高圧側となる油路3eに連通可能に配設したチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aに、油路2bと油路3eとを連通可能に構成した二つの補助(第二・第三)チャージチェック弁13を外装付設しており、低速設定時に高圧側、高速設定時に低圧側となる油路3fに連通可能に配設したチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Bに、油路2bと油路3fとを連通可能に構成した一つの補助(第二)チャージチェック弁13を外装付設している。各補助チャージチェック弁13は、その外装付設されているチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10の途中部より突出して、該チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10の延設方向に対して直角方向の、入力軸2の半径方向に延設されている。また、チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aに外装付設された二つの補助(第二・第三)チャージチェック弁13は、互いに反対方向に、該チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aより突出している。こうして、入力軸2内という限られたスペースの中に、二つのチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10A・10Bの既存のコンパクト性を阻害することなく、補助チャージチェック弁13を配設することができるのである。
【0045】
高速設定時にはチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aのリリーフ弁11が開弁して油路3e(メイン油路6)より油を排出する一方で、チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Bのチャージチェック弁12及びチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Bに外装付設された一つの補助チャージチェック弁13が開弁して油路3f(メイン油路7)に油を供給する。一方、低速設定時にはチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Bのリリーフ弁11が開弁して油路3f(メイン油路7)より油を排出する一方で、チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aのチャージチェック弁12及びチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aに外装付設された二つの補助チャージチェック弁13が開弁して油路3e(メイン油路6)に油を供給する。作業の行われる低速設定時はチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Bのリリーフ弁11からの油排出量が、高速設定時にチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aのリリーフ弁11からの油排出量より多くなる傾向にあり、このことを考慮して、低速設定時は、高速設定時のチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Bのチャージチェック弁12及び一つの補助チャージチェック弁13による油供給量よりも多くの油を、チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aのチャージチェック弁12及び二つの補助チャージチェック弁13にて供給するのである。
【0046】
なお、油路2bの、チャージ油ポート2cと、チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aとの間の部分は、図1のチャージ油路8に相当し、この部分における油は、チャージ圧を有した状態で、チャージ油ポート2cより前方に流れて、チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aに供給される。一方、油路2bの、チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Bより前方の部分は、図1のドレン油路9に相当する。
【0047】
低速速設定時は、チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Bのリリーフ弁11より排出された油は、該油路2bの、該チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Bより前方のドレン油路9に相当する部分に流れるとともに、油路2bの、両チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10A・10B間の部分を介して、チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aに供給される。該チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aのチャージチェック弁12及び該チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aに外装付設された二つのチャージチェック弁13は、油路2bの、チャージ油路8に相当するチャージ油ポート2cとチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aとの間の部分と、油路2bの、両チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10A・10B間の部分とよりチャージ油を油路3eへと供給する。
【0048】
一方、高速設定時は、油路2bの、チャージ油路8に相当するチャージ油ポート2cとチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aとの間の部分よりチャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aを通過した油と、該チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Aのリリーフ弁11より排出された油とが、油路2bの、両チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10A・10B間の部分へと流れる。該チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Bのチャージチェック弁12及び該チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Bに外装付設されたチャージチェック弁13は、油路2bの、両チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10A・10B間の部分と、該油路2bの、チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10Bより前方のドレン油路9に相当する部分より、チャージ油を油路3fへと供給する。
【0049】
以上は本発明の推奨例であって、本発明は、特許請求の範囲で画定される技術的範囲を超えない限りにおいて、当業者が容易に想到し得る様々な変更や応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るHSTは、上述のフロントローダ付きトクラタ等、様々な種類の車両や産業機械に適用できる。
【符号の説明】
【0051】
1 油圧式無段変速装置(HST)
2 入力軸
3 シリンダブロック
3e 油路
3f 油路
4 ポンプ斜板
5 出力部材
10(10A・10B) チャージチェックリリーフ弁アセンブリ
11 (チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10に備えられる)リリーフ弁
12 (チャージチェックリリーフ弁アセンブリ10に備えられる第一)チャージチェック弁
13 補助(第二・第三)チャージチェック弁
31 ポンププランジャ
32 モータプランジャ
40 ポンプ斜板アセンブリ
50 モータ斜板アセンブリ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、該入力軸に固設されたシリンダブロックと、該シリンダブロックの一側にて該入力軸周りに配置されたポンプ斜板と、該シリンダブロックの他側にて該入力軸周りに配置されたモータ斜板と、該モータ斜板と一体的に回転可能で該入力軸に対して相対回転可能な出力部材とを有し、該シリンダブロック内には、該ポンプ斜板に押接されるポンププランジャと、該モータ斜板に押接されるモータプランジャと、該ポンププランジャと該モータプランジャとを接続する油路とを備え、該油路に接続されるチャージチェックリリーフ弁アセンブリを備え、該チャージチェックリリーフ弁アセンブリは、該油路より油を排出するためのリリーフ弁と、該油路に油を供給するための第一チャージチェック弁とを備える構成とした油圧式無段変速装置において、該チャージチェックリリーフ弁アセンブリに、第二チャージチェック弁を外装付設したことを特徴とする油圧式無段変速装置。
【請求項2】
前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリ及び前記第二チャージチェック弁を、前記入力軸内に設けたことを特徴とする請求項1に記載の油圧式無段変速装置。
【請求項3】
前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリを、前記入力軸の一径方向に延設し、前記第二チャージチェック弁を、該チャージチェックリリーフ弁アセンブリより突出させて、該入力軸の他の径方向に延設したことを特徴とする請求項2に記載の油圧式無段変速装置。
【請求項4】
前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリの延設方向と前記第二チャージチェック弁の延設方向とを互いに直角としたことを特徴とする請求項3に記載の油圧式無段変速装置。
【請求項5】
前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリに、第三チャージチェック弁を外装付設したことを特徴とする請求項1に記載の油圧式無段変速装置。
【請求項6】
前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリ及び前記第二・第三チャージチェック弁を、前記入力軸内に設けたことを特徴とする請求項5に記載の油圧式無段変速装置。
【請求項7】
前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリを、前記入力軸の一径方向に延設し、前記第二・第三チャージチェック弁を、各々、該チャージチェックリリーフ弁アセンブリより突出させて、該入力軸の他の径方向に延設したことを特徴とする請求項6に記載の油圧式無段変速装置。
【請求項8】
前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリの延設方向と前記第二・第三チャージチェック弁の延設方向とを互いに直角としたことを特徴とする請求項7に記載の油圧式無段変速装置。
【請求項9】
前記チャージチェックリリーフ弁アセンブリより、前記第二・第三チャージチェック弁を、互いに反対方向に突出することを請求項7または請求項8に記載の油圧式無段変速装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−189149(P2012−189149A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53364(P2011−53364)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000125853)株式会社 神崎高級工機製作所 (210)