説明

治具昇降装置

【課題】オペレータの手作業で機器用ケースに治具を使って部品の組付又は検査を行うに際して、部品や検査部材の位置決めを容易に行うことができる。
【解決手段】治具昇降装置10は、水平板30から下方に延びるロッド33の下端に取り付けられた治具35によりATケース80の内部に部品を組み付けるものである。ロッド33には上下動可能なベース部材45が取り付けられている。そして、オペレータがスライダ25に下向きの力を付与すると、水平板30、治具35及びベース部材45が連動して下方に移動し、ベース部材45がATケース80の基準位置にセットされたあとは水平板30及び治具35が下方に移動する。ここで、ベース部材45はフローティング機構50により水平板30と共に水平方向に微動させることが可能なため、ATケース80と治具35との相対位置がずれていたとしてもそのずれを容易に修正することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治具昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車に搭載される自動変速機が知られている。例えば、特許文献1には、トルクコンバータと複数のプラネタリギヤを有する多段変速機構とを備えた自動変速機が開示されている。この自動変速機には、ケース内にプラネタリギヤを構成するギヤと入力軸との連結・連結解除や各ギヤの回転規制などを行うワンウェイクラッチが配設されている。
【特許文献1】特開2002−161951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、このような自動変速機を組み立てる場合には、サーボモータによって治具を上方位置から下方位置に移動させることにより自動的に組み立てる方法が考えられる。一方、サーボモータを使用せずオペレータの手作業によって自動変速機の組立を行いたいという要望がある。
【0004】
しかしながら、オペレータの手作業で組立を行う場合には、自動変速機のケースに対して部品を正確に位置決めする必要があるが、ケースは奥が深いため、オペレータが外から目で見ることにより位置決めすることは容易ではなかった。なお、オペレータの手作業で組立を行いたいという要望は、自動変速機のみならず他の装置や機械、器具などにおいても同様に存在する。また、組立のみならず、検査工具を用いて検査を行う場合などにおいても、この種の要望は存在する。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、オペレータの手作業で機器用ケースに治具を使って部品の組付又は検査を行うに際して、部品や検査部材の位置決めを容易に行うことができる治具昇降装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の治具昇降装置は、
架台と、
前記架台の下方に設けられ機器用ケースを支持するケース支持台と、
前記ケース支持台に対して上下動可能なように前記架台に取り付けられ、上向きの力が付与されて支持される移動体と、
前記移動体に取り付けられた水平板と、
該水平板から下方に延びるロッドの下端に取り付けられ、前記機器用ケースの内部に部品を組み付けるか又は該機器用ケースの内部の部品の検査を行う治具と、
前記ロッドに上下動可能に取り付けられ、前記機器用ケースの予め定められた基準位置にセットされるまでは前記治具と連動して上下動可能であり、前記基準位置にセットされたあとは前記治具が上下動しても該治具と連動せず前記基準位置に保持されたままとなるベース部材と、
前記移動体と前記水平板との間に設けられ、前記移動体に対して前記水平板が水平方向に微動するのを許容するフローティング機構と、
を備えたものである。
【0008】
この治具昇降装置は、水平板から下方に延びるロッドの下端に取り付けられた治具により機器用ケースの内部に部品を組み付けるか又は部品の検査を行うものである。また、ロッドにはベース部材が上下動可能となるように取り付けられている。そして、オペレータが移動体に下向きの力を付与すると、移動体、水平板、治具及びベース部材が下方に移動し、ベース部材が機器用ケースの基準位置にセットされる。その後、移動体にオペレータが下向きの力を付与すると、ベース部材は基準位置にセットされたまま、移動体、水平板及び治具が下方に移動する。このとき、ベース部材は基準位置にセットされているため治具は機器用ケースの内部に入っていて外から見えないが、移動体や水平板は機器用ケースの外部にあるためベース部材に対する移動体又は水平板の位置を把握することにより、基準位置に対する治具の位置を把握することができる。ここで、ベース部材はフローティング機構により水平板と共に水平方向に微動させることが可能なため、治具を基準位置にセットする前に機器用ケースと治具との相対位置がずれていたとしてもそのずれを容易に修正してベース部材を基準位置にセットすることができる。したがって、オペレータの手作業で機器用ケースに治具を使って部品の組付又は検査を行うに際して、部品や検査部材の位置決めを容易に行うことができる。
【0009】
本発明の治具昇降装置において、前記フローティング機構は、前記移動体と前記水平板との間にスラストベアリングを設け該スラストベアリングに上下方向のピンを遊嵌した構造を有するものとしてもよい。あるいは、本発明の治具昇降装置において、前記フローティング機構は、前記移動体と前記水平板との間にリモート・センタ・コンプライアンス機能を持つデバイスを配置した構造を有するものとしてもよい。いずれにしても、比較的簡単な構造により本発明を実現することができる。
【0010】
本発明の治具昇降装置において、前記ケース支持台は、水平面上の所定方向に微動可能であり、前記フローティング機構は、水平面上の方向であって前記所定方向に略直交する方向にのみ前記水平板が微動するよう規制してもよい。この態様を採用したときには、実経験上、水平板が水平方向のどの方向にも微動可能な場合に比べて、ベース部材を迅速に基準位置にセットすることが可能となった。このとき、前記フローティング機構は、前記水平板の微動を規制するにあたり、前記所定方向と略直交する2つの規制板により該水平板を挟み込む構造が採用されていてもよい。こうすれば、水平板の微動を簡単な構成により規制することができる。
【0011】
本発明の治具昇降装置において、前記ベース部材は、所定位置に係止部を有し、前記機器用ケースは、前記基準位置に前記ベース部材が収まったときに前記係止部と係止し合う被係止部を有していてもよい。この場合も、機器用ケースに対するベース部材の位相(回転方向の位置)を所定の位相に決めることができる。
【0012】
本発明の治具昇降装置において、前記ベース部材は、周縁部分のうち厚さ方向の略下半分が上から下にかけて小径となるテーパ面に形成されていてもよい。こうすれば、テーパ面を利用して滑らせるようにしてベース部材を基準位置にセットすることができるため、セットするのに要する時間の短縮化を図ることができる。
【0013】
本発明の治具昇降装置は、前記治具が前記ベース部材から独立して下方に移動して前記機器用ケースの内部の所定の下方位置に到達したときに前記移動体により押圧されて前記治具が前記所定の下方位置に到達したことを報知する報知機構を備えていてもよい。こうすれば、オペレータは治具が所定の下方位置に到達したことを確実に把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は本実施例の治具昇降装置10の正面図、図2は治具35の拡大正面図(部分断面図)、図3は治具昇降装置10の平面図(部分断面図)、図4は治具昇降装置10の側面図である。
【0016】
本実施例の治具昇降装置10は、装置架台12と、この装置架台12の下方に設けられたケース支持台としてのパレット21と、このパレット21に対して上下動可能なように装置架台12に取り付けられた移動体としてのスライダ25と、このスライダ25に取り付けられた水平板30と、水平板30から下方に延びる3本のロッド33の下端に固着された治具35と、これらのロッド33に上下動可能に取り付けられたベース部材45と、スライダ25と水平板との間にて水平板が水平方向に微動するのを許容するフローティング機構50と、組付作業の完了前には現れず組付作業の完了時に現れる組付確認フラグ60とを備えている。ここでは、内部に中間軸サブアッシー84が既に組み付けられている自動変速機用のケース80(以下、ATケースという)にワンウェイクラッチ82を組み付ける場合を例に挙げて説明する。
【0017】
装置架台12は、図4に示すように、四本の脚13aに支えられたテーブル13と、このテーブル13の上面後方の左右両側に立設された2本の支柱14と、テーブル13の上面の前後に立設された2本のガイド棒18と、各支柱14の上端及び各ガイド棒18の上端を覆うようにして取り付けられた天板15とを有している。ガイド棒18は、スライダ25に一体化されたリニアブッシュ25aが上下動可能に取り付けられている。このため、スライダ25は、ガイド棒18に案内されて上下動する。天板15の上面の前後2箇所には、チェーン16が架けられた滑車17が設けられている。このチェーン16の一端はスライダ25の上面中央に固着され、もう一端は各種部材が取り付けられたスライダ25の全重量よりも僅かに重いおもり11に固着されている。また、天板15の下面にはショックアブソーバ19が設置されている。
【0018】
パレット21は、図1に示すように、略中央にケース支持リング21aを備え、このケース支持リング21aにATケース80が嵌り込むようになっている。ローラコンベア22は、図3に示すように、コンベア架台23の上方にて前後2列に左右方向(本実施例ではX方向ともいう)に沿って多数のローラ24が設けられている。このため、ローラ24を回転させることにより、パレット21と共にATケース80を左右方向に微動可能である。
【0019】
スライダ25は、左右方向に長く延びる板部材であり、左右両端から前方に延び出すアーム26を備えている。各アーム26の先端には、操作ハンドル27が取り付けられている。また、スライダ25は、チェーン16を介しておもり11に繋がれて上向きの力が付与されている。このため、オペレータが操作ハンドル27から手を離しているときには、スライダ25は初期位置(所定の上方位置)に位置決めされる。本実施例で初期位置とは、スライダ25が天板15の下面に設けられたショックアブソーバ19に当たっている位置をいう。一方、オペレータが操作ハンドル27を把持して下方向に力を加えたときには、スライダ25はおもり11の荷重に抗して下方へ移動する。このように、スライダ25はパレット21に対して上下動可能となっている。
【0020】
水平板30は、中央に貫通孔が形成されたツバ付きリング31に、貫通孔よりも大きな径の中心孔が形成された水平板本体34を接合したものである。ツバ付きリング31の貫通孔には、自動変速機の中間軸サブアッシー84の中間軸84aを挿入する軸挿入筒が挿通されており、この軸挿入
筒は、ツバ付きリング31の下面に設けたリニアブッシュ32により上下動可能なように支持されている。軸挿入筒の上端には、径が貫通孔よりも大きく中心孔よりも小さいワッシャが取り付けられている。このワッシャは、軸挿入筒が貫通孔から下方へ脱落するのを防止している。また、ツバ付きリング31の下面には、円周方向に沿って等間隔にロッド33が3本固着されている。
【0021】
治具35は、図1に示すように、ロッド33の下端に固着された作動リング36と、この作動リング36の上面に固着され各ロッド33を挿通するカラー37と、作動リング36の下面に取り付けられた複数のキャップボルト38と、作動リング36の中心孔に取り付けられたリニアブッシュ39により上下動可能に支持された軸挿入筒40と、この軸挿入筒40の下方に固着された部品保持筒42とを備えている。作動リング36は、ロッド33を介して水平板30のツバ付きリング31に固着されているため、作動リング36、ロッド33及び水平板30は一体となって上下動したり水平動したりする。カラー37は、スライダ25が初期位置にあるときにはその上端でベース部材45を支持する。このカラー37の上端には、図示しないがウレタンワッシャが取り付けられており、該ウレタンワッシャはベース部材45とカラー37との衝突音を緩和する役割を果たす。キャップボルト38は、作動リング36の円周方向に沿って複数取り付けられている。このキャップボルト38は、長い頭部を有しているが、この頭部の下端がワンウェイクラッチ82を上から下へ押圧する部品押圧部38aとして機能する。軸挿入筒40は、ATケース80に組み付けられた中間軸サブアッシー84の中間軸84aが挿入されるものであり、下方に部品保持筒42を有している。この軸挿入筒40は、ベース部材45の中心孔にあそびをもって貫通している。このため、軸挿入筒40とベース部材45とは独立に上下動可能となっている。また、例えば軸挿入筒40の下方への移動を阻止した状態で水平板30を下降させるときのように軸挿入筒40に対して水平板を相対的に下降させる力を加えたときには、水平板30は軸挿入筒40とは独立して下降するが、そのような力を加えていないときには、軸挿入筒40は上端に取り付けられたワッシャ41(図4参照)により水平板30に係止された状態が維持されることから水平板30は軸挿入筒40と連動して上下動する。部品保持筒42には、ボールプランジャ43(図2参照)が複数内蔵されている。各ボールプランジャ43は、部品保持筒42の外周面から半径外向きにボールが突出するように付勢している。このため、ドーナツ状のワンウェイクラッチ82の中心孔に部品保持筒42を差し込むと、ボールプランジャ43がワンウェイクラッチ82の内周面を押圧するためワンウェイクラッチ82は部品保持筒42に保持される。
【0022】
ベース部材45は、厚みのある略三角形状(三角形の頂点が面取りされた形状)の部材であり、中心孔には軸挿入筒40が上下方向に挿通している。このベース部材45の上面には、各ロッド33に対応してリニアブッシュ46が固着されている。このため、ベース部材45の下方への移動を阻止した状態で水平板30を下降させると、水平板30と一体化されているロッド33は治具35と共にベース部材45のリニアブッシュ46にガイドされて精度よく真っ直ぐに下がる。また、ベース部材45は、ATケース80のケース開口部80aの内側に設けられたケース段差部80bにはめ込まれるように形成されている。ここで、ケース開口部80aは平面視したときの形状が円形となっている。また、ケース段差部80bは、ケース開口部80aから垂直に切り立つ垂直面に直交する水平面として構成されている。このケース段差部80bは、もともと自動変速機用のオイルポンプを乗せるために設けられた箇所であり、ATケース80の内部に組み付けられる部品の位置はすべてこのケース段差部80bを基準位置とし、ここからの距離が規定されている。したがって、本実施例においても、このケース段差部80bを基準位置としてワンウェイクラッチ82を組み付けるようにしている。さて、ベース部材45の外周面は、上面から中間位置までは径が一定であるが、中間位置から下面までは下方に進むにつれて径が徐々に小さくなるテーパ面45aとなっている。このため、テーパ面45aを利用してベース部材45をケース開口部80aからケース段差部80bへとスムーズにセットすることができる。また、ベース部材45の上面の周縁近傍には、半径外方向に延びる小アーム47が固着され、この小アーム47の先端の下面には下方へ突出する突起48が形成されている。この突起48は、ATケース80のケース開口部80aの近傍に設けられた嵌合穴80cに嵌り込むように形成されており、突起48を嵌合穴80cに嵌めることによりATケース80に対するベース部材45の回転位置をあらかじめ定められた所定位置に位置決めすることができる。そして、スライダ25が初期位置にあるときからスライダ25が下降してベース部材45がケース段差部80bにセットされるまでは、ベース部材45は治具35の作動リング36に立設されたカラー37の上端に載置されているため治具35と連動して上下動する。一方、ベース部材45がケース段差部80bにセットされた状態でスライダ25が更に下降すると、ベース部材45はケース段差部80bにセットされたままであるのに対して治具35はスライダ25と共に下降する。
【0023】
フローティング機構50は、スライダ25の下面の前後2カ所に固着されたL字板51と、このL字板51の下面と水平板本体34との間及び水平板本体34と水平板支持片52との間に配置されたスラストベアリング53と、このスラストベアリング53の中心孔に遊嵌されL字板51と水平板支持片52とを固定するピン54と、水平板本体34の上面に固着されL字板51を左右両側から挟み込む一対の規制板55とを備えている。L字板51は、金属板をL字状に屈曲した部材であり、スライダ25と一体化されると共にピン54を介して水平板支持片52とも一体化されている。スラストベアリング53は、ボールを保持リングで転動可能に保持した構造である。このスラストベアリング53は、水平板本体34を上下から挟み込むように設置されている。ピン54は、L字板51と水平板支持片52との間に水平板本体34やスラストベアリング53を挟み込んだ状態でL字板51と水平板支持片52とを固着している。このピン54の径はスラストベアリング53の中心孔の径よりも小さいため、スラストベアリング53の中心孔とピン54との間には隙間が生じている。水平板30は、この隙間により、L字板51に対して水平方向に微動可能となっている。そして、この隙間の間隔を調節することにより水平板30の水平方向の移動量を調節することができる。
【0024】
組付確認フラグ60は、図2に示すように、テーブル13の上面に設置されたステー61に支点ピン62を介して回動自在に取り付けられたシーソー63の先端に設けられている。シーソー63は、常時、組付確認フラグ60が設けられている先端が水平よりも下になるようにバランスされているため、組付確認フラグ60はオペレータには目視できない。このシーソー63は、ワンウェイクラッチ82をATケース80の所定位置に組み付けたときのスライダ25によって基端が押圧され、図2にて時計回りに回転して組付確認フラグ60が立ち上がり、ステー61よりも上方に組付確認フラグ60が現れる。
【0025】
次に、本実施例の治具昇降装置10の動作について、図1〜図4に加えて図5〜図9を用いて説明する。図5はベース部材45をケース段差部80bにセットする工程を表す説明図(平面視)、図6はベース部材45をケース段差部80bにセットしたときの説明図(側面図)、図7は軸挿入筒40を中間軸サブアッシー84にセットしたときの説明図(側面図)、図8はワンウェイクラッチ82を中間軸サブアッシー84に組み付けたときの説明図(側面図)である。
【0026】
ここでは、あらかじめパレット21に、中間軸サブアッシー84が内部に組み付けられたATケース80がセットされているものとする。また、部品保持筒42にはワンウェイクラッチ82が嵌め込まれ、ボールプランジャ43により部品保持筒42に保持されているものとする。
【0027】
おもり11はスライダ25に取り付けられた各部の全重量よりも僅かに重いため、作業していないときには、おもり11が底面まで下がりスライダ25が装置架台12の天板15の下面に設けられたショックアブソーバ19に当接する初期位置(所定の上方位置)まで上昇した状態となる(図4参照)。この状態で、オペレータが左右の操作ハンドル27を両手で持って下方向に直線的に押し下げる。すると、これに伴って作動リング36、ベース部材45及び軸挿入筒40も直線的に下降する。そして、ベース部材45がATケース80のケース開口部80aの近くに達したとき、オペレータは片方の手で操作ハンドル27を握ってスライダ25が概ねその位置で止まるようにする。続いて、オペレータは、もう片方の手で水平板30かベース部材45を持って前後方向(Y方向)に動かしたりATケース80が支持されているパレット21を左右方向(X方向)に動かしたりすることにより、ベース部材45がATケース80のケース開口部80aからケース段差部80bに嵌り込むと共に小アーム47に設けた下向きの突起48が嵌合穴80cに嵌るように位置決めする。このときの様子を図5を用いて詳説する。図5(a)はATケース80の平面図であり、ケース開口部80aは円形になっている。また、ケース開口部80aの内側にはケース段差部80bが見えている。いま、図5(b)のようにケース開口部80aに対してベース部材45がずれていたとすると、まずベース部材45を前後方向に微動させてケース開口部80aの前後両端とベース部材45の前後両端とが揃うようにし(図5(c)参照)、次いでATケース80を左右方向に微動させてケース開口部80aの左右両端とベース部材45の左右両端とが揃うようにすると共に突起48を嵌合穴80cに嵌める(図5(d)及び図6参照)。この結果、ベース部材45はケース段差部80bにずれることなく確実に載置される。
【0028】
このようにしてベース部材45をケース段差部80bにセットしたあと、オペレータは再び左右の操作ハンドル27を両手で持って下方向に直線的に押し下げる。すると、ベース部材45はケース段差部80bに載置された状態のまま、作動リング36及び軸挿入筒40が直線的に下降する。そして、軸挿入筒40に中間軸サブアッシー84の中間軸84aが挿入され、軸挿入筒40の下端が中間軸サブアッシー84に突き当たる位置に達すると、軸挿入筒40は下方へそれ以上移動するのを中間軸サブアッシー84により阻止される(図7参照)。
【0029】
オペレータは、軸挿入筒40の下方への移動が阻止されている状態で、操作ハンドル27を両手で持って下方向に直線的に押し下げる。すると、軸挿入筒40は停止した状態のまま、水平板30及び作動リング36が下方向へ移動する。このとき、水平板30は軸挿入筒40のワッシャ41から下方に離間する。また、これに伴ってキャップボルト38も下方向へ移動するため、キャップボルト38の頭部下端である部品押圧部38aがワンウェイクラッチ82を下方向へ押圧する。この結果、ワンウェイクラッチ82はボールプランジャ43(図2参照)の保持力に抗して部品保持筒42に対して下方へ移動し、中間軸サブアッシー84の所定の位置に組み付けられる(図8参照)。このとき、スライダ25は図2に示すシーソー63の基端を押圧するため、先端つまり組付確認フラグ60がステー61の上方に現れる(図2の1点鎖線参照)。したがって、オペレータはこの組付確認フラグ60が現れたことを目視することにより、ワンウェイクラッチ82が中間軸サブアッシー84の所定位置に組み付けられたことを確認することができる。
【0030】
その後、オペレータは、操作ハンドル27から手を離すか操作ハンドル27に加えていた荷重を小さくすることによりスライダ25を上昇させる。スライダ25は、ショックアブソーバ19に突き当たるまで上昇し、その位置つまり初期位置で停止する。
【0031】
以上詳述した本実施例の治具昇降装置10によれば、ベース部材45が基準位置であるケース段差部80bにセットされると、治具35はATケース80の内部に入っていて外から見えないが、スライダ25や水平板30はATケース80の外部にあるためベース部材45に対するスライダ25又は水平板30の位置を把握することにより、ケース段差部80bに対する治具35の位置を把握することができる。特に、ベース部材45は水平板30と共に水平方向に微動させることが可能なため、治具35をケース段差部80bにセットする前にATケース80と治具35との相対位置がずれていたとしてもそのずれを容易に修正してベース部材45をケース段差部80bにセットすることができる。したがって、オペレータの手作業でATケース80に治具35を使ってワンウェイクラッチ82の組付を行うに際して、そのワンウェイクラッチ82の位置決めを容易に行うことができる。
【0032】
また、ローラコンベア22はパレット21を左右方向に微動可能とし、フローティング機構50は水平板30を前後方向に微動可能としているため、実経験上、水平板30が水平方向のどの方向にも微動可能な場合に比べて、ベース部材45を迅速にケース段差部80bにセットすることが可能となった。
【0033】
更に、ベース部材45は平面視したときの形状が頂点が面取りされた三角形であり、ATケース80のケース開口部80aは平面視したときの形状が円形であるため、ベース部材45とケース開口部80aとが同形状の場合に比べて、ベース部材45がケース開口部80aに噛んで動かなくなるおそれが少ない。しかも、ベース部材45は突起48を有し、この突起48をATケース80の嵌合穴80cに嵌め込むようになっているため、ATケース80に対するベース部材45の位相(回転方向の位置)を所定の位相に決めることができる。
【0034】
更にまた、ベース部材45は厚さ方向の略下半分が上から下にかけて小径となるテーパ面45aであるため、テーパ面45aを利用して滑らせるようにしてベース部材45をケース段差部80bにセットすることができ、セットするのに要する時間の短縮化を図ることができる。
【0035】
更にまた、ワンウェイクラッチ82の組付が完了したとき、つまり治具35の部品押圧部38aがベース部材45から独立して下方に移動してATケース80の内部の所定の下方位置に到達したとき、組付確認フラグ60が現れるため、オペレータは部品押圧部38aが所定の下方位置に到達したことを確実に把握することができる。
【0036】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【0037】
たとえば、上述した実施例では、フローティング機構50として、スラストベアリング53を利用したが、スライダ25と水平板30との間にリモート・センタ・コンプライアンス機能を持つデバイス(例えばビー・エル・オートテック社製のBLリストコンプライアンサ)を配置した構造を採用してもよい。
【0038】
上述した実施例では、ワンウェイクラッチ82を中間軸サブアッシー84に組み付ける組付治具の昇降装置を例示したが、検査工具としての機能を持つ治具の昇降装置としてもよいし、組付工具と検査工具の両方の機能を持つ治具の昇降装置としてもよい。
【0039】
上述した実施例では、パレット21を左右方向に微動するようにしたため、フローティング機構50として水平板30をスライダ25に対して前後方向にのみ微動するように規制したが、パレット21を前後方向に微動するようにした場合には、フローティング機構50として水平板30をスライダ25に対して左右方向にのみ微動するように規制すればよい。また、水平板30の水平方向の微動を規制せず、水平方向の全方向に微動するようにしてもよい。
【0040】
上述した実施例では、ワンウェイクラッチ82の組付が完了したとき、スライダ25でシーソー63を揺動させて組付確認フラグ60が現れるようにすることでオペレータに組付完了を報知したが、スライダ25で音声ボタンを押下して組付完了の音声をスピーカから出力するようにしてもよい。
【0041】
上述した実施例では、ワンウェイクラッチ82をボールプランジャ43のボールの押圧力で保持するものとしたが、保持力を高めるために、操作ハンドルとは別に軸挿入筒40の内部に設けたインナを操作可能なレバーを設け、このレバーを操作するとワンウェイクラッチ82がロックする方向にインナーを回転させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施例の治具昇降装置10の正面図である。
【図2】治具35の拡大正面図(部分断面図)である。
【図3】治具昇降装置10の平面図(部分断面図)である。
【図4】治具昇降装置10の側面図である。
【図5】ベース部材45をケース段差部80bにセットする工程を表す説明図(平面視)である。
【図6】ベース部材45をケース段差部80bにセットしたときの説明図(側面図)である。
【図7】軸挿入筒40を中間軸サブアッシー84にセットしたときの説明図(側面図)である。
【図8】ワンウェイクラッチ82を中間軸サブアッシー84に組み付けたときの説明図(側面図)である。
【符号の説明】
【0043】
10 治具昇降装置、11 おもり、12 装置架台、13 テーブル、13a 脚、14 支柱、15 天板、16 チェーン、17 滑車、18 ガイド棒、19 ショックアブソーバ、21 パレット、21a ケース支持リング、22 ローラコンベア、23 コンベア架台、24 ローラ、25 スライダ、25a リニアブッシュ、26 アーム、27 操作ハンドル、30 水平板、31 ツバ付きリング、32 リニアブッシュ、33 ロッド、34 水平板本体、35 治具、36 作動リング、37 カラー、38 キャップボルト、38a 部品押圧部、39 リニアブッシュ、40 軸挿入筒、41 ワッシャ、42 部品保持筒、43 ボールプランジャ、45 ベース部材、45a テーパ面、46 リニアブッシュ、47 小アーム、48 突起、50 フローティング機構、51 L字板、52 水平板支持片、53 スラストベアリング、54 ピン、55 規制板、60 組付確認フラグ、61 ステー、62 支点ピン、63 シーソー、80 ATケース、80a ケース開口部、80b ケース段差部、80c 嵌合穴、82 ワンウェイクラッチ、84 中間軸サブアッシー、84a 中間軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架台と、
前記架台の下方に設けられ機器用ケースを支持するケース支持台と、
前記ケース支持台に対して上下動可能なように前記架台に取り付けられ、上向きの力が付与されて支持される移動体と、
前記移動体に取り付けられた水平板と、
該水平板から下方に延びるロッドの下端に取り付けられ、前記機器用ケースの内部に部品を組み付けるか又は該機器用ケースの内部の部品の検査を行う治具と、
前記ロッドに上下動可能に取り付けられ、前記機器用ケースの予め定められた基準位置にセットされるまでは前記治具と連動して上下動可能であり、前記基準位置にセットされたあとは前記治具が上下動しても該治具と連動せず前記基準位置に保持されたままとなるベース部材と、
前記移動体と前記水平板との間に設けられ、前記移動体に対して前記水平板が水平方向に微動するのを許容するフローティング機構と、
を備えた治具昇降装置。
【請求項2】
前記フローティング機構は、前記移動体と前記水平板との間にスラストベアリングを設け該スラストベアリングに上下方向のピンを遊嵌した構造を有する、
請求項1に記載の治具昇降装置。
【請求項3】
前記フローティング機構は、前記移動体と前記水平板との間にリモート・センタ・コンプライアンス機能を持つデバイスを配置した構造を有する、
請求項1に記載の治具昇降装置。
【請求項4】
前記ケース支持台は、水平面上の所定方向に微動可能であり、
前記フローティング機構は、水平面上の方向であって前記所定方向に略直交する方向にのみ前記水平板が微動するよう規制する、
請求項1〜3のいずれかに記載の治具昇降装置。
【請求項5】
前記フローティング機構は、前記水平板の微動を規制するにあたり、前記所定方向と略直交する2つの規制板により該水平板を挟み込む構造を有する、
請求項4に記載の治具昇降装置。
【請求項6】
前記ベース部材は、所定位置に係止部を有し、
前記機器用ケースは、前記基準位置に前記ベース部材が収まったときに前記係止部と係止し合う被係止部を有する、
請求項1〜5のいずれかに記載の治具昇降装置。
【請求項7】
前記ベース部材は、周縁部分のうち厚さ方向の略下半分が上から下にかけて小径となるテーパ状に形成されている、
請求項1〜6のいずれかに記載の治具昇降装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の治具昇降装置であって、
前記治具が前記ベース部材から独立して下方に移動して前記機器用ケースの内部の所定の下方位置に到達したときに前記移動体により押圧されて前記治具が前記所定の下方位置に到達したことを報知する報知機構
を備えた治具昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−143679(P2008−143679A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334763(P2006−334763)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)