説明

治験データ効果推定装置

【課題】薬剤や特定保健用食品等の効果を推定する際に、健常者の治験データが治験全体に影響を及ぼしている領域と、軽度疾病者の治験データが治験全体に影響を及ぼしている領域との境界点を推定すること、そして、治験データが少なくても、摂取した薬剤等の効果を適切に推定することが可能な治験データ効果推定装置を提供する。
【解決手段】健常人データを含む治験データを処理する演算処理部と、該治験データの処置条件、処置前値、処置後値を記録する治験データファイルと計算プログラム等を記録するプログラムファイルから成るデータ格納部を有する治験データ効果推定装置であって、前記演算処理部は、前記処置前値に基づきデータ処理範囲と刻み幅を設定して得られた変曲点候補値設定手段と、前記計算プログラムの第1モデル式に前記変曲点候補値と治験データを代入して得られた結果から最適変曲点を決定する変曲点決定手段を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤等の臨床検査結果及び特定保健用食品、栄養機能食品等の効果検証実験結果の数値データに対して、それらの薬剤や食品等の効果が現われる領域を推定して、該薬剤や食品等を有効に利用することが可能な治験データ効果推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
治験における試験デザインの1つである並行群間比較試験は、現在、最も一般的な試験デザインで、薬剤、治療方法の効果を評価するため、被験者を処置群(処置を受ける群)と対象群(処置を受けない群)に無作為に割り付け、各群同時並行に指定された期間の間、摂取又は投与し、結果を比較評価して、薬剤、治療方法の効果を検討する方法である。
通常は、二重盲検法によって行われる場合が多く、並行群間比較試験は二重盲検法が代表的な試験デザインとなっている。
【0003】
二重盲検法とは、例えば、本物の薬(評価対照薬)と全く本物と同じに構成された偽薬(対照薬)の2種類を準備して、被験者が試験に用いるものが評価対象薬あるいは対照薬であるかを判らないようにして、処置群と対照群に無作為に割り付けて並行群間比較試験を行い、このことにより思い込みによる効果を排除して信頼性のあるデータを採る方法である。
【0004】
ところで、近年、市場では多種多様なダイエット食品や食品素材が登場しており、例えば、インドや東南アジアに生育するオトギリソウ科の植物であるガルシニアもその一例である。このガルシニアは、(1)体内での脂肪の合成、蓄積を防ぐ、(2)体内に蓄積された脂肪の酸化・分解を促進する、(3)セロトニン等のホルモン作用を変化させて食欲を抑制する、これらの抗肥満作用があると考えられている。ガルシニアの乾燥果皮中には多量のヒドロキシクエン酸(HCA)が含まれていて、このHCAは上記した作用に影響を与えていると考えられており、肥満抑制用食品として多くのダイエット食品やサプリメントに利用されている。
【0005】
前記ガルシニアのHCAの効果を確認するために色々な条件で動物、ヒトによる前記並行群間比較試験が行われている。
例えば、ヒトによる並行群間比較試験として、食事を制限しない場合の実験を行い、肥満傾向がある健康な男女を被験者として、ガルシニア錠摂取群(HCA摂取量1,000mg/日)とプラセボ錠摂取群にわけ、8週間摂取した時の脂肪蓄積に及ぼす効果の検討を行い、内臓脂肪面積と皮下脂肪面積を測定したところ、プラセボ群と比較して内臓脂肪面積値の高いヒトでのみ、内臓脂肪面積値が低下したが、体重、BMI、体脂肪率では変化がなかったことが報告されている。
【0006】
食事を規定した場合の実験を行い、肥満又は肥満の兆候を示す健康な女性をHCA群とプラセボ群に振り分け、HCA群は、HCAを250mg含むゼリー飲料を食事の前に1日3本、12週間、1日の摂取エネルギーが1,800kcal以下の食事を摂取した。体重、腹部CTスキャンによる、脂肪面積は、内臓脂肪面積、皮下脂肪面積ともにHCA群はプラセボ群と比較して減少したことが報告されている(非特許文献1参照)。
なお、上記内臓脂肪面積等の実験データは、治験データと同様の前記並行群間比較試験で得られたデータであるから、この実験データは治験データと等価なものとして取り扱いができるので、総称して「治験データ」という。
【0007】
【非特許文献1】「食品有効性評価及び健康有効評価プロジェクト解説集 ガルシニアについて」、荻野 聡美等、国立健康・栄養研究所、2006.1.12、http://www.nih.go.jp/eiken/chosa/saito.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した非特許文献1の報告は、従来からHCAのような素材が奏する作用を解析するのに、薬剤の効果を判定する方法として一般的な手法である線形解析法を用いてHCAの効果の推定を行っている。例えば、t検定等の手法で有意確率の検定が行われている。
ところで、近年、特定保健用食品や栄養機能食品に対して、その効果を臨床的に研究する試みが始まっている。健常人も利用することから、被験者は健常人を含む軽度疾病者や疾病境界域者(以下「軽度疾病者等」という。)を対象とするために、前記従来の線形解析法では、健常者の処置前の内臓脂肪面積、年齢、BMI等のベースラインデータが試験全体に影響を及ぼす可能性が大きく、それらの食品の効果を適切に解析できない状況にある。
この状況が起こる理由は、元来、健常なヒトは内臓脂肪面積が大きくなく適切な量なので、ガルシニア錠を摂取したとしても内臓脂肪面積が減少することが無い。つまり変化なしという結果となる。上記実験例では、内臓脂肪面積が減少することが効果ありと判断されるため、健常者の変化なしという結果は、計算上は効果なしと判断される。統計解析時にはこうした「変化なし」のデータも含めて計算するので、ガルシニア錠の摂取の効果を証明するのが難しくなる。
【0009】
そこで、本発明は、かかる問題点を解決すべくなされたもので、その技術的課題は、薬剤や特定保健用食品等の効果を推定する際に、健常者の治験データが治験全体に影響を及ぼしている領域と、軽度疾病者の治験データが治験全体に影響を及ぼしている領域との境界点を推定すること、そして、治験データが少なくても、摂取した薬剤等の効果を適切に推定することが可能な治験データ効果推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明の治験データ効果推定装置は、健常人データを含む治験データを処理する演算処理部と該治験データの処置条件、処置前値、処置後値を記録する治験データファイルと計算プログラム等を記録するプログラムファイルから成るデータ格納部を有する治験データ効果推定装置であって、前記演算処理部は、前記処置前値に基づきデータ処理範囲と刻み幅を設定して得られた変曲点候補値を前記治験データファイルに記録する変曲点候補値設定手段と、前記計算プログラムの第1モデル式に前記変曲点候補値と治験データを代入して得られた結果を前記治験データファイルに記録し、その結果から最適変曲点を決定する変曲点決定手段を備えたことを特徴とする。
同様に、本発明の請求項2に係る発明の治験データ効果推定装置は、更に、前記最適変曲点を前記第1モデル式に代入し、有意確率を検定する有意確率判定手段を備えたことを特徴とする。
本発明の請求項3に係る発明の治験データ効果推定装置は、前記データ処理範囲が前記処置前値のデータの中で最小値と最大値であることを特徴とする。
本発明の請求項4に係る発明の治験データ効果推定装置は、前記最適変曲点が前記治験データファイルに記録された前記変曲点候補値と治験データを代入して得られた結果の最小値又は最大値であることを特徴とする。
本発明の請求項5に係る発明の治験データ効果推定装置は、前記治験データ効果推定装置がコンピュータネットワーク網を介してコンピュータ端末に接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の治験データ効果推定装置は、健常者の治験データが治験全体に影響を及ぼしている領域と、軽度疾病者等の治験データが治験全体に影響を及ぼしている領域との境界点が的確に推定することが可能となった。
そして、治験データが少なくても、摂取した薬剤等の効果を適切に推定することが可能となった。
更に、内臓脂肪型肥満に近い対象者に対しては、ガルシニアが抗肥満作用のあることを容易に推定でき、治験データ中に健常者データが含まれていても、その健常者データによる影響を受けることなく、ガルシニアの抗肥満作用の効果を推定することが可能となった。
そして、新しく開発された食品に対して、無害なものを的確に排除すると共に有益なものを的確に選定することができる。
また、本発明の治験データ効果推定装置は、被験数を少なくすることができるので、データ格納部の容量を少なくできると共に、演算処理の処理時間も大幅に少なくできる。そのことにより、多数の被験者試験、治験データ収集、そのデータ解析等にかかる時間及び経費を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一つの実施形態である治験データ効果推定装置3を詳細に説明する。
図1は、本発明の治験データ効果推定装置3(以下、「推定装置3」という。)に用いられるコンピュータネットワーク網5を示す概念図である。推定装置3は演算処理部1とデータ格納部2から構成されており、又このコンピュータネットワーク網5は、企業又は大学等に設置されている推定装置3と利用者のコンピュータ端末4とをインターネット用コンピュータネットワーク網5を介して接続されている。
【0013】
なお、推定装置3が企業内に設置されていて、各社員がコンピュータ端末4を用いて利用する場合、インターネット用コンピュータネットワーク網5に代えて企業内イントラネットを介してコンピュータ端末4に接続しても良い。その場合には、コンピュータ端末4は入力機能と出力機能を有する入出力部を備える装置として用いられている。また、コンピュータ端末4をコンピュータネットワーク網5に接続させずに、スタンドアロンのコンピュータ端末4であっても良い。その場合には、コンピュータ端末4は演算処理部1、データ格納部2及び入出力部から構成されている。
【0014】
図2は、本発明の一つの実施形態である推定装置3の機能ブロック図である。同図に示すように本発明の推定装置3は、以下に詳述する変曲点候補値設定手段1a、変曲点決定手段1b及び有意確率判定手段1cの三つの機能を備える演算処理部1及び治験データファイル2a及びプログラムファイル2bを備えるデータ格納部2から構成されている。治験データファイル2aには被試験者の処置前、処置後の治験データ等が記録され、プログラムファイル2bには、治験データを演算処理するプログラムと演算式が記録されている。
【0015】
前記演算処理部1の三つの機能については、図4、図5及び図8に基づいて後に詳述するので、ここでは、三つの機能の概要について説明する。
前記演算処理部1の変曲点候補値設定手段1aは、コンピュータ端末4から送信されたID番号、処置条件、処置前値及び処置後値を受信して、該処置前値に基づきデータ処理範囲と刻み幅を設定して得られた変曲点候補値を記録する機能を有している。
前記演算処理部1の変曲点決定手段1bは、前記計算プログラムの第1モデル式(1)に変曲点候補値を代入し、治験データを代入して得られた演算結果より最適変曲点を決定する機能を有している。
前記演算処理部1の有意確率判定手段1cは、従来から行われている有意確率を判定する手法であって、前記最適変曲点を、前記第1モデル式に代入して得られた第1代入モデル式を用いて、有意確率を検定する機能を有している。
【0016】
発明者は本発明の推定装置3のプログラムの一例として、R又はS−Plus数値計算プログラムを用いて治験データの効果を推定するための演算処理を行っているが、本発明の推定装置3はこのプログラムに限定されるものではない。
前記数値計算プログラムで用いられる第1モデル式(1)は以下のものである。
= β+β(x)+βI(x>xbp)(x−xbp)gi+εi‥‥(1)
ここでiはID番号(i = 1,…..,n)、giは2値の処置条件、xiはi番目の処置前値、xbp は任意に設定した処置前値内の変曲点候補値、y i はi番目の処置後値、εiはある確率分布に従う誤差である。βは定数項、β、βは係数、Iは指示関数であることを示す記号である。前記第1モデル式(1)は、上記したようにデータ格納部2のプログラムファイル2bに記録されている。
【0017】
図3は、コンピュータ端末4から送信された治験データを記録するデータファイル2aのデータ構造を示す図である。
一例として、前記抗肥満作用のあるガルシニアを含む食品の効果をヒトで検証したデータを用いてデータファイル2aのデータ構造を説明する。
前記データファイル2aは特定の複数の項目からなり、その複数の項目は少なくとも治験データのID番号、処置条件、処置前値、処置後値の情報が含まれる。ID番号の項目には、被試験者を特定する情報が記録され、処置条件の項目には、プラセボ群を0、ガルシニア投与群を1として何れかの数値が記録され、処置前値の項目には、被試験者の処置前の内臓脂肪面積(cm2)が、処置後値の項目には、被試験者の処置後の内臓脂肪面積(cm2)が記録されている。
【0018】
ここに示した治験データは、前記第1モデル式(1)で説明したID番号にはi、gには2値の処置条件、xiにはi番目の処置前値、yiにはi番目の処置後値の各情報が、前記変曲点決定手段1bが処理する情報として用いられる。
そして、図3の処置条件の項目から、ガルシニア投与群が15例、プラセボ群が15例の合計30例が治験者であことが分かる。そして、その各群には軽度疾病者等と健常者がそれぞれ含まれている。
【0019】
図4は、推定装置3が備える変曲点候補値設定手段1a(S1〜S3)、変曲点決定手段1b(S4〜S6)及び有意確率判定手段1c(S7及びS8)が処理する情報の流れ図(フローチャート)である。ここでは、変曲点決定手段1b及び有意確率判定手段1cの概略の情報の処理を説明する。両手段の詳細な情報の処理は後述する図5及び図8に基づいて説明する。
ここで、一例として、抗肥満作用のあるガルシニアを含む食品の効果をヒトで検証した治験データを用いて、処理する治験データの流れを説明する。
図3に示すように、本適用例は対照群としてプラセボ群が15例、処置群であるガルシニア投与群が15例の合計30例を対象として、二重盲検法を用いて検証を行っている。効果の指標として内臓脂肪面積を採用し、処置前の面積が処置後に減少変化するか否かを検証した。内臓脂肪面積の治験データは各群投与前および投与後の治験データが図3の処置前値、処置後値として示されている。処置の項目には、上記したようにプラセボ群を0、ガルシニア投与群を1として記録されている。この治験データを用いて推定装置3が処理する情報の流れを以下に説明する。
【0020】
推定装置3は、コンピュータ端末4から送信されたID番号、処置条件、処置前値及び処置後値を受信して、それらの情報を治験データファイル2aに記録し(S1)、次に、処置前値のデータの中で最小値と最大値を選定して、演算処理するデータの範囲(以下、「データ処理範囲」という。)を設定し(S2)、処置前値のデータの有効桁に合わせて刻み幅を設定して、データ処理範囲のデータをその刻み幅で設定して得られた変曲点候補値を治験データファイル2aに記録する(S3)。この例では、最小値が26.2で最大値が150.7であるから、データ処理範囲は26.2〜150.7であり、有効桁0.1に合わせて刻み幅は0.1であるからデータ処理範囲の26.2〜150.7のデータを0.1の刻み幅で設定された変曲点候補値、即ち、26.2、26.3、26.4、26.5・・・・150.6、150.7を治験データファイル2aに記録する。
上記S1〜S3までの情報を処理する機能、即ち、前記処置前値に基づきデータ処理範囲と刻み幅を設定して得られた変曲点候補値を記録する機能を「変曲点候補値設定手段」1aという。
【0021】
そして、推定装置3は、前記プログラムファイル2bからR又はS−Plus数値計算プログラムを呼び出して、前記治験データファイル2aに記録された変曲点候補値の最小値から最高値までの値を、順次に第1モデル式(1)に代入して演算処理を行い、その結果を治験データファイル2aに記録して(S4)、データ処理範囲の演算が終了したか判断をし(S5)、終了していなければS4に戻り次の値を同様に演算して、終了するまで同様な処理を繰り返し、終了(Yes)と判断されれば、治験データファイル2aに記録された前記演算結果の中から、最適変曲点(xbp)として決定する(S6)。
このように、変曲点候補値に基づいて最適変曲点(xbp)を決定するので、データ処理範囲のデータをその刻み幅で設定して得られた値を「変曲点候補値」という。
そして、上記S4〜S6の情報を処理する機能、即ち、第1モデル式に前記変曲点候補値と治験データを代入して得られた結果から最適変曲点を決定する機能を「変曲点決定手段」1bという。
【0022】
次に、前記最適変曲点(xbp)、例えば、85.7の場合であればその値を、前記第1モデル式(1)に代入して得られた式、即ち、y= β+β(x)+βI(x>85.7)(x−85.7)gi+εiを作成して、治験データをその式に代入し線形モデルを用いて各係数(β、β、β)を演算する(S7)。その後にβよりp値を求めて有意確率を検定する(S8)。上記代入して得られた式を「第2代入モデル式」と称する。
上記S7及びS8の情報を処理する機能、即ち、前記最適変曲点を前記第1モデル式(1)に代入して得られた第2代入モデル式に治験データを代入し、線型モデルを用いて有意確率を検定する機能を「有意確率判定手段」1cという。
【0023】
図5は、上記のステップS4〜S6を詳細に説明した情報の流れ図(フローチャート)である。
前記ガルシニア例を用いてその詳細なフローチャートを説明する。最初に、データ処理範囲の26.2(最小値、IDが12)から150.7(最大値、IDが5)までの変曲点候補値を順次に第1モデル式(1)に代入する(S4−1)。従って、第1モデル式(1)に変曲点候補値である26.2を代入して、y= β+β(x)+βI(x>26.2)(x−26.2)gi+eとし、その第1モデル式(1)の各y、x、giに対して、治験データの28.5、26.2、1を各々代入する(S4−2)。代入して得られた結果を統計モデルの良さを評価するための指標である情報量基準の一つであるAICに代入して(S4−3)、その演算結果を治験データファイル2aに記録する(S4−4)。
【0024】
ここで、AIC(Akaike's Information Criterion)は、赤池情報量規準と呼ばれ、統計モデルの良さを評価するための指標である。
AICの公式は次の通りである。

ここでLは最大尤度、kは自由パラメータの数である。AICは低い値ほど統計モデルのあてはまりが良いことを示す。従って、変曲点候補値の中から、AICを用いて最適変曲点を決定するには、AICが最小値を示すときの値を探すこととなる。
他に、統計モデルの良さを評価するための指標である情報量基準として、残渣平方和、尤度比検定を用いて評価しても良い。これらの残渣平方和、尤度比検定も統計モデルの良さを評価するための指標の例である。
【0025】
データ処理範囲の演算が全て終了したかの判断を行い(S5−1)、終了していなければ次の刻み幅である0.1だけ高値である26.3を呼び出して同様の演算処理を行い(S5−2)、S4−2からS5−1まで同様な演算処理を繰り返し、データ処理範囲である、150.7までを前記第1モデル式(1)に代入して、その演算結果を治験データファイル2aに記録して処理を終了する(S5−1)。このケースでは、1246個の変曲点候補値に対応して1246個のAICの演算結果が治験データファイル2aに記録される。
【0026】
治験データファイル2aに記録された1246個のAICの演算結果の中から、AIC = 242.3488が最小値でそのときのxbpは85.7であることが判別され、最適変曲点は85.7と決定する(S6−1)と共に、後述する図7に示す最適変曲点を示す最適変曲点画像がコンピュータ端末に送信され(S6−2)、次のステップに行く。この最適変曲点画像の送信は必要に応じて任意に選択できるものである。
なお、残渣平方和又は尤度比検定で最適変曲点を求めた場合には、残渣平方和の場合は最小値を、対数尤度の場合は最大値を指標とする。
上記S4〜S6までの情報を処理する機能、即ち、第1モデル式(1)に変曲点候補値を代入し、治験データを代入して得られた演算結果より最適変曲点を決定する機能を「変曲点決定手段」1bという。
【0027】
図6は、変曲点候補値とAICの値を示すデータ構造を示す図である。
上述したように、データ処理範囲の26.2(最小値、IDが12)から150.7(最大値、IDが5)までの変曲点候補値を第1モデル式に代入して得られた演算結果を記録するデータファイル2aのデータ構造を示す図である。
図6に示すデータ構造は変曲点候補値とAICの項目からなっており、変曲点候補値の項目には、データ処理範囲の最小値である26.2から0.1刻みで変曲点候補値の値が記録され、AICの項目には、第1モデル式から得られた演算結果が前記変曲点候補値の値に対応して記録されている。
【0028】
図7は、ステップS6における、治験データファイル2aに記録された演算結果(Y軸)と変曲点候補値(X軸)との関係をグラフ化した図である。
X軸は処置前値の1246個の変曲点候補値の値を示し、Y軸は該処置前値の1246個の変曲点候補値に対応するAICの値を示すもので、そのX軸及びY軸の値を図面に記載した太線が演算結果(Y軸)と変曲点候補値(X軸)との関係を示すグラフである。図6から分かるように、Y軸のAICの値 242.3488が最小値でそのときのX軸のxbpが85.7であるから、最適変曲点は85.7と決定される。
【0029】
図8は、ステップS7を詳細に説明した情報の流れ図(フローチャート)である。
ステップS6で求められた85.7を前記第1モデル式(1)に代入し、この代入して得られた式を第1代入モデル式(2)と呼ぶ。第1代入モデル式(2)は以下のとおりに表される。
=β+β(x)+βI(x>85.7)(x−85.7)gi+e‥‥(2)
【0030】
図9は第1代入モデル式(2)を示した図である。
前記第1代入モデル式(2)は図9の実線で示した折れ線であり、処置前値85.7以降で勾配が変わっていることが分かる。一点鎖線で示した直線は、処置前値85.7前の直線を延長して表示した線である。
図9は、実薬(ガルシニア)群とプラセボ群を比較するために、X軸を処置前値、Y軸を処置後値として、処理条件1の実薬群を黒丸で、処理条件0のプラセボ群を白丸で表示して、図3に示した処置条件に応じて処置前値、処置後値の値を図面に黒丸と白丸を記入して作成したものである。
【0031】
図9に示すように、処置前値が85.7より低い被験者は、実線の勾配に沿うように5個の黒丸と6個の白丸の両群ともが同じような挙動を示しており、実薬群とプラセボ群には変化がほとんど見られない。しかし、処置前値が85.7より高い被験者は、プラセボ群が一点鎖線の勾配に沿うように挙動を示しているのに対して、実薬(ガルシニア)群である9個の白丸がその一点鎖線から外れて折れ線に沿うように挙動を示していることが分かる。即ち、実薬(ガルシニア)群である10個の黒丸では一点鎖線の勾配に沿うような挙動を示さずに、折れ線に沿うような挙動を示すという結果が得られた。
【0032】
次にこの第1代入モデル(2)を用い検定を行う。
前記第1モデル式(1)に最適変曲点(85.7)を代入して(S7−1)、演算処理を行い得られた演算結果の変曲点を代入した後の前記第1代入モデル式(2)に適応する(S7−2)。一般的な線形モデルを用いて各係数の算出及び検定を行う(S7−3)。
前記線形モデルにおいては85.7以降に直線の傾きが変わるかどうかを判定することと同じことを指し、βの値をみると−0.5459±0.14471となり(推定値とその標準誤差)、T値は−3.773である(S7−4)。S7−4よりp値が0.0008であるから、0.05より小さいので有意差ありと判定する(S7−5)。
上記のように有意差を判定することは、従来から行われている有意確率を判定する手法と同じである。
【0033】
上記の実施形態では、AICにより最適変曲点を求めたが、残渣平方和又は尤度比検定で求めても良い。残渣平方和で求めた最適変曲点は最小値で求め、尤度比検定で求めた最適変曲点は最大値で求める。
上記S7の情報を処理する機能、即ち、治験データファイル2aに記録された治験データの最小値を前記情報量基準に代入して有意確率を検定する機能を「有意確率判定手段」1cという。
【0034】
上記した治験データ効果推定装置は、治験データに軽度疾病者等と健常人の治験データが含まれていても、該治験データを所定の刻み幅に設定して、変曲点候補値を演算処理して得た結果を治験データファイルに記録し、第1モデル式に前記変曲点候補値に代入して当てはまりの良さを演算して、その結果を治験データファイルに記録し、その結果の中から最小値を最適変曲点として決定できる。そのことにより、例えば、内臓脂肪型肥満に近い対象者に対しては、ガルシニアが抗肥満作用のあることを的確に推定でき、治験データ中に健常者データが含まれていても、その健常者データによる影響を受けることなく、ガルシニアの抗肥満作用の効果を推定することが可能となった。
【0035】
前記有意確率判定手段により、p値が0.0008で0.05より小さいので有意差ありと判定されたことは、一般的に0.05の値より二桁小さい有意差を得られていることから、被験数を少なくしたとしても0.05より小さい有意差を得られる。従って、被験数を少なくできれば治験データ数が少なくなり、データ格納部に治験データを記録する容量を少なくできると共に、演算処理の処理時間も少なくすることができる。そのことにより、多数の被験者試験、治験データ収集、そのデータ解析等にかかる時間及び経費を大幅に低減することができる。
【0036】
ここで、本発明の治験データ効果推定装置の技術的特徴を更に明確にするために、図9を用いてその技術的特徴を説明する。
最初に、上述したように、特定保健用食品や栄養機能食品に対してその効果を解析するために、被験者は軽度疾病者等と健常人が含まれており、それを対象として臨床的に研究が行われていることは既述した通りである。
図9に示す実薬(ガルシニア)群とプラセボ群の30個の治験データを用いて、ガルシニアの効果を従来の線形解析法で解析したとすると、実薬(ガルシニア)群(黒丸)とプラセボ群(白丸)の中に健常人が含まれているから、その効果を検定した結果は、有意確率(p値)が5%より大と検定されてしまい、上記したように有意確率(p値)が5%より小であるにもかかわらず、従来の方法では適切に解析できない。
【0037】
上記解析できない理由は、上記したように、従来の線形解析法では、健常者の処置前の内臓脂肪面積、年齢、BMI等のベースラインデータが試験全体に大きな影響を及ぼしているために、例えば、健常者の処置前の内臓脂肪面積が処置後に減少した場合に、ガルシニアの効果を適切に解析できないことが起こるためである。
具体的な結果を表1に示す。即ち、本発明法で得られたp値は0.0008で、「有意差あり」と判定できる結果であるのに対して、従来法である『t検定』や『差分データ解析を行ったt検定 』や、『共分散分析法 』を用いた場合、一般的に有意差ありと判定される0.05よりも高い値となり、「有意差なし」と判定される。
【0038】
【表1】

【0039】
本発明の治験データ効果推定装置は、軽度疾病者等と健常人が含まれる治験であっても、前記健常者の処置前の内臓脂肪面積、年齢、BMI等のベースラインデータに影響されずに、例えば、ガルシニアの効果を適切に推定することが可能となった。
【0040】
厚生労働省の認可を必要とする特定保健用食品及び栄養機能食品に対して、その効果の適切な治験データを該厚生労働省に示すために、本発明の治験データ効果推定装置は、新しく開発される各種食品に含まれる剤が奏する作用・効果、例えば、体脂肪低減効果、抗酸化作用、抗ガン作用、高血圧低下作用、血糖値上昇抑制作用等の作用・効果を、的確に推定することができ、新しい食品の開発に応じてその作用・効果の有無を的確に推定することにより、無害なものを的確に排除すると共に有益なものを的確に選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】治験データ効果推定装置に用いられるコンピュータネットワーク網を示す概念図。
【図2】治験データ効果推定装置の機能ブロック図。
【図3】コンピュータ端末から送信された治験データを記録するデータファイルのデータ構造図。
【図4】治験データ効果推定装置が備える変曲点候補値設定手段、変曲点決定手段及び有意確率判定手段が処理する情報の流れ図。
【図5】ステップS4〜S6を詳細に説明した情報の流れ図。
【図6】変曲点候補値とAICの値を示すデータ構造図
【図7】ステップS6における、治験データファイルに記録された演算結果(Y軸)と変曲点候補値(X軸)との関係をグラフ化した図。
【図8】ステップS7を詳細に説明した情報の流れ図。
【図9】第1代入モデル式を示した図。
【符号の説明】
【0042】
1 演算処理部
1a 変曲点候補値設定手段
1b 変曲点決定手段
1c 有意確率判定手段
2 データ格納部
2a 治験データファイル
2b プログラムファイル
3 治験データ効果推定装置
4 コンピュータ端末
5 コンピュータネットワーク網

【特許請求の範囲】
【請求項1】
健常人データを含む治験データを処理する演算処理部と、該治験データの処置条件、処置前値、処置後値を記録する治験データファイルと計算プログラム等を記録するプログラムファイルから成るデータ格納部を有する治験データ効果推定装置であって、
前記演算処理部は、前記処置前値に基づきデータ処理範囲と刻み幅を設定して得られた変曲点候補値を前記治験データファイルに記録する変曲点候補値設定手段と、
前記計算プログラムの第1モデル式に前記変曲点候補値と治験データを代入して得られた結果を前記治験データファイルに記録し、その結果から最適変曲点を決定する変曲点決定手段を備えたことを特徴とする治験データ効果推定装置。
【請求項2】
更に、前記最適変曲点を前記第1モデル式に代入して有意確率を検定する有意確率判定手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の治験データ効果推定装置。
【請求項3】
前記データ処理範囲が前記処置前値のデータの中で最小値と最大値であることを特徴とする請求項1又は2に記載の治験データ効果推定装置。
【請求項4】
前記最適変曲点が前記治験データファイルに記録された前記変曲点候補値と治験データを代入して得られた結果の最小値又は最大値であることを特徴とする請求項1又は2に記載の治験データ効果推定装置。
【請求項5】
前記治験データ効果推定装置がコンピュータネットワーク網を介してコンピュータ端末に接続されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の治験データ効果推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−98860(P2009−98860A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269098(P2007−269098)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)