説明

注液式電池

【課題】正極と負極との間の液絡が確実に抑制された高信頼性の注液式電池を提供する。
【解決手段】電解液8を封入したアンプル9、および積層された複数個の単セルを含む発電部6を備え、発電部に電解液が流入することにより活性化する注液式電池において、単セルを正極、負極および正極と負極との間においてアンプル側に空隙を形成して配されたセパレータで形成し、発電部を単セルの端面がアンプル側に向くように配し、正極および負極の少なくとも一方のアンプル側端面を絶縁層で被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注液式電池に関し、さらに詳しくは、注液式電池の発電部に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、注液式電池は、電解液を収容したアンプルを内蔵し、使用に際して前記アンプルを破壊し、電解液を発電部に供給することにより活性化する。例えば、飛翔体に搭載される場合、その発射に際して加えられる大きな加速度に起因する衝撃によってアンプルが破壊される。そして、同時に飛翔体が受ける回転運動によって遠心力が与えられ、電解液が発電部に流入して電池が活性化する(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
ここで、一般的な注液式電池の一例について説明する。
注液式電池は、一般的に外装ケースを有し、外装ケースの内部には、押さえ板と、スペーサと、それらの間に挟まれた発電部が収容されている。押さえ板、スペーサ、および発電部からなる積層体には、中央部に空洞部が設けられている。
発電部は、例えば、正極、セパレータおよび負極からなる複数の単セルが積層されたものを含む。発電部の中央部には、空洞部が設けられており、その空洞部には、電解液を封入したアンプルが配置される。アンプルは、例えば、アンプルの底面が単セルの積層方向と垂直となるように、空洞部内に配置される。空洞部の上部および下部には、電解液が外部へ漏れないように、例えば鉄板がそれぞれ配されている。
外装ケースの開口部は、電池蓋により封口される。電池蓋には、例えば、発電部の正極に接続される正極端子ピンおよび負極に接続される負極端子ピンを設けられている。
【0004】
外装ケースと、スペーサおよび発電部との隙間には、正極端子ピンおよび負極端子ピンを、発電部の正極に接続する正極リード線および負極に接続する負極リード線が配されている。そして、外装ケースと、押さえ板、スペーサおよび発電部との隙間、ならびにスペーサの上部に樹脂が充填されている。よって、正極リード線および負極リード線、ならびに空洞部の上部に配された鉄板は樹脂で埋め込まれている
【0005】
例えば、単セルの積層方向に電池に衝撃を加えると、アンプルは空洞部の底部に衝突して破壊される。そして、電池に旋回力が与えられると、アンプルの破壊により外部に飛散した電解液は、遠心力によりアンプルの周囲に配された発電部に流入し、電池が活性化する。
しかし、アンプルの破片が遠心力により発電部へ飛散し、正極および負極を含む発電部の空洞部側の表面に付着することがある。この時に余剰の電解液が破片に残留すると、正負極間で液絡を生じる可能性がある。
【特許文献1】特開2004−319176公報
【特許文献2】特開2003−68311号公報
【特許文献3】特開2002−373637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記従来の問題を解決するため、電解液が残留したアンプルの破片が、正極および負極を含む発電部表面に付着しても、正負極間の液絡が確実に抑制される高信頼性の注液式電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の注液式電池は、
電解液を封入したアンプル、および積層された複数個の単セルを含む発電部を備え、前記発電部に前記電解液が流入することにより活性化する注液式電池であって、前記単セルは、前記単セルの積層方向と略平行な方向に積層された正極、セパレータおよび負極を含み、前記発電部は、前記積層方向に略垂直な方向における端面を有し、前記端面は、前記前記アンプルに対向しており、かつ前記端面において前記正極または前記負極の少なくとも一方が絶縁層で被覆されていること、を特徴とする。つまり、本発明においては、発電部は、アンプルに対向する端面を有し、かつ前記端面に露出する前記正極の端または前記負極の端の少なくとも一方が絶縁層で被覆されている。
なお、「略平行な方向」とは、所定の方向に平行な方向であってもよいし、その平行な方向から多少ずれている方向であってもよい。同様に、「略垂直な方向」とは、所定の方向に垂直な方向であってもよいし、その垂直な方向から多少ずれている方向であってもよい。
【0008】
前記端面において、前記正極および前記負極の全てが、絶縁層で被覆されていることが好ましい。つまり、前記発電部は、前記端面に露出する前記正極の端および前記負極の端の両方を被覆する絶縁層を有することが好ましい。
【0009】
本発明の注液式電池の第1の好ましい態様は、前記発電部は、前記積層方向に沿って前記発電部の中央を貫通する空洞部を有し、前記アンプルは、前記空洞部に配されており、前記セパレータは、前記正極の外周縁部と前記負極の外周縁部との間に配されている。つまり、前記セパレータは、前記正極の前記端面に露出した端とは反対側の端部と、前記負極の前記端面に露出した端とは反対側の端部との間に配されている。
【0010】
本発明の注液式電池の第2の好ましい態様は、前記アンプルを収納するアンプル収納部、前記発電部を収納する発電部収納部、ならびに前記アンプル収納部および前記発電部収納部を連絡する注液路および排気路を有する構造体を含み、前記アンプルおよび前記発電部は前記注液路を介して対向するように配されており、前記セパレータは、前記正極の左端縁部、右端縁部および下端縁部と前記負極の左端縁部、右端縁部および下端縁部との間に配されている。つまり、前記発電部に含まれる前記単セルにおいて、前記正極、前記セパレータおよび前記負極は、前記アンプル収納部から前記発電部収納部へ向かう方向とは略垂直方向に積層されており、前記セパレータは、前記正極の縁と前記負極の縁との間に、前記アンプル収納部と対向する前記正極の縁と前記負極の縁との間を除いて、配されている。
【0011】
上記注液式電池において、絶縁層は、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、および石油アスファルトよりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。なかでも、絶縁層は、石油アスファルトを含むことがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0012】
発電部を構成する各単セルにおける正極および負極の少なくとも一方のアンプル側端面がそれぞれ絶縁層で被覆されているため、電解液が残留したアンプルの破片が正極および負極を含む発電部表面に付着することにより生じる正負極間の液絡を確実に防ぐことができ、高信頼性の注液式電池が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施の形態1)
本発明の注液式電池の第1の好ましい態様として、衝撃が加えられると同時に旋回することにより電解液が発電部に流入するタイプ(旋回仕様)の注液式電池を、図1〜3を参照しながら説明する。なお、図1において、絶縁層は省略している。
本実施形態の注液式電池は、例えば、有底円筒状の外装ケース1を有する。前記外装ケース1は、例えば金属で構成される。外装ケース1の開口部は、端子ピン2aおよび2bを設けた電池蓋3により封口されている。電池蓋3の構成材料としては、例えばフェノール樹脂が挙げられる。
【0014】
外装ケース1の内部には、例えば金属製の押さえ板4と、例えばポリエチレン製のスペーサ5と、それらの間に挟まれた発電部6とからなる円筒状の積層体が収容されている。前記積層体の中央部には、押さえ板4と発電部6とスペーサ5の積層方向に沿って発電部6(すなわち積層体)を貫通するように、空洞部7が設けられている。空洞部7には、電解液8が封入された円筒状のアンプル9が配置されている。電解液8としては、例えば、過塩素酸水溶液が挙げられる。
【0015】
発電部6は、図1に示す矢印の方向に略平行な方向において、中央部に開口を有する円盤状の複数の極板25と複数のセパレータ24とを交互に積層することにより構成された複数の単セル26からなる。発電部6の空洞部7は、複数の極板25が積層されたときに、各極板25の有する開口によって形成される。
【0016】
ここで、図2は本発明の一実施形態に係る注液式電池に含まれる発電部6の上面図であり、図3は、図2におけるX−X方向の要部断面図である。
発電部6を構成する単セル26は、例えば二酸化鉛からなる正極23と、例えば鉛からなる負極21と、正極23および負極21の間に空隙を形成して配されるセパレータ24とからなる。単セル26間には導電性を有する基板22が配され、この基板22により各単セル26は直列に接続されている。したがって、極板25を構成する負極21、基板22および正極23も、中央部に開口を有する円盤状である。
この発電部6を作製する際には、例えば、ニッケル等からなる基板22の一方の面を二酸化鉛で被覆して正極23を形成し、基板22の他方の面を鉛で被覆して負極21を形成して得られる極板25を用いることができる。
【0017】
上記のように、押さえ板4とスペーサ5と発電部6とからなる円柱状の積層体の中央部には、空洞部7が設けられている。図1において、発電部6は、空洞部7に収納されたアンプルに対向する端面を有する。前記端面は、正極23、セパレータ24、および負極21の積層方向に略垂直な方向に位置する。つまり、前記端面の法線方向と、正極23、セパレータ24、および負極21の積層方向とは、略垂直となっている。
また、前記端面には、正極の厚さ方向に略平行な端面および負極の厚さ方向に略平行な端面が露出している。
【0018】
リング状のセパレータ24は、正極23の外周縁部と負極21の外周縁部との間に配される。つまり、前記セパレータは、前記正極の前記端面に露出した端とは反対側の端部と、前記負極の前記端面に露出した端とは反対側の端部との間に配されている。
図3に示されるように、これら正極23、負極21およびセパレータ24により、電解液が流入する凹部28が形成されている。そして、発電部6は、単セルの積層方向に略垂直な方向における発電部6(各単セル26)の内側の端面がアンプル9に対向するように配されている。すなわち、各単セル26の凹部28の開口部が空洞部7側に向くように、発電部6が配されている。
【0019】
発電部6のアンプルに対向する端面、つまり極板25の空洞部7側(アンプル9側)の端面には、当該端面全体を覆う絶縁層27が設けられている。すなわち、各極板25における正極23、負極21、および基板22の空洞部7側の端面が、それぞれ絶縁層27で覆われている。これにより、アンプル9の破片が正極23および負極21を含む発電部6の内周面に付着し、そこに余剰の電解液が残留することにより生じる正極23と負極21間の液絡(単セル26間の短絡)を確実に防止することができる。なお、絶縁層27は連続膜状であるのが好ましい。
【0020】
絶縁層27を構成する材料は、正極と負極との液絡を防止することができれば、特に限定されない。例えば、絶縁層27は、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、および石油アスファルトよりなる群から選択される少なくとも1種から構成することができる。
【0021】
なかでも、絶縁層27は、石油アスファルトを含むことが好ましい。例えば、このような絶縁層は、主剤である石油アスファルト(ブロンアスファルト)と、ポリブテンと、キシレンとの混合物から構成することができる。
【0022】
前記混合物の粘度は0.5〜5Pa・sとすることが好ましい。このような混合物を用いることにより、塗布の量のバラツキが少なく、均一かつ安定な塗布状態を保つことができる。なお、前記混合物の粘度は、例えば、各成分の混合比を適宜調節することにより制御することができる。
【0023】
絶縁層27の厚さは、例えば、200〜500μmである。絶縁層27の厚さが200μm未満でる場合、絶縁の効果が十分に得られない可能性がある。絶縁層27の厚さが500μmより大きい場合、電解液の極板への流入が妨げられる可能性がある。よって、電池特性が低下することがある。
ここで、絶縁層27の厚さとは、絶縁層27が設けられた端面の法線方向における厚さである。
【0024】
絶縁層27は、例えば、発電部6を構成する前に、極板25の端面に絶縁剤として塩化ビニル系接着剤またはシリコーン系接着剤を塗布することにより形成することができる。このときの塗布量は、例えば1.95〜2.05ml/mm2である。
【0025】
極板25の厚さは、例えば、0.13〜0.17mmである。
セパレータ24の厚さ(即ち、正極23と負極21との距離)は、例えば0.1〜0.5mmである。
【0026】
空洞部7の上部および下部には、電解液8が外部へ漏れないように鉄板10aおよび10bが配されている。外装ケース1とスペーサ5および発電部6との隙間には、端子ピン2aおよび2bと発電部6とを接続するリード線11aおよび11bが配されている。そして、外装ケース1と、押さえ板4、スペーサ5、および発電部6とのそれぞれの隙間、ならびにスペーサ5の上部に、樹脂12が充填されている。よって、リード線11aおよび11b、ならびに空洞部7の上部に配された鉄板10aは、樹脂12で埋め込まれる構成となっている。また、樹脂12は外装ケース1を封口するための電池蓋3を接着する役割も兼ねている。スペーサ5には、例えば、ポリエチレン、塩化ビニル樹脂、またはフッ素樹脂が用いられる。
【0027】
以下、本実施の形態の注液式電池の動作について説明する。図1の矢印の方向に電池に対して発射衝撃を加えると、アンプル9は空洞部7の底部に衝突して破壊される。そして、電池に旋回力が与えられると、アンプル9の破壊により外部に飛散した電解液8は、遠心力によりアンプル9の周囲に配された発電部6の凹部28に速やかに流入する。これにより、電池が活性化して、電圧が生じる。
【0028】
このとき、電解液が残留したアンプル9の破片が正極23および負極21を含む発電部6の内周面に付着しても、正極23および負極21の端面が絶縁層27で覆われているため、正極23と負極21間の液絡を確実に防止することができる。
本実施の形態では、各極板25の空洞部7側の端面全体に絶縁層27が設けられているが、絶縁層27は、各極板25の空洞部7側の端面に露出した正極23の端および負極21の端よりなる群から選択される少なくとも一方に設けられていればよい。
【0029】
(実施の形態2)
本発明の注液式電池の第2の好ましい形態として、発射時の衝撃のみで電解液が発電部に流入するタイプ(無旋回仕様)の注液式電池を以下に説明する。図4は、本発明の別の実施形態に係る注液式電池を概略的に示す縦断面図であり、図5は、図4の注液式電池の5−5線における縦断面図である。なお、図4および5において、絶縁層は示していない。
本実施形態の注液式電池は、電解液を封入したアンプル31と、積層された複数個の単セルを含む発電部32と、構造体34とを、備える。構造体34は、アンプル31を収納するアンプル収納部31a、発電部32を収納する発電部収納部32a、ならびにアンプル収納部31aおよび発電部収納部32aを連絡する注液路38および排気路39を有する。アンプル収納部31aと発電部収納部32aとは、注液路38で連通しているとともに注液路38を介して対向する位置に配されている。
【0030】
構造体34は例えばステンレス鋼製であり、有底円筒形のステンレス鋼製ケース36内に収納されている。そして、構造体34は、上記のアンプル収納部31aおよび発電部収納部32aに加えて、排気路39の一部を形成する排気孔39a、およびアンプル収納部31aと発電部収納部32aとを隔離するアンプル破壊機構35を設置するための空間部35aを有する。
【0031】
アンプル破壊機構35は、例えばステンレス鋼製であり、アンプル収納部31aと発電部収納部32aとを連絡する注液路38、および排気路39の一部を形成する排気孔39b、およびアンプル収納部31a側に設けられた突起部37を有する。排気路39は、排気孔39aおよび39bにより形成されており、突起部37は、アンプル31を破壊するためのものである。
【0032】
アンプル収納部31aには、例えば、過塩素酸水溶液からなる電解液を封入したアンプル31が設置されている。発電部収納部32aには、コの字状のセパレータ54と四角形状の極板55とを、図4に示す矢印Xの方向に垂直な方向(つまり、図5における矢印Zの方向)において、交互に積層することにより構成された単セル複数個からなる発電部32が配されている。
【0033】
ここで、図6は、図4および5に示す発電部32の拡大断面図であり、図7は、図4および5に示す発電部32の斜視図である。発電部32を構成する単セル56は、上記実施の形態1と同様に、例えば二酸化鉛からなる正極53と、例えば鉛からなる負極51と、正極53および負極51の間に空隙を形成して配されるセパレータ54とを含む。単セル56間には、導電性を有する基板52が配され、この基板52により各単セル56は直列に接続されている。発電部32を作製する際には、例えば、ニッケル等からなる基板52の一方の面を二酸化鉛で被覆して正極53を形成し、基板52の他方の面を鉛で被覆して負極51を形成して得られる極板55を用いることができる。
【0034】
そして、コの字状のセパレータ54は、正極53の左端縁部、右端縁部および下端縁部と、負極51の左端縁部、右端縁部および下端縁部とのそれぞれの間に配されている。つまり、セパレータは、正極の縁と負極の縁との間に、アンプル収納部と対向する正極の縁と負極の縁との間を除いて、配されている。このように配置された正極53、負極51、およびセパレータ54により、電解液が流入する凹部58が形成されている。発電部32は、単セル56の積層方向に略垂直な方向における各単セル56の端面が上方(アンプル31側)に向くように、すなわち各単セル56の凹部58の開口部が注液路38側に向くように配されている。アンプル収納部31aと発電部収納部32aとが注液路38によって連通しているとともに、アンプル31および発電部32は注液路38を介して図4に示す矢印Xの方向において対向するように直線状に配されている。
【0035】
図6に示されるように、各極板55の注液路38側(アンプル31側)の端面全体が絶縁層57で覆われている。すなわち、単セルの積層方向に垂直方向に位置し、アンプル31に対向する発電部32の端面(本実施形態においては、単セルの積層方向に平行な発電部32の端面)には、極板55の端が露出しており、各極板55における正極53、負極51、および基板52の注液路38側端面全体が、それぞれ絶縁層57で覆われている。これにより、アンプル31の破片が正極53および負極51を含む発電部32の端面に付着し、そこに余剰の電解液が残留することにより生じる正極53と負極51間の液絡(単セル56間の短絡)を確実に防止することができる。
【0036】
絶縁層57の厚さは、例えば、200〜500μmである。絶縁層57には、実施の形態1と同様のものを用いることができる。また、実施の形態1と同様の方法により絶縁層を形成するこができる。
【0037】
極板55の厚さ寸法は、例えば、0.13〜0.17mmである。
極板55の大きさが上記範囲の場合、セパレータ54の厚さ(即ち、正極53と負極51との距離)は、例えば0.1〜0.5mmであればよい。正極53および負極51の左右端縁部に対応する部分の高さ寸法は極板55の縦の寸法と同じであり、正極53および負極の下端縁部に対応する部分の幅寸法は極板55の横の寸法と同じである。
【0038】
アンプル破壊機構35には、突起部37の周囲に等間隔に例えば4つの注液路38が設けられている。本実施の形態では、図4および5に示すように突起部37の周囲に等間隔に4つの注液路38を設けたが、注液式電池に必要な性能が発揮されるのであれば、注液路の形状や数は特に限定されない。各単セル56に同時かつ均等に電解液を流入させるために、複数の注液路を、各単セル56の上方に、各凹部58の開口部と対向するように設けてもよい。また、注液路の形状としては、注液路の入口を一つとし、内部で分岐させて複数の流路を形成し、出口を複数としてもよい。
【0039】
図4および5に示されるように、アンプル収納部31aの上部および発電部収納部32aの下部には、電解液が外部へ漏れないように仮蓋40がそれぞれ配されている。図5に示されるように、構造体34とケース36との間には、出力端子41aおよび41bと発電部32とを接続する一対のリード線42aおよび42bが配されている。そして、ケース36およびアンプル収納部31aの上部には、ポリエチレンなどの樹脂43が充填され、これによりケース36が封口される。
【0040】
以下、本実施の形態の注液式電池の動作について説明する。図4に示す矢印Yの方向に発射衝撃による力が加わると、アンプル31はアンプル破壊機構35に設けられた突起部37に衝突し、アンプル31が破壊され、封入されていた電解液が外部へ飛散する。そして、アンプル31と発電部32と注液路38が一直線状に配置されているため、無旋回であるが発射衝撃により、電解液は注液路38を通り、発電部32の凹部58内へ流入する(図4中の矢印Xの方向)。これにより、電池が活性化して、電圧を生じる。
【0041】
このとき、電解液が残留したアンプル31の破片が正極53および負極51を含む発電部32の端面に付着しても、正極53および負極51の端面が絶縁層57で覆われているため、正極53と負極51との間の液絡(単セル56間の短絡)を確実に防止することができる。また、電池内部は密閉されているため、発電部収納部32a内に流入した電解液の体積分の空気が、排気路39を通り、アンプル収納部31aへ排気される。これにより、電解液がすばやく発電部32へ流入することができるため、電池を迅速に活性化させることができる。
【0042】
本実施の形態では、アンプル破壊機構35は、アンプル収納部31a側にアンプル31を破壊するための突起部37を有するが、アンプル破壊機構35に突起部37を設けなくても、発射衝撃により受ける力のみで、アンプル31をアンプル破壊機構35の上面に衝突させてアンプル31を破壊することが可能である。また、本実施の形態では、各極板55の注液路38側端面の全体に絶縁層57が形成されているが、絶縁層57は、各極板55の注液路38側端面に露出した正極53の端および負極51の端よりなる群から選択される少なくとも一方に設けられていればよい。
以下に、本発明の実施例を詳細に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0043】
《実施例1》
本実施例においては、上述した図1〜3に示す構造を有する実施の形態1に係る注液式電池を作製した。極板25としては、ニッケル基板22の一方の面に鉛粉を活物質とする負極21を配し、他方の面に二酸化鉛を活物質とする正極23を配したものを用いた。なお、極板25の厚さは0.15mmとした。
そして、極板25の内周側端面全体(すなわち、負極21、正極23および基板22のうちのアンプル9に対向する端面全体)にそれぞれ絶縁剤として塩化ビニル系接着剤を塗布し、絶縁層27を形成した。このとき、絶縁剤の塗布量は2.0ml/mm2であった。電解液8には、過塩素酸水溶液を用いた。
【0044】
上記で得られた極板25と、セルロース製のセパレータ24(厚さ(正極23と負極21との間の距離)0.25mm)とを交互に積層して、図3に示されるような発電部6を構成した。このとき、極板25は8枚用い、これらの極板25は、所定の極板25の正極と、別の極板25の負極とが対向するように配置した。前記セパレータは、正極の前記端面に露出した端とは反対側の端部と、負極の前記端面に露出した端とは反対側の端部との間に配した。
【0045】
《実施例2》
各極板25において、それぞれ正極の内周側端面に塩化ビニル系接着剤を塗布して絶縁層を形成した。すなわち、負極および基板の端面には絶縁層を形成しなかった。この正極を含む発電部を用いた以外は、実施例1と同様の方法により注液式電池を作製した。
【0046】
《実施例3》
極板25の内周側端面全体に、主剤である石油アスファルト(ブロンアスファルト)と、ポリブテンと、キシレンとを含む絶縁剤を塗布して、絶縁層27を形成した。前記絶縁剤の粘度は2Pa・sであり、その塗布量は2.0ml/mm2とした。前記以外は、実施例1と同様の方法により注液式電池を作製した。
ここで、用いた石油アスファルトは、平均分子量が数万〜数十万の多分散性の高分子化合物を含んだ。また、−(C48n−で表され、平均分子量が300〜3,000の範囲にあるポリブテンを用いた。
【0047】
《実施例4》
各極板25において、それぞれ正極の内周側端面に、実施例3で用いた絶縁剤を塗布して絶縁層27を形成した。すなわち、負極および基板の端面には絶縁層27を形成しなかった。この正極を含む発電部を用いた以外は、実施例1と同様の方法により注液式電池を作製した。
【0048】
《比較例1》
極板の端面に接着剤を塗布しない以外は、実施例1と同様の方法により注液式電池を作製した。
【0049】
上記で作製した実施例1〜4の電池、ならびに比較例1の電池について、以下のような電圧の立ち上がり特性の評価を行った。
常温にて、図1中に示す矢印の方向から衝撃を加えてアンプルを破壊するとともに電池を旋回数25000rpmで旋回させた。そして、アンプルに封入されていた電解液が発電部に流入することにより発生した電圧の立ち上がり時間を調べた。このときの負荷電流は50mAとし、各電池の試験数は50個とした。そして、上記で得られた電圧の立ち上がり挙動および電池分解後の極板の調査より、液絡の発生した電池の数を調べた。
結果を表1に示す。なお、表1中の電圧の立ち上がり時間は、アンプルが破壊されてから電圧が4Vに到達するまでの時間とした。
【0050】
【表1】

【0051】
正極の端面が絶縁層で被覆された実施例2の注液式電池は、極板の端面が絶縁層で覆われていない比較例1の注液式電池よりも、電圧の立ち上がりが早く、液絡の発生が抑制された。極板の端面全体が絶縁層で被覆された実施例1の注液式電池では、実施例2の電池よりもさらに優れた電圧立ち上がり特性が得られ、いずれの電池も液絡しなかった。
【0052】
さらに、極板の端面全体が、主剤である石油アスファルト(ブロンアスファルト)と、ポリブデンと、キシレンとを含む絶縁剤で被覆された実施例3の注液式電池、ならびに正極の端面が、前記絶縁剤で被覆された実施例4の注液式電池では、実施例1の電池よりもさらに優れた電圧立ち上がり特性が得られた。さらに、実施例3および4の電池は、液絡も生じなかった。
【0053】
なお、実施例1〜4では、旋回仕様の注液式電池を作製したが、無旋回仕様の注液式電池でも、実施例1〜4の場合と同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の注液式電池は高信頼性を有し、飛翔体に搭載する電源として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態1の注液式電池を概略的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1の注液式電池における発電部の上面図である。
【図3】図2の発電部のX−X方向における要部断面図である。
【図4】本発明の実施の形態2の注液式電池を概略的に示す縦断面図である。
【図5】図4の注液式電池の5−5線における縦断面図である。
【図6】図4の発電部の拡大断面図である。
【図7】図4の発電部の斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
1 外装ケース
2a、2b 端子ピン
3 電池蓋
4、14 押さえ板
5 スペーサ
6 発電部
7 空洞部
8 電解液
9 アンプル
10a、10b 鉄板
11a、11b リード線
12 樹脂
13 網状包装体
21 負極
22 基板
23 正極
24 セパレータ
25 極板
26 単セル
27 絶縁層
28 凹部
31 アンプル
32 発電部
34 構造体
35 アンプル破壊機構
36 ケース
37 突起部
38 注液路
39 排気路
39a、39b 排気孔
40 仮蓋
41a、41b 出力端子
42a、42b リード線
43 樹脂
51 負極
52 基板
53 正極
54 セパレータ
55 極板
56 単セル
57 絶縁層
58 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液を封入したアンプル、および積層された複数個の単セルを含む発電部を備え、前記発電部に前記電解液が流入することにより活性化する注液式電池であって、
前記単セルは、前記単セルの積層方向と略平行な方向に積層された正極、セパレータおよび負極を含み、
前記発電部は、前記単セルの積層方向に略垂直な方向における端面を有し、前記端面は、前記アンプルに対向しており、かつ前記端面において前記正極または前記負極の少なくとも一方が絶縁層で被覆されていること、を特徴とする注液式電池。
【請求項2】
前記絶縁層が、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂および石油アスファルトよりなる群か選択される少なくとも1種を含む、請求項1記載の注液式電池。
【請求項3】
前記絶縁層が、石油アスファルトを含む、請求項2記載の注液式電池。
【請求項4】
前記端面において、前記正極および前記負極の全てが、前記絶縁層で被覆されている、請求項1〜3のいずれかに記載の注液式電池。
【請求項5】
前記発電部は、前記積層方向に沿って前記発電部の中央を貫通する空洞部を有し、
前記アンプルは、前記空洞部に配されており、
前記セパレータは、前記正極の外周縁部と前記負極の外周縁部との間に配されている、請求項1〜4のいずれかに記載の注液式電池。
【請求項6】
前記アンプルを収納するアンプル収納部、前記発電部を収納する発電部収納部、ならびに前記アンプル収納部および前記発電部収納部を連絡する注液路および排気路を有する構造体を含み、
前記アンプルおよび前記発電部は前記注液路を介して対向するように配されており、
前記発電部に含まれる前記単セルにおいて、前記正極、前記セパレータおよび前記負極は、前記アンプル収納部から前記発電部収納部へ向かう方向とは略垂直方向に積層されており、
前記セパレータは、前記正極の縁と前記負極の縁との間に、前記アンプル収納部と対向する前記正極の縁と前記負極の縁との間を除いて、配されている、請求項1〜4のいずれかに記載の注液式電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−71745(P2008−71745A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206269(P2007−206269)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】