説明

洗浄ブラシ毛材および洗浄ブラシ

【課題】細部にわたり被洗浄物表面の汚れを落とすことができ、洗浄ブラシの押圧が低くても高い洗浄性能が得られる洗浄ブラシ用毛材およびこの毛材を使用した洗浄ブラシの提供。
【解決手段】熱可塑性樹脂モノフィラメントからなる工業用の洗浄ブラシ毛材1であって、前記熱可塑性樹脂モノフィラメントは分岐されていない非分岐部分4と、その少なくとも一端に分岐形成された複数本の単糸3からなる分岐部分2とから構成され、前記非分岐部分4の長さ方向に対して垂直な断面が複数の凹凸を有する多葉形状であり、且つ前記分岐部分2における各単糸3の先端がテーパー状に形成されていることを特徴とする洗浄ブラシ毛材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットディスプレイパネル(以下、FDPと称す)や半導体の基盤などの洗浄工程、特に精密洗浄工程で使用される洗浄ブラシ毛材および洗浄用ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイに代表されるFDPや各種半導体の製造においては、基盤の精密洗浄が不可欠であり、その洗浄精度が製品の性能や不良率に大きく影響する。特にFDPは近年大型化が進み、その長大な基盤全体を高精度に洗浄する新たな技術が求められている。
【0003】
従来から、FDP用基盤の洗浄には、合成樹脂製毛材を植毛したロールブラシを回転させ、流水中でこのロールブラシをFDP表面に押し当てて物理的に汚れを除去する方法が採用されている。しかし、この方法ではロールブラシを押圧して洗浄するため、毛材全体が湾曲して毛材側面で摩擦洗浄することになり、その結果、FDPの平面部分の汚れは除去されるものの、細部には異物が残留しやすいといった欠点があった。
【0004】
これに対して、毛材の先端をテーパー形状にしたブラシ(例えば、特許文献1参照)が提案されている。このブラシは、毛先が細く、この毛先が基盤の細部にまで入り込み易いために、洗浄効率が向上するといった特徴を持っている。しかしながら、近年のFDP基盤はブラシの押圧による撓みを抑制するために押圧を下げる必要があるため、これに伴って、毛材の先端をテーパー形状にしたブラシを使用した場合には、被洗浄物の細部に汚れが残留したり、洗浄時間が長くかかったりするなどの問題があった。
【特許文献1】特開2003−349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0006】
したがって、本発明の目的は、洗浄ブラシ、特に精密洗浄ブラシに使用した場合、細部にわたり被洗浄物表面の汚れを落とすことができるとともに、洗浄ブラシの押圧が低くても高い洗浄性能が得られる洗浄ブラシ用毛材およびこの毛材を使用した洗浄ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明によれば、熱可塑性樹脂モノフィラメントからなる工業用の洗浄ブラシ毛材であって、前記熱可塑性樹脂モノフィラメントは分岐されていない非分岐部分と、その少なくとも一端に分岐形成された複数本の単糸からなる分岐部分とから構成され、前記非分岐部分の長さ方向に対して垂直な断面が複数の凹凸を有する多葉形状であり、且つ前記分岐部分における各単糸の先端がテーパー状に形成されていることを特徴とする洗浄ブラシ毛材が提供される。
【0008】
なお、本発明の洗浄ブラシ毛材においては、
分岐部分の各単糸の長さが、非分岐部分の外接円直径の5〜20倍の長さであること、
非分岐部分の断面が3〜6の凹凸を有する多葉形状であること
が好ましい条件として挙げられ、これらを満たすことによりさらに優れた効果を取得することができる。
【0009】
また、本発明の洗浄ブラシは、上記の洗浄ブラシ毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とし、従来の洗浄ブラシよりも高い清掃性能を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の洗浄ブラシ毛材は、この毛材を構成する熱可塑性樹脂モノフィラメント(以下、単にモノフィラメントと呼ぶ)の少なくとも一端が複数本に分岐し、分岐された各単糸の先端にテーパー形状が形成されているため、被洗浄物単位面積当たりの毛先の接触本数が多くなり、この毛材を特に精密洗浄用ブラシに使用した場合は、従来のブラシ毛材を使用した洗浄ブラシに比べて被洗浄物の細部に毛先が入り込み易く、且つ洗浄ブラシの押圧が低くても高い洗浄性能が得られる。そのため、本発明の洗浄ブラシ毛材を使用した洗浄ブラシは、特にFDPや各種半導体の基盤の製造工程など、高精度な洗浄が要求される精密洗浄分野にとって極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の洗浄用ブラシ毛材について、図面に従って具体的に説明する。
【0012】
図1は、本発明の洗浄ブラシ毛材を構成するモノフィラメントの一例を示す拡大模式図であり、1はモノフィラメント、2は分岐部分、3は単糸、4は非分岐部分、5は毛材のA−Aにおける断面を示している。
【0013】
本発明の洗浄ブラシ毛材は、図1に示したとおり、モノフィラメント1からなり、このモノフィラメント1は、非分岐部分4とその少なくとも一端に分岐形成された複数本の単糸3を有する分岐部分2とからなり、非分岐部分4の長さ方向に対して垂直な断面5が複数の凹凸を有する多葉形状であり、且つ分岐部分2の各単糸3の先端が図示したようにテーパー状に形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
なお、本発明の洗浄用ブラシ毛材を構成するモノフィラメント1の熱可塑性樹脂は、特に限定はされないが、分岐部分2において単糸3を形成するとともに、各単糸3にテーパー形状を形成する上では、酸あるいはアルカリ溶解法により容易に溶解できる素材であることが好ましく、例えば、アルカリ溶解法でテーパー形状を形成する場合は、ポリエステル系樹脂、具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと称す)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびこれらの共重合体の使用が好ましく、毛材に適度な毛腰や摩耗性などが得られることからポリブチレンテレフタレートの使用が特に好適である。
【0015】
また、上記熱可塑性樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その目的に応じて、各種無機粒子、各種金属粒子および架橋高分子粒子などの粒子類のほか、公知の抗酸化剤、耐光剤、耐侯剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐電防止剤、各種着色剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤および各種強化繊維類などを適宜任意に添加せしめることもできる。
【0016】
本発明の洗浄用ブラシ毛材を構成するモノフィラメント1の断面5は、複数の凹凸を有する多葉形状であることが、分岐部分2において単糸3を分岐形成すること、および各単糸3の先端にテーパー形状を形成することの上で重要な条件となる。
【0017】
つまり、本発明の洗浄ブラシ毛材を構成するモノフィラメント1の断面5が多葉形状であるため、酸あるいはアルカリ溶解法を利用してモノフィラメント1の一端を溶解すると、分岐部分2に断面5の凹凸の数と同じ数の単糸3が形成されるとともに、各単糸3の先端にテーパー形状も形成されるからである。
【0018】
例えば、図1に示すように、モノフィラメント1の断面5が三葉形である場合は、その一端を溶解すると分岐部分2に3本の単糸3が分岐形成され、且つ各単糸3の先端にテーパー形状が形成される。
【0019】
また、単糸3の長さは、短すぎると被洗浄物の細部に毛先が入りにくくなるばかりか、分岐部分2の毛腰が硬くなるために被洗浄物の表面を傷付ける場合があり、逆に長すぎると分岐部分2の毛腰が柔らかくなるため、洗浄性能が低下する場合がある。
【0020】
したがって、単糸3の長さは、非分岐部分4の外接円直径の5〜20倍の長さであることが好ましく、さらには7〜15倍の長さであることがより好ましい。
【0021】
なお、モノフィラメント1における単糸3の本数、つまり毛材の断面5の凹凸数は特に限定されないが、分岐部分2の毛腰を保つためには、3〜6であること、さらには3〜4であることがより好ましい。
【0022】
さらに、断面5の凸部の形状についても特に制限はなく、円形以外に多角形や楕円形などの形状を適宜選ぶことができる。
【0023】
ここで、本発明の洗浄ブラシ毛材1は、何ら特殊な方法を用いて製造する必要はなく、例えば、熱可塑性樹脂を使用してモノフィラメントを溶融紡糸し、このモノフィラメントの束を所定長さに切断した後、酸あるいはアルカリ溶液に浸漬してその一端を溶解することにより得ることができる。
【0024】
なお、上記のモノフィラメントは、公知の溶融紡糸方法、例えば、公知の溶融紡糸機を使用して熱可塑性樹脂を溶融混練した後、口金孔から熱可塑性樹脂を溶融押出し、冷却浴中で冷却固化した未延伸糸を加熱延伸し、さらに必要に応じて加熱弛緩処理を施すことにより得ることができる。
【0025】
また、単糸3と各単糸3にテーパー形状を形成する方法については、公知の酸あるいはアルカリ溶解法を用いることが好ましく、具体的には、束状のモノフィラメントの周囲に紙テープ等を巻いた後、所定の長さに切断してカットブリッスルを作成し、このカットブリッスルの一端を酸あるいはアルカリ溶液に浸漬して溶解する方法を挙げることができる。
【0026】
なお、単糸3の長さは、得られたカットブリッスルを酸またはアルカリ溶液に浸漬するに際に、その浸漬長を変えることで調整することができる。
【0027】
こうして得られた本発明の洗浄ブラシ毛材は、モノフィラメント1の少なくとも一端が複数本に分岐し、分岐部分2において単糸3と各単糸3にテーパー形状が形成されているため、従来のテーパー部7を1つのみ有するモノフィラメント6からなる洗浄ブラシ毛材(図2参照)に比べて、被洗浄物単位面積当たりの毛先の接触本数が多くなり、この毛材を洗浄用ブラシ、特に精密洗浄用ブラシに使用した場合は、従来の洗浄ブラシ毛材を使用した洗浄用ブラシに比べて被洗浄物の細部に毛先が入り込み易く、且つ洗浄ブラシの押圧が低くても高い洗浄性能が得られる。
【0028】
そのため、本発明の洗浄ブラシ毛材を使用した洗浄ブラシは、特にFDPや各種半導体の基盤の製造工程など、高精度な洗浄が要求される精密洗浄分野に極めて有用であり、その他の工業用の洗浄ブラシにも利用できるものである。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の洗浄ブラシ毛材について、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明の洗浄ブラシ毛材はその要旨を超えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
なお、洗浄ブラシの評価には、実施例および比較例で得られた洗浄ブラシ毛材を植毛したチャンネル型ロールブラシ(直径10mm、長さ500mm)を使用した。
【0031】
実施例におけるブラシの評価方法は次のとおりである。
【0032】
〔洗浄性評価〕
ロールブラシを洗浄装置に取り付け、実際に、純水をかけながら液晶パネル用ガラス基盤(400mm×400mm)を洗浄し、洗浄後の異物付着数を光学顕微鏡を用いて計測した。
【0033】
なお、洗浄時のロールブラシの回転数は200rpm、ガラス基盤の移動速度は1.0cm/秒、且つロールブラシのガラス基盤への押し付け量は1.0mmと2.0mmの2段階とした。
【0034】
〔実施例1〕
PBT樹脂(東レ(株)トレコン1200S)を使用して溶融紡糸し、外接円直径0.10mmの三葉形断面のモノフィラメントを得た。次に、このモノフィラメンを複数本に束ね、この束の周りに紙テープを巻き、長さ50mmに切断してカットブリッスルを得た。
【0035】
続いて、このカットブリッスルの両端を水酸化ナトリウム溶液に浸漬し、3本の単糸と各単糸にテーパー形状を有する洗浄ブラシ毛材を得た。なお、得られた洗浄ブラシ毛材の単糸の長さは0.2mmであった。
【0036】
〔実施例2〕
カットブリッスルの水酸化ナトリウム溶液への浸漬長を変えて、各単糸の長さを0.7mmに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で洗浄ブラシ毛材を得た。
【0037】
〔実施例3〕
カットブリッスルの水酸化ナトリウム溶液への浸漬長さを変えて、各単糸の長さを1.5mmに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で洗浄ブラシ毛材を得た。
【0038】
〔実施例4〕
カットブリッスルの水酸化ナトリウム溶液への浸漬長を変えて、各単糸の長さを2.4mmに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で洗浄ブラシ毛材を得た。
【0039】
〔実施例5〕
モノフィラメントの断面を五葉形にしたこと以外は、実施例2と同じ条件で洗浄ブラシ毛材を得た。
【0040】
〔比較例1〕
モノフィラメントの断面を円形にしたこと以外は、実施例1と同じ条件で洗浄ブラシ毛材を得た。
【0041】
〔比較例2〕
得られたカットブリッスルを水酸化ナトリウム溶液に浸漬しなかったこと以外は、比較例1と同じ条件で洗浄ブラシ毛材を得た。
【0042】
【表1】

【0043】
表1から明らかなように、本発明の条件を満たす洗浄ブラシ毛材(実施例1〜5)を使用した洗浄ブラシは、毛先に分岐部分を持たない従来のテーパー形状の毛材(比較例1)を用いた場合はもとより、毛先に単糸もテーパー形状も持たない従来のストレート毛材(比較例2)を用いた場合と比べても洗浄効果が極めて高いことが分かる。そして、洗浄効果は、単糸の長さが0.7mm(実施例2)および1.5mm(実施例3)の場合に特に顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の洗浄ブラシ毛材は、この毛材を構成するモノフィラメントの少なくとも一端が複数に分岐し、分岐された各単糸にテーパー形状が形成されているため、従来の洗浄ブラシ毛材に比べて被洗浄物単位面積当たりの毛先の接触本数が多くなり、この毛材を洗浄用ブラシに使用した場合は、従来の洗浄ブラシ毛材を使用した洗浄ブラシに比べて被洗浄物の細部に毛先が入り込み易く、且つ洗浄ブラシの押圧が低くても高い洗浄性能が得られる。
【0045】
そのため、本発明の洗浄ブラシ毛材を使用した洗浄ブラシは、特にFDPや各種半導体の基盤の製造工程など、高精度な洗浄が要求される精密洗浄分野に極めて有用であり、その他の工業用の洗浄ブラシにも利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)、(b)はそれぞれ本発明の洗浄ブラシ毛材を構成するモノフィラメントの一例を示す側面図とA−A線における断面図である。
【図2】(c)、(d)はそれぞれ従来の洗浄ブラシ毛材を構成するモノフィラメントの側面図とB−B線における断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 本発明の洗浄ブラシ毛材を構成するモノフィラメント
2 分岐部分
3 単糸
4 非分岐部分
5、8 断面
6 従来の洗浄ブラシ毛材を構成するモノフィラメント
7 テーパー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂モノフィラメントからなる工業用の洗浄ブラシ毛材であって、前記熱可塑性樹脂モノフィラメントは分岐されていない非分岐部分と、その少なくとも一端に分岐形成された複数本の単糸からなる分岐部分とから構成され、前記非分岐部分の長さ方向に対して垂直な断面が複数の凹凸を有する多葉形状であり、且つ前記分岐部分における各単糸の先端がテーパー状に形成されていることを特徴とする洗浄ブラシ毛材。
【請求項2】
前記分岐部分の各単糸の長さが、非分岐部分の外接円直径の5〜20倍の長さであることを特徴とする請求項1に記載の洗浄ブラシ毛材。
【請求項3】
前記非分岐部分の断面が3〜6の凹凸を有する多葉形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の洗浄ブラシ毛材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の洗浄ブラシ毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とする洗浄ブラシ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−135723(P2007−135723A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331004(P2005−331004)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】