説明

活性エネルギー線硬化性塗料及び成型品

【課題】排出されるVOC量を抑制しつつ、高いスプレー塗装性、塗膜物性を有する活性エネルギー線硬化性塗料を提供する。
【解決手段】ビニル系単量体の単体または混合物を(共)重合して得られる重量平均分子量が1,000〜30,000である(共)重合体(A)1〜90質量%、分子内に1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(B)10〜99質量%を含む樹脂組成物(I)の合計100質量部に対し、比蒸発速度が100以下である溶剤を40質量%以上含む溶剤(C)を10〜150質量部含む活性エネルギー線硬化性塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチックなどの表面の硬化塗膜形成に好適に使用されるスプレー塗装に適した活性エネルギー線硬化性塗料に関する。
【0002】
更に詳しくは、少ないVOC排出量でスプレー塗装性、密着性、そして特に塗膜の外観(平滑性、ハジキ・タレ・ヨリ等の抑制)に優れている活性エネルギー線硬化性塗料に関する。
【背景技術】
【0003】
熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂は、軽量で機械的性質に優れ、成形加工が容易であることから、各産業分野において幅広く利用されている。
【0004】
ところが、これらの樹脂は、耐擦傷性、耐薬品性、耐熱性等が十分ではないという欠点を有している。そのため、樹脂の利用範囲を広げ、商品価値を高めるために、これら樹脂からなる成形品の表面加工技術が種々開発、実用化されている。
【0005】
樹脂の表面加工技術としては、アクリル系、メラミン系、ウレタン系、シリコン系などの樹脂が配合された被覆材組成物からなる塗料を基材樹脂表面に塗布し、熱あるいは紫外線、電子線などを用いて硬化させて塗膜を形成する方法が開発されている。なかでも、紫外線を用いる紫外線硬化法は他の方法に比べ生産性に優れているなどの利点があることから、これまでに優れた耐摩耗性、耐候性等を付与可能な塗料が提案されている。(特許文献1〜2など。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−75785号公報
【特許文献2】特開2005−314605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような塗料を立体成型品に塗装する場合、作業性、優れた塗装外観を得る為にスプレー塗装による塗装が一般的である。
【0008】
スプレー塗装の場合、塗料に多量の溶剤を含みスプレー塗装が可能な粘度に調整する。このような方法では、塗料に含まれる溶剤は塗装後に乾燥炉などを使用し硬化させる前に蒸発、揮発させ大気中に放出されるため自然環境への影響が大きいという課題があった。(特許文献1)また、溶剤を大気中に放出させない対策として、回収または燃焼させる装置も開発されているが、導入には多額の費用が発生するためその普及は進んでいない。
【0009】
そこで、大気中に放出させる溶剤量を削減するために塗料中の溶剤量を少なくすることが効果的であるが、塗料の粘度が高くなり、スプレー塗装では適切な粒径の微粒子を形成できず、平滑な塗膜を形成する事が非常に困難である。一方、溶剤量を減らしても塗料が微粒子を形成できるように樹脂成分の粘度を下げると、表面張力の高い基材ではハジキの欠陥を生じ易くなったり、硬化性が低下したりするなどの課題があった。(特許文献2)
従って、本発明の目的は、特にスプレー塗装性に優れ、従来と同様に塗膜物性に優れ、VOC排出量が低い活性エネルギー線硬化性塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の成分を特定量配合することによって、上記要求物性を満足し得ることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、ビニル系単量体の単体または混合物を(共)重合して得られる重量平均分子量が1,000〜30,000である(共)重合体(A)1〜90質量%、分子内に1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(B)10〜99質量%を含む樹脂組成物(I)の合計100質量部に対し、比蒸発速度が100以下である溶剤を40質量%以上含む溶剤(C)を10〜150質量部含む活性エネルギー線硬化性塗料である。
【0012】
また、本発明は前記の硬化性塗料の硬化塗膜が積層された成型品である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の活性エネルギー線硬化性塗料は、排出されるVOC量を抑制しつつ、高いスプレー塗装性、塗膜物性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において使用される(共)重合体(A)はビニル系単量体の単体または混合物を(共)重合して得られる(共)重合体であり、ラジカル重合開始剤の存在下に溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法等の採用により得ることができる。なお、「(共)重合」とは「単独重合」と「共重合」との総称である。具体的な(共)重合可能な単量体の例を次に挙げるが、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」と「メタクリル」との総称であり、その他の「(メタ)アクリ・・・」も同様に、「アクリル」と「メタクリル」から派生する基の総称である。
【0015】
具体的な重合可能な単量体の例としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2−ジシクロペンテノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとエチレンオキシドの付加物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとプロピレンオキシドの付加物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとε−カプロラクトンの付加物などの2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと有機ラクトン類の付加物等の水酸基含有ビニルモノマー;スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン又はスチレン誘導体;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸類;(メタ)アクリロニトリルのような重合性不飽和ニトリル類;マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジブチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル等不飽和カルボン酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類等が挙げられる。これら(共)重合可能な単量体は、1種又は2種以上を併用することができる。
【0016】
このようなビニル系単量体から得られる(共)重合体の中でもスプレー塗装性、塗膜物性の観点から、GPC測定による重量平均分子量の下限値は1,000以上が好ましく、3,000以上がより好ましい。また上限値は30,000以下がより好ましく、20,000以下がより好ましい。
【0017】
また、ビニル系単量体の単体または混合物を重合して得られる(共)重合体(A)の使用割合は、成分(A)および後述する成分(B)の合計量100質量%中に下限値は1質量%以上であり、5質量%以上が好ましい。また上限値は90質量%以下であり、60質量%以下が好ましい。成分(A)の量が、1質量%未満では、塗膜外観(ハジキの抑制、ブツの抑制)が得られなくなり、90質量%を越えると、耐擦り傷性が得られなくなる。
【0018】
本発明において使用される成分(B)である分子内に1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物の例としては、
ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロ−ルエタンとコハク酸および(メタ)アクリル酸とを反応させたポリエステルポリ(メタ)アクリレート等の6官能以上の(メタ)アクリレート類;
ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロ−ルエタンとコハク酸および(メタ)アクリル酸とを反応させたポリエステルペンタ(メタ)アクリレート等の5官能(メタ)アクリレート類;
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の4官能(メタ)アクリレート類;
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリスエトキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシレーテッドペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、炭素数2〜5の脂肪族炭化水素変性トリメチロールプロパントリアクリレート等の3官能(メタ)アクリレート類;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビス(2−アクリロイルオキシエチル)−2−ヒドロキシエチルイソシアヌレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ポリエトキシレーテッドシクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ポリプロポキシレーテッドシクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ポリエトキシレーテッドビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリプロポキシレーテッドビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノキシフルオレンエタノールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのε−カプロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのγ−ブチロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールのカプロラクトン付加物(付加数n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールのカプロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールのカプロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタンジオールのカプロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのカプロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのカプロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート;ポリエトキシレーテッド水添ビスフェノール(A、F、S)、ポリプロポキシレーテッド水添ビスフェノール(A、F、S)、水添ビスフェノール(A、F、S)などのカプロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート類;
フタル酸、コハク酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テレフタル酸、アゼライン酸、アジピン酸等の多塩基酸、エチレングリコール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の多価アルコール及び(メタ)アクリル酸又はその誘導体との反応で得られるポリエステルジ(メタ)アクリレート類;
(水添)ビスフェノールA、(水添)ビスフェノールF、(水添)ビスフェノールS、テトラブロモ(水添)ビスフェノールA等のビスフェノール類とエピクロルヒドリンの縮合反応で得られるビスフェノール型エポキシ樹脂に、(メタ)アクリル酸又はその誘導体を反応させたエポキシジ(メタ)アクリレート類;
アルカンジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、スピログリコール化合物等の1種又は2種以上の混合物からなるアルコール類の水酸基に有機ジイソシアネート化合物を付加し、残ったイソシアネート基に、分子中に1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基、及び1個のヒドロキシ基を有するヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート類;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシメチル−2−メチルビシクロヘプタン(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、テトラシクロドデカニル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、4−アクリロイルオキシメチル−2−メチル−2−エチル−1,3−ジオキソラン、4−アクリロイルオキシメチル−2−メチル−2−イソブチル−1,3−ジオキソラン、トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート類;
(メタ)アクリルアミド、 N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド類;
が挙げられる。これらは1種又は2種以上を併用することができる。
【0019】
この成分(B)の使用割合は、成分(A)および成分(B)の合計量100質量%中に下限値は10質量%以上であり、40質量%以上が好ましい。また上限値は99質量%以下であり、95質量%以下が好ましい。
【0020】
これら成分(B)としては、得られた硬化物の耐擦傷性が特に優れること、基材への密着性が優れることから分子内に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物、および分子内に1つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含むことが好ましい。より具体的には分子内に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物にはジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが特に好ましく、分子内に1つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物には、テトラヒドロフルフリアクリレートが特に好ましい。
【0021】
更に耐擦傷性が向上することから成分(B)として分子内に2つの(メタ)アクリロイル基を有するウレタンジアクリレートを含むことがより好ましい。
【0022】
成分(C)に含まれる溶剤の蒸発速度を示す比蒸発速度とは、酢酸n−ブチルの25℃における蒸発速度を100とした場合の相対速度を示している。
【0023】
成分(C)に含まれる比蒸発速度が100以下の溶剤の例としては、
シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン等のケトン系化合物;酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル系化合物;イソブチルアルコール、1−ブタノール等のアルコール系化合物、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系化合物;キシレン等の芳香族化合物;石油ナフサ等の脂肪族化合物等を挙げることが出来る。これらは、1種又は2種以上を併用することが出来る。
【0024】
上記した中でも、ケトン系が好ましく、ジイソブチルケトンが特に好ましい。
【0025】
成分(C)に含まれる比蒸発速度が100以下の溶剤の割合としては40質量%以上であり、50質量%以上が好ましい。また、上限値は100質量%以下である。
【0026】
その他の溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系化合物;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系化合物;エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系化合物、ジエチルエーテル、オキサン等のエーテル系化合物;トルエン等の芳香族化合物;ペンタン、ヘキサン等の脂肪族化合物等を挙げることが出来る。
【0027】
その成分(C)の使用割合は、成分(A)〜(B)を含む樹脂組成物(I)の合計100質量部対して、10〜150質量部である。
【0028】
溶剤(C)の使用割合は、下限値は10質量部以上であり、25質量部以上が好ましい。また上限値は150質量部以下であり、100質量部以下が好ましい。成分(C)の量が、10質量部未満では、粘度が高くなり、スプレー塗装性、塗膜外観(レベリング性)が得られなくなり、150質量部を越えるとVOC排出量低減の観点から好ましくなくなる。
【0029】
本発明において使用される光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインモノメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−エチルアントラキノン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド等を挙げることができる。
【0030】
これらは、1種又は2種以上の混合系で使用される。
【0031】
光重合開始剤の使用割合は、成分(A)〜(B)を含む樹脂組成物(I)の合計100質量部に対して、下限値は1質量部以上が好ましく、硬化性がより優れることから5質量部以上がより好ましい。また、塗膜物性に優れることから上限値は20質量部以下が好ましい。
【0032】
更に、本発明の活性エネルギー線硬化性塗料には、必要に応じて、その性能を損なわない範囲で、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸アミル、4−ジメチルアミノアセトフェノン等の公知の光増感剤を添加することも出来る。
【0033】
更に、本発明の活性エネルギー線硬化性塗料には、必要に応じて、その性能を損なわない範囲で、密着性を向上させるためにシランカップリング剤を配合することもできる。
【0034】
具体的には、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクロリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)―γ―アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ―アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル―γ―アミノプロピルトリメトキシシラン、γ―メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ―クロロプロピルトリメトキシシラン及び、これらの加水分解物等を挙げることができる。
【0035】
これらは、1種又は2種以上を併用することが出来る。
【0036】
これらの中でも、得られる組成物の液安定性、透明性、密着性の観点から、γ−(メタ)アクロリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)―γ―アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ―アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル―γ―アミノプロピルトリメトキシシラン、またはこれらの加水分解物が好ましい。また、含有量は、密着性が良くなる観点から成分(A)〜(B)の合計100質量部に対し、0.1〜20質量部であることが好ましく、1〜10質量部であることがより好ましい。
【0037】
また、本発明の活性エネルギー線硬化性塗料には、レベリング剤、消泡剤、沈降防止剤、潤滑剤、研磨剤、防錆剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、酸化防止剤、防雲剤、分散剤、増粘剤、タレ止め剤、乾燥剤、付着促進剤、皮膜改質剤、スリップ剤、擦り傷防止剤、可塑剤、艶消し剤、低収縮剤、防菌剤、防カビ剤、防汚剤、難燃剤、硬化促進剤、劣化防止剤、光重合促進剤、熱開始剤、PP付着付与剤(塩素化PP等)、チキソ剤、染料、顔料、微粒子、反応性微粒子、殺菌剤等の添加剤を加えてもよい。
【0038】
本発明の活性エネルギー線硬化性塗料は、アクリル樹脂、ポリカ樹脂、ABS樹脂、PP樹脂等からなる成型品に塗布して、硬化させることによって硬化塗膜として積層することが好ましい。
【0039】
塗料の塗布方法としては、刷毛・ローラー・ムートン・モップ塗り、ロールコート、スプレーコート、スピンコート、フローコート、ディピング、静電塗装、スクリーン印刷等の方法が用いられるが、塗布作業性の点からスプレーコートが好ましい。
【0040】
本願の硬化塗膜の形成は、活性エネルギー線を照射することにより達成される。活性エネルギー線としては、紫外線、電子線等が挙げられる。例えば高圧水銀灯を用いた場合には、照射される紫外線エネルギー量が500〜1,500mJ/cm2程度の条件が好ましい。また、膜厚は硬化塗膜の厚さで1〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0041】
更に塗膜を硬化させる前に溶剤を揮発させることが好ましい。その際には、IRヒーターや温風等で60℃×3分間程度加温するか、室温で20分間程度放置する等の条件下で有機溶剤を揮発させることが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において「部」は「質量部」を表す。また、本実施例及び比較例における各物性の測定及び評価は以下の方法で行った。
【0043】
[スプレー塗装性]
硬化性塗料をスプレーコート(高圧霧化ガン)により塗装した時の霧化状態を目視にて評価した。評価の判定は以下の基準で行った。
「○」:霧化状態が良好である。
「×」:霧化状態が不良である。
【0044】
[外観(光沢性、レベリング性または平滑性)]
硬化性塗料をスプレーコートにより塗布し、活性エネルギー線で硬化して得られた10μm厚の硬化塗膜(硬化物層)を目視にて評価した。評価の判定は以下の基準で行った。
「○」:塗膜外観良好である。
「×」:塗膜外観不良(ハジキ、ブツ、タマリ、ヨリ等)が見られる。
【0045】
[密着性1](実施例1〜4、比較例1〜7)
硬化性塗料をスプレーコートにより塗布し、活性エネルギー線で硬化して得られた10μm厚の硬化塗膜と基材との密着性を、JIS K 5600−5−6に従い評価した。評価の判定は以下の基準で行った。
「○」:分類0〜1である。
「△」:分類2である。
「×」:分類3〜5である。
【0046】
[密着性2](実施例5)
硬化性塗料をスプレーコートにより塗布し、活性エネルギー線で硬化して得られた10μm厚の硬化塗膜とアルミニウム蒸着膜との密着性を、JIS K 5600−5−6に従い評価した。評価の判定は以下の基準で行った。
「○」:分類0〜1である。
「△」:分類2である。
「×」:分類3〜5である。
【0047】
[耐アルコール性]
硬化性塗料をスプレーコートにより硬化塗膜の膜厚を10μmとなるよう塗布し、活性エネルギー線で硬化して得られたサンプルを80%エタノール溶液に40℃×2時間浸漬し、10μm厚の硬化塗膜と基材との密着性を、JIS K 5600−5−6に従い評価した。評価の判定は以下の基準で行った。
「○」:分類0〜1である。
「△」:分類2である。
「×」:分類3〜5である。
【0048】
[VOC排出量]
塗料中に含まれる溶剤量を算出し、以下の基準で判定した。
「◎」:溶剤量が塗料中の20質量%未満である。
「○」:溶剤量が塗料中の20質量%以上50質量%未満である。
「×」:溶剤量が塗料中の50質量%以上である。
【0049】
[判定(総合)]
各評価結果をにして、以下の基準で総合判定を行った。
「◎」:全ての評価結果が○以上である。
「○」:評価結果に△であるものがある。
「×」:評価結果に×であるものがある。
【0050】
(1)分子量
ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)「HLC−8120」(商品名、東ソー株式会社製)を用いて測定した。カラムは、TSKgel G5000HXL*GMHXL−L(商品名、東ソー株式会社製)を使用した。また、検量線は、TSK標準ポリスチレンF288/F80/F40/F10/F4/F1/A5000/A1000/A500(商品名、東ソー株式会社製)及びスチレンモノマーを使用して作成した。
【0051】
ポリマーをテトラヒドロフラン(THF)に0.4質量%濃度になるように溶解した溶液100μlを使用して、40℃で測定を行った。標準ポリスチレン換算にて重量平均分子量(Mw)を算出した。
【0052】
<製造例1>[分散剤1の製造]
冷却器、温度計、滴下ロート及び攪拌機を備えた四つ口のフラスコに、脱イオン水900部、メタクリル酸2−スルホエチルナトリウム60部、メタクリル酸カリウム10部及びメチルメタクリレート12部を入れて撹拌、重合装置内を窒素置換しながら、50℃に昇温した。
【0053】
その中に、重合開始剤として2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩0.08部を添加し、更に60℃に昇温した。昇温後、滴下ポンプを使用して、メチルメタクリレートを0.24部/分の速度で75分間、合計で18部を連続的に滴下した。
【0054】
反応溶液を60℃で6時間保持した後、室温に冷却して、透明な水溶液である固形分10質量%の分散剤1を得た。
【0055】
<製造例2>[連鎖移動剤1の製造]
撹拌装置を備えた合成装置中に、窒素雰囲気下で、酢酸コバルト(II)四水和物1.00gおよびジフェニルグリオキシム1.93g、あらかじめ窒素バブリングにより脱酸素したジエチルエーテル80mlを入れ、室温で30分間攪拌した。
【0056】
ついで、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体10mlを加え、さらに6時間攪拌した。混合物をろ過し、固体をジエチルエーテルで洗浄し、15時間真空乾燥して、赤褐色固体である連鎖移動剤1を2.12g得た。
【0057】
<重合例1>[AP1:共重合体(A)の製造)
冷却器、温度計、滴下ロート及び攪拌機を備えた四つ口のフラスコに、脱イオン水145部、硫酸ナトリウム0.1部及び分散剤1(固形分10質量%)0.25部を入れて撹拌し、均一な水溶液とした。
【0058】
次に、メチルメタクリレート100部、連鎖移動剤1を0.01部及び2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.8部を加え、水性懸濁液とした。次に、重合装置内を窒素置換し、80℃に昇温して約1時間反応し、さらに重合率を上げるため、後処理温度として93℃に昇温して1時間保持した。
【0059】
その後、反応液を40℃に冷却して、ポリマーを含む水性懸濁液を得た。
【0060】
この水性懸濁液を目開き45μmのナイロン製濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、脱水し、40℃で16時間乾燥して、ビニル系共重合体1(AP1)を得た。このAP1の重量平均分子量は3,200であった。
【0061】
<重合例2>[AP2:共重合体(A)の製造]
冷却器、温度計、滴下ロート及び攪拌機を備えた四つ口のフラスコに、トルエンを70部仕込み、100℃に加熱した。
【0062】
次いで、メチルメタクリレート65部、ノルマルブチルメタクリレート34.5部、メタクリル酸0.5部、重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル1.9部を、均一に溶解した混合物を、フラスコ内を同温度で保持しながら4時間かけて滴下した。
【0063】
更に、トルエン2部をフラスコ内に投入し、60分保持し、同温度のフラスコ内にアゾビスイソブチロニトリル0.4部を4回に分けて30分おきに添加し、その後60分保持させた。
【0064】
最後に固形分が55%となるようにトルエンを添加し、冷却させた。
【0065】
得られた共重合体(AP2)は加熱残分56.6%であり、重量平均分子量は14,000であった。
【0066】
[実施例1]
表1に示す成分をステンレス容器に計量し、約30分間、全体が均一になるまで攪拌して塗料を調製した。
【0067】
次にABS樹脂で成型された縦9cm、横5cm、厚さ3mmの長方形のテストピースを長手方向に立て、硬化後の膜厚が約10μmになるようにスプレー塗装した。
【0068】
次に60℃の温風乾燥器中に5分間保持して有機溶剤を揮発させた後、空気中で高圧水銀灯を用い、波長340〜380nmの積算光量がオーク製作所製紫外線光量計(ORC−UV−351)にて測定した場合に1,000mJ/cmのエネルギーとなる紫外線を照射し、硬化塗膜を形成した。評価結果を表1に示す。
【0069】
[実施例2〜3、比較例1〜7]
実施例1と同様に、表1、2に示す配合比で塗料を調製し同様の作業および評価を行い、その結果は表1、2に示す。
[実施例4]
実施例1でテストピースとして用いたABS樹脂の代わりに、同サイズのPP樹脂を用いて同様の作業および評価を行った。
【0070】
[実施例5]
実施例1でテストピースとして用いたABS樹脂の代わりに、同サイズのABS樹脂に金属蒸着用アンダーコート材を形成し、次いでその表層にアルミ蒸着を施したテストピースを用い、表1に示す配合比で塗料を調製しアルミ蒸着膜の上に同様の作業および評価を行った。その結果は表1に示す。上記金属蒸着を施す際の処理方法は以下に示す。
[アンダーコート材の調整]
2Lの4つ口フラスコにトルエン500gを仕込み、内温が80℃になるように加温した。次いで、内温を80℃に保ち、フラスコ内を攪拌しながら、滴下する単量体として、N−(n−ブトキシメチル)アクリルアミド150g(30%)、メチルメタクリレート200g(40%)及びスチレン150g(30%)と、重合触媒としてアゾビスイソブチルニトリル1gの混合物を、2時間等速滴下によりフラスコ内に滴下した。その後1時間毎にアゾビスイソブチルニトリル0.2gを合計4回追加投入しながら6時間攪拌し、GPC測定によるポリスチレン換算による質量平均分子量が1.8×10の共重合体を50%含むトルエン溶液を得た。このトルエン溶液100部と、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬(株)製、商品名:カヤラッドDPHA)30部、EO変性水素化ビスフェノールAジアクリレート(第一工業製薬(株)製、商品名:ニューフロンティアHBPE―4)10部、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(日立化成工業(株)製、商品名:ファンクリルFA−512A)5部、ベンゾフェノン5部、酢酸ブチル80部及びイソブタノール100部を混合し、攪拌してアンダーコート材を調整した。
【0071】
次いで、縦9cm、横5cm、厚さ3mmの長方形のABS樹脂成型品のテストピースに、前述したアンダーコート材をスプレー塗装した。この後、塗装された樹脂成型品のテストピースを、60℃の温風乾燥器中に5分間保持して有機溶剤を揮発させた。次いで、得られたテストピースを、空気中で、高圧水銀灯により、波長340〜380nm、積算光量1,000mJ/cmの活性エネルギー線を照射し、硬化後の膜厚が10μmとなるようにアンダーコート層を形成した。
【0072】
次いで、日本真空技術(株)製の真空蒸着装置(商品名:EBX−6D)を使用してアルミニウム膜厚が約100nmとなるように真空蒸着させて、表面にアルミニウム膜が蒸着されたテストピースを得た。
【0073】
得られた評価結果を表1に示した。
【0074】
実施例1〜5の構成成分は請求項に示す組成物および比率から成り立っているため、有機溶剤の比率が低くても良好な外観、密着性を得ることが出来、かつVOC排出量が少なく環境対応塗料として優れていた。
【0075】
一方、比較例1〜7において、塗料を構成する成分が請求項に示す成分に不足している、あるいは比率が外れていることから、塗装後の外観や耐アルコール性が低位である。または塗料から排出される有機溶剤が多く環境負荷が大きい。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
表中の化合物の記号は次の通りである。
・AP3:アクリル系共重合体
(三菱レイヨン(株)製、商品名ダイヤナールBR−80)
(GPCによる重量平均分子量:95,000)
・DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
(日本化薬(株)製、商品名カヤラッドDPHA)
・THFA:テトラヒドロフルフリルアクリレート
(大阪有機化学工業(株)製、商品名ビスコート#150)
・UA:ウレタンアクリレート
(三菱レイヨン(株)製、商品名ダイヤビームUK−6053)
・HCPK:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
・APTES:γ―アミノプロピルトリエトキシシラン
・DIBK:ジイソブチルケトン(比蒸発速度:20)
・MIBK:メチルイソブチルケトン(比蒸発速度:145)
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の塗料をスプレー等の塗装において、化粧品容器などのプラスチック基材に塗装することにより、少ないVOC排出量で高意匠な外観を得られ、薬品や傷から容器を保護し、良好な外観を維持することが可能となる。また、真空蒸着装置等を用いた金属蒸着用のアンダーコート材、ミドルコート材及びトップコート材として用いることによりメタライズ調の意匠性を少ないVOC排出量で得られ、薬品や傷から蒸着膜を保護し、良好な外観を維持することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル系単量体の単体または混合物を(共)重合して得られる重量平均分子量が1,000〜30,000である(共)重合体(A)1〜90質量%、
分子内に1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(B)10〜99質量%
を含む樹脂組成物(I)の合計100質量部に対し、
比蒸発速度が100以下である溶剤を40質量%以上含む溶剤(C)を10〜150質量部含む活性エネルギー線硬化性塗料。
【請求項2】
請求項1に記載の硬化性塗料の硬化塗膜が積層された成型品。

【公開番号】特開2011−168753(P2011−168753A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36349(P2010−36349)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】