説明

流体投与装置

流体貯蔵器(20)に取り付けられ、噴霧開口部(31)を有する投与ヘッド(30)によって駆動される、ポンプまたは弁である投与部材(10)を有する流体投与装置であって、表示位置と非表示位置との間で移動可能である視覚用指示手段(50)を更に有し、前記視覚用指示手段(50)は、前記投与部材(10)の毎回の駆動開始時に非表示位置に移動させられ、流体の投与中、前記流体によって前記非表示位置から前記表示位置に移動させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体投与装置に関し、特に摂取ドーズ視覚用指示器を備えた流体投与装置に関する。
【背景技術】
【0002】
投与の実行にポンプや弁といった投与部材を用いる流体投与装置では、投与される流体は通常、霧状に細かく噴霧される。鼻に薬物を投与する種類の医療器具の場合、1回に投与される流体量である1ドーズの量は小さく、しかも当該流体は非常に細かい霧状に投与される。そのため、流体が実際に投与されたか否かユーザに判断がつかない場合もある。そこで、投与済みドーズ数又は未投与で投与装置に残っているドーズ数をユーザに通知することを目的として、様々なドーズカウントシステムが存在している。しかしながら、こうしたカウンタや指示器は通常、装置の駆動中に機械的な方法で駆動されるものであり、従って、投与開口部から流体が有効投与された回数ではなく、装置が駆動された回数を表すものとなる。誤動作の場合、1ドーズ分がユーザに有効投与されていないにも関わらず、カウントされるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/077623号
【特許文献2】国際公開第00/51672号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上述した問題の生じない流体投与装置を提供することである。
より具体的に言えば、本発明は、1ドーズ分が有効に摂取されたこと、すなわち、流体が噴霧開口部から有効な形で投与されたことをユーザに示す流体投与装置を提供することを目的とする。
本発明はまた、1ドーズ分の有効投与に関して、信頼性のある情報をユーザに提供する流体投与装置を提供することを目的とする。
【0005】
本発明は更に、製造及び組立が簡単かつ安価である流体投与装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は、流体貯蔵器に取り付けられ、噴霧開口部を有する投与ヘッドによって駆動される、ポンプまたは弁である投与部材を有する流体投与装置であって、表示位置と非表示位置との間で移動可能である視覚用指示手段を更に有し、前記視覚用指示手段は、前記投与部材の毎回の駆動開始時に非表示位置に移動させられ、流体の投与中、前記流体によって前記非表示位置から前記表示位置に移動させられる、という流体投与装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
また、効果的な構成として、前記視覚用指示手段は、前記投与ヘッドの内部に配置されており、表示位置においては、少なくとも一部が外部から見えること、とする。
また、効果的な構成として、前記視覚用指示手段は可動部材を有し、当該可動部材は、スプリングによって非表示位置方向に付勢されると共に、流体投与時には流体の圧力によって表示位置方向に付勢されること、とする。
【0008】
また、効果的な構成として、前記可動部材は、表示位置では阻止要素によって移動を阻止されており、当該阻止要素は、阻止位置方向に弾性的に付勢されていること、とする。
また、効果的な構成として、前記阻止要素は、投与部材の駆動開始時点で阻止位置から解放され、それによって、可動部材は前記スプリングの作用で非表示位置に戻ること、とする。
【0009】
また、効果的な構成として、前記阻止要素は1以上の可撓性タブを有し、当該可撓性タブは、前記可動部材の径方向突起部と係合して前記可動部材を表示位置に保持する内面輪郭部を備えていること、とする。
また、効果的な構成として、1以上の前記可撓性タブは端部突起部を有し、当該端部突起部は、投与部材の駆動開始時、1以上の前記可撓性タブを径方向外向きに変形させるように作られたカムと係合し、可撓性タブの内面輪郭部と可動部材の径方向突起部との間の前記係合を解消すること、とする。
【0010】
また、効果的な構成として、前記端部突起部は、傾斜した下端面と傾斜した上端面とを有し、傾斜した下端面は駆動開始時点にカムと係合して可撓性タブを径方向外向きに変形させ、傾斜した上端面は、駆動終了後にカムと係合して、投与ヘッドが休止位置に戻る間、径方向内向きに可撓性タブを変形させること、とする。
また、効果的な構成として、前記カムは、貯蔵器に固定された円形の突起部によって形成されており、当該突起部は特に、投与部材を前記貯蔵器に留める留めリングに固定されていること、とする。
【0011】
また、効果的な構成として、前記可動部材は中空であって、投与装置の前記噴霧開口部が形成されていること、とする。
また、効果的な構成として、前記可動部材は、表示位置では前記投与ヘッドから軸方向に突出しており、前記投与ヘッドから突出している部分が外から見える視覚用指示器を形成すること、とする。
【0012】
また、効果的な構成として、前記可動部材は内部に挿入物を有し、当該挿入物は前記可動部材に対して移動不能であること、とする。
また、効果的な構成として、前記投与ヘッドは、ユーザの鼻孔に挿入される軸方向伸長部を有する鼻用ヘッドであること、とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の効果的な実施の形態における流体投与装置を非表示状態において示す概略断面図である。
【図2】図1の装置の一部を示す概略部分斜視図である。
【図3】図1と同様に表示状態の図であり、投与部材の駆動前の状態を示す図である。
【図4】図3と同様の図であり、投与部材の駆動開始時点における状態を示す図である。
【図5】図3、4と同様の図であり、流体投与後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に関する上記の特徴及び効果、そして上記以外の特徴及び効果については、非限定的な例として示す具体的な実施の形態に関する下記の詳細な説明を、添付図面を参照しながら読むことで、より明らかになるであろう。
本発明は、機械的な放出ドーズ指示器に関する。より具体的に言えば、本発明は医薬分野の流体投与器に用いられるものであり、特に鼻用投与器に用いられる。ただし、当然のことながら、本発明は他の分野の用途にも使用できる。
【0015】
本発明の原理は、投与中の流体の圧力によって非表示位置から表示位置に移動させられる可動機械要素を設けることである。「表示位置」との用語は、装置の前回駆動時に1ドーズの流体が噴霧開口部から有効に投与されたことを示す位置を意味する。「非表示位置」との用語は、反対に、1ドーズの流体が有効に投与されなかったことを示す位置を意味する。従って、装置使用後にユーザが指示器を見て表示位置にあれば、それによって、1ドーズが投与されたことを確認できる。その後、指示器は、装置の次回駆動まで表示位置に留まる。指示器は阻止要素によって表示位置からの移動が阻止される。次回駆動の時点でユーザが装置を手に持った時、ユーザには表示位置にある指示器が見える。そして、装置の駆動ストロークが始まる時点で、指示器は非表示位置に戻される。留意すべき点として、鼻用の種類の投与装置では、ユーザは当該装置の投与ヘッドの鼻孔用伸長部を鼻孔に挿入するため、駆動ストロークの開始時点で指示器が非表示位置に戻るのを見ることはできない。流体が有効に投与された時、通常は装置の駆動ストロークが終わりに近づいたあたりで、前記指示器は投与される流体の圧力によって自動的に表示位置に戻される。駆動開始の時点でいったん非表示位置に入るため、指示器が表示位置にあれば、それは、1ドーズの流体が実際に有効投与されたことを意味する、ということがユーザに保証される。1ドーズ分が放出されなかった場合、指示器は、投与される流体の圧力によって表示状態に戻されることはないため、非表示位置に留まる。
【0016】
図面には本発明の特定の実施の形態を示してある。留意すべき点として、当該実施の形態は一例であって、本発明は当該実施の形態に限定されることはない。特に、視覚用指示手段50は何らかの別の方法で作ってもよい。
図1に示す装置では、投与部材10(具体的にはポンプ)が留めリング40によって貯蔵器20(図にはネック部のみ示す)に取り付けられており、留めリング40と貯蔵器20との間にはネックガスケット45が挟まれている。従来と同じく、ピストン11はポンプ本体12の内部を、漏れを生じない状態で摺動する。当然のことながら、本発明は、別種のポンプや、推進ガスを用いて機能する弁部材を備えた弁にも適用することができる。「ポンプ10」という用語でこれ以降言及する投与部材は、前記ポンプに取り付けられた投与ヘッド30によって駆動される。図に示す実施の形態では、投与ヘッド30は、噴霧開口部31を備えると共に、鼻孔に挿入される軸方向伸長部を有した鼻用投与ヘッドである。
【0017】
本発明では、視覚用指示手段50は、好ましい構成として、投与ヘッド30内部に配置される形で設けられている。図に示す実施の形態における視覚用指示手段50は、表示位置と非表示位置との間を移動可能な可動部材51を有する。図3、5に概略的に示す表示位置では、前記可動部材51は、投与ヘッド30から軸方向に突出している。そうして、ヘッドから突出した部分に、外部からユーザの目に見える視覚用指示手段が形成されている。例えば、前記可動部材51の側面の色をヘッドの色と異なるものとすれば、可動部材がヘッドから突出しているか否か、ユーザは非常に容易に確認することができるであろう。当然のことながら、投与部材30に視界窓を、可動部材に可視マークを設ける構成も考えられる(例えば、前記可動部材51が表示位置、非表示位置のいずれにあるかに応じて、前記視界窓を通して見える部分の色が異なる、という構成)。可動部材51は、スプリング52によって非表示位置方向に付勢されている。これに対して、スプリング52から加わる強い力に逆らう形で、可動部材51を表示位置に保持する阻止要素53が設けられている。阻止要素53は、径方向に見て前記可動部材51の外側に配置され、投与ヘッド30内部で軸方向に移動できない、という構成のスリーブによって形成されている。言い換えると、可動部材51は前記阻止要素53の内側で軸方向に移動する。表示位置では、可動部材51は前記阻止要素53と係合しており、それによって表示位置に保持される。効果的な構成として、阻止要素53は可撓性のタブ54を少なくとも1つ有し、当該可撓性タブ54は、可動部材51の外面の径方向突起部511と係合するように作られた内面輪郭部541を備えている。内面輪郭部541は、図3、5に見られるように、可動部材51を表示位置に保持する。加えて、タブ54はカム60とも係合するように作られている。カム60は、ポンプ10の駆動開始時点で、タブ54を径方向外向きに変形させるように作られている。より厳密に言えば、図2に見られるように、カム60は突起部(好ましくは円形)の形で形成される。図3に見られるように、タブ54は、傾斜した下端面546を備えた端部突起部545において、カム60を形成する突起部に当接することになる。そのため、駆動ストロークが開始されると、タブはカム60に沿って摺動することで、径方向外向きに移動する。こうした径方向の変形によって、可動部材51の径方向突起部511は阻止要素53の前記内面輪郭部541から外れる。すると、スプリング52の力の作用により、可動部材51は図1、4に示す非表示位置に戻され、投与ヘッドの外に突出していない状態となる。可動部材51がその非表示位置にある時、その径方向突起部511は、阻止要素53のタブ54を径方向外向きに変形した状態に保つ。この状態でポンプの駆動ストロークが進行すると、ポンプが駆動されて1ドーズの流体が投与される。そうして、流体は圧力を受けた状態で投与ヘッドから放出されるが、当該圧力を受けた流体が可動部材51に到達した時点での圧力の強さは、スプリング52から加わる力に逆らって前記可動部材51を表示位置に戻すのに充分なものとなっている。通常、ポンプからの出口における流体の圧力は約5バール、あるいは、それを上回る。可動部材51が表示位置に戻されると、阻止要素53のタブ54は弾性的に阻止位置に戻る。投与ヘッドが駆動後の位置にある時、端部突起部545は、軸方向に見てカム60の反対側にある。駆動を終えて、ユーザが投与ヘッドに力を加えるのをやめると、特にポンプの戻しスプリングの作用により、投与ヘッドは上昇する。この上昇中に、可撓性タブ54は、端部突起部545の傾斜した上端面547において再びカム60と係合して可撓性タブ54を径方向内向きに変形させ、それによって、可動部材51の表示位置からの移動を継続して阻止する。よって、可動部材は次回の駆動まで表示位置に留まることになる。阻止要素53については、径方向に見て対向する位置にある2つの可撓性タブ54から成る、という構成にするのが効果的である。
【0018】
ここに示す特定の実施の形態では、可動部材51は中空であり、投与ヘッド30の放出流路と噴霧開口部31とが形成されている。効果的な構成として、前記可動部材51の内部には、移動しない状態で挿入物59が配置されている。このように配置された挿入物59は、表示位置と非表示位置との間を前記可動部材と共に移動する。また従来と同様に、挿入物59は、噴霧開口部31の位置に噴霧輪郭部(図示せず)を形成する役割を果たし、投与対象の流体が適正に噴霧されることを確実にする。
【0019】
通常、鼻用投与ポンプでは、ストロークがポンプの休止位置から約3.5ミリメートル(mm)進んだ所で流体が投与される。本発明では、駆動ストロークの開始時点で、そして効果的な構成として、駆動ストロークの最初の1ミリメートルに達する前に、可動部材51が非表示位置に戻される。つまり、1ドーズの流体の投与が開始される前に、可動部材51が非表示位置に戻されることが保証される。よって、ポンプで故障が起きたり、駆動が正確に実行されなかったりして、1ドーズが投与されなかった場合は、可動部材51が非表示位置に留まり、1ドーズが放出されなかったことがユーザに示される。
【0020】
以上、本発明に関し、特定の実施の形態を挙げて説明したが、当然のことながら、これら実施の形態には、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲から逸脱しない形で、様々な変更を施すことが可能であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体貯蔵器(20)に取り付けられ、噴霧開口部(31)を有する投与ヘッド(30)によって駆動される、ポンプまたは弁である投与部材(10)を有する流体投与装置であって、
表示位置と非表示位置との間で移動可能である視覚用指示手段(50)を更に有し、
前記視覚用指示手段(50)は、前記投与部材(10)の毎回の駆動開始時に非表示位置に移動させられ、流体の投与中、前記流体によって前記非表示位置から前記表示位置に移動させられること、
を特徴とする流体投与装置。
【請求項2】
前記視覚用指示手段(50)は、前記投与ヘッド(30)の内部に配置されており、表示位置においては、少なくとも一部が外部から見えること、
を特徴とする請求項1に記載の流体投与装置。
【請求項3】
前記視覚用指示手段(50)は可動部材(51)を有し、当該可動部材(51)は、スプリング(52)によって非表示位置方向に付勢されると共に、流体投与時には流体の圧力によって表示位置方向に付勢されること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の投与装置。
【請求項4】
前記可動部材(51)は、表示位置では阻止要素(53)によって移動を阻止されており、当該阻止要素(53)は、阻止位置方向に弾性的に付勢されていること、
を特徴とする請求項3に記載の投与装置。
【請求項5】
前記阻止要素(53)は、投与部材(10)の駆動開始時点で阻止位置から解放され、それによって、可動部材(51)は前記スプリング(52)の作用で非表示位置に戻ること、
を特徴とする請求項4に記載の投与装置。
【請求項6】
前記阻止要素(53)は1以上の可撓性タブ(54)を有し、当該可撓性タブ(54)は、前記可動部材(51)の径方向突起部(511)と係合して前記可動部材を表示位置に保持する内面輪郭部(541)を備えていること、
を特徴とする請求項5に記載の投与装置。
【請求項7】
1以上の前記可撓性タブ(54)は端部突起部(545)を有し、当該端部突起部(545)は、投与部材(10)の駆動開始時、1以上の前記可撓性タブ(54)を径方向外向きに変形させるように作られたカム(60)と係合し、可撓性タブ(54)の内面輪郭部(541)と可動部材(51)の径方向突起部(511)との間の前記係合を解消すること、
を特徴とする請求項6に記載の投与装置。
【請求項8】
前記端部突起部(545)は、傾斜した下端面(546)と傾斜した上端面(547)とを有し、傾斜した下端面(546)は駆動開始時点にカム(60)と係合して可撓性タブ(54)を径方向外向きに変形させ、傾斜した上端面(547)は、駆動終了後にカム(60)と係合して、投与ヘッド(30)が休止位置に戻る間、径方向内向きに可撓性タブを変形させること、
を特徴とする請求項7に記載の投与装置。
【請求項9】
前記カム(60)は、貯蔵器(20)に固定された円形の突起部(65)によって形成されており、当該突起部(65)は特に、投与部材(10)を前記貯蔵器(20)に留める留めリング(40)に固定されていること、
を特徴とする請求項7又は8に記載の投与装置。
【請求項10】
前記可動部材(51)は中空であって、投与装置の前記噴霧開口部(31)が形成されていること、
を特徴とする請求項3乃至9のいずれか一項に記載の投与装置。
【請求項11】
前記可動部材(51)は、表示位置では前記投与ヘッド(30)から軸方向に突出しており、前記投与ヘッドから突出している部分が外から見える視覚用指示器を形成すること、
を特徴とする請求項10に記載の投与装置。
【請求項12】
前記可動部材(51)は内部に挿入物(59)を有し、当該挿入物は前記可動部材(51)に対して移動不能であること、
を特徴とする請求項10又は11に記載の投与装置。
【請求項13】
前記投与ヘッドは、ユーザの鼻孔に挿入される軸方向伸長部を有する鼻用ヘッドであること、
を特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の投与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−509929(P2013−509929A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537434(P2012−537434)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052342
【国際公開番号】WO2011/055068
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(502343252)アプター フランス エスアーエス (144)