説明

流体機械におけるブラシ形漏れ止め装置

本発明は、並べて配置された複数の剛毛列(28)に複数の弾性たわみ剛毛(12)が設置されている、流体機械の回転部品と固定部品との間の隙間を漏れ止めするための流体機械におけるブラシ形漏れ止め装置(10)に関し、少なくとも2つの剛毛列(28)間に、剛毛(12)の縦方向に延びる薄板(30、32)あるいは円板が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並べて配置された複数の剛毛列に複数の弾性たわみ剛毛が設置されている、流体機械の回転部品と固定部品との間の隙間を漏れ止めするための流体機械におけるブラシ形漏れ止め装置に関する。
【0002】
回転部品と固定部品を有する流体機械において、異なった圧力室間を漏れ止めするために種々の構造のシール要素が利用されている。この場合、回転部品と固定部品との間において、特に非接触式パッキン(例えばラビリンスパッキン)やたわみ接触シール要素が採用される。たわみ接触シール要素に特にいわゆるブラシ形漏れ止め装置が属し、そこでは、異なった圧力の室間を漏れ止めするために剛毛束セットが利用されている。
【0003】
非接触式パッキンは数ミリバールから数100バールの圧力差が存在する室間を漏れ止めするために採用されるが、ブラシ形漏れ止め装置の利用範囲は、多段配置(複数のブラシ形シールの直列配置)でも、「吹き倒し作用(Blow-Over-Effekte)」および「扇状の広がりのために最大圧力差に関して限定される。
【0004】
「吹き倒し作用」は図1の従来におけるブラシ形漏れ止め装置10の断面図から理解できる。そのブラシ形漏れ止め装置10において、剛毛12が複数列で配置され、基体14に固定されている。その基体14は両側がそれぞれ案内板16により挟み込まれ、その図1の右側に示された案内板16は、剛毛12の下端部位を接触支持するように、剛毛12の下端部位まで延びている。相応した大きな圧力差「p1>>p2」がブラシ形漏れ止め装置10にかかった場合、剛毛12はその下端部位が、図1における左側圧力室の媒体が右側圧力室に越流するほどひどく湾曲される。
【0005】
図2にブラシ形漏れ止め装置10の「扇状の広がり」が図1に相応した断面図で示されている。その「扇状の広がり」の際、剛毛12の下端部位における不利な流れのために、個々の剛毛が左側圧力室に向けて曲げられ、このために、媒体が圧力p1下にある左側側室からより低い圧力p2下にある右側圧力室に到達する。
【0006】
公知のブラシ形漏れ止め装置の性能を高めるために、従来の対策において、個々の剛毛が比較的太く形成され、個々の剛毛束セットが案内板ないし支持リングによって保持され(図1と図2、右側案内板16参照)、および/又は、個々の剛毛束セットが全体として幅広く、ないし厚く形成されている。
【0007】
しかしそれでも、公知のブラシ形漏れ止め装置の耐え得る圧力差は上述のように限定される。特に回転部品と固定部品との間の必要な半径方向の隙間のために、剛毛は案内板ないし支持リングによって対向部品の任意の近さまで近づけて支持できない。
【0008】
本発明の課題は、冒頭に述べた形式のブラシ形漏れ止め装置を、それが装備された流体機械において大きな圧力差の場合にも漏れ止めできるように改良することにある
【0009】
この課題は、本発明に基づいて、特許請求の範囲の請求項1に記載のブラシ形漏れ止め装置および請求項14に記載の流体機械によって解決される。本発明の有利な実施態様はそれらの従属請求項に記載されている。
【0010】
流体機械の回転部品と固定部品との間の隙間を漏れ止めするための流体機械における本発明に基づくブラシ形漏れ止め装置は、冒頭に述べた並べて配置された複数の剛毛列の中に複数の弾性たわみ剛毛を有し、その本発明に基づくブラシ形漏れ止め装置は単段で形成されている。また、少なくとも2つの剛毛列間に、剛毛の縦方向に延びる薄板あるいは円板が配置されている。
【0011】
単段ブラシ形漏れ止め装置は、複数の剛毛がほぼその長さにわたって互いに接して配置され、これにより、剛毛束セット(ブラシ)が形成されていることにより特徴づけられる。従って、単段ブラシ形漏れ止め装置は、相互に密接して位置する複数の剛毛を有する剛毛束セットにより特徴づけられる。単段ブラシ形漏れ止め装置の他の特徴は、ブラシ形漏れ止め装置ホルダへの剛毛の取付けにあり、その場合、ブラシ形漏れ止め装置ホルダに配置された剛毛端は相互に密接して位置している。多段ブラシ形漏れ止め装置は、空間的に分離され直列配置された少なくとも2個の剛毛束セットによって特徴づけられ、その各剛毛束セットは一般に互いに接していない。
【0012】
即ち、本発明に基づくブラシ形漏れ止め装置は、その剛毛束セットの個々の剛毛列間に、薄板あるいは円板の形をした少なくとも1つの中間層を有している。その円板は特に薄い板である。かかる本発明に基づく薄板ないし円板によって、個々の剛毛および本発明に基づく中間層が相互に支え合うことが達成される。案内板の縁を中心とした剛毛の折り曲がり(図1参照)の恐れあるいは剛毛の扇状の広がり(図2参照)の恐れが、本発明に基づいて大きく低減される。このようにして、本発明に基づくブラシ形漏れ止め装置は大きな圧力差に対しても適用できる。ブラシ形漏れ止め装置の旋回性流れによる個々の剛毛の扇状の広がりは、本発明に基づく薄板あるいは円板により特に流入側において低減される。
【0013】
本発明に基づく薄板あるいは円板をブラシ形漏れ止め装置に安価に設けるためおよび永続的に保持するために、剛毛の終端部位を基体に不動に固定すること、および薄板あるいは円板の縁部位を基体に剛毛間で保持することが有利である。
【0014】
本発明に基づく薄板あるいは円板は、好適には、摩耗性材料から成っている。そのようにして、薄板あるいは円板は剛毛と全く同じ長さを有し、これによって、剛毛先端の剛性が増大され、これによって、案内板の縁を中心とした剛毛の折り曲がりが大きく低減される。この場合、薄板あるいは円板は、有利には、金属マトリックスあるいは黒鉛で作られている。
【0015】
本発明に基づく薄板あるいは円板は、好適には、プラスチックおよび/又は金属で作られている。かかる材料によって、ブラシ形漏れ止め装置の必要な運転温度に応じた所望の支え効果が安価に得られる。
【0016】
さらに本発明に基づいて、薄板あるいは円板に少なくとも部分的に複数の小穴を開けること、および/又は、少なくとも部分的にスリットを入れることが有利である。かかるブラシ形漏れ止め装置によって、ブラシ形漏れ止め装置の「吹き下ろし効果(Blow-Down-Effekte)」(即ち、剛毛束セットへの半径方向の押圧力によるブラシ形漏れ止め装置の封止)が維持される。
【0017】
また本発明に基づいて、薄板あるいは円板を剛毛の縦方向において剛毛と全く同じ長さに形成すること、および/又は、剛毛より短く形成することが有利である。さらに、本発明に基づく剛毛束セットは薄板あるいは円板と任意に重ね合わせ、および任意の厚さに形成することができる。その薄板あるいは円板の数並びにそれぞれの厚さは、漏れ止め状況における要件に応じて変化させることができる。その薄板あるいは円板は、対応した剛毛と一緒に注型成形、射出成形、溶着成形、巻回成形および/又は締付け成形することができる。
【0018】
好適には、薄板あるいは円板は剛毛を支持するための構造を有している。この比較的容易に実行できる処置によって、薄板の剛性が一層高められる。その場合、薄板あるいは円板は、曲がりを防止するために、その長手方向において元々折り曲げられている。薄板あるいは円板は、有利に、正弦波状、U字状あるいは三角形状の波形(なみがた)にされている。
【0019】
以下図を参照して本発明に基づくブラシ形漏れ止め装置の実施例を詳細に説明する。
【0020】
図3に、互いにほぼ平行に延びる複数の剛毛12を有し、これらの剛毛12がまとまって剛毛束セット(ブラシ)を形成している従来におけるブラシ形漏れ止め装置10が断面図で示されている。それらの剛毛12は、両側の案内板16間に存在する基体14に埋めこまれている。両案内板16はそれぞれ剛毛12の縦方向に延び、図3における右側案内板16はその下端部位が剛毛12に向けて湾曲され、その下端部位に剛毛12が接触支持されている。かかるブラシ形漏れ止め装置10の矢印18の方向における回転中、図3における剛毛12の下端部位は、対向して位置する固定部品(図3〜図6に図示せず)に対して摩擦抵抗を有し、これによって、剛毛12はその主運動方向に対して角度20だけ湾曲される。
【0021】
図4に、剛毛12が中央ワイヤ22に巻き付けられ、外側が断面ほぼ円形の外被24により取り囲まれている従来におけるブラシ形漏れ止め装置10の例が示されている。剛毛12はその外被24から図4において下向きに固定部品(図示せず)に向けて突き出している。
【0022】
図5に、同様に剛毛12と基体14と両側の案内板16を有する本発明に基づくブラシ形漏れ止め装置10の実施例が示されている。このブラシ形漏れ止め装置10は同様に矢印18の方向に回転する。その剛毛12は互いにほぼ平行に剛毛列28の形で配置され、これらの剛毛列28間に全部で2枚の薄板30、32が存在している。相対的に低い圧力の圧力室34の側の薄板30はその薄板面が密閉して形成されている。これに対して、相対的に高い圧力の圧力室36の側の薄板32は複数の小穴38が開けられている。
【0023】
図5は単段ブラシ形漏れ止め装置10を示している。その両薄板30、32は摩耗特性材料で作られている。その摩耗材料として金属マトリックスや黒鉛が用いられる。
【0024】
図7は、薄板30、32が剛毛12を支持するための構造を有している本発明に基づくブラシ形漏れ止め装置を示している。図7におけるブラシ形漏れ止め装置の斜視図は薄板30、32の三角形構造を示している。図8にその三角形構造が底面図で示されている。図9および図10はそれぞれ薄板30、32の正弦波構造ないしU字形構造を示している。図11における薄板30、32は剛毛の縦方向に形成されたクロスピース40によって補強され、薄板30、32の剛性が高められている。
【0025】
図6に、剛毛12、ワイヤ22および外被24については図4に示された例と同様に形成されている本発明に基づくブラシ形漏れ止め装置10の異なった実施例が示されている。しかし図6の実施例の場合、ワイヤ22に巻き付けられた複数の剛毛12間に薄板30が存在し、これによって、外被24から突出する剛毛部位に、図5に下から見た斜視図で示された剛毛12と薄板30、32との積層体が生じている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】「吹き倒し作用」を説明するための従来におけるブラシ形漏れ止め装置の断面図。
【図2】「扇状の広がり」を説明するための従来におけるブラシ形漏れ止め装置の断面図。
【図3】図1と図2に相応した従来におけるブラシ形漏れ止め装置の例の断面図およびその部分斜視図。
【図4】従来におけるブラシ形漏れ止め装置の他の例の断面図。
【図5】図3のブラシ形漏れ止め装置を基礎としている本発明に基づくブラシ形漏れ止め装置の実施例の断面図およびその部分斜視図。
【図6】図4のブラシ形漏れ止め装置を基礎としている本発明に基づくブラシ形漏れ止め装置の実施例の断面図。
【図7】波形構造板を備えた本発明に基づくブラシ形漏れ止め装置の実施例の部分斜視図。
【図8】図7の実施例における剛毛の底面図。
【図9】本発明に基づくブラシ形漏れ止め装置の異なった実施例の剛毛の底面図。
【図10】本発明に基づくブラシ形漏れ止め装置の異なった実施例の剛毛の底面図。
【図11】本発明に基づくブラシ形漏れ止め装置の異なった実施例の剛毛の底面図。
【符号の説明】
【0027】
10 ブラシ形漏れ止め装置
12 剛毛
14 基体
30 薄板
32 薄板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並べて配置された複数の剛毛列(28)に複数の弾性たわみ剛毛(12)が設置されている、流体機械の回転部品と固定部品との間の隙間を漏れ止めするための流体機械における単段ブラシ形漏れ止め装置(10)であって、
少なくとも2つの剛毛列(28)間に、剛毛(12)の縦方向に延びる薄板(30、32)あるいは円板が配置されている単段ブラシ形漏れ止め装置。
【請求項2】
剛毛(12)の終端部位が基体(14)に不動に固定され、前記剛毛(12)間にて薄板(30、32)あるいは円板の縁部位が前記基体(14)に保持されていることを特徴とする請求項1に記載のブラシ形漏れ止め装置。
【請求項3】
薄板(30、32)あるいは円板が摩耗性材料から構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のブラシ形漏れ止め装置。
【請求項4】
薄板(30、32)あるいは円板が金属マトリックスあるいは黒鉛で作られていることを特徴とする請求項3に記載のブラシ形漏れ止め装置。
【請求項5】
薄板(30、32)あるいは円板がプラスチックで作られていることを特徴とする請求項1又は2に記載のブラシ形漏れ止め装置。
【請求項6】
薄板(30、32)あるいは円板が金属で作られていることを特徴とする請求項1又は2に記載のブラシ形漏れ止め装置。
【請求項7】
薄板(30、32)あるいは円板が少なくとも部分的に複数の小穴を開けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載のブラシ形漏れ止め装置。
【請求項8】
薄板(30、32)あるいは円板が少なくとも部分的にスリットが切られていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載のブラシ形漏れ止め装置。
【請求項9】
薄板(30、32)あるいは円板が剛毛(12)の縦方向において剛毛(12)と全く同じ長さに形成されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載のブラシ形漏れ止め装置。
【請求項10】
薄板(30、32)あるいは円板が剛毛(12)の縦方向において剛毛(12)より短く形成されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載のブラシ形漏れ止め装置。
【請求項11】
薄板(30、32)あるいは円板が剛毛を支持するための構造を有していることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1つに記載のブラシ形漏れ止め装置。
【請求項12】
薄板(30、32)あるいは円板が波形に形成されていることを特徴とする請求項11に記載のブラシ形漏れ止め装置。
【請求項13】
薄板(30、32)あるいは円板が正弦波状、U字状あるいは三角形状の波形(なみがた)にされていることを特徴とする請求項12に記載のブラシ形漏れ止め装置。
【請求項14】
請求項1ないし8のいずれか1つに記載のブラシ形漏れ止め装置を備えている流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−500916(P2010−500916A)
【公表日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525016(P2009−525016)
【出願日】平成19年8月13日(2007.8.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/058353
【国際公開番号】WO2008/020002
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】