説明

流体輸送系におけるトレーサー送出システムおよびその使用

本発明は、流体輸送系におけるトレーサー送出システムおよびその使用に関する。すなわち、種々のトレーサーでドープしたメラミンホルムアルデヒド樹脂(MFR)からな
る担体を含むことを特徴とする、流体輸送系におけるトレーサー送出システムである。トレーサー物質を加えられたメラミンホルムアルデヒド樹脂を含むポリマー固体担体は、液体系をモニターするためのそうしたトレーサー物質を与えるのに好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は種々のトレーサー物質でドープ(dope)したメラミンホルムアルデヒド樹脂(MFR)からなる特別のトレーサー送出システムに関する。このMFR/トレーサー混合体はモニタ
リングシステムの一部として使用される。そのシステムでトレーサーは、上流側の特定位置でMFR/トレーサー混合体から送出され、下流のいずれかの位置で検出され、そうした上流の特定位置からの流体の流れを実証する。このシステムは石油貯留層の産油井戸における流体流入を長期にわたりモニタリングすることを意図する。
【背景技術】
【0002】
トレーサーは、例えば石油貯留層(oil reservoir)、生産フローライン、地中の水漏
れ探索のような様々なシステムにおいて流体の流れを追跡するのに使用される。トレーサーは上流で放出され、下流で検出される。下流でのトレーサー濃度を分析することにより、 流速、希釈容量、連通、流体混合、主部滞在時間分布(mass residence time distribution)などの情報を与えるであろう。トレーサーは様々な方法によりシステム内に導入
してもよいが、最も一般的な方法は、鋭いパルス(Diracパルス)または定常濃度での流量
である。いくつかの種類の油井稼動において、トレーサー送出システムが必要とされている。これによって、実用上の制約のためにより従来的な機械的注入装置を設置するか装備させることが困難となりそうな各所でもトレーサーを放出することができる。さらに温度、単一相流体の化学組成または流体相のタイプといった井戸の条件における変化を反映することができる送出システムに対する要求がある。
【0003】
好適な非放射性トレーサーの例として、ナフタレンスルホン酸塩、アミノナフタレンスルホン酸塩、フルオレセインおよびフッ化安息香酸(fluorinated benzoic acids)が挙
げられる。同一種類の構成成分の3H-標識または14C-標識トレーサーを適用してもよい。
【0004】
そのような送出方法の応用が、石油産生井戸(oil production wells)において流体の流速(inflow)を測定する特別の目的を有するいくつかの特許 (特許文献1および2)に
おいて提案されている。ほとんどの石油貯留層(oil reservoir)および現代の水平式、起
伏的、多面的、または多岐に分岐する生産井戸の複雑さゆえに、いずれの井戸で、または井戸内のいずれのゾーンで流体が産生されるかを知ることは容易ではない。
【0005】
油田地帯における水の生産速度は、ある井戸では何年にもわたり10.000〜20.000 m3/d レベルであるかも知れない。上記トレーサー放出システムは、下流の検出位置で検出限界を超えるトレーサー濃度を与えるトレーサー量を送出することが求められる。多くの状況では、そのような送出システムにとり、利用でき、かつ到達できる容量は限られている。それゆえに該システムは、サブppb濃度で検出できるトレーサーを送出することができな
ければならない。このことは、放射性トレーサー(主に純粋のβ線放出体)を用いることによって容易に達成できる。しかしながら多くのシステムでは、このことは避けるべきであり、よってそうした放射性トレーサーは、非放射性化学種に置き換われている。
【特許文献1】米国特許第06,645,769号
【特許文献2】米国特許第05,082,147号
【発明の開示】
【0006】
石油貯留層からの最適な石油生産は、石油貯留層の特性についての確かな知識に依存する。石油貯留層モニタリングの伝統的な方法は、地震記録解析(seismic log interpretation)、油井の圧力試験、生産流体分析、生産履歴マッチングおよび油井間トレーサー技術が挙げられる。
【0007】
石油貯留層の複雑さゆえにあらゆる入手できる情報は、石油貯留層における動態変動(dynamics)に関する最良の知識をオペレーターに提供するために貴重である。
一般的なオイル回収の二次的な方法は、指定された注入井戸への水の注入である。その水は、様々な層中を進み、石油貯留層内の異なる領域を掃引していくであろう。井戸内の異なるゾーンにおいて、かかる水の生成をモニタリングすることは、掃引(sweep)効率
を向上させ、これによりオイル回収を増加させる生産プログラムを設計するために重要である。
【0008】
注入水と、もともと石油貯留層内にあった地層水(formation water)との混合は、過飽
和溶液を生じさせ、これにより石油貯留層の井戸近辺ゾーン内か、または生産配管路内に粒子(スケール)の沈降をもたらす。いずれのゾーンが水の生成に関わっているかを知ることにより、規模の効果(effect of scaling)を減らすための行動をとることが可能で
あり、その結果生産性を維持することができる。
【0009】
本願は、検証された特別なトレーサー送出システムを提案する。請求されるこのシステムは、様々なトレーサー材料でドープ(dope)したメラミンホルムアルデヒド樹脂(MFR)か
らなる。そのMFRはトレーサー化合物を流体系へ徐々に放出させるために使用される。MFR/トレーサー混合体は、トレーサーが上流の特定位置で該MFR/トレーサー混合体から送出
されて下流のどこかの位置で検出されるモニタリングシステムの一部として適用され、これにより上流の特定位置からの流体の流れが検証される。MFRは、様々なタイプのトレー
サーでドープすることができ、その結果、上流のいくつかの異なる位置で異なるトレーサーを投与することができる。標識された様々なゾーンからの生産を、下流で一つのサンプル分析することにより検証することが可能である。
[発明の詳細な説明]
他のシステムでは、トレーサーはパルスとして、または定常送出速度で投与されるかも知れない。本MFRシステムは、離れた場所でも安定した送出システムとして作用するよう
に開発されている。該システムは、多くの状況でのトレーサー送出について、コスト上、効率的な方法である。一旦装備されれば、トレーサーを送出させるためにさらなるメンテナンスまたは作業は必要とされない。該MFRシステムは何年もの間、送出システムとして
作動するであろう。
【0010】
前記MFRトレーサー送出システムは、多種多様の大量輸送系における流体の流れパラメ
ーターを測定するためのツールとして、トレーサー類を使用する可能性を増強するために開発された。該MFRは、高温および高圧条件下でのトレーサー化合物用放出システムとし
て作用する。MFRは、異なるタイプのトレーサーを様々な濃度でドープすることができる

【0011】
MFRの応用としては以下に限定されるものではないが、石油産出井戸における水または
石油のトレーサーの送出が挙げられる。そのMFRシステムは石油貯留層内の産出井戸に設
置される。MFRは産出ラインの先端、これに沿って、あるいは産出井戸の基部に設けても
よい。異なるトレーサーを異なる位置で適用することができる。該システムを、操業中に生産ライナ(production liner)と一緒に設置してもよい。産出配管系の一部として結合させるか、独立した物体として置くこともできる。MFRは、砂利パック(gravel pack)または狭小空間(rat hole)内に置いてもよい。
【0012】
前記トレーサーは適切な硬化剤を用いる硬化に先立ってMFR縮合物溶液に混合される。 その縮合物溶液は、Dynea ASA(ノルウェー)といった製造業者から商業的に入手するこ
とができ、メラミン、ホルムアルデヒド、メタノールおよび水の反応混合物である。さらに安定化剤、充填剤、可塑剤および/または着色剤などの添加物を含んでもよい。
【0013】
縮合前のもともとの含有量は、25〜40%メラミン、25〜35%ホルムアルデヒド、および1
〜10%メタノールである。上記硬化剤は蟻酸または製造業者からの他の製品でもよい。そ
うした製品の一例は、Dynea ASAからの、硬化剤のPrefere 5020を 10% (w/w)に添加したPrefere 4720である。前記縮合物溶液は、縮合物の乾燥粉末を水と混合することによって
も調製することができる。該乾燥粉末はDynea ASAまたは他の製造業者から入手でき、上
記の組成と同じ成分組成をもともと有する縮合物溶液をスプレー乾燥することにより作成される。可能な樹脂粉末製品の一例は、Dynea ASA からのDynomel M-765である。前記ト
レーサーは、硬化剤を混入させる前に機械的なブレンダーを使用して縮合物溶液に混合させる。
【0014】
アミノナフタレンスルホン酸およびフルオレセインといったトレーサーは、縮合物溶液中でホルムアルデヒドおよびメラミンと反応する。その化学反応は熱を適用することにより増強されるであろう。これらのトレーサーは、硬化後にポリマー構造内に取り込まれる。トレーサーは、塩結晶としてポリマー・マトリックス内に機械的に散布させてもよく、化学的に取り込ませてもよく、あるいは両方の態様の組み合せも可能であるかも知れない。化学的に結合されたトレーサーは、ポリマーが高い温度の水に曝されるとトレーサーそのものか、該トレーサーの誘導体として加水分解によって放出されるであろう。化学的に結合されたトレーサーは、トレーサーが塩の粒子としてのみ存在する場合よりも、ゆっくりした速度で放出されるであろう。そうしたことはトレーサー源の寿命を伸長させるであろう。長期間の放出が望ましい場合には、化学的に結合したトレーサーマトリックスのタイプが他のタイプより望ましい。
【0015】
尿素ホルムアルデヒド樹脂もまた、水のトレーサーの担体として試験された。このタイプの樹脂は、上昇した温度では水に対する安定性がより減じるために廃棄された。
水溶性のトレーサーには、水をベースとした樹脂を使用することが有利である。その理由の一つは、該トレーサーが疎水性樹脂よりも親水性樹脂の中に容易に分散するからである。ポリメチルメタクリレートのようなより疎水性の樹脂も担体として試験されたが、樹脂内にトレーサー粒子を均一に分散させることは一層困難であった。適用されるトレーサーは放射性でもよく、あるいは非放射性であってもよい。
【0016】
本発明のMFR/トレーサーシステムからのトレーサー放出速度は、流体に曝されているMFRの表面および幾何配置に依存するであろう。トレーサー放出速度は、さらに温度、流体
組成および圧力などのパラメーターにより影響される。MFRは、トレーサー化合物が大部
分の割合(%で)であっても持ちこたえ、さらに許容できる機械的特性を維持し続けるで
あろう。典型的なトレーサーの充填は5〜20重量%であろう。本発明に基づくMFR システムが使用されるであろう標準的な温度/圧力の範囲は、120℃および600 barまでであろう。
【0017】
前記MFR放出システムは、実際の適用に適応して様々な幾何的配置にその形態を形作る
のがよい。このことは、棒、立方体、所定形態への表面または直接の適合であってもよい。ポリマーを増強するために、様々な増強(armouring)技術が適用され得る。
[実施例]
ナフタレンスルホン酸類を使用する濾過実験がなされた。これらの化合物は、優れたトレーサー特性を有する一群の薬剤を構成する。
【実施例1】
【0018】
次に報告する実施例では、側面の長さが4 cmのMFR立方体が10重量%の化学的トレーサー化合物を含めて調製された。この実験は、90℃の温度で実施された。この実験におけるMFRは、Dynomel M-765から作製された。前記立方体を図 1に示される圧力容器内に置かれ
た。本実施例では石油貯留層(oil reservoir)内で予定されるものと共通性がある食塩
水が、流動相として使用された。該システムは様々な温度、圧力および流速で試験することを許容する。図2は、測定された放出速度の例を与える。実際の立方体において、その放出速度は、トレーサー総量の約0.3 %/日であった。放出速度はMFR システムの幾何的配置および接近し得る表面に依存するであろう。得られた放出速度は、そのポリマーが現行技術水準の分析方法を用いて下流で検出するのに適した速度で、約1年間トレーサーを放
出し続け得ることを示している。
【実施例2】
【0019】
実施例2のための機構は、図3に表されている。
Dynomel M-765から作製され、10%化学的トレーサーを含有するMFR立方体(20x20x7 mm
のサイズ)に、直径3 mmの孔をドリルであけた。該立方体の各側面から、1本のステンレス・スチール管をその孔の中へ挿入した。その結果、樹脂内で該孔の5 mmの長さだけが流入する地層水に曝されることとなった。該トレーサー源は90℃の加熱オーブン内に置かれた。地層水の流速は毎分0.5 mlに設定し、測定された放出速度を図4に示す。
【0020】
両実施例とも、化学的トレーサーをドープしたMFRからトレーサー源を構築することが
可能であることを示している。その供給源はかなり一定であるトレーサー放出を長きにわたり与える。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、トレーサー放出実験についての実験的な機構を描く簡単なフローチャートである。.
【図2】図2は、10%トレーサーを有するMFR樹脂の立方体(64 cm3)から、実験の開始時に利用できる総量の1000につきとして表される、一日当たりの濾過トレーサー量を、時間の関数として示すグラフである。
【図3】図3は、樹脂の孔中に流入する地層水を用いてMFRからのトレーサー放出のための実験機構を示す簡略フローチャートである。
【図4】図4は、流入実験の間、MFRからのトレーサー放出速度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種々のトレーサーでドープしたメラミンホルムアルデヒド樹脂(MFR)からなる担体を含
むことを特徴とする、流体輸送系におけるトレーサー送出システム。
【請求項2】
前記トレーサーが放射性トレーサーの3Hまたは14Cであることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記トレーサーが、非放射性トレーサー、好ましくは化学的トレーサーのナフタレンスルホン酸、アミノナフタレンスルホン酸、フッ化安息香酸、またはそれらの塩であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記システムが、充填剤、可塑剤、安定化剤および/または着色剤という異なるタイプ
の添加剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
各々が異なるトレーサーを有するMFR バッチが、液体系の異なるゾーンに置かれて、
異なるゾーンにおける石油貯留層の流体の流入に関する情報を得ることを特徴とする、該液体システムの正常または異常な作動条件を検出するための、請求項1〜4のいずれかに記載のシステムの使用。
【請求項6】
トレーサーでドープされた前記MFRが注入井戸の特定ゾーンに置かれ、トレーサーが専
ら現下のゾーンで送出されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のシステムの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−505259(P2008−505259A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519142(P2007−519142)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際出願番号】PCT/NO2005/000245
【国際公開番号】WO2006/004426
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(507000718)