説明

流出油回収処理装置

【課題】高い油回収効率が得られると共に高粘度油の分散処理が可能となり、長時間現場に留まっての流出油の処理が可能となる流出油回収処理装置を提供する。
【解決手段】水面上に漂流する流出油のエマルジョンを吸引する蒸気エゼクタ2を備えた流出油吸引手段1と、流出油吸引手段1により吸引されたエマルジョンから油を分離回収する油回収手段11と、蒸気エゼクタ1の周囲に配される集油手段16と、蒸気エゼクタ2に向けて水を放出する放水銃21と、エマルジョン解消剤または分散剤等の薬剤を蒸気エゼクタ2および放水銃21の少なくとも一方に注入する薬剤注入手段24と、油回収モードとエマルジョン分散処理モードとを切り替える運転モード切替手段としての三方切替弁28a、28bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流出油回収処理装置、特に、高温高圧の蒸気エゼクタを使用することによって、高い油回収効率が得られると共に、気液分離器や油水分離器等の各種機器の閉塞を防止でき、さらに、高粘度油の分散処理が可能となり、しかも、油回収モードとエマルジョン分散処理モードとを切り替えできるので、回収油タンクの容量に制限されることなく、長時間現場に留まっての流出油の処理が可能となる流出油回収処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンカーによる油流出事故は、小規模なものを含めて毎年発生しており、事故発生件数をゼロにすることは不可能に近い。従って、万一、油流出事故が発生した場合には、流出油による環境汚染を最小限に留める対策が極めて重要である。
【0003】
海面に流出した油は、波浪等により海水と混合されて、W/O型エマルジョンを形成する。このようにして形成されたエマルジョンは、非常に高い粘度を示すと共に、取り込まれた水の量だけ体積が増加している。
【0004】
エマルジョン化した流出油の対処法には、回収処理法および拡散処理法等がある。回収処理法は、ポンプ等により流出油のエマルジョンを吸引して回収油タンクに回収する方法であり、拡散処理法は、分散剤等の化学薬剤により流出油のエマルジョンを乳化し、微細な油滴にして分散させ、酸素や紫外線等の接触による自然浄化作用により流出油を無害化する方法である。
【0005】
従来、水面上の油を吸引する技術が特許文献1(特開平10−151455号公報)に開示されている。この技術は、エゼクタを利用して水面上の油を吸引するものである。エゼクタは、運動部分がなく耐食性材料が使用可能であるので耐久力に富み、しかも、構造が簡単であるので、保守・点検が容易であり、さらに、電力の消費量が少なく経済的である等の利点を有している。従って、流出油の回収処理にエゼクタを利用することは好ましい。
【0006】
【特許文献1】特開平10−151455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、流出油の回収処理にエゼクタを利用することは好ましいが、エゼクタによる流出油回収処理装置を船舶に搭載して、流出油回収処理を行った場合、以下のような問題がある。
【0008】
(1)回収された流出油は、依然エマルジョン化しているので、油水分離器等の機器が閉塞する恐れがあった。
(2)取り込まれた水の量だけ体積が増加しているので、回収油タンクの容量が不足する。
(3)回収油タンクが満杯になった場合には、一旦、帰港せざるを得ず、回収能率が悪い。
【0009】
従って、この発明の目的は、高温高圧の蒸気エゼクタを使用することによって、高い油回収効率が得られると共に、気液分離器や油水分離器等の各種機器の閉塞を防止でき、さらに、高粘度油の分散処理が可能となる。しかも、油回収モードとエマルジョン分散処理モードとを切り替えできるので、回収油タンクの容量に制限されることなく、長時間現場に留まっての流出油の処理が可能となる流出油回収処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0011】
請求項1記載の発明は、水面上に漂流する流出油のエマルジョンを吸引する蒸気エゼクタを備えた流出油吸引手段と、前記流出油吸引手段により吸引された前記エマルジョンから油を分離回収する油回収手段と、前記蒸気エゼクタの周囲に配される集油手段と、前記蒸気エゼクタに向けて水を放出する放水手段と、エマルジョン解消剤または分散剤等の薬剤を前記蒸気エゼクタおよび前記放水手段の少なくとも一方に注入する薬剤注入手段と、油回収モードとエマルジョン分散処理モードとを切り替える運転モード切替手段とを備え、油回収モードの場合には、前記薬剤注入手段から前記エマルジョン解消剤が前記蒸気エゼクタおよび前記放水手段の少なくとも一方に注入され、分離処理された油は、前記油回収手段により回収され、エマルジョン分散処理モードの場合には、前記薬剤注入手段から前記分散剤が前記蒸気エゼクタおよび前記放水手段の少なくとも一方に注入され、分散処理された処理液は、排出されることに特徴を有するものである。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記薬剤注入手段と前記運転モード切替手段とは連動していることに特徴を有するものである。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記油回収手段は、気液分離器と油水分離器とを備えていることに特徴を有するものである。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1から3の何れか1つに記載の発明において、前記蒸気エゼクタおよび前記集油手段は、波浪に追従して移動することに特徴を有するものである。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1から4の何れか1つに記載の流出油回収処理装置は、船舶に搭載されていることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、高温高圧の蒸気エゼクタを使用することによって、高い油回収効率が得られると共に、気液分離器や油水分離器等の各種機器の閉塞を防止でき、さらに、高粘度油の分散処理が可能となる。しかも、油回収モードとエマルジョン分散処理モードとを切り替えできるので、回収油タンクの容量に制限されることなく、長時間現場に留まっての流出油の処理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明の流出油回収処理装置を船舶に搭載した場合の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、この発明の流出油回収処理装置を示す概略構成図、図2は、流出油吸引手段を示す概略側面図、図3は、流出油吸引手段を示す概略平面図、図4は、図3のA方向矢視図である。
【0019】
図1から図3において、1は、流出油吸引手段であり、蒸気エゼクタ2と、蒸気エゼクタ2に高圧蒸気を供給する蒸気供給手段3とを備えている。
蒸気供給手段3は、清水タンク4、給水ポンプ5、ボイラ6、蒸気流量計7、調圧弁8および供給ポンプ9から構成されている。給水ポンプ5により清水タンク4内の水は、ボイラ6に送られて高圧蒸気となる。高圧蒸気は、蒸気流量計7および調圧弁8により所定の流量および圧力に調整された後、供給ポンプ9によって蒸気エゼクタ2の蒸気供給管10に送られる。
【0020】
11は、蒸気エゼクタ2により吸引された流出油のエマルジョンから油を分離回収する油回収手段である。油回収手段11は、気液分離器12と油水分離器13とから構成されている。蒸気エゼクタ2により吸引された流出油のエマルジョンは、油水吸引管14から気液分離器12に送られ、ここで遠心力により気体と液体とに分離された後、油水分離器13により油と水とに分離される。分離された油は、回収油タンク15内に貯留され、水は、排出管13aから船外に排出される。
【0021】
なお、エゼクタ2の作動液体として、高温高圧の蒸気を使用することによって、流出油のエマルジョンの吸引と同時に、エマルジョンの粘度を飛躍的に低下させることができる。この結果、回収油の付着による油水分離器等の機器の閉塞の問題は起こらない。しかも、エマルジョン解消剤によるエマルジョンの分解が容易に行われる。さらに、従来の分散剤散布法では、高粘度油の分散は困難であったが、高温高圧の蒸気エゼクタ2を使用することによってこれが可能となる。
【0022】
16は、集油手段としての集油板であり(図2から図4参照)、蒸気エゼクタ2の後方に蒸気エゼクタ2を取り囲むように配されている。集油板16には、オイルブーム17が接続されている。
【0023】
蒸気供給管10の途中は、可撓性に富んだゴム管10aにより構成され、蒸気エゼクタ2側の蒸気供給管10は、自在継手18を介してゴム管10aに接続されている。油水吸引管14の途中は、可撓性に富んだゴム管14aにより構成され、蒸気エゼクタ2側の油水吸引管14は、自在継手18を介してゴム管14aに接続されている。蒸気エゼクタ2近傍の蒸気供給管10および油水吸引管14には、フロート19が取り付けられている。ゴム管10a、14aおよび自在継手18の作用によって、蒸気エゼクタ2および集油板16は、波浪に追従して移動する。なお、蒸気供給管10と油水吸引管14との途中間には、蒸気エゼクタ2を逆洗する際に開かれる逆洗弁20が取り付けられている。
【0024】
21は、放水手段としての複数本の放水銃であり、海水ポンプ22によって蒸気エゼクタ2に向けて海水を放出する。23は、ゴミよけネットであり、放水銃21から放水された海水により海面上のゴミが蒸気エゼクタ2に吸引されるのを防止する。
【0025】
24は、薬剤注入手段であり、エマルジョン解消剤タンク25内のエマルジョン解消剤または分散剤タンク26内の分散剤を供給ポンプ27によって、後述する三方切替弁を介して蒸気エゼクタ2および放水銃21の少なくとも一方に注入する。
【0026】
28a、28bは、運転モード切替手段としての三方切替弁である。三方切替弁28aは、油回収モード、すなわち、エマルジョン解消剤の添加により流出油のエマルジョンから油を回収する場合には、気液分離器12からの流路を油水分離器13側に切り替える。一方、エマルジョン分散処理モード、すなわち、分散剤により流出油のエマルジョンを分散処理する場合には、気液分離器12からの流路を排水管13a側に切り替える。三方切替弁28bは、上記運転モードに応じて、供給ポンプ27に送る薬剤をエマルジョン解消剤タンク25内のエマルジョン解消剤か分散剤タンク26内の分散剤かに切り替える。上記2つの三方切替弁28a、28bは、運転モードに応じて自動的に切り替わるようにしても良い。
【0027】
このように構成されている、この発明の流出油回収処理装置によれば、以下のようにして、海面上に漂流する流出油を回収処理することができる。
【0028】
油回収モードの場合には、三方切替弁28aを油水分離器13側に、そして、三方切替弁28bをエマルジョン解消剤タンク25側にそれぞれ切り替え、蒸気供給手段3から高圧蒸気を蒸気供給管10に送る。これにより、蒸気エゼクタ2が作動して、集油板16およびオイルブーム17内の流出油のエマルジョンが吸引される。流出油は、放水銃21から放出される海水によって、ゴミよけネット23を介して蒸気エゼクタ2側に集められる。蒸気エゼクタ2および集油板16は、フロート19の浮力により波浪に追従して移動するので、流出油のエマルジョンは、蒸気エゼクタ2によって確実に吸引される。
【0029】
エマルジョン解消剤タンク25内のエマルジョン解消剤は、供給ポンプ27によって蒸気供給管10に送られると同時に、放水銃21に送られる。エマルジョン解消剤は、蒸気供給管10および放水銃21の何れか一方に供給しても良い。これによって、流出油のエマルジョンは、分解され、油水吸引管14を通って気液分離器12に送られ、ここで、遠心力により気体と液体とに分離される。この後、分離された液体分は、三方切替弁28aを通って油水分離器13に送られ、ここで、油と水とに分離される。分離された油は、回収油タンク15内に貯留され、水は、排出管13aから船外に排出される。
【0030】
このようにして、流出油のエマルジョンから油が回収されるが、蒸気エゼクタ2によって吸引された流出油のエマルジョンから水が分離除去されるので、その体積分だけ、余計に油を回収油タンク15に回収することができる。
【0031】
さらに油の回収が進んで、回収油タンク15が満杯になったら、三方切替弁28aを排出管13a側に、そして、三方切替弁28bを分散剤タンク26側にそれぞれ切り替える。これにより、分散剤タンク26内の分散剤は、供給ポンプ27によって蒸気供給管10に送られると同時に、放水銃21に送られる。分散剤は、蒸気供給管10および放水銃21の何れか一方に供給しても良い。この分散処理によって、流出油のエマルジョンは、無害化され、油水吸引管14を通って気液分離器12に送られ、ここで、遠心力により気体と液体とに分離される。この後、分離された液体分は、三方切替弁28aを通って排出管13aから船外に排出される。
【0032】
なお、蒸気エゼクタ2を逆洗する場合には、逆洗弁20を開いて蒸気を油水吸引管14側から蒸気エゼクタ2に流す。
【0033】
このように、高温高圧の蒸気エゼクタを使用することによって、高い油回収効率が得られると共に、気液分離器や油水分離器等の各種機器の閉塞を防止でき、さらに、高粘度油の分散処理が可能となる。しかも、油回収モードとエマルジョン分散処理モードとを切り替えできるので、タンクの容量分だけの流出油の回収が終了した後も、船外に排出可能な分散処理による流出油の処理が行える。従って、回収油タンクの容量に制限されることなく、長時間現場に留まっての流出油の処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の流出油回収処理装置を示す概略構成図である。
【図2】流出油吸引手段を示す概略側面図である。
【図3】流出油吸引手段を示す概略平面図である。
【図4】図3のA方向矢視図である。
【符号の説明】
【0035】
1:流出油吸引手段
2:蒸気エゼクタ
3:蒸気供給手段
4:清水タンク
5:給水ポンプ
6:ボイラ
7:蒸気流量計
8:調圧弁
9:供給ポンプ
10:蒸気供給管
10a:ゴム管
11:油回収手段
12:気液分離器
13:油水分離器
13a:排出管
14:油水吸引管
14a:ゴム管
15:回収油タンク
16:集油板
17:オイルブーム
18:自在継手
19:フロート
20:逆洗弁
21:放水銃
22:海水ポンプ
23:ゴミよけネット
24:薬剤注入手段
25:エマルジョン解消剤タンク
26:分散剤タンク
27:供給ポンプ
28a、28b:三方切替弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面上に漂流する流出油のエマルジョンを吸引する蒸気エゼクタを備えた流出油吸引手段と、前記流出油吸引手段により吸引された前記エマルジョンから油を分離回収する油回収手段と、前記蒸気エゼクタの周囲に配される集油手段と、前記蒸気エゼクタに向けて水を放出する放水手段と、エマルジョン解消剤または分散剤等の薬剤を前記蒸気エゼクタおよび前記放水手段の少なくとも一方に注入する薬剤注入手段と、油回収モードとエマルジョン分散処理モードとを切り替える運転モード切替手段とを備え、油回収モードの場合には、前記薬剤注入手段から前記エマルジョン解消剤が前記蒸気エゼクタおよび前記放水手段の少なくとも一方に注入され、分離処理された油は、前記油回収手段により回収され、エマルジョン分散処理モードの場合には、前記薬剤注入手段から前記分散剤が前記蒸気エゼクタおよび前記放水手段の少なくとも一方に注入され、分散処理された処理液は、排出されることを特徴とする流出油回収処理装置。
【請求項2】
前記薬剤注入手段と前記運転モード切替手段とは連動していることを特徴とする、請求項1記載の流出油回収処理装置。
【請求項3】
前記油回収手段は、気液分離器と油水分離器とを備えていることを特徴とする、請求項1または2記載の流出油回収処理装置。
【請求項4】
前記蒸気エゼクタおよび前記集油手段は、波浪に追従して移動することを特徴とする、請求項1から3の何れか1つに記載の流出油回収処理装置。
【請求項5】
船舶に搭載されていることを特徴とする、請求項1から4の何れか1つに記載の流出油回収処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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