説明

流通式振動管を用いた高圧下でのスラリーの密度測定法及び測定装置

【課題】スラリー密度の直接測定を可能とすることによりハイドレートによる管閉塞の予測と警報の機能を同時にもたせた装置を提供する。
【解決手段】パーコレーション閾値pの値を予め算出し、次いでサイトパーコレーション確率pと該パーコレーション閾値pの両値の関係が、次式の要件を満たす条件下に、p<p輸送管中を流動する固体分散流動体の振動周期τを振動管密度計により測定し、該τ値を下記式に適用して密度を求めることを特徴とする流動状態にある固体分散流動体の密度測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体分散流動体、特にメタンハイドレートや二酸化炭素ハイドレート等の流動状態にあるスラリ−状試料の密度を振動管密度計の測定原理を用いて測定する方法及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋資源であるメタンハイドレートが新たな資源として注目されている。また、地球温暖化対策の一環として二酸化炭素をハイドレート化して海洋に廃棄しようとする技術も注目を集めている。
ハイドレートは、包接化合物の一種で、水分子が形成する「籠」の中にガス分子が取り囲まれて包接状態で存在するという特異な構造を持っている。「籠」形状としては、S-cage(5角形12面体)、M-cage(5角形12面+6角形2面の14面体)、L-cage(5角形12面+6角形4面の16面体)等が知られている。二酸化炭素やメタンなどの比較的サイズの小さい分子からできるハイドレートは、構造I(structure−I)という構造をとることが知られている。メタンハイドレートの場合、メタン1分子に対して水分子が5.75個の比で構成されている。1mのメタンハイドレードを分解すると、水0.8mとメタンガス約172m(大気圧下、0℃)が得られる。
ハイドレートが歴史に登場するのは古く,1810 年にDavy が塩素ガスを溶解した水が純水よりはるかに容易に凝結することを見出したことに始まる。その後、1930年代になり,天然ガスパイプラインでハイドレート生成を原因とした閉塞事故が多発し、メタン、エタン、プロパン等の天然ガス種およびその混合気体のハイドレート生成条件が精力的に研究されてきた。
一方、1967年、Messoyakha (ソビエト連邦)において,メタンハイドレート鉱床の存在が確認され、その後、West Prudhoe Bay (アラスカ)、MacKenzie Delta (カナダ)、Gulf of Mexico (アメリカ)等の海域でもメタンハイドレートの存在が確認された。これら、メタンハイドレートの賦存量は陸域で数十兆m、海域で数千兆mと見積もられている。世界の天然ガス確認埋蔵量の数十倍であることから,新たな天然ガス資源として脚光を浴びている。日本近海でも、オホーツク海、奥尻海嶺、千島海溝周辺、西津軽海盆、南海トラフなどがメタンハイドレート開発のための候補地になっている。試算によると国内で、7.4兆m3が埋蔵されているといわれている。これは、1999年度国内の天然ガス消費量の約100年分に相当する。
【0003】
ところで、ハイドレート生成のためには(1)水の存在、(2)ガスの存在、(3)低温、(4)高圧の4
条件が満たされる必要がある。この4 条件を満たすのは陸上の凍土地帯と海底の堆積層である。深海底の場合、温度は約4℃前後、水圧は、深度500mで約5MPa、1000mで約10MPaの圧力となる。
従って、ハイドレートを資源として利用するためには数多くの困難な課題を克服しなければならない。メタンハイドレートは、多くの場合、海底堆積層内に固体として存在している。メタンハイドレートは、砂層の中に氷の層が幾層も挟まれている状態、または泥の中に氷の塊が散在しているような状態で存在する。したがって、天然ガスや石油のように井戸を掘っただけでは自噴せず、そのための特有の技術が要求される。
メタンハイドレートの採取システムについては各種方法が知られている。鉱床が水平方向に広がり、上層が難透水性である場合には、1本の井戸から蒸気や熱水を注入して堆積層の温度を上げて、まず、メタンハイドレートを分解する。次に、もう1本の井戸からガスリフトを用いてメタンガスを採取する。ガスリフトの代わりにポンプを用いて吸い上げることも可能である。
【0004】
また、一方では、地球温暖化の元凶とされる二酸化炭素の取り扱いについても様々な研究がなされている。その1つの方法として、排出規制された二酸化炭素をハイドレートを利用して固定化する技術が提案されている。また、海洋の持つ二酸化炭素吸収能力を利用した二酸化炭素の固定方法として、例えば、火力発電所から回収した二酸化炭素を液化してタンカーに積み込み、航行しながらパイプを用いて液体二酸化炭素を薄く広く放流する方法が提案されている。また,深海底の窪地を利用して液化二酸化炭素のプールを作り溜め込んでおくことも考えられている。GLAD システムと呼ばれ、火力発電所や製鉄所から排出される大量の二酸化炭素ガスをパイプラインを通じて逆U字型溶解管に圧送して海洋に固定する方法も提案されている。また,海底下の地層中に封じ込めることも試みされています。例えば,ノルウェーでは現在,天然ガスから分離回収された二酸化炭素を海底下1000mの砂岩層に封じ込めているとの報告もある。このように二酸化炭素の固定化方法にも様々な方法があるが、海底堆積層中に二酸化炭素ハイドレートとして固定する方法が最も有望である。しかし、ニ酸化炭素を固体状のハイドレートに転換し、輸送あるいは貯蔵するには、流動性の維持すなわちスラリー化は必要不可欠であるなど、解決しなければならない問題は少なくない。
【0005】
ハイドレートに関する具体的計画については、例えば、平成13年度7月発表のメタンハイドレード開発検討委員会報告書は、メタンハイドレード開発計画として商業的産出のための技術を整備するための6つの目標を設定している。
1.日本周辺海域におけるメタンハイドレードの賦存状況と特性の明確化。
2.有望メタンハイドレード賦存海域のメタンガス賦存量の推定。
3.有望賦存海域からのメタンハイドレード資源フィールドの選択、並びにその経済性の検討。
4.選択されたメタンハイドレード資源フィールドでの産出試験の実施(2011年度まで)。
5.商業的産出のための技術の整備(2016年度まで)。
6.環境保全に配慮した開発システムの確立。
また、平成13年度を開始年度とし、それ以降の目標達成に向けた開発スケジュールは、以下のようになっている。
1.期間:2001〜2006年度(6年間)
目標:基礎的研究(探査技術、基礎物性、分解生成技術)を推進しつつ、
・メタンハイドレード探査技術の最適化を達成し、
・賦存海域、賦存量を把握し、
・海洋産出試験対象となりうるメタンハイドレード資源フィールドを選択し、
・陸上産出試験を通じ、連続性をもってメタンハイドレードを分解しメタンガスを地表に取り出す技術を検証する。
2.期間:2007〜2011年度(5年間)
目標:基礎的研究(生産技術、環境影響評価等)を推進しつつ、
・選定された資源フィールドの資源量把握し、
・日本近海での海洋産出試験を実施し、生産技術を検証する。
【0006】
このように、ハイドレートの実用化に向けて様々なアプローチがなされている。
具体的には、例えば、特定のメタンハイドレートの弾性波測定装置を使用して、地中から採取したメタンハイドレートを含む供試体の測定を行う、メタンハイドレートの弾性波測定方法において、供試体の両側に発振器又は受振器と、上蓋又は受台を配置し、その外周をメンブレンで被覆して耐圧容器内に収容し、前記周圧調整孔を通じて耐圧容器内に液剤を充填、加圧すると共に、前記液剤を所定の温度に調整し、前記間隙水圧調整孔を通じて前記供試体の間隙水圧を調整して、供試体を地中内条件に設定した後、前記発振器より前記供試体に弾性波を発振して供試体の弾性波速度を測定することが報告されている。(特許文献1参照)。
【0007】
また、水にハイドレートを含有させたスラリー中におけるハイドレートの含有率を測定するハイドレート含有率測定方法に関して、流路中を流れる前記スラリーに、その流路の両側部から所定値の電圧を印加するとともに、スラリーに印加した電圧を検出し、その検出した電圧に基づいて前記スラリー中に含有する前記ハイドレートの含有率を測定することを特徴とするハイドレート含有率測定方法も報告されている。(特許文献2参照)。
【0008】
とりわけ、永久凍土下や深海底の存在するメタンハイドレートの採掘にはハイドレートをスラリー状にしてパイプラインで輸送する技術は不可欠である。しかしながら、凍土下で探掘したハイドレートを輸送中に管閉塞をおこし、爆発事故やパイプラインの破壊事故の事例もある。
この様な事故を防止するためには、スラリー密度を測定し、事前にハイドレート含量を予測することが必要である。
一方、大竹らは、振動管を使用して固体密度を測定した例を報告している。この方法は、大気圧下においてテトラヒドロフラン(THF)と水の混合溶液を流通させるものであり、経路を冷却することによって溶媒中に分散生成したハイドレート密度測定するものである。(非特許文献1参照。)
【特許文献1】特開2005−91229号公報
【特許文献2】特開2003−50221号公報
【非特許文献1】Otake et al., Fluid Phase Equilibria, 175, 171(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
過去、凍土下で探掘したハイドレートを輸送中に管閉塞を起こし、爆発事故やパイプラインの破壊事故の事例も少なくないことから、メタンハイドレートを安全に採掘し、搬送するためにはスラリーの正確な密度測定方法等の新たな技術開発が不可欠であった。
ところで、前記大竹らの方法は、大気圧下での測定しかできなかったため、メタンをはじめとする炭化水素化合物や、二酸化炭素、フロンなどの常温・常圧で気体状態である物質に対するスラリー密度やハイドレート密度の測定には不適であった。
したがって、本発明の目的は、固体分散流動体、特にハイドレート含量の予測を可能とし、ハイドレートによる管閉塞状態の予測と警報器としての機能を同時にもたせるために、スラリー密度を直接測定することを可能ならしめることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、パイプラインの一部を単振動きせ、その振動周期を測定するものであり、耐圧性の加振装置および振動周期検知部を有する。これまでの加振装置としては電磁コイルの付設が一般的であり、検知部はコイルからの誘導電流やレーザー光による光ドップラー技術を応用したものがある。また、弾性体のコンプライアンス、コイルの誘導電流、管内容積は温度の影響を受けやすいものであるから、温度依存性を把捜するための精密な温度計の付設が望ましい。また、50MPa以上の高圧では管内容積の変化を及ぼすことを考えると、望ましくは圧力計の付設も必要である。
【0011】
本発明は、より具体的には以下のとおりである。
1. パーコレーション閾値pの値を予め算出し、次いでサイトパーコレーション確率pと該パーコレーション閾値pの両値の関係が、次式の要件を満たす条件下に、
p<p
輸送管中を流動する固体分散流動体の振動周期τを振動管密度計により測定し、該τ値を下記式に適用して密度を求めることを特徴とする流動状態にある固体分散流動体の密度測定方法。
【数1】

2.固体分散流動体の分散媒が、液体又は気体である上記1に記載の固体分散流動体の密度測定方法。
3.固体分散流動体が、スラリーである上記1又は2に記載の固体分散流動体の密度測定方法。
4.スラリーが、メタンハイドレート又は二酸化炭素ハイドレートである上記3に記載の密度測定方法。
5.管内を流動する固体分散流動体の閉塞に起因するパイプラインの破損事故を事前に予測して警報する方法であって、サイトパーコレーション手法により求めたサイトパーコレーション確率pと、予め格子形状よりサイトパーコレーションモデルにおけるセル形状に対応させて決定したパーコレーション閾値pと比較し、該パーコレーション確率pが該パーコレーション閾値pに達したとき又はその直前に警報を発することを特徴とする固体分散流動体搬送パイプラインの破損警報方法。
6.固体分散流動体の分散媒が、液体又は気体である上記5に記載の固体分散流動体搬送パイプラインの破損警報方法。
7.固体分散流動体が、スラリーである上記5又は6に記載の固体分散流動体搬送パイプラインの破損警報方法。
8.スラリーが、メタンハイドレート又は二酸化炭素ハイドレートである上記7に記載の固体分散流動体搬送パイプラインの破損警報方法。
9.上記1乃至4に記載の固体分散流動体の密度測定方法に使用するための密度測定装置であって、サーミスタセンサと圧力センサを備えた低温恒温槽を有し、かつ該低温恒温槽内に、耐水加工が施され、かつ70MPa、453Kまで使用可能な高圧U字型振動管が具備されていることを特徴とする固体分散流動体密度測定装置。
なお、ここで「固体分散流動体」とは、固体が分散媒としての液体又は気体に分散され、かつ管中に存在する流動性物質を意味し、好ましくは輸送管中を流動している物質を意味する。特に好ましくは、メタンハイドレートや二酸化炭素ハイドレートのごときスラリー状物質である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高圧下での固体分散流動体、例えばスラリーの密度の測定が可能であり、実用上問題となる低温・高圧のスラリーや各種ハイドレートの密度測定が可能である。
本装置は、振動管密度計の測定原理を用いて流動状態にあるスラリ−等の固体分散流動体の密度を直接測定可能とするものである。本法はこれらスラリー状態の密度を直接測定できるばかりではなく、管閉塞によって振動周期が急激に変化するので管閉塞警報センサーとしても使用することができる。また、本装置は、ハイドレート等のスラリーばかりではなく、様々な固体が分散した系にも適用可能であり、たとえばボイラー管の缶石発生に伴う管閉塞などに応用可能である。さらに分散媒としては水以外にも流動性があれば問題がないので、本手法は気体分散媒中の粉塵、液媒体中の粉体・結晶などの密度あるいは管閉塞警報センサーとして適用し得る。また、分散媒の密度を別途測定すれば、スラリーの密度から分散している固体の密度も算出が可能である。即ち、固体が分散した気体分散媒系及び液体分散媒系に適用可能である。
この方法はハイドレートスラリーばかりではなくラテックス粒子の密度、晶析過程の不純物の検出など用途も広い。さらに単結晶の密度が直接得られるので、従来はX線回折によって行われていた結晶形の同定にも応用が可能である。
ここで、「固体分散流動体」とは、スラリーと呼ばれるような固体が分散した液体分散媒系(例えば、いわゆるスラリー、懸濁液)、及び固体が分散した気体分散媒系を意味する。
以下、好ましい例としてハイドレートを例にして説明するが、本発明は何らハイドレートに限定されるものでない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
はじめに、スラリー密度測定の原理について述べる。
1.流通式振動管を用いたスラリー密度測定の原理
(1)振動管密度計による均一流体の密度測定原理
図1に振動管密度計の測定原理をしめした。振動管密度計は内容積VのU字型の中空管を水平に固定し、均一流体を満たした質量mの状態を考える。図において放置状態では(a)のように自重と弾性力が均衡し、変位x0にあるので次式が成立する。
【0014】
【数2】

ここでgは重力加速度、kはコンプライアンスである。なお、コンプライアンスについては中空管内の流体は自由端と見なされるので、連続固相部分すなわち振動管のコンプライアンスに等しくなる。次に図1(b)のように変位Aを与えて直ちに解放し、(c)のように単振動させると、運動方程式は次式で与えられる。
【0015】
【数3】

【0016】
【数4】

ここでf+mg−κ(χ0+A0)=0の条件下で解くことにより次式に帰着する。
【0017】
【数5】


従って、振動周期τは次式で表される。
【0018】
【数6】

なお、中空管内に流体を満たした状態の質量mは振動管自体の質量m’、流体密度ρを用いて表すと次式になる。
【0019】
【数7】

【0020】
【数8】


これより流体密度ρは振動周期τの2乗を変数とする単純な関数で表されることがわかる。また、このときの均一流体が気体であれば静止と流通時は動圧による圧縮が起こるため振動周期は異なった値がでる。一方、液体は非圧縮性であるために動圧による密度変化は無視できるので静止していても流通していても密度測定は可能となる。また、耐圧性の振動管を用いると高圧力下においても測定を行うことができる。
【0021】
なお、上記式(7)それ自体は公知である。管閉塞の恐れのない気体や液体においてはコンプライアンスkは常に一定であることから、式(7)はこれら気体や液体の密度測定に普通に用いられている。しかしながら、スラリー等の固体分散流動体の場合は、コンプライアンスkは必ずしも一定ではなく、ある特定の条件下では不連続となり、式(7)の適用が困難であった。
本発明らは、ある特定の条件下、具体的には、後述のパーコレーション確率pがパーコレーション閾値pを越えない条件下では、式(7)が適用できることを見出して本発明を完成したものである。
【0022】
(2)スラリー密度の測定原理
次にハイドレート等の密度測定の原理について説明する。振動管密度計を用いた場合、液体の場合は流通していても静置していても、振動周期τから密度ρを求めることができる。
振動周期τは上記(5)式に示したようにコンプライアンスκと振動管内の物質の質量mの比によって決まる。言い換えればスラリーであっても振動管のコンプライアンスに影響を及ぼさなければ、密度を測定することができる。
【0023】
コンプライアンスκに影響を及ぼさないスラリー中の固体の占有割合はパーコレーションモデル(パーコレーションとは、ある性質がある系の中で連続しているかどうか、「つながり」を考える概念である。)で予測することができる。一般にパーコレーションモデルは空間に任意の多数のセルを仮定し、格子点間をランダムに結ぶボンドパーコレーションとセルをランダムに占有させるサイトパーコレーションモデルがある。この場合、固体は空間を占有するので、サイトパーコレーションモデルを適用するのが妥当と考えられる。
サイトパーコレーションモデルにおいてセル総数に対して占有されているセル数の割合pをパーコレーション確率、また占有されているセルが隣り合い、側面からもう一方の側面まで達する状態で占有された時のパーコレーション確率をパーコレーション閾値pとよぶ。
【0024】
図2にはそれぞれ(a)p<pおよび(b)p>pの状態を示した。なお、パーコレーション閾値はセル総数に対する確率であり、振動管内のセル数は厳密な規定はなく、ある程度大きい数であればセル総数に無関係な自己相似性をもつ。そのため、振動管のサイズに依存することなくパーコレーション閾値は普遍である。図2からも明らかなように
(b)のように振動管内のハイドレート体積分率がパーコレーション閾値に達すると固液混相は流動性を遺失する。また、このとき振動管内には連続固相が出現するため、内部にも固定端が出現し、振動管全体のコンプライアンスは一定の値とならず、パーコレーション確率に依存する。しかし、(a)のようにパーコレーション確率がパーコレーション閾値よりも小さい場合は、流動性が維持され、振動管のコンプライアンスも変わらないので振動管密度計によってスラリー密度を測定できることがわかる。なお、パーコレーション閾値はセルの形状に大きく依存する。すなわち、分散した固定の形状が明らかであれば、パーコレーション閾値が決まり、その割合まで固体を分散させたスラリー密度を測定することができる。さらに、(7)式中の2つの定数は均一流体から決めた値をそのまま使用することができる。コンピュータにより計算されたいくつかのセル形状に対するパーコレーション閾値を表1に示した。
【0025】
【表1】

この方法を応用することにより、輸送されるスラリー状試料による管閉塞に起因するパイプラインの破損事故を事前に予測して警報することが可能である。即ち、搬送中のパーコレーション確率pを監視し、これを該パーコレーション確率pを予め格子形状よりサイトパーコレーションモデルにおけるセル形状に対応させて決定したパーコレーション閾値pと比較し、パーコレーション確率pが該パーコレーション閾値pに達したとき又はその直前に警報を発することによって、スラリー搬送パイプラインの破損を事前に把握することが可能である。
具体的には、格子形状が体心立方である場合には、サイトパーコレーション確率pが0.245に達したとき、またはその直前に管閉塞の警報を発すればよい。
【0026】
なお、スラリー密度は、分散する固体と溶媒に僅かに密度差を有する。固体と液体が分相した場合は壁面に固体が蓄積されてコンプライアンスが変化する恐れがある。そのため、振動管にてスラリー密度を測定する際には、流動している方が内部は均一に攪拌される状態にあるために、むしろ流動状態で測定する必要がある。
【実施例1】
【0027】
次に、二酸化炭素ハイドレートの場合について、そのハイドレート密度を測定するための装置について述べる。
図4は、振動管密度計を用いたハイドレートスラリー密度測定装置である。該装置は試料供給部と密度測定部から構成されている。貯水槽(8)の水は流量0.001〜9.999cmまで精度2%で定流量送液可能なHPLCポンプ(7)(GL Science PU610)を用いて送液する。一方、二酸化炭素はSwagelok製の容量500cm携帯ボンベ(1)304L-HDF4-500に充填し、装置に接続する。二酸化炭素はChino社製の精度0.3KのT熱電対(4)で測温した後、流量0.01〜20.00cmまで精度2%で定流量送液可能なHPLCポンプ(7)(GL Science PU710)を用いて送液する。なお、HPLCポンプ(7)までの配管は気泡発生による送液不全を防ぐ目的でトーマス科学社製開放槽型ハンディークーラTRL-108Hにより263.0Kでヘッド部を冷却する。送液後、水と液化二酸炭素はミキサー(9)で混合され、液液混相状態で273Kに冷却した氷水浴(10)中の熱交換ラインを通り過冷却状態で核を発生させた後、277.15Kに設定した恒温水槽(12)内のU字型振動管密度計(13)に送られる。なお、氷水浴(10)の温度はChino社製精度0.3KのT熱電対をShimaden社製SR62に接続して経時的に変化を測定した。恒温水槽(12)は258Kまで0.01Kの精度で設定可能なトーマス科学社製低温恒温槽TRL-101FEZを使用した。振動管密度計(13)は70MPa、453Kまで使用可能なAnton Paar製高圧振動管512PをコントローラmPDS2000に接続したものを用いた。ただし、Anton Paar 512Pは空気恒温槽内での使用に前提としているため、耐水加工した。この状態で振動管の振動周期は10−3μsまで分解能が維持されるので、密度測定精度は0.01Kg/cmと推測される。さらに、振動管密度計(13)を通過した試料はAkico社製の15MPaの耐圧観察窓(14)を経て、Kyowa製10MPa圧力センサ(16)PG-100KUおよびTechnoseven社製精度0.01Kのサーミスタセンサ(15)PXA-36でライン圧力および温度を測定する。なお、測定時の大気圧はKyowa製1MPa絶対圧センサ(17)PA-10KB、水槽温度はTechnoseven社製精度0.01Kのサーミスタセンサ(15)PXA-36を使って測定している。なお、Kyowa製10MPa圧力センサ(16)PG-100KUは計装器WGA-710B-4、Kyowa製1MPa絶対圧センサ(17)PA-10KBは計装器WGA-710A-4を接続することにより、0.001MPaまでの値を直読できる。また、2本のサーミスタセンサ(15)PXA-36はTechnoseven社製温度トレーサD641を用いて0.01Kまで直読できる。温度および測定後の試料はAKIICO社製高圧保圧弁HPB-350によって、内圧を制御する。なお、高圧保圧弁は200WのリボンヒータおよびChino社製精度0.3KのT熱電対を接続したShimaden社製SR62によりPID制御を行い、393Kに保持されている。高圧保圧弁を通過した試料は気液分離器(19)で冷却および気液分離され、二酸化炭素はShinagawa製積算流量計W-NK-0.5Aを使用して0.1cmまで定量する。以上のように供給試料は水は圧縮性が小さいためにHPLCポンプの表記、二酸化炭素は積算流量計により定量することにより組成を決定することができる。なお、振動検知装置については、図示していないが、適宜公知のものをしようすることができる。
密度測定装置部は、サーミスタセンサと圧力センサを備えた低温恒温槽を有し、かつ該低温恒温槽内に、耐水加工が施され、かつ70MPa、453Kまで使用可能な高圧U字型振動管が具備されている。
なお、本装置は流通測定を行うため多数の温度および圧力を同時に測定する必要がある。そこで各温度センサ、圧力センサ、密度計はアナログ電圧出力およびデジタル出力を駆使して小型コンピュータにデータを集積し、イントラネットを利用して研究室や測定管理室内のパーソナルコンピュータから逐次データを閲覧および解析できる。
【実施例2】
【0028】
上記装置を用いて、水をポンプ3〜5cm/min(ポンプ表示値)、液体二酸化炭素を0.4〜0.65cm(ポンプ表示値)で送液し、277.2K、6.000MPaにおけるスラリー密度を測定した。
ただし、水の正確な供給量は大気圧と室温、二酸化炭素の正確な供給量は排出後に設置した積算流量計の表示値から理想気体の状態方程式により算出した。
スラリー密度の測定結果を下記表2に示す。
【0029】
【表2】

なお、供給組成z=3.4429x10−2以上については、管の閉塞が生じ、測定はできなかった。また、図3は供給組成とスラリー密度のプロットである。図より、供給試料の二酸化炭素組成が増大すると、二酸化炭素ハイドレートスラリーの密度も増大することがわかる。また、その傾向はほぼ一次関数的である。
なお、サイトパーコレーション予想される流動限界z=4.5544x10−2よりも小さい値で管閉塞が起こったことを考えると、これは格子の占有がランダムであることを仮定したことに起因するものと思われる。これより、二酸化炭素ハイドレートスラリーの密度が直線に帰着すればz=1.4532x10−2における切片が融液密度、z=1.4070x10−1における切片が二酸化炭素ハイドレートの密度となる。実験結果から求められる融液密度は1012.30Kg/cmであり、二酸化炭素ハイドレート密度は1073.14Kg/cmである。さらに、ice fugasityモデルから得られる二酸化炭素ハイドレート中の二酸化炭素モル分率x=1.4070x10−1と密度の実測値からI型ハイドレートの格子定数をから求めると1.20nmとなる。この値はX回折から求められた文献値1.20nmと極めてよく一致していた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、流動状態にあるスラリー状試料の密度を直接測定でき、その方法は配管の一部を単振動させたときの周期を測定するものであるから管形状もU字管、直管など状況に応じて使用することができる。さらに、高温高圧でも流動状態であればよく過酷な条件での使用も可能である。よって、メタンハイドレートや二酸化炭素ハイドレートの密度測定への利用が大いに期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】振動管密度計の原理を示した説明図である。
【図2】サイトパーコレーションモデルによる振動U字管内の固液混相状態を示した説明図である。
【図3】供給組成とスラリー密度を示した説明図である。
【図4】振動管密度計を用いたハイドレートスラリー密度測定装置を示した説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 サンプルガスシリンダー
2 ジャケット付き耐圧ガラス管
3 スラリー部
4 T型熱電対
5 真空ポンプ
6 ラインフィルター
7 HPLCポンプ
8 貯水槽
9 ライン混合機
10 氷水浴槽
11 PID温度制御機
12 恒温水槽
13 振動U字管密度計
14 ライン監視機
15 サーミスターセンサ
16 圧力センサ
17 絶対圧センサ
18 圧調節器
19 気液分離器
20 湿流テストメーター
21 窒素ガスシリンダー
22 圧力ジェネラター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーコレーション閾値pの値を予め算出し、次いでサイトパーコレーション確率pと該パーコレーション閾値pの両値の関係が、次式の要件を満たす条件下に、
p<p
輸送管中を流動する固体分散流動体の振動周期τを振動管密度計により測定し、該τ値を下記式に適用して密度を求めることを特徴とする流動状態にある固体分散流動体の密度測定方法。
【数1】

【請求項2】
固体分散流動体の分散媒が、液体又は気体である請求項1に記載の固体分散流動体の密度測定方法。
【請求項3】
固体分散流動体が、スラリーである請求項1又は2に記載の固体分散流動体の密度測定方法。
【請求項4】
スラリーが、メタンハイドレート又は二酸化炭素ハイドレートである請求項3に記載の密度測定方法。
【請求項5】
管内を流動する固体分散流動体の閉塞に起因するパイプラインの破損事故を事前に予測して警報する方法であって、サイトパーコレーション手法により求めたサイトパーコレーション確率pと、予め格子形状よりサイトパーコレーションモデルにおけるセル形状に対応させて決定したパーコレーション閾値pと比較し、該パーコレーション確率pが該パーコレーション閾値pに達したとき又はその直前に警報を発することを特徴とする固体分散流動体搬送パイプラインの破損警報方法。
【請求項6】
固体分散流動体の分散媒が、液体又は気体である請求項5に記載の固体分散流動体搬送パイプラインの破損警報方法。
【請求項7】
固体分散流動体が、スラリーである請求項5又は6に記載の固体分散流動体搬送パイプラインの破損警報方法。
【請求項8】
スラリーが、メタンハイドレート又は二酸化炭素ハイドレートである請求項7に記載の固体分散流動体搬送パイプラインの破損警報方法。
【請求項9】
請求項1乃至4に記載の固体分散流動体の密度測定方法に使用するための密度測定装置であって、サーミスタセンサと圧力センサを備えた低温恒温槽を有し、かつ該低温恒温槽内に、耐水加工が施され、かつ70MPa、453Kまで使用可能な高圧U字型振動管が具備されていることを特徴とする固体分散流動体密度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−17261(P2007−17261A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198704(P2005−198704)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)