説明

浮力材付き釣り用上着

【課題】動き難いことや着心地が悪いといった不都合を解消することができる浮力材付き釣り用上着を提供する。
【解決手段】上着本体の前身頃1及び後身頃2のそれぞれに、浮力材5,6,7,8,15,16,17,18,19を備え、前記上着本体を身体に保持するためのベルトを備えた浮力材付き釣り用上着であって、前記ベルト25を前記前身頃及び前記後身頃の内側に保持するための保持部26,27,29,30を備え、前記ベルト25を締め付けたときに該ベルト25は前記保持部26,27,29,30で保持されつつ前記前身頃1及び前記後身頃2の裏面側から離間して身体側へ寄ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフローティングベストと称される浮力材が内装された浮力材付き釣り用上着に関し、より詳しくは、上着本体の前身頃及び後身頃のそれぞれに、浮力材を備え、前記上着本体を身体に保持するためのベルトを備えた浮力材付き釣り用上着に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のフローティングベストは、上着本体を構成する左右の前身頃及び後身頃内に、PVC、PE、EVA等からなる板状の浮力材をそれぞれ備えて、落水時に身体を水面から浮かせることができるようにしている。
【0003】
そして、落水時に上着本体が身体から脱げないように、上着本体を身体に保持するためのベルトを備えたものが提案されている。
【0004】
第1のものとしては、上着本体の左右の腕挿通口の周辺に、腕の下側を支持するベルトが取り付けられるとともに、上着本体の後側の下側に両足を挿通可能な左右一対のループ状の股ベルトが取り付けられた救命胴衣である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、第2のものとしては、後身頃の外面にベルトの中央部が固定され、そのベルトを前身頃の前で締め付けることにより上着本体を身体に押し付けるように構成した救命胴衣である。(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−132339号公報(図1参照)
【特許文献2】登録実用新案第3009423号公報(図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の構成によれば、腕の下側を支持するベルトを締め付けると、腕の下側部分の左右の前身頃が身体側に密着させられ、それらの部分において動き難いだけでなく、着心地が悪いという不都合があった。
【0008】
また、特許文献2の構成によれば、ベルトを締め付けていくと、上着本体が身体に密着されて一体化した状態になるため、動き難いだけでなく、着心地が悪いという不都合もあり、改善の余地があった。
【0009】
本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、動き難いことや着心地が悪いといった不都合を解消することができる浮力材付き釣り用上着を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の浮力材付き釣り用上着は、前述の課題解決のために、上着本体の前身頃及び後身頃のそれぞれに、浮力材を備え、前記上着本体を身体に保持するためのベルトを備えた浮力材付き釣り用上着であって、前記ベルトを前記前身頃及び前記後身頃の裏面側に保持するための保持部を備え、前記ベルトを締め付けたときに該ベルトは前記保持部で保持されつつ前記前身頃及び前記後身頃の裏面側から離間して身体側へ寄ることを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、ベルトを締め付けると、前身頃及び後身頃の裏面側から離間して身体側へ寄るから、身体にベルトを強固に締め付けることができる。そして、ベルトの締め付けに伴って前身頃及び後身頃が身体側に引き付けられて身体に密着することがなく、身体に対してゆとりを持たせて上着本体を装着することができる。従って、ベルトを身体に強固に固定することができるから、上着本体が脱げないだけでなく、上着本体と身体との間にゆとりを持たせることができるから、上着本体からの密着力を身体が受けることがない。このため、動き難いとか、着心地が悪いといったことがなく、上着本体を快適に着ることができる。
【0012】
また、本発明の浮力材付き釣り用上着は、前記保持部が、前記ベルトを締め付けたときに前記前身頃及び前記後身頃の裏面側から離間可能とする融通部を備えていてもよい。
【0013】
上記のように、保持部が、前記ベルトを締め付けたときに前記前身頃及び前記後身頃の裏面側から離間可能とする融通部を備えていれば、上着本体と身体との間にゆとりを確実に持たせることができる。
【0014】
また、本発明の浮力材付き釣り用上着は、前記前身頃が、左前身頃と右前身頃とからなり、前記保持部が該左前身頃及び該右前身頃の浮力材幅方向中央部分に備えていてもよい。
【0015】
上記のように、保持部が左前身頃及び右前身頃の浮力材幅方向中央部分に備えている場合には、ベルトを介して左前身頃及び右前身頃を支持する位置が最も安定よく支持できる位置になる。その結果、左前身頃及び右前身頃が不測に姿勢変更することなく左前身頃及び右前身頃を保持部にて安定して保持することができる。
【0016】
また、本発明の浮力材付き釣り用上着は、前記保持部が、帯状部材又は紐状部材の上下端を前記前身頃及び前記後身頃の裏面に縫い付けて前記ベルトを挿通可能なループに構成されたものからなり、該ループは、前記前身頃及び前記後身頃の裏面側に突出する円弧形状をなして前記融通部を構成していてもよい。
【0017】
上記のように、ループが、裏面側に突出する円弧形状をなしている場合には、ベルトが上下方向に移動し難くできるだけでなく、ベルトの身体側への移動を大きくすることができ、前身頃及び前記後身頃とベルトとのゆとりを十分に確保することができる。
【発明の効果】
【0018】
ベルトを締め付けるだけで、ベルトを身体に強固に固定することができるから、ベルトの保持部を介して保持されている上着本体が身体から脱げることがない。また、保持部に対してベルトが身体側へ寄ることにより上着本体と身体との間にゆとりを持たせることができる。従って、動き難いことや着心地が悪いといった不都合を解消することができる浮力材付き釣り用上着を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の浮力材付き釣り用上着を少し斜め上方から見た斜視図である。
【図2】図1で示した浮力材付き釣り用上着の左右の前身頃を横に開放して裏面側が見えるようにした少し下方から見た斜視図である。
【図3】身体とベルトと左右の前身頃と後身頃との関係を示す概略平面図である。
【図4】保持部とベルトとの関係を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1及び図2に、浮力材付き釣り用の上着の一例である袖なしの上着であるベストを示しているが、袖のある上着であってもよい。このベストは、例えばルアーフィッシングの釣りの際に装着されるフローティングベストとして使用しているが、その他の釣り(磯釣りや波止釣りや船釣り等)で使用してもよい。
【0021】
ベストは、前身頃1と、この前身頃1の左右両端に連結される後身頃2とを有する上着本体を備えている。前身頃1は、左前身頃3と右前身頃4とを備え、その左前身頃3は、前方に位置するメインの左前身頃3Aと、このメインの左前身頃3Aの後端に連結され、メインの左前身頃3Aよりも小さなサブの左前身頃3Bとを備えている。また、右前身頃4は、前方に位置するメインの右前身頃4Aと、このメインの右前身頃4Aの後端に連結され、メインの右前身頃4Aよりも小さなサブの右前身頃4Bとを備えている。そして、4つの前身頃3A,3B,4A,4Bの内部に、浮力材5,6,7,8を備えている。これら左前身頃3及び右前身頃4の左右方向中心部側端に備えさせたベスト着脱用スライドファスナーFを開閉操作することで身体にベストを着脱することができるようになっている。また、左前身頃3と右前身頃4とは、バックル9によって左右方向で連結することができるようになっている。バックル9は、左前身頃3に取り付けた雌部材9Aと、この雌部材9Aに内挿して係合されるべく右前身頃4に取り付けた雄部材9Bとを備えている。
【0022】
また、メインの左前身頃3Aの上側に第1ポケット10を備え、下側に第1ポケット10よりも大きな第2ポケット11を備え、この第2ポケット11の内部に浮力材12を備えている。
【0023】
また、メインの右前身頃4Aの上側に第3ポケット13を備え、下側に第3ポケット13よりも大きな第4ポケット14を備え、この第4ポケット14の内部に浮力材15を備えている。
【0024】
後身頃2の内部には、前身頃1に備えた全ての浮力材5,6,7,8,12,15による浮力よりも浮力が小さく設定された5つの浮力材16,17,18,19,20を備えている。尚、浮力材の個数は、図に示す5つに限定されるものではない。
【0025】
また、左前身頃3の上端と後身頃2の左側上端を連結する左側肩部21に浮力材23を備えるとともに、右前身頃4の上端と後身頃2の右側上端とを連結する右側肩部22の内部に浮力材24を備えている。
【0026】
図1及び図2に示すように、前身頃1と後身頃2を身体に保持するための1本のベルト25を前身頃1及び後身頃2の裏面側に備えている。具体的には、ベルト25を前身頃1及び後身頃2の裏面側に保持するための5つの保持部26,27,28,29,30を備え、それら保持部26,27,28,29,30のうちの後身頃2の幅方向中央部の保持部28を除いた保持部26,27,29,30が、ベルト25の締め付け時においてベルト25を前身頃1及び後身頃2の裏面側から身体側に寄るように離間可能とする融通部を備えている。
【0027】
保持部26,27,29,30が、帯状部材(紐状部材でもよい)の上下端を前身頃1及び後身頃2の裏面に縫い付けてベルト25を挿通可能なループに構成されたものからなり、そのループを、裏面側(身体側)に突出する円弧形状に構成することによって、前記融通部を構成している。例えば、図4に示すように、保持部26,30のループを裏面側(身体側)に突出する円弧形状に構成することによって、ループ内に空間Kを形成することができる。この空間Kを形成することにより、ベルト25を締め付けた時にベルト25が矢印で示す上着本体の裏面側に大きく移動することができる。これは、保持部26,30に対してベルト25の上着本体の裏面側の移動範囲が上下方向の移動範囲よりも大きくなるようにループの曲率半径を設定しているからである。従って、図3で示すように、身体(図示せず)の外側に密着されたベルト25と前身頃1及び後身頃2との間にゆとりとなる隙間Sを形成することができる。従って、ベルト25は身体に強固に締め付けられることにより前身頃1及び後身頃2が身体から脱げることを阻止しながらも、ベルト25の締め付けに伴って前身頃1及び後身頃2が身体側に寄って密着されることがないから、動き難いとか、着心地が悪いといったことがない。また、ベルト25の締め付け時に、保持部26,30に対してベルト25がそれの長手方向に移動できるように融通を備えさせていることから、更にゆとりを持たせることができる。尚、説明しなかった残りの保持部27,29も、説明した保持部26,30と同様にループを上着本体の裏面側に突出する円弧形状に構成されている。
【0028】
メインの右前身頃4Aの裏面に逢着した保持部26及びメインの左前身頃3Aの裏面に縫着した保持部30は、同一構成であり、その取付位置が、上下方向中央部分(お腹部分の位置)でかつ浮力材幅方向中央部分に設定している。このように、浮力材幅方向中央部分に保持部26,30を備えさせることによって、ベルト25を介して左前身頃3及び右前身頃4を支持する位置が最も安定よく支持できる位置になり、好ましい。
【0029】
保持部26,30は、ダブルラッセルメッシュ材でなる生地から構成され、クッション性を備えるとともに身体への感触が優れていて好ましいが、合成樹脂や布などの他の材料で構成してもよい。
【0030】
また、他の2つの保持部27,29は、後身頃の上下方向中央部分でかつ左右両側に配置され、前記保持部26,30の幅よりも小さな幅を有する合成樹脂でなる縦長状の帯状部材に構成されている。これら保持部27,29は、合成樹脂で構成する他、ダブルラッセルメッシュ材や布などから構成することもできる。
【0031】
また、残りの保持部28は、前記保持部27,29と同一の構成であるが、ドット釦によりベルト25を保持部28に固定している。このドット釦は、ベルト側に設けられた雄型部材(図示せず)と、この雄型部材に係合するように保持部28側に設けられた雌型部材31とからなっているが、他の部材にて固定してもよいし、場合によっては、固定しないで他の保持部と同様に、ベルト25を長さ方向に移動可能なループに構成してもよい。
【0032】
また、メインの右前身頃4Aの裏面に逢着した保持部26及びメインの左前身頃3Aの裏面に縫着した保持部30は、図2および図4に示すように、各保持部の上下端部が右前身頃4Aの内面に縫着された上下一対の補強用帯状部材32,33及び左前身頃3Aの内面に縫着された上下一対の補強用帯状部材34,35で覆われ、その覆われた部分を縫着することにより固定されている。
【0033】
また、残りの保持部27,28,29も同様に、各保持部の上下端部が後身頃2の内面に縫着された上下一対の補強用帯状部材36,37で覆われ、その覆われた部分を縫着することにより固定されている。
【0034】
図2に示すように、ベルト25の一端には、雄部材38Aが備えられ、他端には、雄部材38Aを挿入して係合可能な雌部材38Bが備えられて、係合解除自在なバックルを構成している。従って、衣服本体を身体に着てからベルト25の雄部材38Aを雌部材38Bに挿入することにより両者が係合してベルト25を身体に装着することができる。また、ベルト25の雄部材38A側近傍に、ベルト25の長さを調節するための長さ調節具Gを備えており、身体の胴回りのサイズに応じてベルト25の長さを調節することができる。また、ベルト25の雌部材38B側近傍にも、同じようにベルト25の長さを調節するための長さ調節具(図示せず)を備えており、ベルト25の両サイドでベルト25の長さを調節することができるようになっている。
【0035】
メインの右前身頃4Aの裏面の生地、メインの左前身頃3Aの裏面の生地、後身頃2の裏面の生地は、下端よりも少し上方の位置から上端までの範囲に渡る上下方向に長尺な第1生地4a、3a、2aと、下端から少し上方の位置までの範囲に渡り、かつ、第1生地4a、3a、2aの下部と一部重複するように該第1生地の下端4c,3c,2cよりも上方に位置する上端4d,3d,2dを有する上下方向に短尺な第2生地4b、3b、2bとを備え、第1生地4a、3a、2aと第2生地4b、3b、2bとをそれらの重複部分に備えた複数のドット釦42,43,44により連結している。従って、ドット釦42,43,44の係合を解除することにより、第1生地4a、3a、2aと第2生地4b、3b、2bとの間を開口させて浮力材7,5,17,18,19をメインの右前身頃4A、メインの左前身頃3A、後身頃2の下側から取り出すことができるようになっている。説明はしないが、サブの左前身頃3B及びサブの右前身頃4Bも同様に浮力材を取り出すことができる構成になっている。
【0036】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0037】
前記実施形態では、一本のベルト25を用いたが、2本のベルトを用いて実施することもできる。この場合、後身頃2に2本のベルトの一端を固定又は連結し、他端にバックルを備えさせて実施することになる。
【0038】
また、前記実施形態では、保持部のループが、上着本体の裏面側に突出する円弧形状をなすように構成したが、上着本体の裏面側にコの字状又は台形状に突出する形状であってもよく、ループの形状は自由に変更することができる。
【0039】
また、前記実施形態では、保持部が左前身頃及び右前身頃の浮力材幅方向中央部分に備えられているが、浮力材幅方向両側の少なくとも一方に備えさせて実施することもできる。
【0040】
また、前記実施形態では、ベルト25を用いて上着本体が身体から脱げないように保持したが、股ベルトを上着本体に備えさせて上着本体が身体から脱げることを確実に阻止するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1…前身頃、2…後身頃、3…左前身頃、3A…メインの左前身頃、3B…サブの左前身頃、4…右前身頃、4A…メインの右前身頃、4B…サブの右前身頃、4a,4b…生地、5,6,7,8,12,15,16,17,18,19,20…浮力材、9…バックル、9A…雌部材、9B…雄部材、10,11,13,14…ポケット、21,22…肩部、23,24…浮力材、25…ベルト、26,27,28,29,30…保持部、31…雌型部材、32,33,34,35,36,37…補強用帯状部材、38A…雄部材、38B…雌部材、42,43,44…ドット釦、F…ベスト着脱用スライドファスナー、G…調節具、K…空間、S…隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上着本体の前身頃及び後身頃のそれぞれに、浮力材を備え、前記上着本体を身体に保持するためのベルトを備えた浮力材付き釣り用上着であって、
前記ベルトを前記前身頃及び前記後身頃の裏面側に保持するための保持部を備え、前記ベルトを締め付けたときに該ベルトは前記保持部で保持されつつ前記前身頃及び前記後身頃の裏面側から離間して身体側へ寄ることを特徴とする浮力材付き釣り用上着。
【請求項2】
前記保持部は、前記ベルトを締め付けたときに前記前身頃及び前記後身頃の裏面側から離間可能とする融通部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の浮力材付き釣り用上着。
【請求項3】
前記前身頃が、左前身頃と右前身頃とからなり、前記保持部が該左前身頃及び該右前身頃の浮力材幅方向中央部分に備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の浮力材付き釣り用上着。
【請求項4】
前記保持部が、帯状部材又は紐状部材の上下端を前記前身頃及び前記後身頃の裏面に縫い付けて前記ベルトを挿通可能なループに構成されたものからなり、該ループは、前記前身頃及び前記後身頃の裏面側に突出する円弧形状をなして前記融通部を構成していることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の浮力材付き釣り用上着。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−149115(P2011−149115A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10416(P2010−10416)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】