説明

浮力材付き釣り用上着

【課題】ポケットに収納される収納物の重量をも考慮した浮力を得ることができながらも、着心地が悪いことや動き難いといった不都合を解消することができる浮力材付き釣り用上着を提供する。
【解決手段】上着本体の前身頃1及び後身頃2のそれぞれに、浮力材5,6,7,8を備えた浮力材付き釣り用上着であって、前記前身頃の外面に、該前身頃から離間する外側に張り出すマチ部11A,14Aと該マチ部11A,14Aよりも前側に配置される前側部11T,14Tとを有するポケット11,14を備え、該前側部11T,14Tに浮力材12,15を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフローティングベストと称される浮力材が内装された浮力材付き釣り用上着に関し、より詳しくは、上着本体の前身頃及び後身頃のそれぞれに、浮力材を備えた浮力材付き釣り用上着に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のフローティングベストは、上着本体を構成する前身頃及び後身頃内に、PVC、PE、EVA等からなる板状の浮力材をそれぞれ備えて、落水時に身体を水面から浮かせることができるようにしている。
【0003】
そして、前身頃の外面には、釣りに使用する錘や仕掛けあるいは釣用小物などの収納物を収納することができるポケットを備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−202748号公報(図1、図3参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ポケットに収納される錘や仕掛けあるいは釣用小物等の収納物の重量が2、3kgになる場合がある。特に2つ以上のポケットを備えている場合には、総重量が4〜6kgになる場合もあるが、そのような重量まで考慮して浮力材を設計していない。このため、ポケットに収納する重量によっては、落水時に身体を水面から浮かせることができない虞がある。因みに、ポケットに入れる錘や仕掛けあるいは釣用小物等の収納物の重量を考慮して浮力材の厚みを作製することも考えられるが、浮力材の厚みが厚くなることにより、着心地が悪くなるだけでなく、動き難くなり、採用し難いものであった。
【0006】
本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、ポケットに収納される収納物の重量をも考慮した浮力を得ることができながらも、着心地が悪いことや動き難いといった不都合を解消することができる浮力材付き釣り用上着を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の浮力材付き釣り用上着は、前述の課題解決のために、上着本体の前身頃及び後身頃のそれぞれに、浮力材を備えた浮力材付き釣り用上着であって、前記前身頃の外面に、該前身頃から離間する外側に張り出すマチ部と該マチ部よりも前側に配置される前側部とを有するポケットを備え、該前側部に浮力材を備えたことを特徴している。
【0008】
上記構成によれば、ポケットのマチ部に収納される収納物よりも前側に位置する前側部、つまり身体の前方に位置する前身頃よりも前側に離れて位置する前側部に浮力材を備えることによって、前身頃に備える浮力材の厚みを厚くして浮力を増大させる場合に比べて、浮力を効率よくアップさせることができる。また、浮力材がポケットの前側部に備えさせることによって、着用者を圧迫することがなく、動き難いことや着心地が悪くなることがない。
【0009】
また、本発明の浮力材付き釣り用上着は、前記前側部の浮力材が、前記前身頃の下側部分に配置されていてもよい。
【0010】
上記のように、前側部の浮力材が、浮力の重心の前側でかつ前身頃よりも遠い位置にあれば、お腹付近、例えば臍付近で浮力のモーメントがかかり易い。その結果、顔側が上になるような浮力のモーメントが身体にかかり、顔が浮き易くなる。
【0011】
また、本発明の浮力材付き釣り用上着は、前記前身頃が左右の前身頃を備え、該左右の前身頃のそれぞれに前記ポケットを備え、該各ポケットが、各前身頃の上下中央部付近から下端部に渡り、かつ、左右幅方向略全域に渡る範囲に設けられていてもよい。
【0012】
上記のように、左右の前身頃のそれぞれにポケットを備え、各ポケットが、各前身頃の上下中央部付近から下端部に渡り、かつ、左右幅方向略全域に渡る範囲に設けられている場合には、浮力材による浮力アップをより一層図ることができ、更に安定良く顔を含む身体を浮かせることができる。
【発明の効果】
【0013】
ポケットの前側部に浮力材を備えることによって、ポケットに収納される錘や仕掛けあるいは釣用小物等の収納物の重量をも考慮した浮力を得ることができながらも、着心地が悪いことや動き難いといった不都合を解消することができる浮力材付き釣り用上着を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の浮力材付き釣り用上着を少し斜め上方から見た斜視図である。
【図2】図1で示した浮力材付き釣り用上着の左右の前身頃を横に開放して内側が見えるようにした少し下方から見た斜視図である。
【図3】浮力材の位置関係が把握できるように上着本体を展開した概略図である。
【図4】ポケットに備えた浮力材と他の浮力材との関係を水中の中で浮いている状態で示した一部を断面にした概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1及び図2に、浮力材付き釣り用の上着の一例である袖なしの上着であるベストを示しているが、袖のある上着であってもよい。このベストは、例えばルアーフィッシングの釣りの際に装着されるフローティングベストとして使用しているが、その他の釣り(磯釣りや波止釣りや船釣り等)で使用してもよい。
【0016】
ベストは、前身頃1と、この前身頃1の左右両端に連結される後身頃2とを有する上着本体を備えている。前身頃1は、左前身頃3と右前身頃4とを備え、その左前身頃3は、前方に位置するメインの左前身頃3Aと、このメインの左前身頃3Aの後端に連結され、メインの左前身頃3Aよりも小さなサブの左前身頃3Bとを備えている。また、右前身頃4は、前方に位置するメインの右前身頃4Aと、このメインの右前身頃4Aの後端に連結され、メインの右前身頃4Aよりも小さなサブの右前身頃4Bとを備えている。そして、4つの前身頃3A,3B,4A,4Bの内部に、浮力材5,6,7,8を備えている。これら左前身頃3及び右前身頃4の左右方向中心部側端に備えさせたベスト着脱用スライドファスナーFを開閉操作することで身体にベストを着脱することができるようになっている。また、左前身頃3と右前身頃4とは、バックル9によって左右方向で連結することができるようになっている。バックル9は、左前身頃3に取り付けた雌部材9Aと、この雌部材9Aに内挿して係合されるべく右前身頃4に取り付けた雄部材9Bとを備えている。
【0017】
また、メインの左前身頃3Aの上側に第1ポケット10を備え、下側に第1ポケット10よりも大きく、該左前身頃3Aから離間する外側に張り出すマチ部11Aとマチ部11Aよりも前側に配置される前側部11Tとを有する第2ポケット11を備え、図3及び図4に示すように、第2ポケット11の前側部11Tにポケット11の上下寸法と左右幅寸法と略同一の寸法を有する矩形状で板状の浮力材12を備えている。図1に示すように、マチ部11Aには、ポケット10の開口部を開閉するためのファスナー11Bを備えている。
【0018】
また、メインの右前身頃4Aの上側に第3ポケット13を備え、下側に第3ポケット13よりも大きく、該右前身頃4Aから離間する外側に張り出すマチ部14Aとマチ部14Aよりも前側に配置される前側部14Tを有する第4ポケット14を備え、図3及び図4に示すように、第4ポケット14の前側部14Tにポケット14の上下寸法と左右幅寸法と略同一の寸法を有する矩形状で板状の浮力材15を備えている。図1に示すように、マチ部14Aには、ポケット10の開口部を開閉するためのファスナー14Bを備えている。尚、図3では、サブの左前身頃3B及びサブの右前身頃4B並びに後身頃2の左右両端の丈の小さな2つの浮力材16,20を省略している。
【0019】
前記のようにマチ部11A,14Aと前側部11T,14Tとからポケット11,14を構成することによって、マチ部11A,14Aにより形成される収納部の収納空間11K,14Kを十分に確保できながらも、別に設けられた前側部11T,14Tに備えた浮力材12,15で効率よく浮力をアップさせることができる。
【0020】
また、浮力材12又は15を備える各ポケット11又は14が、各前身頃5又は7の上下中央部付近から下端部に渡り、かつ、左右幅方向略全域に渡る範囲に設けられている。具体的には、図4に示すように、前側部の浮力材12,15(図では片方のみ図示している)が、浮力の重心の前側でかつ前身頃よりも遠い位置にあれば、お腹付近、例えば臍H付近で浮力のモーメントがかかり易い。その結果、顔側が上になるような浮力のモーメントが身体にかかり、図に示すように顔が浮き易くなる。従って、図3に示すように、ポケット11,14の収納空間11K,14Kに錘や仕掛けあるいは釣用小物等の収納物を収納して重量が増大しても、前側部11T,14Tに備えた浮力材12,15により効率よく浮力を増大させて確実に身体を浮かせることができるように構成している。しかも、前側部11T,14Tに浮力材12,15を備えさせていることから、動き難いことや着心地が悪いといったことがない。さらには、ポケット11,14に浮力材12,15を備えさせていることから、ポケット11,14が型崩れしないように保形性を高めることができるだけでなく、他物とのクッション材としても機能することができる。
【0021】
後身頃2の内部には、前身頃1に備えた全ての浮力材5,6,7,8,12,15による浮力よりも浮力が小さく設定された5つの浮力材16,17,18,19,20を備えている。浮力材の個数は、図に示す5つに限定されるものではない。
【0022】
従って、図4に示すように、浮力材5を備えた前側身頃が浮力材18を備えた後側身頃よりも上方に位置する姿勢で確実に浮くことができながらも、ポケット11の空間11K内に重量のある収納物が収納されている場合でも、前述のようにポケット11,14に備えた浮力材12,15(図では一方のみ図示している)により効率よく打ち消すことができるようになっている。
【0023】
また、左前身頃3の上端と後身頃2の左側上端を連結する左側肩部21に浮力材23を備えるとともに、右前身頃4の上端と後身頃2の右側上端とを連結する右側肩部22の内部に浮力材24を備えている。
【0024】
また、図1及び図2に示すように、前身頃1と後身頃2を身体に保持するための1本のベルト25を備えている。具体的には、ベルト25を前身頃1及び後身頃2の内側に保持するための5つの帯状でループ状の保持部26,27,28,29,30を備え、それら保持部26,27,28,29,30のうちの後身頃2の幅方向中央部の保持部28を除いた保持部26,27,29,30がベルト25をそれの長さ方向に移動可能で、かつ、ベルト25の締め付け時において前身頃1及び後身頃2をベルト25から離間可能とする融通部を備えている。
【0025】
また、前記保持部28は、前記保持部27,29と同一の構成であるが、ドット釦によりベルト25を保持部28に固定している。このドット釦は、ベルト側に設けられた雄型部材(図示せず)と、この雄型部材に係合するように保持部28側に設けられた雌型部材31とからなっているが、他の部材にて固定してもよいし、場合によっては、固定しないで他の保持部と同様に、ベルト25を挿通可能なループに構成してもよい。
【0026】
また、メインの右前身頃4Aの裏面に逢着した保持部26及びメインの左前身頃3Aの裏面に縫着した保持部30は、図2に示すように、各保持部の上下端部が右前身頃4Aの内面に縫着された上下一対の補強用帯状部材32,33及び左前身頃3Aの内面に縫着された上下一対の補強用帯状部材34,35で覆われ、その覆われた部分を縫着することにより固定されている。
【0027】
また、残りの保持部27,28,29も同様に、各保持部の上下端部が後身頃2の内面に縫着された上下一対の補強用帯状部材36,37で覆われ、その覆われた部分を縫着することにより固定されている。
【0028】
図2に示すように、ベルト25の一端には、雄部材38Aが備えられ、他端には、雄部材38Aを挿入して係合可能な雌部材38Bが備えられて、係合解除自在なバックルを構成している。従って、衣服本体を身体に着てからベルト25の雄部材38Aを雌部材38Bに挿入することにより両者が係合してベルト25を身体に装着することができる。また、ベルト25の雄部材38A側近傍に、ベルト25の長さを調節するための長さ調節具Gを備えており、身体の胴回りのサイズに応じてベルト25の長さを調節することができる。また、ベルト25の雌部材38B側近傍にも、同じようにベルト25の長さを調節するための長さ調節具(図示せず)を備えており、ベルト25の両サイドでベルト25の長さを調節することができるようになっている。
【0029】
メインの右前身頃4Aの裏面の生地、メインの左前身頃3Aの裏面の生地、後身頃2の裏面の生地は、下端よりも少し上方の位置から上端までの範囲に渡る上下方向に長尺な第1生地4a、3a、2aと、下端から少し上方の位置までの範囲に渡り、かつ、第1生地4a、3a、2aの下部と一部重複するように該第1生地の下端4c,3c,2cよりも上方に位置する上端4d,3d,2dを有する上下方向に短尺な第2生地4b、3b、2bとを備え、第1生地4a、3a、2aと第2生地4b、3b、2bとをそれらの重複部分に備えた複数のドット釦42,43,44により連結している。従って、ドット釦42,43,44の係合を解除することにより、第1生地4a、3a、2aと第2生地4b、3b、2bとの間を開口させて浮力材7,5,17,18,19をメインの右前身頃4A、メインの左前身頃3A、後身頃2の下側から取り出すことができるようになっている。説明はしないが、サブの左前身頃3B及びサブの右前身頃4Bも同様に浮力材を取り出すことができる構成になっている。
【0030】
また、図3に示すように、ポケット11又は14内には、釣りに使用する錘や仕掛けあるいは釣用小物などを収納する収納空間と、浮力材12又は15を収納する浮力材用収納空間とを仕切るための生地を備えている。その生地は、下端から上端よりも少し下方の位置までの範囲に渡る上下方向に長尺な第1生地11a又は14aと、上端から少し下方の位置までの範囲に渡り、かつ、第1生地11a又は14aの上部と一部重複するように該第1生地の上端11c又は14cよりも下方に位置する下端11d又は14dを有する上下方向に短尺な第2生地11b又は14bとを備え、第1生地11a又は14aと第2生地11b又は14bとをそれらの重複部分に備えた複数のドット釦45又は46により連結している。従って、ポケット11又は14のファスナー11B又は14B(図1参照)を開放操作してから、ポケット内にあるドット釦45又は46の係合を解除することにより、第1生地11a又は14aと第2生地11b又は14bとの間を開口させて、浮力材12又は15をポケット11又は14の上側から取り出すことができるようになっている。
【0031】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0032】
前記実施形態では、下側のポケット11,14にのみ浮力材12,15を備えさせたが、上側のポケット10,13にも浮力材を備えて実施してもよい。
【0033】
また、前記実施形態では、前身頃を左右の前身頃から構成したが、頭から被って着るような1つの前身頃からなるベストであってもよい。この場合、浮力材を備えるポケットは、1個設けてもよいし、複数設けて実施してもよい。
【0034】
また、前記実施形態では、ポケット11,14の上下寸法及び左右幅寸法と略同一寸法を有する浮力材12,15を備えさせたが、ポケット11,14を前身頃3,4の上下寸法と略同じ寸法を有するものから構成し、前身頃の下側部分に浮力材を備えさせるべく、2つのポケット11,14の下側部分にそれぞれ浮力材を備えさせてもよい。この場合、浮力材の左右幅寸法は、ポケット11,14の左右幅全域に渡る寸法であってもよいし、ポケット11,14の左右幅よりも小さな左右幅を有する浮力材であってもよい。尚、浮力材の寸法は、ポケット11,14の収納空間の大きさに応じて適宜変更することが好ましい。
【符号の説明】
【0035】
1…前身頃、2…後身頃、3…左前身頃、3A…メインの左前身頃、3B…サブの左前身頃、4…右前身頃、4A…メインの右前身頃、4B…サブの右前身頃、4a,4b…生地、5,6,7,8,12,15,16,17,18,19,20…浮力材、9…バックル、9A…雌部材、9B…雄部材、10,11,13,14…ポケット、11K,14K…収納空間、14A…マチ、14B…ファスナー、21,22…肩部、23,24…浮力材、25…ベルト、26,27,28,29,30…保持部、31…雌型部材、32,33,34,35,36,37…補強用帯状部材、38A…雄部材、38B…雌部材、42,43,44…ドット釦、F…ベスト着脱用スライドファスナー、G…調節具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上着本体の前身頃及び後身頃のそれぞれに、浮力材を備えた浮力材付き釣り用上着であって、
前記前身頃の外面に、該前身頃から離間する外側に張り出すマチ部と該マチ部よりも前側に配置される前側部とを有するポケットを備え、該前側部に浮力材を備えたことを特徴とする浮力材付き釣り用上着。
【請求項2】
前記前側部の浮力材が、前記前身頃の下側部分に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の浮力材付き釣り用上着。
【請求項3】
前記前身頃が左右の前身頃を備え、該左右の前身頃のそれぞれに前記ポケットを備え、該各ポケットが、各前身頃の上下中央部付近から下端部に渡り、かつ、左右幅方向略全域に渡る範囲に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の浮力材付き釣り用上着。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−149118(P2011−149118A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10442(P2010−10442)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】