説明

浴槽

【課題】成形し易く、さらに浴室の側壁と接合し易い水返し部を有する浴槽を提供する。
【解決手段】平板状の硬質部11aと軟質部11bとが積層貼付されて構成されたインサート部材を、下型の溝内に圧入し、上型と下型の間に形成された空隙に樹脂を充填する。樹脂は溝内には侵入できず、浴槽10が成形される際に、浴槽10の外縁10aに起立したインサート部材が一体固着されて水返し部12が形成される。水返し部12が浴室の側壁15に設けられたバックハンガー16の係合凹部16a内に圧入され、浴室10と浴室の側壁15とが堅固に接合固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外縁に水返し部を有する浴槽に関する。
【背景技術】
【0002】
浴槽内の湯水が流出しないように、図4に示すような水返し部材50が浴槽51の外縁52に設置されることがある。図4に示す水返し部材50は、例えば金属又は強化プラスチック等の強度を有する素材で形成されており、樹脂成形された浴槽51の外縁52に係合して固定される。そのため、浴槽51と水返し部材50は別々に製造され、さらに組み立てるという手順を踏む必要がある。
【0003】
そこで、水返し部材と同様の機能を発揮する水返し部を、浴槽の外縁に一体成形することにより、両者を組み立てる手間を省くことができる。このような浴槽が例えば特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されている浴室外縁の水返し突条の発明を実施すると、浴室の側壁と浴槽の間に湯水が浸入するのを防止することができる。すなわち、浴槽の外縁に立設する水返し突条によって、浴槽内の湯水が浴室の側壁の外側へ流出するのを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−153608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、浴室の側壁の裏面側にはバックハンガーと呼ばれる係合部材が設けられている。バックハンガーの内部に水返し突条が収容され、さらに側壁の下端が浴槽の外縁上に載置されて、浴室の側壁と浴槽とが一体化される。その際、バックハンガーと水返し突条の間に隙間があると、浴槽と側壁の固定が不安定となる上に、湯水がバックハンガーと水返し突条の間に入り込む恐れがある。そこで水返し突条とバックハンガーの間の隙間をなくすように各部の寸法を設定すると、浴槽と側壁とを組み合わせて接合する際の施工性が悪化してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、成形し易く、さらに浴室の側壁と接合し易い水返し部を有する浴槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、注型成形によって成形され外縁に水返し部を有する浴槽であって、水返し部は硬質層と弾性を有する軟質層とが積層されたインサート部材で構成されており、前記インサート部材は、インサート成形によって浴槽と一体に成形されて水返し部を構成するものであることを特徴とする浴槽である。
【0008】
請求項1の発明では、水返し部は硬質層と弾性を有する軟質層とが積層されたインサート部材で構成されているので、軟質層の部分が圧縮変形可能である。すなわち、インサート部材は、圧縮されることによって厚み方向の寸法が小さくなる。よって、浴槽の成形時において、型内の水返し部を構成する部位にインサート部材を圧入することにより、樹脂が水返し部構成部位に侵入するのを防止することができる。その結果、脱型が容易になり、水返し部の厚み方向の寸法がばらつくことがない。
【0009】
また、インサート部材は、インサート成形によって浴槽と一体に成形されて水返し部を構成するものであるので、浴槽と一体の水返し部は、厚み方向に圧縮されると薄くなる。よって、浴室の側壁の下端が浴槽の外縁に載置されて、側壁に設けられたバックハンガー内に水返し部を圧入することができる。その結果、バックハンガーと水返し部の間に隙間が形成されず、浴槽内の湯水が側壁と水返し部の間に浸入するのを良好に防止できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の浴槽によれば、硬質層と弾性を有する軟質層とが積層されたインサート部材で水返し部が構成されるので、水返し部は圧縮されると弾性変形して薄くなる。そのため、浴槽の成形時にはインサート部材を成形型の水返し部構成部位に圧入することができ、水返し部構成部位に樹脂が入り込むことを阻止することができ、容易に脱型することができる。また、成形後において、浴槽を浴室に配置する際には、浴室の側壁に設けられたバックハンガーに水返し部を圧入することができ、バックハンガー側の寸法と水返し部側の寸法とをシビアに設定する必要がなく、施工性が良好である。さらに側壁側と浴槽側(水返し部)の間から浴槽内の湯水が浸入するのを良好に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)は本発明の浴槽を成形する型の断面図であり、上型と下型とが離間している状態を示しており、(b)は(a)において、下型にインサート部材が配置され、さらに上型と下型とが組み合わされた状態の断面図であり、(c)は成形された浴槽の断面図である。
【図2】図1(b)のA部の拡大図である。
【図3】(a)は成形された浴槽が、浴室の側壁に結合される直前の状態を示す断面図であり、(b)は浴槽が浴室の側壁と結合された状態を示す断面図である。
【図4】従来の浴槽の部分拡大図であり、浴槽の外縁に水返し部材が固定されている状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本発明の浴槽の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明は、実施形態の理解を容易にするためのものであり、これによって、本発明が制限して理解されるべきではない。
【0013】
まず、図1(a)〜図1(c)と図2を参照しながら、本発明の浴槽10の成形の手順を説明する。図1(a)に示すように、浴槽10は下型1と上型2によって成形される。下型1は、中央部が台形形状を呈しており、周辺部には起立部4が設けられている。台形形状の中央部と起立部4の間には、環状の窪み部5が設けてある。
【0014】
窪み部5には起立部4の起立方向に沿ってのびる溝6が設けられている。溝6は、環状の窪み部5の全てに渡って設けられているのではなく、浴槽10における洗い場側に配置されると想定される部位以外の部位に設けられる。すなわち、図1(a)で見て右側の窪み部5には溝6は設けられていない。
【0015】
溝6には、インサート部材11が挿入される。インサート部材11は、金属や強化プラスチック等の非弾性素材で形成された硬質部11a(硬質層)と、軟質ABS樹脂,軟質アクリル樹脂等の樹脂材,天然ゴム,エチレン・プロピレンゴム等のゴム材,発泡材等の弾性を有する素材で形成された軟質部11b(軟質層)とが接着等で一体化された構造を有している。すなわち、インサート部材11は硬質部11aと軟質部11bとを有する平板状の部材である。インサート部材11の厚さ寸法は、溝6の幅寸法よりも大きく、インサート部材11の長さは溝6の長さと一致している。そのため、軟質部11bを圧縮変形させることによって、インサート部材11を溝6内に圧入することができるようになっている。また、平板状のインサート部材11の高さ寸法は溝6の深さ寸法より大きく、インサート部材11を溝6内に圧入すると、インサート部材11の一部が溝6から露出する。
【0016】
次に、上型2は、下型1の形状に対応して、中央部分がへこんでおり、周辺部分が環状に下方(下型側)に突出している。そして図1(b)に示すように、上型2の下部の外周部分には、フランジ部7が設けられている。また、フランジ部7の内側には突出部8が設けられている。さらに上型2には樹脂注入口2aが設けられている。
【0017】
下型1の起立部4に上型2のフランジ部7を載置すると、下型1と上型2は図1(b)に示す状態となる。図1(b)に示すように、下型1と上型2の間には空隙3が形成される。下型1の溝6にインサート部材11を圧入すると、インサート部材11の一部が溝6から空隙3に露出する。下型1の窪み部5には上型2の突出部8が配置され、この部位によって後述する外縁10aが形成される。
【0018】
上型2の樹脂注入口2aから樹脂9(アクリル系等の人造大理石樹脂)を注入すると、樹脂9は空隙3内に充填される。その際、樹脂9は空隙3内を流動し、インサート部材11にも接する。そして、樹脂9が硬化し脱型すると、図1(c)に示すような浴槽10が完成する。ここで、浴槽10は、実際には複数の樹脂層(強度層や化粧層等)が積層されて構成されているが、本発明の骨子とは直接関係がないため、本実施例では複数の樹脂層を成形する手順の説明は省略する。
【0019】
図1(c)に示すように、浴槽10の外縁10aには、インサート部材11によって水返し部12が構成されている。図示していないが、浴槽12が浴室に設置されると、浴槽12の三方が浴室の側壁15(図3)と結合され、残りの一方側には洗い場(図示せず。)が配置される。
【0020】
図3(a)に示すように浴室の側壁15の下端15aにはバックハンガー16が装着されている。バックハンガー16は、係合凹部16aを形成する断面が略コの字形状を呈する固定具であり、図3(b)に示すように水返し部12に係合する。すなわち、側壁15の下端15aが浴槽10の外縁10a上に載置されると共に、バックハンガー16には水返し部12が圧入される。
【0021】
このとき水返し部12は、硬質部11aの前面(浴槽側)に形成されている軟質部11bが圧縮されて弾性変形した状態でバックハンガー16内に圧入される。図3(a)の軟質部11bの破線で示す部位が圧縮されて、図3(b)に示すようにインサート部材11がバックハンガー16の係合凹部16a内に圧入される。よって、バックハンガー16と水返し部12の間には隙間が生じない。
【0022】
その結果、側壁15(バックハンガー16)に対して浴槽10(水返し部12)ががたつくことがなく、両者は確実に固定される。また、仮に、浴槽10内の湯水が浴槽10の外縁10aと側壁15の下端15aの間に侵入したとしても、その侵入した湯水は、バックハンガー16と水返し部12を超えて流出することができない。よって水返し部12は、良好に水返し機能を発揮することができる。
【0023】
以上説明したように、水返し部12を構成するインサート部材11は、硬質部11aを有することによって水返し部12の剛性を確保することができる。またインサート部材11は、軟質部11bが硬質部11aの前面に形成されているので、浴槽10の成形時においては軟質部11bを圧縮変形させて下型1の溝6に圧入し、インサート部材11の間に樹脂9が侵入するのを防止することができる。その結果、脱型不良や、成形寸法がばらつくのを防止することができる。さらに浴槽10が成形された後は、インサート部材11で構成される水返し部12は、軟質部11bを圧縮変形させて側壁15のバックハンガー16の係合凹部16a内に圧入することができるので、浴槽10(水返し部11)と浴室の側壁15(バックハンガー16)とをゆるみなく固定することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 下型
2 上型
3 空隙
4 起立部
5 窪み部
6 溝
7 フランジ部
8 突出部
9 樹脂
10 浴槽
10a 外縁
11 インサート部材
11a 硬質部
11b 軟質部
12 水返し部
15 浴室の側壁
15a 浴室の側壁の下端
16 バックハンガー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注型成形によって成形され外縁に水返し部を有する浴槽であって、水返し部は硬質層と弾性を有する軟質層とが積層されたインサート部材で構成されており、前記インサート部材は、インサート成形によって浴槽と一体に成形されて水返し部を構成するものであることを特徴とする浴槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−223454(P2012−223454A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95356(P2011−95356)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】