説明

浴槽

【課題】立ち上がり動作時の使用者の負担を減らして楽に立ち上がり動作でき、且つまたぎ動作時に手を滑らすことなく体重を預けることができるようにする。
【解決手段】リム部3における内槽部2側の上面には、浴槽1内に着座している使用者がリム部3を掴んで立ち上がり動作するにあたって、使用者の脇が締まるようにして押し上げ力を加えることが可能なように、指掛け部4の上方位置4aと下方位置4bとを繋ぐように内槽部2側に向かって下り急傾斜した第1の上面部31が形成されており、リム部3における指掛け部4側の上面には、使用者が浴槽1に対して出入りするために、当該リム部3を掴んでまたぎ動作するにあたって、使用者が手を滑らすことなく体重を預けることが可能なように、第1の上面部31よりも傾斜の小さい第2の上面部32が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の浴槽は、浴槽水を溜めることが可能な内槽部と、内槽部の上端縁に設けられたリム部とを備えているものが一般的である。このような浴槽の使用者は、リム部を跨いで浴槽に出入りする際、当該リム部に手を掛けながら体躯を移動させることが通常である。
【0003】
また、浴槽内に着座した入浴姿勢から立ち上がる際、使用者(入浴者)の立ち上がり動作が行いやすくなるよう、例えば、1)リム部上面の全体が略水平に形成された浴槽+指掛け部という構造(例えば特許文献1参照)、2)リム部上面の全体が浴槽内側に向かって下り緩傾斜した浴槽+指掛け部という構造(例えば特許文献2参照)、3)リム部上面の全体が浴槽内側に向かって下り急傾斜した浴槽+指掛け部という構造(例えば特許文献3参照)のものなどが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−336478号公報
【特許文献2】特許第4345551号公報
【特許文献3】意匠登録第1312057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、1)リム部上面の全体が略水平に形成された浴槽+指掛け部という構造の場合、またぎ動作はしやすいが、楽な立ち上がり動作は実現しがたい。また、2)リム部上面の全体が浴槽内側に向かって下り緩傾斜した浴槽+指掛け部という構造の場合も同様に、またぎ動作はしやすいが、楽な立ち上がり動作が実現しがたい。一方で、3)リム部上面の全体が浴槽内側に向かって下り急傾斜した浴槽+指掛け部という構造の場合には、楽な立ち上がり動作を実現することが可能となるが、リム部を掴んでまたぎ動作する際に手が滑りやすくなり、安定した姿勢で体重を預けることが難しくなる。
【0006】
このように、従来の浴槽は、立ち上がり時のサポート性能と跨ぎ時のサポート性能(跨ぎやすさ)を両立するには至っていない。本発明者は、立ち上がり性を高めるためには急傾斜面を設けることで脇を締めることが重要であるが、その場合には特許文献3のように跨ぎ性が悪くなるため、それらを両立させることが重要であるとの知見を得るに至った。
【0007】
本出願は、上述した課題に鑑み、立ち上がり動作時の使用者の負担を減らして楽に立ち上がり動作でき、且つまたぎ動作時に手を滑らすことなく体重を預けることができる浴槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる知見に基づくものであり、浴槽水を溜めることが可能な内槽部と、内槽部の上端縁に設けられたリム部と、リム部の外方側の下方位置に設けられ、使用者の指先を引っ掛けることが可能な指掛け部と、を有する浴槽であって、リム部における内槽部側の上面には、浴槽内に着座している使用者がリム部を掴んで立ち上がり動作するにあたって、使用者の脇が締まるようにして押し上げ力を加えることが可能なように、指掛け部の上方位置と下方位置とを繋ぐように内槽部側に向かって下り急傾斜した第1の上面部が形成されており、リム部における指掛け部側の上面には、使用者が浴槽に対して出入りするために、当該リム部を掴んでまたぎ動作するにあたって、使用者が手を滑らすことなく体重を預けることが可能なように、第1の上面部よりも傾斜の小さい第2の上面部が形成されていることを特徴としている。
【0009】
本発明では、使用者が脇を締めた状態でリム部に対して押し上げ力を加えることを可能とするために、指掛け部の上方位置と下方位置とを繋ぐように浴槽内側に向かって下り急傾斜した第1の上面部をリム部に形成している。この第1の上面部に手を付いて押し上げ力を加えると、当該第1の上面部が浴槽内側に向かって下り急傾斜していることから、自然と使用者の脇は締まりやすくなる。
【0010】
また、仮にリム部の上面全体を第1の上面部のごとき下り急傾斜面とすると、使用者が浴槽に対して出入りするためにリム部を掴んでまたぎ動作する際、手が滑りやすくなり安定した姿勢で体重を預けることができなくなるという課題が生じる点に関し、本発明では、リム部の上面に、第1の上面部よりも傾斜の小さい第2の上面部を形成している。このような第2の上面部に対して、手を付けて体重を預ければ、使用者は手を滑らせにくく、安定した姿勢でまたぎ動作することができる。
【0011】
このような浴槽において、第2の上面部は、第1の上面部よりもリム幅が小さく形成されていることが好ましい。
【0012】
リム部の上面に上述した第1の上面部と第2の上面部を設けるにあたり、仮に、第2の上面部のリム幅を大きくしすぎるとすれば、使用者が立ち上がり時に指掛け部に指先を引っ掛けた際、手の平の大部分が第2の上面部に置かれ、第1の上面部には手の平の一部しか置かれていない状態となる可能性があり、特に使用者の手が小さい場合はこの状態が顕著となる。このような状態では、立ち上がりに必要な大きな押し上げ力を得るために第2の上面部に大きな力を加えることとなるため、自然と使用者の脇が開きやすくなってしまう。これに対し、本発明では、第2の上面部は第1の上面部よりもリム幅が小さく形成されているため、使用者が立ち上がり時に指先を指掛け部に引っ掛けると、手の平の大部分が第1の上面部に置かれやすくなり、第2の上面部には手の平の一部しか置かれていない状態となる。この結果、第1の上面部に大きな力を加えやすくなり、使用者の脇の開きが抑えられ、立ち上がりに必要な大きな押し上げ力が得られやすくなる。
【0013】
また、第1の上面部は、指掛け部の上方位置から下方位置にかけてアール状に形成されて丸み付けされており、第2の上面部は、第1の上面部とは異なる面であって、第1の上面部を延伸させた仮想アール面よりも傾斜の小さい面で形成されていることが好ましい。
【0014】
一般に、浴槽からの立ち上がり時、立ち上がり動作によって使用者の体勢が高くなるに従って、必要となる押し上げ力のベクトルは変化する。この点、本発明のように第1の上面部をアール状にすることで押し上げ力のベクトルを円滑に移行させることが可能となる。ところで、この際、第1の上面部をアール状にすることで、1つのアール面により第1の上面部と第2の上面部を形成することも可能ではあるが、そうした場合には以下の問題が生じうる。すなわち、1つのアール面(曲率が変化しない面)で第1の上面部(急傾斜面)と第2の上面部(緩傾斜面)を形成しようとすると、アール面は徐々に接線角度が変化するものであるため、またぎ動作に要する上面部を得ようした場合にリム幅が大きくなってしまい、立ち上がり動作時やまたぎ動作時に手が滑らないようにリム部を対向位置で握ることが困難になるという問題が生じうる。これに対して、本発明では、第2の上面部を第1の上面部のアール面とは異なる傾斜の小さい面で形成していることから、急激に接線角度を変化させることが可能であり、リム幅を小さくし、立ち上がり動作時やまたぎ動作時に手が滑らないようにリム部を対向位置で握ることが容易となるようにすることができる。
【0015】
このような浴槽において、第2の上面部は、浴槽内側に向かって緩やかに下り傾斜していることが好ましい。
【0016】
一般に、立ち上がり動作時の使用者の負担をより小さくするためには、第1の上面部に置かれた手首に対して指掛け部に引っ掛けられた指先がより高い位置にあることが好ましい。例えば、第2の上面部を浴槽内側に向かって緩やかに上り傾斜させる、または水平状にすると、手の平の付け根に対して指掛け部に引っ掛けられた指先が比較的に低い位置となるため、立ち上がり動作時に使用者の脇が開きやすくなる。そうすると、使用者の立ち上がり時の負担を小さくするという観点からは好ましくない。これに対して、本発明では、第2の上面部を、浴槽内側に向かって緩やかに下り傾斜させていることから、手の平の付け根に対して指掛け部に引っ掛けられた指先が比較的に高い位置となりやすく、立ち上がり動作時に使用者の脇が開きにくくなるので、より使用者の負担を小さくすることが可能となる。
【0017】
さらに、第1の上面部と第2の上面部との間には、第1の上面部および第2の上面部の中間の傾斜角度を有する第3の上面部が形成されていることが好ましい。
【0018】
立ち上がり動作を初期段階、中期段階、終期段階でフェーズ分けした時、初期段階は大きな押し上げ力が必要となるため上述の通り、下り急傾斜した第1の上面部に対して力を加えることが有効である。また、終期段階は立ち上がり動作がほぼ完了している状態であるため大きな押上げ力は不要であり、どちらかというと手を滑らすことなく体勢を安定的に保持できることが必要となるため傾斜の小さい第2の上面部に対して力を加えることが有効である。つまり、立ち上がり動作全体の中で第1の上面部を主として利用するフェーズと、第2の上面部を主として利用するフェーズが発生する。このとき、第1の上面部と第2の上面部は、全体のリム幅を小さく形成するには、上述のごとき構成(第1の上面部は、指掛け部の上方位置から下方位置にかけてアール状に形成されて丸み付けされており、第2の上面部は、第1の上面部とは異なる面であって、第1の上面部を延伸させた仮想アール面よりも傾斜の小さい面で形成されている構成)であることが好ましい。ただし、こうした場合、それらを直接、接続すると段差が発生する。段差が発生するということは、リム部に対して加える力の方向ベクトルが急激に変化することとなるため、手を滑らせる可能性があり、安定的に立ち上がり動作することができないおそれがあります。この点、第1の上面部と第2の上面部との間に中間の傾斜角度を有する第3の上面部を設けた本発明によると、段差が緩和され、リム部に対して加える力の方向ベクトルが円滑に変化することとなるため、安定的に立ち上がり動作することが可能となる。
【0019】
このような浴槽において、第3の上面部は、第1の上面部および第2の上面部よりもリム幅が小さく形成されていることがさらに好ましい。
【0020】
第3の上面部は、あくまでもリムに対して加える力の方向ベクトルを円滑に移行させるものである(主体はあくまでも第1の上面部と第2の上面部である)ため、幅が大きい必要性はない。逆に第3の上面部の幅を大きくすることで、全体のリム幅が大きくなり、リム部がしっかりと握りにくくなるという点を考慮すると、第3の上面部は、第1の上面部および第2の上面部よりもリム幅が小さく形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、立ち上がり動作時の使用者の負担を減らして楽に立ち上がり動作でき、且つまたぎ動作時に手を滑らすことなく体重を預けることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明にかかる浴槽が適用された浴室ユニットの一例を示す斜視図である。
【図2】浴槽の構成例を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態における浴槽のリム部の外形を概略的に示す図である。
【図4】浴槽内に着座している使用者(入浴者)がリム部を掴んで立ち上がり動作する際の様子を示す図である。
【図5】使用者が立ち上がり動作する際にリム部を掴んでいる手の様子を示す図である。
【図6】使用者がまたぎ動作する際のリム部上の手の様子を示す図である。
【図7】急傾斜面が、指掛け部の上方位置から下方位置にかけてアール状に形成されて丸み付けされたリム部の一例を示す図である。
【図8】使用者が立ち上がり動作する際、図7に示したリム部を掴んでいるときの手の様子を示す図である。
【図9】緩傾斜面をより平面にするため曲率を小さくし、尚かつ急傾斜面と緩傾斜面との間で接線角度をより急激に変えたリム部の一例を示す図である。
【図10】緩傾斜面を、浴槽内側に向かって緩やかに下り傾斜させたリム部の一例を示す図である。
【図11】急傾斜面と緩傾斜面との間に中間傾斜面を形成したリム部の一例を示す図である。
【図12】急傾斜面と緩傾斜面との間に中間傾斜面を形成したリム部の別の一例を示す図である。
【図13】リム部の外方側縁と浴槽壁(浴槽エプロン)との間の水平方向段差を利用して指掛け部が形成されている浴槽のリム部を示す図である。
【図14】単一のアール面により急傾斜面と緩傾斜面の両方を形成した場合にリム部のリム幅が全体的に大きくなる傾向を説明する図である。
【図15】緩傾斜面を急傾斜面のアール面とは異なる傾斜の小さい面で形成した場合にリム部のリム幅を全体的に小さくできることを説明する図である。
【図16】水平面に対する緩傾斜面の傾斜角θ1が0に近いほど、緩傾斜面の傾斜は緩やかになることを説明する概略図である。
【図17】従来構造の浴槽内に着座している使用者がリム部を掴んで立ち上がり動作する際の様子を比較例として示す図である。
【図18】使用者が立ち上がり動作する際に従来のリム部を掴んでいる手の様子を比較例として示す図である。
【図19】使用者がまたぎ動作する際、従来のリム部上に置いた手の様子を比較例として示す図である。
【図20】緩傾斜面を、浴槽内側に向かって緩やかに上り傾斜させるかまたは水平状にした場合における立ち上がり動作時の使用者の手の様子を比較例として示す図である。
【図21】単一のアール面により急傾斜面と緩傾斜面の両方を形成した場合のリム部の一例を比較例として示す図である。
【図22】使用者が立ち上がり動作する際、図21に示したリム部を掴んでいるときの手の様子を比較例として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0024】
本発明にかかる浴槽1は、内槽部2、リム部3、指掛け部4等を有しているものである。図1等に示す本実施形態の浴槽1は平面視形状が略四角形であり、浴室10内にて、一対の長辺側浴槽壁(浴槽エプロン)12のうちの一方を洗い場11側に向けて設置されている。当該浴槽1において最も低くなる位置には排水口(図示省略)が形成されている。浴槽1の底(浴槽底)13にはこの排水口が最も低くなるような排水勾配がつけられており、表面材上の水が排水勾配に沿って流れ、排水口に集水されるようになっている。
【0025】
浴槽1は、架台100によって支持される(図1参照)。架台100は、例えば柱状の金属材(鋼材)を縦横に組み合わせて構成され、浴槽水を溜めた状態で且つ入浴者が存在している状態の浴槽荷重を支えるのに十分な強度および耐久性を有するもので、建築床上に設置されている(図1参照)。
【0026】
浴槽1の内槽部2は、浴槽水を溜めることができるように構成されている。使用者は、リム部3をまたぎ、該内槽部2にて着座して入浴姿勢となることができる。
【0027】
リム部(浴槽リム)3は、内槽部2の上端縁に設けられている。一般に、該リム部3をまたぐ際の使用者は、このリム部に手を置いたり該リム部3を掴んだりすることが多い。
【0028】
指掛け部4は、使用者の指先を引っ掛けることが可能なようにリム部3の外方側の下方位置に設けられている部位である。例えば本実施形態では、リム部3の外方側の下方位置に指の一部が入る凹部を設けており、該凹部内の天井面41に使用者が指を引っ掛けられるようにしている(図3等参照)。
【0029】
なお、本明細書では、上述のリム部(浴槽リム)3を、指掛け部4に指を掛けた状態で標準的な成人男性の手の平(195mm)が載置される領域として、浴槽1の上面の外周端から110mm以内の範囲と定義する。言い換えると、110mmよりも大きい領域は、内槽部2の側壁に該当する。
【0030】
ここで、本実施形態では、浴槽1内で入浴姿勢にある使用者(図4等において符号Mを付している)が立ち上がろうとする際、当該立ち上がり動作時の使用者の負担を小さくし、楽に立ち上がり動作できるようにするため、リム部3を、急傾斜面31と緩傾斜面32、さらに場合に応じて中間傾斜面33を備える特徴ある構成としている(図3、図4等参照)。
【0031】
すなわち、本実施形態のリム部3における内槽部2側の上面には、指掛け部4の上方位置と下方位置とを繋ぐように内槽部2側に向かって下り急傾斜する急傾斜面31が形成されている(図3参照)。ここでいう指掛け部4の上方位置とは当該指掛け部4よりも鉛直方向上にある位置であり、例えば図3において符号4aで示す位置である。同様に、ここでいう指掛け部4の下方位置とは当該指掛け部4よりも鉛直方向下にある位置であり、例えば図3において符号4bで示す位置である。さらに、図3等においては、下方位置4bから指掛け部4の天井面41までの鉛直方向高さを符号hで示している。以上のように構成された急傾斜面31は、浴槽1内に着座している使用者(入浴者)がリム部3を掴んで立ち上がり動作する際、使用者の脇が締まるようにして押し上げ力(使用者が腕を使って立ち上がろうとする際、特に上半身を押し上げる方向に作用する力)が自然かつより有効に加わることを可能としている(図4、図5参照)。
【0032】
なお、急傾斜面31は、浴槽1のリム部3に対して約半分より大きな割合を占めている(つまり、少なくとも55mmより大きい)。緩傾斜面32は、浴槽1のリム部3に対して、35mmより大きく55mmより小さい。急傾斜面31の傾斜角度(曲面の場合は接線角度)は、水平面に対して20〜70°であり、より好ましくは30〜70°である。緩傾斜面32の傾斜角度(曲面の場合は接線角度)は、水平面に対して−10〜10°である。さらに、内槽部2の側壁の傾斜角度(曲面の場合は接線角度)は、水平面に対して80〜90°である。
【0033】
ここで、立ち上がり動作時の使用者の負担や立ち上がり動作の簡便さについて、従来例と比較しながら説明する(図17、図18参照)。なお、比較例においては、各符号に’を付している。例えば、リム部(図17等では符号3’で示している)の上面全体が略水平に形成され、尚かつ指掛け部(図17等では符号4’で示している)が設けられている場合、またぎ動作はしやすいが(図18参照)、その反面、浴槽内での立ち上がり時、使用者の脇が開きやすく、肘がより外側に位置してしまうため、腕に加えた力Fが、立ち上がり動作(特に、上半身を起こす動作)の力としては有効に作用しない(図17参照)。
【0034】
この点、上述のごとき本実施形態の浴槽1においては、急傾斜面31に手の平を宛がう等して手を付きながら押し上げ力を加えた場合に、当該急傾斜面31が浴槽1の内側に向かって下り急傾斜していることから、手を付く際に角度(例えばα)が付きやすくなっており、自然と使用者の脇が締まり、肘が内側に位置しやすい(図4参照)。したがって、この状態で押し上げ力(使用者が腕を使って立ち上がろうとする際、特に上半身を押し上げる方向に作用する力)が自然かつより有効に加わりやすく、そのぶん立ち上がり動作が行いやすい。
【0035】
また、またぎ動作について比較例とともに説明すれば以下のとおりである(図19参照)。すなわち、仮にリム部(図19では符号3’で示している)の上面全体を急傾斜面31のごときが急な下り傾斜面とすると、使用者が浴槽に対して出入りするためにリム部3’を掴んでまたぎ動作する際、手が滑りやすくなり、安定した姿勢で体重を預けることが難しくなる(図19参照)。この点、上述のごとき本実施形態の浴槽1においては、リム部3の上面に、急傾斜面31よりも傾斜の小さい緩傾斜面32が形成されており、このような緩傾斜面32に対して手を付けて体重を預ければ、使用者は手を滑らせにくく、安定した姿勢でまたぎ動作することができる(図6参照)。
【0036】
また、本実施形態においては、上述の緩傾斜面32を、急傾斜面31よりもリム幅が小さくなるように形成している(図3等参照)。仮に、緩傾斜面32のリム幅を大きくしすぎれば、使用者が立ち上がり時に指掛け部4に指先を引っ掛けた際、手の平の大部分が緩傾斜面32に置かれ、急傾斜面31には手の平の一部しか置かれていない状態となる可能性があり、このような状態では、立ち上がりに必要な大きな押し上げ力を得るために緩傾斜面32に大きな力を加えることとなるため、自然と使用者の脇が開きやすくなってしまう。この点、本実施形態のごとく、緩傾斜面32を急傾斜面31よりもリム幅が小さくなるように形成すれば、使用者が立ち上がり時に指先を指掛け部4に引っ掛けると、手の平の大部分が急傾斜面31に置かれ、緩傾斜面32には手の平の一部しか置かれていない状態となる(図5参照)。したがって、急傾斜面31に大きな力を加えやすくなり、使用者の脇の開きが抑えられ、立ち上がりに必要な大きな押し上げ力が得られやすくなる。
【0037】
本実施形態の浴槽1においては、図7、図8に示す変形例のように、急傾斜面31が、指掛け部4の上方位置から下方位置にかけてアール状に形成されて丸み付けされていてもよい。また、緩傾斜面32は、急傾斜面31とは異なる面であって、該急傾斜面31を延伸させた仮想アール面よりも傾斜の小さい面で形成されていてもよい。
【0038】
図7、図8に示す変形例について、比較例(図21、図22参照)と対比しつつ説明すれば以下のとおりである。すなわち、使用者が浴槽1から立ち上がる際、立ち上がり動作によって使用者の体勢が高くなるにつれ、必要となる押し上げ力のベクトルが変化するのが一般的である。この点、本実施形態のように急傾斜面31をアール状の曲面で構成することは、立ち上がり動作時の体勢の変化に伴って押し上げ力のベクトルを円滑に移行させることを可能にしている点で好ましい。
【0039】
ここで、このように急傾斜面31をアール状にする場合の一例として、単一のアール面により急傾斜面31と緩傾斜面32の両方を形成することも可能であり、こうした場合には、当該急傾斜面31の曲率中心と緩傾斜面32の曲率中心とが一致する(図21参照)。ただし、このように急傾斜面31と緩傾斜面32の両方を単一の曲率が変化しないアール面で形成しようとすると、接線角度の変化が一様となることから、またぎ動作に要するまたは適する上面部を得ようした場合に、リム部3のリム幅が全体的に大きくなる傾向があり(図14参照)、曲率半径の大きさによっては、立ち上がり動作時やまたぎ動作時、手が滑らないようにリム部3を対向位置で握ることが困難になる(図22参照)。
【0040】
この点、図7等に示す本実施形態では、緩傾斜面32を急傾斜面31のアール面とは異なる傾斜の小さい面で形成していることから、急激に接線角度を変化させることが可能である(図15参照)。したがって、リム幅をより小さくし、立ち上がり動作時やまたぎ動作時に手が滑らないようにリム部3を対向位置で握ることが容易とすることができる(図8参照)。
【0041】
なお、このような浴槽1のリム部3のさらなる変形例としては、緩傾斜面32をより平面にするため曲率を小さくし、尚かつ急傾斜面31と緩傾斜面32との間で接線角度をより急激に変えるものがある(図9参照)。緩傾斜面32を平坦面に近付ければ、このような緩傾斜面32に対して手を付けて体重を預けた場合における安定感を向上させることができる(図6参照)。
【0042】
また、図10に示す変形例のように、緩傾斜面32を、浴槽内側に向かって緩やかに下り傾斜させてもよい。この例について、比較例(図20参照)と対比しつつ説明すれば以下のとおりである。
【0043】
すなわち、一般には、急傾斜面31に置かれた使用者の手首に対して指掛け部4に引っ掛けられた指先がより高い位置にあれば、当該使用者の立ち上がり動作時の使用者の負担をより小さくすることが可能であり好ましい。一方で、緩傾斜面32を浴槽内側に向かって緩やかに上り傾斜させるかまたは水平状にすると、手の平の付け根に対して指掛け部4に引っ掛けられた指先が比較的に低い位置となるため、立ち上がり動作時に使用者の脇が開きやすくなる(図20参照)。そうすると、使用者の立ち上がり時の負担を小さくするという観点からは好ましくない。
【0044】
この点、本実施形態では、緩傾斜面32を浴槽内側に向かって緩やかに下り傾斜させていることから(図10等参照)、手の平の付け根に対して指掛け部4に引っ掛けられた指先が比較的に高い位置となりやすい(例えば図8参照)。これによれば、立ち上がり動作時に使用者の脇が開きにくくなるので、より使用者の負担を小さくすることができる点で好ましい。具体的には、水平面に対する緩傾斜面32の傾斜角(図16においてθ1で表示)が0に近いほど、緩傾斜面32の傾斜は緩やかということになる(図16参照)。
【0045】
また、図11、図12に示す変形例のように、急傾斜面31と緩傾斜面32との間に中間傾斜面33を形成してもよい。この場合、中間傾斜面33は、これら急傾斜面31および緩傾斜面32の中間となる傾斜角度(接線角度)を有している。例えば、緩傾斜面32と、浴槽内側に向かって下降する急傾斜面31とを特に面処理を施さずに連続させようとした場合は、その継ぎ目が鋭角的であったり、継ぎ目に段差が発生したりすることがあるが、本実施形態のように中間傾斜面33を設ければ、段差が緩和され、意匠性を向上させることができる(図11、図12参照)。この場合の中間傾斜面33は、急傾斜面31と緩傾斜面32との境界に丸み付けして表面を滑らかに処理する領域となる。
【0046】
なお、図12に示す例では、中間傾斜面33は曲率半径が比較的大(大R)、緩傾斜面32は曲率半径が比較的小(小R)、中間傾斜面33は曲率半径がその中間(中R)となっている。また、図11に示す例では、中間傾斜面33は曲率半径が比較的大(大R)、中間傾斜面33は曲率半径が中位(中R)であり、緩傾斜面32はほぼ平坦となっている。
【0047】
また、中間傾斜面33は、図11、図12に示す例のように、急傾斜面31および緩傾斜面32よりもリム幅が小さくなるように形成されていてもよい。中間傾斜面33が、段差の緩和や意匠性の向上に寄与することを主眼として急傾斜面31と緩傾斜面32との間に設けられている場合には、使用者の立ち上がり動作、またぎ動作のいずれに対してもサポートする意味合いは薄く、これらの動作に大きく関与することはない。したがって、この場合には当該中間傾斜面33のリム幅を小さくして構わない(図11、図12参照)。
【0048】
ここまで説明したように、本実施形態の浴槽1によれば、入浴姿勢にある使用者が立ち上がろうとする際、当該立ち上がり動作時の使用者の負担を小さくし、楽に立ち上がり動作することを実現することができる。また、この浴槽1によれば、上述のごとき緩傾斜面32が確保されていることから、風呂蓋(図示省略)が浴槽1に滑り落ちにくいという利点もある。しかも、これを実現するための構成はリム部3の形状などのように表面上の特徴として表わすことができるものであるため、既存の製品にも応用しやすい。さらに、本実施形態の浴槽1は、使用者の一般的かつ普遍的な動作を考慮しつつ、浴槽1とそのリム部3の構造に着目して成し得たいわば人間工学的なものであるから、何ら説明書などを付設せずとも、多くの使用者に負担の小さな立ち上がり動作を自然と体現させうる点でも特徴的である。
【0049】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、リム部3の外方側の下方位置に設けられた指掛け部4として、浴槽壁12に形成された凹部からなる指掛け部4を例示したが(図3等参照)、これは好適な一例にすぎず、このほか、リム部3の外方側縁と浴槽壁(浴槽エプロン)12との間の水平方向段差を利用して指掛け部4が形成されている浴槽1においても本発明を適用することが可能である(図13参照)。
【0050】
また、本発明は、入浴姿勢の使用者から見て両側に指掛け部4が形成されている浴槽1に適用して特に好適であるが、適用範囲がこれに限られるものではない。例えば、浴室ユニットの壁に寄せて配置される浴槽1であれば、ユニット壁側に指掛け部4を形成することは困難であるかまたは不要であり、洗い場11側にのみ指掛け部4が形成されていることが多い。このような浴槽1において、片側のリム部(洗い場11側のリム部)3にのみ本発明を適用した場合にも、立ち上がり動作時の使用者の負担を減らして楽に立ち上がり動作できるようにするという所期の作用効果を実現することは可能である。すなわち、ユニット壁側のリム部3に、洗い場11側と対称的な急傾斜面31や緩傾斜面32(さらには中間傾斜面33)を形成することで、立ち上がり動作時に脇が開くのを抑止することができる(図4等参照)。
【符号の説明】
【0051】
1:浴槽
2:内槽部
3:リム部
4:指掛け部
4a:上方位置
4b:下方位置
31:急傾斜面(第1の上面部)
32:緩傾斜面(第2の上面部)
33:中間傾斜面(第3の上面部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽水を溜めることが可能な内槽部と、前記内槽部の上端縁に設けられたリム部と、前記リム部の外方側の下方位置に設けられ、使用者の指先を引っ掛けることが可能な指掛け部と、を有する浴槽であって、
前記リム部における前記内槽部側の上面には、前記浴槽内に着座している使用者が前記リム部を掴んで立ち上がり動作するにあたって、使用者の脇が締まるようにして押し上げ力を加えることが可能なように、前記指掛け部の上方位置と下方位置とを繋ぐように前記内槽部側に向かって下り急傾斜した第1の上面部が形成されており、
前記リム部における前記指掛け部側の上面には、使用者が浴槽に対して出入りするために、当該リム部を掴んでまたぎ動作するにあたって、使用者が手を滑らすことなく体重を預けることが可能なように、前記第1の上面部よりも傾斜の小さい第2の上面部が形成されている
ことを特徴とする浴槽。
【請求項2】
前記第2の上面部は、前記第1の上面部よりもリム幅が小さく形成されていることを特徴とする請求項1記載の浴槽。
【請求項3】
前記第1の上面部は、前記指掛け部の上方位置から下方位置にかけてアール状に形成されて丸み付けされており、
前記第2の上面部は、前記第1の上面部とは異なる面であって、前記第1の上面部を延伸させた仮想アール面よりも傾斜の小さい面で形成されていることを特徴とする請求項2記載の浴槽。
【請求項4】
前記第2の上面部は、前記浴槽内側に向かって緩やかに下り傾斜していることを特徴とする請求項3記載の浴槽。
【請求項5】
前記第1の上面部と前記第2の上面部との間には、前記第1の上面部および前記第2の上面部の中間の傾斜角度を有する第3の上面部が形成されていることを特徴とする請求項3記載の浴槽。
【請求項6】
前記第3の上面部は、前記第1の上面部および前記第2の上面部よりもリム幅が小さく形成されていることを特徴とする請求項5記載の浴槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−27478(P2013−27478A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164532(P2011−164532)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】