説明

海上油分離装置

【課題】海上の任意の領域で迅速に且つ簡便に汚染海水から油を分離できる装置の提供。
【解決手段】海上の任意位置で上面開口の海面露呈状態で沈められる容器本体と、容器本体上端周辺に設置され、開口を海面上に位置付ける浮き部材と、容器本体と一体的に形成され、該容器内の上部領域を複数の油分離室に連続的に仕切ると共に容器底部で隣合う油分離室同士を連通させる仕切り壁と、一端に位置する油分離室の容器本体上端縁に形成された切欠き部からなり周囲の海水を容器本体内に取り込む1個以上の流入口と、他端に位置する油分離室の底部に吸込部を有し、該底部から吸込んだ海水を容器本体外へ排出するポンプ装置とを備え、容器本体及び仕切り壁はプラスチック製で折り畳み可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば船舶等から漏れ出した油で海水が汚染された領域において、その現場で油含有海水から油を分離して浄化された海水を海に戻す海上油分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、何らかのトラブルによって油で汚染された海水の浄化にための油分離装置が各種検討されている。一般的な海水の油汚染は、例えば工場で発生した廃液の漏出や、海上を航行している船舶の沈没や座礁によってその船舶から海上に流出する場合が挙げられ、また廃船の解体作業の際に残留していた油が漏出すことも考えられる。
【0003】
海水浄化に用いられる油分離装置は、油で汚染された海水を回収し、装置で油分を分離処理して海に戻している。またこのような油分離装置のなかで簡便な構成としては、海水と油との比重差を利用したものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−9204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の油分離装置は、油を含有した海水を回収し、陸上の装置設置箇所へ運ぶという煩雑な手間が必要であり、海水の浄化処理の迅速な対応は困難であった。
【0006】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、海上の任意の領域で迅速に且つ簡便に汚染された海水から油を分離できる装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、海上の任意の位置で上面開口が海面に露呈状態で沈められる容器本体と、該容器本体の上端周辺に設置され、前記開口を海面上に位置付ける浮き部と、前記容器本体と一体的に形成され、該容器の上部領域を複数の油分離室に連続的に仕切ると共に、容器底部で隣合う油分離室同士を互いに連通させる複数の仕切り壁と、前記連続する複数の油分離室のうちの一端に位置する油分離室の容器本体上端縁に形成された切欠き部からなり、周囲の海水を容器本体内に取り込む1個以上の流入口と、前記連続する複数の油分離室のうちの他端に位置する油分離室の底部に吸込部を有し、該底部から吸い込まれた海水を容器本体外へ排出するポンプ装置とを備え、前記容器本体及び仕切り壁は、プラスチック製で折り畳み可能であることを特徴とするものである。
【0008】
従って、本発明による油分離装置は、ボート等により折り畳んだ状態で容易に海上現場へ運搬でき、その対象領域で広げて直ちにポンプ装置を駆動して海水の油分離処理を進めることができるため、汚染海水を回収して陸上の装置まで運ぶという煩雑な手間が省け、迅速に海上に浮遊する汚染油の初期回収を簡便に行える。また、接岸した船舶の解体の際には、残留オイルの流出の可能性から予防的に周囲をオイルフェンスで覆って作業が行われるが、解体作業中にこの残留オイルが海上に漏出した場合、本装置を用意しておけば、速やかにオイルフェンス内の海上に本油分離装置を広げて海水処理を始めることができ、被害を広げることなく、最小の時間で対処できる。
【0009】
しかも、折り畳んだ状態の装置は一度に複数個の装置を運搬して全てを短時間で設置することができるため、比較的広い汚染海域でも効率的に油分離作業を行うことができる。また、必要なだけ油分離処理を行った後は、海から引き上げて折り畳んで簡単に撤収することもできる。
【0010】
本装置においては、容器本体を海に沈めながら広げれば、浮き部の浮力により容器本体の上面開口が海面上に露呈するように位置付けられ、最も一端側に位置する油分離室内にその上端縁の切欠きからなる流入口から周囲の油を含んだ海面付近の海水が取り込まれるが、海水と油との比重差により、油分離室内では、油は上方に浮き、底部の海水は油含有率が低くなる。
【0011】
従って、容器本体と一体的に形成された仕切り壁によって連続的に形成された複数の油分離室内を一端側から他端側へ順次仕切り壁の底部の連通部を介して海水を移動させる流れを形成すれば、各油分離室でそれぞれ油が上面に浮上して海水から分離され、他端側へ移動するに従って海水中に含まれる油分は低減し、遂には最も他端に位置する油分離室の底部には殆ど汚染油を含まない海水のみが存在することになる。よって、この他端の油分離室の底部からポンプ装置によって海水を吸い込めば、油分離済みの海水を回収して容器本体外の海へ戻すことができる。
【0012】
このポンプ装置による吸込、排出を続ければ、一端側の流入口での汚染海水の取り込みから油浮遊分離と底部海水の他端側油分離室への移動が順次続けられ、連続的な海水浄化と戻しが可能となる。
【0013】
よって、本発明の油分離装置によれば、海上の汚染油の拡散を緊急に防止することが望まれる際に、その現場で初期処理として迅速に対応することができる。この油分離処理の進行に伴ってある程度の油が容器本体の上層に溜まれば、その場で油吸着剤等でその油を直接回収することも、また高濃度油海水を回収運搬して別所でのさらなる高精度分離、処理を行えば良い。
【0014】
なお、容器本体および仕切り壁の素材は、例えば、ポリ塩化ビニル、ビニロン、などの海水が透過しない耐油性のプラスチックであれば、硬質のものでも軟質のものでもよい。また、軟質プラスチック製の場合など、素材によって容器本体が海水中に留まり難く浮上しやすい場合は、容器本体の底部付近に適度な重り備え付けて良好に海中に沈ませられるようにするのが望ましい。
【0015】
また、浮き部は、容器本体の上面開口を海面上に保持でき、容器本体の折り畳みに対応できるものであればよい。例えば、独立気泡型の発泡体や中空プラスチック等のブイやフロートを容器本体の上端周辺に取り付けるなど、従来からオイルフェンスの浮きに用いられているもの、またその設置方法が採用できる。
【0016】
なかでも、特にエア供給で膨らむと共にエア排出で減容できる軟質プラスチック製の袋状部材または管状部材で構成すれば、浮きは非使用時には減容状態として容器本体の折り畳みに追随しやすく、取り扱いが簡便である。このようなエア供給ポンプや海水吸い込みポンプ装置等の駆動部は、容器本体を運搬するボート等に搭載した状態で使用できる設定しておけば良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明による海上油分離装置においては、容器本体が折り畳み可能で、油で汚染された海上現場へ速やかに運搬でき、そこで容器本体を広げてポンプ装置を駆動させるだけで直ちに油分離処理および油分離後海水の海への戻し作業を連続的に行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態による海上油分離装置の概略構成図であり、(a)は使用状態における側断面図、(b)は使用状態における平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施の形態としての海上油分離装置の使用状態を図1に示す。本海上油分離装置1は、硬質あるは軟質プラスチック製で海中に沈められる容器本体2を備え、該容器本体2の上端周辺に取り付けられた複数個のブイからなる浮き部3によって上面開口が海面上に位置付けられ、常に開口が海面に露呈されるように維持されるものである。なお、容器本体2が軽量素材からなり、海水に浮きやすい場合には、適宜容器底部に重り4を取り付けて、容器本体2が良好に海中に沈むようにすれば良い。
【0020】
また、容器本体2の内部は、上部領域が容器本体2と一体的に形成された容器と同一素材からなる仕切り壁5によって、第1油分離室から第5油分離室(A、B、C、D、E)まで連続的に仕切られている。これら仕切り壁5は、容器底面まで達しておらず、その下方が隣合う油分離室同士が互いに連通する連通部7となっている。
【0021】
一端側の第1油分離室Aには、周囲の海水を容器内に取り込むための流入口6が形成されている。この流入口6は、容器本体上端縁に形成された切欠き部からなるものである。即ち、浮き部3によって海面上に位置付けられた開口上端から下方へ切り欠かれてなる流入口6の下部領域は、海面より低くなるため、容器本体2内の海水量が減少すれば、自ずと周囲の海水がこの流入口6から流れ込んでくる。
【0022】
また、他端側の第5油分離室Eは、ポンプ装置8の吸い込み配管の端部となる吸込部9が底部に配置されており、該ポンプ装置8のポンプP駆動によって第5油分離室Eの底部から海水が吸い込まれ、容器本体2の外に排出される。
【0023】
従って、このポンプ装置8の海水の吸い込み、排出を行い、第1油分離室Aの流入口6での海水の取り込みから、第1〜第5油分離室への移動という流れを形成することによって、この流れに従い、第1油分離室Aで油を含有した状態で取り込まれた海水は、各油分離室でそれぞれ油が上面に浮上して分離されていき、他端側へ移動するに従って海水中に含まれる油分は低減し、遂には最も他端に位置する第5油分離室の底部に来る海水は、殆ど汚染油を含まないものとなる。
【0024】
よって、この第5油分離室の底部から海水をポンプ装置8によって吸い込めば、油分離済みの海水が回収されて容器本体2外の海へ戻されることになる。以上のような容器本体2一端側の流入口6での汚染海水の取り込みから油浮遊分離と底部海水の他端側油分離室への移動、吸込・排出という工程を続けることにより、容器本体2周囲の汚染海水の連続的な海水浄化と戻しが効率的になされる。
【0025】
なお、以上の実施の形態では、5つの油分離室を備えた場合を説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、種々の大きさ、油分離室数、ポンプ出力のものを用意しておき、対象となる領域の汚染油量や求められる浄化度等に応じて適宜選択すれば良い。
【符号の説明】
【0026】
1:海上油分離装置
2:容器本体
3:浮き部
4:重り
5:仕切り壁
A:第1油分離室
B:第2油分離室
C:第3油分離室
D:第4油分離室
E:第5油分離室
6:流入口
7:連通部
8:ポンプ装置
9:吸込部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上の任意の位置で上面開口が海面に露呈状態で沈められる容器本体と、
該容器本体の上端周辺に設置され、前記開口を海面上に位置付ける浮き部と、
前記容器本体と一体的に形成され、該容器内の上部領域を複数の油分離室に連続的に仕切ると共に、容器底部で隣合う油分離室同士を互いに連通させる複数の仕切り壁と、
前記連続する複数の油分離室のうちの一端に位置する油分離室の容器本体上端縁に形成された切欠き部からなり、周囲の海水を容器本体内に取り込む1個以上の流入口と、
前記連続する複数の油分離室のうちの他端に位置する油分離室の底部に吸込部を有し、該底部から吸い込まれた海水を容器本体外へ排出するポンプ装置とを備え、
前記容器本体及び仕切り壁は、プラスチック製で折り畳み可能であることを特徴とする海上油分離装置。
【請求項2】
前記浮き部は、エア供給によって膨らむと共にエア排出によって減容可能な軟質プラスチック製の袋状あるいは管状の部材からなることを特徴とする請求項1に記載の海上油分離装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−229530(P2012−229530A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97050(P2011−97050)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(508127915)株式会社とわに (11)
【Fターム(参考)】