説明

海藻類の種苗生産方法

【課題】増養殖の種苗となる海藻の発芽体を簡便、かつ、大量に得ることを可能にする海藻類の種苗生産方法を提供する。
【解決手段】海藻類の生殖細胞11を浮遊させた状態で成熟・発芽させることを特徴とする海藻類の種苗生産方法。海藻類の生殖細胞11を相互に付着させて浮遊させた状態で成熟・発芽させることを特徴とする海藻類の種苗生産方法。海藻類の生殖細胞11を粒子に付着させた状態で成熟・発芽させることを特徴とする海藻類の種苗生産方法。浮遊発芽体13を基質に付着させることを特徴とする海藻類の種苗生産方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワカメ、サガラメ、カジメ等の海藻類の種苗生産方法に関するものであり、特に、磯焼け対策用を含めた増殖種苗、並びに海面及び陸上の養殖用種苗の生産方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
海藻類の種苗生産方法としては、生殖細胞をロープ等の基質に着生させた後、成熟・発芽させるようにしたものが既に知られている。
【0003】
特開2004−187574号公報は、図5に示すように、生殖細胞1を基質3に播種した状態で発芽させた後、発芽体5を該基質3から剥離するようにした方法を開示している。符号1aに示すものは、成熟した生殖細胞である。
【0004】
特開平10−98963号公報は、図6に示すように、生殖細胞1を基質3に付着させた状態で発芽させる方法を開示している。
【0005】
特開2002−176866号公報は、図7に示すように、生殖細胞1を基質3に高密度に播種した状態で発芽させた後、発芽体5を該基質3から剥離し、又は、生殖細胞1を基質3に高密度に播種した後、該生殖細胞1を該基質3から剥離して発芽させるようにした方法を開示している。
【特許文献1】特開2004−187574号公報
【特許文献2】特開平10−98963号公報
【特許文献3】特開2002−176866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の種苗生産方法においては、生殖細胞を基質に着生又は播種するようしているため、付着可能な放流用種苗を大量に生産することは不可能である。
【0007】
即ち、上記従来の種苗生産方法においては、生殖細胞を基質に付着させるようにしているため、放流用種苗を大量に生産するためには基質を構成する多数の容器が必要であり、このような容器における付着面積により培養する量が制限を受けることになる。また、上記従来の種苗生産方法においては、生殖細胞を基質に付着させた後、発芽体を該基質から剥離し、又は、生殖細胞を該基質から剥離するようにしているのであるが、発芽体又は生殖細胞を基質から剥ぎ取るには多大な時間と労力とを要するのである。更に、発芽体又は生殖細胞を基質から剥ぎ取る際に、該発芽体又は生殖細胞が切断される等の悪影響を及ぼすことがある。
【0008】
本発明は、上記従来の種苗生産方法におけるこのような問題を解決し、増養殖の種苗となる海藻の発芽体を簡便、かつ、大量に得ることを可能にする海藻類の種苗生産方法を提供しようとしてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、下記の海藻類の種苗生産方法を提供するものである。
【0010】
(1)海藻類の生殖細胞を浮遊させた状態で成熟・発芽させることを特徴とする海藻類の種苗生産方法(請求項1)。
【0011】
(2)海藻類の生殖細胞を相互に付着させて浮遊させた状態で成熟・発芽させることを特徴とする海藻類の種苗生産方法(請求項2)。
【0012】
(3)海藻類の生殖細胞を粒子に付着させた状態で成熟・発芽させることを特徴とする海藻類の種苗生産方法(請求項3)。
【0013】
(4)浮遊発芽体を基質に付着させることを特徴とする海藻類の種苗生産方法(請求項4)。
【0014】
本発明における「生殖細胞」は、遊走子、配偶体、配偶子、接合子、四分胞子、果胞子、単子嚢遊走子、中性遊走子等を含むものとする。
【発明の効果】
【0015】
[請求項1の発明]
請求項1の発明によれば、浮遊状態にあり、かつ、付着可能な放流用種苗を大量に生産することが可能である。即ち、海藻類の生殖細胞を、基質に付着させることなく、浮遊させた状態で、成熟・発芽させるようしているため、基質を構成する容器が不要であり、このような容器における付着面積により培養する量が制限を受けることもない。また、発芽体を基質から剥ぎ取るには作業も不要である。
【0016】
更に、請求項1の発明によれば、着生効率と生長効率が良い種苗を得ることができる。
【0017】
着生効率が良い種苗が得られるのは、発芽体では生殖細胞よりも発生段階が進んでいるためであると推測される。
【0018】
生長効率がよい種苗が得られるのは、発芽段階で最も成熟・生長に適した条件を得ることが容易であり、このことがその後の生長に好影響を与えるためであると推測される。
【0019】
[請求項2の発明]
請求項2の発明は、上記請求項1の発明と同様の効果を奏すると共に、更に、下記の如き効果を発揮する。
【0020】
請求項2の発明においては、海藻類の生殖細胞を相互に付着させるようにしたため、同じ中心から発芽させることにより、浮遊状態にあり、かつ、まとまった一塊の藻体群を得ることができる。従って、陸上養殖での選別や収穫が容易になる。
【0021】
[請求項3の発明]
請求項3の発明は、更に、下記の如き効果を発揮する。
【0022】
生殖細胞は海水中での沈降速度が遅いが、請求項3の発明においては、海藻類の生殖細胞を粒子に付着させるようにしたため、該粒子が錘の役割を果たす結果、生殖細胞を海中で速やかに海底まで沈降させることが可能となる。即ち、生殖細胞を海中の岩等に容易に付着させることができる。
【0023】
[請求項4の発明]
請求項4の発明は、更に、下記の如き効果を発揮する。
【0024】
請求項4の発明においては、海藻類の生殖細胞を浮遊させた状態又は海藻類の生殖細胞を相互に付着させて浮遊させた状態で成熟・発芽させて得られた浮遊発芽体を基質に付着させ、該発芽体を基質に付着させたまま海中に移植する。即ち、最も成熟・生長に適した条件下で発芽させ、得られた発芽体を基質に付着させたまま海中に移植することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明による海藻類の種苗生産方法について、図1〜図4を参照して説明する。
【0026】
図1に示す事例においては、海藻類の生殖細胞11を浮遊させた状態で成熟・発芽させるようにしている。符号11aに示すものは、成熟した生殖細胞である。符号13に示すものは、発芽体である。
【0027】
海藻類の生殖細胞11は、水流により、基質への付着が阻止される。
【0028】
上記水流は、例えば、スターラー(攪拌器)、エアレーション、シェイカー等により発生される。
【0029】
上記水流は、例えば、500ml三角フラスコに500mlの培地(海水)を入れ、長さ4cmのスターラーバー(回転子)を300回転/分以上で回転させたときに得られる水流、又は、エアレーションにより攪拌して得られる程度の水流が望ましい。
【0030】
図2に示す事例においては、海藻類の生殖細胞11を相互に付着させて浮遊させた状態で成熟・発芽させるようにしている。
【0031】
この事例においては、同じ中心から発芽させることにより、浮遊状態にあり、かつ、まとまった一塊の発芽体(藻体群)13が得られる。
【0032】
この事例において得られる発芽体13は、一例として、陸上養殖用の種苗となる。
【0033】
図3に示す事例においては、海藻類の生殖細胞11を粒子15に付着させた状態で成熟・発芽させるようにしている。なお、図3においては、複数個の生殖細胞11を複数個の粒子15に付着させているが、複数個の生殖細胞11を1個の粒子15に付着させ、或いは各生殖細胞11をそれぞれ1個の粒子15に付着させても差し支えない。
【0034】
粒子15としては、例えば、砂、カオリン、海中の懸濁物質等の直径1mm以下のものが好ましく用いられる。
【0035】
例えば、ワカメ配偶体を砂に付着させ、培養することにより、砂に付着した発芽体を得ることができる。なお、この発芽体の単独での沈降速度は1mm/秒以下であるが、砂に付着した発芽体の沈降速度は、発芽体単独の沈降速度よりも明らかに速い。
【0036】
図4に示す事例においては、上述の如く海藻類の生殖細胞11を浮遊させた状態又は海藻類の生殖細胞11を相互に付着させて浮遊させた状態で成熟・発芽させて得られた発芽体(浮遊発芽体)13を基質17に付着させ、該発芽体13を基質17に付着させたまま海中に移植するようにしている。
【0037】
基質17としては、例えば、ロープ、コンクリートブロック等が好ましく用いられる。
【0038】
なお、本発明において得られる発芽体13の使用態様は、上述の如く(イ)発芽体13を基質17に付着させ、該発芽体13を基質17に付着させたまま海中に移植することの他、(ロ)浮遊状態で発芽させた発芽体13を海中(天然海域)で岩等に付着させること、及び(ハ)浮遊状態で発芽させた発芽体13を浮遊させたまま養殖することが考えられる。
【実施例1】
【0039】
ワカメから遊走子(生殖細胞)を放出させ、鉄無添加Provasoli栄養添加培地中(西沢一俊ら編「藻類研究法」(共立出版))で生長させることにより、マリモ状の配偶体(生殖細胞)を得た。この配偶体をミキサーで10細胞以下の配偶体に細断し、雌雄配偶体を2L三角フラスコ中で光量60μEm・2・1、光周期12時間明期:12時間暗期、水温18℃、Provasoli栄養添加培地中でエアレーションにより攪拌しながら12日間培養することにより、浮遊発芽体を約50万個得た。これらの発芽体のうち、一部のものは、発芽体同士で付着した。
【0040】
このようにして得られた浮遊発芽体を養殖用種苗糸とコンクリートとに播種し、500Lの海水を満たした室内に設置した水槽において、流水・通気条件で50日間培養した。
【0041】
その結果、浮遊胞子体調整後50日目の着生数及び葉長は種苗糸1本あたり約17個体、葉長約3.5mmを示した。従来の方法による浮遊配偶体では、調整後50日目の種苗糸1本あたり約12個体、葉長約1.5mmであった。即ち、この実施例においては、従来の方法よりも優れた種苗が得られた。
【実施例2】
【0042】
サガラメから遊走子を放出させ、鉄無添加Provasoli栄養添加培地中で生長させることにより、マリモ状の配偶体を得た。この配偶体をミキサーで1mm以下の配偶体に細断し、2L三角フラスコ中で光量60μEm・2・1、光周期12時間明期:12時間暗期、水温18℃、Provasoli栄養添加培地中でエアレーションにより攪拌しながら13日間培養することにより、発芽体が基部で数十個連なった浮遊発芽塊を約60個得た。更に、これを同条件で4週間培養し、それぞれの発芽体が1〜2cmになった養殖用種苗を得た。この種苗を屋内に設置した500Lの駿河湾深層水を満たした水槽において流水・通気条件下で3ヶ月培養することにより、約15cmに生長した発芽体を得た。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明による海藻類の種苗生産方法の一例を概略的に示す説明図である。
【図2】同上種苗生産方法の別の一例を概略的に示す説明図である。
【図3】同上種苗生産方法の更に別の一例を概略的に示す説明図である。
【図4】同上種苗生産方法の更に別の一例を概略的に示す説明図である。
【図5】従来の種苗生産方法の一例を概略的に示す説明図である。
【図6】従来の種苗生産方法の別の一例を概略的に示す説明図である。
【図7】従来の種苗生産方法の更に別の一例を概略的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1 生殖細胞
1a 成熟した生殖細胞
3 基質
5 発芽体
11 生殖細胞
11a 成熟した生殖細胞
13 発芽体
15 粒子
17 基質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻類の生殖細胞を浮遊させた状態で成熟・発芽させることを特徴とする海藻類の種苗生産方法。
【請求項2】
海藻類の生殖細胞を相互に付着させて浮遊させた状態で成熟・発芽させることを特徴とする海藻類の種苗生産方法。
【請求項3】
海藻類の生殖細胞を粒子に付着させた状態で成熟・発芽させることを特徴とする海藻類の種苗生産方法。
【請求項4】
浮遊発芽体を基質に付着させることを特徴とする海藻類の種苗生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−262823(P2006−262823A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−88172(P2005−88172)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【Fターム(参考)】