説明

浸水検知線およびこれを備えたケーブル

【目的】 水の浸入を高精度で検知することを可能とする浸水検知線、およびこれを用いて、劣化の要因となる浸水があった場合にこれを精度よく検知し得るようにしたケーブルを提供する。
【構成】 多数の透孔1aが穿設された第1の金属からなるパイプ1内に第2の金属からなる線材2をルースに収容するとともに、光ファイバ心線3を第2の金属からなる線材2の外周にらせん状に巻回して第1の金属からなるパイプ1内に収容して浸水検知線4を構成する。また、中心にテンションメンバーを有し、外周にらせん状に複数本の凹溝が形成されたスロットロッドの凹溝の所要数に複数の光フアィバテープを積層して収納するとともに、残りの凹溝に、上記構成の浸水検知線4を配置し、これらの外周に押え巻テープ巻回層、プラスチックシースを順に設けて光ファイバケーブルを構成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光ファイバによる信頼性の高い浸水検知を可能とした浸水検知線、およびこれを備えて劣化の要因となる万一の浸水を高精度に検知し得るようにしたケーブルに関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、通信ケーブルや電力ケーブルにおいては、万一内部に水が浸入すると、その浸入した水が軸方向に走水してケ―ブルの電気特性や伝送特性を低下させることが知られている。このため、このような万一の浸水を確実に検知できる技術の開発が求められている。
【0003】この種の技術としては、たとえば、光ファイバと、浸水した水を吸収して膨張する吸収膨張部材を組み合わせた浸水検知センサーが知られている。これは、浸水があると吸収膨張部材が膨張して応力が発生し、光ファイバが変形するために、伝送損失が増大するという原理を利用したものである。
【0004】しかしながら、このような浸水検知センサーは、場合によって、浸水による応力か、他の原因による応力かの区別が難しいという問題があった。また、浸水した水によって 2本の導体間の絶縁抵抗が変わることを利用した浸水位置検出方法も知られているが、この方法は、高電界下では使用できず、また、長尺になると精度が低下するなどの問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】このように、通信ケーブルや電力ケーブルにおいて、万一の浸水を高精度で検知できる技術の開発が求められているが、従来より知られる浸水検知技術は、精度や信頼性の点で未だ不十分であった。
【0006】本発明はこのような従来技術の課題に対処してなされたもので、水の浸入を長距離にわたって高精度で検知することを可能とする浸水検知線、およびこれを用いて、劣化の要因となる浸水があった場合にこれを高精度で検知し得るようにしたケーブルを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、多数の透孔を有する第1の金属からなるパイプ内に、この第1の金属とイオン化傾向の異なる第2の金属体を収容するとともに、これらのパイプおよび金属体に光ファイバを添設してなる浸水検知線、およびこれを内部に備えたことを特徴とするケーブルである。
【0008】また、本願の他の発明は、その少なくとも一方に透水性被覆が施されたイオン化傾向の異なる第1および第2の金属体と、光ファイバとを一体に集束してなることを特徴とする浸水検知線、およびこれを内部に備えたことを特徴とするケーブルである。
【0009】
【作用】本発明の浸水検知線においては、浸入した水が付着すると、イオン化傾向の異なる 2種類の金属間で局部電池を形成して水素を発生し、この水素が光ファイバに局部的に拡散する。この局部的な水素の拡散は、OTDR(光学時間領域反射測定法)測定装置により、光ファイバの片端から光パルスを送ったときに、発生するレイリー散乱光における波長1.24μmの吸収として現れる。したがって、OTDR測定装置によりレイリー散乱光を検出し、このような局部的な水素の拡散に起因する特有の吸収を観測することにより、水の付着、すなわち浸水の発生およびその位置を精度よく検知することができる。
【0010】また、本発明のケーブルにおいては、上記のような水の検知精度に優れた浸水検知線を内部に備えているので、万一浸水が生じた場合に、浸水の発生およびその位置を高精度で検知することができる。
【0011】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。図1(a)は本発明の一実施例の浸水検知線を示す縦断面図、図1(b)はその横断面図である。図1において、1は、多数の透孔1aが穿設された第1の金属からなるパイプ、2は、その第1の金属からなるパイプ1内にルースに収容された第2の金属からなる線材、3は、第2の金属からなる線材2の外周にらせん状に巻回されて第1の金属からなるパイプ1内に収容された光ファイバ心線である。
【0012】上記パイプ1および線材2を構成する第1および第2の金属は、イオン化傾向の異なる金属の組み合わせからなる。具体的には、Cu−Al、Cu−Zn、Cu−Fe、Cu−Ni、Pb−Zn、Pb−Alなどが例示されるが、特にこれらに限定されるものではなく、イオン化傾向列の中から 2種の金属を適宜選択すればよい。
【0013】一方、光ファイバ心線3は、たとえばコア径50μm、クラッド径 125μmの石英ファイバなどの光ファイバ上に、ウレタンアクリレート系などの紫外線硬化型樹脂(UV樹脂)、あるいはシリコーン樹脂を被覆して構成される。
【0014】このように構成される浸水検知線4においては、これを、たとえば光ファイバケーブルのようなケーブルのシース内側に長さ方向に沿って配置しておくと、万一、シースが損傷して浸水事故が生じた場合、その浸水した水が浸水検知線4の第1の金属からなるパイプ1の透孔1aから内部に浸入し、この水を介して接する第1の金属からなるパイプ1と第2の金属からなる線材2間で局部電池が形成されて水素を発生する。この水素の発生は、OTDR測定装置により、光ファイバ心線3の片端から光パルスを送り、その戻ってくるレイリー散乱光を検出すると波長1.24μmにおける吸収として現れる。したがって、図示は省略するが、光ファイバ心線3の一端にOTDR装置を接続して、光ファイバ心線3に波長1.24μmの単一波長(中心波長1.24±0.005 μm、半値幅10nm程度)の光パルスを送り、発生するレーリー散乱光の損失変化を常時もしくは適時観測できるようにしておけば、水素の発生およびその位置、すなわち浸水の発生およびその位置を検知することができる。ここで使用されるOTDR装置は、光ファイバの片端から光パルスを入射したときに発生する戻り光(レーリー散乱光)を検出することよって全長数kmの光ファイバ全域の損失特性分布を一度に測定することができるものであり、したがって、このようなOTDR装置を用いることにより、水素の発生に起因する波長1.24μmにおける吸収を適確にとらえ、全長数kmにわたって精度の高い浸水検知を行うことができる。なお、波長1.24μmの単一波長の光パルスによる損失変化にかえて、波長1.24μmと、たとえば波長1.3 μmの光パルスによる損失変化の比を測定するようにすれば、温度や外力による光ファイバ自体に起因する損失変化への影響を除くことができるので、より精度の高い浸水検知を行うことが可能になる。
【0015】図2は、このような浸水検知線4を予め内部に備えた光ファイバケーブルの例を示したものである。図2において、5は、たとえば中心に鋼線やFRP(ガラス繊維強化樹脂)などからなるテンションメンバー6を有し、外周面にらせん状に複数本の凹溝7が形成されたスロットロッド、8は、スロットロッド5の凹溝7の所要数に収納された複数の光フアィバテープ8(この光フアィバテープ8は、光ファイバ素線8a複数本を並列配置し、これらの外側に共通の保護被覆8bを設けて構成され、その複数枚が積層されて凹溝7に収納されている。)、さらに、9および10は、それぞれ押え巻テープ巻回層、およびプラスチックシースなどのシースを示している。
【0016】そして、この例では、上記浸水検知線4は、スロットロッド5の残りの凹溝7、すなわち光フアィバテープ8が収納されていない凹溝7の 1本に配置されており、何らかの原因で万一シース10内部に浸水が生じた場合、前述したように、浸水検知線4で水素が局部的に発生し、光ファイバ心線4に拡散されるため、この水素の発生で生じるレイリー散乱光における波長1.24μmの吸収を、前述したような方法で、OTDR装置により常時もしくは適時観測することにより、浸水の発生およびその位置を高精度で検知することができる。
【0017】なお、本発明は、以上説明した実施例に限定されるものではなく、次のように構成してもよい。すなわち、図3および図4は、それぞれ本発明の浸水検知線の他の実施例を示したもので、図3に示す実施例では、図1に示した浸水検知線において、第1の金属からなるパイプ1内間隙に、ポリアクリル酸やポリメタアクリル酸のような高分子電解質11を充填した構造となっている。また、図4に示す実施例では、イオン化傾向の異なる第1の金属線12と、第2の金属線13の外周にそれぞれ透水性の被覆14を施し、これらを光ファイバ心線3と、撚り合わせるなどして一体に集束した構造となっている。透水性の被覆14は、たとえば高分子電解質により、あるいは多数の透孔を設けたポリエチレンや塩化ビニル樹脂などの非透水性プラスチックにより構成することができる。また、連続気泡を有する発泡プラスチックにより構成してもよい。なお、このような透水性の被覆14は、必ずしも両金属線12、13に施す必要はなく、一方にのみ施す用にしてもよい。
【0018】これらの実施例においても、図1に示した浸水検知線4の場合と同様、たとえば光ファイバケーブルのようなケーブルのシース内側に長さ方向に沿って配置しておくことにより、シースが損傷して浸水事故が生じた場合、その浸水した水によって、第1の金属からなるパイプ1と第2の金属からなる線材2間、あるいは第1の金属線12と、第2の金属線13との間で局部電池が形成されて水素を発生ずるため、OTDR測定装置により、水素の発生およびその位置、すなわち浸水の発生およびその位置を長距離にわたって高精度で検知することができる。
【0019】また、このような浸水検知線は、図2に示したような、スロットタイプの光ファイバケーブルだけでなく、ユニットタイプや、撚合わせタイプなどの各種光ファイバケーブル、さらには、メタル線心を用いた一般的な通信ケーブル、光ファイバとメタル線心を複合化した光ファイバ複合通信ケーブル、光ファイバに電力線を複合化した光ファイバ電力線複合ケーブル、各種電力ケーブルにも適用でき、それらの内部に適宜配置して、これらの劣化の要因となる浸水の発生およびその位置を精度よく検知することができる。
【0020】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の浸水検知線によれば、水が付着するとイオン化傾向の異なる 2種類の金属間で局部電池が形成されて水素を発生し、この水素が、OTDR測定装置により光ファイバの片端から光パルスを送ったときに発生するレイリー散乱光における波長1.24μmの吸収として現れるため、この吸収の有無をOTDR測定装置により観測することにより、長距離にわたって精度の高い浸水の検知が可能である。また、したがって、これを備えた本発明のケーブルにおいては、万一、外側の被覆を通って内部に水が浸入した場合に、浸水の発生およびその位置の特定を高精度で行うことができ、浸水に対する対策を適確に講ずることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の浸水検知線を示し、(a)はその縦断面図、(b)は横断面図。
【図2】図1に示す実施例の浸水検知線を備えた光ファイバケーブルの構造例を示す横断面図。
【図3】本発明の浸水検知線の他の実施例を示す横断面図。
【図4】本発明の浸水検知線の他の実施例を示す横断面図。
【符号の説明】
1………第1の金属からなるパイプ
1a………透孔
2………第2の金属からなる線材
3………光ファイバ心線
4………浸水検知線
12………第1の金属線
13………第2の金属線
14………透水性被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】 多数の透孔を有する第1の金属からなるパイプ内に、この第1の金属とイオン化傾向の異なる第2の金属体を収容するとともに、これらのパイプおよび金属体に光ファイバを添設してなることを特徴とする浸水検知線。
【請求項2】 請求項1記載の浸水検知線を内部に備えたことを特徴とするケーブル。
【請求項3】 その少なくとも一方に透水性被覆が施されたイオン化傾向の異なる第1および第2の金属体と、光ファイバとを一体に集束してなることを特徴とする浸水検知線。
【請求項4】 請求項3記載の浸水検知線を内部に備えたことを特徴とするケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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