消しゴム
【課題】紙面上の筆跡を軽く擦ることによって、即ち、軽いタッチにてよく消字することができるポリウレタンを基材とする消しゴムを提供する。
【解決手段】本発明によれば、ひまし油と硬化ひまし油から選ばれる少なくとも１種のポリオールと有機ジイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンを基材とし、これに可塑剤と研磨剤と充填剤を含有させてなる消しゴムが提供される。有機ジイソシアネートには、芳香族ジイソシアネートが好ましく用いられる。
【解決手段】本発明によれば、ひまし油と硬化ひまし油から選ばれる少なくとも１種のポリオールと有機ジイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンを基材とし、これに可塑剤と研磨剤と充填剤を含有させてなる消しゴムが提供される。有機ジイソシアネートには、芳香族ジイソシアネートが好ましく用いられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、代表的には紙面上に鉛筆で形成した筆跡を擦って消去するための消しゴムに関する。
【背景技術】
【０００２】
古くは、消しゴムは、軟質ゴムを主成分として構成されていた。このような消しゴムは消字性能にすぐれる反面、消しゴムの表面に黒鉛のような汚れが付着しやすく、それによって紙面も汚れやすい等の問題があった。
【０００３】
そこで、近年、基材樹脂として軟質塩化ビニル樹脂に可塑剤や充填剤のほか、無機球状中空微粒子を含有させてなる消しゴムが広く実用化されている（例えば、特許文献１参照）。しかし、最近になって、塩化ビニル樹脂が塩素原子を含むところから、例えば、消しゴムや消し屑の焼却に際して有害なダイオキシンの生成が懸念されており、また、フタル酸系可塑剤に由来する環境汚染も懸念されている。そこで、消しゴムに水酸化アルミニウムを充填剤として配合して、焼却の際のダイオキシンの生成を抑えることや（特許文献２参照）、また、基材として、塩素を含まないスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体を用いた消しゴムが提案されているが（特許文献３参照）、塩化ビニル樹脂を基剤とする消しゴムに比べて、消字性能に劣る。
【０００４】
このように、塩化ビニル樹脂を基剤とする消しゴムについて、従来、種々の改良が提案されてきているが、基材として、塩化ビニル樹脂を用いる限りは、環境汚染の問題を完全に払拭することはできないようにみえる。
【０００５】
そこで、最近、従来の塩化ビニル樹脂に代えて、ポリウレタンを基材とする消しゴムが提案されている（特許文献４参照）。しかし、この消しゴムにおいては、ポリウレタンの形成のためにゴム系ポリオールを用いるので、消字する際のタッチ、即ち、滑りが悪く、従って、消字性能にも尚、改善の余地がある。
【特許文献１】特開平１０−１９３８８０号公報
【特許文献２】特開２００４−１８８８５０号公報
【特許文献３】特開平０５−１４７３９２号公報
【特許文献４】特開２０００−０２５３９１号公報）
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
本発明者らは、上述した従来のポリウレタンを基材とする消しゴムにおける問題を解決するために鋭意、研究した結果、ひまし油と硬化ひまし油から選ばれる少なくとも１種のポリオールと有機ジイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンを基材とし、これに可塑剤と研磨剤と充填剤を含有させることによって、消字する際のタッチ、即ち、滑りを改善すると共に、消字性能をも一層高めることに成功して、本発明に至ったものである。従って、本発明は、消字する際の滑りと共に消字性能に一層すぐれるポリウレタンを基材とする消しゴムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【０００７】
本発明によれば、ひまし油と硬化ひまし油から選ばれる少なくとも１種のポリオールと有機ジイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンを基材とし、これに可塑剤と研磨剤と充填剤を含有させてなる消しゴムが提供される。
【発明の効果】
【０００８】
本発明によれば、ひまし油と硬化ひまし油から選ばれる少なくとも１種のポリオールと有機ジイソシアネートを反応させて得られる架橋密度の高いポリウレタンを基材とし、これに可塑剤と研磨剤と充填剤を組み合わせて含有させることによって、紙面上の筆跡を軽く擦ることによって、即ち、滑りよく、軽いタッチにて、よく消字することができる消しゴムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【０００９】
本発明による消しゴムは、ひまし油と硬化ひまし油から選ばれる少なくとも１種のポリオールと有機ジイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンを基材とし、これに可塑剤と研磨剤と充填剤を含有させてなるものである。
【００１０】
本発明によれば、基材であるポリウレタンを得るためのポリオールとして、ひまし油と硬化ひまし油から選ばれる少なくとも１種が用いられる。よく知られているように、ひまし油の主成分はリシノール酸トリグリセリドであり、リシノール酸は分子中にヒドロキシ基と二重結合を有する不飽和オキシ酸である。即ち、ひまし油は３官能ポリオールが主成分である。ひまし油の水酸基価は、通常、１５６〜１６５ｍｇＫＯＨ／ｇの範囲である。
【００１１】
また、硬化ひまし油は、ひまし油を触媒の存在下に水添して得られる融点が約８５℃のワックス状のものであり、ひまし油に対応して、その主成分は１２−ヒドロキシステアリン酸トリグリセリドである。その水酸基価は、通常、１５５〜１６５ｍｇＫＯＨ／ｇの範囲である。
【００１２】
本発明によれば、このようなポリオールを後述する有機ジイソシアネートと反応させてなる架橋密度の高いポリウレタンを基材とし、これに可塑剤と研磨剤と充填剤を組み合わせて含有させることによって、紙面上の筆跡を軽く擦ることによって、即ち、滑りよく、軽いタッチにて、よく消字することができる消しゴムを得ることができる。
【００１３】
本発明において、ポリオールは、消しゴムの重量に基づいて、通常、２０〜５０重量％の範囲で用いられる。ポリオールの使用量が上記範囲をはずれるときは、後述する有機ジイソシアネートをポリオールに対して適正な割合で用いても、消しゴムにおける基材ポリウレタンの割合が過小又は過大となって、適度の弾力性と消字性能を有する消しゴムを得ることができない。
【００１４】
本発明において、有機ジイソシアネートとしては、芳香族、脂肪族、芳香脂肪族及び脂環族ジイソシアネートのいずれも用いられる。従って、有機ジイソシアネートの具体例として、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等を挙げることができる。しかし、本発明においては、なかでも、トリレンジイソシアネート又はジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族ジイソシアネートが好ましく用いられる。これらは、単独で用いられてもよく、また、２種以上が併用されてもよい。本発明においては、上述した有機ジイソシアネートは、上述したポリオールと反応させて、プレポリマーとして用いてもよい。
【００１５】
本発明においては、このような有機ジイソシアネートは、消しゴムの重量に基づいて、通常、５〜１０重量％の範囲で用いられる。即ち、本発明による消しゴムは、消しゴムの重量に基づいてポリオール２０〜５０重量％と有機ジイソシアネート５〜１０重量％とから得られるポリウレタン２５〜６０重量％を基材として含む。有機ジイソシアネートの使用量が上記範囲を外れるときは、用いる有機ジイソシアネート量に対して、適正な割合でポリオールを用いても、消しゴムにおける基材の割合が相対的に過小又は過大となって、適度の弾力性と消字性能を有する消しゴムを得ることができない。
【００１６】
本発明によれば、有機ジイソシアネートは、ポリオール１００重量部に対して、トリレンジイソシアネート換算にて、１０〜３５重量部の範囲で用いられる。ポリオール１００重量部に対して、有機ジイソシアネートの使用量がトリレンジイソシアネート換算にて１０重量部よりも少ないときは、消しゴムの成形に際して、有機ジイソシアネートの使用量がポリオールに対して相対的に少なすぎるために、固体としての成形物を得ることが困難である。しかし、ポリオール１００重量部に対して、有機ジイソシアネートの使用量がトリレンジイソシアネート換算にて３５重量部よりも多いときは、消しゴムの成形に際して、固体の成形物が得られても、成形物中に未反応の有機ジイソシアネートが残存し、成形物の表面がべたつくので、消しゴムに適する成形物を得ることが困難である。
【００１７】
有機ジイソシアネートとして、ジフェニルメタンジイソシアネートを用いる場合は、ジフェニルメタンジイソシアネートの分子量がトリレンジイソシアネートの１．４３７倍であるから、ポリオール１００重量部に対して、好ましくは、１５〜５０重量部の範囲で用いられる。
【００１８】
可塑剤は、得られる消しゴムに適度の弾性与えて、消字の際のタッチをよくして、使い勝手をよくすると共に、紙面上の筆跡を擦るときに、黒鉛からなる筆跡を吸着して、消字性能を高める役割を担っている。本発明によれば、このような可塑剤として、脂肪族二塩基酸ジアルキルエステルやリン酸エステルが好ましく用いられる。
【００１９】
脂肪族二塩基酸ジアルキルエステルとしては、例えば、アジピン酸ジ−２−エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ−２−エチルヘキシル、アゼライン酸ジ−２−エチルヘキシル等を挙げることができる。また、リン酸エステルとしては、リン酸トリブチル、リン酸トリ−２−エチルヘキシル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル等を挙げることができる。上記のほかにも、例えば、塩素化パラフィン、アセチルクエン酸トリブチル等も可塑剤として用いられる。これらの可塑剤は、単独で用いてもよく、また、２種以上を組み合わせて用いてもよい。
【００２０】
このような可塑剤は、消しゴムに基づいて、通常、１０〜３０重量％の範囲で用いられる。消しゴムにおける可塑剤の割合が１０重量％よりも少ないときは、得られる消しゴムが硬く、消字する際のタッチが悪く、また、消字性能も低い。しかし、消しゴムにおける可塑剤の割合が３０重量％よりも多いときは、得られる消しゴムが柔らかすぎて、使い勝手が悪い。
【００２１】
研磨剤は、紙面上の筆跡を擦って消字する際に、紙面及び筆跡を削って、消字を助けると共に、消しゴムの表面を摩耗脱落させて、消し屑を生じさせる作用を促進し、かくして、紙面上への黒鉛等の汚れの付着を防止する役割を担っている。
【００２２】
このような研磨剤としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、無水珪酸、ガラスフレーク、珪石等が用いられる。
【００２３】
本発明において、研磨剤は、消しゴムに基づいて、通常、１０〜４０重量％の範囲で用いられる。消しゴムにおける研磨剤の割合が１０重量％よりも少ないときは、得られる消しゴムが十分な消字性能をもたない。反面、消しゴムにおける研磨剤の割合が４０重量％よりも多いときは、消字に際して、紙面を必要以上に傷付けるのみならず、消字性能を低くする。また、消し屑がまとまりにくい。
【００２４】
本発明において、充填剤としては、球状中空微粒子が好ましく用いられる。球状中空微粒子には無機球状中空微粒子と有機球状中空微粒子が知られており、これらは単独で、又は組み合わせて用いられる。
【００２５】
有機球状中空微粒子の具体例としては、例えば、フェノールバルーンや塩化ビニリデンバルーン等を挙げることができる。これらの有機球状中空微粒子は、例えば、ポリ塩化ビニリデン─アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−アクリルエステル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン−アクリル共重合体等の樹脂からなる外壁を有する平均粒径５０μｍ程度の球状中空微粒子である。
【００２６】
無機球状中空微粒子としては、ガラスバルーン、シラスハルーン、シリカバルーン等が好ましく用いられる。このような無機球状中空微粒子は、通常、数μｍ乃至数十μｍ程度の中空の球体である。
【００２７】
本発明によれば、球状中空微粒子は、消しゴムに基づいて、５〜２０重量％の範囲で用いられ、これによって、消字に際して、紙面と消しゴムとの間の摩擦抵抗を低減して、軽い擦過にて、即ち、軽いタッチにて、消字することができる。消しゴムにおける無機球状中空微粒子の割合が５重量％よりも少ないときは、上記効果を得ることができない。しかし、消しゴムにおける無機球状中空微粒子の割合が２０重量％よりも多いときは、消字に際して、筆跡を擦ったときに、消しゴムが割れやすい欠点を有する。
【００２８】
本発明においては、上述したように、消字に際して、紙面と消しゴムとの間の摩擦抵抗を低減する効果にすぐれる点から、特に、無機球状中空微粒子が好ましく用いられる。
【００２９】
本発明による消しゴムは、その製造方法において、特に限定されるものではないが、通常、次のような方法によって得ることができる。即ち、適宜の容器内に有機ジイソシアネートと可塑剤と研磨剤と充填剤を仕込み、常温で攪拌して、均一な混合物とした後、５０〜１００℃に加熱する。混合物の温度が安定した後、これにポリオールを加え、１０分乃至１時間程度攪拌する。この後、混合物を脱気し、金型中に注入し、１２０℃のオーブン中にて３０分乃至３時間程度加熱し、有機ジイソシアネートとポリオールとの反応を完了させる。このようにして得られた成形物を金型から取り出し、所要の形状に裁断すれば、本発明による消しゴムを得る。
【００３０】
有機ジイソシアネートとポリオールとの反応に際しては、これを促進するために、必要に応じて、例えば、トリエチレンジアミンや、Ｎ，Ｎ’−ジメチルヘキサメチレンジアミン、Ｎ，Ｎ’−ジメチルブタンジアミン等の第３級アミン類や、オクチル酸鉛、ラウリル酸ジブチルスズ等の有機金属化合物等、従来、知られているウレタン化触媒を用いてもよい。
【００３１】
更に、本発明による消しゴムには、必要に応じて、着色剤、難燃剤等の添加剤を含有させてもよく、また、得られる消しゴムの耐久性や安定性を向上させるために、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を適宜に含有させてもよい。
【実施例】
【００３２】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【００３３】
実施例１、２及び比較例１〜４
（消しゴムの製造）
前述した方法に従って、表１に示す原料を用いて、それぞれの消しゴムを製造した。表１に示す原料は次のとおりである。
【００３４】
有機ジイソシアネート
日本ポリウレタン工業（株）製コロネートＴ−８０（２，４−トリレンジイソシアネート８０％／２，６−トリレンジイソシアネート２０％の混合物）
ひまし油
豊国製油（株）製工業用１号ひまし油
硬化ひまし油
伊藤製油（株）製ヒマシ硬化油
可塑剤
新日本理化（株）製サンソサイザー（アジピン酸ジイソノニル）
研磨剤
丸釜釜戸陶料（株）製雪印珪石特級４号
充填剤
富士シリシア化学（株）製フジバルーンＳ−３５(ガラスバルーン)
【００３５】
（消しゴムの性能評価）
原稿用紙に鉛筆にて筆記し、その筆跡をそれぞれの消しゴムにて擦って、それぞれについて、消字性能と消字の際の感触を調べた。消字性能の評価は次のとおりである。よく消字することができるときをＡとし、消字することはできるが、やや強く擦ることを必要とするときをＢとし、複数回にわたって擦っても、消字することができないときをＣとした。消字の際の感触の評価は次のとおりである。軽く擦ることによって、即ち、軽いタッチによって、よく消字することができるときをＡとし、消字することはできるが、ややタッチが重いときをＢとし、タッチが重く、消字によって紙面が撓むときをＣとした。結果を表１に示す。
【００３６】
【表１】
【００３７】
本発明による消しゴムは、消字性能にすぐれるのみならず、軽いタッチで筆跡を擦ることによって消字することができる。これに対して、比較例１の消しゴムによれば、ポリオールと有機ジイソシアネートの割合が消しゴムに対して過大であり、従って、研磨剤や充填剤の割合が少なすぎて、殆ど消字性能をもたない。比較例２による消しゴムは研磨剤を含まず、消字性能に劣る。比較例３による消しゴムは充填剤を含まず、消字の際に比較的強く擦らなければ、消字することができない。反対に、比較例４による消しゴムは、充填剤の割合が高すぎて、紙面が撓むほどに強く擦れば消字することができるが、タッチが悪い。
【技術分野】
【０００１】
本発明は、代表的には紙面上に鉛筆で形成した筆跡を擦って消去するための消しゴムに関する。
【背景技術】
【０００２】
古くは、消しゴムは、軟質ゴムを主成分として構成されていた。このような消しゴムは消字性能にすぐれる反面、消しゴムの表面に黒鉛のような汚れが付着しやすく、それによって紙面も汚れやすい等の問題があった。
【０００３】
そこで、近年、基材樹脂として軟質塩化ビニル樹脂に可塑剤や充填剤のほか、無機球状中空微粒子を含有させてなる消しゴムが広く実用化されている（例えば、特許文献１参照）。しかし、最近になって、塩化ビニル樹脂が塩素原子を含むところから、例えば、消しゴムや消し屑の焼却に際して有害なダイオキシンの生成が懸念されており、また、フタル酸系可塑剤に由来する環境汚染も懸念されている。そこで、消しゴムに水酸化アルミニウムを充填剤として配合して、焼却の際のダイオキシンの生成を抑えることや（特許文献２参照）、また、基材として、塩素を含まないスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体を用いた消しゴムが提案されているが（特許文献３参照）、塩化ビニル樹脂を基剤とする消しゴムに比べて、消字性能に劣る。
【０００４】
このように、塩化ビニル樹脂を基剤とする消しゴムについて、従来、種々の改良が提案されてきているが、基材として、塩化ビニル樹脂を用いる限りは、環境汚染の問題を完全に払拭することはできないようにみえる。
【０００５】
そこで、最近、従来の塩化ビニル樹脂に代えて、ポリウレタンを基材とする消しゴムが提案されている（特許文献４参照）。しかし、この消しゴムにおいては、ポリウレタンの形成のためにゴム系ポリオールを用いるので、消字する際のタッチ、即ち、滑りが悪く、従って、消字性能にも尚、改善の余地がある。
【特許文献１】特開平１０−１９３８８０号公報
【特許文献２】特開２００４−１８８８５０号公報
【特許文献３】特開平０５−１４７３９２号公報
【特許文献４】特開２０００−０２５３９１号公報）
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
本発明者らは、上述した従来のポリウレタンを基材とする消しゴムにおける問題を解決するために鋭意、研究した結果、ひまし油と硬化ひまし油から選ばれる少なくとも１種のポリオールと有機ジイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンを基材とし、これに可塑剤と研磨剤と充填剤を含有させることによって、消字する際のタッチ、即ち、滑りを改善すると共に、消字性能をも一層高めることに成功して、本発明に至ったものである。従って、本発明は、消字する際の滑りと共に消字性能に一層すぐれるポリウレタンを基材とする消しゴムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【０００７】
本発明によれば、ひまし油と硬化ひまし油から選ばれる少なくとも１種のポリオールと有機ジイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンを基材とし、これに可塑剤と研磨剤と充填剤を含有させてなる消しゴムが提供される。
【発明の効果】
【０００８】
本発明によれば、ひまし油と硬化ひまし油から選ばれる少なくとも１種のポリオールと有機ジイソシアネートを反応させて得られる架橋密度の高いポリウレタンを基材とし、これに可塑剤と研磨剤と充填剤を組み合わせて含有させることによって、紙面上の筆跡を軽く擦ることによって、即ち、滑りよく、軽いタッチにて、よく消字することができる消しゴムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【０００９】
本発明による消しゴムは、ひまし油と硬化ひまし油から選ばれる少なくとも１種のポリオールと有機ジイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンを基材とし、これに可塑剤と研磨剤と充填剤を含有させてなるものである。
【００１０】
本発明によれば、基材であるポリウレタンを得るためのポリオールとして、ひまし油と硬化ひまし油から選ばれる少なくとも１種が用いられる。よく知られているように、ひまし油の主成分はリシノール酸トリグリセリドであり、リシノール酸は分子中にヒドロキシ基と二重結合を有する不飽和オキシ酸である。即ち、ひまし油は３官能ポリオールが主成分である。ひまし油の水酸基価は、通常、１５６〜１６５ｍｇＫＯＨ／ｇの範囲である。
【００１１】
また、硬化ひまし油は、ひまし油を触媒の存在下に水添して得られる融点が約８５℃のワックス状のものであり、ひまし油に対応して、その主成分は１２−ヒドロキシステアリン酸トリグリセリドである。その水酸基価は、通常、１５５〜１６５ｍｇＫＯＨ／ｇの範囲である。
【００１２】
本発明によれば、このようなポリオールを後述する有機ジイソシアネートと反応させてなる架橋密度の高いポリウレタンを基材とし、これに可塑剤と研磨剤と充填剤を組み合わせて含有させることによって、紙面上の筆跡を軽く擦ることによって、即ち、滑りよく、軽いタッチにて、よく消字することができる消しゴムを得ることができる。
【００１３】
本発明において、ポリオールは、消しゴムの重量に基づいて、通常、２０〜５０重量％の範囲で用いられる。ポリオールの使用量が上記範囲をはずれるときは、後述する有機ジイソシアネートをポリオールに対して適正な割合で用いても、消しゴムにおける基材ポリウレタンの割合が過小又は過大となって、適度の弾力性と消字性能を有する消しゴムを得ることができない。
【００１４】
本発明において、有機ジイソシアネートとしては、芳香族、脂肪族、芳香脂肪族及び脂環族ジイソシアネートのいずれも用いられる。従って、有機ジイソシアネートの具体例として、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等を挙げることができる。しかし、本発明においては、なかでも、トリレンジイソシアネート又はジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族ジイソシアネートが好ましく用いられる。これらは、単独で用いられてもよく、また、２種以上が併用されてもよい。本発明においては、上述した有機ジイソシアネートは、上述したポリオールと反応させて、プレポリマーとして用いてもよい。
【００１５】
本発明においては、このような有機ジイソシアネートは、消しゴムの重量に基づいて、通常、５〜１０重量％の範囲で用いられる。即ち、本発明による消しゴムは、消しゴムの重量に基づいてポリオール２０〜５０重量％と有機ジイソシアネート５〜１０重量％とから得られるポリウレタン２５〜６０重量％を基材として含む。有機ジイソシアネートの使用量が上記範囲を外れるときは、用いる有機ジイソシアネート量に対して、適正な割合でポリオールを用いても、消しゴムにおける基材の割合が相対的に過小又は過大となって、適度の弾力性と消字性能を有する消しゴムを得ることができない。
【００１６】
本発明によれば、有機ジイソシアネートは、ポリオール１００重量部に対して、トリレンジイソシアネート換算にて、１０〜３５重量部の範囲で用いられる。ポリオール１００重量部に対して、有機ジイソシアネートの使用量がトリレンジイソシアネート換算にて１０重量部よりも少ないときは、消しゴムの成形に際して、有機ジイソシアネートの使用量がポリオールに対して相対的に少なすぎるために、固体としての成形物を得ることが困難である。しかし、ポリオール１００重量部に対して、有機ジイソシアネートの使用量がトリレンジイソシアネート換算にて３５重量部よりも多いときは、消しゴムの成形に際して、固体の成形物が得られても、成形物中に未反応の有機ジイソシアネートが残存し、成形物の表面がべたつくので、消しゴムに適する成形物を得ることが困難である。
【００１７】
有機ジイソシアネートとして、ジフェニルメタンジイソシアネートを用いる場合は、ジフェニルメタンジイソシアネートの分子量がトリレンジイソシアネートの１．４３７倍であるから、ポリオール１００重量部に対して、好ましくは、１５〜５０重量部の範囲で用いられる。
【００１８】
可塑剤は、得られる消しゴムに適度の弾性与えて、消字の際のタッチをよくして、使い勝手をよくすると共に、紙面上の筆跡を擦るときに、黒鉛からなる筆跡を吸着して、消字性能を高める役割を担っている。本発明によれば、このような可塑剤として、脂肪族二塩基酸ジアルキルエステルやリン酸エステルが好ましく用いられる。
【００１９】
脂肪族二塩基酸ジアルキルエステルとしては、例えば、アジピン酸ジ−２−エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ−２−エチルヘキシル、アゼライン酸ジ−２−エチルヘキシル等を挙げることができる。また、リン酸エステルとしては、リン酸トリブチル、リン酸トリ−２−エチルヘキシル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル等を挙げることができる。上記のほかにも、例えば、塩素化パラフィン、アセチルクエン酸トリブチル等も可塑剤として用いられる。これらの可塑剤は、単独で用いてもよく、また、２種以上を組み合わせて用いてもよい。
【００２０】
このような可塑剤は、消しゴムに基づいて、通常、１０〜３０重量％の範囲で用いられる。消しゴムにおける可塑剤の割合が１０重量％よりも少ないときは、得られる消しゴムが硬く、消字する際のタッチが悪く、また、消字性能も低い。しかし、消しゴムにおける可塑剤の割合が３０重量％よりも多いときは、得られる消しゴムが柔らかすぎて、使い勝手が悪い。
【００２１】
研磨剤は、紙面上の筆跡を擦って消字する際に、紙面及び筆跡を削って、消字を助けると共に、消しゴムの表面を摩耗脱落させて、消し屑を生じさせる作用を促進し、かくして、紙面上への黒鉛等の汚れの付着を防止する役割を担っている。
【００２２】
このような研磨剤としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、無水珪酸、ガラスフレーク、珪石等が用いられる。
【００２３】
本発明において、研磨剤は、消しゴムに基づいて、通常、１０〜４０重量％の範囲で用いられる。消しゴムにおける研磨剤の割合が１０重量％よりも少ないときは、得られる消しゴムが十分な消字性能をもたない。反面、消しゴムにおける研磨剤の割合が４０重量％よりも多いときは、消字に際して、紙面を必要以上に傷付けるのみならず、消字性能を低くする。また、消し屑がまとまりにくい。
【００２４】
本発明において、充填剤としては、球状中空微粒子が好ましく用いられる。球状中空微粒子には無機球状中空微粒子と有機球状中空微粒子が知られており、これらは単独で、又は組み合わせて用いられる。
【００２５】
有機球状中空微粒子の具体例としては、例えば、フェノールバルーンや塩化ビニリデンバルーン等を挙げることができる。これらの有機球状中空微粒子は、例えば、ポリ塩化ビニリデン─アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−アクリルエステル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン−アクリル共重合体等の樹脂からなる外壁を有する平均粒径５０μｍ程度の球状中空微粒子である。
【００２６】
無機球状中空微粒子としては、ガラスバルーン、シラスハルーン、シリカバルーン等が好ましく用いられる。このような無機球状中空微粒子は、通常、数μｍ乃至数十μｍ程度の中空の球体である。
【００２７】
本発明によれば、球状中空微粒子は、消しゴムに基づいて、５〜２０重量％の範囲で用いられ、これによって、消字に際して、紙面と消しゴムとの間の摩擦抵抗を低減して、軽い擦過にて、即ち、軽いタッチにて、消字することができる。消しゴムにおける無機球状中空微粒子の割合が５重量％よりも少ないときは、上記効果を得ることができない。しかし、消しゴムにおける無機球状中空微粒子の割合が２０重量％よりも多いときは、消字に際して、筆跡を擦ったときに、消しゴムが割れやすい欠点を有する。
【００２８】
本発明においては、上述したように、消字に際して、紙面と消しゴムとの間の摩擦抵抗を低減する効果にすぐれる点から、特に、無機球状中空微粒子が好ましく用いられる。
【００２９】
本発明による消しゴムは、その製造方法において、特に限定されるものではないが、通常、次のような方法によって得ることができる。即ち、適宜の容器内に有機ジイソシアネートと可塑剤と研磨剤と充填剤を仕込み、常温で攪拌して、均一な混合物とした後、５０〜１００℃に加熱する。混合物の温度が安定した後、これにポリオールを加え、１０分乃至１時間程度攪拌する。この後、混合物を脱気し、金型中に注入し、１２０℃のオーブン中にて３０分乃至３時間程度加熱し、有機ジイソシアネートとポリオールとの反応を完了させる。このようにして得られた成形物を金型から取り出し、所要の形状に裁断すれば、本発明による消しゴムを得る。
【００３０】
有機ジイソシアネートとポリオールとの反応に際しては、これを促進するために、必要に応じて、例えば、トリエチレンジアミンや、Ｎ，Ｎ’−ジメチルヘキサメチレンジアミン、Ｎ，Ｎ’−ジメチルブタンジアミン等の第３級アミン類や、オクチル酸鉛、ラウリル酸ジブチルスズ等の有機金属化合物等、従来、知られているウレタン化触媒を用いてもよい。
【００３１】
更に、本発明による消しゴムには、必要に応じて、着色剤、難燃剤等の添加剤を含有させてもよく、また、得られる消しゴムの耐久性や安定性を向上させるために、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を適宜に含有させてもよい。
【実施例】
【００３２】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【００３３】
実施例１、２及び比較例１〜４
（消しゴムの製造）
前述した方法に従って、表１に示す原料を用いて、それぞれの消しゴムを製造した。表１に示す原料は次のとおりである。
【００３４】
有機ジイソシアネート
日本ポリウレタン工業（株）製コロネートＴ−８０（２，４−トリレンジイソシアネート８０％／２，６−トリレンジイソシアネート２０％の混合物）
ひまし油
豊国製油（株）製工業用１号ひまし油
硬化ひまし油
伊藤製油（株）製ヒマシ硬化油
可塑剤
新日本理化（株）製サンソサイザー（アジピン酸ジイソノニル）
研磨剤
丸釜釜戸陶料（株）製雪印珪石特級４号
充填剤
富士シリシア化学（株）製フジバルーンＳ−３５(ガラスバルーン)
【００３５】
（消しゴムの性能評価）
原稿用紙に鉛筆にて筆記し、その筆跡をそれぞれの消しゴムにて擦って、それぞれについて、消字性能と消字の際の感触を調べた。消字性能の評価は次のとおりである。よく消字することができるときをＡとし、消字することはできるが、やや強く擦ることを必要とするときをＢとし、複数回にわたって擦っても、消字することができないときをＣとした。消字の際の感触の評価は次のとおりである。軽く擦ることによって、即ち、軽いタッチによって、よく消字することができるときをＡとし、消字することはできるが、ややタッチが重いときをＢとし、タッチが重く、消字によって紙面が撓むときをＣとした。結果を表１に示す。
【００３６】
【表１】
【００３７】
本発明による消しゴムは、消字性能にすぐれるのみならず、軽いタッチで筆跡を擦ることによって消字することができる。これに対して、比較例１の消しゴムによれば、ポリオールと有機ジイソシアネートの割合が消しゴムに対して過大であり、従って、研磨剤や充填剤の割合が少なすぎて、殆ど消字性能をもたない。比較例２による消しゴムは研磨剤を含まず、消字性能に劣る。比較例３による消しゴムは充填剤を含まず、消字の際に比較的強く擦らなければ、消字することができない。反対に、比較例４による消しゴムは、充填剤の割合が高すぎて、紙面が撓むほどに強く擦れば消字することができるが、タッチが悪い。
【特許請求の範囲】
【請求項１】
ひまし油と硬化ひまし油から選ばれる少なくとも１種のポリオールと有機ジイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンを基材とし、これに可塑剤と研磨剤と充填剤を含有させてなる消しゴム。
【請求項２】
ポリウレタンを形成する有機ジイソシアネートがトリレンジイソシアネート又はジフェニルメタンジイソシアネートである請求項１に記載の消しゴム。
【請求項３】
消しゴムの重量に基づいて有機ジイソシアネート５〜１０重量％とポリオール２０〜５０重量％を反応させてなるポリウレタン２５〜６０重量％を含む請求項１又は２に記載の消しゴム。
【請求項４】
可塑剤が脂肪族二塩基酸エステル及びリン酸エステルから選ばれる少なくとも１種である請求項１に記載の消しゴム。
【請求項５】
研磨剤が炭酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、無水珪酸、ガラスフレーク及び珪石から選ばれる少なくとも１種である請求項１に記載の消しゴム。
【請求項６】
充填剤が有機球状中空微粒子及び無機球状中空微粒子から選ばれる少なくとも１種である請求項１に記載の消しゴム。
【請求項７】
充填剤が無機球状中空微粒子である請求項１に記載の消しゴム。
【請求項１】
ひまし油と硬化ひまし油から選ばれる少なくとも１種のポリオールと有機ジイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンを基材とし、これに可塑剤と研磨剤と充填剤を含有させてなる消しゴム。
【請求項２】
ポリウレタンを形成する有機ジイソシアネートがトリレンジイソシアネート又はジフェニルメタンジイソシアネートである請求項１に記載の消しゴム。
【請求項３】
消しゴムの重量に基づいて有機ジイソシアネート５〜１０重量％とポリオール２０〜５０重量％を反応させてなるポリウレタン２５〜６０重量％を含む請求項１又は２に記載の消しゴム。
【請求項４】
可塑剤が脂肪族二塩基酸エステル及びリン酸エステルから選ばれる少なくとも１種である請求項１に記載の消しゴム。
【請求項５】
研磨剤が炭酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、無水珪酸、ガラスフレーク及び珪石から選ばれる少なくとも１種である請求項１に記載の消しゴム。
【請求項６】
充填剤が有機球状中空微粒子及び無機球状中空微粒子から選ばれる少なくとも１種である請求項１に記載の消しゴム。
【請求項７】
充填剤が無機球状中空微粒子である請求項１に記載の消しゴム。
【公開番号】特開２０１１−５１０９３（Ｐ２０１１−５１０９３Ａ）
【公開日】平成２３年３月１７日（２０１１．３．１７）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００８−１３６８３５（Ｐ２００８−１３６８３５）
【出願日】平成２０年５月２６日（２００８．５．２６）
【出願人】（３９００３９７３４）株式会社サクラクレパス (211)
【公開日】平成２３年３月１７日（２０１１．３．１７）
【国際特許分類】
【出願日】平成２０年５月２６日（２００８．５．２６）
【出願人】（３９００３９７３４）株式会社サクラクレパス (211)
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