説明

消化管吻合術後の拡張力低下を予防する薬剤

【目的】 本発明は消化管吻合術後の拡張力低下を予防するのに有効な薬剤を提供する。
【構成】 本発明の薬剤は式I
【化1】


で表わされる化合物の医薬品として使用可能な塩を含有する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は消化管吻合術後の拡張力低下を予防するのに有効な薬剤に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】消化管の吻合術後1〜3日に吻合周囲の平滑筋の張力が大幅に低下し、時には腸内容物が漏出し、術後の回復を遅らせる。とくに大腸の吻合術後に腸内容物が漏出することが多く、かかる漏出例は約30%にも達する。また、異常環境下(たとえば、腸管浮腫、炎症、腹膜炎、低栄養など)では吻合直後から拡張力の著しい低下がみられ、機械吻合の場合も例外ではなく、その対策が急務とされている(外科治療、66巻、3号、1992年、279〜288頁)。現在、消化管吻合術後の拡張力低下を予防できる薬剤はない。それ故、消化管吻合術後の拡張力低下を予防できる薬剤の発明が強く望まれていた。
【0003】
【課題を解決するための手段】式I
【化2】


で表わされる化合物は公知化合物で膵炎治療、体外循環の抗凝固あるいは汎発性血管内血液凝固症治療などの目的で使用されており、その有効性および安全性についてはすでに知られている薬剤である。しかし、この薬剤が消化管吻合術後の拡張力低下を予防することは知られていなかった。本発明者は、消化管吻合術後の拡張力低下を予防する薬剤を開発すべく検討した結果、式I
【化3】


で表わされる化合物が消化管吻合術後の拡張力低下を著明に抑制することを見出だした。
【0004】上記式Iで表わされる化合物の投与方法は注射、点滴、腹腔内および直腸など、通常用いられる医薬品の投与方法いずれでもよいが、緊急を要する場合は腹腔内投与が望ましい。
【0005】
【例】以下に本発明の例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0006】例1体重220〜300gのSD系雌ラットをペントバルビタール40mg/kg腹腔内投与により全身麻酔し、正中切開にて開腹した。盲腸より約5cmの回腸部分において血管を処理し、回腸を切離し、その部分を7−0ポリプロピレン(ネスピレン)を用いて14針結節法縫合した。針は切離端より1.5mmに刺入した。回腸を縫合後、閉腹した。薬剤の腹腔内投与のためにラット腹腔内に6Frの小児用IVH用のシリコンカテーテルを留置し、正中創の上部より皮下トンネルを作製し後頸部に誘導した。式Iの化合物を5%グルコースに溶かし、1日あたり40mg/kgを2回に分けて腹腔内投与した。対照としては5%グルコースのみを投与した。その後、経日的にラットをエーテル麻酔下に正中切開にて開腹し回腸の吻合部を中心として口側、肛門側に5cmのバウエルループ(bowel loop)を摘出し、腸管膜等を十分に剥離した。張力の測定はハンドヘルド デジタルフォースゲージ DFG 2K形(シンポ社製)で行った。吻合手術直後の張力は173±45gfであった。コントロール群においては109±25(63%)、そして3〜5日後には約32%まで低下した。その後は徐々に回復し、14日後にはほぼ手術直後の張力にもどった。これに対して式Iの化合物を投与した群では手術3日後の張力が113±33gf(65.3%)、5日後106±21gf(61.0%)の低下に止まり、式Iの化合物に有意な張力低下抑制効果が認められた。
【0007】結果を表1に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 式I
【化1】


で表わされる化合物または医薬品として使用可能なその塩を含有する消化管吻合術後の拡張力低下予防剤