説明

消毒マット

【課題】 家畜伝染病の防除に際し、設置場所の制限がなく、タイヤ又は靴底接地面全体に十分かつ簡便に消毒用の薬液を塗布することが可能な消毒マットの提供。
【解決手段】 路面等に設置する消毒マット10であって、薬液を吸収して保持する薬液保持層16と、前記薬液保持層を収容する防水性素材の収容手段12と、薬液が透過する素材のカバー部14を具備し、マット10上を車両又は人が通過した際、荷重で滲み出した薬液がタイヤ又は靴底等の接地面に塗布され、且つ余剰の薬液はカバー部14内に留まり、荷重から解放された際に薬液保持層16に再吸収されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は消毒マットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、口蹄疫などの家畜伝染病から家畜を護るための防疫対策が重要視されている。病原細菌やウイルス等の侵入、拡散を防ぐには、畜産施設と外部を行き来する車両又は靴底等を効率的に消毒することが必要である。
【0003】
従来、車両の消毒法として最も広く取られているのは、路面に石灰を撒く方法や、車両に対し専ら人手によって消毒液を散布する方法である。他にも車両に消毒液を散布する装置を使用する方法があり、その一例として、特開2007−89951号公報(特許文献1)記載の発明が公知である。同公報記載の発明に係る車両消毒装置は、門型状のゲートの内側に消毒液を通す配管を擁し、消毒液をジェット状または霧状に噴射する装置で、ゲートを通過した車両全体に効率的に消毒液を散布しうるとされている。
【0004】
また、もう一例として、実用新案登録第3076862号公報(特許文献2)記載の発明が公知である。同公報記載の発明に係る車両消毒装置は、消毒液を噴射する複数の噴射ノズルを取り付けた配管パイプを斜面台で挟んだ装置で、斜面台上を通過した車両の下面及び両側面に効率的に消毒液を散布しうるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−89951号公報
【特許文献2】実用新案登録第3076862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
確かに、石灰を地面に撒く方法は簡便であり、広範囲の消毒を行うのに適している。しかし、石灰が車両の通過や風で飛散すると消毒効果が低下する、水に濡れると消毒効果がなくなるという課題があった。
【0007】
人手によって消毒液を散布する方法は、石灰を撒く方法より消毒効果が高いが作業手間を要し、又、作業者自身が消毒液を吸い込み健康を害する等の問題がある。前述した特許文献1および2記載の「車両消毒装置」に関する発明は車両全体を簡便かつ効率的に消毒することが可能であるが、これらの装置は車両に消毒液を吹き付けるという方式であるために、病原細菌やウイルス等の侵入、拡散の防止という観点から最も入念な消毒が必要とされる車両のタイヤ、特に接地部分を十分かつ簡便に消毒することが難しいという課題があった。
【0008】
本発明は、このような諸事情に対処するために提案されたものであって、車両のタイヤ又は靴底等接地面を効果的に消毒することができ、加えて、設置場所を問わず簡便かつ安価に設置できる消毒マットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、消毒用マットであって、消毒用の薬液を浸透させることによって薬液を吸収した状態で保持し、且つ荷重がかかった際に薬液が滲み出すように構成された多孔質素材からなる薬液保持手段と、前記薬液保持手段が内側に載置されるとともに、該薬液保持手段に保持されている薬液の流出を防止する防水性素材によって形成され、上面に開口部を有し、該開口部に前記薬液保持手段を保護する機械的強度を備え、かつ薬液の透過を阻害しないネット状のカバー部を設けてなる収容手段とを具備したことを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、前記請求項1記載の消毒マットにおいて、荷重がかかった際に前記薬液保持手段から滲出する余剰の薬液を、収容手段内に留まらせるための薬液溜り部を当該収容手段内に設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、前記請求項1又は2記載の消毒マットにおいて、当該薬液保持手段が二層以上の多層構造であることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、前記請求項1〜3記載の消毒マットにおいて、多層構造とした前記薬液保持手段は、薬液を保持する含水率がそれぞれ異なることを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、前記請求項1〜4記載の消毒マットにおいて、遮光性部材を上面に重ねて載置、又は前記カバー部と薬液保持手段との間に載置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記のように、各請求項記載の発明によれば、消毒マット上部を通過した車両又は人の荷重によって薬液保持手段から滲み出した薬液のうち、上面のタイヤ又は靴底の接地面から滲み出した薬液はタイヤ又は靴底に塗布され、一方、側面及び下面から滲み出した薬液は収容手段内に留まり、荷重から解放された際に薬液保持手段に再吸収される。また、消毒マット上面に遮光部材を重ねて載置、あるいはカバー部と液保持手段の間に遮光部材を載置するなどの、いずれかの設置場所に遮光部材を載置することにより薬液の蒸発を防ぐことができる。このため、連続使用並びに屋外等での長時間使用が可能となる。また、器具全体の構造が簡素で機械的耐性に優れ、さらに電源等を必要としないため、設置場所に制限がない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る消毒マットと車両の位置関係を示す斜視図である。
【図2】同じく、本発明の一実施形態に係る消毒マットの、タイヤ下における状態を示す説明図である。
【図3】同じく、本発明の一実施形態に係る消毒マットの図であり、そのうち(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は(b)のIIIc−IIIc線に沿った矢視断面図、(d)は(b)のIIId−IIId線に沿った矢視断面図である。
【図4A】同じく、本発明の一実施形態に係る消毒マット上を車両が通過した際の断面図である。
【図4B】同じく、本発明の一実施形態に係る消毒マット上を車両が通過した際の薬液の動きを示す説明図である。
【図5】同じく、本発明の一実施形態の変形例に係る消毒マットの図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る消毒マットの好適な実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は本発明の消毒マットを、車両の消毒用とした場合に車両との位置関係を示す斜視図、図2は該消毒マットの、タイヤ下における状態を示す説明図、図3は該消毒マットの平面図並びに内部構造を示す断面図である。図1、図2、図3に示されるように、消毒マット10は、薬液保持手段となるウレタン製などの薬液保持層16と、袋状の収容手段12と、収容手段の12の開口部を覆うカバー部14等とを備えて構成されている。
【0017】
図3に示されるように本実施形態の消毒マット10のうち、収容手段(収納手段)12は矩形状の底面シート12A、額縁状に形成された上面側辺縁シート12B、この上面側辺縁シート12Bの開口部に取り付けられるカバー部14等を具備している。
【0018】
底面シート12Aには、その長辺側、短辺側の端部に沿って上面側辺縁シート12Bが溶着若しくは接着されて袋状の収容手段12が形成されている。また、収容手段12内には、固定片12Cが長辺側における底面シート12Aと上面側辺縁シート12Bとの間に挟み込むようにして介在され、この固定片12Cによって薬液保持層16が収容手段12内に収納されるようになっている。
なお、本発明に係る収容手段12の各部材(例えば、底面シート12A、上面側辺縁シート12B及び固定片12C)は、薬液を透過させない防水性の素材であれば特に、限定されないが、軽量性及び加工容易性の観点から、塩化ビニル、ポリエチレンシートなどが好ましい。ここで、各部材は、溶着若しくは接着して接合することができる。
【0019】
固定片12Cには、薬液保持層16として、下側にスポンジ製の第1の保持部材16A、並びに上側にフェルト製の第2の保持部材16Bの長辺側が縫い付けられることによって収容手段12の内側に設置され、保持部材16A、16Bが内部にて、ずれることがないように配慮されている。
なお、下側となる第1の保持部材16Aとしては、ウレタン、紙、不織布、スポンジ等の多孔質で保水性に富む材料とすることができ、薬液塗布面となる上側となる第1の保持部材16Bとしては、フェルト、ポリエステル反毛フェルト等の保水性及び薬液透過性を保持しつつもタイヤ等の摩擦などの機械的ストレスに耐え得る材料が好適である。
【0020】
つまり、第1及び第2の保持部材16A,16Bは薬液を保持する含水率、強度がそれぞれ異なっており、薬液塗布面(露出面)となる第2の保持部材16Bは構成材料の密度が高く、薬液を徐々に浸透させる性質を有している。これに対し、第1の保持部材16Aとしては、構成材料の密度が第2の保持部材16Bよりも低いが、薬液に対する保水性の高い材料である多孔質の発泡性のスポンジを使用し、これによって多くの薬液を保持することが可能となっている。この結果、多くの薬液を第1及び第2の保持部材16A,16Bに保水させることが可能となり、使用時における薬液を補充する作業手間を低減することができる。
【0021】
また、収容手段12の短辺側では、固定片12Cに薬液保持層16(16A、16B)の端部が固定片12Cに縫い合わされてその内部に格納されている。これによって、マット10の短辺側には、上面側辺縁シート12B及び底面シート12Aに挟まれ、且つ固定片12Cが、底面シート12Aと上面側辺縁シート12Bとの間に延出することによって、収納手段12内に2ヵ所の空隙が形成され、当該空隙が薬液溜り部19、19となる。つまり、上面側辺縁シート12B、固定片12C及び薬液保持層16に囲まれた薬液溜り部19、並びに、固定片12、底面シート12A及び薬液保持層16に囲まれた薬液溜り部19が形成されている。
【0022】
さらに、マット10の長辺側には、薬液保持層16の長辺の長さよりも底面シート12Aの長辺の長さが大きく形成され、且つ当該底面シート12Aを上面側辺縁シート12Bに対し溶着若しくは接着することによって、底面シート12A、上面側辺縁シート12B及び薬液保持層16に囲まれた薬液溜り部19が形成される。当該薬液溜り部19は、荷重がかかった際に薬液保持層16から薬液がマットの外部へ流出することを防止するため、収容手段12内に薬液を保持することができる。
【0023】
また、図3(a)に示されるように、上面側辺縁シート12Bの開口部には、格子状に形成されたネット状のカバー部14が、その長辺部及び短辺部を、上面側辺縁シート12Bに縫い付け、あるいは接着等の固定方法により取り付けられている。
このカバー部14としては、薬液を透過させ、下層の薬液保持層16をタイヤ等の機械的ストレスから保護できるものであれば特に限定されないが、耐久性等の観点から、格子状又は網目状に加工され、薬液を透過させることができる二軸延伸高密度ポリエチレン素材のものが好ましい。
【0024】
図4Aは使用時における消毒マットについて、短辺側及び長辺側から視た内部の構造を示す断面図、図4Bは消毒マット上を車両が通過した際の薬液の動きを示す断面図である。同図に示されるように収容手段12と薬液保持層16との間にはその側部付近に薬液溜り部19がある。車両の通過による荷重で、薬液17は薬液保持層16から滲み出て、カバー部14を透過しタイヤ接地面に塗布される。荷重によって保持層16からあふれ出る薬液17は、図4Bの矢印に示されるように、収容手段12と薬液保持層16との間の薬液溜り部19に留まり、車両による荷重から解放された際に薬液保持層16に再吸収される。これらのサイクルによって車両のタイヤに無駄なく連続的に薬液を塗布することができるようになっている。
【0025】
図5は、本発明に係る消毒用マットを路面等に設置するため、当該消毒マットの周囲に設置用の締結具を通すためのハトメ穴を備えた実施態様、及び裏面にゴムシートを固定するためのゴム差し込みベルトを備えた実施態様を示す図である。
【0026】
以上、本発明を実施するための最良の形態について説明を行ったが、本発明に係る消毒マットは説明を行った形態に限定はされない。
例えば、本発明に係る消毒用マットには、薬液の蒸発を防ぐための薬液透過性を有した遮光性部材をいずれかの設置場所に載置することができ、当該遮光性部材は機械的ストレスによる摩耗を避ける観点から、カバー部14と薬液保持層16の間に載置されることが好ましい。なお、遮光性部材として、好ましくは、網目を有し薬液を透過可能で且つ遮光性を有するポリエチレンシートなどの各種の素材が挙げられるが、本発明の効果を奏することができるものであればこれに限定されない。
【0027】
なお、本発明に係る消毒マット10は、いずれの方法においても車両等の通過路面上に固定して設置することができる。固定手段としては、設置用の釘や杭等の締結具を当該消毒マットのハトメ穴20等を通して路面に打ち込む手段の他、当該消毒マットの裏面に設けられたゴム差し込みベルト26を通してゴムシートを固定して、これによる重さにより当該マットを安定して固定することもできる。なお、ゴムシートを用いた際には、前記の重さによる固定効果に加えて、滑り止め効果や、クッション効果も奏し好ましい。また、固定手段は、前記の手段又はその他の手段を併用することもできる。
【0028】
さらに、本発明に係る消毒マットを複数連結して消毒効果及び効率を上げることもできる。また、路面への固定のための又は複数のマットの連結のための締結具を通すために、本発明に係る消毒マットは、随意の箇所にハトメ穴20を具備することができる。ハトメ穴20は、好ましくは、上面側辺縁シートを貫通する態様で複数存在することが好ましい。
【0029】
なお、本発明に係る消毒マット10の大きさは、車両タイヤ24等に薬液を塗布することができる大きさであれば特に限定されないが、効率的に、薬液を車両タイヤ24等に塗布する観点から、一例として、長辺側が3,000〜3,500mm、短辺側が800〜1,000mmであることが好ましく、設置箇所に応じてマット10を単体若しくは複数連結して使用することが可能である。
また、本発明に係る消毒マット10の薬液保持層16の厚さとしては、薬液を長時間に亘り効率的且つ十分に保持することができる厚さであり、円滑に薬液をタイヤに塗布する寸法であることが好ましい。
【0030】
以上説明したように、本発明によれば石灰等を撒く方法で問題であった周囲への薬剤の飛散は起こらない。また、薬液の蒸発および流出を防ぐことが可能となり、屋外等で連続的且つ長時間使用することができる。また従来の消毒装置で困難であったタイヤ又は靴底接地面の消毒が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上説明したように、本発明によれば消毒マット上部を通過した車両又は人の荷重によって薬液保持手段から滲み出した薬液のうち、上面のタイヤ又は靴底接地面から滲み出した薬液はタイヤ接地面に塗布され、一方、側面及び下面から滲み出した薬液は収容手段内に留まり、荷重から解放された際に薬液保持層に再吸収される。
また、消毒マット上面に遮光部材を重ねて載置、あるいはカバー部と液保持手段の間に遮光部材を載置するなどの、いずれかに遮光部材を載置することにより薬液の蒸発を防ぐことができる。このため、連続使用と屋外等での長時間使用が可能となる。さらに、器具全体の構造が簡素で機械的耐性に優れ、さらに電源等を必要としないため、設置場所に制限がない。
【符号の説明】
【0032】
10 消毒マット
12 収容手段
12A 底面シート
12B 上面側辺縁シート
12C 固定片
14 カバー部
14A 薬液塗布面
16 薬液保持層
16A 第1の保持部材
16B 第2の保持部材
17 薬液
19 薬液溜り部
20 ハトメ穴
24 車両タイヤ
26 ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消毒用の薬液を浸透させることによって薬液を吸収した状態で保持し、且つ荷重がかかった際に薬液が滲み出すように構成された多孔質素材からなる薬液保持手段と、前記薬液保持手段が内側に載置されるとともに、該薬液保持手段に保持されている薬液の流出を防止する防水性素材によって形成され、上面に開口部を有し、該開口部に前記薬液保持手段を保護する機械的強度を備え、かつ薬液の透過を阻害しないネット状のカバー部を設けてなる収容手段とを具備したことを特徴とする消毒マット。
【請求項2】
荷重がかかった際に前記薬液保持手段から滲出する余剰の薬液を、収容手段内に留まらせるための薬液溜り部を当該収容手段内に設けたことを特徴とする請求項1に記載の消毒マット。
【請求項3】
当該薬液保持手段が二層以上の多層構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載の消毒マット。
【請求項4】
多層構造とした前記薬液保持手段は、薬液を保持する含水率がそれぞれ異なることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の消毒マット。
【請求項5】
遮光性部材を上面に重ねて載置、又は前記カバー部と液保持手段との間に載置したことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の消毒マット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−217453(P2012−217453A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82326(P2011−82326)
【出願日】平成23年4月2日(2011.4.2)
【出願人】(511085035)
【Fターム(参考)】