説明

消臭材

【課題】 気相中の臭気を吸着して無臭化する消臭材、特にかび臭のような分子直径の大きな臭気を吸着して無臭化する消臭材を提供する。
【解決手段】 細孔直径が10nm〜50nmの範囲の細孔が占める累積細孔容積が全細孔容積が50%以上であり、かつ比表面積が10m2/g〜500m2/gの範囲とされる無機多孔質粉体と、前記無機多孔質体粉体100質量部に対して、1.0質量部〜30質量部の範囲とされる三価の鉄イオンとの化合物の粉体とからなるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、消臭材に関し、更に詳細には、気相中に存在する、例えばかび臭のような分子直径の大きな臭気を吸着して無臭化する消臭材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、目的に応じて様々な臭気を吸着する消臭材が開発されている。具体的には、ゼオライトや活性炭ような大きな比表面積を有する多孔質材料によって、臭気を吸着する消臭材が知られている。
このような消臭材の一例として、非晶質シリカを用いた消臭材(脱臭剤)が知られている(特許文献1参照)。また、特許文献1とは別の技術として、水酸化第二鉄でゼオライトを被覆することで、液体中のH2S、CO2、メルカプタンなどの酸性ガスや、NH3、アミンなどの塩基性ガスの消臭材(水酸化物とゼオライトとの複合物)が知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭63−41712号公報
【特許文献2】特開2005−272170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1記載の消臭材(脱臭剤)は、臭気を吸着するだけなので、熱を加えると一旦吸着された臭気が消臭材から再放出されるため、臭気が再び発生する。
また、特許文献2記載の消臭材(水酸化物とゼオライトとの複合物)は、水中の臭気を吸着するものであって、気相中(空気中)における臭気の吸着を目的としたものではなかった。また、ゼオライトは細孔の直径が小さいため、気相中のおいて分子直径の大きなかび臭は吸着できない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上述の課題を解決するものであって、細孔直径10〜50nmの細孔が占める累積細孔容積が全細孔容積の50%以上であり、かつ比表面積が10〜500m2/gである無機多孔質粉体と、前記無機多孔質粉体100質量部に対して、1.0〜30質量部とされる三価の鉄イオンとの化合物の粉体とからなり、気相中の臭気を吸着して無臭化する消臭材を提供することを目的とする。
【0005】
本願の発明者は、細孔直径10〜50nmの細孔が占める累積細孔容積が全細孔容積の50%以上であり、かつ比表面積が10〜500m2/gである無機多孔質粉体と、前記無機多孔質粉体100質量部に対して、1.0〜30質量部とされる三価の鉄イオンとの化合物の粉体とからなる消臭材は、気相中の臭気を吸着して無臭化し、更に分子直径が0.5〜2nm程度となる大きさの臭気を吸着して無臭化することを知見したものである。
【0006】
なお、本発明の消臭材においては、
(1)前記無機多孔質粉体の平均粒径は、0.5〜150μmであること、
(2)前記無機多孔質体は、
(a):非晶質シリカおよび/またはケイ酸カルシウム水和物の粉体、
(b):炭酸カルシウム、リン酸カルシウム化合物または硫酸カルシウム化合物の中から選択される一種または二種以上の粉体と、非晶質シリカの粉体との混合物粉体、
(c):炭酸カルシウム、リン酸カルシウム化合物または硫酸カルシウム化合物の中から選択される一種または二種以上の粉体と、非晶質シリカの粉体およびケイ酸カルシウム水和物の粉体との混合物粉体、
の何れかであること、
(3)前記ケイ酸カルシウム水和物は、低結晶質ケイ酸カルシウム水和物、トバモライトまたはゾノトライトの粉体の中から選択される一種または二種以上であること、
(4)前記三価の鉄イオンとの化合物の粉体の平均粒径は、0.5〜150μmであること、
(5)前記三価の鉄イオンとの化合物は、水酸化第二鉄であること、
(6)前記三価の鉄イオンとの化合物は、リモナイトであること、
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る消臭材によれば、消臭材をなす無機多孔質粉体が気相中の臭気を吸着し、かつ消臭材をなす三価の鉄イオンとの化合物の粉体が、無機多孔質粉体に一旦吸着された臭気を無臭化するので、気相中に臭気が再放出されることがない。また、気相中の臭気は、三価の鉄イオンとの化合物の粉体と直接接触することでも無臭化される。更に、かび臭のように分子直径が0.5〜2nm程度の大きな臭気も吸着して無臭化することで消臭できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の消臭材を具体的に説明する。
【0009】
本発明の消臭材は、細孔直径10〜50nmの細孔が占める累積細孔容積が全細孔容積の50%以上であり、かつ比表面積が10〜500m2/gである無機多孔質粉体と、前記無機多孔質粉体100質量部に対して、1.0〜30質量部とされる三価の鉄イオンとの化合物の粉体(以下、鉄化合物粉体と云う)とからなる。なお、本発明の消臭材は、前述の無機多孔質粉体と、鉄化合物粉体とを含んでいれば、その他の第3成分があってもよい。また、ここで粉体とは、公知の粉粒体用の混合方法によって、均質に分散できる大きさとなっているものを指す。
【0010】
無機多孔質粉体は、細孔直径10〜50nmの細孔が占める累積細孔容積が全細孔容積の50%以上であり、かつ比表面積が10〜500m2/gとされる。このような無機多孔質粉体は、その表面と細孔内部とに臭気を吸着する。大部分の臭気は、細孔内部の大きな面積を持つ内部壁面に吸着されるため、その比表面積が大きくなると、無機多孔質粉体の臭気の総吸着量が多くなる。また、臭気の分子直径が同じであれば、開口している細孔直径が大きくなると、臭気が吸着される細孔内部に入り易くなるため吸着速度は早くなる。なお、累積細孔容積が全細孔容積に占める割合が増えると、細孔直径10〜50nmの細孔に入り込むことのできる臭気の無機多孔質粉体内への吸着速度が向上する。
【0011】
無機多孔質粉体としては、
(a):非晶質シリカおよび/またはケイ酸カルシウム水和物の粉体、
(b):炭酸カルシウム、リン酸カルシウム化合物または硫酸カルシウム化合物の中から選択される一種または二種以上の粉体と、非晶質シリカの粉体との混合物粉体、
(c):炭酸カルシウム、リン酸カルシウム化合物または硫酸カルシウム化合物の中から選択される一種または二種以上の粉体と、非晶質シリカの粉体およびケイ酸カルシウム水和物の粉体との混合物粉体、
の使用が好適である。これは、これらの物質を使用すると、無機多孔質粉体の細孔直径や比表面積を人為的に制御できるため、本願の特徴事項である細孔直径10〜50nmの細孔が占める累積細孔容積が全細孔容積の50%以上であり、かつ比表面積が10〜500m2/gである無機多孔質粉体を好適に得ることができるからである。
なお、ここで、ケイ酸カルシウム水和物とは、低結晶質ケイ酸カルシウム水和物(以下、CSHと云う)、トバモライトまたはゾノトライト等の結晶構造や水和物数の異なるケイ酸カルシウム水和物を指し、これらの中から選択される一種または二種以上の粉体を使用してもよい。
また、無機多孔質粉体の細孔径分布、比表面積、細孔容積は、ガス(窒素)吸着によるBET法により求めた。
【0012】
上記したCSHは、温水中(40〜100℃程度)でのケイ酸質原料と石灰質原料とを用いた水和反応によって得ることができる。トバモライトは、ケイ酸質原料、石灰質原料およびアルミナを飽和水蒸気圧約1MPaの雰囲気下で水和反応させることで得ることができる。ゾノトライトは、ケイ酸質原料および石灰質原料を飽和水蒸気圧約2MPaの雰囲気下で水和反応させることで得ることができる。これらCSH、トバモライトおよびゾノトライトは、建材として利用されるモルタル、コンクリート、ALC(軽量気泡コンクリート)またはケイ酸カルシウム板等の材料の粉体または廃材粉末も利用できる。
【0013】
(b)または(c)に記載の非晶質シリカの粉体と、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム化合物または硫酸カルシウム化合物の中から選択される一種または二種以上の粉体との粉体との混合物粉体は、CSH、トバモライトまたはゾノトライト(以下、起源物質と云う)に対して、(1)炭酸化処理、(2)リン酸化処理または(3)硫酸化処理を施すことで作製される。
前記各処理の例として、
(1)炭酸化処理は、起源物質を炭酸ガス中に入れたり、炭酸溶液または炭酸塩溶液に浸漬することで、起源物質に炭酸イオンを供給することで、起源物質に炭酸化を実施するものであり、
(2)リン酸化処理は、起源物質をリン酸溶液またはリン酸塩溶液に浸漬することで、起源物質にリン酸化を実施するものであり、
(3)硫酸化処理は、起源物質を硫酸溶液また硫酸塩溶液に浸漬することで、起源物質に硫酸イオンを供給することで、起源物質に硫酸化を実施するものである。
【0014】
起源物質に対して炭酸イオン、リン酸イオンまたは硫酸イオンが供給されると、起源物質に含まれるカルシウムイオンと各酸のイオンとの間に化学反応が起こり、起源物質から非晶質シリカと、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム化合物または硫酸カルシウム化合物とが生成する。このようにして起源物質の全部が反応すると、(b)に記載のCSH、トバモライトまたはゾノトライトを起源とする非晶質シリカと、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム化合物または硫酸カルシウム化合物の中から選択される一種または二種以上の混合物が得られる。また、起源物質の一部が反応すると、(c)に記載のCSH、トバモライトまたはゾノトライトを起源とする非晶質シリカと、未反応のCSH、トバモライトまたはゾノトライトと、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム化合物または硫酸カルシウム化合物の中から選択される一種または二種以上の混合物が得られる。
この他、無機多孔質粉体として、CSH、トバモライトまたはゾノトライトを、例えば塩酸化(塩酸溶液に浸漬する処理)を施して組成中のカルシウム分を可溶性塩とし、この可溶性塩を洗浄・ろ過等の処理によって取り除いた非晶質シリカも使用可能である。
なお、ここで起源物質として粉体を用いれば、得られるものも粉体となる、また本発明に使用できない性状の物質が生成した場合には、公知の粉砕方法を用いて本発明でいう粉体としてもよい。
【0015】
無機多孔質粉体の比表面積は、無機多孔質粉体への臭気の総吸着量を多くするために、10〜500m2/gが好ましい。
無機多孔質粉体の比表面積が10m2/g未満の場合、臭気との接触面積が少ないため、臭気の総吸着量が少なくなる。無機多孔質粉体において臭気を吸着する部分が短時間で飽和するからである。
一方、無機多孔質粉体の比表面積が500m2/gを超える場合、本願の特徴事項の一つである細孔直径10〜50nmの細孔が占める累積細孔容積が全細孔容積の50%以上とすることが困難となる。通常、500m2/gを超える比表面積は、無機多孔質粉体の細孔直径を10nm未満にしないと、達成困難なためである。
【0016】
無機多孔質粉体の平均粒径は、無機多孔質粉体と鉄化合物粉体とを均質になるように分散・混合するために、また得られる消臭材の消臭性を考慮して、0.5〜150μmが好ましい。
無機多孔質粉体の平均粒径が0.5μm未満の場合、その粉砕に多大な手間が掛かるため好ましくない。
一方、無機多孔質粉体の平均粒径が150μmを超える場合、無機多孔質粉体と、鉄化合物粉体とを均質になるように分散・混合することが困難となるため好ましくない。無機多孔質粉体と、鉄化合物粉体とが均質になるように分散されていないと、消臭材において鉄化合物粉体が殆ど存在しない部分ができてしまい、この部分では臭気の無臭化が不充分となる。
【0017】
無機多孔質粉体は、その細孔直径10〜50nmの細孔が占める累積細孔容積が全細孔容積の50%以上とされる。累積細孔容積が、全細孔容積の50%(半分)以上を占める直径が10〜50nmの細孔によって、無機多孔質粉体が吸着できる臭気の分子直径が決まる。
そして本発明においては、無機多孔質粉体の細孔の直径が10〜50nmの範囲であれば、分子直径が0.5〜2nm程度の臭気を効率的に吸着できる。
このような分子直径が0.5〜2nm程度の臭気として、これまで気相中での吸着が困難だった2−メチルイソボルネオール(以下、2−MIBと云う)や、ジェオスミンのようなかび臭や、トリメチルアミンや、各種芳香族系物質が挙げられる。従って、本発明に係る消臭材は、前述のかび臭のように分子直径が0.5〜2nm程度の臭気に適用することが好ましい。
【0018】
また、直径が10〜50nmの細孔が占める累積細孔容積が全細孔容積が50%未満の場合は、以下のようになる。すなわち、
・直径が10nm未満の細孔が占める累積細孔容積が全細孔容積が50%以上の場合
分子直径が0.5〜2nm程度の臭気の吸着速度が遅くなるため、本発明の消臭材には適用できない。これは、多くの臭気を吸着する無機多孔質粉体の細孔内部に対して、臭気を取り込む細孔の直径が小さくなって、細孔内部に臭気が容易に入り込むことができなくなるためである。
・直径が50nmを超える細孔が占める累積細孔容積が全細孔容積が50%以上の場合
無機多孔質粉体の比表面積が小さくなり、これに伴って分子直径が0.5〜2nm程度の臭気の総吸着量も少なくなるため、吸着開始後の短時間で吸着の限界量を超えてしまう。従って、分子直径が0.5〜2nm程度の臭気を一定量以上吸着することができない。
【0019】
三価の鉄イオンとの化合物は、三価の電荷を有する鉄イオンと化合した化合物をいう。具体的には、水酸化第二鉄または酸化第二鉄が挙げられる。水酸化第二鉄としては、Fe(OH)3や、オキシ水酸化鉄(α−FeO(OH)[針鉄鉱]、β−FeO(OH)[赤金鉱]、γ−FeO(OH)[鱗鉄鉱]およびリモナイト[褐鉄鉱])が挙げられる。本発明において三価の鉄イオンとの化合物は、気相中の臭気を直接的に無臭化し、また無機多孔質粉体に一旦吸着された臭気を無臭化する。
三価の鉄イオンは、臭気分子の一部をなす、例えば水酸基と結合して、これを臭気分子から奪うことで、臭気分子の構造を変化させて無臭化していると推測される。
【0020】
鉄化合物粉体の平均粒径は、無機多孔質粉体と鉄化合物粉体とを均質になるように分散・混合するために、また得られる消臭材の消臭性を考慮して0.5〜150μmが好ましい。
鉄化合物粉体の平均粒径が0.5μm未満の場合、その粉砕に多大な手間が掛かるため好ましくない。
一方、鉄化合物粉体の平均粒径が150μmを超える場合、無機多孔質粉体と、鉄化合物粉体とを均質になるように分散・混合が困難となるため好ましくない。無機多孔質粉体と、鉄化合物粉体とが均質になるように分散されていないと、消臭材において鉄化合物粉体が殆ど存在しない部分ができてしまい、この部分では臭気の無臭化が不充分となる。
【0021】
更に、臭気は、鉄化合物粉体と接触することで無臭化される。このとき、鉄化合物粉体の平均粒径は、無機多孔質粉体の平均粒径より小さい方が好ましい。これは、1つの無機多孔質粉体に接触できる鉄化合物粉体の総数が多くなるため、無機多孔質粉体に吸着された臭気が多量かつ効率的に無臭化されるためである。
【0022】
消臭材は、100質量部の無機多孔質粉体に対して、1.0〜30質量部の鉄化合物粉体が添加・混合される。
100質量部の無機多孔質粉体に対する鉄化合物粉体の添加量が、1.0〜30質量部であると、無機多孔質粉体に吸着された臭気が、鉄化合物粉体によって無臭化されるとともに、鉄化合物粉体が発する臭気(さび臭)もない状態となる。
鉄化合物粉体の添加量が1.0質量部以上であると、無機多孔質粉体が吸着する臭気の量に対して、鉄化合物粉体が無臭化できる臭気の処理量が多くなるため、無機多孔質粉体に一旦吸着された臭気が再放出されることがない。また、鉄化合物粉体の添加量が30質量部以下であると、さび臭の発生元である鉄化合物粉体が少ないため、鉄化合物粉体自体のさび臭を感じることがない。
【0023】
本願発明に係る消臭材は、無機多孔質粉体と鉄化合物粉体とを均質になるように添加・混合し、消臭材の何れの部分であっても、鉄化合物粉体が偏在しないようすることが好ましい。従って、無機多孔質粉体に対する鉄化合物粉体の添加・混合は、無機多孔質粉体と鉄化合物粉体とが均質になるように分散できる、例えば撹拌部材を備えたミキサーをバッチ式または連続式で使用することができる。
【0024】
なお、本発明の消臭材は粉体であるが、使用に際してはこの粉体に対して成形等の加工を施して、顆粒または所要形状の成形体としてもよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0026】
1.無機多孔質粉体
(1)作製工程
無機多孔質粉体として、後述する方法でそれぞれ得たCSH(低結晶質ケイ酸カルシウム水和物)および純合成トバモライトを使用した。
・CSH:シリカヒューム(ケイ酸質原料)と消石灰(石灰質原料)とをCaO/SiO2モル比が0.6、0.8または1.0になるように調製してそれぞれビーカーに入れた後に、これに20倍の水を加え、80℃に調整したウォーターバス内で6時間撹拌することによってCSHを合成して得た。以下、得られたCSHにつき、原料CaO/SiO2モル比が低い順に、CSH−1、CSH−2またはCSH−3とする。
なお、CSHのケイ酸質原料としては、シリカヒュームの他にクリストバライト、シリカゲル、アエロジルなどの非晶質物質が好ましい。
・トバモライト:活性アルミナと、CaO/SiO2モル比が0.83になるように調製した微粉砕珪石(ケイ酸質原料)および消石灰(石灰質原料)とに20倍の水を加え、183℃、0.99MPa、200回転/分に調整した回転(攪拌)オートクレーブで養生することによってをトバモライトを合成して得た。以下、これをTo−1とする。
なお、トバモライトのケイ酸質原料としては、非晶質シリカも使用できるが、結晶性物質の使用が好ましい。また、活性アルミナは、微粉砕珪石100質量部に対して5質量部使用した。
【0027】
(2)酸化処理工程
(1)で得られたCSH−1、CSH−2およびCSH−3に各種酸化処理を施して、これらから非晶質シリカあるいは非晶質シリカと、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム化合物または硫酸カルシウム化合物との混合物粉体を得た。
(2−1)炭酸化処理工程
CSH−1、CSH−2またはCSH−3をそれぞれ脱水して得た3種類の浸潤物を、それぞれ密閉容器中に入れ、真空ポンプで容器内を脱気した後、市販の純度99.5%の炭酸ガスを容器内に圧力0.2MPaとなるまで導入し、初期温度25℃で18時間保持して炭酸化反応を行なわせた後に乾燥させ、非晶質シリカと炭酸カルシウムとの混合物粉体をそれぞれ得た。
以下、CSH−1、CSH−2またはCSH−3から得られた非晶質シリカと炭酸カルシウムとの混合物粉体を、それぞれC−1、C−2またはC−3とする。
(2−2)リン酸化処理工程
CSH−1を、(a)濃度0.5mol/L(液温100℃)のリン酸水溶液、(b)濃度0.75mol/L(液温80℃)リン酸水溶液または(c)濃度1.0mol/L(液温20℃)リン酸水溶液の何れかに30分間浸漬した後にろ過・乾燥して、非晶質シリカとリン酸カルシウム化合物との混合物粉体をそれぞれ得た。
以下、(a)、(b)または(c)の条件で得られた非晶質シリカとリン酸カルシウム化合物との混合物粉体を、それぞれP−1、P−2またはP−3とする。
なお、リン酸化処理工程で実施される上記(a)〜(c)の操作によって得られるリン酸カルシウム化合物は結晶構造が転移するため、(a)アパタイト、(b)モネタイトまたは(c)ブルシャイトとなる。これを消臭材に用いる場合、
(b)は全細孔容積が(a)〜(c)の中で最も大きくなり、(c)は比表面積が(a)〜(c)の中で最も大きくなり、(a)は作製時にリン酸溶液の使用量が(a)〜(c)の中で最も少なくコストを低減できる。従って、消臭材としての臭気の吸着速度の点では全細孔容積が最大となる(b)モネタイトが好適であり、臭気の総吸着量の点では比表面積が最大となる(c)ブルシャイトが好適と考えられる。
(2−3)塩酸化処理工程
CSH−1を、和光純薬株式会社製の濃塩酸溶液を希釈した4.4mol/Lの塩酸水溶液に対して、液温20℃の条件で、30分間浸漬した後にろ過・乾燥して非晶質シリカを得た。以下、得られた非晶質シリカをH−1とする。
(2−4)硫酸化処理工程
CSH−1を、和光純薬株式会社製の濃硫酸溶液を希釈した1.1mol/Lの硫酸酸水溶液に対して、液温20℃の条件で、30分間浸漬した後にろ過・乾燥して、非晶質シリカと硫酸カルシウム化合物との混合物粉体を得た。以下、得られた非晶質シリカと硫酸カルシウム化合物の混合物粉体をS−1とする。
【0028】
2.無機多孔質粉体に添加する物質(鉄化合物粉体(以下、三価の鉄イオンとの化合物の粉体と云う))
上記1で得られた各無機多孔質粉体に添加する物質として、市販されている以下のものを用いた。なお、何れの物質もその平均粒径は0.5〜150μmの範囲である・
・日本リモナイト株式会社製のリモナイト粉末
・和光純薬株式会社製の水酸化第二鉄試薬
・和光純薬株式会社製の水酸化第一鉄試薬
・汎用の銀粉末
・汎用のパラジウム粉末
【0029】
3.細孔径分布の測定
上記1で得られた無機多孔質体を、メノウ乳鉢によって、粒径0.5〜150μmの粉状になるまで粉砕し、カンタクローム社(Quantachrome Corp.)製オートソーブ−1(Autosorb-1)を使用して、ガス吸着法により細孔径分布を測定した。
測定結果より、それぞれの無機多孔質粉体料の、全細孔容積に占める細孔直径10〜50nmの累積細孔容積の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
4.消臭試験
上記1で得られた各無機多孔質粉体と、上記2で準備した市販の三価の鉄イオンとの化合物の粉体または各金属の粉体とを添加・混合して消臭材を作製し、予め準備された臭気の消臭試験を行った。
(1)試験試料の作製
1.0g秤量したCSH−1(無機多孔質粉体)と、三価の鉄イオンとの化合物である水酸化第二鉄の量が0.01g(1質量部)となるように秤量したリモナイト粉末とを、容積5mlのビニール袋中に入れて、振ることで混ぜた。
なお、リモナイト粉末は、69質量部の水酸化第二鉄を含むため、CSH−1と添加・混合されたリモナイト粉末の重さは、約0.0145gとなる。また以下に記載の各実施例および比較例において、リモナイトを使用する場合は、上記の方法によって、リモナイトに含まれる水酸化第二鉄の量が「添加量」の欄に記載した数値となるようにした。
(2)消臭する臭気の作製
和光純薬株式会社製の2−MIB試薬およびジェオスミン試薬を準備し、それらを揮発させて基準臭気を作製した。なお、2−MIBは、分子式がC1120Oで表され、分子量が168であり、ジェオスミンは分子式がC1222Oで表され、分子量が182である。そしてその分子直径は0.5〜2nm程度である。
(3)試験方法
(3−1)吸着性試験
先ず、近江オドエアサービス株式会社製のフレックサンプラーバッグ(10Lサイズ)に、上記(1)で作製した試験試料を封入する。
次いで、無臭空気10Lを充填した後、そこに上記(2)で作製した基準臭気を200mlシリンジを用いて、後述の六段階臭気強度表示法で臭気強度4になるように注入・調整する。
基準臭気を注入した1時間後に、嗅覚テスト合格者(臭気判定士試験の嗅覚試験法(T&Tオルファクトメーター法)によりパネラーの嗅覚が正常と確認された者)5名による官能試験を実施し、六段階臭気強度表示法による臭気強度によってフレックサンプラーバッグ内の臭気を評価し、これにより消臭材の吸着性を判断した。
(3−2)再放出性試験
上記(3−1)吸着性試験を終えた試験試料をフレックサンプラーバッグから取り出し、別に準備した新しいフレックサンプラーバッグに封入し、次いで、無臭空気10Lを充填する。
60℃の雰囲気下に4時間静置させた後に、同様の官能試験にてフレックサンプラーバッグ内の臭気を評価し、これにより消臭材に一旦吸着された臭気の再放出性を判断した。
(3−3)消臭材の吸着性試験および再放出性試験の評価基準
上記の(3−1)吸着性試験および(3−2)再放出性試験では、何れも試験完了後のフレックサンプラーバッグ内の臭気を臭気強度によって評価した。臭気強度を評価した臭気は、かび臭と、無機多孔質粉体に添加される物質(三価の鉄イオンとの化合物)が発する金属臭(以下、添加金属臭と云う)との2種類である。
なお、無機多孔質粉体に添加・混合されるものとして、三価の鉄イオンとの化合物が使用される場合は、添加金属臭としてさび臭が発生する。
(3−4)消臭材としての総合判定の基準
上記の(3−1)吸着性試験および(3−2)再放出試験の両方の試験で、かび臭および添加金属臭が双方ともに、後述する六段階臭気強度で「0」または「1」であれば、消臭性が充分であるとして総合判定を「○」とした。
なお、添加金属臭の臭気強度で2以上の場合には、添加金属臭が強すぎて、かび臭を感知できなかったため、各表の「かび臭」の評価を「−」(判定不可能)とした。
(4)六段階臭気強度表示法
六段階臭気強度表示法とは、嗅覚を用いる臭気の官能試験において、その臭気の程度を0〜5までの六段階で評価する方法である。0〜5までの臭気の程度を以下に示す。
0:無臭
1:やっと感知できるにおい(検知閾値)
2:何の臭いかが分かる弱いにおい(認知閾値)
3:楽に感知できるにおい
4:強いにおい
5:強烈なにおい
なお通常、六段階臭気強度評価における1段階の差は、濃度にして10倍程度と考えられている。
【0032】
<実施例2〜75および比較例1〜120>
無機多孔質粉体の種類と、これに添加・混合される物質の種類と、この物質の無機多孔質粉体100質量部に対する添加量とを、表1〜表7に記載される内容として調整した他は実施例1と同様にして消臭材を作製して消臭試験を行った。
【0033】
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【0034】
<比較例121〜123>
比較例121、122または123として、下記に示す市販の消臭材を3種類用いて、実施例1と同様に消臭試験を行った。
・比較例121:リモナイト(リモナイト粉末)
・比較例122:ゼオライト系消臭材(銀を担持(5.6質量部)させたゼオライト)
・比較例123:炭系消臭材(パラジウムを担持(15質量部)させた活性炭)
各比較例121〜123の消臭材名や、細孔直径10〜50nmの細孔が占める累積細孔容積の全細孔容積に対する割合や、消臭試験結果を表8に示す。
【0035】
【表8】

【0036】
<結果と考察>
実施例1〜75および比較例1〜123について、得られた消臭試験の結果および本願の消臭材としての総合判定結果を表2〜表8に示した。
・表2:無機多孔質粉体がCSH−1
:実施例1〜7および比較例1〜11
・表3:無機多孔質粉体がTo−1
:実施例8〜14および比較例12〜22
・表4:無機多孔質粉体がシリカ−1〜シリカ−4
:実施例15〜32および比較例23〜53
・表5:無機多孔質粉体がC−1〜C−3
:実施例33〜43および比較例54〜73
・表6:無機多孔質粉体がP−1〜P−3
:実施例44〜61および比較例74〜98
・表7:無機多孔質粉体がH−1またはS−1
:実施例62〜75および比較例99〜120
・表8:市販の消臭材
:比較例121〜123
【0037】
以上の結果より、少なくとも細孔直径10〜50nmの細孔が占める累積細孔容積が全細孔容積が50%以上であり、かつ比表面積が10〜500m2/gである無機多孔質粉体と、前記無機多孔質粉体100質量部に対して、1.0〜30質量部とされる三価の鉄イオンとの化合物の粉体とからなる本発明の消臭材は、かび臭を吸着して無臭化することにより消臭することが確認された。また、無機多孔質粉体に添加・混合された三価の鉄イオンとの化合物の粉体が発する添加金属臭(さび臭)もない。更に、本実施例より本発明における消臭材は、かび臭のような分子直径が0.5〜2nm程度の臭気を効率的に吸着して無臭化することにより消臭できることが確認された。
【0038】
なお、かび臭として使用された2−MIBとジェオスミンの分子直径(0.5〜2nm)と、前述の実施例の結果とから、吸着される臭気の分子直径は、無機多孔質粉体の細孔直径(10〜50nm)の20〜25倍程度がよいと考えられる(分子直径0.5nmの臭気は、10〜12.5nmの細孔直径の無機多孔質粉体に、分子直径2nmの臭気は、40〜50nmの細孔直径の無機多孔質粉体にそれそれ吸着される)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔直径10〜50nmの細孔が占める累積細孔容積が全細孔容積の50%以上であり、かつ比表面積が10〜500m2/gである無機多孔質粉体と、前記無機多孔質体粉体100質量部に対して、1.0〜30質量部とされる三価の鉄イオンとの化合物の粉体とからなることを特徴とする消臭材。
【請求項2】
前記無機多孔質粉体の平均粒径は、0.5〜150μmである請求項1記載の消臭材。
【請求項3】
前記無機多孔質粉体は、
(a):非晶質シリカおよび/またはケイ酸カルシウム水和物の粉体、
(b):炭酸カルシウム、リン酸カルシウム化合物または硫酸カルシウム化合物の中から選択される一種または二種以上の粉体と、非晶質シリカの粉体との混合物粉体、
(c):炭酸カルシウム、リン酸カルシウム化合物または硫酸カルシウム化合物の中から選択される一種または二種以上の粉体と、非晶質シリカの粉体およびケイ酸カルシウム水和物の粉体との混合物粉体、
の何れかである請求項1または2記載の消臭材。
【請求項4】
前記ケイ酸カルシウム水和物は、低結晶質ケイ酸カルシウム水和物、トバモライトまたはゾノトライトの粉体の中から選択される一種または二種以上である請求項3記載の消臭材。
【請求項5】
前記三価の鉄イオンとの化合物の粉体の平均粒径は、0.5〜150μmである請求項1〜4の何れか一項に記載の消臭材。
【請求項6】
前記三価の鉄イオンとの化合物は、水酸化第二鉄である請求項1〜5の何れか一項に記載の消臭材。
【請求項7】
前記三価の鉄イオンとの化合物は、リモナイトである請求項1〜5の何れか一項に記載の消臭材。
【請求項8】
消臭材が除去する臭気は、かび臭である2−メチルイソボルネオールおよび/またはジェオスミンである請求項1〜7の何れか一項に記載の消臭材。

【公開番号】特開2010−131556(P2010−131556A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311496(P2008−311496)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】