説明

涙液メニスカス検査用具及び涙液メニスカス検査用具製造方法

【課題】 涙液メニスカス涙液量を定量測定するより改良された検査用具を提供する。
【解決手段】 涙液メニスカス検査用具1は、細長い形状を有し、その長さ方向に沿って溝3が形成された合成樹脂材料又は合成ゴム材料から成る本体部2と、該溝3内に配置される吸水性部材4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、涙液メニスカス検査用具及び涙液メニスカス検査用具製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、涙液量を測定する方法として5mm程度の幅の濾紙片の先端を下眼瞼の内側と眼球との間に係止させ、涙液の浸透長を測定するシルマー法が知られている。しかし、シルマー試験紙を用いる場合には、眼瞼により試験紙が角膜に押し付けられることにより痛みを伴うため、点眼麻酔をする必要がある。また、シルマー試験紙を下眼瞼に接触させる刺激によって涙液の分泌が増加することもあるので、正確な測定が難しく、更に測定時間が5分間と長くて被験者への負担が大きい。また、時には、眼表面に傷害を与える例もある。
【0003】
シルマー試験紙の代わりに、滅菌した綿糸を使用する方法もある。しかし、測定する方法はシルマー試験紙と同様、下眼駁と眼球との間に係止させるので多少の苦痛をともなう。また、綿糸が涙液を吸収する速度は、綿糸固有の素材の性質による吸収速度に制限されることになる。そのため、綿糸固有の吸収速度を超えて、測定時間の短縮化を図ることは難しい。また、綿糸が伸縮しやすく、濡れた長さを測るのに綿糸自体に目盛りが表示されていないため、別のスケールを当てて読み取らなければならず、面倒である。
【0004】
涙液の検査は滲出量ばかりではなく、質的な検査も考慮しなければならない。その検査方法に涙のクリアランステストがある。この方法は、5%のフルオレセイン色素液を片眼ずつ結膜嚢内に点眼し、5分後にシルマー試験紙にて、何倍に薄まったかを調べるものである。別の検査方法として、涙液層破壊時間測定方(BUT測定)がある。この方法は、フルオレセイン色素で涙を着色し、目を開いてその涙がどれくらいの時間で乾くかを測定するものである。しかしながら、クリアランステストや涙液破壊時間測定法では色素を用いる方法なので、涙液量の少ない被験者にとっては色素が異物として残留するために、角膜に悪影響を及ぼす場合がありうる。
【0005】
また、近年、下眼瞼と眼球との間にできる涙液のメニスカスにある涙液量と病理的症状との間の関係が注目されており、このメニスカス中の涙液量が重視されつつある。しかし、このメニスカス中の涙液の量はせいぜい数μl程度であって少なく、測定が困難であるという問題がある。
【0006】
現在利用できる高価な装置を用いたいずれの検査方法においても、医師が診断する際、スリット(細隙灯顕微鏡)にて、涙液および眼表面を観察しながら測定を行うもので、その場で、短時間に簡単に手でティアメニスカスの定量ができる検査用具は無かった。
【0007】
このような状況下において、涙液メニスカス涙液量を定量測定する検査用具が発明され、本出願の出願人と同一の出願人による特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2005−253700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、特許文献1において、涙液メニスカス涙液量を定量測定する検査用具が開示されている。しかしながら、より改良された検査用具が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る涙液メニスカス検査用具は、上記課題を解決するために、細長い形状を有し、その長さ方向に沿って溝が形成された合成樹脂材料又は合成ゴム材料から成る本体部と、該溝内に配置される吸水性部材とを備える。
【0010】
ここで、前記吸水性部材は、親水性を有する材料により形成することができる。具体的な素材としては、植物繊維もしくは動物繊維、合成樹脂では、レーヨン、アセテート、ニトロセルロース、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ナイロン、ポリプロピレン、ビニル、アクリル共重合体、セルロースポリビニリデンジフロライドなどを親水性化したものがある。親水化には界面活性剤の処理によるものや基材にアミノ基、水酸基、カルボキシル基などの親水基を化学修飾しても良い。
【0011】
前記吸水性部材としては、涙の液量測定のために親水性の各種の濾紙または膜を用いることができるが、例えば、市販の濾過用メンブランまたはクロマト用メンブランがしなやかで眼に刺激を与えることが少ないうえに湿潤速度が速く、一定の湿潤速度と定量性を有するものであるため好ましい。
【0012】
また、吸収した涙液の量を把握しやすくするために、前記吸水性部材の表面の一部もしくは全体にドット状のパターン又はべた塗りで色素を置いても良い。
【0013】
吸水性部材の裏面への着色を容易にするため、また、取り扱いを容易にするために、前記吸水性部材の裏面を薄いフィルムで補強することができる。前記吸水性部材に前記各種メンブランを用いた場合には、メンブランは液の吸収と拡散を助けるように薄膜状で微細な孔径を有する連続多孔質体になっており、体積の大半が空隙になっているので破れやすい。そこで、薄い樹脂フィルムでメンブランを裏打ちすることにより補強して取り扱いしやすくし、さらにこのフィルムを着色することによって、吸水性部材の裏面を着色することもできる。なお、吸水性部材の裏面とは、溝の底部と対向する方の面を示す。
【0014】
前記本体部を構成する部材には、柔軟性があり、吸湿、吸水性が低い合成樹脂が好ましく、ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、ポリイソプレン、シリコーンゴム、ウレタンゴム等が適する。また、白色であればコントラストも良く目視し易いので好ましい。
【0015】
更に、被験者の目に触れる涙液メニスカス検査用具の先端部は、不要な刺激を目に与えないように丸形(半円状あるいは楕円状等の角のない形状)であることが好ましい。また、溝の長さは、先端に開口を形成するように涙液メニスカス検査用具の先端から始まってその終端まで続くものでも良いし、検査用具の手持ち部分を残すように途中で終わっていても良い。
【0016】
涙液メニスカス検査用具の寸法は、手で保持しやすいように、幅1〜5mm、厚さ1mm以下、長さ5〜70mm程度であることが望ましい。また、前記溝に沿って、前記本体部に目盛りが付されているものが好ましい。また、左右の目を区別するために、涙液メニスカス検査用具の後端に文字を印刷したり、カットの切れ目位置を変える等の識別措置を施しても良い。
【0017】
また、本発明に係る涙液メニスカス検査用具の製造方法は、合成樹脂又は合成ゴムから成るシートを打ち抜くことにより細長いスリットを形成し、該シートの片面に粘着フィルムを接着して本体部シートを形成するステップと、吸水性部材シートを細長く切断するステップと、細長く切断した吸水性部材を前記本体部シートの前記スリットにより構成された溝の中に配置して、該溝の底部をなす前記粘着フィルムに接着するステップと、該溝に沿って該本体部シートを細長い形状に切り出すステップとを含むことができる。
【0018】
前記吸水性部材シートの一方の面は、補強フィルムで覆われており、細長く切断された吸水性部材は、補強フィルムが前記粘着フィルムと接するように前記溝にはめ込まれても良く、前記補強フィルムを着色するステップを含むこともできる。
【0019】
また、本発明に係る涙液メニスカス検査用具の製造方法は、合成樹脂又は合成ゴムを押し出し形成又は射出成型して、その長さ方向に沿って凹状の溝が形成されている細長い本体部シートを形成するステップと、一方の面に粘着フィルムを備える吸水性部材シートを細長く切断するステップと、細長く切断した吸水性部材を前記本体部シートの前記溝の中に配置し、前記粘着フィルムを介して溝の底部に接着するステップとを含むことができる。
【0020】
前記吸水性部材シートの前記一方の面は、補強フィルムで覆われており、該補強フィルムの表面に前記粘着フィルムが接着されていても良く、前記補強フィルムを着色するステップを含むこともできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る涙液メニスカス検査用具では、吸水性部材が、吸湿吸水性の低い材料から成る本体部に形成した溝の中に配置されているため、涙液が本体部へと拡散しない。したがって、吸水性部材の一方の端部が被検者に接触して吸水性部材に涙液が吸収されると、その浸透の方向は、吸水性部材のもう一方の端部へと集中する。よって、涙液が微小量であっても、短時間に測定が可能であり、より正確な涙液量を判定することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の第1の実施形態を添付の図により説明する。図1及び図2は、本発明の第1の実施形態に係る涙液メニスカス検査用具を示すものである。図1は、涙液メニスカス検査用具を正面から見た図であり、図2は涙液メニスカス検査用具の分解斜視図である。
【0023】
涙液メニスカス検査用具1は、細長い形状であって、柔軟性を有し、吸湿吸水性の低い材料から成る本体部2を備えている。本体部2には、その長さ方向に沿って溝3が構成されており、この溝3は、涙液メニスカス検査用具1が被験者に接する方の端部(以下、先端部という)と、もう一方の端部(以下、後端部という)において開放端部3a、3bを有している。本体部2の表面には、溝3に沿って目盛りを印刷することができる。
【0024】
この溝3の中には、被験者の下眼瞼に接して涙液を吸収する吸水性部材4がはめ込まれている。吸水性部材4の長さ及び幅は、溝3の長さ及び幅とほぼ同じになるように構成されている。吸水性部材4の厚さは、溝効果の低下を少なくするため、吸水性部材4を溝3内に配置したときに、溝3の高さとほぼ同じ高さか、もしくはそれよりも低くなるように構成している。溝3にはめ込まれた吸水性部材4は溝3の先端開放端部3aにおいて先端方向に露出しており、涙液メニスカス検査用具1の先端部の一部を構成している。
【0025】
図3は本検査用具を線A−Aで切断したときの断面図を示している。図3の態様では、吸水性部材4は、その裏面に補強フィルム7を有しており、本体側部2a、2bとともに、補強フィルム7を介して、固定用粘着フィルム6に固定されている。なお、固定用粘着フィルム6を用いる代わりに、固定用フィルム6に対して接着剤、粘着剤、ヒートシールなどのいずれかの方法によって、吸水性部材4及び本体側部2a、2bを接着しても良い。また、図4に示すように、押し出し形成あるいは射出成型して溝3を有する本体部2を形成して、この溝3の底部に吸水性部材4を補強フィルム7を介して接着することができる。
【0026】
涙液メニスカス検査用具1の先端部は、半円形状に加工されており、吸水性部材4の先端部では、先端から若干離れた箇所に水溶性色素5を置くことができる。水溶性色素5には、例えば、青色1号や天然色素のクチナシ青色色素等の色素を用いることができる。
【0027】
また、左眼用か右眼用かを示す(図示しない)印を涙液メニスカス検査用具1の後端部に付することができる。左眼用と右眼用の印を付けることで、手順よく検査することができ、片眼のみを2回検査してしまう間違いを防ぐことができる。なお、上記実施形態では、溝3は本体部2の長さとほぼ同じ長さに形成され、本体部2の後端部において開放端部3bを有するように構成されているが、溝3を本体部2の後端部より手前で終端させて、この溝3の長さとほぼ同様の長さを有する吸水性部材4を溝3内に配置しても良い。この場合、本体部2において、溝3が終端した位置から本体部2の後端部までの領域に、上記の左眼用か右眼用かを示す印を印刷することができる。
【0028】
被験者の下眼瞼に涙液メニスカス検査用具1の先端部を接触させると、被検者の涙液は、まず、吸水性部材4に吸収され添加された水溶性色素5を溶かし、次いで、溝3の側壁に挟まれた吸水性部材4に沿って、涙液メニスカス検査用具1の後端部に向かう方向に浸透していく。涙液は、溶解した色素と共に浸透し、この浸透は、涙液が眼から供給される限り続く。涙液が浸透した長さは、色素によって容易に目視でき、本体部2の目盛りから読み取ることもできる。
【0029】
次いで、涙液メニスカス検査用具1の使用方法を説明する。
図9に、角膜と下眼瞼との間に沿って涙液メニスカス(または涙三角ともよばれる)が形成されている様子を示す。この涙液メニスカスの涙液には、涙液の表面張力に比例し、その曲率半径に反比例する陰圧が生じており、皮膚粘膜接合部とよばれる凹面が形成されている。
【0030】
そして、角膜の上にはムチンなどの多糖類を多く含む粘液層があり、その上に涙液水層と脂質層が形成されている。そして、涙液水層はその下で涙液メニスカスにつながっている。この涙液メニスカス中の涙液の量がドライアイの病状と大きく関係しているが、その量は極めて少ないので測定が困難であった。しかしながら、本発明に係る涙液メニスカス検査用具1は、下眼瞼の上端であって、この涙液メニスカスに接する程度の位置にその先端を置くことにより、約5秒という短時間で測定を行うことができる。このとき、検査用具の先端が角膜に触れる必要はないので、眼に刺激を与えることも少ない。また、このように短時間で検査することができるので、涙液メニスカス検査用具1は、手で保持するか、簡単な保持具を利用するだけで良い。
【0031】
なお、約5秒間という短期間に涙液メニスカス量の測定が可能である点については、被験者の涙液メニスカスをフルオルセン染色し、本発明に係る涙液メニスカス検査用具1を涙液メニスカスに5秒間当てた後に、被験者の眼に光を当てたところ、染色液であるフルオルセンからの発光がみられなくなっているという実験結果に基づくものである。
【0032】
涙液メニスカス検査用具1では、吸水性部材4が、吸湿吸水性の低い材料の本体部2に形成された溝3に配置されているため、吸水性部材4をそのまま露出した時よりも格段に濡れ速度が増加している。また、溝3を構成する本体部2は、吸湿吸水性の低い材料から成るため、吸収した涙液が本体部2に拡散しない。したがって、涙液の浸透方向は、涙液メニスカス検査用具1の後端部へと向かって集中する。よって、涙液が微小量であっても、短時間に測定が可能であり、より正確な涙液量を判定することが出来る。
【0033】
涙液メニスカス検査用具1を用いることにより、例えば、医師はその場で、短時間(約5秒間)に簡便にティアメニスカス内の涙液量を定量測定でき、細隙灯顕微鏡で涙液及び眼表面を観察しながら検査することができる。被験者にとっては、測定時間が短時間であるため苦痛等の負担が軽減され、従来技術において指摘したような障害を眼表面に与えない。したがって、簡便に被験者の涙液メニスカスを測定するための涙液メニスカス検査用具(ストリップティアメニスコメトリー Strip Tear Meniscometry)を実現する。
【0034】
加えて、本体部2が柔軟性を有するため被験者の苦痛をより低減することができる。また、吸水性部材4を挟み込む本体部2によって、涙液メニスカス検査用具の柔軟性と強度を高めることができ、涙液検査の際に折れたり、極端に曲がったりせずに検査がしやすくなるという効果も備えている。
【0035】
さらに、本体部2の表面には、溝3に沿って目盛りが施されているため、涙液で濡れた長さを簡単に読み取れる。また、左眼用か右眼用かを示す印が涙液メニスカス検査用具1の後端部に付されているため、左右どちらの目を検査したものかを判断しやすくなっている。
【0036】
以下に本発明の第2〜第4の実施形態について説明する。第2〜第4の実施形態における涙液メニスカス検査用具の基本構成及び涙液メニスカス検査用具の使用方法は、第1の実施形態と同様であるが、吸水性部材における色素の添加又は着色方法が異なる。
【0037】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る涙液メニスカス検査用具10を示すものである。涙液メニスカス検査用具1は、第1の実施形態と同様に、細長い形状であって、柔軟性を有し、吸湿吸水性の低い材料から成る本体部12を備えている。本体部12には、その長さ方向に沿って溝13が構成されており、吸水性部材14がこの溝13にはめ込まれている。しかしながら、第1の実施形態とは異なり、色素5を添加しない。色素5を添加する代わりに、吸水性部材14の補強フィルムに着色を施しておく。吸水性部材14が乾いた状態においては、涙液メニスカス検査用具10の正面から、補強フィルムに着色された色は見えない。他方、吸水性部材14が涙液に濡れると、濡れた部分の光の透過度が高まり、吸水性部材14の裏面の補強フィルムに着色した色を目視出来る。したがって、表れた着色部分の長さから、涙液が浸透した長さが判読可能となる。
【0038】
図5に、異なる着色パターンで着色された2種類の吸水性部材14aと14bの着色面(補強フィルムの着色面)を、涙液メニスカス検査用具10の左右に示す。吸水性部材14aの補強フィルムは、比較的濃い色、一色が着色されており、測定時には、涙液で濡れた長さを一色で判読する。吸水性部材14bの補強フィルムは、診断基準を反映したパラメーターを複数の色で色分けしたパターンで着色されており、涙液で濡れた部分の先端が、どの色を示しているかによって、目盛りを読まなくてもドライアイの程度を表示することが可能である。
【0039】
第2の実施態様では、補強フィルムに着色しており、直接吸水性部材に色素を添加していないので、第1の実施形態において用いた水溶性色素による吸水性部材への着色が起こらない。したがって、第1の実施形態による涙液メニスカス検査用具1が発揮する効果に加えて、涙液の質的検査の際に検査色素、例えば、フルオレセインやトリフェニルメタン系色素との混濁が妨げられ、クリアランステストや蛋白質の定性・定量測定が可能となる。なお、これら比色法においては、吸収部材が乾いた後の方が判定し易い。
【0040】
涙液中の蛋白質は涙液の質的な性状を反映している。特にコンタクトレンズ装着者にとって、蛋白質の性状はレンズ素材の選択基準の一つとして重要な要素となる。蛋白質が涙液中に多く含まれるとコンタクトレンズに付着しやすく、汚れの原因となるばかりでなく、酸素透過性を低下させてしまい、レンズの装着感の悪化、視力の低下、角膜障害を引き起こす原因ともなっている。涙液中の蛋白質の検査方法としては、例えば、公開特許公報第2004−347481号に開示されているような、涙液を所定の涙液採取媒体に採取した後、その媒体をトリフェニルメタン系色素と反応させ酸性下の発色において涙液中の蛋白質含量を検出する蛋白誤差法がある。
【0041】
涙液メニスカス検査用具10において、吸水性部材に蛋白質吸着能の優れた官能基をもつ、例えば、ニトロセルロースメンブランを材料として用いることで涙液中の蛋白質を強く吸着させ捕捉することができる(一例として、蛋白吸着能≒30〔μg IgG/cm2〕)。したがって、涙液メニスカス検査用具10で涙液量の測定後、吸着された蛋白質の簡便な検査方法としてトリフェニルメタン系色素を用いた比色分析法、光学的分析法が利用でき、感度の優れた蛋白質の定性的または定量的な測定が可能となる。
【0042】
図6は、本発明の第3の実施形態に係る涙液メニスカス検査用具20を示すものである。涙液メニスカス検査用具20は、第1の実施形態と同様に、細長い形状であって、柔軟性を有し、吸湿吸水性の低い材料から成る本体部22を備えている。本体部22には、その長さ方向に沿って溝23が構成されており、吸水性部材24がこの溝23にはめ込まれている。しかしながら、本実施形態では、第1の実施形態と異なり、吸水性部材24の表面全体にドット状の水溶性色素25を均一に点在させている。水溶性色素25には、例えば、青色1号や天然色素のクチナシ青色色素等の色素を用いることができる。また、水溶性色素25は、例えば市販のインクジェットプリンタによりドット状に印刷することができる。
【0043】
吸水性部材24に吸収された涙液は、均一に点在した複数のドット状の水溶性色素25を溶かし涙液の浸透に伴って色素を後端部方向へ移動させていく。したがって、浸透方向における涙液の端部が色素によって着色されることになり、涙液の浸透した長さが判読可能となる。なお、ドット状の水溶性色素25が密集して配置された場合には、吸水性部材24の表面全体はべた塗り状態となる。吸水性部材24にべた塗りで色素が置かれた場合であっても、同様に、涙液の浸透に伴って溶けた色素が移動し、浸透方向における涙液の端部が着色されて、涙液の浸透した長さが判読可能となる。
【0044】
本実施形態では、吸水性部材24の表面全体にドット状のパターン又はべた塗りで色素が置かれているため、第1の実施形態における涙液メニスカス検査用具1が発揮する効果に加えて、涙液が極微小であって吸水性部材24の先端がほとんど濡れない場合や逆に多量の涙液で検査用具20の限度近くまで湿潤した場合でも、涙液量の浸透を明瞭に目視できるという利点を有する。第1の実施形態においては、涙液量が極少量の時は色素5に涙液が届かない可能性があり、その場合、涙液量の判読は難しい。また、涙液が多量の場合は、一定量の色素5の添加では濡れの長さが長いほど、色素5が薄められ、判読しにくくなってしまう例が稀に起こりうるが、本実施形態ではそのような問題を軽減することができる。
【0045】
またその他の利点として、第1の実施形態では、表示した目盛と色素5を添加する位置を一定にして位置合わせする必要があるが、本実施形態では、ドット状の水溶性色素25は、吸水性部材24の表面全体に均一に点在しているため、上記のような位置合わせが不要であり製造上有利である。なお、べた塗りで色素が置かれた場合も同様の利点を有する。
【0046】
図7は、本発明の第4の実施形態に係る涙液メニスカス検査用具30を示すものである。涙液メニスカス検査用具30は、第1の実施形態と同様に、細長い形状であって、柔軟性を有し、吸湿吸水性の低い材料から成る本体部32を備えている。本体部32には、その長さ方向に沿って溝33が構成されており、吸水性部材34がこの溝33にはめ込まれている。第4の実施形態における吸水性部材34は、第2の実施形態と第3の実施形態における吸水性部材の特徴を備えている。吸水性部材34の表面34aと裏面34bとを図7において涙液メニスカス検査用具30の左右に示す。表面34aにおいては、先端部から特定の距離をおいた地点から後端部にかけて、ドット状の水溶性色素35が均一に点在している。水溶性色素35が点在している領域は図7の表面34aにおいて、Xで示されている。裏面34bでは、先端部おいて、補強フィルムを複数の色で色分けしたパターンで着色している。この色分けしたパターンは、ドライアイの診断基準を反映したものであり、ドライアイの可能性が高い要注意部分を示すものである。色分けしたパターンが着色された領域は、表面34aにおいて、水溶性色素35が点在していない先端部の領域の裏面に対応する。上記のように構成した吸水性部材34を用いることで、各々の色が交じり合うことなくより判読しやすい態様となる。なお、ドット状のパターンの代わりにべた塗りで色素を置いた場合であっても同様の利点を有する。
【0047】
さらに本発明の利点を明らかにするために、本発明における溝効果の実験結果について説明する。この実験においては、吸水性部材4が吸湿吸水性の低い材料から成る溝3に配置された涙液メニスカス検査用具1と、溝3に配置されていない吸水性部材だけとの濡れ速度を比較した。ここで前者を溝タイプ、後者をオープンタイプと呼ぶ。溝タイプには、上記第1実施形態で説明した涙液メニスカス検査用具1を用い、オープンタイプには、この涙液メニスカス検査用具1の先端部から25mmほど、固定用粘着フィルムと本体部2とを取り除いて、吸水性部材4を露出させたものを用いた。本実験で用いる涙液メニスカス検査用具1の溝3を構成する材料はウレタンゴムであり、吸水性部材には、ニトロセルロースのメンブランを用いている。
【0048】
まず、合計10サンプルの前記溝タイプと前記オープンタイプとを交互に、先端部の位置を揃えて両面テープに貼り付けた。これを濡れ速度測定器にて、5秒間青色水溶液に浸し、直ちに引き上げて余分な水溶液を拭き取って、濡れ速度を読み取った。なお、両面テープに貼り付ける際に、中心がずれないように、前記溝タイプは、先端が丸くなっていない後端側を先端部として用いた。各サンプルにおいて青色水溶液が浸透した長さを計測し、その平均値を算出したところ、溝タイプでは平均9.8mmであり、オープンタイプでは平均6.9mmであった。両平均値を比較すると、溝タイプは、オープンタイプの約1.4倍の長さ、すなわちより大きな濡れ速度を実現していた。この実験結果からも明らかなように、本発明は、吸湿吸水性の低い材料から成る溝の中に吸水性部材を配置することにより、吸水性部材の吸収力をより高めている。
【0049】
また、吸水性部材に、ニトロセルロースのメンブランがより好ましいことは、下記に説明するメンブラン濡れ速度測定の実験結果からも明らかである。5種類のメンブラン紙片(1cm×4cm)各10枚を濡れ速度測定器にて、青色水溶液に5秒間浸し、直ちに引き上げて余分な水分を拭き取り、青色水溶液が浸透した長さを測定した。
【0050】
5種類のメンブラン紙片には以下を用いた。
(1)AE100:Schleicher & Schuell 社 ニトロセルロース 孔径12μm、厚み100μm
(2)CN140:Sartorius 社、ニトロセルロース、孔径8μm、厚み140μm
(3)PR:Pall 社、ポリエーテルスルホン表面をニトロ基で修飾(品名Predator)、厚み140μm
(4)SP5:Pall 社、親水性ポリエーテルスルホン、(商品名Supore−5000D)、孔径5μm、厚み140μm
(5)SP0.8:Pall 社、親水性ポリエーテルスルホン、(商品名Supore−800)、孔径0.8μm、厚み140μm
上記(1)〜(3)はイムノクロマト用メンブランであり、(4)及び(5)は精密濾過用メンブランである。
【0051】
測定結果を下記の表に示す。
【表1】

【0052】
上記表に示されるように、上記(1)及び(2)のニトロセルロースのメンブランは、他のメンブランと比較して、青色水溶液が浸透した長さが長い、つまり、濡れ速度が速い。したがって、吸水性部材には、ニトロセルロースのメンブランを用いることがより好ましい。
【0053】
次に涙液メニスカス検査用具の製造方法について図8を参照しながら説明する。ここでは、上記第2の実施形態における吸水性部材14aを用いた涙液メニスカス検査用具10の製造方法を例に挙げて説明する。
吸水性部材14aの製作のため、まず、片面が補強フィルムに覆われたメンブランシートを市販のインクジェットプリンタなどの印刷手段を用いて着色する。この際、着色は、補強フィルムの上に施される。なお、本実施形態においては、着色前の補強フィルムは透明である。着色されたメンブランシートは反転手段によって反転され、着色面が下側になるように配置されて切断手段により極細にカットされる。カットされたメンブランの長さ及び幅は、涙液メニスカス検査用具10の溝13にはめ込むことができる長さ及び幅であるように、カットのサイズは予め設定されている。
【0054】
一方、本体部12の製作のため、ウレタンベースシートの片面に、印刷手段によって、目盛りを印刷する。次に溝抜き手段によって目盛りを印刷したウレタンベースシートの目盛りに沿って溝13を抜く。溝13を抜いたウレタンベースシートの裏面(目盛りが印刷されていない面)に固定用粘着フィルムを貼り合わせる。
【0055】
次いで、カットされたメンブラン、すなわち吸水性部材14aを形成された溝13の底部に沿って配置する。この際、吸水性部材14aは、着色されている補強フィルム面が溝13の底部を構成する粘着フィルムと接するように溝13にはめ込まれ、粘着フィルムによって、溝13の中に固定される。
【0056】
次いで、吸水性部材14aが固定されたウレタンベースシートを、溝13に沿って細長く、また先端部が丸くなるように型抜きすることにより、涙液メニスカス検査用具10が製造される。製品として出荷する際には、本体ストリップをパッケージ後にγ線照射によって滅菌する。
【0057】
なお、図4を参照して前述したように、本発明に係る涙液メニスカス検査用具は、溝を有する本体部を押し出し形成あるいは射出成型して形成することもできる。
【0058】
この場合、吸湿吸水性の低い合成樹脂又は合成ゴムを押し出し形成あるいは射出成型して形成して、本体部シートを作成する。この本体部シートは、右眼用の本体部と左眼用の本体部とを1組として共に形成した本体部シートであり、右眼用と左眼用に、本体部シートの長さ方向に沿って2つの溝が形成されている。図4に示すように、この溝は、本体部の厚さ方向に貫通してはおらず、本体部の厚さ方向において上方に開口した凹部として形成されている。なお、図4には、右眼用又は左眼用の1つの涙液メニスカス検査用具の断面が示されているが、上記本体部シートにおいては、右眼用の本体部と左眼用の本体部とが1組として共に形成されているため、その断面形状においては、本体部シートの厚さ方向において上方に開口した2つの凹部が形成されることになる。次いで、本体部シートの溝が形成されている方の面に、印刷手段によって、目盛りを印刷する。
【0059】
一方、吸水性部材については、片面が補強フィルムで覆われた吸水性部材シートにおいて、補強フィルムの表面に粘着フィルムを接着して、該吸水性部材シートを前記2つの溝に配置できるように、複数の細長い形状に切断する。切断した吸水性部材シートの粘着フィルム側の面が本体部シートにある2つの溝の底部と接するように、切断した該吸水性部材を2つの溝の中にそれぞれ配置し、前記粘着フィルムによって、前記溝の底部と吸水性部材とを固定する。
【0060】
そして、2つの溝の間に長さ方向にわたって切り込みを入れて、右眼用の本体部と左眼用の本体部とに切り離すことにより、涙液メニスカス検査用具を製造することができる。また、上記吸水性部材においては、補強フィルムを着色してから粘着フィルムを該補強フィルムの表面に接着することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る涙液メニスカス検査用具を示す平面概略図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る涙液メニスカス検査用具の分解斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る涙液メニスカス検査用具のA−A線断面の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る涙液メニスカス検査用具のA−A線断面の一例を示す断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る涙液メニスカス検査用具を示す平面概略図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る涙液メニスカス検査用具を示す平面概略図である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る涙液メニスカス検査用具を示す平面概略図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る製造方法を示す概念図である。
【図9】涙液メニスカスの様子を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
1,10,20,30 涙液メニスカス検査用具
2,12,22,32 本体部
3,13,23,33 溝
4,14,24,34 吸水性部材
6 固定用粘着フィルム
7 補強フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長い形状を有し、その長さ方向に沿って溝が形成された合成樹脂材料又は合成ゴム材料から成る本体部と、
該溝内に配置される吸水性部材と
を備える涙液メニスカス検査用具。
【請求項2】
前記吸水性部材が前記溝の底部に接する面に補強フィルムを有する、請求項1に記載の涙液メニスカス検査用具。
【請求項3】
前記補強フィルムが着色されている、請求項2に記載の涙液メニスカス検査用具。
【請求項4】
前記吸水性部材の一部又は全体にドット状のパターンで色素が置かれている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の涙液メニスカス検査用具。
【請求項5】
前記吸水性部材の一部又は全体にべた塗りで色素が置かれている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の涙液メニスカス検査用具。
【請求項6】
前記吸水性部材がニトロセルロースからなるものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の涙液メニスカス検査用具。
【請求項7】
前記本体部が柔軟性を有し、先端部が丸くなっている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の涙液メニスカス検査用具。
【請求項8】
前記本体部に、前記溝に沿って目盛りが表示されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の涙液メニスカス検査用具。
【請求項9】
合成樹脂又は合成ゴムから成るシートを打ち抜くことにより細長いスリットを形成し、該シートの片面に粘着フィルムを接着して本体部シートを形成するステップと、
吸水性部材シートを細長く切断するステップと、
細長く切断した吸水性部材を前記本体部シートの前記スリットにより構成された溝の中に配置して、該溝の底部をなす前記粘着フィルムに接着するステップと、
該溝に沿って該本体部シートを細長い形状に切り出すステップと
を含む涙液メニスカス検査用具の製造方法。
【請求項10】
前記吸水性部材シートの一方の面は、補強フィルムで覆われており、細長く切断された吸水性部材は、補強フィルムが前記粘着フィルムと接するように前記溝にはめ込まれる、請求項9に記載の涙液メニスカス検査用具の製造方法。
【請求項11】
合成樹脂又は合成ゴムを押し出し形成又は射出成型して、その長さ方向に沿って凹状の溝が形成されている細長い本体部シートを形成するステップと、
一方の面に粘着フィルムを備える吸水性部材シートを細長く切断するステップと、
細長く切断した吸水性部材を、前記本体部シートの前記溝の中に配置し、前記粘着フィルムを介して溝の底部に接着するステップと
を含む涙液メニスカス検査用具の製造方法。
【請求項12】
前記吸水性部材シートの前記一方の面は、補強フィルムで覆われており、該補強フィルムの表面に前記粘着フィルムが接着されている、請求項11に記載の涙液メニスカス検査用具の製造方法。
【請求項13】
前記補強フィルムを着色するステップを含む、請求項10又は12に記載の涙液メニスカス検査用具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−259590(P2008−259590A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103224(P2007−103224)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(393030279)丸石化成株式会社 (3)
【出願人】(504042638)株式会社クオリタス. (7)