説明

液体デリバリー組成物

【課題】活性剤の徐放デリバリーシステムの形成に有用な改良された生体適合性の液体デリバリー組成物を提供する。
【解決手段】有効量の(a)水性媒体中に不溶性の生体適合性で生分解性の熱可塑性のポリマー;(b)水性媒体に混和または分散しうる生体適合性の有機溶媒;および(c)医薬活性剤を含む制御放出成分であって、該活性剤と担体分子との複合体を含む制御放出成分を含む、制御放出インプラントを形成するのに適した液体デリバリー医薬組成物であって、該組成物は水性媒体と接触したときに該有機溶媒の該水性媒体中への消散または拡散によって固体インプラントを形成し、該固体インプラントの内部に該制御放出成分が埋設されることを特徴とする組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御放出インプラントを形成するのに適した液体デリバリー医薬組成物および制御放出インプラントとして使用するのに適した医薬ポリマーシステムに関する。さらに詳細には、本発明は、医薬活性剤を含む制御放出成分が、該活性剤と担体分子との複合体を含む、制御放出インプラントを形成するのに適した液体デリバリー医薬組成物および制御放出インプラントとして使用するのに適した医薬ポリマーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
患者に薬剤を連続的に徐放させるために種々のアプローチが開発されている。これら制御放出システム(controlled release systems)は、薬剤の標的部位への制御された放出を維持しながら、送達前に該薬剤を環境から保護すべく設計されている。しかしながら、今日利用できるアプローチはすべて、1またはそれ以上の欠点または制限を有する。
【0003】
従来の多くの制限放出システムは、リポスフェア、リポソーム、マイクロカプセル、マイクロ粒子(microparticules)、およびナノ粒子などのマイクロ構造(microstructures)に基づいている。このようなマイクロ構造は、典型的に分散(dispersion)形態で患者の体内に導入される。マイクロ構造分散形態は多くの応用に有用ではあるが、これらシステムは補綴術の適用に必要な構造的な完全さを有する連続保護フィルム(barrier film)や固体インプラントを形成するために用いることができない。加えて、相当の液体流が存在する体腔、たとえば口や目に挿入されると、マイクロ構造はサイズが小さいことと不連続的な性質のために保持され難い。かかるマイクロ構造ベースのシステムの他の制限は、広範で複雑な外科的介入なしでの導入の可逆性が欠如していることである。導入後に合併症が生じた場合には、マイクロ構造に基づくシステムは固体インプラントに比べて患者の体内から除去するのがかなり困難である。
【0004】
従来の制御されたデリバリーシステムはまたマクロ構造として調製することができる。薬剤などの活性剤をポリマーとともに混練してよい。ついで、この混練物を植え込みのために円筒状、円盤状または繊維状などの特定の形態に成型する。別法として、生分解性ポリマーから形成した固体多孔性インプラントを、上記制御放出マイクロシステムの一つを患者の適所に保持するための容器として機能させることができる。これら固体インプラント法はいずれの場合も、ドラッグデリバリーシステムは典型的に切開によって体内に挿入される。これら切開はしばしば必要以上に大きいものであり、かかる処置を受け入れることに対し患者側で躊躇を呼び起こしうる。
【0005】
従来の制御放出システムのマイクロ構造およびマクロ構造の両構造ともポリマー−薬剤コンジュゲートから調製することができる。そのようなものとして、これらシステムは、同様の構造の他の従来の制御放出システムについて以前に記載されたのと同じ欠点を有する。加えて、ポリマー−薬剤コンジュゲートは、必要なら該コンジュゲートを回収することができないように水溶性のポリマーから調製されうる。ポリマー−薬剤コンジュゲートは加水分解、酵素開裂、または光分解などの種々の薬剤放出機構を担い、放出速度に対して一層高程度の制御を可能とするので、上記欠点なしに調製されることが望ましい。
【0006】
上記システムの欠点は、液体として投与でき(たとえば注射器により)、その後インシトゥで固体インプラントに変換されるドラッグデリバリーシステムを開発することによってある程度克服されている。たとえば、生分解性の制御放出デリバリーシステムとして使用するための液体ポリマー組成物が特許文献1、2および3に記載されている。これら組成物は液体の状態で体内に投与することができる。体内に入ると、これら組成物は凝固または硬化して固体を生成する。一つのそのようなポリマー組成物には、水溶性溶媒中に溶解した非反応性の熱可塑性ポリマーまたはコポリマーが含まれる。このポリマー溶液をたとえば注射器で体内に導入すると、そこで該溶媒の周囲体液中への消散(dissipation)または拡散によって「硬化」または固化する。他の注射可能なポリマー組成物は、インシトゥで硬化しうるプレポリマーの熱硬化システムに基づく。このポリマーシステムには、通常、硬化剤の助けにより架橋して固体を生成することにより硬化する反応性で液体のオリゴマー性プレポリマーが含まれる。
【特許文献1】米国特許第4,938,763号
【特許文献2】米国特許第5,278,201号
【特許文献3】米国特許第5,278,202号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これら注射可能な液体ポリマーシステムは、幾つかの際立った利点を有する。切開の必要性を排除しながら、該液体デリバリーシステムは、補綴デバイスとしてまたは連続保護フィルムとして使用するのに充分な構造的完全さを備えたインプラントの形成を可能とする。固体のインプラントが形成されるので、これら液体システムはまた、相当の液体流が経験される体の部分でマイクロ構造分散形態の場合に観察される消散を回避できる。これら利点にもかかわらず、インシトゥでインプラントを形成するために現在利用できる液体デリバリーシステムは、ある種の望ましい特徴に欠ける。
【0008】
水溶性溶媒中に溶解した生分解性ポリマーおよび活性剤を含む液体デリバリーシステムが体液などの水性媒体と接触すると、該溶媒は水性媒体中に消散または拡散していく。ポリマーが沈殿または凝固して固体マトリックスを形成すると、活性剤はポリマーマトリックス内全体に捕捉またはカプセル内に包括される(encapsulated)。ついで、活性剤の放出はポリマーマトリックス内からの薬剤の溶解または拡散の一般則に従う。しかしながら、液体デリバリーシステムからの固体マトリックスの形成は瞬間的なものではなく、典型的に数時間の期間にわたって起こる。この初期の期間の間の活性剤の拡散速度は、その後に形成される固体マトリックスで起こる放出速度よりもはるかに迅速であるかもしれない。この初期バースト効果(すなわち、最初の24時間に放出される活性剤の量)の結果、固体マトリックスの形成に先立つ多量の活性剤の損失または放出となるかもしれない。とりわけ活性剤が毒性である場合には、この初期放出またはバーストは毒性の副作用を引き起こしかねず、隣接組織に障害を与えるかもしれない。
【0009】
かかる初期バースト効果を減少ないし除去しながらインプラントのインシトゥ形成を可能とする液体デリバリーシステムが開発できれば、それは有意の進歩となるであろう。そのようなデリバリーシステムは、より高濃度の活性剤をインプラント中に安全に導入することを可能とするであろう。そのようなシステムの効率もまた向上するであろう。なぜなら、はるかに多くのパーセントの活性剤が徐放のためインプラント内に保持され、初期バーストの間に失われないからである。場合により、かかる液体デリバリーシステムは、該システムからの活性剤の放出を制御するための幾つかの様式を提供する。これら利点は、かかる処置の適用範囲を広げるとともに毒性の副作用の可能性をも減少させるであろう。それゆえ、液体形態で導入してインシトゥで固体インプラントを形成でき、活性剤の初期バーストを生じることなく患者の体内での活性剤の徐放を容易にするであろう制御放出システムに対する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、活性剤のインビボ送達に有用であり、活性剤の初期バーストを以前に可能であったよりも一層有効に制御することを可能にする液体組成物を提供する。このことは、たとえば、制御放出成分中に活性剤を導入し、該制御放出成分を米国特許第4,938,763号、同第5,278,201号、および同第5,278,202号に記載された液体ポリマーシステムと組み合わせることによって行うことができる。制御放出成分としては、マイクロ構造(たとえば、マイクロカプセル)またはマクロ構造(たとえば、フィルムまたは繊維)制御放出システム、分子制御(molecular controlled)放出システム(たとえば、ポリマー/薬剤コンジュゲート)またはそれらの組み合わせが挙げられる。得られた液体デリバリー組成物には、制御放出成分とともに生体適合性のプレポリマー、ポリマーまたはコポリマーの液体かまたは溶液のいずれかの調合物が含まれる。これら液体デリバリー組成物は、液体の形態で患者の体内に導入されてよい。液体組成物はついで、インシトゥで固化または硬化して制御放出インプラントを形成する。
【0011】
制御放出インプラントをインシトゥで形成するのに用いる調合物は、水性媒体中で実質的に不溶性の生体適合性ポリマー、水性媒体と混和または分散しうる有機溶媒、および制御放出成分を含む液体デリバリー組成物であってよい。生体適合性ポリマーは有機溶媒に実質的に溶解する。制御放出成分は、ポリマー/溶媒溶液中に溶解、分散または飛沫同伴(retrained)してよい。好ましい態様において、生体適合性ポリマーは生分解性および/または生腐食性(bioerodable)である。
【0012】
液体デリバリー組成物は、患者の体の内側かまたは外側のいずれかで固体の制御放出インプラントを形成するのに用いることができる。本発明の一つの態様において、液体デリバリー組成物を患者のインプラント部位に導入し、そこで該組成物が体液と接触したときに固化して制御放出インプラントを形成する。本発明の他の態様において、該液体組成物を水性媒体と接触させることによって固体インプラントを患者の体外に形成させることができる。ついで、該固体インプラントを患者のインプラント部位に挿入することができる。
【0013】
本発明のさらに他の態様において、液体デリバリー組成物は患者の組織上にフィルム包帯(dressing)を形成するのに用いることができる。(フィルム包帯を形成するに有効な)所定量の液体組成物を、噴霧、塗布または噴射(squirting)により組織上に分配させ、液体デリバリー組成物を水性媒体と接触させることにより該組織上にフィルム包帯を生成させる。
【0014】
本発明はまた、液体デリバリー組成物を患者のインプラント部位に注射して固体の制御放出インプラントをインシトゥで形成させることによる、活性剤で患者を処置する方法を包含する。活性剤での患者の処置はまた、液体デリバリー組成物を水性媒体と接触させることによって患者の体外で形成した固体徐放インプラントを患者に挿入することによっても行うことができる。本発明はまた、有効量の液体デリバリー組成物を投与して患者の組織(たとえば、損傷を受けた組織)上にフィルム包帯を形成させることによって該組織を処置することを含む方法を包含する。
【0015】
本発明の他の態様において、活性剤を含む制御放出成分はまた、液体の生体適合性プレポリマーを含む液体デリバリー組成物の一部として患者の体内に導入することができる。この液体プレポリマーは、少なくとも一つの重合可能なエチレン性不飽和基を有する(たとえば、アクリル酸エステル末端プレポリマー)。硬化剤を用いる場合には、硬化剤は典型的に使用の直前に組成物に加える。プレポリマーは硬化剤の導入後の短い期間、液体のままである。この期間の後、液体デリバリー組成物をたとえば注射器で体内に導入することができる。ついで、この混合物はインシトゥで固化して固体のインプラントを形成する。液体デリバリーシステムの他の態様はまた、プレポリマーおよび制御放出成分に加え、孔形成剤(pore-forming agent)または水性媒体と混和または分散しうる有機溶媒を含む。別法として、孔形成剤または有機溶媒は、硬化剤とともにまたは硬化剤の添加直後に液体プレポリマー組成物に加えることができる。プレポリマーとともに孔形成剤または有機溶媒を含む液体デリバリー組成物を用いる場合は、形成されたインプラントは、その中に制御放出成分が埋設された固体の微多孔性(microporous)ポリマーマトリックスを含む。
【0016】
本発明の他の態様は、患者に液体プレポリマー組成物を導入することを含む、患者を活性剤で処置する方法に関する。本発明のさらに他の態様は、有効量の液体プレポリマー組成物を損傷を受けた組織に投与してフィルム包帯を形成させることを含む、患者の損傷を受けた組織の処置に関する。
【0017】
インビボでの活性剤の送達に有用で以前に可能であったよりも一層有効に活性剤の初期バーストを制御することが可能な液体組成物を提供する他の方法は、活性剤を水不溶性の生体適合性ポリマーとコンジュゲートし、得られたポリマー−活性剤コンジュゲートを生体適合性の溶媒中に溶解して米国特許第4,938,763号、同第5,278,201号および同第5,278,202号に記載されたのと同様の液体ポリマーシステムを形成することである。水不溶性の生体適合性ポリマーは、上記特許に記載されたポリマーまたは関連するコポリマーであってよい。
【0018】
加えて、液体ポリマーシステムはまた、活性剤にコンジュゲートしていない水不溶性の生体適合性ポリマーを含んでいてよい。本発明の一つの態様において、これら液体組成物は患者の体内に液体の形態で導入してよい。液体組成物はついでインシトゥで固化または凝固し、活性剤が固体マトリックスポリマーにコンジュゲートした制御放出インプラントを形成する。本発明の他の態様において、液体組成物を水性媒体と接触させることによって固体インプラントを患者の体外で形成することができる。ついで、固体インプラントを患者のインプラント部位に挿入することができる。本発明のさらに他の態様において、液体デリバリー組成物は患者の組織上にフィルム包帯を形成するのに用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、徐放され制御された仕方で活性剤を送達することを可能にする生体適合性の液体デリバリー組成物を提供する。該組成物は典型的に液体の形態で投与する。挿入後、該組成物は固化または硬化して、体液などの水性媒体中で実質的に不溶性の固体またはゼラチン状のマトリックス(「インプラント」)を形成する。所定の調合物中での活性剤の相対的な分配特性に基づき、比較的大量の活性剤の初期放出が観察されるかもしれない。幾つかの場合には、この初期放出は問題とはならないかもしれない、たとえば、活性剤が大きな治療領域(therapeutic window)を有する薬剤であってよい。しかしながら、他の場合には、初期放出は隣接する組織に障害を引き起こすかまたは毒性の副作用に導く。
【0020】
制御放出成分を有する液体ポリマーシステム
初期バーストは活性剤の物理的状態を変更することによって、たとえば、制御放出成分中に活性剤を導入し、ついでこれを液体デリバリー組成物中で溶解、分散または飛沫同伴することにより、減少させまたは回避することができる。たとえば、制御放出成分は、マイクロ構造、マクロ構造、コンジュゲート、錯体(complexes)または低水溶性塩を含む。原則として、制御放出成分から活性剤が放出されるのにさらに必要な時間は、実質的な量の活性剤の初期損失を伴うことなく調合物が固体インプラントに固化することを可能とするであろう。それゆえ、本発明の組成物は活性剤のインビボでの送達に有用であり、活性剤の初期バーストを以前に可能であったよりも一層有効に制御することを可能にするものである。
【0021】
適当な制御放出成分としては、マイクロ粒子、ナノ粒子、シクロデキストリン、マイクロカプセル、ミセルおよびリポソームなどのマイクロ構造が挙げられる。制御放出成分にはまた、繊維、棒(rods)、フィルム、円盤または円筒などのマクロ構造も含まれる。適当な制御放出成分にはまた、活性剤の低水溶性塩、および活性剤が担体分子と機能的に会合した錯体またはコンジュゲートも含まれる。制御放出成分の定義に含まれるものとしては、さらに上記の例示の組み合わせが挙げられる。たとえば、制御放出成分は、活性剤を錯体、コンジュゲートまたは低水溶性塩の一部として含むマイクロカプセルなどのマイクロ構造であってよい。
【0022】
液体デリバリー組成物を注射によって患者に導入する場合には、マイクロカプセルまたはマイクロ粒子のサイズは典型的に500μm以下、好ましくは150μm以下に限定される。500μmよりも大きなマイクロ構造は注射器またはゴム管で送達するのは困難であり、周囲組織には不快または刺激性のものとなる。しかしながら、他の適用において制御放出成分は、繊維、フィルムまたは一層大きなポリマービーズなどのマクロ構造を含んでいてよい。これらは、組成物が固化してその中にマクロ構造が埋設されたマトリックスを形成するように、液体デリバリー組成物の液体部分と分散、飛沫同伴または会合してよい。
【0023】
別のやり方として、液体部分は、マクロ構造を患者の体のインプラント部位に適所に保持する接着剤として働くこともできる。マクロ構造は500μmよりも大きい。マクロ構造のサイズの上限は特定の適用に依存するであろう。
【0024】
固体マトリックスに形成されたら、得られたインプラントは活性剤の制御放出について少なくとも二重のモード−制御放出成分からの活性剤の放出速度に基づく第一のモードおよびインプラントマトリックスからの放出に基づく第二のモードを提供する。第二のモードは、インプラント物質の生分解および/または生腐食の速度に支配され、またインプラントが微多孔性マトリックスである場合には拡散にも支配される。制御放出成分からの放出速度もまた、たとえば制御放出成分がポリマー性のマイクロ粒子またはマイクロカプセルである場合にポリマーマトリックスの生分解および/または生腐食の速度に支配されてよい。放出速度はまた、制御放出成分が担体分子と活性剤とのコンジュゲートを含む場合などに種々の他のプロセスに依存してよい。コンジュゲートからの活性剤の放出速度はまた、該コンジュゲートの分解速度に支配されるかもしれない。
【0025】
特定の制御放出成分の選択は、活性剤の物理特性(たとえば、溶解度、安定性など)並びに液体組成物および得られるインプラントの所望の特性に依存するであろう。制御放出成分は、1またはそれ以上の種々の物質を含んでいてよい。制御放出成分は、ポリマーを、たとえばマイクロ粒子のマトリックスとして、マイクロカプセルのコーティングとして、または活性剤コンジュゲートの担体分子として含んでいてよい。制御放出成分はまた、たとえば活性剤が低水溶性塩として存在する場合などに疎水性の対イオンを含んでいてよい。制御放出成分は、制御放出成分がポリマーコーティング内でカプセル内に包括された活性剤−コンジュゲートとして含む場合などに上記例示の組み合わせを含んでいてよい。
【0026】
制御放出成分は、マイクロ粒子、マイクロカプセルまたはナノ粒子などのマイクロ構造を複数含んでいてよい。マイクロ粒子またはマイクロカプセルは、典型的にサイズが1〜500μmであるが、もっと小さな粒子を用いることもできる(たとえば、サイズ範囲が10nm〜1000nmのナノ粒子)。この文脈におけるマイクロカプセルは、活性剤を含む簡単な貯蔵室(reservoir)物質が膜シェル(membrane shell)によって取り囲まれた貯蔵室システムとして定義される。貯蔵室は活性剤のみを含んでいてよいし、またはポリマーマトリックスや放出速度調節剤などの他の物質を含んでいてもよい。別のやり方として、貯蔵室は活性剤をコンジュゲート、錯体または低水溶性塩の一部として含んでいてよい。マイクロ粒子は、活性剤が典型的にはランダムな仕方で粒子マトリックス内全体に分配された小さなモノリシックな(monolithic)存在である。しかしながら、実際の多くの調合物はこれら2つの定義の中間である。たとえば、マイクロカプセルはマイクロカプセル内包括(microencapsulation)のプロセスの間に塊状になってよい。他の場合において、「マイクロカプセル」システム中に含まれる活性剤粒子のサイズはマイクロカプセルそのもののサイズと同じオーダーであってよい。本発明の目的のためには、「マイクロ構造」なる語はマイクロ粒子、ナノ粒子、マイクロカプセルまたは関連する中間形態を含むものと定義される。これらマイクロ構造を調製するための種々の物理的および化学的方法が開発されており、この技術は十分に確立されており文献に広く紹介されている。たとえば、パトリック・ブイ・ディージー(Patric V. Deasy)、「マイクロエンカプシュレーション・アンド・リレイテッド・ドラッグ・プロセスィズ(Micoroencapsulation and Related Drug Processes)」、マーセル.デッカー(Marcel Dekker Inc.)、ニューヨーク(1984)を参照。マイクロカプセルおよびマイクロ粒子を調製するための種々の例示的方法が知られている(たとえば、米国特許第4,061,254号、同第4,818,542号、同第5,019,400号および同第5,271,961号;およびワキヤマ(Wakiyama)ら、Chem. Pharm. Bull., 29、3363〜68(1981))。所望の化学的および物理的特性に応じて、これら多くの方法を用いてマイクロカプセルまたはマイクロ粒子を調製することができる。
【0027】
マイクロ粒子はリポスフェアの形態であってよい。この場合、マイクロ粒子はリン脂質および場合により、ろうなどの不活性な固体物質を含む。リポスフェアは、その表面に埋設されたリン脂質の層を有する固体の水不溶性マイクロ粒子である。リポスフェアのコアには、固体の活性剤かまたは不活性な固体物質中に分散した活性剤のいずれかが含まれる(たとえば、米国特許第5,188,837号を参照)。
【0028】
活性剤を含むリポソームは、よく知られた方法の一つにより(たとえば、米国特許第5,049,386号を参照)、典型的に水溶液中で形成される。リポソームを含む水溶液は、たとえば、液体プレポリマー中の該溶液の油中水懸濁液を生成することにより本発明の組成物中に配合できる。硬化後、その中にリポソームが埋設されたポリマーマトリックスが形成される。
【0029】
ナノ粒子は、ナノメーターのサイズ範囲(10nm〜1000nm)で調製した、薬剤または他の活性分子の担体である。ナノ粒子中への薬剤の配合は、ポリマーのコロイドコアセルベーション、固体コロイドポリマー担体の表面上への吸着、重合、重縮合、もしくはコアセルベーションによる粒子のコーティング、重合もしくは重縮合によるナノ分画(nanocompartmentation)下での球状ミセルの固化、および電気毛管懸濁化(electrocapillary emulsification)を用いた界面重合法を用いて行うことができる。
【0030】
たとえば、ナノ粒子はグレフ(Gref)らにより記載された(Science、263、1600〜1602(1994))ナノスフェア(nanospheres)を含んでいてよい。ナノスフェアは親油性ブロックと親水性ブロックとを有する2ブロックポリマーから生成することができる。活性剤はナノスフェア全体にわたって分配され、典型的にナノスフェアの親油性コア全体にわたって分子分散(molecular dispersion)として存在する。しかしながら、ナノスフェア中に高負荷で存在する場合には活性剤の相分離が起こることがあり、活性剤の集塊または結晶の形成へと導く。
【0031】
液体デリバリー組成物はまた、繊維、棒、フィルム、円盤または円筒などの幾つかのマクロ構造をも含む。これらマクロ構造は、放出速度を制御する膜によって活性剤が取り囲まれた貯蔵室システム、または活性剤がマクロ構造マトリックス全体にわたって分配されたモノリシックシステムからなっていてよい。
【0032】
本発明の液体デリバリー組成物は、初期バースト効果なしに活性剤を安全に徐放するという利点を提供する。本発明の他の態様において、このことは、コンジュゲートを含む制御放出成分中に活性剤(たとえば、薬剤)を配合することによって達成できる。この文脈におけるコンジュゲートは、活性剤が担体分子に共有結合した制御放出成分として定義される。活性剤を担体分子に共有結合させることにより、活性剤の溶解度および輸送特性が変化する。担体分子は、それ自身生物学的活性を有せず、容易に生分解されるのが好ましい。担体分子は、典型的にポリマーであるが、より小さな有機分子であってもよい。たとえば、活性剤はステアリン酸などの小さな分子に共有結合することができるが、エステルやアミド結合はそれによって活性剤の水溶性を減少させる。
【0033】
薬剤コンジュゲートを調製するのに用いるポリマーは水溶性の、たとえばポリエチレングリコール、ポリ−L−アスパラギン酸、ポリ(グルタミン酸)、ポリリシン、ポリ(リンゴ酸)、デキストラン、およびN−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)のコポリマーであってよい。薬剤コンジュゲートを調製するのに用いるポリマーはまた、ポリグリコリド、ポリ(DL−ラクチド)(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリオルトエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリアルキレンオキサレートなどの水不溶性ポリマー、およびこれらのコポリマー、ターポリマー、または組み合わせまたは混合物をも含む。幾つかのポリマーまたはコポリマーは、分子量およびコポリマー、たとえばポリ(ラクチド−コーリシン)やポリ(ラクチド−コーマロラクトン酸)中に導入されたモノマー比に依存して水溶性かまたは水不溶性かのいずれかであってよい。これらポリマーに薬剤をコンジュゲートするには、ポリマーはヒドロキシル基、カルボキシル基またはアミン基などの反応性基を有していなければならない。これら反応性基はポリマーの末端かまたは主鎖ポリマー構造の側鎖上のいずれにあってもよい。反応性基が末端にある場合には、所望の薬剤装薬を達成するに十分な末端基を有すべく、ポリマーの分子量は比較的低いことが必要である。反応性基を有するポリマーに薬剤を結合させるには多くの方法がある。これらには、p−ニトロフェニルエステル、ヒドロキシスクシンイミドエステルなどの活性エステル基の生成およびジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)の使用が含まれる。ポリマー−薬剤コンジュゲートは、液体ポリマー組成物中にマイクロ構造かまたはマクロ構造かのいずれかとして配合することができる。該コンジュゲートはまた、液体ポリマー組成物中に単に溶解または分散させてもよい。
【0034】
ポリマー/薬剤コンジュゲートの調製には、ポリ(アミノ酸)、ポリ(アミノ酸エステル)、ポリ(カルボン酸)、ポリ(ヒドロキシカルボン酸)、ポリオルトエステル、ポリホスファゼン、ポリアルキレングリコールおよび関連するコポリマーなどの種々のポリマーが用いられている。たとえば、ポリマー/薬剤コンジュゲートの調製には、ポリ−L−アスパラギン酸、ポリ(リシン)、およびポリ(グルタミン酸)などのポリ(アミノ酸)が利用されている。ポリ(乳酸−コーリシン)(PLA/Lys)およびポリ(エチレングリコール)−ポリ(アスパラギン酸)ブロックコポリマーなどの関連するコポリマーも用いてよい。ポリマー/薬剤コンジュゲートの調製に使用するのに適した他のポリマーとしては、デキストランおよびN−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドのコポリマー(HPMAコポリマー)が挙げられる。薬剤コンジュゲートを調製するのに使用するポリマーは、たとえばポリエチレングリコール、ポリ−L−アスパラギン酸、およびポリ(リシン)のように水溶性であってもよいし、またはポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLG)などの水不溶性ポリマーであってよい。使用したコポリマーの幾つか、たとえばPLA/Lysは、コポリマー中に導入したモノマー比に依存して水溶性かまたは水不溶性のいずれであってもよい。担体分子として用いることのできる熱可塑性ポリマーの他の例としては、ポリ(グリコリド)、ポリ(D,L−ラクチド)(PLA)、ポリ(カプロラクトン)(PLC)およびマロラクトン酸とD,L−ラクチドとのコポリマー(PLA/MLA)が挙げられる。
【0035】
液体デリバリー組成物は、有機溶媒と、水性媒体中に実質的に不溶性の熱可塑性ポリマー、たとえば低分子量のPLAまたはPLGに共有結合した活性剤を有するコンジュゲートとからのみなっていてよい。別のやり方として、該組成物は、活性剤に結合した形態と同様に未結合の状態の熱可塑性ポリマーを含んでいてよい。
【0036】
本発明の他の態様において、制御放出成分は、担体分子が活性剤と機能的に会合した錯体を含んでいてよい。錯体はまた、活性剤および担体分子に機能的に会合した金属カチオンを含んでいてよい。たとえば、錯体はカルボキシル基を有する生分解性のポリマーを含んでいてよい。ポリマー上のカルボキシル基は、薬剤および亜鉛、マグネシウムまたはカルシウムなどの金属と配位錯体を形成する。これら錯体は水と接触すると分解してよい。しかしながら、薬剤が錯体の一部であるという事実は、該薬剤が対応する遊離の薬剤と同じくらい迅速にインプラントから拡散されることを回避しうる。
【0037】
制御放出成分は、活性剤の低水溶性塩などの塩を含んでいてよい。本発明の目的のためには、「低水溶性塩」は、25mg/l(25ppm)以下の溶解度の塩として定義される。ここで低水溶性塩の溶解度は、該塩を40℃以下の温度で蒸留水中に4時間分散または撹拌させたときに溶液中で測定しうる塩の量として定義される。低水溶性塩は、典型的に活性剤の対イオンとしての非毒性で水不溶性のカルボキシレートアニオン(たとえば、アニオン形態のパモ酸、タンニン酸またはステアリン酸)を含む。初期バースト効果を減少させるための本発明の方法は、とりわけ活性剤がペプチドなどの水溶性の生物活性剤である場合に有用である(たとえば、米国特許第5,192,741号を参照)。活性剤の低水溶性塩は、本発明の液体デリバリー組成物中に分散させることができる。別のやり方として、低水溶性塩は、液体デリバリー組成物中に配合する前にマイクロ粒子のポリマーマトリックス中にマイクロカプセル内包括または分散させてよい。
【0038】
本発明の制御放出成分は、最終の液体デリバリー組成物中で可溶性かまたは不溶性の、すなわち有機溶媒または液体プレポリマー中で可溶性かまたは不溶性のポリマーまたは物質から調製できる。この調製に用いるポリマーまたは物質が不溶性である場合は、組成物はたとえばマイクロ粒子またはマイクロカプセルの分散液として調製および貯蔵されてよい。該ポリマーまたは物質が原液体組成物中に可溶性である場合は、制御放出成分は使用の直前に該組成物に加え、混合すればよい。かかる組成物を使用する正確な時間ウインドウ(time window)は、特定の組成物中の該ポリマーまたは物質の溶解速度に依存するであろう。たとえば、制御放出成分の該ポリマーまたは物質が原組成物中にわずかに溶解する程度である場合には、該組成物は限られた期間、分散液または混合物として貯蔵することが可能である。別の態様として、制御放出成分が原液体組成物中に可溶性の活性剤コンジュゲートである場合には、該組成物のすべての成分を一緒に混練して使用のかなり前に液体組成物を生成することができる。
【0039】
本発明の一つの態様において、制御放出成分をポリマーまたはコポリマーの溶液調合物中に溶解、分散または飛沫同伴して液体デリバリー組成物を生成することができる。液体デリバリー組成物は、典型的に、生分解性および/または生腐食性で生体適合性のポリマーまたはコポリマーを非毒性の有機溶媒中に溶解して含む。該溶媒は体液などの水性媒体に混和または分散しうるものである。この液体組成物は、患者の体のインプラント部位に注射または挿入することができる。隣接する組織中の体液と接触すると、該液体組成物はインシトゥで固化して制御放出インプラントを形成する。この制御放出インプラントは、その中に制御放出成分が埋設された固体のポリマーマトリックスである。
【0040】
別のやり方として、制御放出成分は、プレポリマーの液体調合物中に溶解または分散させて液体デリバリー組成物を生成することができる。インプラント部位に注射または挿入後、該プレポリマーは硬化して、その中に制御放出成分が埋設された固体のポリマーマトリックスを形成する。硬化工程は硬化剤の使用により、または他の方法、たとえばプレポリマーを電磁放射線に暴露することにより行うことができる。硬化剤を用いる場合には、プレポリマーおよび制御放出成分を含む混合物を生成する。典型的に、注射の直前に硬化剤を該混合物に加えて液体プレポリマー調製物を生成する。
【0041】
本発明の一つの態様において、制御放出成分(活性剤を含む)を液体組成物の一部として患者の体内に導入することができる。該液体組成物は、有機溶媒と組み合わせた、水性媒体中に実質的に不溶性の生体適合性ポリマー、および制御放出成分を含む。該有機溶媒は、水性媒体に混和または分散しうるものである。生体適合性のポリマーは生分解性および/または生腐食性であるのが好ましい。該ポリマーは、典型的にポリラクチド、ポリカプロラクトンまたはポリグリコリドなどの熱可塑性ポリマーである。活性剤は生物活性剤または診断剤であってよい。
【0042】
本明細書において「生物活性剤」とは、薬剤、医薬、または生体に何らかの作用を及ぼしうる他の物質を意味する。本明細書において「診断剤」とは、生理学的状態または機能の検出またはモニターを可能とする物質(造影剤など)を意味する。液体デリバリー組成物は、患者の体のインプラント部位に注射または挿入することができる。隣接する組織中の体液などの水性媒体と接触すると、液体デリバリー組成物はインシトゥで固化して制御放出インプラントを形成する。該液体組成物の有機溶媒は周囲の組織液中に消散し、ポリマーは凝固して固体のインプラントを形成する。このインプラントは、その中に制御放出成分が埋設された固体のポリマーマトリックスである。該インプラントは、薬剤、医薬、診断剤などの活性剤の制御された送達を可能にする。
【0043】
液体組成物はまた、体外でインプラント前駆体を形成するのにも用いることができる。インプラント前駆体の構造は、外側の袋(sack)と液体充填物からなる。インプラント前駆体が患者の体内に導入された後、体液と接触した結果として制御放出インプラントをインシトゥで形成する。インプラント前駆体は、水性媒体に実質的に不溶性の生体適合性ポリマー、活性剤を含む制御放出成分、および水性媒体に混和または分散しうる有機溶媒からなる混合物を含む。
【0044】
本明細書において「インプラント部位」とは、その中またはその上に制御放出インプラントが形成または適用される、たとえば筋肉や脂肪などの柔組織または骨などの硬組織の部位を含む。インプラント部位の例としては、組織再生部位などの組織欠損;歯周ポケット、外科的切開または他の生成したポケットまたは腔などの中空の空隙;口腔、膣腔、直腸腔、鼻腔、目の盲のうなどの天然の腔;および液体デリバリー組成物またはインプラント前駆体を設置し固体インプラントに形成することのできる他の部位が挙げられる。
【0045】
本発明の液体デリバリー組成物は、制御放出成分および有機溶媒とともに生体適合性のポリマーまたはコポリマーを含んでいてよい。米国特許第4,938,763号に開示されているように(該開示を参照のため本明細書中に引用する)、該有機溶媒は生体適合性で水性媒体に混和または分散しうる。液体デリバリー組成物は、任意に、孔形成剤および/または生理学的に許容しうる速度調節剤を含むことができる。液体組成物および得られるインプラント前駆体および/または固体インプラントは、ポリマー、溶媒、制御放出成分およびポリマーマトリックスのいずれもインプラント部位で実質的な組織刺激も壊死も引き起こさないという点で生体適合性である。
【0046】
ポリマーまたはコポリマーは、水性媒体、たとえば体液に実質的に不溶性であり、動物の体内で生分解性および生腐食性および/または生吸収性(bioabsorbable)である。「生分解性」とは、インプラントのポリマーおよび/またはポリマーマトリックスが、酵素の作用によって、加水分解作用によって、および/または人体内での他の同様の機構によって経時的に分解するであろうことを意味する。
【0047】
「生腐食性」とは、インプラントマトリックスが、周囲の組織液中に認められる物質との接触、細胞の作用などを少なくとも一部の原因として、経時的に腐食または分解するであろうことを意味する。「生吸収性」とは、ポリマーマトリックスが、たとえば細胞、組織などによって人体内で分解され吸収されることを意味する。
【0048】
熱可塑性ポリマー
液体デリバリー組成物において有用な熱可塑性ポリマーは、生分解性および/または生腐食性および生吸収性で、熱に暴露されると柔らかくなるが冷却されると元の状態に戻る生体適合性のポリマーを含む。熱可塑性ポリマーは、有機溶媒中に実質的に溶解することができる。熱可塑性ポリマーはまた、溶媒成分がポリマー溶液から消散し、該ポリマーが水性媒体と接触すると凝固または沈殿して外側の膜、および固体の微多孔性マトリックスを構成する内側のコアを形成する。
【0049】
ポリマー溶液に使用するのに適した熱可塑性ポリマーには、一般に上記特性を有するものはいかなるものも含まれる。例としては、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリ無水物、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリジオキサノン、ポリアセタール、ポリケタール、ポリカーボネート、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリアルキレンオキサレート、ポリアルキレンスクシネート、ポリ(アミノ酸)、ポリ(メチルビニルエーテル)、ポリ(無水マレイン酸)、キチン、キトサン、およびこれらのコポリマー、ターポリマー、または組み合わせまたは混合物が挙げられる。ポリラクチド、ポリカプロラクトン、ポリグリコリドおよびそのコポリマーが非常に好ましい熱可塑性ポリマーである。
【0050】
熱可塑性ポリマーを適当な有機溶媒と混合して溶液を生成する。特定の溶媒中でのポリマーの溶解度または混和度は、該ポリマーの結晶化度、親水性、水素結合を形成する能力、および分子量などの因子に依存して変わるであろう。従って、所望の溶解度を得るために溶媒中でのポリマーの分子量および濃度を調節する。熱可塑性ポリマーは低い程度の結晶化度、低い程度の水素結合、水中での低い溶解度、および有機溶媒中での高い溶解度を有するのが好ましい。
【0051】
溶媒
本発明の液体デリバリー組成物に使用するのに適した溶媒は、生体適合性で薬理学的に許容でき、ポリマー成分および水性媒体と混和でき、たとえばインプラント部位の周囲の組織液、たとえば血液の血清、リンパ液、脳脊髄液(CSF)、唾液などに拡散しうるものである。加えて、該溶媒は生体適合性であるのが好ましい。該溶媒は、典型的に約9〜約13(cal/cm31/2のヒルデブラントの溶解度パラメータを有する。該溶媒の極性の程度は、水中で少なくとも約10%の溶解度を与え、ポリマー成分を溶解するに十分なものでなければならない。
【0052】
液体デリバリー組成物において有用な溶媒としては、たとえば、N−メチル−2−ピロリドン;2−ピロリドン;2〜8個の炭素原子を有する脂肪族アルコール;プロピレングリコール;グリセリン;テトラグリコール;グリセリンホルマール;ソルケタール(solketal);酢酸エチル、乳酸エチル、酪酸エチル、マロン酸ジエチル、クエン酸三ブチル、アセチルクエン酸三n−ヘキシル、コハク酸ジエチル、グルタール酸ジエチル、マロン酸ジエチルおよびクエン酸三エチルなどのアルキルエステル;トリアセチン;トリブチリン;炭酸ジエチル;炭酸プロピレン;アセトンおよびメチルエチルケトンなどの脂肪族ケトン;ジメチルアセトアミドおよびジメチルホルムアミドなどのジアルキルアミド;カプロラクタムなどの環状アルキルアミド;ジメチルスルホキシド;ジメチルスルホン;デシルメチルスルホキシド;オレイン酸;N,N−ジエチル−m−トルアミドなどの芳香族アミド;1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オン、および1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノンなどが挙げられる。本発明による好ましい溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ピロリドン、乳酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、および炭酸プロピレンを含む。
【0053】
遅い凝固速度または硬化速度を示すポリマーの凝固速度を増加させるため、種々の程度の溶解度をポリマー成分に与える溶媒の混合物を用いることができる。たとえば、ポリマーを、良溶媒(すなわち、該ポリマーが高度に可溶性である溶媒)および貧溶媒(すなわち、該ポリマーが低い程度の溶解性を有する溶媒)または非溶媒(すなわち、該ポリマーが不溶性の溶媒)を含む溶媒混合物とポリマーを混合することができる。好ましくは、溶媒混合物は、ポリマーが溶液中では可溶性を保持しているが溶媒が周囲の水性媒体、たとえばインプラント部位の組織液中に消散したときに凝固または沈殿するように、貧溶媒または非溶媒と有効量の良溶媒を混合して含有する。
【0054】
液体組成物中のポリマーの濃度は、一般に溶媒の迅速で有効な消散および該ポリマーの凝固または沈殿を可能とするであろう。この濃度は、溶媒1ml当たり約0.01gのポリマーからおよそ飽和した濃度、好ましくは約0.1g/mlからおよそ飽和した濃度、より好ましくは約0.2g/mlから約0.7g/mlの範囲であってよい。
【0055】
熱硬化性ポリマー
インシトゥ形成性の生分解性インプラントもまた、適当に官能化した生分解性プレポリマーを架橋することにより構築することができる。本発明の液体熱硬化性システムは、制御放出成分および反応性の液体プレポリマーを含む。液体プレポリマーは、通常、硬化触媒の助けをかりてインシトゥで硬化して固体マトリックスを形成するであろう。一般に、重合可能な官能基に連結して生体適合性のプレポリマーを生成することができる生体適合性のオリゴマーであればいずれも用いることができる。本明細書に記載する生分解性の熱可塑性ポリマーはいずれも使用できるが、制限となる基準は、これらポリマーの低分子量オリゴマーが液体であること、および重合可能な官能基を含む誘導体化剤と反応しうる少なくとも一つの官能基を有していなければならないことである。適当な液体プレポリマーとしては、誘導体化剤と反応して少なくとも一つの重合可能なエチレン性不飽和基を有するプレポリマーを生成した、ペンダント(pendant)ヒドロキシル基を有するオリゴマーが挙げられる。たとえば、ヒドロキシルを末端に有する低分子量ポリラクチドは、アクリロイルクロライドと反応してアクリル酸エステルで末端がキャッピングされたポリラクチドオリゴマーを生成することができる。プレポリマー上のエチレン性不飽和基は、ついでたとえばフリーラジカル開始剤などの硬化触媒を加えることによって、または電磁放射線に暴露することによって重合することができる。
【0056】
プレポリマーは硬化剤を加えた後も短期間の間は液体のままであろうから、該液体プレポリマーと制御放出成分および硬化剤との混合物は操作でき、たとえば、注射器の中に入れ、患者の体内に注射することができる。ついで、該混合物はインシトゥで固体インプラントを形成し、切開する必要を回避することができる。熱可塑性ポリマーに基づくシステムと同様、活性剤の放出速度は該剤のインプラントからの拡散速度によって影響されるであろう。幾つかの場合には、放出速度はポリマーマトリックスインプラントの生分解および/または生腐食により支配されるであろう。他の場合には、放出速度は制御放出成分からの活性剤の放出速度により支配されるであろう。
【0057】
活性剤
本発明の液体デリバリー組成物は、インプラントまたはフィルム包帯が患者中の隣接または遠位の組織および器官に活性剤のデリバリーシステムを与えるべく、生物活性剤や診断剤などの活性剤を単独または組み合わせて含む。インプラント前駆体またはインプラントに単独または組み合わせて使用できる生物活性剤としては、たとえば医薬、薬剤、または哺乳動物を含む動物の体内で局所的または全身的な生物学的、生理学的または治療学的作用を及ぼすことができ、隣接するまたは周囲の組織液中に固体マトリックスから放出されうる、他の適当な生物学的、生理学的または薬理学的に活性な物質が挙げられる。使用できる診断剤としては、放射診断剤などの造影剤が挙げられる。
【0058】
活性剤はポリマー溶液に可溶性で均一な混合物を生成するか、またはポリマー溶液に不溶性で懸濁液または分散液を生成してよい。植え込んだときに、活性剤はインプラントマトリックス内に埋設されるのが好ましい。マトリックスが経時的に分解するにつれ、活性剤はマトリックスから隣接する組織液中に好ましくは制御された速度で放出される。マトリックスからの活性剤の放出は、たとえば、水性媒体中での活性剤の溶解度、マトリックス内での該剤の分布、インプラントマトリックスのサイズ、形状、多孔性、溶解度および生分解性などにより変わるかもしれない。
【0059】
液体デリバリー組成物は、動物において所望のレベルの生物学的、生理学的、薬理学的および/または治療学的作用を及ぼすのに有効な量にて生物活性剤を含む。液体デリバリー組成物中に含まれる生物活性剤の量の上限は、特定の生物活性剤の薬理学的特性によって規定されるもの以外は一般に存在しない。ポリマー溶液中に配合する生物活性剤の量の下限は、該生物活性剤の活性および治療に必要な期間に依存するであろう。
【0060】
生物活性剤は、動物の生物学的または生理学的活性を刺激してよい。たとえば、該剤は、細胞増殖および組織再生を促進し、産児制限に機能し、神経刺激または骨の増殖を引き起こすことなどができる。有用な生物活性剤の例としては、細胞および組織の増殖および生存を促進でき、または細胞の機能を増強できる物質またはその代謝前駆体、たとえば、ガングリオシド、神経成長因子などの神経成長促進物質;フィブロネクチン(FN)、ヒト成長ホルモン(HGH)、タンパク質成長因子インターロイキン−1(IL−1)などの硬または柔組織成長促進因子;ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウムなどの骨成長促進物質;およびインプラント部位での感染を防御するのに有用な物質、たとえばビダラビン(vidarabine)やアシクロビルなどの抗ウイルス剤、ペニシリンやテトラサイクリンなどの抗菌剤、キナクリンやクロロキンなどの抗寄生虫剤が挙げられる。
【0061】
本発明において使用するのに適した生物活性剤にはまた、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロンなどの抗炎症剤;ペニシリン、セファロスポリン、バシトラシンなどの抗菌剤;キナクリン、クロロキンなどの抗寄生虫剤;ナイスタチン、ゲンタマイシンなどの抗真菌剤;アシクロビル、リバリビン(ribarivin)、インターフェロンなどの抗ウイルス剤;メトトレキセート、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、毒素にコンジュゲートした腫瘍特異的抗体、腫瘍壊死因子などの抗新生物剤;サリチル酸、アセトアミノフェン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、モルヒネなどの鎮痛剤;リドカイン、ブピバカイン、ベンゾカインなどの局所麻酔薬;肝炎、インフルエンザ、麻疹、風疹、破傷風、ポリオ、狂犬病などのワクチン;トランキライザー、B−アドレナリン遮断剤、ドーパミンなどの中枢神経系剤;コロニー刺激因子、血小板由来成長因子、線維芽細胞成長因子、トランスフォーミング成長因子B、ヒト成長ホルモン、骨形成タンパク質、インシュリン様成長因子などの成長因子;プロゲステロン、卵胞刺激ホルモン、インシュリン、ソマトトロピンなどのホルモン;ジフェンヒドラミン、クロルフェンクラミンなどの抗ヒスタミン剤;ジギタリス、ニトログリセリン、パパベリン、ストレプトキナーゼなどの心血管剤;塩酸シメチジン、ヨウ化イソプロパミドなどの抗腫瘍剤;硫酸メタプロテレノール(metaproternal sulfate)、アミノフィリンなどの気管支拡張剤;テオフィリン、ナイアシン、ミノキシジルなどの血管拡張剤;および他の同様の物質が挙げられる。生物活性剤はまた、抗高血圧症剤、抗凝血薬、鎮痙剤、または抗精神病薬であってもよい。本発明に使用しうる生物活性剤の他の例については、1991年10月28日に出願した本願出願人の対応米国特許出願第07/783,512号(その開示を参照のため本明細書中に引用する)を参照。
【0062】
従って、形成されたインプラントは、インプラント部位に隣接するまたは該部位から遠位の組織への薬剤、医薬、他の生物学的に活性な剤および診断剤のデリバリーシステムとして機能しうる。活性剤は制御放出成分中に配合する。本発明の他の態様において、活性剤はまた制御放出成分を取り囲むポリマーマトリックス中に直接配合することができる。
【0063】
液体ポリマー−薬剤コンジュゲート
米国特許第4,938,763号、同第5,278,201号および同第5,278,202号に記載された液体ポリマーシステムからの薬剤の初期バーストはまた、活性剤を水不溶性の生分解性ポリマーに直接コンジュゲートし、ついで得られたポリマー−薬剤コンジュゲートを生体適合性の溶媒中に溶解して上記特許に記載されたものと類似の液体ポリマーシステムを形成することによって減少させまたは回避することができる。水不溶性の生体適合性ポリマーは、これら特許に記載されたポリマーまたは関連するコポリマーであってよい。それゆえ、ポリグリコリド、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリカプロラクトン、ポリオルトエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリアルキレンオキサレート、およびこれらのコポリマー、ターポリマー、または組み合わせまたは混合物(所望の薬剤装薬を達成するに十分低い分子量を有する)を用いることができる。また、ポリ(ラクチド−コ−マロラクトン酸)などの関連するコポリマーまたはターポリマー、または上記ポリマーと他のポリマーとの組み合わせまたは混合物を用い、活性剤がポリマーマトリックスに直接コンジュゲートした固体のインプラントを形成することができる。
【0064】
(D,L−ラクチドとマロラクトン酸との)モノマー比は、特定の適用に所望される水不溶性とカルボキシル基含量との平衡を得るために変えることができる。幾つかの例において、所望の特性を有するコポリマーを得るため、モノマーの他の組み合わせを用いることが有利であるかもしれない。たとえば、MLABEはまた、グリコリドまたはカプロラクトンと重合させて水素化によりベンジル保護基を除去した後に、それぞれ、ポリ(グリコリド−コ−マロラクトン酸)またはポリ(カプロラクトン−コ−マロラクトン酸)を生成することができる。ポリ(D,L−ラクチド/グリコリド/マロラクトン酸)などのターポリマーもまた同方法により調製することができる。
【0065】
孔構造
本発明の液体デリバリー組成物を用いて形成したインプラントは、微多孔性の内部コアおよび微多孔性の外部スキンを含むのが好ましい。典型的に、内部コアの孔は実質的に均質であり、固体インプラントのスキンはコアの多孔性の性質に比べて本質的に非多孔性である。好ましくは、インプラントの外部スキンは内部コアの孔に比べてサイズが有意に小さい直径の孔を有し、たとえば、スキンの平均孔サイズに対するコアの平均孔サイズの比は、約2/1〜約100/1、好ましくは約2/1〜約10/1である。
【0066】
孔は、インプラントのマトリックス内に幾つかの手段により形成することができる。固化するポリマーマトリックスから隣接する組織液中への溶媒の消散、分散または拡散は、ポリマーマトリックス中に孔(孔チャネルを含む)を生成しうる。凝集塊からの溶媒の消散は固体インプラント内に孔を生成する。固体インプラントの孔のサイズは約1〜1000μmの範囲であり、好ましくはスキン層の孔のサイズは約3〜500μmである。固体の微多孔性インプラントは、約5〜95%の範囲の多孔性を有する。スキンは5%〜約10%の多孔性を有し、コアは約40%〜約60%の多孔性を有するのが好ましい。
【0067】
場合により、孔形成剤をポリマー溶液中に含有させてポリマーマトリックス中にさらに孔を形成することができる。このアプローチは、米国特許出願第07/283,512号(その開示を参照のため本明細書中に引用する)に一層詳細に記載されている。適当な孔形成剤としては、糖、塩、水溶性ポリマー、および速やかに分解して水溶性物質となる水不溶性物質が挙げられる。
【0068】
放出速度調節剤
ポリマー溶液にはまた放出速度調節剤を含有させて、固体のインプラントマトリックスからの生物活性剤の制御された徐放を与えることができる。適当な放出速度調節剤としては、モノカルボン酸のエステル、ジカルボン酸のエステル、トリカルボン酸のエステル、ポリヒドロキシアルコール、脂肪酸、グリセリンのトリエステル、ステロール、アルコール、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
本発明を以下の実施例を参照してさらに詳しく記載する。
【実施例1】
【0069】
PLG/NMP中のナルトレキソン/PLAマイクロ粒子
ポリ(D,L−ラクチド)(PLA;約2,000MW;ベーリンガー−インゲルハイム(Boehringer−Ingleheim);レゾマー(Resomer)L104)を融解し、ついで等量のナルトレキソン塩基を加えることにより、テフロン(登録商標)フィルム上で1:1融解/融合混合物を調製した。ついで、この融解物を冷却して融合固体とした。この融合固体をテフロン(登録商標)フィルムから分離し、微細な粉末に破砕した。N−メチルピロリドン(NMP)中のポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLG)の溶液(300mg)に融解/融合ナルトレキソン/PLA粉末(30mg)を加えることにより、ナルトレキソンの5%w/w調合物を調製した。PLG/NMP溶液(300mg)に未処理ナルトレキソン塩基(15mg)を加えることにより、ナルトレキソンの5%w/wコントロール調合物を調製した。10ml容バイアル中のリン酸緩衝食塩溶液(PBS)の5mlアリコートに調合物の1滴を加えることにより、各調合物からのナルトレキソンのインビトロ放出を評価した。このバイアルを37℃で貯蔵し、280nmにおける吸光度を時間の関数としてモニターすることにより、放出されたナルトレキソンの量を測定した。その結果(図1に示す)は、PLG/NMP溶液中に分散させた融解/融合ナルトレキソン/PLAのマイクロ粒子が(PLG/NMP中のナルトレキソンのコントロール溶液に比べて)ナルトレキソンの初期放出を有意に減少させたことを示した。
【実施例2】
【0070】
PLG/NMP中のガニレリックス(Ganirelix)マイクロ粒子
酢酸ガニレリックス(子宮内膜症および前立腺癌の治療に適したGnRHアンタゴニスト)を溶媒不溶性で速生分解性のポリマーのマイクロ粒子中に配合した。このことは、ポリマー/溶媒調合物中でのガニレリックスの溶解度を減少させ、同調合物中での酢酸ガニレリックスの分散特性を促進すべく行った。酢酸ガニレリックス(6mg)およびポリ(セバシン酸)(4mg;「PSA」)を混合して均一な粉末混合物を生成した。この粉末混合物を80℃のホットプレート上で融解し、酢酸ガニレリックスがPSA融解物中で均一に分散するまで混合した。この酢酸ガニレリックス/PSA融解物を室温に冷却して固体を生成させ、ついでこれをクリオーミル(Cryo−Mill)で1分間破砕して微細な粉末を生成させた。この粉末を篩にかけて60μm未満の粒子を集めた。乳酸エチル中に等量のPLAを45℃でソニケーターを用いて溶解することにより、乳酸エチル中のPLAの50:50溶液を生成させた。このPLA/乳酸エチル溶液(4ml)中に酢酸ガニレリックス/PSAマイクロ粒子(1.14g)を加えることにより、最終調合物を調製した。得られた混合物(振盪により十分に混合した)を20ゲージの針で投与することができた。乳酸エチル中でのPSAの溶解度のため、この調合物を混合の1時間以内に使用した。ガニレリックスをPLA/NMP溶液中に単に溶解しただけの場合の調合物では比較的大きな初期バースト効果(投与後の第1日目に>10%)が観察される。このガニレリックスの初期バーストは局所的な組織刺激を引き起こすことができ、臨床的に受け入れられない。インビトロおよびインビボ実験は、酢酸ガニレリックス/PSAマイクロ粒子を有する液体組成物がガニレリックスの高い初期放出を排除することを示した(投与後の第1日目に<3%)。
【実施例3】
【0071】
PLA/NMP中のブタソマトトロピンマイクロカプセル
等量のN−メチルピロリドン中にPLA(2000MW)を溶解することにより(50:50PLA/NMP)、PLA/NMPストック溶液を調製する。カルボキシメチルセルロースマトリックス中に41重量%のブタソマトトロピン(PST)を含むマイクロカプセル(0.2g)をPLA/NMP溶液(2.0g)に加えることにより、PSTマイクロカプセルを含有する液体組成物を調製する。ゼラチンマトリックス中にPSTを含有するマイクロカプセルを50:50 PLA/NMP溶液に加えることにより、同様の調合物を調製する。これら調合物からのPSTのインビトロ放出を、調合物(150〜300μl)を20ゲージの針にてリン酸緩衝食塩水(10ml)中に分散させることにより調べる。マイクロカプセル調合物からの放出速度は、マイクロカプセル単独からのPSTの初期放出よりも有意に低い。
【実施例4】
【0072】
PLG/NMP中のマイクロカプセル内包括した抗精神病薬
ベンズイソアゾールピリミジノン抗精神病薬(APD)(17.0g)を、水溶性で生分解性のポリマー、ポリ(ビニルピロリドン)(「PVP」;MW100,000)、の水溶液(300mlの水中に17.0gのポリマー)に加えることができる。得られた調製物は十分に分散した懸濁液である。この懸濁液を、ビュッヒ(Buchi)190ミニスプレードライヤーを用い、下記パラメータで噴霧乾燥する:11の加熱速度、20の吸引速度、80psiの圧縮空気圧、800NL/時の空気流、0.7mmのノズル開口、167℃の入り口温度、および103℃の出口温度。上記条件で処理して75分後、PVP中にカプセル内包括されたAPDの微細な粉末(3.2g)が得られる。NMP中のポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)(60% 75/25PLG(0.11))の溶液にPVP−カプセル内包括粒子(27mg)を加えることにより、ポリマー溶液中に分散したAPDの5%w/w調合物を調製することができる。同60%PLG/NMP溶液に未処理APD(13.5mg)を加えることによりコントロール調合物を調製した。これら調合物からのAPDのインビトロ放出の評価は、各調合物の1滴を緩衝溶液(10ml容バイアル中)の5.0mlアリコートに加え、37℃で貯蔵することにより行うことができる。吸光度を280nmにて時間の関数としてモニターする。その結果は、固体APD粒子を高分子量の水溶性ポリマーでコーティングするとAPDの初期放出が減少することを示している(図2参照)。
【実施例5】
【0073】
PLG/DMSO中のポリマー結合したクロリンe6
グリシル側鎖を有するN−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド/N−メタクリロイルグリシンコポリマー(HPMAコポリマー)に共有結合したクロリンe6のコンジュゲートを、クリニック(Krinick)、博士論文:コンビネーション・ポリメリック・ドラッグズ・アズ・アンチキャンサー・エージェンツ(Combination Polymeric Drugs as Anticancer Agents)、ユニバーシティー・オブ・ユタ(1992)に記載の手順に従って調製した。このコンジュゲートは、11重量%のクロリンe6および89重量%のHPMAコポリマーを含有した。クロリンe6は、ペンダントグリシン残基のカルボキシル基によりHPMAコポリマーに結合していた。それぞれ0.5重量%のクロリンe6(遊離の薬剤ベースで)を含有する2つの調合物を調製した。これら調合物の一方は、53重量%のPLG(iv=0.11dl/g)、46.5重量%のDMSOおよび0.5重量%の遊離のクロリンe6を含有していた。第二の調合物は、51重量%PLG、44.75重量%DMSOおよび4.25重量%クロリンe6/HPMAコポリマーコンジュゲートを含有していた。これら2つの調合物を数滴、リン酸緩衝食塩水(5ml)中に沈殿させ、試料を環境シェーカー(environmental shaker)に37℃で入れた。溶液中のクロリンe6の濃度を、UV/可視分光光度計(λmax=650nm)を用いて時間の関数としてモニターした。放出された薬剤の累積パーセントを図3に示す。その結果は、クロリンe6がクロリンe6/HPMAコポリマーコンジュゲートを含む調合物からはるかにゆっくりと放出されることを示した。加えて、クロリンe6/HPMAコポリマーコンジュゲート調合物からバースト効果は観察されなかった。
【実施例6】
【0074】
PLG/NMP中のPLA/MLA−p−ドキソルビシン
D,L−ラクチドとマロラクトン酸との水溶性コポリマー(PLA/MLA)の調製は、最初にD,L−ラクチドをマロラクトン酸モノベンジルエステル(MLABE)と共重合することにより行うことができる。得られたコポリマーからのベンジル保護基の除去を水素化により行って、遊離のカルボキシル側鎖基を有するコポリマー(PLA/MLA)を得ることができる。遊離のカルボキシル基をジシクロヘキシルカルボジイミドおよびp−ニトロフェノールと反応させて、ペンダントp−ニトロフェノールエステル基を有するPLA/MLAコポリマーを生成することができる。ドキソルビシンをPLA/MLAコポリマーにアミノリシス反応により結合させてPLA/MLA−p−ドキソルビシンコポリマーを生成することができる。
【0075】
十分なPLA/MLA−p−ドキソルビシンを60:40PLG/NMPストック溶液に添加して、(遊離のドキソルビシンに基づき)2.0重量%のドキソルビシンを有する液体組成物を生成することができる。20mgのドキソルビシンを980mgの60:40PLG/NMPストック溶液に加えることにより、遊離のドキソルビシンのコントロール調合物を調製できる。各調合物からのドキソルビシンのインビトロ放出を、10ml容バイアル中のリン酸緩衝食塩溶液(PBS)の5mlアリコートに調合物の1滴を加えることにより評価することができる。遊離のドキソルビシン調合物は、薬剤の実質的な初期バーストを示してよい。PLA/MLA−p−ドキソルビシンを含む試料からは、3日間の期間にわたって本質的にドキソルビシンが放出されなくてよい。10ml容バイアル中でウサギ腹水の5mlアリコートに調合物の1滴を加えることにより、インビトロ測定を繰り返すことができる。遊離のドキソルビシン調合物は、ドキソルビシンの実質的な初期バーストを示してよい。PLA/MLA−p−ドキソルビシン含有組成物はバーストを示さず、ドキソルビシン放出の速度は遊離のドキソルビシン調合物で観察されるものよりはるかに低いかもしれない。
【実施例7】
【0076】
PLG/NMP中のPLG−t−ドキソルビシン
末端カルボキシル基を有する低分子量のポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLG)をジシクロヘキシルカルボジイミドおよびp−ニトロフェノールと反応させて、末端p−ニトロフェノールエステル基を有するPLGコポリマーを生成させることができる。ついで、ドキソルビシンを該p−ニトロフェノールエステル基と反応させて、該コポリマーの末端カルボキシル基にドキソルビシンが結合したPLGコポリマー(PLG−t−ドキソルビシン)を得ることができる。
【0077】
ついで、PLG−t−ドキソルビシンコンジュゲートを60:40PLG/NMPストック溶液に加えて、(遊離のドキソルビシンに基づき)2.0重量%のドキソルビシンを有する液体組成物を生成することができる。PBSおよびウサギ腹水中でのドキソルビシンの放出速度を標準法を用いて決定することができる。PLA/MA−p−ドキソルビシン組成物で観察されるように、PLG−t−ドキソルビシンを含む試料をPBSに加えてから3日間にわたって本質的にドキソルビシンが放出されない。PLG−t−ドキソルビシン組成物の1滴をウサギ腹水に加えてもバースト効果は観察されない。この場合も、PLG−t−ドキソルビシン組成物からウサギ腹水へのドキソルビシン放出の速度は、遊離のドキソルビシン調合物で観察された速度よりもはるかに低いものである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に溶解した75/25ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLG)中の調合物から放出されたナルトレキソンの累積量を示す。調合物は、遊離のナルトレキソンかまたはナルトレキソンとポリ(D,L−ラクチド)(PLA)との融解融合により調製したマイクロ粒子のいずれかを含んでいた。各調合物は、5.0%w/wのナルトレキソン(遊離薬剤ベースで)を含んでいた。
【0079】
【図2】図2は、NMP中に溶解した75/25PLG中の調合物から放出された抗精神病剤(APD)の累積量を示す。調合物は、遊離のAPDかまたは高分子量ポリ(ビニルピロリドン)(「PVP」)でカプセル内に包括したAPDのいずれかを含んでいた。各調合物は、5.0%w/wのAPD(遊離薬剤ベースで)を含んでいた。
【0080】
【図3】図3は、DMSO中に溶解した75/25PLG中の調合物から放出されたクロリンe6の累積量を示す。調合物は、遊離のクロリンe6かまたは(N−2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)/N−メタクリロイルグリシンコポリマーに共有結合したクロリンe6のいずれかを含んでいた。各調合物は、0.5%w/wのクロリンe6(遊離薬剤ベースで)を含んでいた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の
(a)水性媒体中に不溶性の生体適合性で生分解性の熱可塑性のポリマー;
(b)水性媒体に混和または分散しうる生体適合性の有機溶媒;および
(c)医薬活性剤を含む制御放出成分であって、該活性剤と担体分子との複合体を含む制御放出成分
を含む、制御放出インプラントを形成するのに適した液体デリバリー医薬組成物であって、該組成物は水性媒体と接触したときに該有機溶媒の該水性媒体中への消散または拡散によって固体インプラントを形成し、該固体インプラントの内部に該制御放出成分が埋設されることを特徴とする組成物。
【請求項2】
水性媒体に不溶性の第二の生体適合性で熱可塑性のポリマーをさらに含む、請求項1に記載の液体デリバリー医薬組成物。
【請求項3】
水性媒体と接触したときにスキンによって取り囲まれたコアを有する固体の微多孔性マトリックスを形成し、該スキンが該コアの孔よりも実質的に小さな直径を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の液体デリバリー医薬組成物。
【請求項4】
スキンが5%〜10%の多孔性を有し、コアが40%〜60%の多孔性を有する、請求項3に記載の液体デリバリー医薬組成物。
【請求項5】
組成物のエーロゾル化を有効に可能にする粘度を有する、請求項1または2に記載の液体デリバリー医薬組成物。
【請求項6】
(a)水性媒体に実質的に不溶性の生体適合性で生分解性のポリマーの固体微多孔性マトリックス;および
(b)医薬活性剤と担体分子との複合体を含む制御放出成分
を含み、
その際、該マトリックスは水性媒体と請求項1または2に記載の液体デリバリー医薬組成物との接触により調製されることを特徴とする、制御放出インプラントとして使用するのに適した医薬ポリマーシステム。
【請求項7】
請求項1または2に記載の液体デリバリー医薬組成物から形成された生分解性の微多孔性フィルム包帯。
【請求項8】
水性媒体と接触して置かれた請求項1または2に記載の液体デリバリー医薬組成物から形成され、外側の袋および液体充填物からなる構造を有し、水性媒体とさらに接触したときに有機溶媒の該水性媒体中への消散または拡散によって固体インプラントを形成する、患者に植え込むための制御放出インプラント前駆体。
【請求項9】
熱可塑性ポリマーが、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリ無水物、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリジオキサノン、ポリアセタール、ポリケタール、ポリカーボネート、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリアルキレンオキサレート、ポリアルキレンスクシネート、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(メチルビニルエーテル)、ポリ(無水マレイン酸)、キチン、キトサン、およびこれらのコポリマー、ターポリマー、および混合物よりなる群から選ばれたものである、請求項1に記載の液体デリバリー医薬組成物。
【請求項10】
第二の熱可塑性ポリマーが、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリ無水物、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリジオキサノン、ポリアセタール、ポリケタール、ポリカーボネート、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリアルキレンオキサレート、ポリアルキレンスクシネート、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(メチルビニルエーテル)、ポリ(無水マレイン酸)、キチン、キトサン、およびこれらのコポリマー、ターポリマー、および混合物よりなる群から選ばれたものである、請求項2に記載の液体デリバリー医薬組成物。
【請求項11】
熱可塑性ポリマー、および含まれる場合は第二の熱可塑性ポリマーが、それぞれ独立して、ポリグリコリド、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリカプロラクトン、ポリオルトエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリアルキレンオキサレート、およびこれらのコポリマー、ターポリマー、および混合物よりなる群から選ばれたものである、請求項9または10に記載の液体デリバリー医薬組成物。
【請求項12】
熱可塑性ポリマー、および含まれる場合は第二の熱可塑性ポリマーが、それぞれ独立して、グリコリド、カプロラクトンまたはラクチドのコポリマー、またはD,L−ラクチドおよびマロラクトン酸のコポリマーである、請求項9または10に記載の液体デリバリー医薬組成物。
【請求項13】
有機溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、2〜8の炭素原子を有する脂肪族アルコール、プロピレングリコール、グリセリン、テトラグリコール、グリセリンホルマール、ソルケタール、酢酸エチル、乳酸エチル、酪酸エチル、マロン酸ジブチル、クエン酸三ブチル、アセチルクエン酸三n−ヘキシル、コハク酸ジエチル、グルタール酸ジエチル、マロン酸ジエチル、クエン酸三エチル、トリアセチン、トリブチリン、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、カプロラクタム、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラヒドロフラン、デシルメチルスルホキシド、オレイン酸、N,N−ジエチル−m−トルアミド、およびドデシルアザシクロヘプタン−2−オン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、およびこれらの混合物よりなる群から選ばれたものである、請求項1または2に記載の液体デリバリー医薬組成物。
【請求項14】
医薬活性剤が生物活性剤または診断剤である請求項1または2に記載の液体デリバリー医薬組成物。
【請求項15】
医薬活性剤が抗菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗炎症剤、抗寄生虫剤、抗新生物剤、鎮痛剤、麻酔薬、抗精神病薬、ワクチン、中枢神経系剤、成長因子、ホルモン、抗ヒスタミン剤、骨形成剤、心血管剤、抗腫瘍剤、気管支拡張剤、血管拡張剤、産児制限剤、抗高血圧症剤、抗凝血剤、鎮痙剤、および排卵促進剤よりなる群から選ばれたものである、請求項1または2に記載の液体デリバリー医薬組成物。
【請求項16】
生理学的に許容しうる、放出速度調節剤、孔形成剤、またはその両者をさらに含む、請求項1または2に記載の液体デリバリー医薬組成物。
【請求項17】
医薬活性剤を患者に送達するための制御放出インプラントを形成するための医薬の製造のための、請求項1または2に記載の液体デリバリー医薬組成物の使用方法。
【請求項18】
医薬活性剤を患者に送達するための微多孔性の徐放インプラントであって、液体デリバリー医薬組成物を水性媒体と接触させることによって形成されるインプラントの製造のための、請求項1または2に記載の液体デリバリー医薬組成物の使用方法。
【請求項19】
液体デリバリー医薬組成物が、インプラント部位に噴霧、塗布または噴射することにより分配するための形態である、請求項17または18に記載の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−29821(P2009−29821A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239734(P2008−239734)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【分割の表示】特願平7−526358の分割
【原出願日】平成7年3月27日(1995.3.27)
【出願人】(506041660)キューエルティー・ユーエスエイ・インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】