説明

液体吸収材

【課題】 体液の吸収に優れ、創傷ケア用の包帯として有用な液体吸収材を提供する。
【解決手段】 本発明の液体吸収材は、吸収性物質として、スルホン酸ポリサッカリド、特にセルロースの基が1つのタイプのスルホン酸アルキル基に置換された不水溶性のスルホン酸アルキルセルロースを含む。好ましいスルホン酸アルキルセルロースはスルホン酸エチルセルロースである。さらに、補強繊維及び/又は抗菌薬が、スルホン酸アルキルセルロースに選択的に添加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に創傷ケア用の包帯の製造に有用な液体吸収材に関する。
【背景技術】
【0002】
先進的創傷ケア包帯の構成要素として有用である吸収性繊維は、当該技術分野において知られており、特にアルギン酸、カルボキシメチルセルロース及びカルボキシメチルキトサン及びそれらの塩を基礎とする繊維が知られている。
【0003】
アルギン酸又はその塩の繊維を基礎とする包帯は、創傷体液の吸収性が全体的に良好であるが、創傷体液内に存在するナトリウムイオンと共に繊維構造と化学結合する多価イオンの交換が必要となるため、吸収が遅くなってしまう。このイオン交換はイオンを含む水媒体において繊維に膨潤性を持たせ、多量の体液の吸収を可能にするが、ゲル化した繊維の機械的強度は損なわれ、通常吸水した包帯をそのままの形で取り除くのは不可能となる。しばしば包帯は生理食塩水で洗浄して洗い流す必要があり、このことは患者にとって大変な苦痛となる。
【0004】
カルボキシメチルセルロース繊維も先進的創傷ケア包帯の主要な構成要素として使用されており、これらも多量の創傷体液を吸収する能力を有する。それらのアルギン型包帯に対する利点は、繊維をゲル化するのにイオン交換が必要ないため、体液の吸収が実質的に即時的であることである。加えて、リヨセル等の高度な結晶セルロースに基づく、特にEP0616650(特許文献1)及びEP0680344(特許文献2)に記載されたこれらの繊維は、高いレベルの機械的強度を保持する傾向があり、よって患部を傷付けずに取り除くことが出来る。しかし、この種類の物質の吸収能力は創傷体液のpHに大いに依存しており、酸性pHを劇的に低下させる。このことは、慢性創傷の体液のpHは治癒の状態により4から8の間であるため、深刻な障害である。
【0005】
さらに、創傷の周囲のpHの人工的な低下は治癒結果の向上をもたらす可能性があることは認識されている。例えば、論文により(チオラス(Tsioras)らによる第19回先進的創傷ケア年次シンポジウムで発表された論文、テキサス州サンアントニオ、2006年4月30日から5月3日)、pH2.8であるpH調整クリームを含む創傷包帯を使用すると、創傷が閉じる時間を短縮できることが発見された。他の研究では、pH3.5の液体で治療すると火傷が早く治ることが発見された(カウフマン(Kaufman)ら、熱傷を含む火傷、12(2)、84〜90ページ、1985年)。実際、創傷周囲のpHを低減するための吸収性包帯と共に使用する調合液が商業的に入手可能である。例えば、CADESORB(登録商標)はpHが約4.35である。
【0006】
吸収性包帯を酸性pHで良好に機能させるのが望ましく、また幅広い範囲のpHで良好に機能させるのが好ましい。カルボキシメチルセルロースに基づく吸収性包帯は低いpH環境では良好に機能しないため、低いpHで良好なレベルの吸収を続ける、即時にゲル化可能な吸収性包帯が必要とされている。
【0007】
吸収性包帯に使用される吸収性繊維は、安価で生分解可能にするため、再生可能な資源から得るのが望ましい。それゆえ、吸収性物質の再生可能で生分解可能な資源としてセルロースへ高い関心が寄せられている。介護産業において米国南部松フラッフパルプが吸収性物質として使用されている。しかし、フラッフパルプは、通常他の吸収性物質と共に使用され、また通常アクリル酸重合体のような再生ならびに生分解が不可能な材料と共に使用される。その理由は、吸収した液体がセルロース系繊維専用に作られた材料に効果的に保持されないからである。
【0008】
セルロース繊維はスルホン化、例えばエーテル結合をしながらセルロース骨格を形成するアンヒドログルコースモノマー上の、1つまたは複数のヒドロキシ基におけるスルホン酸アルキルとの置換により改質可能である。このタイプのセルロース誘導体はスルホン酸セルロース又はスルホン酸アルキルセルロースとして知られている。
【0009】
商業的に入手可能なセルロースエーテルは、一般に水溶性化合物である。特に、スルホン酸エチルセルロースは水溶性として知られている。
【0010】
ハーゾグ(Herzog)らによる米国特許第4990609号明細書(特許文献3)は、溶液の質の高いスルホン酸エチルセルロースを開示しており、それはセルロースにアルキル化物質を加え、その後アルカリを加えることにより作られる。このプロセスは旧ソビエト連邦特許第757540号明細書(特許文献4)に開示されるスルホン酸エチルセルロースの生成の2段階プロセスと比較される。
【0011】
スルホン酸エーテルセルロースは、不水溶性の製品を作るためさらに改質されてきた。例えば、グラッセー(Glasser)らの米国特許出願公開第2006/0142560号明細書(特許文献5)は、混合スルホン酸アルキルセルロースに基づく吸収性繊維に言及しており、その中でセルロースはスルホン酸アルキルとスルホン酸ヒドロキシアルキル、特にスルホン酸エチルとスルホン酸2−ヒロドキシプロピルという2つのグループに置換される。改質されたセルロースの不水溶性はスルホン酸2−ヒドロキシプロピルグループの存在によるものと考えられる。
【0012】
シェット(Shet)らによる米国特許第5703225号明細書(特許文献6)は、ヒドロキシスルホン化セルロースである不水溶性のスルホン化セルロースに言及しており、その中でスルホン酸基及びヒドロキシル基の両方の硫黄原子が、セルロース鎖上の炭素原子に直接結合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許EP0616650号明細書
【特許文献2】欧州特許EP0680344号明細書
【特許文献3】米国特許第4990609号明細書
【特許文献4】旧ソビエト連邦特許第757540号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2006/0142560号明細書
【特許文献6】米国特許第5703225号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
創傷包帯に適切に使用されるため、吸収性物質はその一体性を保つ必要があり、そのため不水溶性でなければならない。今日まで吸収性物質として使用するよう開発されてきた不水溶性のスルホン酸アルキルセルロースの重大な欠点は、セルロースの基を少なくとも2種類の基に置換する必要があることである。置換基が1種類の場合と比較すると、反応物質を加え処理工程を行うことは望ましくなく、製造コストを増やす可能性がある。さらに、セルロースが変形するにつれ、生分解性といった自然繊維の利点が損なわれるおそれがある。
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、体液の吸収に優れ、創傷ケア用の包帯として有用な液体吸収材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
驚くべきことに、不水溶性のスルホン酸アルキルセルロースは、セルロースの基をたった1種類のスルホン酸アルキル基で置換することにより調製可能であることが発見された。
【0016】
他のポリサッカリド基質も本発明によるスルホン酸アルキル誘導体に変換可能であるということも当業者には明らかであろう。例えば、キチンとキトサンは、スルホン酸アルキル基との置換反応が起こるC3及びC5の位置においてヒドロキシ基を有するD−グルコサミンユニットに基づく天然ポリサッカリドである。さらに、C2の位置のアミン基での置換が可能であり、窒素を介してスルホン酸アルキル基を結合する。
【0017】
よって、本発明の第1の態様によれば、吸収性物質として不水溶性のスルホン酸アルキルポリサッカリドを有し、ポリサッカリドの基が1種類のスルホン酸アルキル基に置換される液体吸収材が提供される。
【0018】
本発明の変形ポリサッカリドは創傷包帯の吸収性物質として使用するのに大変有利であり、その理由はそれらが液体の吸収性及び保持性が高く、また一体性を十分に保っているため、洗浄を必要とせず、最小限の痛みと出血で患部を傷付けずに取り除くことが可能なためである。カルボキシメチルセルロースと同様、液体の吸収は、繊維がゲル化するのにイオン交換が必要ないため実質的に即時に行われる。しかし、本発明の不水溶性スルホン酸アルキルポリサッカリドはカルボキシメチルセルロースに比べて利点がある。その理由は吸収性能のpHの変化による影響が少ないからである。これらの物資を含む創傷包帯は低いpHで良好なレベルの吸収を継続可能である。
【0019】
本発明による液体吸収材の多くの実施例では、不水溶性のスルホン酸アルキルポリサッカリドは提示された吸収性物質のみで構成される。それらの実施例はヒドロゲル、陰イオン交換樹脂又はそれらの混合体といった他の吸収性物質を含まない。
【0020】
スルホン酸アルキルポリサッカリドは繊維の形態で使用される。その繊維は例えば2mm又は5mmといった数ミリから例えば100mm以上といった数十ミリまで幅広い長さで使用される。しかし、多くの用途において、繊維は20から50mmの長さである。好ましくは、繊維は0.1から30デシテックスの線密度を有し、より好ましくは0.5から20デシテックス、最も好ましくは0.9から3デシテックスの線密度を有する。
ここで、1テックス(tex)とは、繊維1000mあたり重量1gの線密度をいう。また、1デシテックス(dtex)とは、0.1テックス、すなわち繊維10000mあたり重量1gの線密度をいう。
【0021】
スルホン酸アルキルポリサッカリドの「吸収性」とは、スルホン酸アルキルポリサッカリドが液体を吸い上げる能力を指すこととする。スルホン酸エチルポリサッカリドが繊維である好適な実施例においては、液体は内部の繊維構造に吸収され、繊維が膨張する。
【0022】
しかし、本発明の液体吸収材(スルホン酸アルキルポリサッカリドを含む)の吸収性を計測する際、液体吸収材が液体を吸い上げる全体的な吸収性能が計測され、この値は個々の繊維による液体の吸収及びその液体吸収材のオープンな構造による吸収に直接起因する吸収性能を含むこととなる。例えば、液体は空気の空間又は繊維間の容積に引き込まれる。それゆえ、全体的な吸収性能は大きさや織物の繊維間の容積の相互連結性、よってその製造方法に左右されやすい。
【0023】
そのため、その繊維材料の化学的性質がどのようであっても、繊維は吸収性物質として有用である。吸収性を持たないポリマーから作られた繊維材料もいくらかの吸収性を示すが、それは液体が繊維間の容積に引き込まれるからである。
【0024】
液体吸収材の全体的な吸収性能の計測は、創傷包帯等に使用される吸収性物質としての液体吸収材の有効性を決定するのに便利で効果的な方法である。しかしながら、本発明で記載される吸収性物質の、従来技術に記載される吸収性物質と比較した利点は、主として化学的性質及び使用される材料から得られる吸収性によるものであり、特にポリサッカリドが1種類のスルホン酸アルキルに置換される不水溶性スルホン酸アルキルポリサッカリドの使用によるものである。
【0025】
スルホン酸アルキルポリサッカリドはスルホン酸アルキルセルロースでもよく、以下の記述は主に発明のそのような実施例について述べることとする。但し、他のポリサッカリドを使用してもよい。
【0026】
好ましくは、スルホン酸アルキル置換基のアルキル部分は、炭素原子数が1から6までの低アルキルであり、好ましくはメチル、エチル、プロピル及びブチルである。好ましくは、アルキル部分は他の置換基、例えばヒドロキシ基によって置換されない。アルキル部分は分岐していてもしていなくても良く、よって適切なスルホン酸プロピル置換基は1−又は2−メチル−スルホン酸エチルである。スルホン酸ブチルの置換基は2−エチル−スルホン酸エチル基、2,2−ジメチル−スルホン酸エチル基、又は1,2−ジメチル−スルホン酸エチル基でも良い。最も好ましいスルホン酸アルキル置換基はスルホン酸エチル基である。本発明は、2−スルホン酸ヒドロキシプロピルであるスルホン酸アルキル置換基を有するスルホン酸アルキルセルロースを含んではいない。
【0027】
よって、本発明の好ましいスルホン酸アルキルセルロースは、スルホン酸エチルセルロースであり、それはスルホン酸エチル又はその塩の1つがセルロースのアンヒドログルコースユニットの1つ以上のヒドロキシ基を介して結合しているものである。1つのスルホン酸エチル基に置換される1つのアンヒドログルコースユニットの構造は化学式1(化1)に記載される。
【化1】

【0028】
化学式1は本発明により調製されたスルホン酸エチルセルロースの正確な化学構造を描くためのものではない。その理由は可能な最大置換度までの全ての配分において、高分子セルロース内でヒドロキシ基がいかなる位置にあっても置換は起こり得るからである。
【0029】
平均置換度とは、スルホン酸アルキルの置換基と置換されるヒドロキシル位置の平均数、或いは他の言い方では、セルロースポリマー内のアンヒドログルコースユニットの、モル当たりのスルホン酸アルキル基の平均モル数である。よって、アンヒドログルコースユニットが全部で3つのヒドロキシル位置で置換された場合、最大置換度は3である。1つのヒドロキシ基の平均がアンヒドログルコースユニット当たりで置換された場合、置換度は化学式1に示すように1である。
【0030】
本発明のスルホン酸アルキルセルロースの機能的特性は置換度、セルロース骨格構造の鎖の長さ、及びスルホン酸アルキルの置換基の構造に依存する。溶解度や吸収性は置換度に大いに依存する。置換度が高まるにつれ、スルホン酸アルキルセルロースの溶解性は次第に高まる。その結果、溶解性が高まるにつれ、吸収性が高まる。
【0031】
吸収性の高い創傷包帯において有用とするため、吸収性物質の繊維は、以下の実験例1に記載される方法で計測されるように、0.9%の食塩水でグラム当たり少なくとも8グラム(g/g)の吸収性を有するのが好ましい。本発明の好ましいスルホン酸アルキルセルロースの繊維は、(0.9%の食塩水で)少なくとも8g/g、より好ましくは9g/g、最も好ましくは少なくとも10g/gの吸収性を有する。
【0032】
しばしばチュールとして知られる、非接着性の創傷接触層のみを提供する他の種類の創傷ケア包帯は、そのような高いレベルの吸収性を必要とせず、その理由は、それらが創傷滲出液の発生量が比較的少ない創傷に使用され、或いは接触層の上表面に、より吸収性の高い層が使用されるからである。しかし、そのような接触層のカギとなる属性は、それらが創傷床に接着しないことである。繊維の吸収性が2g/gより大きいスルホン酸アルキルセルロース繊維を有する繊維材料は、繊維が十分な滲出液を吸収する時に良好な接触層包帯を提供し、よってゲル状の材料を形成して非接触性表面を形成する。よって、他の態様において、本発明のスルホン酸アルキルセルロースは(0.9%の食塩水で)2g/g、4g/g、又は6g/gより大きい吸収性を有する。
【0033】
好ましくは、平均置換度は、スルホン酸アルキルセルロースを実質的に不水溶性にするのに0.4より小さくなる必要があることが分かっている。この文脈での「実質的に」というのは、スルホン酸アルキルセルロースが過度の水媒体にさらされた時、溶液に溶解しないか、又は少なくとも溶解が大変少なくポリマーの性質に重要な影響をもたらさないことを意味する。
【0034】
平均置換度は、好ましくは0.4より少なく、より好ましくは0.3より少ない。本発明のいくつかの好ましい実施例において、スルホン酸アルキルセルロースの平均置換度は約0.05から約0.4であり、より好ましくは約0.1から約0.3である。
【0035】
本発明による炭素原子数が2から6のるアルキル基を含むスルホン酸アルキルセルロースは、セルロースをスルホン酸アルキル又はその塩の1つで、塩基の存在下、好ましくは水媒体か非水溶媒のアルカリ金属水酸化物の存在下で反応させることにより形成される。炭素原子数が1のスルホン酸アルキルセルロース、即ち、スルホン酸メチルセルロースは、スルホン酸クロロメタン又はその塩の1つで、塩基の存在下、好ましくは水媒体か非水溶媒のアルカリ金属水酸化物の存在下で反応させることにより形成される。
【0036】
アルカリ化反応及びスルホン酸アルキル化反応(この場合はエーテル化ステップ)は、1つのステップとして実行可能であり、塩基とスルホン酸アルケニル又はクロロスルホン酸メチルが1つの反応槽に同時に加えられる(「ワンポット」法という)。
あるいは、アルカリ化反応及びスルホン酸アルキル化反応は、2つの反応ステップにより実行可能であり、セルロースをまずアルカリで、その後スルホン酸アルキル化剤で処理する。又は、まずスルホン酸アルキル化剤で、その後アルカリで処理する。
【0037】
好ましくは、アルカリ化反応及びスルホン酸アルキル化反応(1つのステップ又は2つのステップでも)は、水媒体で実行される。より好ましくは、アルカリ化反応及びスルホン酸アルキル化反応は水中で実行される。一般に、イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノール、メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、及びジエチルエーテルといった有機溶媒の使用は避けたほうが好ましい。
【0038】
ワンポット法は簡単で迅速であり、反応数を最小にすることにより高い収率が得られるため望ましい。
【0039】
本発明のスルホン酸アルキルセルロースを調製するためアルカリ及びスルホン酸アルキル化剤をワンポット法で同時に使用すると、アルカリ化反応とスルホン酸アルキル化反応とが別々のステップで行われる同様の反応でみられるものに比べて高い反応率が得られる。上述の通り、置換度が高くなるにつれ、スルホン酸アルキルセルロース材料の吸収率も高くなる。よって、反応率は特定の程度の吸収性を有する製品を生産するためのスルホン酸アルキル化反応にかかる時間を計測することにより決定できる。実際には、特定の吸収率レベルで反応を止めるのは容易ではない。それでもなお、14.2g/gの吸収性に達するのに90分かかる反応は、ほんの9.7g/gの吸収性に達するのに120分かかる反応よりずっと早いことが明らかである。
【0040】
反応混合物内の水の量もまた、反応率に影響を与える。アルカリ化反応とスルホン酸アルキル化反応とが同時に実行される反応における水の量を低下させることは、反応率を大幅に高める。アルカリ化反応とスルホン酸アルキル化とが別々に行われる反応のスルホン酸アルキル化ステップにおける水の量の低下も反応率を高めるが、その程度は比較的小さい。
【0041】
ワンポット法はまた、セルロースを塩基にさらすのを最小にすると考えられる。そのため、セルロースのアルカリ化及び酸化変性を最小限に保つことが出来る。改質セルロースが創傷包帯の吸収性物質として有用となるほど十分に強く、実際に製品の乾燥強度及び湿潤強度を最大にするのを確実にするため、処理の間セルロースの変性を最小にする必要がある。
【0042】
しかし、ワンポット法で形成される繊維の強さは、反応混合物で使用された水の量に応じて、アルカリ化反応とスルホン酸アルキル化反応とを別々のステップで行って形成した繊維より意外にも大幅に弱いことが分かっている。
【0043】
反応において多い量の水が使用されると、ワンポット法で形成されたスルホン酸アルキル化セルロースは類似した2ステップのプロセスで形成されたスルホン酸アルキルセルロースに比べて驚くほど低い繊維強度を有する。繊維があまりにも弱いため、通常の不織布の繊維加工法を使用したプロセスに適していない。反応で使用される水の量を少なくすると、反応率は高まり、また繊維強度が使用可能なレベルまで高まる。しかし、実用可能にするにはある量の希釈剤が必要であり、特にセルロースを湿らせて均一及び完全な反応を確実にする際に必要である。
【0044】
本発明の更なる態様によると、不水溶性のスルホン酸アルキルセルロースを調製する調製方法が提供され、そのプロセスはセルロースとアルカリ、及びスルホン酸アルキル化剤との同時反応を含み、唯一の溶媒は水であり、反応中に存在する水の重さは(乾燥)セルロースの重さの1070%より少なく、好ましくは1050%より少なく、好ましくは1030%より少ない。約15g/gの繊維の吸収性は、乾燥重量ベースで1027%の水で達成された。
【0045】
反応中に存在する水の重さは、好ましくは(乾燥)セルロースの重さの200%より大きく、好ましくは300%より大きく、好ましくは400%より大きい。それゆえ、反応中に存在する水の重さは好ましくは(乾燥)セルロースの重さの200から1070%、好ましくは300から1050%、より好ましくは400から1030%の間である。最も好ましくは、反応中に存在する水の重さは(乾燥)セルロースの重さの約1027%である。
【0046】
本発明のさらなる態様によると、不水溶性のスルホン酸アルキルセルロースの調製方法が提供される。そのプロセスは、以下のようである。
(a)セルロースをアルカリと共に処理し、
(b)ステップ(a)の製品をスルホン酸アルキル又はその塩、或いはスルホン酸クロロメタン又はその塩と反応させ、
(c)ステップ(b)の製品を分離する別々のステップを含み、唯一の溶媒は水である。
この2ステップのプロセスは、ステップ(b)で使用される水の量が(乾燥)セルロースの重さの1070%より大きい場合、驚くほど有益である。
【0047】
本発明の他の態様においては、スルホン酸アルキルセルロース繊維を有する液体吸収材が提供される。完全に水和すると、液体吸収材は実質的に透明となる。このことは下にある創傷の状態を包帯を取り除かずに判断できるため、創傷ケアの用途において有利である。
【0048】
他の態様では、本発明は吸収性繊維製品に向けられており、その吸収性繊維製品は、不水溶性スルホン酸アルキルポリサッカリドに混合又は結合された補強繊維で補強された本発明のスルホン酸アルキルセルロースを備える。シース−コア型のバイオコンポーネントファイバの使用は特に有利であり、その理由はシース材料がコアより低い温度で溶解し、そのため結合時に強い、溶解されていないコア上部構造が残されるからである。本発明において、ポリオレフィン(好ましくはポリプロピレンコア/ポリエチレンシース)に基づく熱可塑性のバイオコンポーネントファイバがスルホン酸エチルセルロース繊維を補強するために使用されると、重さで20%の量まで、得られる繊維の吸収性は実質的に非吸収性の疎水性補強要素により損なわれないことが思いがけず分かった。さらに、低い線密度を有する補強繊維を使用すると、繊維の重量を減らし、その結果液体吸収材の透明度が高まる。
【0049】
また他の態様では、本発明のスルホン酸アルキルセルロースを有する液体吸収材は、2Lの水で16.6gのNaClと0.74gのCaCl二水和物を溶解して調製したナトリウム/カルシウム試液を使用して、少なくとも15g/gの吸収性を示す。好ましくは、補強繊維を使用しても吸収性は損なわれず、一方湿潤強度は高められる。それゆえ、スルホン酸アルキルセルロース繊維と補強繊維を有する混合製品の吸収性は、好ましくは、ナトリウム/カルシウム試液を使用して少なくとも15、16、17、18、19又は20g/gである。混合製品の湿潤強度は、好ましくは、ナトリウムカルシウム試液及び第9実験例に概略を示す引張試験機を使用して、1,2,3,4,5又は6N/cm/100gsm(ここでgsmは平方センチメートル当たりのグラム)である。
【0050】
さらに他の態様では、スルホン酸アルキルポリサッカリド繊維と本発明の液体吸収材に1つ又は複数の抗菌薬が添加される。好適な物質は、銀及び/又はポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)を含む。製品の銀カチオンの重量は好ましくは約0.5から10重量%、好ましくは約0.5から5重量%、好ましくは約1から3重量%、より好ましくは約1.5から2.0重量%である。PHMBの重量は好ましくは約0.1から5%、好ましくは0.1から1%、好ましくは0.5から0.7重量%である。
【0051】
本発明はまた、スルホン酸エチルセルロースといったセルロース製品に金属イオン(たとえば銀)を添加する新規な方法に向けられている。特に、まず、最小量の液体を細かく分散させるという条件で、繊維を早期にゲル化せず、銀の水溶液(好ましくは有機溶媒要素を含まない)をエチルスルホン酸セルロースに添加する。そのような添加は、銀塩のエアロゾル溶液を高濃度でスプレーして十分な銀塩が抗菌剤として効果を持つように添加すること、又は繊維工業に適用されるように通常のインクジェットプリント技術を使用してデジタルプリントをすることにより達成される。
【0052】
さらに、第2のステップとして、銀塩の添加前、添加中又は添加後に、第2の塩を同様に添加可能である。この添加時期は、第2の塩の陰イオンが銀とイオン結合したとき、新たな銀塩が形成され、新たな銀塩は創傷体液において制御された望ましい溶解性を有し銀イオンを効果的な方法で放出するように選択される。異なる陰イオンの使用により、銀のプロファイルの放出を希望通りに調整できる。
【0053】
本発明の他の態様は、これに付随する利点及び新規な特徴と共に、一部は以下の記載により、一部は以下の実験により当業者に明らかとなるか、或いは本発明を実施することにより分かるであろう。本発明の目的及び利点は、特に、請求の範囲に記載された手段及び組み合わせにより実現及び達成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のスルホン酸エチルセルロース(CES)繊維の吸収性を、第8実験例に記載したカルボキシメチルセルロース(CMC)繊維のものと比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明のスルホン酸アルキルセルロースを調製するプロセスを、47%NaOH溶液、25%スルホン酸ビニルナトリウム溶液、及びスルホン酸アルキル化反応における異なる量の水を使用して比較した。
【0056】
(乾燥)セルロース重量の1070%より多い量の水が使用された場合、ワンポット法の反応率は大変高くなるが、ワンポット法で調製されたスルホン酸エチルセルロース製品の繊維強度は、アルカリ化反応とスルホン酸アルキル化反応とを別々に行う2ステップ法で調製された製品の繊維強度より低くなる。実際のところ、ワンポット法の製品の繊維強度は、創傷包帯の用途に求められる有効な吸収性物質としては低すぎる。
【0057】
セルロースとアルカリ及びスルホン酸アルキル化剤の同時反応を含む不水溶性のスルホン酸アルキルセルロースを調製するワンポット法において、反応中に存在する水の重量は(乾燥)セルロース重量の1070%より少なく、好ましくはセルロース重量の1050%より少なく、より好ましくはセルロース重量の1030%より少ない。
【0058】
2ステップ法の第2のスルホン酸アルキル化ステップの水の量を少なくすることが、反応率を高めるために示される。しかし、少ない量の水を使用してその反応ステップを実行することは必ずしも実用的ではない、というのはスルホン酸アルキル反応剤が減少するにつれ、セルロースを湿らすのはますます困難になるからである。反応中に存在する水の重量は、好ましくは(乾燥)セルロース重量の200%より多く、より好ましくは300%より多く、より好ましくは400%より多い。いずれにせよ、反応中に使用する水の量が少ないと、ワンポット法は好ましいものとなる。
【0059】
多い量の水を使用すれば、2ステップの方法は適切な繊維強度を有する本発明のスルホン酸アルキルセルロースを調製するのに最も適している。好ましくは、スルホン酸アルキル化ステップに存在する水の量は(乾燥)セルロースの重量で1030%より多く、より好ましくはセルロース重量で1050%より多く、最も好ましくはセルロース重量で1070%より多い。
【0060】
本発明の使用に適するため、セルロースは本来繊維状であることが好ましい。セルロース繊維は、処理すべき誘導体化の後に繊維が十分な強度を有し、得られる材料が意図する使用に対して十分強度を有するよう高度な結晶性及び全体の配向を有する必要がある。
【0061】
特に、アルカリ化ステップにおけるアルカリの使用はセルロース骨格を分解させ、鎖を切断し重合度を低下させ、それにより誘導体化後の繊維の強度を低くする。誘導体化された繊維の乾燥強度は織物又は不織構造への加工を可能にするほど十分でなければならず、創傷包帯の吸収性物質として有用となるためには、材料の湿潤強度は無事に患部から取り除くのに十分でなければならない。
【0062】
本発明の使用に特に適している高度な結晶性を有するセルロース繊維は、綿又はリヨセルのような再生セルロース繊維を含む。
【0063】
パルプ繊維のような微粒子のセルロースをスルホン化し、スルホン化したセルロースをリヨセル溶液又はイオン液のような適切な溶液で溶解し、その後スルホン化したセルロースを繊維として回転させるか又はスルホン化したセルロースをフィルム或いは他の押し出し成形として押し出して本発明の吸収性物質を形成することが可能であることは当業者に明らかとなるであろう。さらに、発泡剤を溶液に加えて発泡吸収性物質を形成することも可能である。
【0064】
セルロースは強いアルカリ、好ましくは水酸化ナトリウムといったアルカリ金属水酸化物で処理することによりアルカリ化可能である。47%の水酸化ナトリウム溶液が適切であることが分かっている。一般に、アルカリの濃度と反応温度が高くなればなるほど、反応速度は速くなる。反応条件の強さは、セルロース基質の分解を避ける必要性とバランスを取る必要がある。しかし、セルロースの分解のレベルは、アルカリ化に必要とされる比較的強い反応条件の下で期待されるものよりかなり低い。2ステップ法を実行する際、過度のアルカリの除去を第2のスルホン酸アルキル化ステップの前に行う、例えばアルカリ化した繊維を機械的に絞ることにより行うことは有益と思われる。
【0065】
炭素原子数が2から6のスルホン酸アルキル化ステップ(又はエーテル化ステップ)の場合、反応はアルコキシドイオンのスルホン酸アルケニル、具体的にはα−スルホン酸アルケニル又はその塩への求核付加を含む。α−スルホン酸アルケニルは好ましくは低いアルケニルスルホン酸であり、そのアルケニル部分の炭素原子数は2から6である。好ましくはα−スルホン酸アルケニルは、スルホン酸ビニル、スルホン酸アリル(1−スルホン酸プロペニル)、スルホン酸イソプロペニル(1−スルホン酸メチルビニル)、1−スルホン酸ブテニル、1−スルホン酸メチルアリル(1−メチル−1−スルホン酸プロペニル)又は2スルホン酸メチルアリル(2−メチル−1−スルホン酸プロペニル)である。特に好ましい実施例では、α−スルホン酸アルケニルはスルホン酸ビニルであり、より好ましくはスルホン酸ビニルのナトリウム塩であり、よってスルホン酸アルキルセルロース生成物はスルホン酸エチルセルロースである。
【0066】
スルホン酸ビニルのナトリウム塩は約30%の水溶液として商業的に入手できる。ナトリウム塩は当業者に知られた方法、例えばセルロースに噴霧するか、又はかくはん器を用いて混合するといった方法で、セルロース又はアルカリ化セルロースと接触できる。スルホン酸アルキルセルロースへの変換は反応混合物の沸点までのいかなる温度でも発生可能であり、またそれ以上でも加圧システムが使用されれば可能である。反応段階が高温で実行されれば、反応速度は早くなる。合理的な時間に有効な置換度をもたらす好ましい範囲は30から95℃である。さらに、反応の間いつでも、反応物質の新たな補充が可能である。置換度は反応温度の制御により、また特に反応時間の制御により調整される。
【0067】
スルホン酸ビニルはいくつかのハロゲン化された反応物、特に通常創傷ケア製品において現在使用可能な吸収性物質を調製するのに使用される塩素化した反応物質より危険が少ないと考えられる。確かに、カルボキシメチルセルロースの製造に使用されるクロロ酢酸は、危険性のあるアルキル化剤である。製造プロセス中にそれを使用することは望ましくなく、吸収性製品における残留クロロ酢酸の保持は有害である可能性があり、少なくとも皮膚の炎症を引き起こす。1種類のみのスルホン酸アルキルの使用はまた、化学的構造の相対的な単純さのためとはいえ、セルロースが1つ以上のタイプのスルホン酸アルキル基と置換される他の周知の不水溶性スルホン酸アルキルセルロースと比較して安全性及び残留反応物質の除去の点で有利と思われる。
【0068】
反応が望ましい程度まで進んだ後、反応混合物を中和する、即ち酸を加えることによりpHをほぼ中性まで減らすことにより反応は停止される。酸はそれぞれ塩酸や酢酸といった普通の鉱酸や有機酸であればいかなるものでも良い。スルホン酸アルキルセルロース製品は当該技術分野で知られた洗浄段階を採用することにより、副産物や不純物なしで洗浄される。そのような段階は水、有機液体又はそれらの混合物で洗浄することを含む。特に有用なのは低アルコールと水の混合物である。洗浄効率は高い温度で洗浄することにより高められる。洗浄後、例えばセルロースフィルム(セロファン)の製造に普通に行われているグリセロールのような加工助剤を使用するのも望ましい。このことはディッピングやスプレーといった当該技術分野で知られている方法により達成可能である。
【0069】
最後に誘導体化セルロースは乾燥され、前段階の残留液が取り除かれる。乾燥は強制空気乾燥、放射熱乾燥といった当該技術分野で知られた方法により行われる。
【0070】
本発明の吸収性物質は水媒体における即時のゲル化、良好な吸収性、及び重要なことに、酸性の環境での吸収性の保持を示す。このことは吸収性創傷包帯として、又は吸収性包帯の一部として使用するのに理想的となる。それらは特に中から高レベルの量の滲出液の創傷、及びこのタイプの平坦な或いは空洞の創傷に有用である。典型的な例は床ずれと下肢潰瘍である。
【0071】
本発明の吸収性物質の使用は創傷ケア製品に限定されず、他の多くの用途に有用であると考えられる。それらの吸収特性、生分解性、及びセルロースが再生可能な材料であるという事実は、本発明のスルホン酸アルキルセルロースがパーソナルケア部門、特におむつ、使い捨ておむつ及びトレーニングパンツのような使い捨て衛生用品、タンポン、衛生タオル又はナプキン並びにパンティライナーといった女性用ケア製品、及び失禁用製品への使用に特に望ましいことを意味する。化学的な単純さ及び反応物質の利用可能性は、そのような液体吸収材の製造コストを有利に低く抑えることができる。
【0072】
手術用スポンジや歯科用スポンジといた他の医療用品も考えられる。また、この吸収性物質は、例えば食品容器の吸収性パッドとして梱包材料においても有用と思われる。
【0073】
本発明のスルホン酸アルキルセルロースは周知の方法により、意図した使用に応じて幅広い形状に加工される。誘導体化されたセルロースが加工される方法は、特に強度、ゲル化の時間、及び吸収性といった最終製品の特性に重大な影響を及ぼす。創傷ケア用品に使用される好ましいスルホン酸アルキルセルロース製品は、けば立った、縫合された不織布である。
【0074】
スルホン酸アルキルセルロースは、ハンセン(Hansen)による米国特許第5981410号明細書「セルロース結合繊維」、ステンガード(Stengaard)らによる米国特許第6811716号明細書「ポリオレフィン繊維及びその製造方法」、ジェンセン(Jensen)らによる米国特許第5958806号明細書「カチオン回転仕上げ機を有するカード可能な疎水性ポリオレフィンファイバ」に概略が記載された1つ以上の補強繊維と結合される。好ましい補強繊維は熱可塑性バイオコンポーネントファイバであり、より好ましくはポリオレフィン要素を含む。よって、繊維は好ましくは(重さによる)大部分がエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のモノオレフィンのホモポリマー又はコポリマーから成るポリオレフィンを含むポリマー材料を含む。それらのポリマーの例としては、イソタクチック又はシンジオタクチックポリプロピレン、高密度のポリエチレン、低密度のポリエチレン及び線密度の低いポリエチレンといった密度の異なるポリエチレン、及びそれらの混合物が挙げられる。ポリマー材料は、ポリオレフィンがなお組成の大部分を構成していれば、ポリアミド又はポリエステルといった他の非ポリオレフィンポリマーと混合されても良い。ポリオレフィンを含む繊維を製造するのに使用される溶解物は、ステアリン酸カルシウム、抗酸化物質、加工安定剤、相溶化剤、及び色素といった従来の様々な繊維添加剤を含んでも良い。
熱可塑性のバイオコンポーネントファイバを適用する方法は、EP0740554、EP0171806、エジマ(Ejima)らによる米国特許第5456982号明細書、ダビース(Davies)による米国特許第4189338号明細書、ダビース(Davies)による米国特許第3511747号明細書、及びレーボック(Reitboeck)らによる米国特許第3597731号明細書に記載されている。
【0075】
熱可塑性バイオコンポーネントファイバは、コアが偏心して(中心を外して)又は同心に(ほぼ中心に)位置しているシース−コア型か、又は2つの要素のそれぞれが通常半円の断面を有するサイド−バイ−サイド型であっても良い。例えば卵形、楕円、三角形、星型、マルチローバル又は他の不規則な断面といった不規則な繊維プロファイルを有するバイオコンポーネントファイバも、分割可能な繊維と共に考えられる。バイオコンポーネントファイバは通常、ポリプロピレン/ポリエチレン(HDPE、LDPE及び/又はLLDPEを含むポリエチレン)、高密度のポリエチレン/低線密度のポリエチレン、ポリプロピレンランダムコポリマー/ポリエチレン、又はポリプロピレン/ポリプロピレンランダムコポリマーを含む高融点及び低融点ポリオレフィン要素をそれぞれ含む。
好ましい熱可塑性のバイオコンポーネントファイバは商業的に入手可能である。適した熱可塑性バイオコンポーネントファイバは、複合液体吸収材の30、25、20、18、16、14、12、10、8、6又は4重量%或いはその間のいかなる範囲をも含む。熱可塑性バイオコンポーネントファイバは好ましくは、16.7デシテックスまでの約1.7、1.9、2.1、2.3、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0デシテックス又はその間のいかなる範囲の線密度をも含む。しかし驚くべきことに、高密度の繊維(例えば4.0デシテックス)が多量(例えば20%)のスルホン酸アルキルセルロースを含む液体吸収材に組み込まれた場合、液体吸収材の吸収性は損なわれないことが発見された。さらに、低い線密度の補強繊維の使用により繊維の重量を減らし、結果として透明度が高まる。よって、一つの態様では、熱可塑性のバイオコンポーネントファイバは好ましくは液体吸収材の約10から30重量%(より好ましくは約10から20%、さらに好ましくは約10から13%)を有し、約1.7から4.0デシテックス(より好ましくは1.7から1.9デシテックス)の線密度を有する。繊維を一緒に溶解する時の温度は通常90から162℃であり、好ましくは約120から125℃である。
【0076】
他の態様では、補強繊維はリヨセル繊維を有する。これらの繊維は通常、有機溶媒を用いるスピニングプロセスにより得られたセルロースを有する。好ましくは、リヨセル繊維は溶媒として様々なアミン・オキシドを使用してセルロース繊維から生成される。とりわけ、水(約12%)と混合したN−メチルモルホリン−N−オキシド(NMNO)は特に有用な溶媒であると証明された。
リヨセル繊維を生成するプロセスの例は、マックコースリー(McCorsley)らの米国特許第4142913号明細書、第4144080号明細書、第4211574号明細書、第4246221号明細書及び第4416698号明細書その他に記載されている。ジュルコビック(Jurkovic)らの米国特許第5252284号明細書及びミシェル(Michels)らの米国特許第5417909号明細書は特に、NMMOに溶解するセルロース回転のための押し出しノズルの形状を扱っている。ブランナー(Brandner)らの米国特許第4426228号明細書は、加熱したNMMO溶液内のセルロース及び/又は溶媒分解を防止するため安定剤として作用する様々な化合物の使用を開示する多数の特許の一例である。フランク(Franks)らの米国特許第4145532号明細書及び第4196282号明細書は、アミン・オキシド溶媒にセルロースを溶解することと、セルロースを高濃度にすることの困難さを扱っている。
あるリヨセル製品は現在、TENCEL(登録商標)繊維として商業的に入手可能である。これらのセルロース繊維を、製品の完全性において役立つ不織布構造に含める方法は周知であり、例えばGB1207352を参照されたい。一つの態様においては、リヨセル繊維は複合液体吸収材の26、24、22、20、18、16、14、12、10、8、6、又は4重量%又はそれらの間のいかなる範囲をも含む。好ましくは、リヨセル繊維は30デシテックスまでの約0.7、0.9、1.1、1.3、1.5、1.7、1.9、2.1、2.3、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0、10、15、20、25デシテックス及びそれらの間のいかなる範囲の線密度を含む。
以下の実験例で示すように、意外にも低密度の繊維(例えば約1.2から1.6デシテックス)が多量(例えば約10から30重量%、好ましくは約10から20重量%)の複合液体吸収材に組み入れられた場合、湿潤強度は高められ、一方吸収性は損なわれないことが発見された。特に好適な実施例では、TENCEL(登録商標)繊維は約15から30重量%、例えば20重量%で、スルホン酸エチルセルロース不織材料に組み込まれる。
【0077】
また他の態様では、1つ又は複数の抗菌薬が本発明のスルホン酸アルキルセルロースに添付される。好ましい物質としては、銀及び/又はポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)が含まれる。
【0078】
本発明はまた、金属イオンを親水性、両性、又は陰イオンポリマー、特に医療器具、創傷包帯、又は造瘻器具に使用されるものに添加する新規な方法に向けられている。この独創的な方法に特に適合する材料としては、ゲル形成繊維、例えばAQUACEL(登録商標)(WO93/12275、WO94/16746、WO99/64079及び米国特許第5731083号明細書)又はWO00/01425又はPCT/GB01/03147に記載のもの、非連続又は多孔皮膚接触層の後又は重なって類似のゲル形成繊維を含有する創傷包帯、例えばVERSIVA(登録商標)(米国特許第5681579号明細書、WO97/07758及びWO00/41661)、DUODERM(登録商標)(米国特許第458603号明細書)、DuoDerm CGF(登録商標)(米国特許第4551490号明細書及びEP92999)、又は2種以上の繊維のブレンド、例えばCARBOFLEX(登録商標)(WO95/19795)が挙げられる。本発明は、カルボキシメチルセルロース及び本発明のスルホン酸アルキルセルロースを含む他の物質に十分適合する。
【0079】
本発明のこの態様に適したポリマーとしては、これらに限定されるものでないが、ポリサッカリドもしくは改質ポリサッカリド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、コラーゲン、ゼラチン、又はこれらの混合物が挙げられる。好ましい実施例において、ポリマーはカルボキシメチルセルロース、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロースを有する。一つの実施例において、ポリマーはカルボキシメチルセルロース又はアルギネート、或いはカルボキシメチルセルロースとアルギネートの混合物を含むポリサッカリドであっても良い。コーティング工程は、本発明のスルホン酸アルキルセルロースを使用すると最適に行なわれる。
【0080】
特に、まず、最小量の液体を細かく分散させるという条件で、繊維を早期にゲル化せずに、銀の水溶液(好ましくは有機溶媒要素を含まない)をスルホン酸エチルセルロースに添加する。そのような添加は、銀塩のエアロゾル溶液を高濃度でスプレーするか、又はデジタルプリンティングにより、十分な銀塩が抗菌剤として効果を持つように添加することにより達成される。さらに、第2のステップとして、銀塩の添加前、添加中又は添加後に、第2の塩を同様に添加可能である。この添加時期は、第2の塩の陰イオンが銀とイオン結合したとき、新たな銀塩が形成され、新たな銀塩は創傷体液において制御された望ましい溶解性を有し銀イオンを効果的な方法で放出するように選択される。異なる陰イオンの使用により、銀のプロファイルの放出を希望通りに調整できる。
【0081】
例えば、AQUACEL(登録商標)Ag(カルボキシメチル化したセルロース不織布)は多量の塩化物を有しているため、銀は水溶性が限定された塩化銀となる傾向にある。一方リン酸銀はわずかに溶解性が高いため、水環境では多量の銀が放出され、よってより有効な抗微生物効果を有すると思われる。実際のところ、銀の放出は1つ以上の第2の塩の追加によりプロファイルされ、その結果多数の銀塩がそのままで形成され、それぞれの銀は溶解性が異なり制御された銀の放出プロファイリングを導く。
【0082】
適切な銀供給源としては、銀塩、例えば硝酸銀、塩化銀、硫酸銀、乳酸銀、臭化銀、酢酸銀、リン酸銀、炭酸銀、ヨウ化銀、クエン酸銀、ラウリン酸銀、デオキシコール酸銀、サリチル酸銀、パラアミノ安息香酸銀、パラアミノサリチル酸銀及び/又はこれらの混合物が挙げられる。
【0083】
銀の量は、液体吸収材中に望ましい銀濃度を供給するのに十分でなければならない。液体吸収材中の銀の最終濃度は、例えば得られる液体吸収材の重量の、約0.1から20重量%である。いくつかの実施例において、銀の濃度は、液体吸収材の重量の、0.1から10%、1から10%、10から20%、5から20%、5から10%、又は0.1から1%である。
【0084】
第2の塩は一価陰イオンを有する。適切な一価陰イオンは塩化物、臭化物、ヨウ化物、クエン酸塩、ステアリン酸塩、サリチル酸塩、炭酸塩、リン酸二水素塩、硫化水素塩、臭酸水素塩、酒石酸水素塩、安息香酸エステル塩、メタンスルホン酸塩、及びp−トルエンスルホン酸塩を含む。好ましい第2の塩はモノナトリウムリン酸塩である。本明細書に記載されるように、第3、4、5等の塩が液体吸収材に付加されても良い。
【0085】
本発明は以下の限定しない実験例により例示される。
【0086】
<第1実験例:繊維の自由吸収性を決定する方法>
繊維を2から3mmの群に切断し、0.5gの切断した繊維を100mL容量のねじふた付きのジャーに入れた。50mLの試験液(例えば、創傷体液のイオン濃度をシミュレートするため通常0.9%の生理食塩水が使用される)が加えられ、ジャーを30秒間振って群を拡散させた。拡散液を、真空ポンプを用いて1分につき0.8barより高い真空状態にして、直径42.5mmのワットマンろ紙No.4に適合した47mmのブフナー漏斗でろ過した。その後拡散した繊維を取り出して重さを量った。繊維の自由吸収性を以下の公式を用いて計算した。
吸収性(g/g)={湿った拡散重量(g)/乾燥した群の重量(g)}−1
【0087】
<第2実験例:単一繊維の破断強さと破断伸びを決定する方法>
乾燥した単一繊維の破断に対する強さと伸びの試験を、単一の繊維を保持する適切なジャーと適切な範囲のロードセルに適合した引張試験機を使用して行った。
【0088】
サンプルは少なくとも4時間調整され、標準雰囲気の引張試験で試験された(20±2℃及び65±2%の相対湿度)。
【0089】
試験機は製造者の指示に従い計量及びキャリブレーションされた。繊維はサンプルの異なる部位からランダムに採取された。繊維の線密度はビブラスコップ(Vibraskop)法のような適切な技術により計測された。繊維はその後ジャーと引張試験機の間に配置され、試験が開始された。以下の条件が使用された。
試験長さ:20mm
荷重範囲:0から10cN
クロスヘッド速度:10mm/分
記録紙送り速さ(使用する場合):10から20mm/分
試験の数:10
【0090】
破断の後、クロスヘッドは戻され、繊維の破壊した端部はチェックされジャーから取り出された。壊れたジャーの数が10%を超えたら記録を行った。
【0091】
それぞれの繊維の破断荷重(cN)及び破断伸び(%)は通常、統計と共に印刷された。個々の破断荷重が印刷される場合、個々の強さの結果又は平均の強さは、以下のように手で計算された。
平均強さ(cN/tex)=平均破断荷重(cN)×10/平均線密度(dtex)
【0092】
<第3実験例:2ステッププロセスを使用したスルホン酸エチルセルロースの調製>
TENCEL(登録商標)の商標名で知られるリヨセル麻糸の3gのサンプルを、25℃で25分間、水を含む47%水酸化ナトリウムに浸した。その後超過の水酸化ナトリウムを絞って取り除いた。それから繊維に25mLの30%スルホン酸ビニルナトリウム溶液を加え、91℃で90分間加熱した。この後反応混合物は、氷酢酸の滴下によりpH7に中和された。超過した液体が繊維から絞られ、その後繊維は工業用変性アルコール(IMS)と水の混合液(80:20v/v)で2回洗浄された。その後60℃で一定重量まで乾燥し、繊維の吸収性が試験された。
【0093】
第1実験例で概略を示した方法および0.9%NaCl水溶液を試験液として用いた。繊維の自由吸収性の値は、11.1g/gに達した。
【0094】
<第4実験例:2ステッププロセスを使用したスルホン酸エチルセルロースの調製(SFM006/69)>
2.5gのTENCEL(登録商標)のサンプルを、47%水酸化ナトリウムに20℃で30分間浸し、その後超過した液体を絞って取り除いた。21mLのスルホン酸ビニルナトリウム(30%水溶液)を繊維の上に注いだ。繊維及び反応物質が入った容器を83℃で2時間加熱し、その後サンプルに氷酢酸を滴下しpHが7になるまで中和した。超過した液体が繊維から絞られ、その後繊維はIMS/水の混合液(80:20v/v)で2回洗浄され、最終的に100%のIMSとなった。60℃で一定重量まで乾燥した後、第1実験例の方法により、0.9%NaCl水溶液を試験液として用いて繊維の吸収性が試験された。9.7g/gの繊維の自由吸収性の値が得られた。
【0095】
<第5実験例:水の含有量が高いワンポット法を用いたスルホン酸エチルセルロースの調製>
3gのTENCEL(登録商標)繊維を、10mLの47%NaOH溶液と25mLの30%スルホン酸ビニルナトリウム溶液の混合液に浸し、83℃で75分間加熱した。その後反応混合物に酢酸を加え中和し、それから繊維を取り出しIMS/水の混合液(80:20v/v)で洗浄し、最終的に100%のIMSで洗浄した。乾燥を60℃で行った。
【0096】
第1実験例に概略を示した方法及び0.9%NaCl水溶液を吸収性試験液として用いて、6.6g/gの繊維の自由吸収性の値が得られた。繊維は、低い吸収性の値に示されるように置換度が低いにも拘わらず、第6実験例の繊維より弱い外見となった。
【0097】
<第6実験例:水の含有量が低いワンポット法を用いたスルホン酸エチルセルロースの調製(SFM006/145a)>
3gのTENCEL(登録商標)繊維を、13mLの30%スルホン酸ビニルナトリウム溶液と10mLの47%NaOH溶液の混合液に浸し、83℃で70分間加熱した。その後反応混合物に酢酸を加え中和し、それから繊維を取り出しIMS/水の混合液(80:20v/v)で洗浄し、最終的に100%のIMSで洗浄した。乾燥を60℃で行った。
【0098】
第1実験例に概略を示した方法及び0.9%NaCl水溶液を試験液として用いた。繊維の自由吸収性の値は、11.9g/gに達した。
【0099】
<第7実験例:非誘導体化セルロースの吸収性の比較実験>
第3及び第4実験例の最初の材料として使用された同じ群からのTENCEL(登録商標)繊維を、0.9%NaCl水溶液を吸収性試験液として用いて、第1実験例に概略を示した吸収性試験を行った。0.9g/gの繊維の自由吸収性の値が得られた。
【0100】
<第8実験例:本発明のスルホン酸エチルセルロース繊維と従来技術のカルボキシメチルセルロース繊維の低pHでの吸収性の比較>
EP0616650の教示により調製されたカルボキシメチルセルロース(CMC)の吸収性を、第1実験例の方法により0.9%の食塩水を吸収液として使用して計測した。食塩水のpHは37%のHClを加えることにより連続的に低減され、それぞれのpHで再び吸収性を計測した。
【0101】
スルホン酸エチルセルロース繊維はリヨセル繊維から本発明に従って製造され、それらの吸収性がpH値の範囲で同様に計測された。
【0102】
結果は図1のグラフに示されている。本発明のスルホン酸エチルセルロース繊維(CES)は創傷治癒が高められると考えられる低いpHにおいてより一層高い吸収性を保持できることが明らかである。
【0103】
<第9実験例:20重量%、4.0デシテックスのバイオコンポーネントファイバで補強されたスルホン酸エチルセルロース繊維>
この実験例では、本発明に従って調製されたスルホン酸エチルセルロース繊維は50mmのステープルに切断され、20重量%、4.0デシテックスの40mmのステープルバイオコンポーネントファイバ(ES−LOWMELT(登録商標))と、サンプルカードを介して混合された。得られた繊維は縫合され、循環オーブン内で125℃で10分間加熱することにより熱結合された。比較例としての補強繊維を含まないスルホン酸エチルセルロース織物も同様の方法で、熱結合ステップを行わずに製造された。
【0104】
湿潤強度は織物から検査サンプルを2.5cm幅×10cm長さで切り取って計測された。サンプルを引張試験機に載せて、ゲージ長さ5cmとした。その後サンプルを2.5mLの水溶液A(ナトリウム/カルシウム溶液)で湿らせ、1分間放置し、それから100mm/分で検査した。ナトリウム/カルシウム溶液Aは2Lの水に16.6gのNaCl及び0.74gのCaCl二水和物を溶解することにより形成される。
【0105】
明晰性の計測は、12ptのタイムズニューローマン(TimesNewRoman)の太字体をプリントしたゲル状の(0.9%水和した生理食塩水)サンプルを真下に置き、明晰性を0(完全に不透明で、活字体が見えない)から10(完全にはっきりしていて、歪んでない活字)まで主観的に採点することにより、主観的に行われた。
【0106】
吸収性は、5cm×5cm平方のサンプル材料の重量(W1)を計量した。次に、サンプルをペトリ皿の水溶液A内に置き37℃で30分間放置した。その後一つの角をつまんでサンプルをペトリ皿から取り出し、30秒間水分を抜いた。その後サンプルを再び計量し、最終的な重量(W2)を得た。繊維の吸収性は(W2−W1)/W1により得られる。以下の表1に結果を示す。
【表1】

【0107】
<第10実験例:10重量%、1.7デシテックスのバイオコンポーネントファイバで補強されたスルホン酸エチルセルロース繊維>
10重量%、1.7デシテックス40mmステープルのバイオコンポーネントファイバ(ES−CURE(登録商標))を含む本発明により調製されたスルホン酸エチルセルロース繊維は、高温で溶解するシース要素のため熱結合ステップが135℃で行われる以外は、第9実験例と同じ方法で製造された。10%、4.0デシテックスES−LOW MELT(登録商標)を含む繊維もまた、第9実験例のように製造された。以下の表2に結果を示す。
【表2】

【0108】
<第11実験例:20重量%1.4デシテックスのリヨセルで補強されたスルホン酸エチルセルロース繊維>
この実験例では、TENCEL(登録商標)繊維は20重量%の量でスルホン酸エチルセルロース不織材料に組み入れられた。湿潤強度は大幅に向上し、吸収性はほとんど損なわれないことが分かった。本発明によるスルホン酸エチルセルロース繊維は50mmステープルに切断され、サンプルカードを介して20重量%、1.4デシテックスの50mmステープルのTENCEL(登録商標)繊維に混合された。得られた繊維は縫合された。結果を以下の表3に示す。
【表3】

繊維の強度、明晰性及び吸収性は第9実験例に述べたように決定された。
【0109】
<第12実験例:リン銀酸スプレープロセス>
この実験例では、銀の水溶液が早期の繊維のゲル化を行わずにスルホン酸エチルセルロースに添加された。一般的に、高濃度の銀塩のエアロゾル溶液が、スルホン酸エチルセルロースにスプレーされ、十分な銀塩が効果的に抗菌するよう添加される。第二のステップとして、銀塩を添加した後、第2の塩が同様に添加される。この添加時期は、第2の塩の陰イオンが銀とイオン結合したとき、創傷体液において制御された望ましい溶解性を有する新たな銀塩が形成されて銀イオンを効果的に放出するように選択されたものである。
【0110】
具体的には、本発明により製造された繊維から作られたスルホン酸エチルセルロース繊維の両面に、早期のゲル化を最小にするアーティストのエアブラシを使用して強度の硝酸銀水溶液(19.2wt/wt%)を均一にスプレーした。次に、スルホン酸エチルセルロース繊維にモノナトリウムリン酸塩水溶液(20wt/wt%)をスプレーし、全体の銀の重量を約1.7%(銀カチオンの重量のみ)にした。包帯は長い間光にさらされてグレーになった。クアリスクリーン(Qualiscreen)として知られる表面の抗微生物効果試験において、包帯は抗菌性であることが分かった、即ち、99.9%より多い娘細胞(メチシリン抵抗黄色ブドウ球菌)の形成抑制が見られた。
【0111】
別の試験では、0.2gのスルホン酸エチルセルロース繊維が、3mLの新鮮な殺菌された牛乳と共に清潔なサンプルバイアルに置かれ、栓をして37℃で培養された。定期的にバイアルの中身のにおいを嗅ぎ、抗菌活動の欠如を示す不快な臭いが表す微生物の成長開始を評価した。比較参照データは銀を含まないものが使用された。89時間後、比較参照データは微生物の成長を示した。2880時間後でも、銀で処理したスルホン酸エチルセルロース繊維は微生物の生長を示さなかった。
【0112】
<第13実験例:アルギン酸銀繊維混合プロセス>
この実験例は、WO02/24240に概略が記載された技術を使用して、アルギン酸銀繊維をスルホン酸エチルセルロース繊維と混合するものである。
【0113】
約24重量%の銀を含むアルギン酸カルシウム繊維は、アルギン酸カルシウム繊維を水/アセトン/硝酸エステル銀の混合液に浸し、その後アセトン/水の混合液、及び最終的にアセトンで洗浄し、繊維を50℃で乾燥させることにより製造された。これらの繊維は50mmのステープルに切断され、スルホン酸エチルセルロースステープル繊維と混合されて包帯の重量で約1.5%の銀を生成し、その後混合物をけば立たせて縫合し、約100gsmの縫合繊維となった。繊維は長時間光にさらされてオフホワイト色になった。
【0114】
クアリスクリーン(Qualiscreen)として知られる表面の抗微生物効果試験において、包帯は抗菌性であることが分かった、即ち、99.9%より多い娘細胞(メチシリン抵抗黄色ブドウ球菌)の形成抑制が見られた。
【0115】
<第14実験例:PHMBスルホン酸エチルセルロース>
この実験例では、PHMBを添加したスルホン酸エチルセルロース繊維を、20%のPHMB水溶液を使用して第12実験例で概略を示したスプレー方法により製造し、包帯の重量で0.6%のPHMBを生成した。包帯のサンプルに「牛乳テスト」を行った。包帯は72時間抗菌状態を保ち、比較対照サンプルは24時間後に微生物の生息がみられた。
【0116】
<第15実験例:低ゲル化した非接着性接触層の包帯>
第1実験例の方法により計測された4.7g/gの繊維吸収性を有するスルホン酸エチルセルロース繊維を50mmステープルに切断し、けば立たせて縫合し、織物を作成した。織物の吸収性は、5cm×5cm平方のサンプル材料の重量(W1)を計量した。次に、サンプルをペトリ皿の水溶液A(ナトリウム/カルシウム溶液)内に置き37℃で30分間放置した。その後一つの角をつまんでサンプルをペトリ皿から取り出し、30秒間水分を抜いた。その後サンプルを再び計量した(W2)。繊維の吸収性は(W2−W1)/W1により得られる。
【0117】
湿潤強度は織物から検査サンプルを2.5cm幅×10cm長さで切り取って計測された。サンプルを引張試験機に載せて、ゲージ長さ5cmとした。その後サンプルを2.5mLの水溶液A(ナトリウム/カルシウム溶液)で湿らせ、1分間放置し、それから100mm/分で検査した。
【0118】
12.9g/gの繊維自由吸収性を有するスルホン酸エチルセルロース繊維から作成される第11実験例で作成した吸収性の高い織物が比較対照例として使用された。吸収性及び引張強さの結果を以下の表4に示す。
【表4】

【0119】
接触層織物の場合は吸収性が損なわれるが、湿潤強度は大幅に向上することが分かる。さらに、接着層織物は滑りやすく皮膚に接着しにくい。
【0120】
<第16実験例:スルホン酸エチルキトサン>
3gのキトサン繊維を40mLの47%NaOH溶液に25℃で25分間浸し、その後超過した液体を絞って取り除いた。25mLのスルホン酸ビニル(30%水溶液)を繊維の上に注ぎ、83℃で120分間加熱した。その後サンプルに酢酸を加え中和し、それからIMS/水の混合液(80:20v/v)で連続的に洗浄し、最終的に100%のIMSで洗浄した。60℃で乾燥して一定重量にした後、繊維の吸収性を、第1実験例に概略を示した方法で、0.9%の食塩水を使用して調べた。3.7g/gの値が得られた。
【0121】
反応条件を最適にすることで、吸収性は向上すると思われる。例えば、これはNaOH溶液の濃度を高める、及び/またはスルホン酸ビニルの濃度を高めることにより達成される(例えば35%の水溶液)。
【0122】
上記の説明から、本発明は、自明であり発明に固有の他の利点と共に、上記に述べた全ての目標及び目的を達成するのに十分に適合していることが分かるであろう。本発明から多くの可能な実施例が、本発明の範囲を逸脱せずに実施可能であるため、本明細書に述べた或いは添付の図面に示した全ての事項は限定の意味ではなく、例示的と解釈されるものと理解すべきである。具体的な実施例が示され議論されているが、もちろん様々な変形も可能であり、それらの限定が請求の範囲に含まれている場合を除いて、本発明は本明細書に記載した部品やステップの特定の形式又は配置に限定されない。さらに、ある特徴やサブコンビネーションは効用があり、他の特徴及びサブコンビネーションを参照せずに採用可能であると理解される。このことは予期されることであり、本発明の技術的範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリサッカリドの基が1種類のスルホン酸アルキル基に置換された不水溶性のスルホン酸アルキルポリサッカリドを吸収性物質として含むことを特徴とする液体吸収材。
【請求項2】
前記ポリサッカリドは、セルロースであることを特徴とする請求項1に記載の液体吸収材。
【請求項3】
前記スルホン酸アルキル基のアルキル部分は、炭素原子数が1から6までの低アルキルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吸収材。
【請求項4】
前記スルホン酸アルキル基は、スルホン酸エチル基、1−メチル−スルホン酸エチル基、又は2−メチルースルホン酸エチル基であることを特徴とする請求項3に記載の液体吸収材。
【請求項5】
前記スルホン酸アルキル基はスルホン酸エチル基であることを特徴とする請求項4に記載の液体吸収材。
【請求項6】
前記吸収性物質は、さらに不水溶性のスルホン酸アルキルポリサッカリドと混合又は結合された補強繊維を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の液体吸収材。
【請求項7】
前記補強繊維は、前記スルホン酸アルキルポリサッカリドと熱結合された熱可塑性バイオコンポーネントファイバを有することを特徴とする請求項6に記載の液体吸収材。
【請求項8】
前記熱可塑性バイオコンポーネントファイバは、少なくとも2つのポリオレフィンを含むシース−コア型であることを特徴とする請求項7に記載の液体吸収材。
【請求項9】
前記熱可塑性バイオコンポーネントファイバは、前記吸収性物質の10から30重量%を有し、1.7から16.7デシテックスの線密度を有することを特徴とする請求項8に記載の液体吸収材。
【請求項10】
前記補強繊維はリヨセル繊維であることを特徴とする請求項6に記載の液体吸収材。
【請求項11】
前記リヨセル繊維は、前記吸収性物質の10から30重量%の重量を有し、0.7から30デシテックスの線密度を有することを特徴とする請求項10に記載の液体吸収材。
【請求項12】
さらに抗菌薬を含むことを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の液体吸収材。
【請求項13】
前記抗菌薬は、銀とポリヘキサメチレンビグアナイドとからなる群より選択されることを特徴とする請求項12に記載の液体吸収材。
【請求項14】
前記スルホン酸アルキルポリサッカリドはスルホン酸アルキルセルロースであり、
前記抗菌薬は銀であり、前記銀は、第1の銀塩及び一価陰イオンを含む第2の塩を加えることにより前記スルホン酸アルキルセルロールに添加され、
前記第2の塩は、前記第1の銀塩の添加前、添加中又は添加後に添加可能であることを特徴とする請求項13に記載の液体吸収材。
【請求項15】
前記第1の銀塩は、硝酸銀、塩化銀、硫酸銀、乳酸銀、臭化銀、酢酸銀、リン酸銀、炭酸銀、ヨウ化銀、クエン酸銀、ラウリン酸銀、デオキシコール酸銀、サリチル酸銀、パラアミノ安息香酸銀、パラアミノサリチル酸銀及びこれらの混合物から成る群より選択されることを特徴とする請求項14に記載の液体吸収材。
【請求項16】
前記銀の量は、前記吸収性物質の0.5から10重量%であることを特徴とする請求項14に記載の液体吸収材。
【請求項17】
前記第2の塩の前記一価陰イオンは、塩化物、臭化物、ヨウ化物、クエン酸塩、ステアリン酸塩、サリチル酸塩、炭酸塩、リン酸二水素塩、硫化水素塩、臭酸水素塩、酒石酸水素塩、安息香酸エステル塩、メタンスルホン酸塩、及びp−トルエンスルホン酸塩から成る群より選択されることを特徴とする請求項14に記載の液体吸収材。
【請求項18】
セルロースの基が1種類のスルホン酸アルキル基に置換された不水溶性のスルホン酸アルキルセルロースの吸収性物質としての使用方法。
【請求項19】
吸収性物質としての不水溶性のスルホン酸アルキルセルロースを調製する調製方法であって、セルロースとアルカリ及びスルホン酸アルケニル又はその塩との同時反応を含み、唯一の溶媒が水であり、反応の中に存在する水の重さはセルロースの重さの1070%より少ないことを特徴とする吸収性物質の調製方法。
【請求項20】
反応中に存在する水の重さはセルロースの重さの1050%より少ないことを特徴とする請求項19に記載の吸収性物質の調製方法。
【請求項21】
反応中に存在する水の重さはセルロースの重さの1030%より少ないことを特徴とする請求項20に記載の吸収性物質の調製方法。
【請求項22】
反応中に存在する水の重さはセルロースの重さの200%より多いことを特徴とする請求項19に記載の吸収性物質の調製方法。
【請求項23】
反応中に存在する水の重さはセルロースの重さの300%より多いことを特徴とする請求項22に記載の吸収性物質の調製方法。
【請求項24】
反応中に存在する水の重さはセルロースの重さの400%より多いことを特徴とする請求項23に記載の吸収性物質の調製方法。
【請求項25】
反応中に存在する水の重さはセルロースの重さの300から1050%の間であることを特徴とする請求項19に記載の吸収性物質の調製方法。
【請求項26】
反応中に存在する水の重さはセルロースの重さの400から1030%の間であることを特徴とする請求項25に記載の吸収性物質の調製方法。
【請求項27】
吸収性物質として不水溶性のスルホン酸アルキルセルロースを調製する調製方法であって、
(a)セルロースをアルカリと共に処理し、
(b)ステップ(a)の製品をスルホン酸アルケニル又はその塩と反応させ、
(c)ステップ(b)の製品を分離する別々のステップを含み、唯一の溶媒は水であることを特徴とする吸収性物質の調製方法。
【請求項28】
前記ステップ(b)に存在する水の量がセルロースの重さの1030%より大きいことを特徴とする請求項27に記載の吸収性物質の調製方法。
【請求項29】
反応中に存在する水の重さはセルロースの重さの1070%より大きいことを特徴とする請求項28に記載の吸収性物質の調製方法。
【請求項30】
前記スルホン酸アルケニルは、α−スルホン酸アルケニルであることを特徴とする請求項19から29のいずれか一項に記載の吸収性物質の調製方法。
【請求項31】
前記α−スルホン酸アルケニルは低スルホン酸アルケニルであることを特徴とする請求項30に記載の吸収性物質の調製方法。
【請求項32】
前記スルホン酸アルケニルはスルホン酸ビニル、スルホン酸アリル、スルホン酸イソプロペニル、1−スルホン酸ブテニル、1−スルホン酸メチルアリル及び2−スルホン酸メチルアリルから成る群より選択されることを特徴とする請求項31に記載の吸収性物質の調製方法。
【請求項33】
前記スルホン酸アルケニルはスルホン酸ビニルであることを特徴とする請求項32に記載の吸収性物質の調製方法。
【請求項34】
イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノール、メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、及びジエチルエーテルから選択される有機溶媒が不存在にて行われる請求項19から33のいずれか一項に記載の吸収性物質の調製方法。
【請求項35】
有機溶媒が不存在にて行われる請求項19から34のいずれか一項に記載の吸収性物質の調製方法。
【請求項36】
請求項19から35のいずれか一項に記載の吸収性物質の調製方法により調製されるスルホン酸アルキルセルロース。
【請求項37】
液体吸収材の調製方法であって、
銀塩の水溶液を親水性、両性、又は陰イオンポリマーに添加するステップと、
第2の塩の一価陰イオンを含む溶液を前記ポリマーに添加するステップと、
を含むことを特徴とする液体吸収材の調製方法。
【請求項38】
前記ポリマーはスルホン酸アルキルセルロースであることを特徴とする請求項37に記載の液体吸収材の調製方法。
【請求項39】
前記一価陰イオンを含む溶液を添加する前記ステップは、前記銀塩の水溶液を添加する前記ステップの後に実施されることを特徴とする請求項37又は38に記載の液体吸収材の調製方法。
【請求項40】
前記銀塩は、硝酸銀、塩化銀、硫酸銀、乳酸銀、臭化銀、酢酸銀、リン酸銀、炭酸銀、ヨウ化銀、クエン酸銀、ラウリン酸銀、デオキシコール酸銀、サリチル酸銀、パラアミノ安息香酸銀、パラアミノサリチル酸銀及びこれらの混合物から成る群より選択されることを特徴とする請求項37から39のいずれか一項に記載の液体吸収材の調製方法。
【請求項41】
前記銀の量は、当該液体吸収材の0.5から10重量%であることを特徴とする請求項37から40のいずれか一項に記載の液体吸収材の調製方法。
【請求項42】
前記第2の塩の前記一価陰イオンは、塩化物、臭化物、ヨウ化物、クエン酸塩、ステアリン酸塩、サリチル酸塩、炭酸塩、リン酸二水素塩、硫化水素塩、臭酸水素塩、酒石酸水素塩、安息香酸エステル塩、メタンスルホン酸塩、及びp−トルエンスルホン酸塩から成る群より選択されることを特徴とする請求項37から41のいずれか一項に記載の液体吸収材の調製方法。
【請求項43】
さらに前記ポリマーに第3の塩の第2の一価陰イオンを含む溶液を添加し、前記第2の一価陰イオンは前記第2の塩の前記一価陰イオンと異なることを特徴とする請求項37から42のいずれか一項に記載の液体吸収材の調製方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2012−509731(P2012−509731A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538056(P2011−538056)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【国際出願番号】PCT/GB2009/051608
【国際公開番号】WO2010/061225
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(511128354)スペシャリティー ファイバーズ アンド マテリアルズ リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Speciality Fibres and Materials Limited
【Fターム(参考)】