説明

液体噴射装置

【課題】液体の噴射時に生じるミストによるギアの汚染をより確実に防止することが可能な液体噴射装置を提供する。
【解決手段】互いに噛合するギア同士のうちの一方の第1のギア(搬送ローラー駆動ギア25および排紙部駆動ギア34)は、帯電列で駆動信号の極性と同極性側の順位にある材料から構成され、他方の第2のギア(第1伝動ギア37および第2伝動ギア38)は、帯電列で第1のギアよりも駆動信号の極性と反対極性側の順位にある材料から構成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録装置などの液体噴射装置に関し、特に、圧力発生手段の駆動により圧力室内の液体をノズルから噴射する液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は液体噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
上記のプリンター等で使用される記録ヘッドでは、近年、画像向上等の要求に応えるため、ノズルから噴射されるインクの液量を小さくする傾向がある。このような微量の液滴を記録媒体に対して確実に着弾させるために、液滴の初速が比較的高く設定される。これにより、ノズルから噴射された液滴は、飛翔中に引き伸ばされて、先頭のメイン液滴(主液滴)とそれよりも後のサテライト液滴(副液滴)に分離する。このサテライト液滴の一部又は全部は、空気の粘性抵抗により速度が急激に低下し、記録媒体に到達することなくミスト化してしまうことがある。このことより、ミスト化したサテライト液滴(以下、ミスト)は、装置内を汚染し、記録ヘッドや電気回路等の帯電しやすい部材への付着によって動作不良を発生させたりする問題があった。特に、プリンターでは、記録紙の搬送などに関わる駆動部に複数のギアが設けられているが、これらのギアにミストが付着した場合、付着したミストの乾燥等によりギア同士の摩擦が高まってトルクが増加してモーターへの負荷が大きくなる虞があった。
【0004】
このような不具合を防止すべく、ノズルから噴射される液滴を帯電させると共に、記録ヘッドのノズル形成面と、記録時の記録媒体を支持する支持部材(或いはプラテン又は基材)との間に電界を形成することで、液滴を支持部材に積極的に引き付けて記録媒体に着弾させようとする試みがなされている(例えば、特許文献1又は特許文献2参照)。
【0005】
ところが、図6(a)の模式図に示すように、記録ヘッドのノズル84から噴射されたインクが記録媒体Pおよび支持部材85に向けて伸びる過程で、プラスに帯電した支持部材85からの静電誘導により、支持部材85に近い側の先頭部分(メイン液滴Mdとなる部分)にはマイナスの電荷が誘導される一方で、これとは反対のノズル84に近い側の後端部分にはプラスの電荷が誘導される。そして、図6(b)に示すように、ノズルから噴射されたインクが、例えばメイン液滴Mdと、第1のサテライト液滴Sd1と、第2のサテライト液滴Sd2とに分離した場合、メイン液滴Mdはマイナスに帯電し、第2のサテライト液滴Sd2はプラスに帯電し、第1のサテライト液滴Sd1は無帯電となる。この場合、メイン液滴Mdと第1のサテライト液滴Sd1が記録媒体Pに着弾したとしても、第2のサテライト液滴Sd2は、プラスに帯電した支持部材85に反発して記録媒体のノズル形成面の近傍でミスト化して漂ってしまう。このミスト(エアロゾル)の一部はノズル形成面に付着する。ノズル形成面にミストが付着した場合、ノズル形成面をワイピング部材によって定期的に払拭する必要性が生じる。また、ノズル形成面に付着しなかったミストは、当該ミストと極性の異なるプリンター構成部品に付着して汚染してしまう虞がある。
【0006】
上記のようなことから、ノズルの近傍に電極を設け、ノズルからインクの噴射が開始されると当該電極の極性が、例えばプラスからマイナスに切り替えられ、ノズルから噴射されたインクがメイン液滴とサテライト液滴に分離したタイミングで、電極の極性をプラスに再度切り替える制御を行うことで、プラスに帯電したサテライト液滴をノズル形成面から遠ざける(記録媒体に向かわせる)ようにした構成も提案されている(例えば、特許文献3参照)。また、支持部材(基材)が例えばマイナスに帯電した状態でノズルからインクを噴射し、メイン液滴とサテライト液滴に分離したタイミングで、支持部材の極性をプラスに切り替えて、メイン液滴については慣性力により記録媒体に着弾させる一方、サテライト液滴やミストについては当該サテライト液滴やミストとは逆極性に帯電した支持部材に引き付けることで記録媒体に着弾させる構成も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−278252号公報
【特許文献2】特開2004−202867号公報
【特許文献3】特開2010−214652号公報
【特許文献4】特開2010−214880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、近年、この種のプリンターでは、インクを噴射する駆動周波数がより高くなる傾向にあり、サテライト液滴が記録媒体に着弾する前にノズルから次のインクが噴射されるケースが生じる。このため、上記のようなインクの噴射タイミングやインクが分離するタイミングで電極の極性を切り替える構成では、サテライト液滴を記録媒体に確実に着弾させることが困難となるのに加えて、メイン液滴の飛翔への影響が生じ、着弾が不安定となる可能性があった。
【0009】
また、インクの帯電を防止するべく、ノズル形成面と支持部材との間に電界を形成しないようにする構成も考えられるが、当該構成においてノズルからインクを噴射した場合においても噴射されたインクが帯電することが判っている。即ち、例えば、図7に示す模式図のように、記録ヘッドの圧電振動子88の駆動電極89に対して駆動電圧を印加することで、圧力室90内のインクに圧力変動を生じさせ、この圧力変動を利用してノズル91から記録媒体Pに対してインクを噴射させる構成では、圧電振動子88の駆動電極89に正電圧が入力されたとき、圧電振動子88と圧力室90との間は絶縁されているので、圧力室90内のインクにおける圧電振動子88の近傍には、静電誘導によりマイナスの電荷が誘導される。また、これとは反対側となるノズル91の近傍のインクには、プラスの電荷が誘導される。一般的な記録ヘッドではノズル形成面72が接地されているので、ノズル形成面72側にインクのプラス電荷が移動するが、上記のように、より高い駆動周波数でインクを噴射する構成においては、プラス電荷が僅かに残った状態でノズル91からインクが噴射される。その結果、ノズル91から噴射されたインクはプラスに帯電することになる。
【0010】
このように、ノズル形成面と支持部材との間に電界を形成しないようにする構成においてもノズルから噴射されたインクが帯電するため、ミストがギアなどの構成部品に付着するという不具合が生じていた。
【0011】
以上のような現象は、圧電振動子には限られず、発熱素子等の、駆動電圧の印加により作動する他の圧力発生手段でも同様に生じる。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体の噴射時に生じるミストによるギアの汚染をより確実に防止することが可能な液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の液体噴射装置は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体を噴射するノズル、当該ノズルに連通する圧力室、および、駆動信号の印加により駆動して前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
互いに噛合しあって装置の駆動に関わる第1のギアおよび第2のギアと、を備える液体噴射装置であって、
前記第1のギアは、帯電列で前記駆動信号の極性と同極性側の順位にある材料から構成された第1部分を有し、前記第2のギアは、帯電列で前記第1のギアの第1部分よりも前記駆動信号の極性と反対極性側の順位にある材料から構成された第2部分を有することを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、ノズルから液体を噴射することによって生じるミストの第1のギアへの付着が抑制される。すなわち、ギア同士の摩擦により、第1のギアは駆動信号の同極性に帯電する。また、液体噴射ヘッドのノズルから噴射された液体は、静電誘導により駆動信号の極性と同極性に帯電する。さらに、この液体の噴射に伴って生じるミストも駆動信号の極性と同極性に帯電する。第1のギアに関しては、ミストとの間に斥力が作用するため、当該ミストの付着が防止される。
【0015】
また、上記構成において、前記第1のギアの材料が誘電体である一方、前記第2のギアの材料が導電体であり、
当該第2のギアが接地された構成を採用することが望ましい。
【0016】
この構成によれば、他方の第2のギアが接地されているので無帯電となり、ミストとの間で静電気力が生じ難い。これにより、第2のギアに対するミストの付着が低減される。その結果、ミストの付着による故障が抑制され、液体噴射装置の耐久性および信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】プリンターの内部構成を説明する図である。
【図2】記録ヘッドの要部断面図である。
【図3】圧電振動子の構成を説明する断面図である。
【図4】記録ヘッドの電気的構成を説明するブロック図である。
【図5】噴射駆動パルスの構成を説明する波形図である。
【図6】ノズルと支持部材間に電界を形成した構成においてノズルから噴射されたインクが帯電する様子を説明する模式図である。
【図7】ノズルと支持部材間に電界を形成しない構成においてノズルから噴射されたインクが帯電する様子を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0019】
図1はプリンター1の内部構成を説明する図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図である。このプリンター1は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2が取り付けられると共に、液体供給源の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録動作時の記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5と、キャリッジ4を記録紙6(記録媒体および着弾対象の一種)の紙幅方向、即ち、主走査方向に往復移動させるキャリッジ移動機構7と、記録紙6がセットされる給紙部13と、主走査方向に直交する副走査方向に記録紙6を搬送する搬送部8と、印刷が終了した記録紙6を排出する排紙部14と、搬送部8および排紙部14を駆動するモーターから成る駆動部15と、駆動部15の回転駆動力を搬送部8から排紙部14に伝達する伝動部16と、を備えている。
【0020】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー10によって検出され、その検出信号、即ち、エンコーダーパルス(位置情報の一種)がプリンターコントローラー72(図4参照)に送信される。リニアエンコーダー10は位置情報出力手段の一種であり、記録ヘッド2の走査位置に応じたエンコーダーパルスEPを、主走査方向における位置情報として出力する。このリニアエンコーダー10は、フレーム2の背面の内壁に主走査方向に沿って張設されたリニアスケール10aと、キャリッジ3の背面に取り付けられた図示しない検出部とを備えている。リニアエンコーダー10の検出方式としては光学式や磁気式などがあり、本実施形態では光学式が採用されている。リニアスケール10aは、帯状の樹脂フィルムから構成されている。本実施形態においては、リニアスケール10aの基材の長手方向に沿って複数の図示しない縦スリット(帯幅方向に長尺なスリット)が形成されている。そして、検出部は、リニアスケール10aのスリットでの受光状態とスリット以外の部分での受光状態の差異に応じてエンコーダーパルスを出力するようになっている。
【0021】
キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジの走査の基点となるホームポジションが設定されている。本実施形態におけるホームポジションには、記録ヘッド2のノズル形成面(ノズルプレート50:図2参照)を封止するキャッピング部材11と、ノズル形成面を払拭するためのワイパー部材12とが配置されている。そして、プリンター1は、このホームポジションから反対側の端部へ向けてキャリッジ4が移動する往動時と、反対側の端部からホームポジション側にキャリッジ4が戻る復動時との双方向で記録紙6上に文字や画像等を記録する所謂双方向記録が可能に構成されている。
【0022】
プラテン5は、主走査方向に長尺な板状の部材であり、その表面には長手方向に沿って所定の間隔で複数の支持突起5aが突設されている。各支持突起5aはプラテン面よりも上方(記録動作時における記録ヘッド2側)へ突出している。各支持突起5aの上面は、記録紙6を支える当接面となり、記録紙6の背面(インクが着弾する記録面とは反対側の面)を部分的に支える。また、プラテン5の表面であって、各支持突起5aから外れた部分には、インク吸収材5bが配設されている。このインク吸収材5bは、例えばフェルトやスポンジ等で作製された吸液性を有する多孔質部材から成る。
【0023】
搬送部8は、搬送駆動ローラー21、搬送従動ローラー22、シャフト23、ローター24、および搬送ローラー駆動ギア25を有している。シャフト23は、プリンター1の筐体の上フレーム27に回転自在に軸支されている。搬送ローラー駆動ギア25、上フレーム27、ローター24、搬送駆動ローラー21は、図1(b)の手前側から、シャフト23の軸方向においてこの順に重なる状態で配置されている。搬送駆動ローラー21、ローター24、および搬送ローラー駆動ギア25は、回転軸としてのシャフト23に接続されている。そして、ローター24は、駆動部15による駆動力により回転する。これに伴って、搬送駆動ローラー21および搬送ローラー駆動ギア25も一体的に回転する。搬送ローラー駆動ギア25は、後述する伝動部16の第1伝動ギア37と噛み合っている。したがって、搬送ローラー駆動ギア25が回転することにより、伝動部16の第1伝動ギア37に駆動部15の駆動力が伝達される。搬送従動ローラー22は、筐体に回転自在に軸支され、押圧部材29によってプラテン5側へ押圧される。給紙部13から記録紙6が送られてくると、押圧部材29が搬送従動ローラー22をプラテン5側に押圧することにより、搬送従動ローラー22とプラテン5との間に記録紙6が挟まれる。この状態で搬送駆動ローラー21が回転すると、記録紙6が下流側に搬送されると共に、この記録紙6の移動に伴って搬送従動ローラー22が回転する。
【0024】
排紙部14は、排紙駆動ローラー31、排紙従動ローラー32、シャフト33、および排紙部駆動ギア34を有し、記録紙6の搬送経路においてプラテン5の下流側(排紙側)に配置されている。排紙駆動ローラー31および排紙部駆動ギア34は、それぞれ回転軸としてのシャフト33に接続されている。シャフト33は、上フレーム27に回転自在に支持されている。また、排紙従動ローラー32は、上フレーム27に対して回転自在に支持され、排紙駆動ローラー31の回転に伴って回転する。排紙部駆動ギア34は、後述する伝動部16の第2伝動ギア38と噛み合っている。したがって、駆動部15による駆動力が、伝動部16の第2伝動ギア38を介して排紙部駆動ギア34に伝達される。排紙部駆動ギア34がシャフト33を軸として回転すると、排紙駆動ローラー31も一体的に回転する。そして、プラテン5側から記録紙6が送られてくると、当該記録紙6は、排紙駆動ローラー31と排紙従動ローラー32との間に挟まれる。この状態で排紙駆動ローラー31が回転すると、記録紙6が排紙側に搬送され、この記録紙6の移動に伴って排紙従動ローラー32が回転する。
【0025】
ここで、本実施形態における搬送部8の搬送ローラー駆動ギア25、および、排紙部14の排紙部駆動ギア34は、本発明における第1のギアに相当する。そして、これらの第1のギアにおいて、少なくとも歯が形成された部分(第1部分に相当)は、圧電振動子46の駆動電極(個別外部電極69)に印加される駆動信号(噴射駆動パルスDP(図5参照。))と同極性に帯電しやすい材料から構成されている。本実施形態においては、噴射駆動パルスDPがプラス極性の電圧であるため、搬送ローラー駆動ギア25および排紙部駆動ギア34は、後述する伝動部16の第1伝動ギア37および第2伝動ギア38(本発明における第2のギアに相当)との摩擦によってプラスに帯電しやすい材料から作製されている。これらのギア同士の摩擦による帯電極性は、各ギアの摩擦帯電列の順位に応じて決まる。すなわち、帯電列で同じ極性側の材料同士であっても、順位に差があれば、摩擦帯電による両者の帯電極性が異なる。このため、帯電列において、第1伝動ギア37および第2伝動ギア38の材料(少なくとも歯が形成された部分(第2部分に相当))は、帯電列でよりマイナス側の順位にある材料から構成され、搬送ローラー駆動ギア25および排紙部駆動ギア34の材料は、帯電列で第1伝動ギア37および第2伝動ギア38よりもプラス側の順位にある材料から構成される。材料の組み合わせとしては、合成樹脂の場合、例えば、マイナス側としてポリ塩化ビニールやポリエチレン、プラス側(相対的にプラス側)としてアクリル、ポリエステル、ナイロン等が挙げられる。また、金属の場合、例えば、マイナス側としてニッケルや鉄、プラス側としてアルミニウム等が挙げられる。本実施形態においては、第1伝動ギア37および第2伝動ギア38の材料として導電体であるニッケルが採用され、搬送ローラー駆動ギア25および排紙部駆動ギア34の材料として誘電体(絶縁体)であるナイロンが採用される。なお、帯電列では、ニッケルがナイロンよりもマイナス側となる。なお、第1のギアと第2のギアの材料の組み合わせは例示したものには限られない。
【0026】
伝動部16は、シャフト36、第1伝動ギア37、および第2伝動ギア38を有する。第1伝動ギア37および第2伝動ギア38は、図1(b)における手前からこの順に配置され、回転の軸としてのシャフト36に接続されている。シャフト36は、筐体の上フレーム27に回転自在に支持される。シャフト36は接地されており、第1伝動ギア37および第2伝動ギア38もシャフト36を通じて接地されている。
【0027】
図2は、記録ヘッド2の構成を説明する要部断面図である。この記録ヘッド2は、ケース41と、このケース41内に収納される振動子ユニット42と、ケース41の底面(先端面)に接合される流路ユニット43と、カバー部材45等を備えている。上記のケース41は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット42を収納するための収納空部44が形成されている。振動子ユニット42は、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子46と、この圧電振動子46が接合される固定板47と、圧電振動子46に駆動信号を供給するフレキシブルケーブル48とを備えている。
【0028】
図3は、振動子ユニット42の構成を説明する素子長手方向の断面図である。同図に示すように、この圧電振動子46は、共通内部電極65と個別内部電極66とで、圧電体67を挟んで交互に積層して形成された積層型の圧電振動子である。ここで、共通内部電極65は、全ての圧電振動子46に共通な電極であり、接地電位に設定される。また、個別内部電極66は、印加される駆動信号の噴射駆動パルスDP(図5参照。)に応じて電位が変動する電極である。そして、本実施形態では、圧電振動子46における振動子先端から振動子長手方向(積層方向とは直交する方向)の半分程度まで若しくは3分の2程度までの部分が自由端部46aとなっている。また、圧電振動子46における残りの部分、即ち、自由端部46aの基端から振動子基端までの部分が基端部(固定端部)46bとなっている。
【0029】
自由端部46aには、共通内部電極65と個別内部電極66とが重なり合った活性領域(オーバーラップ部分)Aが形成されている。これらの内部電極65,66に電位差を与えると、活性領域Aの圧電体67が作動して変形し、自由端部46aが振動子長手方向に変位して伸縮する。そして、共通内部電極65の基端は、圧電振動子46の基端面部で共通外部電極68に導通している。一方、個別内部電極66の先端は、圧電振動子46の先端面部で個別外部電極69に導通している。なお、共通内部電極65の先端は圧電振動子46の先端面部よりも少し手前(基端面側)に位置しており、個別内部電極66の基端は自由端部46aと基端部46bの境界に位置している。
【0030】
個別外部電極69(本発明における駆動電極に相当)は、圧電振動子46の先端面部と、圧電振動子46における積層方向の一側面である配線接続面(図3における上側の面)とに一連に形成された電極であり、配線部材としてのフレキシブルケーブル48の配線パターンと各個別内部電極66とを導通する。そして、この個別外部電極69の配線接続面側の部分は、基端部46b上から先端側に向けて連続的に形成されている。共通外部電極68は、圧電振動子46の基端面部と、上記の配線接続面と、圧電振動子46における積層方向の他側面である固定板取付面(図3における下側の面)とに一連に形成された電極であり、フレキシブルケーブル48の配線パターンと各共通内部電極65との間を導通する。そして、この共通外部電極68における配線接続面側の部分は個別外部電極69の端部よりも少し手前から基端面部側に向けて連続的に形成されており、固定部取付面側の部分は振動子の先端面部よりも少し手前の位置から基端側に向けて連続的に形成されている。
【0031】
上記の基端部46bは、活性領域Aの圧電体67の作動時においても伸縮しない非作動部である。この基端部46bの配線接続面側にはフレキシブルケーブル48が配置されており、基端部46b上で個別外部電極69及び共通外部電極68とフレキシブルケーブル48とが電気的に接続される。そして、このフレキシブルケーブル48を通して駆動信号が各個別外部電極69に印加される。
【0032】
流路ユニット43は、流路形成基板49の一方の面にノズルプレート50が接合されると共に、流路形成基板49の他方の面に振動板51が接合されて構成されている。この流路ユニット43には、リザーバー52(共通液室)と、インク供給口53と、圧力室54と、ノズル連通口55と、ノズル56とが設けられている。そして、インク供給口53から圧力室54及びノズル連通口55を経てノズル56に至る一連のインク流路が、各ノズル56に対応して形成されている。
【0033】
上記ノズルプレート50は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル56が列状に穿設されたステンレス等の金属製の薄いプレートである。このノズルプレート50には、ノズル56を列設してノズル列(ノズル群)が複数設けられており、1つのノズル列は、例えば180個のノズル56によって構成される。
【0034】
上記振動板51は、支持板57の表面に弾性体膜58を積層した二重構造である。本実施形態では、金属板の一種であるステンレス板を支持板57とし、この支持板57の表面に樹脂フィルムを弾性体膜58としてラミネートした複合板材を用いて振動板51を作製している。この振動板51には、圧力室54の容積を変化させるダイヤフラム部59が設けられている。また、この振動板51には、リザーバー52の一部を封止するコンプライアンス部60が設けられている。
【0035】
上記のダイヤフラム部59は、エッチング加工等によって支持板57を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部59は、圧電振動子46の自由端部46aの先端面が接合される島部61と、この島部61を囲む薄肉弾性部62とからなる。上記のコンプライアンス部60は、リザーバー52の開口面に対向する領域の支持板57を、ダイヤフラム部59と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバー52に貯留された液体の圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0036】
そして、上記の島部61には圧電振動子46の先端面が接合されているので、この圧電振動子46の自由端部46aを伸縮させることで圧力室54の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室54内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド2は、この圧力変動を利用してノズル56からインクを噴射させるようになっている。
【0037】
カバー部材45は、流路ユニット43の側面やヘッドケース41の側面を保護する部材であり、ステンレス鋼等の導電性を有する板材から作製されている。本実施形態におけるカバー部材45の一部は、ノズルプレート50のノズル56を露出させた状態でノズル形成面の周縁部に当接しており、当該ノズルプレート50に対して電気的に導通している。カバー部材45は接地されており、ノズルプレート50に接触して導通することで、例えば、記録紙6等から発生した静電気がノズルプレート50を通じて伝達することによる駆動IC等の損傷やノズルプレート50の帯電を防止するようになっている。
【0038】
次に、プリンター1の電気的構成を説明する。
図4は、プリンター1の電気的な構成を説明するブロック図である。外部装置71は、例えばコンピューターやデジタルカメラなどの画像を取り扱う電子機器である。この外部装置71は、プリンター1と通信可能に接続されており、プリンター1において記録紙6等の記録媒体に画像やテキストを印刷させるため、その画像等に応じた印刷データをプリンター1に送信する。
【0039】
本実施形態におけるプリンター1は、駆動部15、搬送部8、伝動部16、排紙部14、キャリッジ移動機構7、リニアエンコーダー10、記録ヘッド2、及び、プリンターコントローラー72を有する。
【0040】
プリンターコントローラー72は、プリンターの各部の制御を行うための制御ユニットである。プリンターコントローラー72は、インターフェース(I/F)部75と、CPU76と、記憶部77と、駆動信号生成部78と、を有する。インターフェース部75は、外部装置71からプリンター1へ印刷データや印刷命令を送ったり、外部装置71がプリンター1の状態情報を受け取ったりする等プリンターの状態データの送受信を行う。CPU76は、プリンター全体の制御を行うための演算処理装置である。記憶部77は、CPU76のプログラムや各種制御に用いられるデータを記憶する素子であり、ROM、RAM、NVRAM(不揮発性記憶素子)を含む。CPU76は、記憶部77に記憶されているプログラムに従って、各ユニットを制御する。
【0041】
CPU76は、リニアエンコーダー10から出力されるエンコーダーパルスEPからタイミングパルスPTSを生成するタイミングパルス生成手段として機能する。そして、CPU76は、このタイミングパルスPTSに同期させて印刷データの転送や、駆動信号生成部78による駆動信号COMの生成等を制御する。また、CPU76は、タイミングパルスPTSに基づいて、ラッチ信号LAT等のタイミング信号を生成して記録ヘッド2のヘッド制御部53に出力する。ヘッド制御部53は、プリンターコントローラー72からのヘッド制御信号(印刷データおよびタイミング信号)に基づき、記録ヘッド2の圧電振動子46に対する駆動信号COMの噴射駆動パルスDP(図5参照)の印加制御等を行う。
【0042】
駆動信号生成部78は、駆動信号の波形に関する波形データに基づいて、アナログの電圧信号を生成する。また、駆動信号生成部78は、上記の電圧信号を増幅して駆動信号COMを生成する。この駆動信号COMは、記録媒体に対する印刷処理(記録処理或いは噴射処理)時に記録ヘッド2の圧力発生手段である圧電振動子46に印加されるものであり、繰り返し周期である単位期間内に、例えば図5に示す噴射駆動パルスDPを少なくとも1つ以上含む一連の信号である。ここで、噴射駆動パルスDPとは、記録ヘッド2のノズル56から液滴状のインクを噴射させるために、圧電振動子46に所定の動作を行わせるものである。
【0043】
図5は、駆動信号COMに含まれる噴射駆動パルスDPの構成の一例を示す波形図である。なお、図5において、縦軸は電位であり、横軸は時間である。また、噴射駆動パルスDPは、基準電位(中間電位)Vbから最大電位(最大電圧)Vmaxまでプラス側に電位が変化して圧力室54を膨張させる膨張要素p1と、最大電位Vmaxを一定時間維持する膨張維持要素p2と、最大電位Vmaxから最小電位(最小電圧)Vminまでマイナス側に電位が変化して圧力室54を急激に収縮させる収縮要素p3と、最小電位Vminを一定時間維持する収縮維持(制振ホールド)要素p4と、最小電位Vminから基準電位Vbまで電位が復帰する復帰要素p5と、を含んでいる。本実施形態における噴射駆動パルスDPは、最小電位(最小電圧)Vminが0以上であるため、全体としてプラスの電圧波形であるが、例えば共通外部電極68に印加されるバイアス電圧との関係で、部分的にマイナスの値を示す構成であっても良い。この場合、噴射駆動パルスDPの電圧が平均してプラスであるものとする。
【0044】
噴射駆動パルスDPが圧電振動子46に印加されると次のように作用する。まず、膨張要素p1により圧電振動子46が収縮し、これに伴って圧力室54が基準電位Vbに対応する基準容積から最大電位Vmaxに対応する最大容積まで膨張する。これにより、ノズル56内に露出しているメニスカスが圧力室側に引き込まれる。この圧力室54の膨張状態は、膨張維持要素p2の印加期間中に亘って一定に維持される。膨張維持要素p2の後に続いて収縮要素p3が圧電振動子46に印加されると、当該圧電振動子46が伸長し、これにより、圧力室54が上記最大容積から最小電位Vminに対応する最小容積まで急激に収縮する。この圧力室54の急激な収縮によって圧力室54内のインクが加圧され、これにより、ノズル56からは数pl〜数十plのインクが噴射される。この圧力室54の収縮状態は、収縮維持要素p4の印加期間に亘って短時間維持され、その後、制振要素p5が圧電振動子46に印加されて、圧力室54が最小電位Vminに対応する容積から基準電位Vbに対応する基準容積まで復帰する。
【0045】
ここで、本発明に係るプリンター1は、記録ヘッド2のノズル56から噴射されるインクが、圧電振動子46の駆動電極(個別外部電極69)に印加される駆動電圧(噴射駆動パルスDP)と同極性に帯電することを利用して、ミストの付着を忌避すべきギア、すなわち、搬送ローラー駆動ギア25、排紙部14の排紙部駆動ギア34、第1伝動ギア37、及び第2伝動ギア38に対するミストの付着を抑制している点に特徴を有している。
【0046】
プラス極性の噴射駆動パルスDPが圧電振動子46の個別外部電極69に印加されてインクの噴射が行われる際、静電誘導により圧力室54内における圧電振動子46の近傍のインクにはマイナス電荷が誘導され、ノズル56の近傍のインクにはプラス電荷が誘導される。そして、ノズル56から噴射されたインクはプラスに帯電する。記録紙6に向けて飛翔しているインクは、レナード効果によりプラスの帯電が強まる。これにより、飛翔する間にインクが分離して生じるサテライト液滴や、これよりも更に微小なミスト(以下、ミスト等)がプラスに帯電する。そして、これらのミスト等の一部は、記録紙6に着弾せずに浮遊する。
【0047】
上述したように、本実施形態において第1伝動ギア37および第2伝動ギア38の材料としてマイナスに帯電しやすいニッケルが採用され、搬送ローラー駆動ギア25および排紙部駆動ギア34の材料としてプラスに帯電しやすいナイロンが採用されている。そして、搬送ローラー駆動ギア25と第1伝動ギア37とが噛合した状態で回転することでギア同士が摩擦し、ナイロンから成る搬送ローラー駆動ギア25が、電荷の移動によりプラスに帯電する。一方、ニッケルから成る第1伝動ギア37は、シャフト36を通じて接地されているので、除電されて無帯電となる。同様に、排紙部駆動ギア34と第2伝動ギア38とが噛合した状態で回転することで、ナイロンから成る排紙部駆動ギア34はプラスに帯電し、接地されたニッケルから成る第2伝動ギア38は無帯電となる。これにより、プラスに帯電した搬送ローラー駆動ギア25および排紙部駆動ギア34に関しては、同じくプラスに帯電したミストとの間に斥力が作用するため、当該ミストの付着が防止される。また、無帯電である第1伝動ギア37および第2伝動ギア38についても、他の部材との間に電界が形成されず、ミストとの間で静電気力が生じ難いので、当該ミストの付着が低減される。その結果、ミストの付着による故障が抑制され、プリンター1の耐久性および信頼性が向上する。
【0048】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0049】
例えば、第1のギアと第2のギアの組み合わせに関し、上記実施形態では、本発明における第1のギアとして搬送ローラー駆動ギア25および排紙部駆動ギア34を例示し、本発明における第2のギアとして第1伝動ギア37および第2伝動ギア38を例示したが、これには限られない。プリンター内部に設けられて当該プリンターの駆動に関わるギアであれば、噛合する一方のギアを第1のギアとし、他方のギアを第2のギアとすることができる。
【0050】
また、上記実施形態では、インクが噴射される際に生じるミストがプラスに帯電する構成を例示したが、これには限られない。例えば、圧電振動子に印加される駆動信号(噴射駆動パルスDP)の極性がマイナスの構成では、条件によってはミストがマイナスに帯電する場合も考えられる。この場合、第1のギアをマイナスに帯電しやすい材料で構成し、第2のギアをプラスに帯電しやすい材料で構成した上で、第2のギアを接地する構成を採用することもできる。この構成においても、ミストがギアに付着することが抑制される。
【0051】
また、上記実施形態では、圧力発生手段として、所謂縦振動型の圧電振動子46を例示したが、これには限られず、例えば、所謂撓み振動型の圧電振動子を採用することも可能である。この場合、図5に例示した駆動信号(噴射駆動パルスDP)の波形に関し、電位の変化方向、つまり上下が反転した波形となる。その他、圧力発生手段としては、発熱によりインクを突沸させることで圧力変動を生じさせる発熱素子や、静電気力により圧力室の区画壁を変位させることで圧力変動を生じさせる静電アクチュエーターなど、電圧の印加により駆動される圧力発生手段を採用する構成においても本発明を適用することが可能である。
【0052】
そして、本発明は、圧力発生手段を用いて液体の噴射制御が可能な液体噴射装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。そして、ディスプレイ製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料を噴射する。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液を噴射する。
【符号の説明】
【0053】
1…プリンター,2…記録ヘッド,6…記録紙,8…搬送部,14…排紙部,15…駆動部,16…伝動部,25…搬送ローラー駆動ギア,34…排紙部駆動ギア,37…第1伝動ギア,38…第2伝動ギア,46…圧電振動子,50…ノズルプレート,54…圧力室,56…ノズル,69…個別外部電極,78…駆動信号生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル、当該ノズルに連通する圧力室、および、駆動信号の印加により駆動して前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
互いに噛合しあって装置の駆動に関わる第1のギアおよび第2のギアと、を備える液体噴射装置であって、
前記第1のギアは、帯電列で前記駆動信号の極性と同極性側の順位にある材料から構成された第1部分を有し、前記第2のギアは、帯電列で前記第1のギアの第1部分よりも前記駆動信号の極性と反対極性側の順位にある材料から構成された第2部分を有することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記第1のギアの材料が誘電体である一方、前記第2のギアの材料が導電体であり、
当該第2のギアが接地されたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−240321(P2012−240321A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113194(P2011−113194)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】