説明

液体細菌接種材料の保存期間及び種子上での安定性の改良

【課題】保存中の液体接種材料の微生物(例えば、細菌)の生存率と安定性を高める方法、及び、いったん種子上に施された液体接種材料中の微生物の生存率と安定性を改善する方法を提供すること。
【解決手段】乾燥剤を含む液体接種材料製品を製造するための方法である。その方法は、実質的に静止期まで増殖させた細菌の液体接種材料を供給することを含む。乾燥剤を含む乾燥処理剤は、部分的に乾燥した接種材料製品を形成するために液体接種材料に加えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体接種材料に関する。特に、本発明は包装された液体接種材料中の細菌の生存率と安定性を改善するための方法及び種子に与える時期に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な微生物には植物に対する有益な効果があることが知られている。これらの微生物にはRhizobium(Bradyrhizobiumを含む)、Pseudomonas、Serratia、Bacillus(Paenibacillusを含む)、Pasteuria、Azotobacter、Enterobacter、Azospirillum、Methylobacterium、Cyanobacteria(らん藻類)属の菌類、および菌根菌を含む。これらの微生物は接種組成物を用いて植物に導入できる。接種組成物を作製する過程は、通常、栄養培地で微生物を発酵させるステップを含む。
【0003】
接種組成物は、植物の種子に直接与えること、又は種子を植えつける前に直接畝間に散布することができる。作物を改良するために、種子又は土への有益な微生物の接種は長年にわたり実施されている。しかし、バラつきのある、一貫性のない結果がしばしば認められている。それは、おそらく接種材料の生存力の喪失、又は接種材料の生存力の変化による供与量のバラつきのためである。
【0004】
畝間に散布しようと種子に与えようと、接種材料を播種する時点では、接種材料中の微生物が新しい環境に適応する時間がない。その結果、接種材料中の微生物の生存率は低くなる。
【0005】
最近では、接種材料中の微生物の生存率を改善するために、接種材料を種子、又は播種時に加えるときに、糖、又はポリマーベースの増量剤が加えられる。その増量剤は接種材料の包装の後に加えられるので、包装内の接種材料の生存能力及び安定性には増量剤は影響を与えない。
【0006】
また種子又は播種の際に接種材料を与えるときに、増量剤を添加することは煩雑であり、さらに、それは通常、接種材料の末端利用者(例えば、農業者)によって非制御環境下(例えば、納屋や圃場)で実施されるはずである。したがって増量剤が不適切に使用される確率が高くなることが予想される。
【0007】
また接種材料の作製後に増量剤を加えることによる問題を克服するために、液体接種材料を作製する発酵ステップの前に、栄養培地に増量剤が加えられる。しかし、種子上で生存させるための最適量の増量剤を発酵前に添加すると、微生物の成長が抑制される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、保存中の液体接種材料の微生物(例えば、細菌)の生存率と安定性を高める方法、及び、いったん種子上に施された液体接種材料中の微生物の生存率と安定性を改善する方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの実施例は、乾燥剤を含む液体接種材料製品を製造するための方法である。その方法は、実質的に静止期まで増殖させた細菌の液体接種材料を供給することを含む。乾燥剤を含む乾燥処理剤は、部分的に乾燥した接種材料製品を形成するために液体接種材料に加えられる。
【0010】
本発明の別の実施例では、部分的に乾燥した接種材料製品は、包装され、保存される。
【0011】
本発明の更なる実施例では、部分的に乾燥した接種材料は種子に施される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のいくつかの実施例による、時間と温度との関係を示したBradyrhizobium japonicum(「B japonicum」)の液体培地中での生存グラフである。
【図2】本発明のいくつかの実施例による、時間と温度との関係を示したB japonicumの液体培地中での生存グラフである。
【図3】本発明のいくつかの実施例による、時間と温度との関係を示したB japonicumの種子上での生存グラフである。
【図4】本発明のいくつかの実施例による、乾燥剤のタイプと量との関係を示したB japonicumの液体培地中での生存グラフである。
【図5】本発明のいくつかの実施例による、乾燥剤のタイプと量との関係を示したB japonicumの液体培地中での生存グラフである。
【図6】本発明のいくつかの実施例による、乾燥剤のタイプと量との関係を示したB japonicumの種子上での生存グラフである。
【図7】本発明のいくつかの実施例による、乾燥剤のタイプと量との関係を示したPseudomonas fluorescens(「P fluorescens」)の液体培地中での生存グラフである。
【図8】本発明のいくつかの実施例による、乾燥剤のタイプと量との関係を示したS proteomaculans(「S proteomaculans」)の液体培地中での生存グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
細菌の液体接種材料を作製するための方法を提供する。該方法は、細菌を実質的に静止期まで増殖させた後、液体接種材料に乾燥剤を添加することを含む。接種材料に乾燥剤を添加することで、部分的に乾燥した接種材料製品が形成される。
【0014】
部分的に乾燥した接種材料製品を「包装」するとき(すなわち、包装内に含まれている)、及び部分的に乾燥した接種材料製品を種子に施すときに、該方法は細菌の安定性の向上を提供する。安定性の向上により包装内と種子上の両方での細菌の生存率を高めることができる。
【0015】
培養細菌を作製するために、細菌を液体栄養培地に導入する。これには限定されないが、Rhizobium(Bradyrhizobiumを含む)、Pseudomonas、Serratia、Bacillus(Paenibacillusを含む)、Pasteuria、Azotobacter、Enterobacter、Azospirillum、Methylobacterium、Cyanobacteria(らん藻類)属の菌類を含むさまざまな細菌を液体栄養培地に導入することができる。細菌培養液を作製するために、液体栄養培地に他の微生物(例えば、菌根菌)を導入することもできる。Rhizobium及びBradyrhizobiumに関しては、Bradyrhizobium japonicum、Rhizobium meliloti、Rhizobium leguminosarum biovar trifolii、Rhizobium leguminosarum biovar viceae及びRhizobium leguminosarum biovar phaseoliを含む株が好ましい。これらの細菌は豆科作物種の根に小節を形成できる。以下の説明は、主にRhizobium属の接種材料組成物を示すが、同様の原理が他の微生物の使用にも適用されると理解される。
【0016】
選択された細菌に適合することが当業者に公知の、あらゆる液体栄養培地が細菌を導入する液体栄養培地になり得る。例えば、YMBはRhizobium属に使用される一般的な培地である。YMBの組成を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
細菌を液体栄養培地に添加した後、細菌を「実質的な静止期」に増殖させるために細菌培養液を培養(又は、発酵)することができる。「実質的な静止期」は、「対数期」の後期から「定常期」までの培養期間を含むと定義される。「対数期」は発酵初期の誘導期後に起こる段階で、通常、栄養物が無制限にあり、通常、細菌が指数増殖する段階と定義される。「定常期」は対数期後に起こる段階で、菌増殖が基本的に停止した段階と定義される。液体栄養培地が実質的に枯渇したとき、通常、定常期に達している。本明細書中で使用されるように、実質的に静止期まで培養された細菌を含む物質を「液体接種材料」と呼ぶ。
【0019】
通常、細菌の培養期間は1〜15日間である。より具体的にいうと、培養期間は2〜7日間である。培養期間中、液体栄養培地及び細菌を通気し、増殖に適した温度で維持できる。振盪培養器、発酵装置又は他の同様の手段を用いて通気を実施できる。培養の厳密な条件は細菌のタイプ及び使用される液体栄養培地のタイプに依存する。例えば、B japonicumは、振盪培養器の栄養培地で約1〜10日間、約20℃〜35℃で培養することができる。好ましくは、B japonicumを増殖するためには、約2〜7日間、約28℃で培養する。
【0020】
細菌によって、実質的な静止期における細菌数は異なる。例えばRhizobium属の細菌では、液体接種材料の細菌数は、約1×109/ml〜1×約1011/mlと想定される。特に、液体接種材料は約1×1010/mlを含む。これらは一例としての量であり、他の量も本発明の範囲内にあると意図される。
【0021】
実質的に静止期に達した(すなわち、細菌が指数関数的に増殖した)後に、部分的に乾燥した接種材料製品を作製するために乾燥剤を含む乾燥処理剤を液体接種材料に導入する。用語「乾燥処理剤」は、乾燥剤と通常は水である希釈物質との混合物を意味する。用語「乾燥剤」は、水に加えられると水分活性(飽和圧力で割った物質表面の水蒸気の部分分圧と定義される)を低下させる物質を意味する。0.995未満に水分活性を低下することは、部分的に乾燥した接種材料製品中に包装された細菌の生存率の促進に有効であると想定される。0.990未満(好ましくは約0.980未満)に水分活性を低下することは、部分的に乾燥した接種材料製品中の細菌の種子上での生存率の促進に有効であると想定される。
【0022】
本明細書に使用される「乾燥剤」は、化合物又は化合物の混合物が、実際に液体接種材料の乾燥に影響を与える濃度で使用されるか否かにかかわらず、乾燥剤として分類できるどんな化合物又は化合物の混合物をも含むことができる。適切な乾燥剤の例は、トレハロース、スクロース、グリセロール及びトリエチレングリコールの1以上を含む。他の適切な乾燥剤は、これには限定されないが、非還元糖及び糖アルコール(例えば、マンニトール)を含む。
【0023】
通常、液体接種材料に導入する乾燥剤の量は、部分的に乾燥した接種材料製品の約5%〜約50%(重量又は体積)の濃度である。乾燥剤がトレハロースの場合には、部分的に乾燥した接種材料製品の約10%〜約40%(重量又は体積)の濃度が好ましい。より好ましくは、トレハロースの濃度は、部分的に乾燥した接種材料製品の約20%〜約30%(重量又は体積)である。
【0024】
乾燥処理剤は1以上の乾燥剤の混合物を含むことができる。実際、乾燥剤が本明細書で定義される場合、その混合物は2以上の乾燥剤の組み合わせであってもよい。例えば、乾燥処理剤にはトレハロースとグリセロールの混合物、トレハロースとスクロースの混合物、又はスクロースとトリエチレングリコールの混合物を含むことができる。トレハロースとグリセロールの混合物は、部分的に乾燥した接種材料製品の約5%〜約40%(重量又は体積)の濃度のトレハロース、及び部分的に乾燥した接種材料製品の約1%〜約10%(重量又は体積)の濃度のグリセロールを含むことができる。特に、混合物中のトレハロースとグリセロールの濃度は、それぞれ、部分的に乾燥した接種材料製品の約20%(重量又は体積)と約5%(重量又は体積)とすることができる。
【0025】
液体接種材料が培養中の使用容器(例えば、発酵装置または振盪培養器)内にまだある時に、液体接種材料に乾燥剤を加えることができる。あるいは、包装する間に、液体接種材料に乾燥剤を加えることができる。
【0026】
ある実施例では、接種材料製品中の細菌を少なくとも部分的に乾燥させるために、部分的に乾燥した接種材料製品には十分な乾燥剤が存在する。その結果(1)包装や保存等のその後のステップにおける細菌の安定性と生存率を改善し、(2)部分的に乾燥した接種材料製品を種子に与える等のその後のステップにおける細菌の安定性と生存率を改善する。
【0027】
そして、部分的に乾燥した接種材料製品は包装し、保存できる。包装は、当該業界で公知のどんな標準的な包装でもよい。例えば、ポリエチレン性の袋で部分的に乾燥した接種材料製品を包装できる。
【0028】
部分的に乾燥した接種材料製品は、包装後に保存できる。保存状態としては、冷蔵温度から周囲温度まで、低い相対湿度から適度な相対湿度までを含むことができる。好ましくは、保存状態は約35℃未満の温度及び約80%未満の相対湿度を含む。
【0029】
部分的に乾燥した接種材料製品をさまざまな種子に与えることができる。例えば、豆科作物の種子に部分的に乾燥した接種材料製品を与えることができる。豆科作物は、大豆、ルーサン(アルファルファ)、ピーナッツ、えんどう、豆等、経済的に重要な野菜を含む植物の大きい群を形成する。部分的に乾燥した接種材料製品の細菌は、根毛に浸透し、根にコロニーを形成し、小節を形成するために、根圏にコロニーを形成、及び/又は植物の根に感染することができる。この共生関係の結果、植物は窒素固定を介して窒素ガスを窒素の有機物に変えることができる。そして、植物は、成長ためにこれらの有機物を使用できる。
【0030】
部分的に乾燥した接種材料製品を種子に与えた時には、種子上の細菌数は様々である。部分的に乾燥した接種材料製品を与えて10週間後の種子上の細菌数もまた様々であるが、その数は元の量から著しく逸脱すべきではないと考えられる。言い換えれば、時間が経過するにつれて、細菌数/種子が急激に減少すべきではない。例えば、部分的に乾燥した接種材料製品を種子に与えた時の種子上の細菌数が少なくとも6×105であるなら、好ましくは、約10週間後の種子上の細菌数は少なくとも1×105である。
【0031】
包装内及び種子上での部分的に乾燥した接種材料製品中の細菌の安定性と生存率を改善するために、部分的に乾燥した接種材料製品を種子に与える前に、部分的に乾燥した接種材料製品にポリマーを任意に加えることができると想定される。ポリマーは、包装ステップの前または保存ステップの後に加えることができる。ポリマーはポリビニルピロリドン、アルキル化ビニルピロリドンポリマー類、ビニルピロリドン、酢酸ビニル共重合体、ビニルピロリドン、スチレン共重合体、ポリビニールアルコール重合体、その他類似のポリマーを含むことができる。ポリマーは、部分的に乾燥した接種材料製品の約1%〜25%(重量又は体積)の濃度にすることができる。
【0032】
細菌が実質的に静止期に達した後、部分的に乾燥した接種材料製品を作製するために液体接種材料へ乾燥剤を添加することは、播種時に増量剤を加える必要なく細菌の安定性を改善するが、そのことは増量剤の使用を妨げるものではない。実際、本発明の範囲内では、部分的に乾燥した接種材料製品を種子に与えた後に増量剤を種子に与えることができる。播種時、又は部分的に乾燥した接種材料製品を種子に与える時に、増量剤を加えることができる。増量剤は糖、増粘剤、カルボキシメチルセルロース、及びポリマーをベースにするもの等、一般的に使用されるどんな増量剤も含むことができる。
【0033】
乾いた、流動性のある接種材料の剤形を形成するために泥炭、粘土、及び/又は他の同様の乾いた担体に、部分的に乾燥した接種材料製品を添加することができる。噴霧または他の公知手段で、部分的に乾燥した接種材料製品を添加することができる。
【実施例】
【0034】
ここで、以下の非限定的な実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
【0035】
実施例1 トレハロース及びグリセロール/トレハロース混合物の存在下におけるBradyrhizobium japonicumの安定性の評価
7日間熟成発酵培地を作製するためにB japonicumを振盪フラスコの栄養培地中で振盪培養器によって28℃で培養した。4種の処理剤(表2参照)を250mlの振盪フラスコに準備した。1種の処理剤を2つずつ準備したので、250mlの振盪フラスコが合計8個となった。50mlの7日間熟成発酵培地をそれぞれの振盪フラスコに加えた。すべてのフラスコの成分は、さらに、振盪培養器によって28℃で7日間平均化した。平均化させた後に、それぞれの処理液のひとつのフラスコを28℃の静止培養に移した。それぞれの処理液のもうひとつのフラスコを35℃の静止培養に移した。
【0036】
【表2】

【0037】
フラスコから定期的にサンプルを採取し、生存している細菌数を算定するために一般プレート生菌数測定を行った。菌数測定は、まず、サンプルを混ぜ、目盛り付きピペットと無菌チップを使用して1mlのサンプルを取り、9mlの逆浸透(RO)水の入った試験管に入れ、10倍希釈液を作製することによって実施した。そして、1000μLのRainin社製ピペット(較正し、1000μLにセットする)と無菌チップを用いて、1000μLの10倍希釈液を10倍希釈試験管から取り、別の9ml逆浸透水の入った試験管に移し、100倍希釈液を作製した。希釈液を移すときには、ボルテックス及び無菌操作に注意し、これらのステップを107倍希釈まで繰り返した。
【0038】
100μLのRainin社製ピペット(較正し、30μLにセットする)と無菌チップを用いて10倍希釈液試験管から30μLを取り、雑菌混入検出プレートとして用意した栄養寒天プレート上に10μLずつ3滴加えた。栄養寒天培地はOxoid社製であった。これらのステップは10−5、10−6、および10−7希釈を除く希釈液で繰り返し、そのサンプルは標準のコンゴレッド酵母マンニトール寒天(CRYMA−表3参照)のプレートに加えた。
【0039】
【表3】

【0040】
プレートを裏返しにする前に乾燥し、28℃のインキュベーターにそれらを5日間置いた。5日後に、コロニーの数を低倍率顕微鏡下で数えた。総コロニー数は、平均×希釈倍率×100によって算出した。
【0041】
28℃の液体培地中で培養したB japonicumの生存について4つの処理の結果を図1に示す。35℃の液体培地中で培養したB japonicumの生存についての処理の結果を図2に示す。5%のグリセロール処理は試験中に汚染されたので、図2に含めていない。
【0042】
図1に示した結果は、28℃での20%トレハロース処理、及び20%トレハロース/5%グリセロール処理が液体培地中の細菌の生存に適していることを示す。未処理の細菌数は実験開始から約12週目〜16週目のいずれかの時点で減少し始めた。反対に、20%トレハロース処理、及び20%トレハロース/5%グリセロール処理の細菌数はその同じ期間、及びそれ以後の期間でさえ比較的一定のレベルで残った。
【0043】
図2に示した結果は、35℃での20%トレハロース処理が培地中の細菌の生存に適していること示す。未処理を含む他の処理の細菌数は実験の初期で著しく減少したが、20%トレハロース処理の細菌数は実験中、比較的一定レベルで残った。
【0044】
10週間後に、未処理及び20%トレハロース処理からサンプルを採取し、大豆種子に施した。種子は22℃で培養した。定期的にサンプルを取り、B japonicumの生存数を評価した。種子の生存を評価する方法は以下の通りであった。
【0045】
500gの大豆種子を測定し、ラベルしたジッパー付きの汚れのないポリ袋の中に入れた。2mlのシリンジまたは2mlの無菌ピペットを使用して、1.38mlの処理剤を均等に種子の表面に施した。そして、種子に接種したポリ袋の中に外気を取り込んだ。次に、すぐにポリ袋の封をし、種子が処理物質で均等に被覆されるまで(約30秒間)振盪した。ポリ袋は、乾燥するまで(約10分間)実験室条件下(21℃)で直射日光から避けて封をせずに放置した。乾燥アルコールで拭いた完全な長さのスクープへらを使用して、傷のない種子100個を正確にポリ袋から無作為に選択した。その種子をあらかじめ準備した100mlの希釈ボトルの中に入れた。ボトルを閉じて、すぐに、約1分間強く振盪した。準備した100mlのボトルから、無菌方法を用いて、懸濁液の連続希釈液を以下のように作製した:(1)100mlのボトルを振盪した後、すぐに、1mlの懸濁した細菌と希釈剤とを9mlのRO水の入った希釈チューブの中に無菌的に移し、10倍希釈液を作製した。(2)10倍希釈液を15秒間ボルテックスした。(3)ボルテックス後、すぐに1mlの10倍希釈液を9mlのRO水の入った別の希釈チューブの中に移し、100倍希釈液を作製した。(4)100倍希釈液をボルテックスした。:(5)ステップ(3)と(4)とを繰り返し、103及び104倍希釈液を作製した。
【0046】
使用した希釈チューブの詳細、処理の詳細、及びプレートした日付を、コロニー評価用寒天プレートに表記した。プレートは各希釈液のために2枚ずつ作製した。希釈液チューブからサンプリングし、それらを寒天プレートに入れる前に、希釈液をボルテックスした。次に、標準の無菌ピペット操作のテクニックを用いて、それぞれの希釈液の100μLサンプルを各寒天プレートの中心に分注した。無菌延展器具を使用して、サンプルを均等にプレートの表面に広げた。そして、プレートを7日間28℃で培養した。培養後、それぞれのプレートのコロニー形成単位(CFU)の数を数えて、記録した。1プレートあたりのCFUの数を算出するために、以下の計算式を用いた:[平均コロニー数×{表示された希釈×10(a)×100(b)}/100(c)]、式中、(a)は希釈液からプレート1枚あたり0.1ml取ったことによる補正値、(b)はオリジナルの希釈ボトル中に100mlあることによる補正値、(c)はオリジナルサンプル中の種子の数による補正値である。
【0047】
10週間後の種子上のB japonicumの生存結果を図3に示す。その結果、未処理では、細菌数が1×105/種子を超えていた期間の長さが1週間未満であったが、20%トレハロース処理では10週間を超えた。これらの結果は、細菌が種子に置かれる場合、20%のトレハロース濃度による処理が細菌の良好な生存性を提供することを示す。
【0048】
実施例2 B japonicum安定化に必要なトレハロース/スクロースのレベルの最適化
フラスコを準備するための手順は、実施例1と同じであった。この実施例のための処理を表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
28℃の液体培地で培養したB japonicumの生存についての処理の結果を図4に示す。35℃の液体培地で培養したB japonicumの生存についての処理の結果を図5に示す。
【0051】
図4に示される結果は、28℃では、10%〜30%(重量又は体積)のトレハロース濃度処理が液体培地での細菌の生存に最適であることを示す。また、図4は、5%〜10%(重量又は体積)のスクロース濃度処理が液体培地での細菌の生存に好ましいことを示すが、トレハロース処理と同程度ではない。また図4は、40%トレハロース濃度の処理で細菌が生存できることを示し、このことは、微生物の増殖を抑制する処方においても細菌が生存する能力を持っていることを示す。
【0052】
図5に示される結果は、35℃では、10%〜30%(重量又は体積)のトレハロース濃度処理が液体培地での細菌の生存に最適であることを示す。また、図5は、5%(重量又は体積)のスクロース濃度処理が液体培地での細菌の生存に好ましいことを示すが、トレハロース処理と同程度ではない。
【0053】
10週間後、表4に記載された処理からサンプルを採取し、大豆種子に施した。その種子を22℃で培養した。最初に6日後、2週間後、4週間後にサンプルを採取した。これらのサンプルから、生存しているB japonicumの数を算定した。 種子上での生存を評価する方法は上の実施例1で記載されたとおりであった。種子上での生存の結果を図6に示す。
【0054】
図6に示される結果は、22℃では細菌が種子に置かれるとき、20%〜30%(重量又は体積)のトレハロース濃度処理が液体培地での細菌の生存に最適であることを示す。
【0055】
実施例3 液体培地処方におけるSerratia Proteomaculans及びPseudomonas Fluorescensの安定性の評価
細菌培地を作製するためにSerratia proteomaculans(「S proteomaculans」)を標準の微生物培地(半分に薄められたトリプシンの大豆培地−「TSB」)中で22℃、24時間培養した。表5に記載された処理の1つに対応する各フラスコを1セット準備した。50mlの細菌培養液をそれぞれのフラスコに加えた。すべてのフラスコをさらに振盪培養器によって3日間、22℃で平衡化した。そして、フラスコを28℃での静止培養に移した。定期的に、サンプルを採取し、連続的に希釈し、半分に薄められたトリプシンの大豆寒天培地−「TSA」にプレーティングすることによって、細菌の数を算定した。
【0056】
Pseudomonas fluorescens(「P fluorescens」)のために同じステップを繰り返した。
【0057】
【表5】

【0058】
28℃の液体培地でのP fluorescensの生存についての処理の結果を図7に示す。その結果は、28℃では、グリセロール、トレハロース及びスクロースでの処理のすべてがP fluorescensの生存性を改善する能力を有することを示す。
【0059】
28℃の液体培地でのS proteomaculansの生存についての処理の結果を図8に示す。その結果は、30%トレハロース処理、10%スクロース処理及び30%スクロース処理の生存数が4週間以上、未処理よりも多いことを示す。このデータは、その処理がS proteomaculansの生存性を改善する能力を有することを示す。
【0060】
形態と構成をさまざまに変えて本発明を実施できることは、当業者に良く理解されるであろう。開示された実施例以前の詳細な説明は、唯一、理解を明らかにする目的のために提示され、不必要な制限がそこに暗示されているわけではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分的に乾燥した接種材料製品の製造方法であって、
実質的に静止期まで増殖させた細菌の液体接種材料を供給すること;及び、
前記液体接種材料に乾燥剤を含む乾燥処理剤を添加し、前記部分的に乾燥した接種材料製品を形成することを含む方法。
【請求項2】
前記細菌が、Rhizobium属、Pseudomonas属、Serratia属、Bacillus属、Pasteuria属、Azotobacter属、Enterobacter属、Azospirillum属、Methylobacterium属及びCyanobacteria属の1以上である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記部分的に乾燥した接種材料製品の水分活性が、0.990未満である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記部分的に乾燥した接種材料製品の水分活性が、0.980未満である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
細菌を液体栄養培地に導入して培養細菌を作製すること;及び、
前記培養細菌を培養し、前記細菌を実質的に静止期まで増殖させ、液体接種材料を作製することによって、前記液体接種材料を供給する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記細菌の前記培養が2〜7日間行われる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記乾燥剤が、1以上の非還元糖及び糖アルコールである請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記乾燥剤が、2以上のトレハロース、スクロース、グリセロール、トリエチレングリコール及びマンニトールの混合物を含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記乾燥剤が、1以上のトレハロース、スクロース、グリセロール、トリエチレングリコール及びマンニトールである請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記乾燥剤が、前記部分的に乾燥した接種材料製品の5%〜50%(重量又は体積)である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記乾燥剤が、トレハロースを含む請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記トレハロースが、前記部分的に乾燥した接種材料製品の10%〜40%(重量又は体積)である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記トレハロースが、前記部分的に乾燥した接種材料製品の20%〜30%(重量又は体積)である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記乾燥剤が、トレハロースとグリセロールとの混合物を含む請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記トレハロースが、前記部分的に乾燥した接種材料製品の5%〜40%(重量又は体積)であり、且つ、前記グリセロールが、前記部分的に乾燥した接種材料製品の1%〜10%(重量又は体積)である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記トレハロースが前記部分的に乾燥した接種材料製品の20%(重量又は体積)であり、且つ、前記グリセロールが前記部分的に乾燥した接種材料製品の5%(重量又は体積)である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
さらに、前記部分的に乾燥した接種材料製品を包装することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項18】
さらに、前記部分的に乾燥した接種材料製品を保存することを含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
さらに、前記部分的に乾燥した接種材料製品を種子に施すことを含む請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記細菌が、Rhizobium属、Pseudomonas属、Serratia属、Bacillus属、Pasteuria属、Azotobacter属、Enterobacter属、Azospirillum属、及びCyanobacteria属の1以上である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記乾燥剤が、1以上の非還元糖及び糖アルコールである請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記乾燥剤が、1以上のトレハロース、スクロース、グリセロール、トリエチレングリコール及びマンニトールである請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記乾燥剤が、前記部分的に乾燥した接種材料製品の5%〜50%(重量又は体積)である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記乾燥剤が、トレハロースを含む請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記トレハロースが、前記部分的に乾燥した接種材料製品の10%〜40%(重量又は体積)である請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記トレハロースが、前記部分的に乾燥した接種材料製品の20%〜30%(重量又は体積)である請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記種子が豆科作物の種子を含む請求項19に記載の方法。
【請求項28】
10週間後の前記種子上の細菌数が1×105を超える請求項19に記載の方法。
【請求項29】
さらに、前記部分的に乾燥した接種材料製品を施した後に、種子に増量剤を施すことを含む請求項19に記載の方法。
【請求項30】
乾いた担体に前記部分的に乾燥した接種材料製品を添加し、乾いた流動性のある剤形を形成する請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記乾いた担体が泥炭である請求項30に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−235794(P2012−235794A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−197755(P2012−197755)
【出願日】平成24年9月7日(2012.9.7)
【分割の表示】特願2007−548221(P2007−548221)の分割
【原出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(507211691)ベッカー−アンダーウッド,インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】