説明

液体試料保持プレート

【課題】気泡を噛みこまずに液体試料を展開することができる液体試料保持プレートを提供する。
【解決手段】基板101と、基板101上に設けられ基板101に対向する面203に脂溶性の界面活性剤を塗布した上カバー202と、基板101と上カバー202との間に液体試料を保持する空間204を設けるためのスペーサー201からなり、スペーサー201は、基板101と上カバー202との間に開口部を2つ以上設けるように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料を保持するプレートの構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロアレイは生体分子の解析に利用されている。その利用は、遺伝子の解析や遺伝子から発現したタンパク質の機能解析など多岐に渡っている。例えば、マイクロアレイを利用した遺伝子解析であれば、個々の細胞、組織あるいは個体での遺伝子の発現の様子を網羅的に解析することが可能となっている。
【0003】
マイクロアレイはDNAチップとも呼ばれ、ガラスやシリコン製の1×3インチ大の小基盤上に、ナノリットル単位の遺伝子溶液の液滴を高密度に点着させることによりマイクロメートル単位の微小なスポットを形成して、ガラスやシリコン製の基板上に遺伝子断片を固定化する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この固定化物を含んだ基板上で、ブロッキング、洗浄、検出反応といった様々な化学反応を行うことで、網羅的な遺伝子解析や発現タンパクの機能解析を行うことが可能となっている。基板上での化学反応は、基板上に反応液を滴下することで行われる。反応液の滴下の際には、基板上から溢れること無く、速やかに展開される必要がある。基板上から反応液が溢れること無く速やかに展開される方法として、固定化物を保持した基板上に凹面を持つカバータイルをキャスティングし、基板とカバータイルとの間に形成されたキャビティ内に反応液を加える方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特表平10−503841号公報
【特許文献2】特表2000−508423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の構成では、カバータイルをキャスティングさせた際に液体試料を展開する上で気泡の噛み込みが生じやすいという課題を有していた。
【0005】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、気泡の噛み込みを生じることなく液体試料を展開することが出来る液体試料保持プレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来の課題を解決するために、本発明の液体試料保持プレートは、基板と、この基板上に設けられ前記基板に対向する面に脂溶性の界面活性剤を塗布した上カバーと、前記基板と前記上カバーとの間に液体試料を保持する空間を設けるためのスペーサーからなることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0007】
以上のように、本発明の液体試料保持プレートによれば、気泡の噛み込みを生じることなく液体試料を展開することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の液体試料保持プレートの実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0009】
(実施の形態)
DNAアレイやプロテインアレイといった網羅的な検出においては、図1の(a)から(d)に示したような工程で一連の操作が行われる。まず、アレイ化領域102と非アレイ化領域103を有した基板101を用意し(図1(a))、次に前記基板101上のアレイ化領域102にアレイ化サンプル104を固定する(図1(b))。次に、前記アレイ化領域102に対してピペットを用いて(図1(c))、液体試料105を前記アレイ化領域102全面に行き渡る様に導入する(図1(d))。
【0010】
図2は、本発明の実施の形態における液体試料保持プレートの構造を示すものである。図2(a)に示す基板101は、アレイ化サンプル104を固定するためのアレイ化領域面102と非アレイ化領域面103からなり、アレイ化領域面102と非アレイ化領域面103の境界にあたる部分の4隅にスペーサー201を配置している。図2(b)に示す上カバー202は、基板101と向かい合う面203に脂溶性の界面活性剤を塗布したものである。図2(c)に示すように、本発明の液体試料保持プレートは基板101上の4隅に配置したスペーサー201に覆い被せるように上カバー202を配置し、基板101と上カバー202との間にスペーサー201の厚み分の液体試料105を保持可能な空間204を設けたものである。
【0011】
以上のように構成された液体試料保持プレートについて、以下その作用効果を説明する。まず、スペーサー201を4隅に設けることで、試料注入口と空気を逃がすための開口部を広く確保することができるため、液体試料105の注入をスムーズに行うことが可能となる。このとき、スペーサーは、必ずしも4隅に4つ設ける必要は無く、2辺にわたって形成されていても良い。これは、スペーサーを配置した辺以外で、試料注入口と空気の逃げ道の2つの開口部を確保しておけば、液体試料105の導入を行うことが可能なためである。
【0012】
このとき、スペーサー201の高さは液体試料105の粘度によってその範囲が決定される。本発明の液体試料保持プレートは基板101と上カバー202の間に壁面を設けていない。即ち空間204の四方は開放端となるため、液体試料105が空間204から漏れ出さないためには、上カバー202の端面と基板101との間に働く表面張力が液体試料105の漏れ出す力よりも大きくなるようにスペーサー201の高さを設定しなければならない。さらに、基板101上の非アレイ領域103は親水性でないことが望ましく、疎水処理が施されていればなお良い。
【0013】
また、上カバー202を設けてその高さをスペーサー201で制御することにより、液面の厚みばらつきを減少させた液体試料105の充満を行うことができる。もし、基板101上にアレイ化領域102を取り囲むように疎水性シートを設けて壁面を構成したところへ液体試料105を導入すると、壁面に近いところでは液面が厚くなり、中心部に近づくほど液面が薄くなるという現象が表面張力の影響により発生してしまう。あるいは、基板の親水性の程度によっては、液体試料の大半が壁面に引き寄せられ中心付近に溶液が存在しない場合も起こり得る。これらの液面の厚みばらつきは、中心付近と壁面付近で異なる屈折率を生じさせた。これは、発色、発光、蛍光測定といった測色を行う場合、測定結果に悪影響を及ぼしていた。
【0014】
さらに、上カバー202の、基板101と向かい合う面に界面活性剤を塗ることで、液体試料105との接触性を向上させ、気泡を噛むことなくスムーズに液体試料105を空間204全面に広がるように導入することを可能とする。もし界面活性剤を塗布しなければ、上カバーと液体試料105との間に気泡の噛み込みを生じる。あるいは、上カバーを設けることなく液体試料105を基板101上に導入した場合には、表面張力の影響により液体試料105が基板101上のアレイ化領域102全面に広がり難くなってしまう。
【0015】
ここで界面活性剤は、親水性を向上させると共に、試薬反応に与える影響を軽減させるため水に溶け難い性質を有している脂溶性のものを用いると良い。脂溶性の界面活性剤としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロ‐ル、ホスファチジルイノシートル、カルジオリピン、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、等がある。
【0016】
図3は、本発明の液体試料保持プレートに液体試料105を導入する際の液体試料105の空間204への広がり方を示した図である。図3(a)で液体試料105の注入を開始し、図3(b)〜(d)のように展開し、図3(d)で液体試料105の展開が完了している。図3の矢印の向きに向かい空気を追い出しながら、液体試料105が導入されていく(図3(a)〜(c))。そして、液体試料105注入後は、基板101と上カバー202間の表面張力により、アレイ化領域102に留まっている(図3(d))。空気の逃げ道を広く設け、かつ前記脂溶性界面活性剤で親水処理を施してあるために、気泡を噛み込むことなくスムーズに液体試料105が注入できる。
【0017】
以上のように本実施の形態においては、液体試料導入部の上面に上カバーを配し、上カバーに親水処理を施すことにより、気泡を噛み込むことなく液体試料を展開することが出来る。さらに上カバーによって液面を一定にすることが出来るため、測定に際し、液面のばらつきによる屈折率の変化が発生せず、測定精度を向上させることが可能となる。
【0018】
以下に、本発明の具体的な実施例を示す。ただし、プレートの製法や界面活性剤、液体試料の組成については、本実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
まず、上カバーのアレイ化された基板面と向かい合う面に脂溶性界面活性剤処理を行った。その際、上カバーには、TaKaRa Spaced Cover Glass L(TaKaRa、Glass Size 22×45mm)を用い、脂溶性界面活性剤には、L‐α‐ホスファチジルコリン(SIGMA)を用いた。L‐α‐ホスファチジルコリンは、99.5v/v%エタノールで溶解し、その濃度を0.6、0.5、0.3、0.1、0.001、0.0001、0.00005及び0.00025w/v%の溶液に調整した。その後、TaKaRa Spaced Cover Glass Lのアレイ化された基板面と向かい合う面に対し、各濃度に調整したL‐α‐ホスファチジルコリン溶液を200μLずつ塗布した。
【0020】
上カバーのTaKaRa Spaced Cover Glass LにL‐α‐ホスファチジルコリン溶液の塗布を行う際には、図4に示した上カバー保持部材401に上カバー202を上カバー面203が上になるように配置した後、脂溶性界面活性剤402による処理を行った。
【0021】
次に、エタノールを自然乾燥によって完全に蒸発させた後、L‐α‐ホスファチジルコリン処理を行った面が、アレイ化された基板面と向かい合うようにアレイ化基板に設置し、本発明の液体試料保持プレートとした。その後、液体試料を注入し、液体試料の空間204への導入の様子、気泡の噛み込み評価及び液体試料側へのL‐α‐ホスファチジルコリンの溶け出しの有無を評価した。その結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

表1は、各濃度別にL‐α‐ホスファチジルコリン処理を行った上カバーを用い、液体試料保持プレートを作製し、液体試料を液体試料導入空間204に注入した際に、液体試料の前記空間204への浸透性、気泡の噛み込み、白濁の様子を示したものである。浸透性の評価は、22mm×45mm×0.02mmの空間に対し、液体試料20μLを導入するのに要した時間が10秒未満であったものを○で、10秒以上15秒以内であったものを□で、20秒以内であったものを△で、22mm×45mm×0.02mmの空間全面に液体試料を浸透させることが出来なかったものを×で示した。また、気泡の評価は、22mm×45mm×0.02mmの空間中に20μLの液体試料を導入した際に、気泡の混入が見受けられなかったものを○、気泡が混入したものを×で示した。さらに、白濁の評価は、液体試料を導入した際に、液体試料の白濁が見受けられなかったものを○で、液体試料の白濁が見受けられたものを×で示した。
【0023】
表1から、L‐α‐ホスファチジルコリンの濃度が、0.00025w/v%の際は、液体試料を前記空間204全面に浸透させることが出来なかった。これは、0.00025w/v%のL‐α‐ホスファチジルコリン溶液では、濃度が薄すぎたために、液体試料を全面に浸透させるための親水性が不足したと考えられる。また、L‐α‐ホスファチジルコリンの濃度が、0.00025w/v%の際は、気泡の噛み込みも見られた。これも、L‐α‐ホスファチジルコリン溶液の濃度が薄すぎたために、部分的に液体試料が浸透し難い部分が生じ気泡を噛み込んだと考えられる。また、L‐α‐ホスファチジルコリンの濃度が0.6w/v%を超えると白濁することが分かった。これは、0.6w/v%では、L‐α‐ホスファチジルコリンの濃度が高すぎたために、液体試料を導入した際に、L‐α‐ホスファチジルコリンの不溶性のために部分的に白濁したと考えられる。このような白濁物は、光学的検出の際に障害となる。このことから、使用に適した濃度範囲は、0.00005〜0.5w/v%が好適であることが確認できた。
【実施例2】
【0024】
まず、上カバーのアレイ化された基板面と向かい合う面に脂溶性界面活性剤処理を行った。その際、上カバーには、TaKaRa Spaced Cover Glass Lを用い、脂溶性界面活性剤には、L‐α‐ホスファチジルコリンを用いた。L‐α‐ホスファチジルコリンは、99.5v/v%エタノールで溶解し、0.5、0.1、0.001、0.0001、0.00005w/v%の溶液を調整した。その後、TaKaRa Spaced Cover Glass Lのアレイ化された基板面と向かい合う面に対し、各濃度に調整したL‐α‐ホスファチジルコリン溶液を200μLずつ塗布した。上カバーのTaKaRa Spaced Cover Glass LへのL‐α‐ホスファチジルコリン溶液の塗布手順は、実施例1と同様の手順で行った。
【0025】
次に、エタノールを自然乾燥によって完全に蒸発させた後、TaKaRa Spaced Cover Glass Lを設置することでスペーサー厚0.02mmを確保した。また、0.12mmのスペーサー厚を確保するために、MICRO COVER GLASS(松浪硝子、厚み0.12mm)をスペーサーとして用いた。また、1から6mmのスペーサー厚は、3通りの厚みのシリコンゴムシート(アズワン、厚み1.0mm、1.5mm、2.0mm)を単独若しくは重ね合わせて用いることで確保した。各スペーサーは、それぞれ基板上のアレイ化領域と非アレイ化領域の境界にあたる4隅に4つずつ配置した。
【0026】
次に、4隅に配置したスペーサーに覆い被せるようにL‐α‐ホスファチジルコリン処理した面が、アレイ化された基板面と向かい合うように上カバーを設置し、本発明の液体試料保持プレートとした。その後、スペーサーの厚みに合わせて導入する液体試料量を厚みの薄い方から20μL、120μL、1000μL、2000μL、4000μL、4500μL、5000μLの順に変えることで、液体試料保持プレートの空間204を充満するために必要な液体試料量を確保した。このようにして、液体試料を保持可能なスペーサー厚の限界を調べた。その結果を表2に示した。
【0027】
【表2】

表2は、液体試料保持能力に関してL‐α‐ホスファチジルコリン溶液の濃度別に各スペーサー厚との関係を示したものである。表2において、液体試料保持プレートの空間204に液体試料が保持可能であった場合を○で、保持が不可能であった場合を×で示した。
【0028】
表2から、評価したスペーサー厚の下限は、0.02mmであり、これは、実施例1と同様な結果である。スペーサー厚の上限は、4.5mmであった。スペーサー厚を4.5mmより大きくした場合には、厚みが大きすぎるために、液体試料が上カバー面と接することなく基板上を流れてしまい液体試料を保持することが出来なかった。このことから、使用に適した液体試料保持プレートのスペーサー厚の範囲は、0.02mmから4.5mmが好適であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明にかかる液体試料保持プレートは、気泡の噛み込みがない液体試料展開を行うことが出来るので、液体試料を用いたバイオ測定プレート等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】アレイ化基板の作製及び液体試料導入図
【図2】本発明の液体試料保持プレートの構成を示す図
【図3】液体試料注入と展開を示す図
【図4】上カバーへの脂溶性界面活性剤の処理を示す図
【符号の説明】
【0031】
101 基板
102 アレイ化領域
103 非アレイ化領域
104 アレイ化サンプル
105 液体試料
201 スペーサー
202 上カバー
203 アレイ化された基板と向かい合う面
204 空間
401 上カバー保持部材
402 脂溶性界面活性剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
この基板上に設けられ前記基板に対向する面に脂溶性の界面活性剤を塗布した上カバーと、
前記基板と前記上カバーとの間に液体試料を保持する空間を設けるためのスペーサーからなる液体試料保持プレート。
【請求項2】
前記界面活性剤の濃度が0.00005w/v%以上、0.5w/v%以下である請求項1記載の液体試料保持プレート。
【請求項3】
前記スペーサーにより設けられる前記基板と前記上カバーとの距離が0.02mm以上、4.5mm以下である請求項1記載の液体試料保持プレート。
【請求項4】
前記スペーサーは、前記基板と前記上カバーとの間に開口部を2つ以上設けるように配置される請求項1記載の液体試料保持プレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−139167(P2009−139167A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314308(P2007−314308)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】