説明

液晶リターダーの駆動方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液晶リターダーの駆動方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】リターダーは、光学異方性を持つ物質の複屈折を利用して、光の偏光状態を変える光学素子である。用いられる物質としては、石英・マグネシウムなどの結晶や高分子・液晶などのフィルムが知られているが、このうち液晶リターダーは、複屈折の大きさを電気的に変えられるため、減衰器・偏光回転子・光変調器・光補償板などに広く利用されている。
【0003】液晶リターダーの構造は、配向処理された2枚の平行なITOガラスに、数ミクロン厚さのスペーサーをかませ、その間にネマティック液晶を挿入して封じたもので、電圧をかけない時の配向状態は、分子がガラスに平行に配向したホモジニアス配向になっている。これに電圧をかけると、液晶分子が電場と平行になるように回転するため、複屈折率の面内成分が小さくなる、という仕組みである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、市販されている液晶リターダーは、電圧制御で複屈折率の大きさ(通常、常光と異常光の位相差で表す)を変えることができるが、この際の印加電圧と位相差の関係は線形ではない。
【0005】図5はかかる従来の液晶リターダーの印加電圧−位相差の関係を示す図であり、横軸に印加電圧Vt (Vrms )、縦軸に位相差(リターデイション)(ラジアン)を示している。
【0006】この図から明らかなように、印加電圧−位相差の特性は線形ではなく、曲線形となっている。
【0007】そこで、与えた電圧から位相差を求めるためには、液晶リターダー購入の際に販売会社が測定した電圧−位相差間の対応がグラフあるいは表の形で添付されてくるので、それをもとに換算しなければならない。このようなデータシート読み取りを随時行わなければならない方法では、容易に誤差が生じる上、シンプルな比例電圧制御ができないために、不便であるばかりでなく、リターダーとしての精度を下げる要因にもなっている。
【0008】本発明は、上記問題点を除去し、シンプルな比例電圧制御を行なうことができる液晶リターダーの駆動方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するために、〔1〕光学異方性を持つ物質の複屈折を利用して光の偏光状態を電気的に変える液晶リターダーの駆動方法において、液晶リターダーへの印加電圧Vが閾値電圧Vthより大きい領域において、前記印加電圧の逆数と前記液晶リターダーの位相差との線形制御を可能にすることを特徴とする。
【0010】〔2〕上記〔1〕記載の液晶リターダーの駆動方法において、前記液晶リターダーの位相差R∝1/CV(ここで、Cは液晶セルの電気容量)の関係を用いて、前記液晶リターダーのリターデイションの大きさを1/CV制御することを特徴とする。
【0011】〔3〕上記〔1〕の液晶リターダーの駆動方法において、前記液晶リターダーに直列に液晶セルのインピーダンス(1/iωC)より十分に大きなインピーダンス(Z)の付加抵抗を接続したパッシブ回路を設け、このパッシブ回路を介して外部電圧VINを印加し、電圧の逆数のみで、液晶リターダーの位相差を制御することを特徴とする。
【0012】〔4〕上記〔1〕記載の液晶リターダーの駆動方法において、前記液晶リターダーに直列に定電流回路からなるアクティブ回路を設け、このアクティブ回路による電流一定で液晶リターダーの位相差を制御することを特徴とする。
【0013】〔5〕上記〔3〕記載の液晶リターダーの駆動方法において、前記液晶セルの物性値と構造をパラメータとして制御する液晶リターダーの位相の大きさを可変にすることを特徴とする。
【0014】〔6〕上記〔5〕記載の液晶リターダーの駆動方法において、前記液晶セルの物性値は、液晶分子の主軸及びそれに垂直な方向の主誘電率、液晶分子の広がり及び曲がり変形に対する弾性率であることを特徴とする。
【0015】〔7〕上記〔〕記載の液晶リターダーの駆動方法において、前記液晶セルの構造は、その液晶セルの厚さ、その液晶セルの表面積であることを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図を参照しながら説明する。
【0017】(1)V>Vthの領域におけるRと1/CVの線形性の利用図1は本発明の実施例を示す液晶リターダーの模式図である。
【0018】この図において、1は下側のITO電極(ITOガラス)、2は上側のITO電極(ITOガラス)、3は下側のアライメント層(数ミクロン厚さのスペーサー)、4は上側のアライメント層(数ミクロン厚さのスペーサー)、5はホモジニアス配向させたネマティック液晶セル(膜厚d)、6は液晶分子である。
【0019】図1に示すホモジニアス配向させたネマティック液晶セルに縦電圧(z方向)をかけた時の自由エネルギー密度は、
【0020】
【数1】


【0021】で表される。ここで、φは液晶分子とガラス面との間の角度、dは膜厚、K1 とK3 はそれぞれ広がり、及び曲がり変形に対する弾性率、Dは電束密度、ε1 、ε2 はそれぞれ液晶分子の主軸及びそれに垂直な方向の主誘電率、θはガラス面上での液晶分子とガラス面との角度、fは界面エネルギーを表す。ここから、Euler Lagrange Equation(オイラー−ラグランジュの方程式)を用いてエネルギーを最小化し、界面でのトルクの釣合いを考慮すると、液晶の配向状態は次式で与えられる。
【0022】
【数2】


【0023】Δε=ε1 −ε2 ,α=Δε/ε1 ,γ=(K3 −K1 )/K1ここでφm はz=d/2でのφ、すなわち最大回転角度を表す。
【0024】一方、波長λの常光と異常光の位相差は、
【0025】
【数3】


【0026】で与えられるので、(2)式を(3)式に代入すれば、zに関する積分をφに関する積分形にかける。ここで、印加電圧VがVth=π(K1 /Δε)1/2 に比べて十分大きければ、Z=d/2周辺では液晶分子は電場にほぼ完全に平行(ガラス面に対して垂直)配向する。
【0027】具体的な計算をするとV=6Vthの場合、π/2−φm <10-3が達成されることになる。したがって、(2)式にφm =π/2を代入し、さらにD=CV/S(CとSは液晶セルの電気容量と表面積)と置き換えて(3)式に入れると、位相差は、
【0028】
【数4】


【0029】で与えられることになる〔R0 =2πd(ne −n0 )/λ〕。ここで、ξも積分式で与えられるIも、液晶の物性値と界面配向だけで決まるので、位相差Rは外場に関して、CVの逆数だけに線形依存することになる。これにより、V>Vthの領域でこの液晶セルを使用すれば、これまでデータシートから読み取るしかなかった印加電圧−位相差の関係をR∝1/CVを用いて決定し、リターデイションの大きさを1/CV制御することが可能である。
【0030】図2はその液晶リターダーの印加電圧の逆数−位相差の関係を示す図であり、横軸は印加電圧の逆数〔1/Vt (Vrms -1)、縦軸は位相差(リターデイション)(ラジアン)を示している。
【0031】このように、液晶リターダーの印加電圧の逆数に対して位相差は線型性を得ることができる。なお、図示しないが、この直線の傾きは、液晶そのものの性質からすると、温度を低くするとその傾きは大きくなり、反対に、温度を高くすると、その傾きを小さくすることができる。また、後述する、液晶リターダーの外部回路のインピーダンスZを小さくすると、その直線の傾きは大きくなり、反対に、そのインピーダンスZを大きくすると、その直線の傾きを小さくすることができる。
【0032】(2)電流制御回路によるRと1/Vの線形性獲得液晶リターダーの位相差を、完全に電圧制御するためには、セルの電気容量の影響をとるために、電流制御回路を組む必要がある。それには以下のようなパッシブ回路かアクティブ回路を使う。
【0033】■パッシブ回路図3は本発明の実施例を示す液晶リターダーの回路図(その1)である。
【0034】この図において、11は交流電圧源、12はインピーダンスZであり、ホモジニアス配向させたネマティック液晶セル5に直列に接続される。
【0035】図3で示す回路において、インピーダンスZ(12)の付加抵抗が液晶セル5のインピーダンス1/iωCより十分大きい時、回路を流れる電流は、
【0036】
【数5】


【0037】となって、液晶セル5のキャパシタンスには左右されない。この時、液晶セル5にかかっているCVは、
【0038】
【数6】


【0039】で与えられることになり、他の物性に関係なく、電圧の逆数だけで、CV、すなわち位相差Rを正確に制御できる。
【0040】■アクティブ回路図4は本発明の実施例を示す液晶リターダーの回路図(その2)である。
【0041】この図において、交流電圧源21の一端には電圧制御ゲイン可変増幅器22が直列に接続され、その電圧制御ゲイン可変増幅器22の出力に交流電流計23を接続し、その交流電流計23に液晶セル5を接続し、その液晶セル5の他端を交流電圧源21の他端に接続し、液晶セル5には電流Iを通電する。
【0042】一方、交流電流計23からの電流|I|(絶対値)を割算器24、引算器25に加える。この引算器25には制御電圧Vが目標値として設定され、その引算器25の出力はPID回路26を介して電圧制御ゲイン可変増幅器22に帰還されるように構成されている。
【0043】すると、液晶セル5には一定の電流Iが流れる。つまり、制御電圧Vを目標値とした電圧V(液晶リターダーの位相差Rに比例)が印加される。
【0044】したがって、図4で与えられる定電流回路を利用すれば、より正確に電流一定でCVを決めることができ、液晶リターダーの位相差を線形で制御することができる。
【0045】なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0046】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように、本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0047】従来の液晶リターダーは電圧制御で複屈折率の大きさを変えることができるが、この際の印加電圧と位相差の関係は線形ではなかった。それに対し、本発明によれば、液晶リターダーへの位相差が印加電圧の逆数に比例する関係に着目して、線形関係を実現する電気回路を得ることができた。
【0048】これは基本的な発明であり、これを用いた、エリプソメータの高精度・自動測定を可能とする。
【0049】また、この応用分野はこれらにとどまらず、光通信、光ディスク、光計測等の分野に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示す液晶リターダーの模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す液晶リターダーの印加電圧の逆数−位相差の関係を示す図である。
【図3】本発明の実施例を示す液晶リターダーの回路図(その1)である。
【図4】本発明の実施例を示す液晶リターダーの回路図(その2)である。
【図5】従来の液晶リターダーの印加電圧−位相差の関係を示す図である。
【符号の説明】
1 下側の透明電極(ITOガラス)
2 上側の透明電極(ITOガラス)
3 下側のアライメント層(配向膜)
4 上側のアライメント層(配向膜)
5 ホモジニアス配向させたネマティック液晶セル(膜厚d)
6 液晶分子
11,21 交流電圧源
12 インピーダンスZ
22 電圧制御ゲイン可変増幅器
23 交流電流計
24 割算器
25 引算器
26 PID回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】 光学異方性を持つ物質の複屈折を利用して光の偏光状態を電気的に変える液晶リターダーの駆動方法において、液晶リターダーへの印加電圧Vが閾値電圧Vthより大きい領域において、前記印加電圧の逆数と前記液晶リターダーの位相差との線形制御を可能にすることを特徴とする液晶リターダーの駆動方法。
【請求項2】 請求項1記載の液晶リターダーの駆動方法において、前記液晶リターダーの位相差R∝1/CV(ここで、Cは液晶セルの電気容量)の関係を用いて、前記液晶リターダーのリターデイションの大きさを1/CV制御することを特徴とする液晶リターダーの駆動方法。
【請求項3】 請求項1記載の液晶リターダーの駆動方法において、前記液晶リターダーに直列に液晶セルのインピーダンス(1/iωC)より十分に大きなインピーダンス(Z)の付加抵抗を接続したパッシブ回路を設け、該パッシブ回路を介して外部電圧VINを印加し、電圧の逆数のみで、液晶リターダーの位相差を制御することを特徴とする液晶リターダーの駆動方法。
【請求項4】 請求項1記載の液晶リターダーの駆動方法において、前記液晶リターダーに直列に定電流回路からなるアクティブ回路を設け、該アクティブ回路による電流一定で液晶リターダーの位相差を制御することを特徴とする液晶リターダーの駆動方法。
【請求項5】 請求項3記載の液晶リターダーの駆動方法において、前記液晶セルの物性値と構造をパラメータとして制御する液晶リターダーの位相の大きさを可変にすることを特徴とする液晶リターダーの駆動方法。
【請求項6】 請求項5記載の液晶リターダーの駆動方法において、前記液晶セルの物性値は、液晶分子の主軸及びそれに垂直な方向の主誘電率、液晶分子の広がり及び曲がり変形に対する弾性率であることを特徴とする液晶リターダーの駆動方法。
【請求項7】 請求項記載の液晶リターダーの駆動方法において、前記液晶セルの構造は、該液晶セルの厚さ、該液晶セルの表面積であることを特徴とする液晶リターダーの駆動方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【特許番号】特許第3529699号(P3529699)
【登録日】平成16年3月5日(2004.3.5)
【発行日】平成16年5月24日(2004.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−116037(P2000−116037)
【出願日】平成12年4月18日(2000.4.18)
【公開番号】特開2001−296515(P2001−296515A)
【公開日】平成13年10月26日(2001.10.26)
【審査請求日】平成13年9月26日(2001.9.26)
【出願人】(503360115)独立行政法人 科学技術振興機構 (1,734)
【参考文献】
【文献】特開 平7−218889(JP,A)
【文献】特開 平7−261141(JP,A)
【文献】特開 平8−262394(JP,A)
【文献】特開 平10−268249(JP,A)
【文献】特開 昭58−223122(JP,A)