説明

液晶表示素子

【課題】良好な表示を実現可能な液晶表示素子を提供する。
【解決手段】液晶表示素子は、第1及び第2の透明基板と、前記第1及び第2の透明基板間に挟持された、リターデーションが300nm以上1200nm以下の略垂直配向する液晶層と、前記第1の透明基板の前記液晶層とは反対側に配置された、第1及び第2の光学フィルムと、前記第1及び第2の光学フィルムの前記第1の透明基板とは反対側に配置された第1の偏光板と、前記第2の透明基板の前記液晶層とは反対側に第2の偏光板とを有し、前記第1の光学フィルムの面内遅相軸と前記第1の偏光板の吸収軸とは直交するように配置され、前記第1の光学フィルムの面内遅相軸と前記第2の光学フィルムの面内遅相軸とは直交するように配置され、前記第1の光学フィルムの面内方位の位相差は、前記第2の光学フィルムの面内方位の位相差よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子(liquid crystal display;LCD)に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチプレックス駆動により動作するセグメント表示、またはセグメント表示とドットマトリクス表示がともに可能な液晶表示装置に、背景表示部や暗表示部の表示輝度が非常に低いノーマリブラック型液晶表示素子が搭載されることが多くなっている。その多くはバックライトに単色LEDを用いたモノクロ表示で、液晶表示素子構造としてはツイストネマチック(TN)タイプが採用されている。
【0003】
液晶層内の液晶分子配向が、液晶層を挟持する上下ガラス基板に対して垂直または略垂直に配向する垂直配向モードの液晶セルを、略クロスニコルに配置された偏光板間に配置する垂直配向型液晶表示素子が知られている。垂直配向型液晶表示素子は、ガラス基板法線方位から観察したとき、光学特性がクロスニコル配置された偏光板とほぼ同等となるため、光透過率が非常に低くなり、高コントラスト比を比較的容易に実現することができる。垂直配向型液晶表示素子によって、バックライトの発光波長に依存しない良好なノーマリブラック表示が可能となる。
【0004】
上側偏光板と上側ガラス基板間、及び下側偏光板と下側ガラス基板間の一方または双方に、負の一軸光学異方性を有する光学フィルム、または負の二軸光学異方性を有する光学フィルム(負の二軸フィルム)を配置した液晶表示素子の発明が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。この液晶表示素子によれば、斜め方向から観察した場合においても、光透過率の上昇とコントラスト比の低下とが抑制され、良好な表示を実現することが可能である。
【0005】
特許文献1に記載の視角補償方法については、負の二軸フィルムの面内位相差や面内遅相軸配置に関する効果的な条件が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0006】
負の一軸光学異方性を有する光学フィルム(ネガティブCプレート)としては、偏光板の保護フィルムに用いられている、溶融キャスト法でフィルム化された樹脂であるトリアセチルセルロース(TAC)や、溶融押し出し法でフィルム化したノルボルネン系環状オレフィンポリマ(ノルボルネンCOP)樹脂を、フィルム押し出し方向とその直交方向に関して延伸加工した二軸延伸フィルムが市販されている。
【0007】
負の二軸フィルムとしては、特殊なTAC樹脂をフィルム長手方向と直交する方向に一軸延伸加工したフィルム、及び、ノルボルネンCOPを二軸延伸加工したフィルムがある。これらはたとえば液晶テレビに用いられ、ネガティブCプレートよりも大量に流通している。
【0008】
ネガティブCプレートは、TACフィルムによるものの場合、入手可能なフィルムの厚さ方向の位相差Rthは50nm以下であることがほとんどである。また、ノルボルネンCOPによるものにおいても、入手可能なフィルムの厚さ方向の位相差Rthは300nm以下である。Rthが300nmより大きい光学フィルムは、たとえばコレステリック液晶ポリマを用いて作製されることが知られているが、現在のところ市販されていない。
【0009】
負の二軸フィルムについては、入手可能な延伸TACの面内位相差Reは、0nm<Re≦60nm、ノルボルネンCOPのそれは、0nm<Re≦700nm、厚さ方向の位相差Rthは、延伸TACが50≦Rth≦220nm、ノルボルネンCOPは90≦Rth≦500nm程度である。
【0010】
以下、従来例及び実施例による液晶表示素子について詳説する前に、光学フィルムにつき補足的に説明する。
【0011】
平板状の光学フィルムにおける面内屈折率をnx、ny、厚さ方向の屈折率をnzとしたとき、負の一軸光学異方性を有する光学フィルム(ネガティブCプレート)においては、nx≒ny>nz、負の二軸光学異方性を有する光学フィルム(負の二軸フィルム)においては、nx>ny>nzの関係がある。
【0012】
また、Nzファクタを、Nz=(nx−nz)/(nx−ny)と定義すると、負の一軸光学異方性は、Nz≒∞、負の二軸光学異方性は、1<Nz<∞となる。
【0013】
なお、Nz=1の場合は、正の一軸光学異方性を示し、正の一軸光学異方性を有する光学フィルムはAプレートと呼ばれる。Aプレートにおいては、nx>ny=nzである。また、Nz<1の場合は、主に正の二軸光学異方性を示すが、Nz=0及びNz=−∞の場合は、光学軸が1つしか存在しないため除外される。Nz=0である光学フィルムは負のAプレート、Nz=−∞である光学フィルムはポジティブCプレートと呼ばれる。
【0014】
光学フィルムの面内位相差Reは、フィルム厚さをdとしたとき、Re=(nx−ny)*d、厚さ方向の位相差Rthは、Rth=[{(nx−ny)/2}−nz]*dで定義される。
【0015】
図9(A)及び(B)は、従来例による液晶表示素子を示す概略図である。特許文献2には、これらの液晶表示素子の構造を想定した技術が開示されている。
【0016】
図9(A)に、第1の従来例による液晶表示素子の概略を示す。
【0017】
クロスニコル配置された上側偏光板10と下側偏光板20との間に、モノドメイン垂直配向液晶セル30が配置される。モノドメイン垂直配向液晶セル30は、上側ガラス基板(透明基板)4、下側ガラス基板(透明基板)6、及び両基板4、6間に挟持されたモノドメイン垂直配向液晶層5を含んで構成される。垂直配向液晶セル30の上側ガラス基板4と上側偏光板10間に、たとえばノルボルネンCOP二軸延伸フィルムである第1の光学フィルム3が1枚配置される。
【0018】
上側及び下側偏光板10、20はそれぞれ、TACベースフィルム2上に偏光板偏光層1が配置された構成を備える。偏光板偏光層1は、たとえば延伸ポリビニルアルコールで形成される。
【0019】
液晶表示素子の左右方位を180°−0°(9時−3時)方位と定義する、図示の方位座標系において、上側偏光板10の偏光層1における吸収軸Fabは135°方位、下側偏光板20の偏光層1の吸収軸Rabは45°方位に配置されている。また、第1の光学フィルム3の面内遅相軸SA1が配置される方位は45°である。
【0020】
前述のように、第1の光学フィルムの厚さ方向の位相差Rthは、およそ500nm以下にしか設定できないため、第1の従来例による液晶表示素子においては、液晶層5のリターデーションΔndが大きい場合、背景部や非表示部で、良好な視角補償が得られなくなる。
【0021】
図9(B)は、第2の従来例による液晶表示素子の概略図である。垂直配向液晶セル30の下側ガラス基板6と下側偏光板20間に、たとえばノルボルネンCOP二軸延伸フィルムである第2の光学フィルム7が1枚配置される点において、第1の従来例とは異なる。第2の光学フィルム7の面内遅相軸SA2が配置される方位は135°である。第1の従来例が片面補償の液晶表示素子であるのに対し、第2の従来例は、両面補償の液晶表示素子である。
【0022】
第2の従来例による液晶表示素子においては、光学フィルムの厚さ方向の位相差を、第1及び第2の光学フィルムの合計として、最大約1000nmにすることが可能である。しかしながら、上側及び下側偏光板10、20の吸収軸Fab、Rabに対して、略45°方位に設定された左右方位(180°−0°方位)の、法線方向から見て深い極角角度から観察した場合、明表示部の光透過率が極端に低くなり、表示が全く視認できないことがある。
【0023】
本願発明者は、第1及び第2の従来例による液晶表示素子について、明表示時における左右方位視角特性をシミュレーションにより求めた。シミュレータには、(株)シンテック製のLCDMASTER6.16を用いた。なお、本明細書中の他のシミュレーションにおいても、同じシミュレータを使用した。
【0024】
第1及び第2の従来例ともに、垂直配向液晶セル30を、液晶層5の中央分子配向方位が6時方位(270°方位)となるように設定した、基板表面に対するプレティルト角89.9°のアンチパラレルモノドメイン配向とし、誘電率異方性Δεが負の液晶材料を用いて構成した。液晶層5のリターデーションΔndは、第1の従来例においては約430nm、第2の従来例においては約445nmとした。上側及び下側偏光板10、20として、(株)ポラテクノ製のSHC13Uを採用し、TACベースフィルム2の面内位相差を3nm、厚さ方向の位相差を50nmに設定した。
【0025】
第1及び第2の光学フィルム3、7は、前述のように、ノルボルネンCOP二軸延伸フィルムで構成される。シミュレーションにおいては、第1の従来例における、第1の光学フィルム3の面内位相差を50nm、厚さ方向の位相差を300nmとした。また、第2の従来例においては、第1及び第2の光学フィルム3、7の面内位相差をともに30nm、厚さ方向の位相差をともに150nmとした。第1、第2の従来例ともに、電圧無印加時に右方位極角50°から観察したときの光透過率が0.03%未満である最適な光学フィルム条件である。
【0026】
図10は、正面観察時における光透過率を約15%に設定したときの、左右方位視角特性を示すグラフである。
【0027】
グラフの横軸は左右方位観察角度を単位「°」で表し、縦軸は光透過率を単位「%」で表す。曲線aが、第1の従来例による液晶表示素子(片面補償)の左右観察時視角特性を示し、曲線bが、第2の従来例による液晶表示素子(両面補償)の左右観察時視角特性を示す。
【0028】
図より、極角50°より深い観察角度においては、第1の従来例による液晶表示素子(片面補償)の方が、光透過率が高いことがわかる。一方、左右対称性は、第2の従来例による液晶表示素子(両面補償)の方が良好である。
【0029】
なお、本願発明者が、第1及び第2の従来例による液晶表示素子を実作したところ、第2の従来例においては、深い角度におけるカラーシフトが顕著に観察される傾向があり、外観上好ましくないことがわかった。
【0030】
液晶表示素子を、マルチプレックス駆動により動作させる場合、より大きな表示容量、すなわちデューティ比を得るためには、電気光学特性における急峻性が良好である必要がある。垂直配向型液晶表示素子の場合、急峻性は明表示部の透過率に大きく影響を与えるため、表示輝度に反映される。
【0031】
1/4デューティ駆動条件より表示容量を大きくしたい場合は、液晶層のリターデーションΔndを300nmより大きくすることが好ましく、360nmより大きくすることがより好ましい。1/16デューティ駆動条件より表示容量を大きくしたい場合は、液晶層のリターデーションΔndを550nmより大きくすることが好ましく、600nmより大きくすることがより好ましい。1/16デューティを超える表示容量が必要な場合、一般に入手可能な光学フィルムを用いて、第1及び第2の従来例による液晶表示素子を構成しても、良好な表示性能を獲得することは困難であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】特許第2047880号公報
【特許文献2】特許第3330574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
本発明の目的は、良好な表示を実現することのできる液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明の一観点によれば、液晶表示素子は、第1及び第2の透明基板と、前記第1及び第2の透明基板間に挟持された、リターデーションが300nm以上1200nm以下の基板に対して垂直、又は略垂直配向する液晶層と、前記第1の透明基板の前記液晶層とは反対側に配置された、負の二軸光学異方性を有する第1及び第2の光学フィルムと、前記第1及び第2の光学フィルムの前記第1の透明基板とは反対側に配置された第1の偏光板と、前記第2の透明基板の前記液晶層とは反対側に前記第1の偏光板とクロスニコルに配置された第2の偏光板とを有し、前記第2の光学フィルムは、前記第1の透明基板と前期第1の光学フィルムとの間に配置され、前記第1の光学フィルムの面内遅相軸と前記第1の偏光板の吸収軸とは直交するように配置され、前記第1の光学フィルムの面内遅相軸と前記第2の光学フィルムの面内遅相軸とは直交するように配置され、前記第1の光学フィルムの面内方位の位相差は、前記第2の光学フィルムの面内方位の位相差よりも大きい。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、良好な表示を実現可能な液晶表示素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例による液晶表示素子の概略図である。
【図2】右方位極角40°及び50°から観察したときの光透過率のRe2依存性を、Re1をパラメータとして示す解析結果のグラフである。
【図3】Re2=0nmとなる場合のRe1のRth依存性についての探査結果を示すグラフである。
【図4】図2に示す探査結果より、各Re1条件における右方位40°と50°の背景透過率のRe2依存曲線が重なる又は交差するRe2を求め、横軸にRe2、縦軸にRe1をプロットしたグラフである。
【図5】図4で示すRe1とRe2の関係を用いRthが180nm、300nm及び440nmである時における最適な液晶層リターデーションΔndとRe1の関係をプロットしたグラフである。
【図6】Re1を変化させた時の極角40°観察時及び極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性を示すグラフである。
【図7】Rth2を変化させた場合の、右方位極角40°観察時及び極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性を示すグラフである。
【図8】変形例による液晶表示素子の概略図である。
【図9】従来例による液晶表示素子を示す概略図である。
【図10】正面観察時における光透過率を約15%に設定したときの、左右方位視角特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、実施例による液晶表示素子の概略図である。
【0038】
略クロスニコル配置された上側偏光板10と下側偏光板20との間に、垂直または略垂直配向処理が施された垂直配向液晶層を有する液晶セル、たとえばモノドメイン垂直配向液晶セル30が配置される。モノドメイン垂直配向液晶セル30は、上側ガラス基板(透明基板)4、下側ガラス基板(透明基板)6、及び両基板4、6間に挟持されたモノドメイン垂直配向液晶層5を含んで構成される。垂直配向液晶セル30の上側ガラス基板4と上側偏光板10との間に、上側偏光板10側から順に、第1の光学フィルム8、第2の光学フィルム9が配置される。両光学フィルム8、9は、たとえばノルボルネンCOPの延伸加工フィルムを用いることができる。
【0039】
上側及び下側偏光板10、20として、たとえば(株)ポラテクノ製SHC13Uが用いられる。上側及び下側偏光板10、20はそれぞれ、TACベースフィルム2上に偏光板偏光層1が配置された構成を備える。偏光板偏光層1は、たとえば延伸ポリビニルアルコールで形成される。なお、図示は省略したが、上側及び下側偏光板10、20には、液晶表示素子の外側面に、保護フィルムとなるTACフィルムが積層されている。
【0040】
上側偏光板10に近接して配置される第1の光学フィルム8の面内遅相軸SA1は、上側偏光板10の吸収軸Fabと略直交に配置される。第1の光学フィルム8と垂直配向液晶セル30との間に配置される第2の光学フィルム9の面内遅相軸SA2は、第1の光学フィルム8の面内遅相軸SA1と略直交に配置される。
【0041】
液晶表示素子の左右方位を180°−0°(9時−3時)方位と定義する、図示の方位座標系において、上側偏光板10の吸収軸Fabは135°方位、下側偏光板20の吸収軸Rabは45°方位、第1の光学フィルム8の面内遅相軸SA1は45°方位、そして第2の光学フィルム9の面内遅相軸SA2は135° 方位である。
【0042】
垂直配向液晶層5は、たとえば屈折率異方性Δn<0.1、誘電率異方性Δε<−5.1の性質を示す(株)メルク製の液晶材料を用いて形成される。上側及び下側ガラス基板4、6の液晶層5側の面には、たとえば(株)日産化学製の配向膜材料SE1211を用いて、配向膜が形成されている。配向膜には、基板表面に対する略90°、たとえば89.9°のプレティルト角を実現するアンチパラレルモノドメイン垂直配向処理が施されている。垂直配向液晶層5の液晶層中央分子配向方位は、6時(270°)方位である。
【0043】
なお、上側及び下側ガラス基板4、6には、配向膜の内側に、液晶層5の液晶分子の配向状態を変化させて、液晶表示素子の表示パターンをスイッチングする透明電極、たとえばITO電極が配置されている。
【0044】
本願発明者は、実施例による液晶表示素子において、第1及び第2の光学フィルム8、9の光学特性を様々に変化させてシミュレーション解析を行い、良好な表示が実現される条件を調べた。
【0045】
(I)まず、第1及び第2の光学フィルム8、9の双方に負の二軸フィルムを用いた場合について、液晶表示素子の電圧無印加時の視角特性、すなわち表示の背景部分の視角特性をシミュレートした。
【0046】
(i)はじめに、第1及び第2の光学フィルム8、9の厚さ方向の位相差Rth1、Rth2が等しい(Rth1=Rth2)場合を検討した。Rth1(=Rth2)が90nm、180nm、300nm、400nmである場合のそれぞれについて、右方位極角40°及び50°観察時における背景部光透過率の液晶層リターデーションΔnd依存性を解析した。解析は、第1及び第2の光学フィルム8、9の面内位相差Re1、Re2の様々な条件について行い、各条件下での、右方位40°、50°観察時における背景部光透過率を最小とするΔndや両者の透過率が等しくなる条件などについて探索した。
【0047】
図2(A)〜(C)は、右方位極角40°及び50°から観察したときの光透過率のRe2依存性を、Re1をパラメータとして示す解析結果のグラフである。図2(A)〜(C)のグラフの横軸は、すべてRe2を単位「nm」で表す。また、縦軸は右方位極角40°及び50°から観察したときの光透過率を単位「%」で表す。
【0048】
図2(A)、図2(B)、図2(C)のグラフは、それぞれ順にRth1(=Rth2)を180nm、300nm及び440nmとしたときの解析結果である。各Re1、Re2及びRthの値に対応してΔndは変化しているが,いずれの条件においても透過率がほぼ最低になる値に設定した。
【0049】
図2(A)においては、Re1=80nm、極角40°の時のRe2と光透過率との関係を曲線aで、Re1=80nm、極角50°の時の両者の関係を曲線bで、Re1=100nm、極角40°の時の両者の関係を曲線cで、Re1=100nm、極角50°の時の両者の関係を曲線dで、Re1=140nm、極角40°の時の両者の関係を曲線eで、Re1=140nm、極角50°の時の両者の関係を曲線fで、Re1=180nm、極角40°の時の両者の関係を曲線gで、Re1=180nm、極角50°の時の両者の関係を曲線hで、それぞれ示す。
【0050】
また、図2(B)においては、Re1=70nm、極角40°及び極角50°の時の両者の関係を順に、曲線i、jで、Re1=100nm、極角40°及び極角50°の時の両者の関係を順に、曲線k、lで、Re1=180nm、極角40°及び極角50°の時の両者の関係を順に、曲線m、nで示す。
【0051】
また、図2(C)においては、Re1=45nm、極角40°及び極角50°の時の両者の関係を順に、曲線o、pで、Re1=70nm、極角40°及び極角50°の時の両者の関係を順に、曲線q、rで、Re1=100nm、極角40°及び極角50°の時の両者の関係を順に、曲線s、tで示す。
【0052】
図2(A)〜(C)のいずれのグラフの曲線a〜tも、ある特定のRe2が最低透過率になる下向きに凸の二次関数的な曲線となっている。その中でもRthが小さく、Re1が小さいほうが、40°観察時と50°観察時における極小値が同じRe2で得られる傾向が見られる。一方、Rth及びRe1が大きくなるにしたがって、これらの極小値が得られるRe2に差が生じ、かつその差が大きくなる傾向が見られる。この結果は、Rth、Re1が小さいほうが広い観察角度で背景の光り抜けが小さくなることを示していると考えられる。逆に、Rth及びRe1が大きくなると、観察角度が小さいほう(40°)が光り抜けが大きくなる傾向が見られ、視角特性が狭くなっていくことが確認できる。
【0053】
ここで、図2(A)〜(C)の観察結果より、Re2=0nmとなる場合のRe1のRth依存性について導出した。
【0054】
図3(A)は、Re2=0nmとなる場合のRe1のRth依存性についての探査結果を示すグラフである。観察角度は、50°のみで考慮し、背景透過率が0.05%以下、及び0.1%以下となる条件に関して探査した。図3(A)において、網掛けの領域が背景透過率0.05%以下、斜線を施した領域が0.1%の領域を示している。各領域の境界線は、いずれもRe1=A+B/Rthで示される反比例な関係があることが分かった。
【0055】
背景透過率が0.05%以下の場合は、以下の式(1)によって最小二乗フィッティング出来ることが分かった。ただし、Re1/2<Rth1=Rht2≦500nmである。
29.81+5466.7/Rth≦Re1≦18.427+4278.3/Rth …式(1)
また、背景透過率が0.1%以下の場合は、以下の式(2)によって最小二乗フィッティング出来ることが分かった。ただし、Re1/2<Rth1=Rht2≦500nmである。
31.389+6440.4/Rth≦Re1≦20.975+2114.6/Rth …式(2)
また、図1に示す液晶表示素子構造において、偏光板10を構成するTACフィルム2を取り除き、第1の光学フィルム8が偏光板の偏光層1に直接接着した構造に関しても同様に探査した。図3(B)にその探査結果を示す。図3(A)と同様に、網掛けの領域が背景透過率0.05%以下、斜線を施した領域が0.1%の領域を示している。TACフィルム2が無いほうが、同じRthにおいてRe1が大きくなる傾向が見られる。各領域の境界線は図3(A)に示した場合と同様に、反比例の関係にあり、フィッティング可能であった。
【0056】
背景透過率が0.05%以下の場合は、以下の式(3)によって最小二乗フィッティング出来る。ただし、90nm≦Rth1=Rth2≦500nmである。
17.647+7620.7/Rth≦Re1≦17.412+9117.2/Rth …式(3)
また、背景透過率が0.1%以下の場合は、以下の式(4)によって最小二乗フィッティング出来ることが分かった。ただし、90nm≦Rth1=Rth2≦500nmである。
26.115+11079/Rth≦Re1≦25.88+12575/Rth …式(4)
本発明の実施例では、Re1>0及びRE2>0の条件における液晶表示素子に関して説明しているので、図3(A)及び(B)に示したRe1の範囲とは異なる。少なくとも、Re1は上記式(1)〜(4)で示した下限よりも大きい必要がある。したがって、図3(A)に示した偏光板にTACフィルムが存在する条件下で、背景透過率0.05%以下にしたい場合は、Re1>29.81+5466.7/Rth、背景透過率0.1%以下にしたい場合は、Re1>31.389+6440.4/Rthである必要がある。また、図3(B)に示した偏光板にTACフィルムが存在しない条件下で、背景透過率0.05%以下にしたい場合は、Re1>17.647+7620.7/Rth、背景透過率0.1%以下にしたい場合は、Re1>26.115+11079/Rthである必要がある。
【0057】
すなわち、図3(A)に示す偏光板にTACフィルムが存在する構成では、第1の光学フィルムの面内位相差をRe1、厚さ方向位相差をRthとすると、Re1>31.389+6440.4/Rthの関係を有することが好ましく、Re1>29.81+5466.7/Rth、且つ、40nm≦Re1≦180nmの関係を有することがさらに好ましい。
【0058】
また、図3(B)に示す偏光板にTACフィルムが存在しない構成では、第1の光学フィルムの面内位相差をRe1、厚さ方向位相差をRthとすると、Re1>26.115+11079/Rthの関係を有することが好ましく、Re1>17.647+7620.7/Rth、且つ、50nm≦Re1≦180nmの関係を有することがさらに好ましい。
【0059】
図4は、図2に示す探査結果より、各Re1条件における右方位40°と50°の背景透過率のRe2依存曲線が重なる又は交差するRe2を求め、横軸にRe2、縦軸にRe1をプロットしたグラフである。図4(A)は、偏光板10を構成するTACフィルムがある場合であり、図4(B)は、偏光板10を構成するTACフィルムがない場合である。図中、Rth=180、300、440nmに関して、それぞれ順に直線a、b、cで示した。
【0060】
いずれのプロットにおいても線形な最小二乗フィッティング可能であった。Re2=0の時のRe1をRe0とするとRe2=Re1−Re0の関係になっておらず、Rthにより、その傾きが異なっていることが分かる。すなわち、第1の光学フィルムの面内位相差をその遅相軸が第1の光学フィルムのそれと直交配置されている第2の光学フィルムの面内位相差で相殺させているわけではない。
【0061】
Rthが大きくなるにしたがって、図4(A)及び(B)に示す直線a、b、cの傾きは緩やかになる傾向が見られるが、直線傾きはいずれも1以上でRthが180〜440nmの範囲では最小で約1.2、最大で約2.3程度、Rthの大きさに対して二次関数的な変化が見られる。すなわち、切片をAとするとRe1=A+B×Re2の数式において、1.2≦B≦2.3である。なお、切片Aは背景透過率の範囲を0.05%又は0.1%とした図3で求めた数式の範囲内で有効であり、図4(A)及び(B)共にその範囲内に存在することが分かる。
【0062】
すなわち、偏光板にTACフィルムが存在する構成では、第1の光学フィルムの面内位相差をRe1、厚さ方向位相差をRth、第2の光学フィルムの面内位相差をRe2とすると、Re1=A+B×Re2、A=31.389+6440.4/Rthより好ましくはA=29.81+5466.7/Rth、且つ、1≦B≦2.3より好ましくは1.2≦B≦2.3の関係を有することがさらに好ましい。
【0063】
また、偏光板にTACフィルムが存在しない構成では、第1の光学フィルムの面内位相差をRe1、厚さ方向位相差をRth、第2の光学フィルムの面内位相差をRe2とすると、Re1=A+B×Re2、A=26.115+11079/Rthより好ましくはA=17.647+7620.7/Rth、且つ、1≦B≦2.3より好ましくは1.2≦B≦2.3の関係を有することがさらに好ましい。
【0064】
図5は、図4で示すRe1とRe2の関係を用いRthが180nm、300nm及び440nmである時における最適な液晶層リターデーションΔndとRe1の関係をプロットしたグラフである。図5(A)は、偏光板10を構成するTACフィルムがある場合であり、図5(B)は、偏光板10を構成するTACフィルムがない場合である。図中、Rth=180、300、440nmに関して、それぞれ順に直線a、b、cで示した。また、図5(A)におけるRth=90に関しては、直線dで示した。
【0065】
各Rth条件において、Re1が増加するに従ってほぼ線形的にΔndが減少する傾向が見られる。また、その傾きは、Rthが大きくなるにしたがって大きくなる傾向があり、TACフィルムの有無には依存しないことが分かった。
【0066】
各プロットデータをモデル式Δnd=A+B×Re1を用いて最小二乗法カーブフィッティングすると、図5(A)においては、各Rthにて以下の式(5)〜(7)によりフィッティング可能であった。
【0067】
Rth=180nm(Rth1+Rth2=360nm)の時、
Δnd=600−0.75×Re1…式(5)
Rth=300nm(Rth1+Rth2=600nm)の時、
Δnd=885.01−1.0743×Re1…式(6)
Rth=440nm(Rth1+Rth2=880nm)の時、
Δnd=1203−1.3581×Re1…式(7)
また、これらは以下の式(8)により全てのプロットがフィッティング可能であることが分かった。
Δnd=(185.18+23179×Rth)−(0.34619+0.0023303×Rth)×Re1=(185.18+23179×((Rth1+Rth2)/2))−(0.34619+0.0023303×((Rth1+Rth2)/2))×Re1 …式(8)
一方、図5(B)においては、各Rthにて以下の式(9)〜(11)によりフィッティング可能であった。なお、切片及び傾きは、いずれもTACフィルムありの場合(図5(A))に比べて小さい。
【0068】
Rth=180nm(Rth1+Rth2=360nm)の時、
Δnd=517.5−0.375×Re1…式(9)
Rth=300nm(Rth1+Rth2=600nm)の時、
Δnd=812.03−0.64665×Re1…式(10)
Rth=440nm(Rth1+Rth2=880nm)の時、
Δnd=1119.1−0.82418×Re1…式(11)
また、これらは以下の式(12)により全てのプロットがフィッティング可能であることが分かった。
Δnd=(107.65+2.3105×Rth)−(0.089358+0.001715×Rth)×Re1=(107.65+2.3105×((Rth1+Rth2)/2))−(0.089358+0.001715×((Rth1+Rth2)/2))×Re1 …式(12)
以上のΔndの関数数式(5)〜(12)は、Re1、Re2、Rthが最適な組み合わせ、右方位40°又は50°の背景透過率が最小で重なる、すなわち等しくなる組み合わせである。実際の液晶表示素子においては、その透過率は外観上許容できる範囲となるので、上記数式(5)〜(12)によるΔndよりも少なくとも±50nm、好ましくは±100nmは許容される。
【0069】
(ii)次に、本願発明者は、第1及び第2の光学フィルム8、9の厚さ方向の位相差Rth1、Rth2が異なる場合についても、シミュレーション解析を行った。第1の光学フィルム8の面内位相差Re1を120nm、140nm、180nmに変化させ、Rth1を180nmに固定とし、第2の光学フィルム9の厚さ方向の位相差Rth2を440nmに固定した場合における、右方位極角40°及び50°観察時の背景部光透過率のRe2(第2の光学フィルム9の面内位相差)依存性を計算した。シミュレーションにおいては、背景部光透過率が最小となるように、液晶層のリターデーションΔndを適宜変更した。
【0070】
図6(A)は、計算結果を示すグラフである。グラフの横軸は、Re2を単位「nm」で表し、縦軸は右方位極角40°及び50°から観察したときの光透過率を単位「%」で表す。
【0071】
プロットは、各Re1条件に関して示しており、実線は右方位極角40°観察時、破線は右方位極角50°観察時を示している。具体的には、曲線a、bは、それぞれ、Re1=120nmの時の極角40°観察時及び極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性を示している。また、曲線c、dは、それぞれ、Re1=140nmの時の極角40°観察時及び極角50°観察時の、曲線e、fは、それぞれ、Re1=180nmの時の極角40°観察時及び極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性を示している。
【0072】
Re1が大きくなるにしたがって、(1)背景透過率が最低になるRe2の増加、(2)最低透過率が得られるRe2においてその透過率が増加、(3)右方位極角40°観察時と右方位極角50°観察時における最低透過率が得られるRe2の差の増大が観察される。図3(A)に示したRe2=0の時におけるRe1は、Rth1が180nmの場合は、約80nm程度であり、Re1が、それより大きい値から180nm程度までであれば比較的良好な視角特性が得られると考えられる。
【0073】
図6(A)では、Rth1<Rth2の関係にある場合について示したが、逆の関係であるRth1>Rth2の関係にある場合に関しても解析を行った。第1の光学フィルム8の面内位相差Re1を60nm、80nm、120nm、140nm、180nmに変化させ、Rth1を440nmに固定とし、第2の光学フィルム9の厚さ方向の位相差Rth2を180nmに固定した場合における、右方位極角40°及び50°観察時の背景部光透過率のRe2(第2の光学フィルム9の面内位相差)依存性を計算した。
【0074】
図6(B)は、計算結果を示すグラフである。グラフの横軸は、Re2を単位「nm」で表し、縦軸は右方位極角40°及び50°から観察したときの光透過率を単位「%」で表す。
【0075】
プロットは、各Re1条件に関して示しており、実線は右方位極角40°観察時、破線は右方位極角50°観察時を示している。具体的には、曲線a、bは、それぞれ、Re1=60nmの時の極角40°観察時及び極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性を示している。また、曲線c、dは、それぞれ、Re1=80nmの時の極角40°観察時及び極角50°観察時の、曲線e、fは、それぞれ、Re1=120nmの時の極角40°観察時及び極角50°観察時の、曲線g、hは、それぞれ、Re1=140nmの時の極角40°観察時及び極角50°観察時の、曲線i、jは、それぞれ、Re1=180nmの時の極角40°観察時及び極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性を示している。
【0076】
図6(A)に示したRth1<Rth2の関係にある場合と同様に、Re1が大きくなるにしたがって、(1)背景透過率が最低になるRe2の増加、(2)最低透過率が得られるRe2においてその透過率が増加、(3)右方位極角40°観察時と右方位極角50°観察時における最低透過率が得られるRe2の差の増大が観察されるが、Re1の変化に対する極角40°観察時背景透過率のRe1各最適値における値の上昇が小さく、極角50°観察時背景透過率のRe1各最適値における値の上昇が大きい傾向が見られる。すなわち、Rth1<Rth2の関係にある場合と比べて、特に深い極角観察時における背景透過率の変化に違いが見られる。図3(A)から、Rth=440nmの場合は、Re2=0nmの際、Re1は50nm程度が良好になると考えられることから、Rth1<Rth2の関係にある場合に比べ、Re1及びRe2共に小さな値をとることが出来る。
【0077】
以上の解析により、Rth1及びRth2の値が異なる場合においても良好な視角特性が実現可能であることがわかった。
【0078】
上記の解析では、Rth2が固定された状態でRe2の最適化を行ったが、第1の光学フィルムを固定し、第2の光学フィルムのRth2を変化させた場合、良好な視角特性が実現可能か否かを確認した。上述の第1の光学フィルムのRe1=120nm、Rth180nmの時(図6(A))と、Re1=80nm、Rth1=440nmの時(図6(B))の2条件に関して、Re2及びRth2を変化させることにより、右方位極角40°及び50°観察時背景透過率がどのように変化するかを計算した。
【0079】
図7(A)は、計算結果を示すグラフである。グラフの横軸は、Re2を単位「nm」で表し、縦軸は右方位極角40°及び50°から観察したときの光透過率を単位「%」で表す。Re1=120nm、且つ、Rth=180nmの時、Rth2を90nm、300nm、440nmに変化させた場合の、右方位極角40°観察時及び極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性を示している。
【0080】
各Rth2に対応するプロットにおいて、実線は右方位極角40°観察時、破線は右方位極角50°観察時を示している。具体的には、曲線a、bは、それぞれ、Rth2=90nmの時の極角40°観察時及び極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性を示している。また、曲線c、dは、それぞれ、Rth2=300nmの時の極角40°観察時及び極角50°観察時の、曲線e、fは、それぞれ、Rth2=440nmの時の極角40°観察時及び極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性を示している。
【0081】
Rth2が大きくなるにしたがって、極角40°観察時及び極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性曲線に差が生じているが、極角40°観察時と極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性曲線の交点は30〜35nmとほとんど差が見られないことから、Rth2が変化したとしてもRe2は固定してもほぼ良好な視角特性が実現できると考えられる。
【0082】
図7(B)は、Re1=80nm、且つ、Rth=440nmの時、Rth2を90nm、180nm、300nmに変化させた場合の、右方位極角40°観察時及び極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性を示している。グラフの横軸は、Re2を単位「nm」で表し、縦軸は右方位極角40°及び50°から観察したときの光透過率を単位「%」で表す。
【0083】
各Rth2に対応するプロットにおいて、実線は右方位極角40°観察時、破線は右方位極角50°観察時を示している。具体的には、曲線a、bは、それぞれ、Rth2=90nmの時の極角40°観察時及び極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性を示している。また、曲線c、dは、それぞれ、Rth2=180nmの時の極角40°観察時及び極角50°観察時の、曲線e、fは、それぞれ、Rth2=300nmの時の極角40°観察時及び極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性を示している。
【0084】
図7(A)に示す場合と同様に、Rth2が大きくなるにしたがって、極角40°観察時及び極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性曲線に差が生じているが、極角40°観察時と極角50°観察時の背景透過率のRe2依存性曲線の交点は30〜35nmとほとんど差が見られないことから、Rth2が変化したとしてもRe2は固定してもほぼ良好な視角特性が実現できると考えられる。したがって、より詳細に検討を行ったRth1=Rth2時の最適パラメータ設定方法がそのまま適用可能と考えられる。
【0085】
以上の解析結果より、Rth1とRth2が等しくない場合においても、適切な面内位相差、厚さ方向位相差、及び液晶層のリターデーションΔndを設定することにより、良好な視角特性を実現可能である。
【0086】
(iii)図8に、変形例による液晶表示素子の概略図を示す。変形例による液晶表示素子は、上側ガラス基板4と第2の光学フィルム9との間にネガティブCプレート11が配置される点において、実施例による液晶表示素子と異なる。図5に示す液晶表示素子においては、1枚のネガティブCプレート11が配置されているが、複数のネガティブCプレートを配置することもできる。
【0087】
変形例による液晶表示素子は、液晶層5のリターデーションΔndが、たとえば750nmより大きい場合であっても、良好な視角特性を実現することが可能である。ただし、Δndを大きくすると、深い極角観察角度からの光抜けが増加し、更に、Δnd設定の面内均一性がシビアになる傾向がある。本願発明者が実機を製作したところ、1200nm程度までのΔndで、良好な表示が可能であることが確認された。なお、上記のCプレートが挿入されていない場合における最適Δndの算出式(数式(5)〜(12))へ単数又は複数のCプレートの厚さ方向位相差を第2の光学フィルムの厚さ方向位相差Rth2に合算し適用することが出来る。
【0088】
なお、上述の実施例では、第1及び第2の光学フィルムとして負の二軸光学異方性を有するものを用いて説明したが、正の一軸光学異方性、すなわち、nx>ny=nz、nz=1を有するAプレートも適用可能である。Aプレートの場合、面内位相差Reに対して厚さ方向位相差RthはRth=Re/2で示される。シミュレーション解析により確認したが、上記実施例で検討した負の二軸光学異方性の場合と何ら違いはない。したがって、Re1、Re2、Rth1、Rth2、Δndの数式などによる関係付けは全く同等で扱うことが出来る。
【0089】
さらに、第1の光学フィルムのみnx>ny=nz、nz=−1を有する負のAプレートや、nx>ny=nz、1≦nz<−1を示す正の二軸光学異方性を有するものを用いても同等に扱うことが可能である。
【0090】
以上、実施例、及び変形例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。
【産業上の利用可能性】
【0091】
液晶表示素子一般に利用可能である。たとえばセグメント表示、ドットマトリックス表示、及びそれら二つの表示がともに可能な液晶表示素子に好適に利用できる。また、TFT駆動の液晶表示素子、及びたとえば1/4デューティ以上の表示容量を有するマルチプレックス駆動液晶表示素子に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0092】
1 偏光板偏光層
2 TACベースフィルム
3 第1の光学フィルム
4 上側ガラス基板
5 垂直配向液晶層
6 下側ガラス基板
7 第2の光学フィルム
8 第1の光学フィルム
9 第2の光学フィルム
10 上側偏光板
11 ネガティブCプレート
20 下側偏光板
30 垂直配向液晶セル
Fab 上側偏光板偏光層吸収軸
Rab 下側偏光板偏光層吸収軸
SA1 第1の光学フィルムの面内遅相軸
SA2 第2の光学フィルムの面内遅相軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の透明基板と、
前記第1及び第2の透明基板間に挟持された、リターデーションが300nm以上1200nm以下の基板に対して垂直、又は略垂直配向する液晶層と、
前記第1の透明基板の前記液晶層とは反対側に配置された、負の二軸光学異方性を有する第1及び第2の光学フィルムと、
前記第1及び第2の光学フィルムの前記第1の透明基板とは反対側に配置された第1の偏光板と、
前記第2の透明基板の前記液晶層とは反対側に前記第1の偏光板とクロスニコルに配置された第2の偏光板とを有し、
前記第2の光学フィルムは、前記第1の透明基板と前期第1の光学フィルムとの間に配置され、
前記第1の光学フィルムの面内遅相軸と前記第1の偏光板の吸収軸とは直交するように配置され、
前記第1の光学フィルムの面内遅相軸と前記第2の光学フィルムの面内遅相軸とは直交するように配置され、
前記第1の光学フィルムの面内方位の位相差は、前記第2の光学フィルムの面内方位の位相差よりも大きい液晶表示素子。
【請求項2】
前記第1の光学フィルムの面内位相差をRe1、厚さ方向位相差をRth1とすると、Re1>31.389+6440.4/Rthの関係を有する請求項1記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記第2の光学フィルムの面内位相差をRe2とすると、Re1=A+B×Re2、A=26.115+6440.4/Rth1、且つ、1≦B≦2.3の関係を有する請求項1又は2記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記第1及び第2の光学フィルムの厚さ方向位相差Rth1、Rth2は、それぞれの面内位相差Re1、Re2の半分の値より大きく550nm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
【請求項5】
前記液晶層のリターデーションをΔndとすると、前記液晶層が、
Δnd=(185.18+23179×Rth)−(0.34619+0.0023303×Rth)×RE1=(185.18+23179×((Rth1+Rth2)/2))−(0.34619+0.0023303×((Rth1+Rth2)/2))×Re1で、上記Δnd±100nmの範囲内である請求項1〜4のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
【請求項6】
前記第1及び第2の光学フィルムのいずれか一方又は双方がAプレートである請求項1〜5のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
【請求項7】
前記第1の光学フィルムが負のAプレート又は正の二軸光学異方性を有する物質である請求項1〜5のいずれか1項に記載の液晶表示素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−164274(P2011−164274A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25575(P2010−25575)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】