説明

液晶表示素子

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は液晶表示素子に関し、特に正の誘電異方性を有する液晶が液晶層の厚み方向に90°以上ねじれた構造を有するSTN型液晶表示素子に関するものである。
〔従来の技術及び発明が解決しようとする課題〕
従来主に用いられてきた液晶の表示モードは、ツイストネマティック(TN)型と呼ばれ、一対の基板間で液晶分子が約90°ねじれた構造をとっており、液晶による偏光面の回転と、電圧印加によるその効果の消失を利用している。この表示モードは、時計や電卓等の低時分割駆動では十分なものであったが、表示容量を増大させるために高時分割駆動させると、コントラストが低下したり、視角がせまくなるという欠点があった。これは、高時分割駆動になると、選択点と非選択点にかかる電圧の比が1に近づくためで、高コントラスト、広視角の表示素子を得るためには、素子の相対透過率が10%変化する電圧V10に対する50%変化する電圧V50の比(V50/V10)で表わされる急峻度γをできるだけ小さくすることが必要である。
ツイストネマティック型の場合、このγ値は1.13程度である。このγ値を小さくするために、液晶分子のねじれ角を大きくし、偏光軸を液晶配向方向とずらす方式が提案されており、SBEモードやSTNモードと呼ばれている。このような方式によると、γ値を1.1以下にすることができ、1/400デューティ程度の高時分割駆動が可能になる。
しかし、このような方式では、複屈折による着色及びその電圧による変化を利用するため、原理的に白黒表示を行うことは困難であり、液晶セルの透過光または反射光には着色を生じ、着色背景上への表示となってしまう。
STN型液晶表示素子の着色を解消する色補償板として、ねじれの向きが逆でねじれ角が等しい液晶セルを用いる方法、高分子フィルムなどの複屈折性媒質を用いる方法が知られている(特開昭64−519号公報)。
高分子フィルムなどの複屈折性媒質を用いた液晶表示素子(以下FSTNと略記す)は、ねじれの向きが逆でねじれ角が等しい液晶セルを用いる液晶表示素子(以下DSTNと略記す)に較べてコントラストが低い。一方、DSTNは液晶セルを二つ使用するので、素子の厚さ、重量、コストの面でFSTNよりも劣る。
また、FSTN及びDSTN共に視角による表示色及びコントラストの変化が大きいという欠点があった。
本発明は、従来の液晶表示素子に見られる前記欠点を解消し、優れた表示品質を有する液晶表示素子を提供することを目的とする。
〔課題を解決するための手段及び作用〕
上記目的を達成するために、本発明によれば、正の誘電異方性を有する液晶組成物からなる液晶層が、電極を備えた一対の基板間で、電圧無印加時に基板に対して略水平に配向し、液晶層の厚み方向に180°以上、360°以下のねじれた構造を有するように構成された液晶セルと、該液晶層を挾むように設けた一対の偏光子との間の少なくとも一方に、多層構成の高分子液晶層を設け、該高分子液晶層の各層のねじれ角の総和及びリターデーションの総和がそれぞれ該液晶層のねじれ角ωL及びリターデーションRLにほぼ等しく、該高分子液晶層の一層のねじれ角を約180°、リターデーションをR1とし、リターデーションの比R1/RLをねじれ角の比180/ωLよりも大きくしたことを特徴とする液晶表示素子が提供される。
次に、図面を参照して、本発明の構成を詳述する。第1図1図は本発明の液晶表示素子の一構成例を示す断面図である。この図において、基板1,11はそれぞれ配向処理が施された配向膜3,13と透明電極4,14を有し、離間、対向して配設され、その間に液晶が封入され液晶層6を形成し、シール剤5によって外気と遮断され、液晶セルが形成されている。そしてこの液晶セルが上側偏光板2および下側偏光板12に挾まれ、基板1と偏光板2との間に基板9,10上にそれぞれ形成された高分子液晶層7,8を積層した色補償板が配設されて液晶表示素子が構成されている。
本発明の液晶表示素子の構成例のように、基板と偏光板の間に高分子液晶層を設ける場合、液晶セルの基板としては透光性を有するガラス、プラスチックなどを用いる。プラスチック基板を用いたときは、基板の厚さを0.2mm以下の薄厚にすることが容易であり、そのため表示素子をきわめて薄く、かつ軽量にすることができる。また、基板が薄いために表示が二重像とならず広視角の表示素子を得ることができる。
本発明の液晶表示素子の各基板における配向処理は、液晶分子が電圧無印加時に略水平配向するように行われ、この配向処理方向に沿って液晶分子が優先配向する。この場合、液晶分子の配向に関していう略水平とは、液晶分子の基板に対する傾き角がおおよぞ0°から30°の範囲にあることを言う。この配向制御は、基板に対して、従来公知の斜方蒸着や、無機または有機被膜を形成した後に綿布などでラビングすることにより行うことができる。本発明に使用する配向膜3,13としては、ポリアミド、ポリイミドなどの高分子被膜等にラビング処理したものや、SiO、MgO、MgF2などを用いて斜め蒸着したものが用いられる。
液晶層6において、液晶は正の誘電異方性を有するネマティックまたはコレステリック液晶で、配向膜13,3により、電圧を印加しない状態で基板面にほぼ平行に配向している。液晶は上下基板の間で螺施軸を基板面に垂直に向けたねじれ配向をとっていることが好ましく、そのねじれ角は180°〜360°であることが好ましい。ねじれ角が小さい場合には電圧−透過率特性の急峻性が低下し、時分割駆動特性が低下する。液晶のねじれ角ωLは、第2図に示すように下基板11の配向膜13の配向処理方向(R1)、上基板1の配向膜3の配向処理方向(R2)および液晶のピッチと液晶層6の厚さを制御することによって容易に制御が可能である。液晶層6の屈折率異方性ΔnLと厚さdLの積ΔnLdLは、良好なコントラストを得るためには0.4μm〜1.3μmの範囲が好ましい。
高分子液晶層7,8は、この層中で厚み方向にねじれた配向をとるように配向が制御される。本構成において、高分子液晶層7,8はその光学異方性のため複屈折性を生じる。高分子液晶層7,8のねじれ角をそれぞれω1、ω2とし、屈折率異方性と厚さの積をそれぞれΔn1d1、Δn2d2とする。
白黒表示を行うためには、液晶層6で生じた常光と異常光の位相差を補償する必要があり、そのためには高分子液晶層7,8が以下の条件を満たす必要がある。
(1)液晶層と高分子液晶層のねじれの向きは互いに逆向きである。
(2)第2図において、δはほぼ90°である。
(3)ω1とω2の和は、ωLにほぼ等しい。
(4)Δn1d1とΔn2d2の和は、ΔnLdLにほぼ等しい。
また、ねじれ角ω1とωLの比をKω、Δn1d1とΔnLdLの比をKnとすると、Kω=ω1/ωL,Kn=Δn1d1/ΔnLdL (1)
位相差を完全に補償するためには、KωとKnをほぼ等しくする必要があるが、多少ずれても透過率はあまり変化しない。第3図に明るさY(Y刺激値)のKn依存性の例を示す。パラメーターは、ωL=240°、ΔnLdL=0.86μm、ω1=180°、ω2=60°、Δn1d1+Δn2d2=0.85μm、δ=90°、液晶層と高分子液晶層のねじれの向きが逆、β1=β2=45°で、液晶表示素子は電圧無印加時に黒となる。Kωは0.75であるのでKnも0.75に設定するのが良いが、第3図のようにKnが0.75から0.05程度ずれても明るさYはほぼ一定で液晶表示素子のコントラストは変わらない。また、Knを0.75にした場合よりもコントラストは多少低くなるが、Knが0.75から0.15程度ずれても液晶表示素子として必要なコントラストは十分得られる。
本発明の高分子液晶層のように、層の厚み方向に分子がねじれた配向をしている場合、偏光板で挟んだ時の色の視角依存性は、分子長軸の配向分布の対称性に依存する。第4図(a)、(b)、(c)はそれぞれねじれ角が180°以下、180°、180°以上の高分子液晶層を基板に垂直な方向から見た時の分子長軸の配向分布を示したもので、図のようにねじれ角が180°以外ではある方向に配向している分子の数が方向に依存しているが、ねじれ角が180°の場合は配向している分子数が全方向にほぼ等しいので色の視角依存性が小さい。また、色の視角依存性は高分子液晶層のリターデーションの大きさに左右され、リターデーションが大きいほど色の視角依存性が大きい。したがって、本発明の高分子液晶層のように、ω1を180°、ω2をωL−ω1とし、KnをKωよりも大きくすると、視角特性の悪いねじれ角がω2の高分子液晶層のリターデーションが小さくなり、視角特性の良いねじれ角が180°の高分子液晶層のリターデーションが大きくなるので、高分子液晶層全体の視角特性は高分子液晶層のねじれ角をωL、リターデーションをΔnLdLとした場合よりも良くなる。
以上のように本発明の高分子液晶層は視角特性が良好であり、この高分子液晶層を用いた液晶表示素子は通常のDSTNよりも視角特性が向上する。
高分子液晶層は、第1図のように基板上に形成するが、基板としては透光性のガラス、ポリマーフィルムなどを用いることができる。ポリマーフィルムは、薄くて軽いので基板として有利である。具体的なポリマーフィルムの材料としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリオレフィン、ポリアリレート、エポキシ樹脂などを用いることができる。これらの基板は、第1図のように液晶セルまたは偏光板とは別に設けてもよく、また液晶セルや偏光板自体を基板として用いることもできる。また、第1図R>図では高分子液晶層7,8の基板は別体としたが、一つの基板の両面に高分子液晶層を設けてもよい。また、第1図R>図では高分子液晶層が二層構成であったが、三層以上としても良い。また、第1図では高分子液晶層が上側偏光板2と上側基板1の間に設置されたが、下側偏光板12と下側基板11の間に設置しても良く、液晶セルの両側に設置しても良い。ただし、液晶セルの両側に設置する場合は、液晶セルの上下基板上の液晶分子配向方向と近接する高分子液晶層の分子配向方向に直交するように配置する必要がある。
用いられる液晶性高分子の種類としては、液晶状態でコレステリック配向し、液晶転移点以下ではガラス状態となるものはすべて使用でき、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリエステルイミドなどの主鎖型液晶性高分子、あるいはポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリマロネート、ポリシロキサンなどの側鎖型液晶性高分子を例示することができる。
次に、本発明で用いられる液晶性高分子を用いた補償板のより具体的な作製法の一例を示す。基板9,10上に液晶性高分子を基板に対して水平にかつ特定の方向に配向させるための配向膜を形成する。配向膜の配向処理は具体的には従来公知の斜方蒸着や、無機または有機被膜を形成した後に綿布などでラビングすることにより行うことができる。より具体的にはポリアミド、ポリイミドなどの高分子被膜等にラビング処理したものや、SiO、MgO、MgF2などを斜め蒸着したものを好適に用いる。次に液晶性高分子を有機溶媒に溶解させた溶液を配向膜上に塗布する。液晶性高分子用の溶媒としては、そこで用いられる液晶性高分子の種類、重合度によっても異なるが、一般には、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、オルソジクロロベンゼンなどのハロゲン系炭化水素、フェノール、o−クロロフェノール、クレゾールなどのフェノール系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒およびこれらの混合溶媒を例示できる。溶液濃度は塗布法、高分子の粘性、目的とする膜厚等により異なるが、液晶表示素子用の補償板として要求される膜厚は一般には2〜10μm程度であるため、通常は2〜50wt%の範囲で使用され、好ましくは5〜30wt%の範囲で使用される。塗布法としてはスピンコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ディッピング法、スクリーン印刷法などを採用できる。液晶性高分子を塗布後、溶媒を乾燥して除去し、液晶性高分子がコレステリック液晶性を示す温度で所定時間熱処理して液晶性高分子を配向させたのちガラス転移点以下の温度に冷却する。液晶性高分子を配向させるときの温度は、液晶性高分子のガラス転移点以上であることが必要で、液晶性高分子の等方性液体への転移温度より低いことが必要である。配向膜の界面効果による配向を助ける意味でポリマーの粘性は低い方がよく、したがって温度は高い方がよいが、あまり高いとコストの増大と作業性の悪化を招き好ましくない。一般的には50℃〜300℃の範囲が好ましく、特に100℃〜250℃の範囲が特に好ましい。また、この温度において液晶性高分子はネマティック相であることが必要である。また、一旦等方性液体となる温度まで加熱後、上記液晶相を呈する温度に冷却して配向させることもできる。熱処理時間はポリマーの組成、分子量によって異なるが、一般には10秒〜60分の範囲が好ましく、特に30秒〜30分の範囲が好ましい。処理時間が短すぎる場合には配向が不十分となり、また、長すぎる場合には生産性が低下し好ましくない。液晶配向が完成されてから液晶性高分子膜はガラス転移点以下の温度に冷却すれば、配向を固定化することができる。冷却速度は特に制限されず、加熱雰囲気からガラス転移点以下の雰囲気に移すだけでよい。なお、液晶性高分子薄膜を配向固定化して、かつ室温付近で用いる場合、液晶性高分子のガラス転移温度は30℃以上であることが好ましい。これより低い場合、固定化した配向構造が崩れることがあり、好ましくない。液晶性高分子の膜厚は100μm以下であることが好ましく、特に50μm以下であることが好ましい。100μmを超えると均一な配向を得ることが困難となる。
本発明の補償板は、さらに液晶性高分子面を保護する目的で他の基板を積層して用いることも可能であり、また同様の目的で他の樹脂膜を表面に形成することもできる。
本発明の液晶表示素子の特徴として、前記したように視野角の広さが挙げられる。
本発明の液晶表示素子の別の特徴として、素子の薄さ、軽さ、低コストが挙げられる。第1図のような構造の素子の場合、高分子液晶層の基板としてポリマーフィルムを用いると、表示素子の全体の厚さは液晶セルにポリマーフィルム2枚分の厚さが加わるだけなのでDSTNよりも薄くなる。またガラス基板を用いた場合でも基板の両面に高分子液晶層を設けるようにすれば、DSTNよりも薄くなる。また、高分子液晶層を用いた補償板の方が液晶セルを用いた補償板よりも生産性が良く、コストも安いので、本発明の液晶表示素子はDSTNよりも低いコストとなる。
本発明のさらに別の特徴として、コントラストの高さが挙げられる。本発明の高分子液晶層は、厚み方向にねじれた構造をもっているので、液晶セルを用いた補償板と同等の色補償作用を有しており、本発明の液晶表示素子はFSTNよりもコントラストが良く、DSTNと同等のコントラストが得られる。
本発明の液晶表示素子のさらに別の特徴として、補償板の均一性に由来する表示の均一性の高さが挙げられる。本発明では、上述のようにコレステリック相における均一配向を固定化しているため、補償板をきわめて均一に作製することができ、したがって表示素子の表示を均一にすることができる。
本発明の液晶表示素子のさらに別の特徴として、高い信頼性が挙げられる。本発明で用いる補償板を配向固定化して用いる場合、配向状態は、温度が液晶性高分子が液晶相に転移する温度以下であれば、外力や温度で変化することが無いため、優れた信頼性を示す。
以上のように、本発明により、FSTNの欠点であったコントラストの低さ、DSTNの欠点であった厚さ、重さ、高コストが解消され、さらに視角特性が向上して優れた表示品質を有する液晶表示素子の作製が可能となる。
〔実施例〕
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ストライプ状の透明電極を有する上下ガラス基板間での液晶のねじれ角が240°であり、液晶層のリターデーションが0.86μmであるSTNセルAを作製した。液晶は正の誘電異方性を有するネマティック液晶ZLI2293(メルク社製)にカイラルネマティック液晶S811(メルク社製)を添加したものを用いた。配向処理は、ポリイミド膜のラビング処理により行った。
次に、ポリエーテルスルホンを基板とし、この基板上にポリイミドワニスPIQ(日立化成社製)をスピンコート法で約1000Åの厚さに塗布し、ついで230℃で焼成したポリイミド膜を形成した。ついでポリイミド膜上をテトロン植毛布で一方向にこすり、ラビング処理を行った。一方、下記PL1の繰返し単位を持ちガラス転移点が70℃のネマティック液晶性ポリシロキサン系液晶性高分子と下記PL2の繰返し単位を持ち光学活性基を有するポリシロキサン系液晶性高分子をフェノール/テトラクロロエタン混合溶媒(重量比50:50)に25重量%となるように溶解させた。




この溶液をスピンコート法により上記ポリイミド膜付きポリエーテルスルホン基板上に塗布し、ついで70℃で乾燥後、上記高分子液晶がコレステリック相になる170℃で30分間熱処理を行った後、室温に急冷することにより、ねじれの向きがセルAと逆でねじれ角が180°(Kω=0.75)、リターデーションが0.73μm(Kn=0.85)の高分子液晶層B1を形した。同様にして、ねじれ角が60°、リターデーションが0.13μmの高分子液晶層B2を作製した。高分子液晶層B1の上に高分子液晶層B2を積層し、近接する分子長軸方向が一致するように配置した。次に高分子液晶層B1をセルAの上に、セルAの上側基板上の液晶分子配向方向と高分子液晶層B1のフィルム基板上の分子配向方向が直交する(δ=90°)ように配置した。
そして下側偏光板の透過軸が液晶セルの下側基板上の液晶分子配向方向と45°の角度を成し(β1=45°)、上側偏光板の透過軸が上側偏光板に隣接する高分子液晶層B2の分子配向方向と45°の角度を成し(β2=45°)、かつ上下偏光板の透過軸が直交するように上下偏光板を配置し、本発明の液晶表示素子とした。
以上のようにして作製した液晶表示素子の液晶セルAを1/200デューティで時分割駆動したところ、通常のDSTN(比較例1)に較べて、視角による表示色及びコントラストの変化が小さくなり、表示品質が向上することが確認された。
(実施例2)
実施例1のセルAと同様にして、ねじれ角が260°、リターデーションが0.8μmのSTNセルCを作製した。
次に実施例1と同様にして、ガラス基板の片面にねじれの向きがセルCと逆でねじれ角が180°(Kω=0.692)でリターデーションが0.67μm(Kn=0.84)の高分子液晶層D1を形成し、もう一方の面にねじれ角が80°でリターデーションが0.13μmの高分子液晶層D2を形成した。ただし、高分子液晶層D1とD2のガラス基板面上の分子配向方向は一致するように配向処理した。次に、この高分子液晶層が形成されたガラス基板を液晶セルCの上に、セルAの上側基板の液晶分子配向方向とセルAの上側基板に隣接する高分子液晶層D1の分子配向方向が直交する(δ=90°)ように配置した。
実施例1と同様に、上下偏光板をβ1=β2=45°となるように配置して液晶表示素子を構成し、液晶セルCを1/200デューティで時分割駆動したところ、単層の高分子液晶層を用いて色補償した液晶表示素子(比較例2)に較べて、視角による表示色及びコントラストの変化が小さくなり、表示品質が向上することが確認された。
(比較例1)
上下ガラス基板間での液晶のねじれの向きが実施例1のセルAと逆でねじれ角が240°、リターデーションが0.86μmであるSTNセルEを作製した。液晶はZLI2293に、カイラルネマティック液晶R811(メルク社製)を添加したものを用いる。
次に、セルEをセルAの上に、セルEの下側基板上の液晶分子長軸とセルAの上側基板上の液晶分子長軸方向で直交する(δ=90°)ように積層した。ついで、上下偏光板の透過軸と隣接する液晶セルの液晶分子長軸方向が45°の角度を成し(β1=β2=45°)、上下偏光板の透過軸が直交するように偏光板を設置し、比較例の液晶表示素子とした。
(比較例2)
ガラス基板上に液晶性高分子PL1とPL2の混合溶液を塗布して、リターデーションが0.8μm、ねじれの向きが実施例2のセルCと逆向きでねじれ角が260°の高分子液晶層Fを形成した。
次に、高分子液晶層FをセルCの上に、セルCの上側基板上の液晶分子長軸方向と高分子液晶層Fのガラス基板上の分子長軸方向が直交する(δ=90°)ように積層した。ついで上下偏光板の透過軸と隣接する分子長軸方向が45°の角度を成し(β1=β2=45°)、上下偏光板の透過軸が直交するように偏光板を設置し、実施例の液晶表示素子とした。
〔発明の効果〕
本発明によれば、STN型液晶表示素子において、液晶層と偏光板の間に、多層構成の高分子液晶層を設け、該高分子液晶層の一層のねじれ角を180°、リターデーションをR1とし、液晶層のリターデーションRLとR1/RLを液晶層のねじれ角ωLと180°の比180/ωLよりも大きくしたことにより、広視角で高コントラストであり、しかも薄くて軽量かつ低コストの液晶表示素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の液晶表示素子の一構成例を示す断面図、第2図は本発明の液晶表示素子における各要素の角度関係を示す図、第3図はリターデーション比Knと明るさYの関係を示すグラフ、第4図は高分子液晶層を基板に垂直な方向から見た時の分子長軸の配向分布を示す図である。
1,11…基板
2,12…偏光板
3,13…配向膜
4,14…透明電極
5…シール剤
6…液晶層
7,8…高分子液晶層
9,10…高分子液晶層用基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】正の誘電異方性を有する液晶組成物からなる液晶層が、電極を備えた一対の基板間で、電圧無印加時に基板に対して略水平に配向し、液晶層の厚み方向に180°以上、360°以下のねじれた構造を有するように構成された液晶セルと、該液晶層を挾むように設けた一対の偏光子との間の少なくとも一方に、多層構成の高分子液晶層を設け、該高分子液晶層の各層のねじれ角の総和及びリターデーションの総和が該液晶層のねじれ角ωL及びリターデーションRLにほぼ等しく、該高分子液晶層の一層のねじれ角を約180°、リターデーションをR1とし、リターデーションの比R1/RLをねじれ角の比180/ωLよりも大きくしたことを特徴とする液晶表示素子。

【第1図】
image rotate


【第2図】
image rotate


【第4図】
image rotate


【第3図】
image rotate


【特許番号】第2893204号
【登録日】平成11年(1999)3月5日
【発行日】平成11年(1999)5月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−125958
【出願日】平成2年(1990)5月15日
【公開番号】特開平4−19711
【公開日】平成4年(1992)1月23日
【審査請求日】平成9年(1997)4月25日
【出願人】(999999999)株式会社リコー
【参考文献】
【文献】特開 平1−282519(JP,A)