説明

液晶装置及び電子機器

【課題】液晶装置において、表示画像の品質を低下させることなく、耐光性を向上させる

【解決手段】液晶装置は、光を投射することによって画像を表示する液晶装置であって、
光の投射される位置に配置された液晶層(50)と、液晶層に添加されており、光に対す
る耐性を高めるためのヒンダードフェノール系添加剤とを備える。ヒンダードフェノール
系添加剤は、液晶層に対して、0.5重量パーセント以下となるように添加されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置及び該液晶装置を備えた、例えば液晶プロジェクター等の電子機器
の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の液晶装置として、例えば光源からの光を投射することによって、表示された画
像を直視で、或いはスクリーン等に拡大して視覚可能とするものがある。このような液晶
装置では、液晶層に比較的強い光が入射することとなるため、長時間光を投射し続けると
、液晶の表示特性の劣化により画質が低下してしまうことがある。このため、液晶層に紫
外線吸収剤等の添加剤を添加することによって、液晶層の耐光性を向上させるという技術
が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−176549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本願発明者の研究によれば、液晶層に添加剤を加えると、表示画像にお
ける焼き付きが生じ易くなってしまうことが判明している。よって、単に液晶層に添加剤
を加えるだけでは、耐光性が向上する代わりに、焼き付きが生じることで表示画像の品質
が低下してしまう。即ち、上述した技術には、耐光性を向上させつつ、高品質な画像を表
示することが困難であるという技術的問題点がある。
【0005】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、耐光性に優れ、且つ高品
質な画像を表示可能な液晶装置及び電子機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液晶装置は上記課題を解決するために、光を投射することによって画像を表示
する液晶装置であって、前記光の投射される位置に配置された液晶層と、該液晶層に添加
されており、前記光に対する耐性を高めるためのヒンダードフェノール系添加剤とを備え
、前記ヒンダードフェノール系添加剤は、前記液晶層に対して、0.5重量パーセント以
下となるように添加されている。
【0007】
本発明の液晶装置によれば、その動作時には、例えば光源等から光が投射されることに
より、装置上に表示された画像がスクリーン等の大型画面に拡大表示される。液晶装置は
、例えば一対の基板間に液晶層が挟持されることによって構成されており、基板上に設け
られた電極等から液晶層に電圧が印加されることで液晶分子の向きが制御され、様々な画
像を表示することが可能とされている。
【0008】
本発明では、液晶層に耐光性を高めるためのヒンダードフェノール系添加剤が添加され
ている。ヒンダードフェノール系添加剤は、例えば光が投射されることによって生じるラ
ジカル反応を捕捉するラジカル捕捉材として機能する。これにより、液晶層の表示特性が
劣化してしまうことを低減できる。
【0009】
ここで特に、上述したヒンダードフェノール系添加剤は、液晶層に対して、0.5重量
パーセント以下となるように添加されている。即ち、本発明では、液晶層に対するヒンダ
ードフェノール系添加剤の添加量が、予め設定された量とされている。
【0010】
液晶層に対するヒンダードフェノール系添加剤の添加量が増加すると、添加量に応じて
耐光性も向上する。しかしながら、本願発明者の研究によれば、ヒンダードフェノール系
添加剤の添加量が増加すると、液晶装置によって表示される画像における焼き付きが生じ
易くなってしまうことが判明している。このような表示画像における焼き付きは、ヒンダ
ードフェノール系添加剤の添加量に応じて、加速度的に発生し易くなってしまう。
【0011】
一方で、本願発明者の研究によれば、液晶層に対するヒンダードフェノール系添加剤の
添加量が0.5重量パーセントである場合には、液晶層に含まれる液晶の種類によらず、
表示画像における焼き付きの程度を、全く或いは殆ど視覚できない程度に抑えることが可
能であると判明している。具体的には、30分焼き付き(即ち、30分間所定の画像を表
示させた後に、他の画像へと切替えた際の焼き付き)の測定において、焼き付き前に表示
されていた矩形パターンの4辺全てが視覚できない程度に、焼き付きを抑えることができ
る。言い換えれば、液晶層に対するヒンダードフェノール系添加剤の添加量が、0.5重
量パーセントを超えてしまうと、液晶の種類によっては、表示画像における焼き付きが視
覚されてしまうおそれがある。特に、液晶層に対するヒンダードフェノール系添加剤の添
加量が1.0重量パーセントを超えてしまうと、殆どの液晶において、表示画像における
焼き付きが視覚されてしまう。
【0012】
しかるに本発明では、上述したように、上述したヒンダードフェノール系添加剤が、液
晶層に対して、0.5重量パーセント以下となるように添加されているため、表示画像に
おける焼き付きを防止しつつ、耐光性を高めることができる。また、液晶の種類によって
は、ヒンダードフェノール系添加剤の添加量が1.0重量パーセント以内とすることでも
、上述した効果を相応に得ることが可能である。
【0013】
尚、表示画像における焼き付きの発生し易さは、例えば液晶層の屈折率異方性や誘電率
異方性等に応じて変化する。よって、このような液晶層における各種パラメーターの具体
的な値が分かっている場合には、それらに基づいて、0.5重量パーセント以下となる範
囲内で最も適切な添加量の値を求めることができる。
【0014】
以上説明したように、本発明の液晶装置によれば、耐光性を向上させると共に、高品質
な画像を表示することが可能である。
【0015】
本発明の液晶装置の一態様では、前記液晶層は、ツイステッドネマチック液晶を含んで
おり、屈折率異方性が0.14〜0.16、且つ誘電率異方性が9〜12の範囲内である

【0016】
この態様によれば、液晶層はツイステッドネマチック液晶(以下、適宜「TN液晶」と
称する。)を含んでいる。即ち、本態様に係る液晶層は、誘電異方性が正であるポジ液晶
である。本態様では特に、液晶層の屈折率異方性が0.14〜0.16とされており、且
つ液晶層の誘電率異方性が9〜12の範囲内とされている。
【0017】
本願発明者の研究によれば、ポジ液晶を含む液晶層の屈折率異方性及び誘電率異方性を
夫々上記範囲内の値とすることで、ヒンダードフェノール系添加剤の添加量を0.5重量
パーセント以下となるように添加した場合に、確実に焼き付きを防止することができるこ
とが判明している。即ち、表示画像における焼き付きの程度を、全く或いは殆ど視覚でき
ない程度に抑えることが可能となる。従って、耐光性を向上させると共に、高品質な画像
を表示することが可能である。
【0018】
本発明の液晶装置の他の態様では、前記液晶層は、垂直配向型液晶を含んでおり、屈折
率異方性が0.135〜0.15、且つ誘電率異方性が−4〜−7の範囲内である。
【0019】
この態様によれば、液晶層は垂直配向型液晶(以下、適宜「VA液晶」と称する。)を
含んでいる。即ち、本態様に係る液晶層は、誘電異方性が負であるネガ液晶である。本態
様では特に、液晶層の屈折率異方性が0.135〜0.15とされており、且つ液晶層の
誘電率異方性が−4〜−7の範囲内とされている。
【0020】
本願発明者の研究によれば、ネガ液晶を含む液晶層の屈折率異方性及び誘電率異方性を
夫々上記範囲内の値とすることで、ヒンダードフェノール系添加剤の添加量を0.5重量
パーセント以下となるように添加した場合に、確実に焼き付きを防止することができるこ
とが判明している。即ち、表示画像における焼き付きの程度を、全く或いは殆ど視覚でき
ない程度に抑えることが可能となる。従って、耐光性を向上させると共に、高品質な画像
を表示することが可能である。
【0021】
本発明の液晶装置の他の態様では、前記ヒンダードフェノール系添加剤は、前記液晶層
における焼き付きが生じている部分と、焼き付きが生じていない部分との照度比に基づい
て算出される焼き付き率が、所定の値以下となるように添加されている。
【0022】
この態様によれば、液晶層に対するヒンダードフェノール系添加剤の添加量が、液晶層
の焼き付き率が所定の値以下となるように設定されている。焼き付き率は、焼き付きの発
生し易さを示す値であり、液晶層における焼き付きが生じている部分と、焼き付きが生じ
ていない部分との照度比に基づいて算出される。即ち、本来であれば同じ照度となるべき
2つの部分の照度を比較することによって、焼き付きの発生し易さを求めている。
【0023】
尚、ここでの「焼き付き」とは、同じ画像を表示し続けることによって、意図すべき輝
度又は色調が表示できなくなる現象を指している。このような焼き付きは、例えば液晶層
において所定のパターンを一定時間表示させた後、全黒又は全白の画像を表示することで
測定することが可能である。即ち、全黒又は全白の画像を表示させた際の照度の違いに基
づいて、焼き付きを測定することができる。
【0024】
焼き付き率は、上述したように、液晶層における焼き付きが生じている部分と、焼き付
きが生じていない部分との照度比に基づいて算出されるため、例えば照度計を用いた測定
など、比較的簡単な方法で求めることができる。よって、添加量の設定を極めて好適に行
うことができる。
【0025】
尚、焼き付き率の算出には、典型的には、上述した照度比の値以外にも、液晶層又は測
定条件についての各種パラメーターや補正係数が用いられる。また、焼き付き率に対する
閾値となる「所定の値」は、例えば実際に発生している焼き付きを目視等によって確認し
たうえで、実用上問題が無い程度の焼き付きとなるように適宜設定される。或いは、液晶
装置が実装される製品の仕様等の各種条件に基づいて設定されてもよい。
【0026】
本態様では、液晶層に対するヒンダードフェノール系添加剤の添加量が、焼き付き率が
所定の値以下となるように設定されているため、表示画像における焼き付きを、より確実
に抑制することができる。
【0027】
本発明の電子機器は上記課題を解決するために、上述した本発明の液晶装置(但し、そ
の各種態様も含む)を備える。
【0028】
本発明の電子機器によれば、上述した本発明に係る液晶装置を具備してなるので、高品
質な表示を行うことが可能な、投射型表示装置、テレビ、携帯電話、電子手帳、ワードプ
ロセッサー、ビューファインダー型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダー、ワーク
ステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルなどの各種電子機器を実現できる

【0029】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための最良の形態から明らか
にされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0031】
<液晶装置>
本実施形態に係る液晶装置について、図1から図14を参照して説明する。
【0032】
<第1実施形態>
先ず、第1実施形態に係る液晶装置の全体構成について、図1及び図2を参照して説明
する。ここに図1は、第1実施形態に係る液晶装置の全体構成を示す平面図であり、図2
は、図1のH−H´線断面図である。尚、以下の実施形態では、本発明の液晶装置の一例
である駆動回路内蔵型のTFT(Thin Film Transistor)アクティブマトリクス駆動方式
の液晶装置を例にとる。
【0033】
図1及び図2において、本実施形態に係る液晶装置では、TFTアレイ基板10と対向
基板20とが対向配置されている。TFTアレイ基板10は、例えば石英基板、ガラス基
板等の透明基板や、シリコン基板等である。対向基板20は、例えば石英基板、ガラス基
板等の透明基板である。TFTアレイ基板10と対向基板20との間には、液晶層50が
封入されている。本実施形態に係る液晶層50は、TN液晶を含んでおり、一対の配向膜
間で所定の配向状態をとる。また本実施形態に係る液晶装置では特に、耐光性を高めるた
めのヒンダードフェノール系添加剤が、液晶層50に対して、0.5重量パーセント以下
となるように添加されている。
【0034】
液晶層50に含まれる液晶分子は、例えば下記式(1)で表される。即ち、ベンゼン環
にシクロヘキシル環が結合された構造である。尚、ベンゼン環に結合している官能基X、
Y1及びY2は、例えばフッ素(F)や塩素(Cl)等である。
【0035】
【化1】

液晶層50には、例えば投射型の液晶表示装置として動作する際に、光源光等の比較的
強い光が投射されることになる。この際、ベンゼン環におけるベンジル位では特に、光励
起によるラジカル反応が開始され、そのベンジル位から反応が連鎖的に進行してしまう可
能性が高い。
【0036】
仮に、ベンゼン環におけるベンジル位においてラジカル反応が発生し、反応が連鎖的に
進行したとすると、液晶層50における不純物質が増加し、表示特性が劣化してしまう。
この場合、例えば表示される画像にはムラが生じ、画質の低下を招いてしまうおそれがあ
る。液晶層50に添加されているヒンダードフェノール系添加剤は、上述したような反応
を抑制することによって、液晶層50の耐光性を高める役割を果たしている。
【0037】
TFTアレイ基板10と対向基板20とは、複数の画素電極が設けられた画像表示領域
10aの周囲に位置するシール領域に設けられたシール材52により相互に接着されてい
る。シール材52は、両基板を貼り合わせるための、例えば紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂
等からなり、製造プロセスにおいてTFTアレイ基板10上に塗布された後、紫外線照射
、加熱等により硬化させられたものである。シール材52中には、TFTアレイ基板10
と対向基板20との間隔(即ち、基板間ギャップ)を所定値とするためのグラスファイバ
ー或いはガラスビーズ等のギャップ材が散布されている。尚、ギャップ材を、シール材5
2に混入されるものに加えて若しくは代えて、画像表示領域10a又は画像表示領域10
aの周辺に位置する周辺領域に、配置するようにしてもよい。
【0038】
シール材52が配置されたシール領域の内側に並行して、画像表示領域10aの額縁領
域を規定する遮光性の額縁遮光膜53が、対向基板20側に設けられている。尚、このよ
うな額縁遮光膜53の一部又は全部は、TFTアレイ基板10側に内蔵遮光膜として設け
られてもよい。
【0039】
周辺領域のうち、シール材52が配置されたシール領域の外側に位置する領域には、デ
ータ線駆動回路101及び外部回路接続端子102がTFTアレイ基板10の一辺に沿っ
て設けられている。走査線駆動回路104は、この一辺に隣接する2辺に沿い、且つ、額
縁遮光膜53に覆われるようにして設けられている。更に、このように画像表示領域10
aの両側に設けられた二つの走査線駆動回路104間をつなぐため、TFTアレイ基板1
0の残る一辺に沿い、且つ、額縁遮光膜53に覆われるようにして複数の配線105が設
けられている。
【0040】
TFTアレイ基板10上における対向基板20の4つのコーナー部に対向する領域には
、両基板間を上下導通材107で接続するための上下導通端子106が配置されている。
これらにより、TFTアレイ基板10と対向基板20との間で電気的な導通をとることが
できる。
【0041】
図2において、TFTアレイ基板10上には、駆動素子である画素スイッチング用のT
FTや走査線、データ線等の配線が作り込まれた積層構造が形成される。この積層構造の
詳細な構成については図2では図示を省略してあるが、この積層構造の上に、ITO(In
dium Tin Oxide)等の透明材料からなる画素電極9aが、画素毎に所定のパターンで島状
に形成されている。
【0042】
画素電極9aは、対向電極21に対向するように、TFTアレイ基板10上の画像表示
領域10aに形成されている。TFTアレイ基板10における液晶層50の面する側の表
面、即ち画素電極9a上には、配向膜16が画素電極9aを覆うように形成されている。
【0043】
対向基板20におけるTFTアレイ基板10との対向面上には、遮光膜23が形成され
ている。遮光膜23は、例えば対向基板20における対向面上に平面的に見て、格子状に
形成されている。対向基板20において、遮光膜23によって非開口領域が規定され、遮
光膜23によって区切られた領域が、例えばプロジェクター用のランプや直視用のバック
ライトから出射された光を透過させる開口領域となる。尚、遮光膜23をストライプ状に
形成し、該遮光膜23と、TFTアレイ基板10側に設けられたデータ線等の各種構成要
素とによって、非開口領域を規定するようにしてもよい。
【0044】
遮光膜23上には、ITO等の透明材料からなる対向電極21が複数の画素電極9aと
対向するように形成されている。また遮光膜23上には、画像表示領域10aにおいてカ
ラー表示を行うために、開口領域及び非開口領域の一部を含む領域に、図2には図示しな
いカラーフィルターが形成されるようにしてもよい。対向基板20の対向面上における、
対向電極21上には、配向膜22が形成されている。
【0045】
尚、図1及び図2に示したTFTアレイ基板10上には、上述したデータ線駆動回路1
01、走査線駆動回路104等の駆動回路に加えて、画像信号線上の画像信号をサンプリ
ングしてデータ線に供給するサンプリング回路、複数のデータ線に所定電圧レベルのプリ
チャージ信号を画像信号に先行して各々供給するプリチャージ回路、製造途中や出荷時の
当該液晶装置の品質、欠陥等を検査するための検査回路等を形成してもよい。
【0046】
次に、本実施形態に係る液晶装置の液晶層に添加されているヒンダードフェノール系添
加剤の耐光性に対する効果について、図3から図5を参照して、詳細に説明する。ここに
図3は、実験に用いたTN液晶の各種パラメーターを示す表である。また図4は、TN液
晶におけるヒンダードフェノール系添加剤の添加量と耐光性との関係を示す表であり、図
5は、TN液晶におけるヒンダードフェノール系添加剤の添加量と耐光性との関係を示す
グラフである。
【0047】
図3に示すように、以下では、Δn(即ち、屈折率異方性)、Δε(即ち、誘電率異方
性)が夫々異なる3種類のTN液晶A、B及びCについての実験結果をもとに説明する。
尚、Δndはリターデーションの値であり、液晶A、B及びC共に、0.45となるよう
に調整されている。また、ツイスト角及びツイスト方向についても、液晶A、B及びC共
に同じであるとする。
【0048】
図4及び図5に示すように、液晶A、B及びCの各々にヒンダードフェノール系添加剤
(以下適宜、単に「添加剤」と称する。)を添加すると、添加量が増加するに従って夫々
耐光性が向上する。尚、ここでの「耐光性」は、青色光を連続して投射した場合に、表示
される画像のコントラストが30%低下するまでの時間を基準に算出されており、添加剤
を添加していない場合に対する割合を示す値である。具体的には、例えば液晶Aに添加剤
を0.1重量パーセント添加した場合を見てみると、耐光性が“1.2”となっている。
これは、添加剤を加えない場合と比べて、画像のコントラストが30%添加するまでの時
間が1.2倍となったことを示している。
【0049】
次に、本実施形態に係る液晶装置の液晶層に添加されているヒンダードフェノール系添
加剤の焼き付きへの影響について、図6から図9を参照して、詳細に説明する。ここに図
6は、焼き付き測定に用いられる各種機器を示す側面図であり、図7は、焼き付き測定の
際に表示されるパターンを照度計と共に示す平面図である。また図8は、TN液晶におけ
るヒンダードフェノール系添加剤の添加量と焼き付き率との関係を示す表であり、図9は
、TN液晶におけるヒンダードフェノール系添加剤の添加量と焼き付き率との関係を示す
グラフである。
【0050】
図6において、本願発明者は、本実施形態に係る液晶装置を備える投影機510を用い
て、液晶装置の焼き付き率の測定を行った。具体的には、投影機510に信号発生器52
0から信号を送ることで、スクリーン530に所定のパターンを表示させつつ、照度計5
40で表示されたパターンの照度を測定し、その測定結果から焼き付き率を算出した。
【0051】
図7に示すように、焼き付き率の測定時には、先ずスクリーン530上に、黒い背景中
に白い矩形を含むパターンを表示する。照度計540は、上側照度計541及び下側照度
計542を備えており、黒い背景部分及び白い矩形部分の照度を別々に測定可能とされて
いる。続いて、所定期間(例えば30分)経過後にスクリーン530に全黒或いは全白の
画像を表示する。即ち、黒い背景部分を白表示へと変更する、或いは白い矩形部分を黒表
示へと変更する。このような動作を行った際に、上側照度計541及び下側照度計542
によって夫々測定された照度の比から、焼き付き率を測定する。
【0052】
尚、焼き付き率は、表示画像における焼き付きの発生し易さを示す値であり、具体的に
は、焼き付き率Yは、焼き付き前上下照度比K(即ち、焼き付き前の下側照度を焼き付き
前の上側照度で割った値)及び焼き付き後上下照度比K´(即ち、焼き付き後の下側照度
を焼き付き後の上側照度で割った値)を用いて、以下の数式(1)で表すことができる。
【0053】
Y=K´/K−1 ・・・(1)
図8及び図9に示すように、表示画像の焼き付き率は、添加剤の添加量が増加するに従
って上昇する。即ち、添加量が増加する程、焼き付きが生じ易くなってしまう。焼き付き
率は特に、図9からも分かるように、添加剤の量が増加するに従って、加速度的に上昇す
る。一方、耐光性に関しては、図5に示したように、比較的緩やかな上昇となる。よって
、添加量を増やし過ぎると、耐光性を向上させるという効果よりも、焼き付きが生じ易く
なるという効果が高くなってしまうことになる。
【0054】
本願発明者の研究によれば、焼き付き率が3%を超えてしまうと、図7に示したような
パターンを全黒或いは全白に切替えた際に、矩形部分の4辺が視覚されてしまう程に焼き
付きが生じてしまうことが分かっている。よって、焼き付き率が3%を超えるような場合
には、実用上問題が生じてしまうおそれがある。
【0055】
ここで本実施形態に係る液晶装置では特に、上述したように、ヒンダードフェノール系
添加剤が、液晶層50に対して、0.5重量パーセント以下となるように添加されている
。即ち、本実施形態では、添加剤の耐光性への寄与及び焼き付き率への寄与を総合的に勘
案して、焼き付き率が高くなり過ぎないように、添加剤の添加量が設定されている。
【0056】
図8及び図9で示したように、添加剤の添加量が0.5重量パーセントである場合には
、液晶A、B及びCの全てにおいて、焼き付き率が3%以下となる。一方、添加剤の添加
量が1.0重量パーセントである場合には、液晶Aの焼き付き率が3%となり、液晶B及
びCの焼き付き率は3%を超えてしまう。よって、添加剤を、液晶層50に対して、0.
5重量パーセント以下となるように添加すれば、焼き付きを実用上問題ない程度に抑えつ
つ、耐光性を向上させることができる。また、液晶の種類が、上述した液晶Aのように、
1.0重量パーセントの添加剤を添加した際の焼き付き率が3%となるようなものである
場合には、添加量を1.0重量パーセント以内とすることによっても、相応に効果を得る
ことができる。
【0057】
尚、焼き付き率をより重視する場合には、基準となる焼き付き率を3%より小さい値に
設定し、添加剤が、0.5重量パーセントより更に小さい値となるように添加されればよ
い。即ち、閾値となる焼き付き率を適宜変更することによって、添加量を調整することが
可能である。このような添加量の調整は、例えば上述した実験結果に基づいて行うことが
できる。
【0058】
以上説明したように、第1実施形態に係る液晶装置によれば、耐光性を向上させると共
に、高品質な画像を表示することが可能である。
【0059】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る液晶装置について、図10から図14を参照して説明する。
ここに図10は、実験に用いたVA液晶の各種パラメーターを示す表である。また図11
は、VA液晶におけるヒンダードフェノール系添加剤の添加量と耐光性との関係を示す表
であり、図12は、VA液晶におけるヒンダードフェノール系添加剤の添加量と耐光性と
の関係を示すグラフである。更に図13は、VA液晶におけるヒンダードフェノール系添
加剤の添加量と焼き付き率との関係を示す表であり、図14は、VA液晶におけるヒンダ
ードフェノール系添加剤の添加量と焼き付き率との関係を示すグラフである。
【0060】
尚、第2実施形態は、上述の第1実施形態と比べて、液晶層に含まれる液晶の種類が異
なり、その他の構成については概ね同様である。このため第2実施形態では、第1実施形
態と異なる部分について詳細に説明し、その他の重複する部分については適宜説明を省略
する。
【0061】
第2実施形態に係る液晶装置では、液晶層50(図2参照)に含まれる液晶がVA液晶
とされている。即ち、上述した第1実施形態では、誘電率異方性が正の値となるポジ液晶
が用いられているのに対して、第2実施形態では、誘電率異方性が負の値となるネガ液晶
が用いられている。
【0062】
図10に示すように、以下では、屈折率異方性Δn、誘電率異方性Δεが夫々異なる3
種類のVA液晶D、E及びFについての実験結果をもとに説明する。尚、リターデーショ
ンΔndは、液晶D、E及びF共に、0.25となるように調整されている。
【0063】
図11及び図12に示すように、液晶D、E及びFの各々にヒンダードフェノール系添
加剤を添加すると、添加量が増加するに従って夫々耐光性が向上する。この際の耐光性の
上昇率は、図5及び図12を互いに見比べて分かるように、上述した第1実施形態と概ね
同様となる。即ち、液晶層50の耐光性は、一次関数に近い直線を描くように、比較的緩
やかに上昇する。
【0064】
一方、図13及び図14に示すように、表示画像の焼き付き率も、添加剤の添加量が増
加するに従って上昇する。即ち、添加量が増加する程、焼き付きが生じ易くなってしまう
。焼き付き率の上昇率についても、図9及び図14を互いに見比べて分かるように、上述
した第1実施形態と概ね同様となる。即ち、二次曲線を描くように、加速度的に上昇する
。よって、液晶層50がVA液晶を含む場合であっても、添加量を増やし過ぎると、耐光
性を向上させるという効果よりも、焼き付きが生じ易くなるという効果が高くなってしま
う。
【0065】
ここで第2実施形態に係る液晶装置では特に、上述した第1実施形態と同様に、ヒンダ
ードフェノール系添加剤が、液晶層50に対して、0.5重量パーセント以下となるよう
に添加されている。
【0066】
図13及び図14で示したように、添加剤の添加量が0.5重量パーセントである場合
には、液晶D、E及びFの全てにおいて、焼き付き率が3%以下となる。一方、添加剤の
添加量が1.0重量パーセントである場合には、液晶D及びEの焼き付き率が3%以下と
なるものの、液晶Fの焼き付き率は3%を超えてしまう。よって、添加剤を、液晶層50
に対して、0.5重量パーセント以下となるように添加すれば、焼き付きを実用上問題な
い程度に抑えつつ、耐光性を向上させることができる。また、液晶の種類が、上述した液
晶D及びEのように、1.0重量パーセントの添加剤を添加した際の焼き付き率が3%以
下となるようなものである場合には、添加量を1.0重量パーセント以内とすることによ
っても、相応に効果を得ることができる。
【0067】
以上説明したように、第2実施形態に係る液晶装置によれば、上述した第1実施形態と
同様に、耐光性を向上させると共に、高品質な画像を表示することが可能である。
【0068】
<電子機器>
次に、上述した液晶装置を各種の電子機器に適用する場合について説明する。ここに図
15は、プロジェクターの構成例を示す平面図である。以下では、この液晶装置をライト
バルブとして用いたプロジェクターについて説明する。
【0069】
図15に示されるように、プロジェクター1100内部には、ハロゲンランプ等の白色
光源からなるランプユニット1102が設けられている。このランプユニット1102か
ら射出された投射光は、ライトガイド1104内に配置された4枚のミラー1106及び
2枚のダイクロイックミラー1108によってRGBの3原色に分離され、各原色に対応
するライトバルブとしての液晶パネル1110R、1110B及び1110Gに入射され
る。
【0070】
液晶パネル1110R、1110B及び1110Gの構成は、上述した液晶装置と同等
であり、画像信号処理回路から供給されるR、G、Bの原色信号でそれぞれ駆動されるも
のである。そして、これらの液晶パネルによって変調された光は、ダイクロイックプリズ
ム1112に3方向から入射される。このダイクロイックプリズム1112においては、
R及びBの光が90度に屈折する一方、Gの光が直進する。従って、各色の画像が合成さ
れる結果、投射レンズ1114を介して、スクリーン等にカラー画像が投写されることと
なる。
【0071】
ここで、各液晶パネル1110R、1110B及び1110Gによる表示像について着
目すると、液晶パネル1110Gによる表示像は、液晶パネル1110R、1110Bに
よる表示像に対して左右反転することが必要となる。
【0072】
尚、液晶パネル1110R、1110B及び1110Gには、ダイクロイックミラー1
108によって、R、G、Bの各原色に対応する光が入射するので、カラーフィルターを
設ける必要はない。
【0073】
尚、図15を参照して説明した電子機器の他にも、モバイル型のパーソナルコンピュー
タや、携帯電話、液晶テレビや、ビューファインダー型、モニタ直視型のビデオテープレ
コーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電卓、ワードプロセッサー
、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた装置等が挙げら
れる。そして、これらの各種電子機器に適用可能なのは言うまでもない。
【0074】
また、本発明は上述の各実施形態で説明した液晶装置以外にも反射型液晶装置(LCO
S)、プラズマディスプレイ(PDP)、電界放出型ディスプレイ(FED、SED)、
有機ELディスプレイ、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)、電気泳動装置等に
も適用可能である。
【0075】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体
から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような
変更を伴う液晶装置、及び該液晶装置を備えた電子機器もまた本発明の技術的範囲に含ま
れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】第1実施形態に係る液晶装置の全体構成を示す平面図である。
【図2】図1のH−H´線断面図である。
【図3】実験に用いたTN液晶の各種パラメーターを示す表である。
【図4】TN液晶におけるヒンダードフェノール系添加剤の添加量と耐光性との関係を示す表である。
【図5】TN液晶におけるヒンダードフェノール系添加剤の添加量と耐光性との関係を示すグラフである。
【図6】焼き付き測定に用いられる各種機器を示す側面図である。
【図7】焼き付き測定の際に表示されるパターンを照度計と共に示す平面図である。
【図8】TN液晶におけるヒンダードフェノール系添加剤の添加量と焼き付き率との関係を示す表である。
【図9】TN液晶におけるヒンダードフェノール系添加剤の添加量と焼き付き率との関係を示すグラフである。
【図10】実験に用いたVA液晶の各種パラメーターを示す表である。
【図11】VA液晶におけるヒンダードフェノール系添加剤の添加量と耐光性との関係を示す表である。
【図12】VA液晶におけるヒンダードフェノール系添加剤の添加量と耐光性との関係を示すグラフである。
【図13】VA液晶におけるヒンダードフェノール系添加剤の添加量と焼き付き率との関係を示す表である。
【図14】VA液晶におけるヒンダードフェノール系添加剤の添加量と焼き付き率との関係を示すグラフである。
【図15】液晶装置を適用した電子機器の一例たるプロジェクターの構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0077】
10…TFTアレイ基板、10a…画像表示領域、16…配向膜、20…対向基板、3
0…TFT、50…液晶層、101…データ線駆動回路、102…外部回路接続端子、1
04…走査線駆動回路、510…投影機、520…信号発生器、530…スクリーン、5
40…照度計、541…上側照度計、542…下側照度計、1100…プロジェクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を投射することによって画像を表示する液晶装置であって、
前記光の投射される位置に配置された液晶層と、
該液晶層に添加されており、前記光に対する耐性を高めるためのヒンダードフェノール
系添加剤と
を備え、
前記ヒンダードフェノール系添加剤は、前記液晶層に対して、0.5重量パーセント以
下となるように添加されている
ことを特徴とする液晶装置。
【請求項2】
前記液晶層は、ツイステッドネマチック液晶を含んでおり、屈折率異方性が0.14〜
0.16、且つ誘電率異方性が9〜12の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載
の液晶装置。
【請求項3】
前記液晶層は、垂直配向型液晶を含んでおり、屈折率異方性が0.135〜0.15、
且つ誘電率異方性が−4〜−7の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の液晶装
置。
【請求項4】
前記ヒンダードフェノール系添加剤は、前記液晶層における焼き付きが生じている部分
と、焼き付きが生じていない部分との照度比に基づいて算出される焼き付き率が、所定の
値以下となるように添加されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記
載の液晶装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の液晶装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−144116(P2010−144116A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325113(P2008−325113)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】