説明

液状膨張材

【課題】 水和膨張性の混和材に見られる(1)調合作業時に粉塵化し易い、(2)吸湿性が非常に高く長期保存に難がある、(3)注水後に分散化し難い、等の問題が無く、高い膨張性能が得られ、且つ膨張性能の変動が生じ難い液状膨張材を提供する。
【解決手段】 遊離生石灰を有効成分とする粒子であって、表面に水酸化カルシウム(CH)と水酸化マグネシウム(MH)が重量比(MH/CH)で0.01〜0.1の被覆層を有する粒子100重量部と、酸化カルシウムに実質不活性な有機液30〜100重量部を含有してなる液状膨張材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に水硬性のセメント系材料に加えて硬化・乾燥時の収縮を抑制するための液状膨張材に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントペースト、モルタル、コンクリートなどの水硬性のセメント系材料製造時に、硬化時の収縮や乾燥時の収縮を抑制するために混和される膨張材は、例えばカルシウムサルホアルミネートなどのエトリンガイト鉱物形成物質、遊離生石灰含有物質などが実用化されている。これらの膨張材は本質的には水和反応活性が高い粉体であるため、(1)調合作業時に粉塵化し易い、(2)吸湿性が非常に高く長期保存に難がある、(3)注水後に分散化し難い等の問題がある。一方、水和膨張性物質の中でも生石灰は非常に高い膨張性を有するため、セメント系材料に対し少量の混和でも高い収縮抑制効果が得られる。反面、水和反応活性も著しく高く、且つ強アルカリのため、前記(1)〜(3)の問題については他の水和膨張性物質よりも深刻である。特に、(3)の問題では注水時に混練を十分行っても、注水直後から水和反応が急激に起り、生成した水和物で粒子間が架橋されて凝集するために分散化し難く、分散不十分なモルタルやコンクリートでは表面にポップアウトと呼ばれる局所的な膨張破壊による欠陥が生じる。水和膨張性物質に特定量の水酸化カルシウムを含有させると過激な水和反応が抑制され、分散性も改善されてポップアウトが防げることが知られている。(例えば、特許文献1参照。)この場合、水酸化カルシウムの含有方法によって、以下の問題が生じる虞がある。即ち、最も簡易な生石灰系膨張物質を大気中に放置し、吸湿させて表層から水酸化物を形成させる方法では、前記(2)から水酸化カルシウム生成量のコントロールが行い難く、生産規模では膨張性能を始めとする品質の安定した膨張材を得るには適さない。また、水和膨張性粉末に水酸化カルシウム粉を添加混合する方法では、入念に混合調整を行っても注水時に水が水和膨張性粉末と直接反応すること自体は阻止できないため、凝集抑制効果は高くない。また、生石灰系膨張物質に所定量の水を添加し、水酸化カルシウムを形成させる方法では、添加水によって膨張物質からなる粉末粒子が凝集する傾向があり、これを再分散させるための処理が必要になる。液状の膨張材であれば前記(1)〜(3)のような問題は解消又は軽減される可能性があるが、少なくとも常温で液体である水和膨張性の化学物質は日常入手可能な範囲では知られていない。従って、固型の水和膨張性物質をスラリー化することで実用性のある液状膨張材を得ることになるが、その水和反応活性の高さから水系の液体は使用が甚だ難しく、膨張性の粉末物質を非水系液体でスラリー化する手法が検討されている。(例えば、特許文献2参照。)しかるに、高い水和反応活性を呈する生石灰系膨張物質を単に非水系液体でスラリー化しても、当該スラリーを混和したセメント系材料に注水すると、初期の急激な水和反応は殆ど抑制されない。このため注水以前は分散されていた膨張物質が凝集することがあり、(3)の問題に対する顕著な改善効果を得ることは困難である。この問題解消のために、従前の如く水酸化カルシウムを含有させた生石灰系膨張物質を用い、これをスラリー化しても、水酸化カルシウム含有による前述のような品質面や製造作業面での問題が残る。
【特許文献1】特開平11−302047号公報
【特許文献2】特開2002−226243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、前記問題点の解決を図るものであり、即ち、前記(1)〜(3)の問題を生じることなく、高い膨張性能が得られ、且つ膨張性能の変動が生じ難い液状膨張材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記課題の解決のために、水和膨張性物質として、高い膨張性を有する遊離生石灰を有効成分とする粒子を用い、該粒子を水和活性が極めて乏しい水酸化カルシウムと、水酸化カルシウム及び酸化カルシウムよりも著しく溶解度が低く、セメントの凝結性を阻害することのない水酸化マグネシウムとで被覆し、当該被覆粒子をスラリー化することで、注水後の水和反応による水和物析出による粒子間架橋構造形成を阻止し、膨張性状に支障を及ぼすことなく優れた分散性が確保でき、前記(1)〜(3)の問題点も解消されることから本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は、遊離生石灰を有効成分とする粒子であって、表面に水酸化カルシウム(CH)と水酸化マグネシウム(MH)が重量比(MH/CH)で0.01〜0.1の被覆層を有する粒子100重量部と、酸化カルシウムに実質不活性な有機液30〜100重量部を含有してなる液状膨張材である。また本発明は、水酸化カルシウムと水酸化マグネシウムの被覆層が粒子の1〜10重量%である前記の液状膨張材である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、分散性に著しく優れ、短時間の混合でも十分な混合効果が得られ、高い膨張性を付与できる膨張材が得られる。しかも、この膨張材は長期保存に適し、また膨張性能を始めとする性状発現のバラツキが殆ど無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の液状膨張材で使用する膨張成分は、水和膨張物質である遊離生石灰を有効成分とするもので、好ましくは酸化カルシウム又は主要生成相が遊離生石灰のクリンカ組成物である。このうちクリンカ組成物は、例えば石灰石、石膏等を原料とし、これをおよそ1000〜1600℃で焼成して得られるもので、主要生成相として遊離生石灰が存在するものならば、他の生成物は特に限定されず、例えばカルシウムシリケート、硫酸カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノシリケート、カルシウムフェライト、カルシウムアルミノフェライト、アーウィン等が共存しても良い。該クリンカ組成物中の遊離生石灰含有量は好ましくは40重量%以上100重量%未満とする。40重量%未満では高い膨張発現性が得られないことがある。また、酸化カルシウム(CaO)は、高純度に精製された試薬に限らず、例えば天然石灰石を焼成するなど通常の工業的手段で得られるものも好適に使用でき、従って、通常見られ得る程度での不純物の混入は許容される。より好ましくは苦灰岩質石灰岩の焼成物のように酸化マグネシウムを概ね1〜10重量%程度含有する生石灰が良い。本発明ではこのような膨張成分に粉末粒子を用い、これを液中に分散させて液状化するため、粉砕・分級等の整粒処理を行い、平均粒径を、5〜50μmにするのが好ましい。平均粒径5μm未満ではセメントの凝結進行前に膨張力が発現され、高い膨張発現性が得られないことがあり、また50μmを超えると膨張成分が疎らな分散状態となり、また液状膨張材使用時の注水後も粒子内部に長期間に渡って未反応部分が残存し易くなるため、ポップアウト等を起こすことがある。
【0008】
本発明の液状膨張材では、水和膨張性の遊離生石灰を有効成分とする粒子を液状化に処したものであり、該粒子はその表面に水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムの被覆層を有するものとする。被覆層中の水酸化カルシウムと水酸化マグネシウムの量は、水酸化カルシウム(CH)と水酸化マグネシウム(MH)の重量比(MH/CH)が0.01〜0.1の関係を充当するものであれば良い。重量比(MH/CH)が0.01未満では注水後の粒子凝集抑制効果が得られず、また重量比が0.1を超えると水和膨張成分の水和反応が過度に抑制されたり、強度低下を引き起こすこともあるので好ましくない。各粒子に占める被覆層量は特に制限されるものではないが、好ましくは被覆層を含む粒子の約1〜10重量%とする。1重量%未満では膨張発現時期や膨張力等の膨張特性のバラツキが解消し難くなり、また10重量%を超えると相対的に水和膨張成分量が低下し、所望の膨張量が確保し難くなることもある。また、被覆層は水酸化カルシウムと水酸化マグネシウムのみからなるものが好ましいが、本発明の効果を喪失させない範囲でカルシウムとマグネシウムの水酸化物以外の成分が含まれても良く、例えば被覆層の0.5重量%程度までが炭酸カルシウム、ドロマイト、水に不活性な他の成分を含むものでも良い。
【0009】
遊離生石灰を有効成分とする粒子に水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムの被覆層を形成する手段は何等限定されない。例えば、酸化カルシウム粒子に微粉の酸化マグネシウムを添加混合したものや酸化マグネシウムを約1〜10重量%含む酸化カルシウム粒子に、例えば噴霧器等を用いて水を散水しながら混合すれぱ水酸化カルシウムと水酸化マグネシウムが共存する被覆層を容易に形成することができる。このような方法では、水の散水量とカルシウムやマグネシウムの水酸化物の生成量は、およそ10重量%までの水酸化物の生成までは、概ね比例関係が認められることから、望ましくは遊離生石灰を有効成分とする粒子の1〜10重量%が水酸化物となるよう水の散水量を適宜定めれば良い。
【0010】
また、被覆処理した水和膨張成分を液状化するために使用する有機液は、実質的に酸化カルシウムに不活性なもので、少なくとも常温で液体であれば特に限定されない。実質的に酸化カルシウムに不活性とは、必ずしも完全に不活性である必要は無く、酸化カルシウムに対する反応作用が極めて緩慢であり、例えば常温で1ヶ月共存させても変質又は反応に供する酸化カルシウムがおよそ1重量%未満であるものを挙げることができる。望ましくは極力水分を含まないものが良い。本発明で使用可能な有機液を例示すると、常温で液体のアルコール、エーテル、油、等を挙げることができる。好ましくは、低級アルコールのアルキレンオキサイド付加物や油が膨張力が損失無く発現できるので良い。
【0011】
該有機液の使用量は遊離生石灰を有効成分とする被覆粒子100重量部に対し、30〜100重量部とする。有機液30重量部未満では十分流動性のある液状とならない可能性があるので好ましくなく、100重量部を超える有機液量では固液分離を起こすことがあり、セメント系組成物へ混和時の分散性が低下したり、有機液分過多となって凝結や強度発現性に支障を及ぼすことがあるので好ましくない。また、水和膨張成分を液状化の方法は、前記量の遊離生石灰を有効成分とする被覆粒子と有機液を、例えばパン型、二軸強制練り等の、ミキサで適宜混合すれば良い。
【0012】
また、本発明の液状膨張材は、本発明の効果に支障を及ぼさない範囲で、セメント、モルタル、コンクリートに使用できる他の混和剤・材を含むものであっても良い。このような混和剤・材としては、例えば何れも非含水又は生石灰との反応活性が著しく低い分散剤類、消泡剤、空気連行剤、収縮低減剤等を挙げることができる。
【0013】
また、本発明の液状膨張材の使用方法は特に制限されるものではなく、モルタルやコンクリートに使用されている粉体状の膨張材と概ね同様に、セメントペースト、モルタル、コンクリート等に混和使用できる。混和量は任意に定めることができるが、好ましくはセメント100重量部あたり、液状膨張材として3〜15重量部程度が推奨される。
【実施例】
【0014】
[水和膨張性粒子の調整]
北海道上磯産石灰岩を約1100℃で電気炉焼成し、自然放冷した後ロッドミルでブレーン比表面積35002±200cm2/gに粉砕した。放冷〜粉砕は湿度10%以下の環境下で行った。焼成後の粉砕粒の化学分析値を表1に表す。該分析値より粉砕粒は2.5重量%の酸化マグネシウムを含み、残部は実質酸化カルシウムと見なせることが確認された。
【0015】
【表1】

【0016】
得られた酸化カルシウム粉砕粒50kgをレーディゲミキサに移し、蒸留水を蓄圧式噴霧器を用いて噴霧添加しながら約2分間混合を行った。蒸留水の噴霧添加量は混合物100重量部に対し、0、0.3、1.0、2.0重量部の何れかで行い、表2に表す。蒸留水添加混合後の粒子は30日間デシケーター中に放置した。放置後の粒子を熱重量分析で定量分析した結果、新たに水酸化マグネシウム(MH)と水酸化カルシウム(CH)が生成されていることが確認され、粒子中に占める水酸化物の生成割合と水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの生成量比(MH/CH)は表2に表す値となった。尚、参考のため酸化マグネシウムを含まない酸化カルシウム粒子(市販試薬、純度99.9%)についても前記と同様の蒸留水噴霧添加処理を行って、水酸化カルシウムで被覆した酸化カルシウム粒子(A0)を得た。
【0017】
【表2】

【0018】
[液状混和材の作製]
以下に記す液体(B1〜B8)5.0kgを容量18リットルのベール缶に入れ、表1記載の粒子(A1〜A4及びA0)を粒子100重量部に対する液体の重量が表3に表す配合となるようベール缶中の液体に約30秒間かけて投入し、次いで5分間ハンドミキサーで撹拌し、液状混和材(C1〜C10及びC11〜C15)を作製した。また、液体に加えていない乾粉状の混和材(C16)も参考のため作製した。尚、液状混和材作製時の温度は何れも20±1℃とした。
B1;大豆油(市販品、水分含有率0%)
B2;低級アルコールのアルキレンオキサイド付加物(太平洋マテリアル株式会社製テトラガードAS20、水分含有率0%)
B3;菜種油(市販品、水分含有率0%)
B4;オレイン酸(市販試薬、水分含有率0%)
B5;リノール酸(市販試薬、水分含有率0%)
B6;大豆油とパーム油の等重量混合油(市販品、水分含有率0%)
B7;水道水
【0019】
【表3】

【0020】
[液状混和材の評価]
細骨材(小倉南区産砕砂と壱岐郡郷ノ浦海砂を3:7の重量比で混合したもの)300重量部、普通ポルトランドセメント(太平洋マテリアル株式会社製)100重量部及び水50重量部からなる配合のベースモルタルに、前記作製の液状混和材(C1〜C15)を8重量部又は乾粉状の混和材(C16)を5重量部を加え、総量約1リットルとしたものをホバートミキサで低速混合した。混合時間は0.5〜10分の範囲で表3に記す時間を設定した。混合物は直ちに内寸4×4×16cmの型枠に流し込み、16時間後に脱型しモルタル組成物からなる供試体を作製した。脱型直後の供試体の形状寸法を初期長さとして測定し、該供試体を7日間20℃で水中養生した後、再度同一箇所の長さを測定した。初期長さと水中養生後の長さから使用液状混和材毎の供試体の膨張率を算出した。又、膨張量のバラツキ(変動)は使用液状混和材毎に15個の供試体を作製し、その膨張率の標準偏差;Eと平均値;Sの比;R(=E/S)より変動率;M(=100×R)を算出し、この値を以て変動し難さを評価した。即ち、Mの値が小さい程、バラツキが少ないと評価される。(M=0ならバラツキ発生皆無。)
【0021】
【表4】

【0022】
表4より、本発明の液状膨張材(C1〜C10)を用いた供試体(D1〜D11)は本発明外の混和材(C11〜C15)を使用した供試体(D21〜D25)と比べ何れも膨張量が大きく、本発明の液状混和材により高い膨張性能を的確に発現できたことがわかる。また、従来の粉末状の膨張材(C16)を混和させた場合(D26とD27)と比べ、膨張量のバラツキが著しく低減されていることがわかる。しかも、ベースモルタルへの分散性に著しく優れ、粉末状の膨張材を混和使用した場合よりも短時間の混合で十分な混合効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離生石灰を有効成分とする粒子であって、表面に水酸化カルシウム(CH)と水酸化マグネシウム(MH)が重量比(MH/CH)で0.01〜0.1の被覆層を有する粒子100重量部と、酸化カルシウムに実質不活性な有機液30〜100重量部を含有してなる液状膨張材。
【請求項2】
水酸化カルシウムと水酸化マグネシウムの被覆層が粒子の1〜10重量%である請求項1記載の液状膨張材。