説明

混合工程のスケール方法

様々な種類の容器の混合時間の算出方法を開示する。本方法は、容器の径、インペラ径及び速度、液体の濃度及び粘度、及び液体の高さといった構成に関する情報を利用して、適切な混合時間を算出する。別の実施形態では、材料の小バッチを作成するために使用されたパラメーターが、より大きな容器サイズへのスケールアップに使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2009年5月11日に出願された米国仮出願番号NO.61/176、974に基づく優先権を主張し、その開示内容は、その全体において参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
化合物を一緒に混合して新規又は所望の結果が得られることが度々ある。例えば、緩衝液、薬品及び他の化合物が何度も組み合わされ、生物製剤の下流処理工程において工程中間生成物が生成される。例えば、幾つかの製剤においては、様々な種類の溶質を一緒に混合することが広く行われる。典型的には、電気モーターにより駆動され、容器内に配置されたインペラ群を利用した大容器内で溶質が混合される。インペラは、典型的には、特定の容器サイズ及び形状において使用されるように設計される。サイズ、形状、及びインペラの回転速度という全要因により、どれだけ早く化合物が混合されるかが決定される。
【0003】
幾つかの実施形態においては、混合の組み合わせが液体/液体であり、ここで、第1の液体が第2の液体に混合される。よくある実施例としては、塩基又は酸を溶液に導入することが挙げられる。別の特定の組み合わせは、特定の溶媒に可溶の溶質を溶かすことである。双方の場合において、2つの材料を完全に混合することが要請となる。例えば、溶液への塩基の不完全な混合により、塩基の導入箇所付近の液体のある量が残りの溶液よりも高いpHになるおそれがあり、これにより、溶液の均質性が影響する。
【0004】
溶液を均一にするという要請のため、開発者は、度々、多大な時間を費やして、溶液の均質性が均一となるのに所要の混合時間及び混合方法を決定する。この混合時間を決定する1つの方法は、実験的なテストを介して行われる。例えば、図1は、容器の上方からNaOHといった塩基が加えられた溶液の典型的なpH反応を示す。線10は、上層近傍の溶液のpHを示す。pHプローブの近くにて塩基が加えられるに応じてpHが速やかに上昇することが分かる。プローブの近くで塩基が加えられたため、実際は、測定されたpHは、塩基が完全に混合されるまでは、結果として生じたpH(塩基の非均一な濃度を示す)を上回る。約3秒及び19秒にある垂直線により、上層が正しいpHレベルに至る要求時間が規定される。線20は、容器の底近傍の溶液のpHを示す。上方近傍から塩基が加えられたため、底にあるプローブに塩基が到達するまでには時間がかかる。線10に対しての線20に見られる反応の遅れが説明できる。pHは、約10秒から上昇を開始し、約26秒にて混合が完了する。線30及び40は、同一構成を使用した第2テストであり、同様の結果が得られている。混合時間は、反応曲線における変化の開始と、表層曲線及び底曲線の各々が定常値の5%の範囲内になる時間との間の時間として定義される。この特定の実施例においては、混合時間は、各運転において約16秒である。
【0005】
大抵の場合、新しい溶液を開発する際、開発者は、非常に小さなバッチサイズを利用する。製剤が正しいと開発者が確信すると、次段階へと溶液が進む。残りの下流工程への導入のために、又は最終製品としての溶液のテストを開始するためにスケールアップしても良い。このテストは、最終製品としての溶液の生存能力及び有用性、薬品であれば忍耐の要るテスト、又は所要の基準を製品が満足するというFDAによる確認といった正式な政府による審査を包含しても良い。テストが一旦許可されると、溶液は、開発段階から製造段階へと移行し、生産段階へと導入される。
【0006】
生産段階においては、均一な溶液が多量に生産される。従って、大抵の場合、溶液の製造に用いられる、より大きい容器が必要になる。しかしながら、プロセスは、当初は、小さなバッチの生産に使用されたものであり、長大な容器に常に適するものでなければ、小スケールの混合の場合と同様に混合工程が常に反応するものでもないかもしれない。
【0007】
混合時間といった小容器用のパラメーターを大容器に適用するべく簡易に調整することは往々にして困難である。例えば、混合時間は、容器容積に対して線形的に変化するものではない。これにより製造段階に不確実性、プロセスの非再現性(検証努力を阻害する)が生じ、プロセス時間の完了が満足するものと検証するための時間量が顕著に増加してしまうかもしれない。事前規定された容器サイズ及びインペラRPMといった既知のパラメーターに基づいて、より大きな容器用の混合時間を決定する方法があれば有利であろう。更に、このプロセスによって、検証及び事前定義された小容器でのプロセスが大容器へと予測通りにスケールアップできれば有益であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
様々な種類の容器の混合時間を決定する方法を開示する本発明により従来技術の問題が解決される。本方法は、容器の径、インペラのデザイン、その径、その速度、液体の濃度、その粘度及びその他の液体の性質、加えて液体の高さ、といった構成に関する情報を活用して適切な混合時間を決定する。別の実施形態においては、材料の小バッチの作製に用いられるパラメーターが、より大きな容器サイズへのスケールアップに使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、溶液に加えられる塩基の混合時間を実証するグラフを表す。
【図2】図2は、インペラ速度及び容器サイズを関数とする混合時間を示すグラフを表す。
【図3】図3は、図2の正規化されたグラフを表す。
【図4】図4は、様々な容器サイズでのインペラRPMを関数とするP/Vを示すグラフを表す。
【図5】図5は、溶媒に加えられる溶質の溶解時間を実証するグラフを表す。
【図6】図6は、インペラ速度及び容器サイズを関数とする溶解時間を示すグラフを表す。
【図7】図7は、様々な容器サイズでのレイノルズ数を関数とする溶解時間を示すグラフを表す。
【図8】図8は、様々な容器サイズでのMPを関数とする溶解時間を示すグラフを表す。
【図9】図9は、5000L容器内の特定のミキサー(GMP20000)での予想された溶解時間を示すグラフを図示する。
【図10】図10は、MPに対してプロットされた図2の混合時間を示す。
【図11】図11は、本発明に使用され得る容器、ミキサー及びインペラを示す。
【図12】図12は、様々なインペラデザイン及び構成でのMPに対してプロットされた溶解時間のグラフを示す。
【図13】図13は、GMPシリーズのインペラの典型的実施形態である。
【図14】図14は、UMSシリーズのインペラの典型的実施形態である。
【図15】図15は、HSシリーズのインペラの典型的実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述したように、溶液の小バッチの制作に用いられたパラメーター及び混合時間は、大きな生産バッチには適さず、又は再現できないことが度々ある。
【0011】
例えば、図2は、様々な異なるサイズの容器でのインペラ速度を関数とする混合時間のグラフを示す。GMPシリーズのインペラとして知られる所定のインペラデザインを使用して全データを収集した。この図においては、NaOHといった塩基を水溶液に加え、図1に関連して説明したように混合時間を実験的に測定した。水とNaOHを使用したが、本発明は、この実施形態に限られるものではなく、他の溶液及び他の酸及び塩基を本発明に従って用いることもできる。70リットル(70L)容器が用いられる時の混合時間がダイヤモンドにより示される。250リットル(250L)容器での混合時間が四角形により示され、5000リットル(5000L)容器での時間が三角形により示される。簡易に理解されるように、この図においては、5000L容器の混合時間が、小さな容器のものよりも大分長い。しかしながら、70Lと250L容器間の混合時間の差は、概して非常に小さい。
【0012】
本開示においては、70L、 250L及び5000L容器について参照する。しかしながら、他のサイズの容器を使用しても良く、また本発明のスコープの範囲内にある。代表的な容器100を図11に示す。これらの容器の各々は、その胴中間部101に亘り概して円筒状の形状にあり、テーパー付された底端102を備える。幾つかの容器は、テーパー付された上端103を含んでも良い。他の容器は、解放された上端を有しても良い。これらのシリンダーの寸法により容器100の容積が決まる。例えば、70L容器は、約600mmの高さ(テーパー付された底端を含まない)、及び約395mmの内径を有し得る。250L容器は、約820mmの高さ(テーパー付された底端を含まない)、及び約644mmの内径を有し得る。最後に、5000L容器は、約1930mmの高さ(テーパー付された底端を含まない)、及び約1828mmの内径を有し得る。
【0013】
図11は、サンプルの構成を示す。他の同様の異なる高さと径の比率の円筒状ジオメトリーも適用する。溶質の混合のために、インペラ120を有するミキサー110を用いる。ミキサー110は、様々な回転速度をとり得るモーターである。このモーターは、大抵の場合、容器の容積、液体の粘度及び他のパラメーターに基づいて選択される。使用されるインペラ120は、液体を混合するために働く混合ヘッドである。様々なミキサー及びインペラを用いることができるが、本開示では、NovAseptic(登録商標)ミキサーモデル番号GMP50を使用するNovAseptic(登録商標)ミキサーアセンブリモデル番号GMP−GM05−10120と共に70L容器が用いられた。このミキサーアセンブリは、約96mmの径のインペラ120を使用する。250L容器は、NovAseptic(登録商標)ミキサーモデル番号GMP500を使用するNovAseptic(登録商標)ミキサーアセンブリモデル番号GMP−GM5−10120を用いた。このミキサーアセンブリは、約142mmの径のインペラを使用する。5000L容器は、NovAseptic(登録商標)ミキサーモデル番号GMP5000を使用するNovAseptic(登録商標)ミキサーアセンブリモデル番号GMP−GM50−22110を用いた。このミキサーアセンブリは、約192mmの径のインペラを使用する。他の容器、ミキサー、及びインペラを使用しても良く、本発明のスコープの範囲内にある。
【0014】
図2を参照すると、混合時間がインペラ速度及び容器サイズに大きく依存していることが分かる。読み取れる確かな傾向がある。端的には、RPMの増加に応じて混合時間が減少するが、この減少は容器に亘り均一ではない。更に、混合時間の変動(カッコにより示されている)がRPMの増加に応じて減少する。換言すれば、撹拌の増加により、テストの再現性が向上する。しかしながら、インペラ速度、容器サイズ及び混合時間間の明白な関係は、今まで明らかにされることはなかった。
【0015】
図3は、図2の別の表示を示し、ここでは、各容器の最も早い混合時間が、値1に正規化されている。換言すれば、図2においては、70L容器の最も早い混合時間は、約450RPMだった。従って、図3上のこの点が、値1にセットされている。他の全ての70Lの値は、よって、この最も早い時間の増倍率にて表現される。換言すれば、70Lの50RPMでの混合時間は、約3.9時間であり、450RPMでの混合時間よりも長い。250L及び5000L容器に関する混合時間に対してもこの計算が行われた。複数の容器間に亘って即時に確立可能な関係は混合時間及びRPM間にはない。
【0016】
一つの汎用されている理論としては、混合時間及び数式P/V間の関係があり、そこでは、Pがインペラの電力であり、Vが容器の容積である。インペラ電力は、多数の方法により算出可能である。本開示においては、インペラに供給される電力は、マルチメーターといった電気測定装置を介して決定された情報により実験的に算出された。電力は、次のように決定された。
(1)
【数1】

ここで、Iが測定された電流であり、Vが測定された電圧であり、PFが(モーターのフェースプレートに表示されている)モーターの力率である。
【0017】
図4は、3つの容器のミキサー速度を関数とするP/Vのグラフを示す。小さな容器(70L)のP/V値が群を抜いて最も大きく、多くの場合において、他の容器よりも少なくとも3倍大きい。しかしながら、図2のデータによれば、70L及び250L容器の混合時間が大きくは異ならない。換言すれば、70L及び250L容器間のP/Vの顕著な差は、実際の混合時間に反映されない。P/Vと混合時間には明白な関係が無いように見えるため、70Lから大きな容器へ混合プロセスを拡大することを試行するときにはこの関係は妥当ではないかもしれない。
【0018】
前述のように、混合の組み合わせの第2タイプは、溶媒での溶質の溶解である。本開示では、溶媒として水を用い、溶質としてNaClを用いた。しかしながら、溶媒として水だけ、溶質としてNaClだけに本開示は限定されず、他の溶媒や溶性溶質が同様の反応を示すだろう。
【0019】
混合時間を測定するために、溶液の導電率が測定された。塩水が水よりも大きい導電率を持つため、NaClの添加によって導電率が増加する。図1との関係において述べられたように、NaClが容器の上方から加えられた。NaClが水よりも重いため、水に溶ける前に底に沈む。
【0020】
図5を参照すると、70L容器の上方(天板)近くのプローブにより測定された導電率がダイヤモンドにより表され、70L容器の底近傍で測定された導電率が四角形により表されている。溶質が加えられると、溶質が底へと沈み、これにより、容器の底近傍で測定される導電率が上昇する。従って、底での導電率がほとんど即時に増加し、上層(上方)は相対的に影響されない。しかしながら、その後、溶質が混合され、40分以内に同一の導電率が表面及び底のプローブにより測定される。40〜60分間の幾つかのデータ点により、上層と底の導電率が同一の値に到達したことが実証される。
【0021】
三角形及びバツにより5000L容器の上層及び底近傍で測定された導電率が各々表される。70L容器に関して説明したように、NaClにより、ほぼ即時に導電率が上昇する。しかしながら、容器のサイズに起因して、塩が混合されるのに相当に長い時間がかかる。図5は、大よそ5時間後に容器の上層及び底近傍での導電率が収束することを示す。
【0022】
この開示の目的のため、溶解時間は、上層及び底の導電率の読み取り値が、各々0.5mS/cmの範囲内にあり、容器の底に溶質が見えないときの時間として規定される。
【0023】
図6は、容器サイズ及びインペラ速度を関数とする溶質の溶解時間を示す。ダイヤモンドにより、70L容器が示される。非常に遅いRPM(100)では、インペラが底の溶質の溶解を促進することに有効ではなく、そのため、溶解時間が長いことが分かる。インペラ速度が速くなるに応じて、溶解時間が大幅に減少した。同様のグラフを5000L容器にも制作し、三角形により表示し、ここでは、200RPMのインペラでは約5時間で安定した溶質を溶解させることはできなかった。四角形で示された250L容器では、インペラの速度に対して溶質の溶解時間があまり敏感ではないことが分かる。
【0024】
上述のように、混合プロセスを記述するために電力/容積を用い得るが、その値と混合時間の間には顕著な相関関係がなく、プロセスには他の要因も影響する。
【0025】
混合プロセスを記述する際に有用であるものとして度々説明される第2パラメーターがレイノルズ数である。レイノルズ数は、乱流/渦巻き(turbulence)の測定であり、次のように記述される。
(2)
【数2】

ここで、ρが液体の濃度であり、Nがインペラの速度であり、Dがインペラの径であり、そして、μが液体の粘度である。
【0026】
レイノルズ数を関数とする溶質の溶解時間を示すグラフを図7に示す。5000とラベルされた2つの三角形により、5000L容器で達成された溶解時間が表される。中空ダイヤモンドにより70Lの溶解時間を表し、中実ダイヤモンドにより250L容器を表す。繰り返すが、P/Vの場合のように、レイノルズ数と溶質の溶解時間との間に相関関係が見られない。
【0027】
時折検討される第3パラメーターとしては、容器内で液体がターンオーバー(回流)する時間量である。ポンプと同様に、容器内の液体がミキサーにより「ポンプ」される。より多くの量をミキサーが移動できれば、容器内で液体が上層から底へとより多く移動する。これは、容器ターンオーバーとして定義される。容器ターンオーバーは、容器の容積により割られるミキサーのポンピング容量により規定される。
(3)
【数3】

ここで、N=混合速度、D=インペラの径、ρ=液体の密度、μ=液体の粘度、T=タンクの径、NQ=インペラのフロー#(フロー番号)、H=タンク内での液体高さ、である。
【0028】
混合工程における乱流(渦巻き)、混合強度、及びターンオーバー時間の測定として新しい用語、混合パラメーターを定義する。乱流(渦巻き)は、レイノルズ数により定義される。混合強度は、タンクの径による除算されたインペラの径の二乗として定義される。ターンオーバー時間は、液体量との比較において、ミキサー/インペラのポンピング容量として定義される。その用語、MPは、次のように表現できる。
(3)
【数4】

ここで、N=混合速度、D=インペラの径、ρ=液体の濃度、μ=液体の粘度、T=タンクの径、NQ=インペラのフロー#(フロー番号)、H=タンク内での液体高さ、である。
【0029】
換言すれば、これらの3つの要素の積算によって、混合時間を決定することに適用できるパラメーターが得られる。この数式での大抵の用語は自明である。液体の濃度及び粘度は、溶媒に関する。ミキサー速度は、インペラのRPMに関する。インペラフロー番号は、インペラの形状及び径を関数とし、典型的には、インペラの供給者により決定されて提供される。
【0030】
図8は、MPを関数とする溶質の溶解時間のグラフを示す。3つの異なるサイズの容器の溶解時間がこのグラフには含まれている。繰り返しとなるが、全てのデータがGMPシリーズのインペラを使用して収集されている。中空ダイヤモンドにより、70L容器で達成された時間を示す。中実ダイヤモンドにより250L容器で達成された時間を示し、グレーのダイヤモンドにより5000L容器で達成された時間を示す。前に挙げた全グラフとは異なり、異なるサイズの容器に亘っても、これらの2つの変動値の間には強い相関関係があることが分かる。
【0031】
標準線近似手法を用いると、このデータが次の一般式の曲線に近似可能であると算出できる。
(4) 溶解時間=α×(MP)β
【0032】
この実施形態においては、αが69932と算出され、βが−0.8268と算出された。この曲線は、0.9の算出係数(R2)を有し、それがデータ点の正確な表示であることを示す。
【0033】
従って、MPを溶質の溶解時間の予測に用いることができる。数式(3)が混合パラメーター(MP)の定義の一つの形態を示すが、他の形態も可能である。例えば、この数式により、溶解時間がレイノルズ数、混合時間、及び液体量単位でのインペラの電力に関連することが示される。これらの3つの要素を表現するために他の数式を使うこともできるだろう。他の実施形態においては、この数式は簡素化され得る。例えば、テスト全体を通じて同一の液体を用いる場合、液体濃度及び粘度に関する事項を除くようにMPを簡素化しても良い。簡素化された数式は、次のように記述される。
(5)
【数5】

【0034】
実際のテストパラメーターに基づいて、他の変更及び修正も可能であろう。
【0035】
図8に開示された情報に基づいて工程を用意し、これにより、作業者が所定のインペラデザインを有する任意の所定の容器の溶解時間を算出し、任意の所定の速度で操作する。異形状の容器、異形状のインペラ、異なる粘度及び/又は濃度の液体といった構成の変更により、上記した数式の係数が変化することが予想されるが、その一般式自体にではない。
【0036】
ある実施形態においては、作業者は、70Lといった小サイズの容器を用いる。作業者は、次に、所望の液体及び溶質を用いたテストを準備する。その構成の混合パラメーター(MP)は、上に示したMPの数式により算出される。作業者は、次に、上述のように実験的に溶質の溶解時間を測定する。作業者は、次に、第2テストを行い、少なくとも1つの動作パラメーターを変更する。幾つかの実施形態においては、RPM以外の全てのパラメーターが一定に維持される(RPMが最も変更容易のため)。テストは、次に繰り返されて、新しいMPに対して第2の溶質の溶解時間が判明する。これらの2つのデータ点に基づいて、係数α及びβを決定することができる。
【0037】
上述の実施例ではインペラのRPMを変更することに言及したが、他の変更も可能である。例えば、異なる容器又はインペラの径を用いることができる。代替的に、異なる粘度及び/又は濃度を有する異なる液体を用いても良い。
【0038】
これらの2つの係数が算出されると、次に、作業者は、同様形状の、任意のサイズの容器の、任意のRPMで動作する別の容器の理論的な溶質の溶解時間を算出できる。作業者は、所望構成のMPを単純に計算し、次に、算出されたMP値を数式(4)に代入して溶質の溶解時間を求める。
【0039】
図9は、5000L容器内の特定のミキサー(GMP20000)の予想された溶解時間を示すグラフを図示する。この曲線は、上述の数式(4)を用い、特定のミキサー及び容器に固有の条件を適用する。RPMは、次に変更され、理論的なグラフが制作される。グラフ上の単一データ点は、330RPMでの本構成の溶解時間の実際の測定結果である。実際の溶質の溶解時間は、理論的に算出された曲線よりも数秒少ないだけであり、ここで説明した方法の精度が実証された。
【0040】
このように、本プロセスによって、小さな容器から大きな生産規模の容器へと工程パラメーターをスケールアップする直接的かつ信頼できる方法が提供される。
【0041】
図10は、MPを独立した変数として用いて再プロットした図2の混合時間を示す。図8に示された一般形態は、液体/液体混合テストにおいても同様に見られるものである。
【0042】
インペラのデザインを様々に変えて追加テストを実施した。インペラのデザインは、共通の属性を有するインペラのファミリーとして定義される。例えば、インペラの径に変更がありつつも、製品ファミリー内の全てのインペラが同様形状のブレード(刃)と同様のブレード間角度配置を持つだろう。換言すれば、特定の製品ファミリーに属するインペラは、同様のフロー特性を呈する。ある試験では、GMPシリーズ、USMシリーズおよびHSシリーズの3つの異なるインペラデザインを使用した。これら全てのインペラは、ミリポア社から入手可能である。
【0043】
GMPシリーズが第1であり、この実施形態300を図13に示し、このデータは上述のとおりであり、図12の線250として示す。GMPシリーズのインペラ(混合ヘッド)300は、外側へ飛び出たブレード310を有し、互いに約1/4回転間隔が設けられている。ミキサー回転ユニット又はモーター320は、シャフト又は磁気結合といった方法によりインペラに対して固定される。モーターが回転すると、これにより、インペラ320のブレードも回転する。
【0044】
図12は、MPに対する溶解時間のlog−logのグラフを示す。数式(4)に基づいて、各インペラデザインの結果が直線になるべきであり、ここで、傾斜がβであり、y−交点がαの対数である。
【0045】
線250を求めるためにGMPテストデータが使用された。このテストデータにより、βが上述のものにほぼ違いない0.9059の信頼係数(R2)の最適適合線が求められた。
【0046】
第2のインペラのデザインは、USMミキサー(上流ミキサーとしても知られる)であり、この実施形態400を図14に開示する。本実施形態においては、5つのブレード410が等間隔に設けられている。これらのブレードは、GMPシリーズのインペラ300に用いられるものよりも小さなサイズであり、確認可能な範囲で液体のフロー特性が異なる。これらのフロー特性によって、予想可能なパフォーマンスという観点においてUSMミキサーの特徴/条件(GMPミキサーであるとの点)が説明できる。加えて、ミキサー420がインペラ400を駆動するために用いられる。
【0047】
本テストでは、インペラの径が同一のものを使用し、RPMを変更した。使用する容器は変更しなかった。5つのテスト測定点を次に示す。
【表1】

【0048】
このデータを図12の線260に図示した。想定されたように、溶解時間の対数が、図12に示すように、混合パラメーターMPの対数に対して線形的に変化する。線毎にインペラのデザインが異なるため、線250と270と比較すると、傾斜(β)とy−交点(log(α))が変化した。繰り返しとなるが、この近似での信頼係数(R2)が非常に高く、0.9697の値を持つ。
【0049】
第3インペラデザインは、HSミキサー(高せん断ミキサーとしても知られる)であり、この実施形態500を図14に示す。この実施形態では、個々のブレード410が互いに近接離間され、せん断を最大化するように、ステータとの関係においてインペラが配置される。加えて、インペラ400を駆動するためにミキサー420が用いられる。本テストでは、インペラの径を変更し、容器の径と容積も同じく変更した。測定点は、次のとおりである。
【表2】

【0050】
このデータを図12上の線270としてプロットする。繰り返しとなるが、異なるインペラ径、異なるRPMおよび異なる容器の径及び容積においても、直線近似が依然として正確であり、約0.9の信頼係数(R2)を有する。
【0051】
従って、特定のインペラデザインのために、上に定義された数式(4)により混合の溶解時間を近似可能であることがこのデータにより示される。従って、小さなサンプルを一つの容器内で用意し、後ほど、容器のサイズ及び容積を増加し、インペラの径及びRPMを変更しても、上述の式により、依然として正確な溶解時間の目算が提供される。
【0052】
本開示は、ここに記述した特定の実施形態によりその開示範囲が制限されるものではない。むしろ、上述の説明及び添付図面から、ここに説明したものに加えて、本開示の他の様々な実施形態及び変更が当業者には明らかであろう。従って、そのような他の実施形態及び変更は、本開示の範囲内にあるものとされる。更に、特定目的のための特定環境における特定の実施という内容で本開示をここに説明してきたが、当業者には、その有用性がこれらに限られるものではなく、本開示が任意の目的のために任意の条件において有利に実施できるものと理解するだろう。従って、次に説明される請求項は、ここに説明した本開示の最大広さ及び精神を考慮して解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0053】
α :係数
100 :容器
101 :胴中間部
102 :底端
103 :上端
110 :ミキサー
120 :インペラ
300 :インペラ
310 :ブレード
320 :モーター
400 :インペラ
410 :ブレード
420 :ミキサー
MP :混合パラメーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1サイズの第1容器、第1RPMで作動する第1ミキサー、および第1インペラデザイン及び第1径の第1インペラを具備する第1構成において液体への溶質の溶解時間を算出する方法であって、
前記第1構成の第1混合パラメーター(MP)を計算し、ここで、当該パラメーターが、
【数1】

と定義され、
ここで、Nが前記第1ミキサーのRPMを含み、Dが前記第1インペラの径を含み、NQが前記第1インペラのフロー番号を含み、Tが前記第1容器の径を含み、そして、Hが前記第1容器内の前記液体の高さを含み;
第2サイズの容器、前記液体、前記溶質、前記第1インペラデザイン及び第2径の第2インペラ、および第2RPMで作動する第2ミキサーで第2構成を用意し;
前記第2構成の第2混合パラメーター(MP)を計算し;
前記第2構成の溶質溶解時間を算出し;
第3サイズの容器、前記液体、前記溶質、前記第1インペラデザイン及び第3径の第3インペラ、及び第3RPMで作動する第3ミキサーで第3構成を用意し;
前記第3構成の第3混合パラメーターを計算し;
前記第3構成の溶質溶解時間を算出し;
前記第2混合パラメーターとこれに関連する溶質溶解時間、及び前記第3混合パラメーターとこれに関連する溶質溶解時間が、各々、数式:溶解時間=α×(MP)βを満足するように、2つの係数α及びβを算出し;
前記第1混合パラメーター、α、およびβに基づいて前記第1構成の溶質溶解時間を算出する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記第2インペラ及び前記第3インペラが同一である、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記第2ミキサー及び前記第3ミキサーが同一である、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記第2サイズ及び前記第3サイズが同一である、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記第1サイズが、前記第2及び第3サイズよりも大きい、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記第2インペラ及び第3インペラが同一であり、前記第2ミキサー及び前記第3ミキサーが同一であり、前記第2サイズ及び前記第3サイズが同一であり、そして、前記第2RPMが前記第3RPMと異なる、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、前記第1サイズが前記第2及び第3サイズよりも大きい、方法。
【請求項8】
第1サイズの容器、第1インペラデザイン及び第1径の第1インペラ、及び第1RPMで作動する第1ミキサーを具備する第1構成において第1液体への溶質の溶解時間を算出する方法であって、
前記第1構成の第1混合パラメーター(MP)を計算し、ここで、当該パラメーターが、
【数2】

と定義され、
ここで、Nが前記ミキサーのRPMを含み、Dが前記インペラの径を含み、ρが前記液体の濃度を含み、μが前記液体の粘度を含み、NQが前記インペラのフロー番号を含み、Tが前記容器の径を含み、そして、Hが前記容器内の前記液体の高さを含み;
第2サイズの容器、第2液体、前記溶質、前記第1インペラデザイン及び第2径の第2インペラ、および第2RPMで作動する第2ミキサーで第2構成を用意し;
前記第2構成の第2混合パラメーター(MP)を計算し;
前記第2構成の溶質溶解時間を算出し;
第3サイズの容器、第3液体、前記溶質、第1インペラデザイン及び第3径の第3インペラ、および第3RPMで作動する第3ミキサーで第3構成を用意し;
前記第3構成の第3混合パラメーターを計算し;
前記第3構成の溶質溶解時間を算出し;
前記第2混合パラメーターとこれに関連する溶質溶解時間、及び前記第3混合パラメーターとこれに関連する溶質溶解時間が、各々、次の数式:溶解時間=α×(MP)βを満足するように、2つの係数α及びβを算出し;
前記第1混合パラメーター、α、およびβに基づいて前記第1構成の溶質溶解時間を算出する、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、前記第2インペラ及び前記第3インペラが同一である、方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法であって、前記第2ミキサー及び前記第3ミキサーが同一である、方法。
【請求項11】
請求項8に記載の方法であって、前記第2サイズ及び前記第3サイズが同一である、方法。
【請求項12】
請求項8に記載の方法であって、前記第1サイズが、前記第2及び第3サイズよりも大きい、方法。
【請求項13】
請求項8に記載の方法であって、前記第2液体と前記第3液体が同一である、方法。
【請求項14】
請求項8に記載の方法であって、前記第2インペラ及び第3インペラが同一であり、前記第2ミキサー及び前記第3ミキサーが同一であり、前記第2サイズ及び前記第3サイズが同一であり、そして、前記第2RPMが前記第3RPMと異なる、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2012−526654(P2012−526654A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510871(P2012−510871)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/033981
【国際公開番号】WO2010/132288
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(504115013)イー・エム・デイー・ミリポア・コーポレイシヨン (33)
【Fターム(参考)】