説明

減揺装置

【課題】大きな揺動に対しても揺動をより効果的に抑制する、減揺装置を提供する。
【解決手段】風力により回転するプロペラ1と、前記プロペラを回転可能に支持するタワー2と、前記タワーを搭載する浮体3と、を備え、前記浮体が浮遊掘削船を構成し、前記プロペラの回転により前記浮遊掘削船の揺動を減揺することを特徴とする。海洋等では風により波が発生する。この風でプロペラを回転させることにより、波による浮体の揺動を抑制する。すなわち、前記タワーを介して、風のエネルギーが減衰力に変換され、前記浮体の揺動を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、減揺装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋等での石油、ガスの採掘は、一般に甲板昇降型装置又浮遊掘削船で行われている。甲板昇降型装置は、掘削機器が配置されたプラットホームと、海底又は湖底に固定され、ジャッキ装置で上下に動く脚とを備えた装置であり、水深が比較的浅い沿岸部で使用されている。これに対し、浮遊掘削船は、掘削機器が配置された浮遊型の船舶等であり、水深が深い大陸棚や深海等で使用されている(例えば、水深100m以上)。この浮遊掘削船は、甲板昇降型装置で対応することが難しい海域で石油、ガスの採掘を可能とするものとして期待されており、例えば、半潜水型掘削リグや船型掘削リグが知られている。
【0003】
しかし、浮遊掘削船は、波や潮流の動きにより揺動するため、この揺動をできるだけ小さくし、安定して掘削できる構造が要求される。このため、浮遊掘削船には、ビルジキールや減揺タンク等の構造が採用されている。例えば、喫水線近傍に、開口部が形成された空間室を複数個形成し、これら各空間室に対応する上側開口部を開閉自在な蓋体をそれぞれ具備した半潜水型海洋構造物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、浮遊掘削船の構造物ではないが、タワーに回転可能に取り付けられた発電機にシャフトを介して接続された風力タービンと、タワーを取り付けた、フロートの形の下部基礎とを有する沖合風力タービンの使用に関連した方法及び装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。この沖合風力タービンの使用に関連した方法及び装置は、フロートに対する波の効果として風力タービンの動きが動きに減衰機構として作用し、これによりエネルギーを波から引き出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−25382号公報
【特許文献2】特表2007−503548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の半潜水型海洋構造物は、空間室を用いて減揺させるので、例えば、大きな揺動に対して、その効果が十分でない。このため、揺動をより効果的に抑制する装置の開発が望まれている。
【0006】
この発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、揺動をより効果的に抑制する減揺装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によれば、風力により回転するプロペラと、前記プロペラを回転可能に支持するタワーと、前記タワーを搭載する浮体と、を備え、前記浮体が浮遊掘削船を構成し、前記プロペラの回転により前記浮遊掘削船の揺動を減揺することを特徴とする減揺装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
一般に、海洋等では風により波が発生する。この発明の減揺装置は、この風でプロペラを回転させることにより、波による浮体の揺動を抑制する。すなわち、この発明の減揺装置は、前記タワーを介して、風のエネルギーが減衰力に変換され、前記浮体の揺動を抑制する。このため、この発明の構成によれば、前記浮体を構成する浮遊掘削船の揺動をより効果的に抑制する減揺装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の一実施形態に係る減揺装置の構成を説明するための側面図及び正面図である。
【図2】この発明の一実施形態に係る減揺装置の作用を説明するための側面図である。
【図3】この発明の一実施形態に係る半潜水型掘削リグの構成を説明するための側面図である。
【図4】この発明の一実施形態に係る半潜水型掘削リグの構成を説明するための正面図である。
【図5】この発明の一実施形態に係る半潜水型掘削リグの変形例を説明するための正面図である。
【図6】この発明の一実施形態に係る半潜水型掘削リグの他の変形例を説明するための正面図である。
【図7】この発明の一実施形態に係る船型掘削リグの構成を説明するための側面図である。
【図8】この発明の一実施形態に係る船型掘削リグの変形例を説明するための側面図である。
【図9】この発明の実証実験を説明するための側面図である。
【図10】この発明の実証実験を説明するための上面図である。
【図11】この発明の実証実験の結果を示すグラフである。
【図12】この発明の実証実験の結果を示すグラフである。
【図13】この発明の実証実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明の減揺装置は、風力により回転するプロペラと、前記プロペラを回転可能に支持するタワーと、前記タワーを搭載する浮体と、を備え、前記浮体が浮遊掘削船を構成し、前記プロペラの回転により前記浮遊掘削船の揺動を減揺することを特徴とする。
ここで、浮遊掘削船は、洋上に浮遊する石油、ガス等の天然資源を掘削するための掘削船をいい、例えば、半潜水型掘削リグや船型掘削リグがこれに該当する。
前記浮遊掘削船は、前記プラットホーム及び前記浮体により構成されるが、前記プラットホームが前記浮体と一体的に形成されてもよく、また、前記プラットホームが支柱を介して前記浮体に固定されてもよい。
【0011】
この発明の実施形態において、前記タワーが、掘削編成を保持降下させるためのタワーと兼用されてもよい。例えば、半潜水型掘削リグ又は船型掘削リグの掘削用ウェル上に配置されたタワーと兼用されてもよく、また、掘削用ウェル上に配置されたタワーと、このタワー上に設けられた第2のタワーとで構成されてもよい。
ここで、掘削編成には、例えば、海底又は湖底を掘削するドリルやライザー管が含まれ、前記タワーはこれらを水中に保持降下させるための機器が搭載される。
【0012】
また、この発明の他の実施形態において、前記タワーが、前記浮遊掘削船の周縁部に設けられてもよいし、また前記浮遊掘削船がプラットホームを備え、前記タワーが、プラットホーム上の、浮遊掘削船の重心から離れた位置に搭載されてもよい。この発明の減揺装置は、前記プロペラの中心点と前記浮体の喫水線における中心点との距離が大きいほど、浮体の揺動を抑制する効果が大きい。例えば、浮体は浮力と重心との関係で揺動するので、前記喫水線における中心点は重心とその位置を近似してもとらえてもよい。このような近似関係によれば、前記タワーが、浮遊掘削船の重心から離れた位置に搭載されてもよい。
具体的な形態を挙げると、例えば、前記浮遊掘削船が半潜水型掘削リグの場合、前記半潜水型掘削リグが、プラットホームと、水中で浮遊する船体と、上端で前記プラットホームの周縁を支え、下端が前記船体に接続された複数の支柱とを備え、前記タワーが、前記周縁に配置されてもよい。
また、前記浮遊掘削船が船型掘削リグである場合、前記タワーが、船型掘削リグの船首又は船尾に配置されてもよい。
【0013】
この発明の実施形態において、例えば、前記プロペラと、前記浮体の喫水線における中心点との距離が、90mであり、前記プロペラの直径が120mである。
また、この発明の減揺装置は、前記プロペラに接続された発電機をさらに備えてもよい。前記プロペラが風力により回転することにより、浮遊掘削船の揺動をより効果的に抑制するとともに、風力発電をすることができる。浮遊掘削船の揺動が抑制されるので、安定した発電をすることができる。例えば、発電された電力を掘削作業に用いてもよい。
【0014】
以下、図面に示す実施形態を用いて、この発明を詳述する。なお、以下に記述する実施形態および実施例はこの発明の具体的な一例に過ぎず、この発明はこれらよって限定されるものではない。
【0015】
〔実施形態1〕
図1は、この発明の一実施形態に係る減揺装置の構成を説明するための側面図及び正面図である。図1において、左側の図が減揺装置の側面図であり、右側の図が減揺装置の正面図である。図1に示すように、この減揺装置は、風車1と、タワー2と、浮体3とで構成されている。この減揺装置は、海洋・湖水等の水面に浮遊させて用いられる。
【0016】
風車1は、複数の風車翼で構成され、その回転中心部がタワー2上端の風車ナセル部11で回転可能に支持されている。風車1では、後述するように、風車により生じる抗力と風車中心部と浮体3との関係が重要である。この発明の実施形態において、この関係が満たされる限り、風車1の具体的な大きさや形態(風車翼の数等)は特に限定されない。例えば、風車1は、3枚の風車翼で構成され、その直径は、120mである。
【0017】
また、風車1には、例えば、風力発電用途の風車が用いられてもよい。減揺装置であるため、特に発電機を設ける必要はないが、風車1を減揺装置の一部として用いるほかに、風力発電を実施するように構成されてもよい。すなわち、風車ナセル部11に発電機を備え、その発電機がシャフトを介して風車1の回転中心部に回転可能に固定されてもよい。減揺作用は小さくなるものの、これにより、風車の回転から風力エネルギーを取り出すことができる。
【0018】
風車ナセル部11は、タワー2の軸方向に対して交差する方向に固定されている。この実施形態の風車ナセル部11の場合、タワー2の軸方向に対して垂直方向に固定されている。この交差する方向は、揺動に応じて調整できるようにしてもよく、例えば、タワー2の軸方向に対して5°程度調整可能に固定してもよい。
【0019】
タワー2は、その一端で風車ナセル部11を回転可能に支持するとともに、もう一端で浮体3に固定されている。この実施形態の場合、浮体はその底面にほぼ平行な形で水面に浮遊するので、タワー2は、喫水線に対してほぼ垂直な方向に配置される。タワー2は、風車ナセル部11と浮体3とを所定の距離で隔てる役割を果たせばよいので、図1に示す一本の柱による構成のほか、例えば、やぐらのように複数の柱が組み合わさって構成されてもよい。また、柱又は、やぐらに風車ナセル部11が固定され、その上部にさらに支柱を備えて構成されてもよい。
【0020】
浮体3は、タワー2を介して、風車1を支え、例えば、海洋に浮遊する。この実施形態では、円柱状の構造物で構成されているが、海水等の液体に浮く構造体であればよいので、その形状は円柱状に限られない。例えば、角柱状や船体形状であってもよい。
また、浮体3の上面には、プラットホーム31が設けられ、このプラットホーム31に掘削機器が搭載される。このプラットホーム31と浮体3は、浮遊掘削船を構成し、これら構成が半潜水型掘削リグや船型掘削リグ等に対応する。
【0021】
プラットホーム31は、浮体3と一体的に構成され、浮体3の一部の面がプラットホーム31に対応する構造であってもよいが、例えば、半潜水型掘削リグの場合、プラットホーム31と浮体3とが支柱により連結されてもよい。すなわち、プラットホーム31が浮体3と別の構造物(例えば、平面体)で構成されてもよい。
【0022】
なお、浮体3は、海底(湖底)に設置されたアンカー4にケーブルを介して連結されて用いられる。これにより、浮体3が海流等に流されることを防止する。
【0023】
この減揺装置は、その構成要素の風車1が風によって回転することにより、風のエネルギーが減衰力に変換され、前記浮体の揺動を抑制する。一般に、海洋等では風により波が発生する。このため、波による浮体の揺動を、波を発生させる風のエネルギーにより、減揺させることができる。次に、この実施形態に係る減揺装置における、風のエネルギーを減衰力に変換する機構について説明する。図2は、この実施形態に係る減揺装置の作用を説明するための側面図である。図2において、左上で風車1の正面図を示している。
【0024】
図2に示すように、波向き150の波で浮体3が揺動し、かつ風が流速V(図2に示す200。単位:m/s)で風車1に流入する場合で説明する。浮体3上面のプラットホームの縦揺れ21をθ(rad)、波向き角と風向き角の角度差をχ(rad)とする。角速度は、

と表されるので、浮体3が波を受けて揺動すると、風車1面に流入する空気の流速は、

となる。ここで、lは、浮体3の喫水線上の中心点35から風車1の回転中心(風車ナセル部11中央)までの距離20である(単位:m)。ここで、喫水線は、浮体3単体での喫水線ではなく、プロペラ1がタワー2を介して浮体3に設けられた状態での喫水線を意味する。
【0025】
このとき、風車3に発生する水平方向(図2におけるXの方向)の力は、
【数1】

である。ここで、CDは、風車による抗力、ρAは、空気の密度、Sは、風車面積15(図1に示すS)である。
【0026】
数1を展開すると、
【数2】

となる。縦揺れ角速度

に比例する項は、減衰力係数を意味するので、縦揺れの減衰係数をBθとすれば、減衰係数Bθは次の数3のように表される。
【数3】

この数3から、減衰係数Bθが減衰力として浮体3の減揺効果を生じさせることが理解できる。すなわち、風車1に風が流入すると、風車1に浮体3の揺動を減揺させる減衰力が生じることが理解できる。
なお、図2は、角度差χが0(rad)の場合を示している。
【0027】
〔実施形態2〕
次に、半潜水型掘削リグに係る形態について説明する。図3は、この発明の一実施形態に係る半潜水型掘削リグの構成を説明するための側面図である。図4は、この半潜水型掘削リグの構成を説明するための正面図である。これら図3及び図4は、半潜水型掘削リグの使用状態を示す図であり、半潜水型掘削リグが海上に浮かんでいる様子を示している。
図3及び図4に示すように、この半潜水型掘削リグは、実施形態1と同様に、プロペラ1と、タワー20に相当する掘削用タワー20と、浮体3に相当する半潜水型掘削リグ本体3Aとで構成され、全体で減揺装置を構成している。半潜水型掘削リグは、浮遊掘削船の一態様として知られ、約100m以上の水深の海洋(例えば、大陸棚)で、石油やガスの掘削に用いられるリグである。
【0028】
プロペラ1は、実施形態1と同様に3枚の風車翼で構成され、その回転中心部が風車ナセル部11で回転可能に支持されるとともに、シャフトを介して掘削用タワー2上端に固定されている。さらに、シャフトは、掘削用タワー20上部に設けられた回転機構12によって掘削用タワー20の軸(図1におけるライザー管51の延びる方向とほぼ平行な軸)に対して回転可能に固定されている。回転機構12によってプロペラ1が旋回され、プロペラ1は風に正対する。
【0029】
また、掘削用タワー20は、半潜水型掘削リグ本体3Aに設けられたウェル上に、半潜水型掘削リグ本体3Aに対して垂直方向に建てられている。掘削用タワー20は、掘削編成であるライザー管51(ガイドラインであってもよい)を海底に伸ばしかつ保持するために設けられており、ライザー管51は、半潜水型掘削リグ本体3Aを貫通するように設けられたウェルを介して、掘削用タワー20から下方に延びる。例えば、掘削用タワー20は、半潜水型掘削リグ本体3A上面(つまりプラットホーム31上面)からの高さが100〜150mである。
【0030】
また、半潜水型掘削リグ本体3Aは、プラットホーム31と、複数の支柱(コラム)32と、下部船体(ロワーハル)33とで構成されている。プラットホーム31は、半潜水型掘削リグ本体3A上面に配置され、掘削機器及び掘削用構造物50が搭載されている。また、支柱32は、プラットホーム31下方に配置され、プラットホーム31の周縁(例えば、プラットホームが四辺状であれば4隅)をその上端で支えている。この実施形態では、8本の支柱32がプラットホーム31を支えている。さらに、下部船体33は、支柱32の下端に接続され、支柱32を介してプラットホーム31を水面(例えば海面)上に浮かせる浮力体として機能している。
ここで、プラットホーム31は、いわゆる作業甲板であり、下部船体33は、浮体に相当する。
【0031】
また、半潜水型掘削リグ本体3Aにおける下部船体33は、図3及び図4の半潜水型掘削リグの使用状態に示されるように、海中に沈められた状態となっている。このように、半潜水型掘削リグ本体3Aは、その内部に海水を導入することにより、下部船体33を海中に沈め、かつ支柱32をその半ばまで海中に沈めることが可能な構造となっている。波力は深さ方向に小さくなるので半潜水型掘削リグの下部船体33を海中に沈めて、半潜水型掘削リグの揺動を小さくすることができる。
【0032】
なお、半潜水型掘削リグ本体3Aは、支柱32又は下部船体33において、ワイヤーを介してアンカー4に接続され、海底に係留されている。
【0033】
以上のように、半潜水型掘削リグの形態の減揺装置は、掘削用タワー20を備えている。この実施形態では、図4に示すように、掘削用タワー20上にプロペラ1が配置されているので、半潜水型掘削リグ本体3Aの喫水線近傍の中心点35とプロペラ1の回転中心部との距離lが大きい。具体的な例を挙げると、掘削用タワー20の高さが100〜150mであり、喫水線近傍からプラットホーム31上面までの距離が20〜40mである場合、上記距離lは、120〜190mとなる。
ここで、喫水線とは、半潜水型掘削リグの使用状態での喫水線、すなわち、プラットホーム31上に掘削機器及び掘削用構造物50が搭載され、下部船体33が海中に沈められた半潜水型掘削リグの使用状態における喫水線である。
【0034】
このように、この実施形態に係る半潜水型掘削リグは、掘削用タワー20を備えて減揺装置を構成し、かつプロペラ1を掘削用タワー20上に配置しているので、新たなタワーを設けることなく、上記距離lを大きくすることができる。このため、プロペラ1と、掘削用タワー20と、半潜水型掘削リグ本体3Aとで構成される減揺装置において減衰係数Bθが大きな値をとる。従って、掘削用タワー20を備える減揺装置は、大きな減衰力を発生させ、半潜水型掘削リグの揺動を大幅に小さくすることができる。また、半潜水型掘削リグの揺動を大幅に小さくするので、タワー2の揺動も小さくなり、タワー2の疲労破壊を防止できる。このため、減揺装置や掘削設備の稼働年数及び安全性を向上させることができる。
【0035】
なお、この減揺装置においても、実施形態1と同様にプロペラ1に接続された発電機を設けて、この減揺装置で風力発電をしてもよい。例えば、プロペラ1の回転中心部が回転可能に発電機に接続され、風車ナセル部11に発電機が配置されてもよいし、プロペラ1に接続されたシャフトが回転可能に発電機に接続されてもよい。このような形態であれば、プロペラ1が風力で回転して浮遊掘削船の揺動を抑制するのみならず、この減揺装置により発電をすることができる。また、プロペラ1の向きが安定し、その回転が安定する。一般的にはプロペラ1の揺動は発電量に大きな影響を与えないとされているが、タワー2の揺動が小さくなるので、風力発電機を構成する減揺装置の稼働年数や安全性を向上させることができる。
【0036】
〔タワーの変形例〕
この実施形態では、掘削用タワー20上にプロペラ1を配置しているが、半潜水型掘削リグの大きさを考慮して、半潜水型掘削リグの周縁部にプロペラ1を配置してもよい。すなわち、半潜水型掘削リグは一般にその長さが100〜160m,その幅が50〜100mであるので、半潜水型掘削リグの周縁部にプロペラ1を配置して、半潜水型掘削リグ本体3Aの喫水線近傍の中心点35とプロペラ1の回転中心部との距離lを大きくすることができる。上記の一般な半潜水型掘削リグの場合、例えば、半潜水型掘削リグ本体3Aの喫水線近傍の中心点35と半潜水型掘削リグ周縁部(例えば、4隅の各支柱)との距離が25〜40mにもなり、上記距離lの値を十分な大きさにすることができる。このため、掘削用タワー20や実施形態1で示したタワーのような、比較的大型のタワーを設けることなく、半潜水型掘削リグの揺動を減衰させることができる。
【0037】
図5及び図6に、実施形態2の半潜水式掘削リグの変形例を示す。図5は、この発明の一実施形態に係る半潜水式掘削リグの変形例を説明するための正面図である。図6は、この半潜水式掘削リグの他の変形例を説明するための正面図である。これらの図は、図3及び図4と同様に、半潜水型掘削リグの使用状態を示す図であり、半潜水型掘削リグが海上に浮かんでいる様子を示している。
【0038】
図5に示すように、この半潜水式掘削リグの変形例は、半潜水式掘削リグの隅に配置された支柱32Aの延長線上に形成されたタワー2Aを備え、タワー2A上にプロペラ1が配置されている。また支柱32Aは、一方の端でプラットホーム31の周縁部(又は周縁部に配置された掘削用構造物50)を支え、他方の端が下部船体33に接続されている。プロペラ1の風車ナセル部、回転機構12及びシャフトの構造は、実施形態2と同様である。
【0039】
タワー2Aが配置された支柱32Aは、半潜水式掘削リグの4隅に配置された支柱のひとつであり、半潜水式掘削リグの周縁部にあるため、半潜水型掘削リグ本体3Aの喫水線近傍の中心点35と離れて配置され、その距離が大きい。従って、半潜水型掘削リグ本体3Aの喫水線近傍の中心点35とプロペラ1の回転中心部との距離lを大きくすることができる。このため、この変形例に係る減揺装置に、揺動を抑えるような大きな減衰力が生じて、半潜水型掘削リグの揺動を大幅に小さくすることができる。
なお、この変形例では、8本の支柱32を備える半潜水式掘削リグで説明しているが、支柱の本数は、これに限らず、例えば、4本であってもよい。また、4隅に配置された支柱のひとつで説明しているが、プラットホーム31の周縁部を支える支柱であれば、特に4隅に限られない。
【0040】
また、図6に示すように、この半潜水式掘削リグの他の変形例は、半潜水式掘削リグの隅に配置された支柱32Bがプラットホーム31よりも上方に延びて配置されており、この支柱32B上に配置された支持棒12Aを介してプロペラ1が配置されている。なお、プロペラ1の風車ナセル部及びシャフトの構造及び支柱32と下部船体33との接続関係は、実施形態2と同様である。
【0041】
支柱32Bも、支柱32Aと同様に、半潜水式掘削リグの4隅に配置された支柱のひとつであるが、プラットホーム31の上面よりも上方に延び、その端部に支持棒12Aが設けられている。すなわち、支柱32Bは、その上部近傍でプラットホーム31の周縁部を貫通し、この貫通部でプラットホーム31を支えるとともに、その上端で、その延長方向に支持棒12Aが設けられている。下端で下部船体33に接続されている。ここで、支持棒12Aは、プロペラ1を支える支持棒であるとともに、支柱32Bの軸に対して回転可能にプロペラ1のシャフトを支持する回転機構を備えている。
【0042】
この支柱32Bも、半潜水式掘削リグの周縁部にあるため、半潜水型掘削リグ本体3Aの喫水線近傍の中心点35と離れて配置され、その距離が大きい。このため、上記変形例と同様に距離lを大きくすることができる。従って、支柱32Bを備える変形例に係る減揺装置にも、揺動を抑えるような、大きな減衰力が生じて、半潜水型掘削リグの揺動を大幅に小さくすることができる。
【0043】
なお、半潜水式掘削リグのこれら変形例では、プロペラ1がタワー2Aや支持棒12Aを介して支柱32に配置されているが、プロペラ1が支柱32又はプラットホーム31にシャフト、回転機構を介して配置されてもよい。この場合、プロペラ1は、その先端がプラットホーム31よりも下方に達して回転することになるので、回転機構の回転可能な角度を制限してプラットホーム31の外周部にプロペラ1がほぼ平行になるように構成する。
【0044】
〔実施形態3〕
次に、船型掘削リグに係る形態について説明する。図7は、この発明の一実施形態に係る船型掘削リグの構成を説明するための側面図である。この図は、実施形態1及び2と同様に、船型掘削リグの使用状態を示す図であり、船型掘削リグが海上に浮かんでいる様子を示している。
図7に示すように、船型掘削リグは、実施形態1及び2と同様に、プロペラ1と、タワー2に相当する掘削用タワー20と、浮体3又は半潜水式掘削リグに相当する船型掘削リグ3Bとで構成され、全体で減揺装置を構成している。船型掘削リグは、半潜水式掘削リグと同様に、浮遊掘削船の一態様として知られ、約1500m以上の水深が深い海洋で、石油やガス等の資源探索や掘削に用いられるリグである。
【0045】
船型掘削リグ3Bは、掘削機器等が配置された船であり、掘削用のドリル軸やライザー管51を海中に伸ばすためのウェルが配置されている。この実施形態では、図7に示すように、ウェル上に掘削用タワー20が配置され、実施形態2と同様に、掘削用タワー20上部にプロペラ1が配置されている。
【0046】
この実施形態においても、実施形態2と同様に、船型掘削リグが掘削用タワー20を備えて減揺装置を構成し、かつプロペラ1が掘削用タワー20上に配置されている。このため、新たなタワーを設けることなく、船型掘削リグ3Bの喫水線近傍の中心点35とプロペラ1の回転中心部との距離lを大きくすることができる。従って、実施形態2と同様に、この実施形態の減揺装置においても減衰係数Bθが大きな値をとる。このように、この実施形態の減揺装置にも、揺動を抑えるような大きな減衰力が生じて、船型掘削リグの揺動を大幅に小さくすることができる。
一般に船型掘削リグは、単一の船体で一般船舶と同様の構造であるため、移動性に富むが、一方で波による揺動を受けやすい。この実施形態に係る船型掘削リグは、掘削用タワー20を備えて減揺装置を構成し、上記のように船型掘削リグの揺動を抑えるので、波により揺動しやすい船型掘削リグに、特に効果的である。
【0047】
次に、実施形態に係る船型掘削リグの変形例を説明する。図8は、実施形態3に係る船型掘削リグの変形例を説明するための側面図である。
図8に示すように、この変形例に係る船型掘削リグは、プロペラ1と、タワー2と、船型掘削リグ3Bとで構成されているが、実施形態3と異なり、掘削用タワー20上ではなく、船尾に設けられたタワー2上にプロペラ1が配置されている。
【0048】
この変形例においても、実施形態2の変形例と同様に、船型掘削リグ3Bの大きさに着目してタワー2上に配置している。具体的には、この変形例は、プロペラ1を、船型掘削リグ3Bの周縁部である船尾のタワー2上に配置している。すなわち、船型掘削リグ3Bは、一般にその長さが100〜250m,その幅が20〜40mであるので、この長さを考慮して、船型掘削リグ3Bの喫水線近傍の中心点35と離れた位置にある船尾にタワー2を設けるとともに、その上部にプロペラ1を配置している。この変形例の場合、船型掘削リグ3Bの喫水線近傍の中心点35とプロペラ1の回転中心部との距離lは、例えば、60〜100mにもなる。このように、船型掘削リグ3Bの船尾に設けられたタワー2上にプロペラ1を配置することにより、船型掘削リグ3Bの喫水線近傍の中心点35とプロペラ1の回転中心部との距離lを大きくすることができる。このため、実施形態2で示した掘削用タワー20ような、比較的大型のタワーを設ける必要がない。この変形例によれば、比較的小型のタワーであっても、半潜水型掘削リグの揺動を減衰させることができる。
なお、この変形例では、船尾にタワー2を設けているが、船首にタワーを設けても、減揺効果の点では同様である。
【0049】
次に、この発明の実施形態に係る実証実験について説明する。図9及び図10は、この発明の実施形態に係る実証実験の側面図及び上面図である。図9において、中央に風車の正面図を示し、右下に浮体の上面図を示している。
図9に示すように、この実証実験では、減揺装置(実機)の1/100スケールの模型を用いた。この模型の浮体(浮体模型)における総高さ等のパラメータの値とこれに対応する実機のパラメータの値とを表1に示す。
【0050】
【表1】

なお、表1の総高さは、図9のEとGとを合計した高さであり、表1のGMは、図9のEに対応する。ここで、図9のE〜Gの各値は、それぞれ、100,300,340mmである。なお、図9のIの値は、130mmである。
【0051】
また、図9に示すように、この模型の浮体(浮体模型)は、初期設計であるためGM100mmを基準値として設定した。また、初期テンションは、実機において1500tonfを想定したが、モデルでは設計値の約2/3の1.0kgfとなった。
【0052】
また、この模型の風車(風車模型)における総高さ等のパラメータの値とこれに対応する実機のパラメータの値とを表2に示す。
【0053】
【表2】

なお、表2の総高さは、図9のAとDとを合計した高さである。ここで、図9のA〜Dの各値は、それぞれ、1200,800,1500,180mmである。
【0054】
この模型の風車(風車模型)は、風力発電の5MWスケールの大型水平軸プロペラ風車を実機に想定して設計した。風車模型のブレード(翼)は、PSフォームとCFRPで製作した。
【0055】
実験条件は、北太平洋全季節の統計データを参考にして設定した。波浪及び風速の条件を表3に示す。なお、実機が配置されると想定される海域の条件から、波高をスケールダウン比により1/100に、波周期をフィールド則により1/10に、設定した。また、風速は風車に生じる水平風抗力が一致するよう翼素理論及び運動量理論により算出して定めた。
【0056】
【表3】

【0057】
また、この実証実験では、風・波浪共存場実験のほか、風単独実験、波浪単独実験も実施した。なお、風・波浪共存場実験において、送風装置300及び造波装置310を用いて浮体模型及び風車模型前方から風及び波浪を生じさせた(図10)。
このような実験は、図10に示す実験設備を用いて行った。模型の運動(ピッチング、サージング、ヒービング)は、図10に示すCCDカメラ306で、図9に示すLEDセンサー301及び302(風車ナセル部、タワー2基部に設置)の変位を追跡して計測した。また、模型風車に生じる風抗力は、図9に示す歪みゲージ303(タワー2基部に設置)を用いて曲げモーメントを測定して算出した。係留索に生じる緊張力は、図9のリングゲージ304を用いて測定した。
なお、図10において、浮体(浮体模型)3の配置は、CCDカメラ306からの距離Jが2500mm,造波装置310からの距離Kが2150mmである。また、図9及び図10において、浮体本体から横方向に張り出した3本の脚部からなる浮体下部36を設け、それぞれの脚に2箇所のアンカー4係留部を設けている。図9に示すように、304A,304C,304Eとアンカー4との間にリングゲージを設けた(304B,304D,304Fとアンカー4との間にはリングゲージを設けていない)。
【0058】
図11〜図13に実証実験の結果を示す。図11は、風・波浪共存場実験及び波浪単独実験における模型の1次ピッチング振幅を示すグラフである。また、図12は、図11と同じ風・波浪共存場実験及び波浪単独実験における曲げモーメント振幅を示すグラフである。また、図13は、風・波浪共存場実験及び波浪単独実験において、同調時における浮体模型の係留索に生じる張力のFFT解析結果を示すグラフである。
図11〜図13における各点は、風・波浪共存場実験又は波浪単独実験における各条件に対応している。
図11及び図12の各条件は、(1)がレギュラー(Regular),波高2.0cm,風速1.32m/s、(2)が、ミドル(Middle),波高4.0cm,風速1.67m/s、(3)が、カットアウト(Cut−Out),波高6.0cm,風速2.15m/s、(4)がレギュラー(Regular),波高2.0cm、(5)が、ミドル(Middle),波高4.0cm、(6)が、カットアウト(Cut−Out),波高6.0cm、である。
また、図13の各条件は、(1)が波周期0.9秒、波高6.0cm、風速2.17m/s、(2)が波周期0.9秒、波高6.0cmである。
ここで、図11及び図12の(1)〜(3)が、この発明の実施例に相当し、(4)〜(6)が従来の浮体(プロペラが配置されていない状態)に相当している。また、図13の(1)が、この発明の実施例に相当し、(2)が従来の浮体(プロペラが配置されていない状態)に相当している。
なお、図11及び図12の(4)〜(6)及び図13の(2)は、風車模型の風車の回転軸を固定して、従来の浮体の状態を再現している。
【0059】
図11を参照すると、(1)〜(3)の、どの風・波浪共存場実験でも、1次ピッチング振幅が1度〜2度程度で推移し、(4)〜(6)の波浪単独実験と比較して、その振幅が大きく減少していることがわかる。
この結果から、風車とタワーと浮体とで構成される装置に浮体の揺動を抑える効果があることが理解できる。また、疲労破壊の原因となるピッチング運動が小さくなるので、この装置の寿命が延びるとともに安全性が向上することが理解できる。
【0060】
図12を参照すると、図11と同様に、波浪単独実験(4)〜(6)と比較して、(1)〜(3)の、どの風・波浪共存場実験でも、その曲げモーメント振幅が大きく減少していることがわかる。これは風抗力によりピッチング運動が減少したためと考えられる。
タワー2基部に生じる曲げモーメント振幅が減少するので、図11と同様に、この装置の寿命が延びるとともに安全性が向上することが理解できる。
【0061】
また、図13を参照すると、(1)の風・波浪共存場実験では、定常的な索張力が増加しているが、(2)の波浪単独実験と比較して、その振幅が大きく減少している。また2倍周期、3倍周期のスプリキング応答の原因となる振幅も減少している。
この結果からも、風車とタワーと浮体とで構成される装置に浮体の揺動を抑える効果があることが理解できる。
【0062】
以上の実証実験から、風車とタワーと浮体とで構成される減揺装置は、風車が風で回転することにより、波による浮体の揺動を抑制することがわかる。このような構成によれば、浮体の揺動を抑制する減揺装置を提供できる。
【0063】
以上の実施形態で示した種々の特徴は、互いに組み合わせることができる。1つの実施形態中に複数の特徴が含まれている場合、そのうちの1又は複数個の特徴を適宜抜き出して、単独で又は組み合わせて、この発明に採用することができる。単独で又は組み合わせた構成もこの発明の技術的範囲に含まれる。例えば、船型掘削リグに適用された減揺装置がさらに発電機を備える構成を採用してもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0064】
1 風車(プロペラ)
2 2A 2B タワー
3 浮体
4 アンカー
3A 半潜水式掘削リグ
3B 船型掘削リグ
11 風車ナセル部
12 回転機構
15 風車面積(S)
20 喫水線近傍の中心点35から風車1の回転中心までの距離(l)
21 浮体3上面のプラットホームの縦揺れ(θ)
31 プラットホーム(浮体上面)
32 32A 32B 支柱
33 下部船体
35 喫水線近傍の中心点
36 浮体下部
50 掘削機器及び掘削用構造物
51 ライザー管
100 水面
150 波向き
200 風向き
300 送風装置
301,302 LEDセンサー
303 歪みゲージ
304 リングゲージ
305 波高計
306 CCDカメラ
307 計測装置
308 消波装置
309 曳航台車
310 造波装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力により回転するプロペラと、
前記プロペラを回転可能に支持するタワーと、
前記タワーを搭載する浮体と、を備え、
前記浮体が浮遊掘削船を構成し、前記プロペラの回転により前記浮遊掘削船の揺動を減揺することを特徴とする減揺装置。
【請求項2】
前記タワーが、掘削編成を保持降下させるためのタワーと兼用される請求項1に記載の減揺装置。
【請求項3】
前記浮遊掘削船がプラットホームを備え、
前記タワーが、プラットホーム上の、浮遊掘削船の重心から離れた位置に搭載された請求項1に記載の減揺装置。
【請求項4】
前記浮遊掘削船が半潜水型掘削リグである請求項1〜3のいずれか1つに記載の減揺装置。
【請求項5】
前記浮遊掘削船が半潜水型掘削リグであり、
前記半潜水型掘削リグが、プラットホームと、水中で浮遊する船体と、上端で前記プラットホームの周縁を支え、下端が前記船体に接続された複数の支柱とを備え、
前記タワーが、前記周縁に配置された請求項3に記載の減揺装置。
【請求項6】
前記浮遊掘削船が船型掘削リグである請求項1〜3のいずれか1つに記載の減揺装置。
【請求項7】
前記浮遊掘削船が船型掘削リグであり、
前記タワーが、船型掘削リグの船首又は船尾に配置された請求項3に記載の減揺装置。
【請求項8】
前記プロペラの中心点と前記浮遊掘削船の喫水線における中心点との距離が90mであり、
前記プロペラの直径が120mである請求項1に記載の減揺装置。
【請求項9】
さらに、前記プロペラに接続された発電機を備えた請求項1〜8のいずれか1つに記載の減揺装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−251675(P2011−251675A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128952(P2010−128952)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年2月16日 公立大学法人大阪府立大学主催の「平成21年度 大学院工学研究科航空宇宙海洋系専攻・修士論文 工学部海洋システム工学科・卒業論文 公聴会」において発表
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)