説明

減菌穀物粒の製造方法

【課題】十分な殺菌効果が得られると共に、品質の低下がなく、二次加工適性の良好な穀粉が得られる、減菌穀物粒の製造方法を提供すること。
【解決手段】下記(1)及び(2)の工程を有することを特徴とする減菌穀物粒の製造方法。
(1)穀物粒を穀物粒に対して0〜10質量%加水後、温度100〜180℃及び圧力0.01〜0.7MPaの条件下で0.001〜60秒間、加圧加熱する工程
(2)前記(1)工程で加圧加熱した穀物粒を0.00001〜10秒間内で急激に減圧する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌(減菌)処理されているにもかかわらず、品質の低下がなく、製粉した場合に二次加工適性の良好な穀粉が得られる、減菌穀物粒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物は多くの地域でエネルギー源となる主食として食されている。食品が細菌の微生物に汚染されていると、食品衛生上問題があり、また食品の品質においても問題が生じる。 食品の殺菌方法としては、加熱による殺菌が一般的に行われているが、微生物を十分に殺菌(減菌)するためには、食品を高温で長時間処理する必要があり、これに伴って食品の風味が損なわれ、蛋白質や澱粉等が熱変性を起こして品質も低下するという問題があった。
【0003】
上記の加熱殺菌における問題を解決するために、食品粉体を超音波により加速して剛性体に衝突させ、その衝突エネルギーにより食品粉体を殺菌する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、穀粉をオゾンガスに接触させ、オゾンガスの殺菌力により穀粉を殺菌する方法が提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、これらの特許文献に記載されている殺菌方法では、超音波やオゾンガスを全ての粉体に行き渡らせるのが困難であり、また主食として大量に消費されている穀粉を殺菌処理するにはコスト高であるという問題があった。
【0004】
一方、加熱殺菌の改良方法として、米粉や緑茶粉末等の粉粒体を短時間の加熱・加圧処理に続いて、圧力が低い空間に瞬時に開放し、粉粒体に付着している微生物内の水分を急激に沸騰させて殺菌することにより、加熱時間を短縮する殺菌方法が提案されている(特許文献3参照)。この殺菌方法によれば、加熱による粉粒体の品質低下を少なくし且つ十分な殺菌効果が得られるとされている。
しかしながら、この殺菌方法によっても、穀粉の品質低下を完全に防ぐことは困難であり、特に小麦粉に適用した場合には二次加工適性が著しく低下することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−22号公報
【特許文献2】特開2002−10767号公報
【特許文献3】国際公開第2009/145198号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等は、上記現状に鑑み、十分な殺菌効果が得られると共に、品質の低下がなく、二次加工適性の良好な穀粉が得られる、穀粉の殺菌方法を提供することを目的として種々検討を重ねた。
その結果、本発明者等は、穀物種子を粉砕せずに、粒のまま用い、この穀物粒を特定の条件下で加圧加熱後、急激に減圧することにより、加圧加熱による効果と、加圧加熱状態から急激に減圧されることによる減圧沸騰の効果により、穀物粒の一般生菌、カビ、酵母、大腸菌群等を死滅させることができ、且つその穀物粒は、当該加熱処理をしない穀物粒と同等の品質を有し、品質のよい、二次加工適性の良好な穀粉が得られることを知見した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、下記(1)及び(2)の工程を有することを特徴とする減菌穀物粒の製造方法を提供するものである。
(1)穀物粒を穀物粒に対して0〜10質量%加水後、温度100〜180℃及び圧力0.01〜0.7MPaの条件下で0.001〜60秒間、加圧加熱する工程
(2)前記(1)工程で加圧加熱した穀物粒を0.00001〜10秒間内で急激に減圧する工程
【発明の効果】
【0008】
本発明の減菌穀物粒の製造方法によれば、十分に殺菌(減菌)処理され、且つ、殺菌(減菌)処理されているにもかかわらず、品質の低下がなく、製粉した場合に、品質のよい、二次加工適性の良好な穀粉が得られる、減菌穀物粒を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で用いられる穀物粒としては、特に制限されるものではなく、例えば、米、トウモロコシ、麦類(小麦、大麦、エンバク、ライ麦、ハトムギ等)、マイロ、アワ、ヒエ等のイネ科植物、大豆、小豆、落花生、エンドウマメ、インゲンマメ等のマメ科植物の種子が挙げられ、特に小麦種子(小麦粒)が好適である。
これらの種子は、粉砕することなく、そのまま粒の状態で用いる必要がある。粉砕した種子を用いると、品質の低下が避けられない。特に、小麦を製粉して小麦粉の状態で用いると、二次加工適性が著しく低下することがある。
粒のままであれば、外皮がついたままのものでもよく、外皮を剥離したものでもよいが、外皮がついたままの方が品質の低下がないので好ましい。
【0010】
穀物粒を加圧加熱する前に、穀物粒に加水することが好ましい。穀物粒への加水は、殺菌の観点からは必ずしも必要ではないが、穀物粒の品質低下を起こさずに殺菌する観点から、穀物粒に加水した方が好ましい。
また、穀物粒を外皮がついたまま用いた場合、外皮は固く壊れやすいため、穀物粒に加水しないで本発明の処理を行うと、外皮が粉砕して細かくなり、外皮を分離することが困難となる。穀物粒に加水することにより、外皮が吸水して強靱になり、砕けにくくなる。また、このように加水した穀物粒は、本発明の前記(1)工程の加圧加熱処理及び前記(2)工程の減圧処理を行った後、製粉するに際し、調質工程を省略できる利点もある。
【0011】
穀物粒への加水量は、穀物粒の質量に対して、0.1〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。
穀物粒への加水量が多すぎると、本発明の減菌穀物粒を製粉後に粉の水分が多くなって“ダマ”が生じ、カビ、酵母及び一般生菌数が増殖しやすくなる。
【0012】
穀物粒の加圧加熱は、温度100〜180℃、好ましくは110〜160℃、より好ましくは120〜150℃及び圧力0.01〜0.7MPa、好ましくは0.05〜0.5MPa、より好ましくは0.1〜0.4MPaの条件下で行われる。
加熱温度が低すぎると、カビ、酵母及び一般生菌数の減菌効果が悪くなり、また高すぎると、穀物が変性を起こすことにより、穀物食品の二次加工適性が著しく低下する。
加圧圧力と温度とは密接な関係があり、加圧圧力が低すぎると、加熱温度が低くなるため、カビ、酵母及び一般生菌数の殺菌効果が悪くなり、また加圧圧力が高すぎると、穀物が変性を起こすことにより、穀物食品の二次加工適性が著しく低下する。
【0013】
加熱の方法としては、穀物粒を上記加熱温度内に加熱し得る方法であればよく、例えば、加熱源として火(直火又は油、陶磁器若しくは金属等を介するものを含む)、電気、赤外線、ガス、蒸気、熱風、電磁波、高周波、マイクロ波、誘導電流、摩擦熱、又は酸化反応熱等の化学反応熱等を利用する方法が挙げられる。
具体的には、例えば、加熱装置として、ヒーター、コンロ、誘導加熱機(IH)、電子レンジ、蒸気調理器、焙煎機、蒸し器等を用いて穀物粒を加熱すればよい。
【0014】
加圧の方法としては、穀物粒を収容した容器内に圧力媒体を充填する方法が挙げられる。圧力媒体は気体、液体、固体の何れでもよい。
具体的には、例えば、加圧装置として、オートクレーブ、油圧装置、ポンプ、プランジャーポンプ等を用いて加圧すればよい。
【0015】
穀物粒の加圧加熱は、上記の加熱の方法(加熱装置)と加圧の方法(加圧装置)とを適宜組み合わせて行う。
加圧加熱の時間は、0.001〜60秒間、好ましくは0.01〜5秒間、より好ましくは0.2〜2秒間である。
加圧加熱の時間が0.001秒未満であると、加圧加熱不足によりカビ、酵母及び一般生菌数の減菌効果が悪くなり、また60秒超であると、加圧加熱過量によって穀物が変性を起こすことにより、穀物食品の二次加工適性が無くなる。
【0016】
上記のようにして加圧加熱した穀物粒を急激に減圧する方法としては、上記加圧加熱を施すための容器に蓋、ダイス、ノズル等を設け、ここから大気を容器内に流入させる又は容器内の穀物粒を大気中に放出する等の方法が挙げられる。その際、上記の蓋、ダイス、ノズルの径や奥行きを調節することにより、穀物粒を減圧するのに要する時間を調節することができるが、殺菌効果は減圧に要する時間に関係なく、減圧によって十分に沸騰が起こる程度に瞬間的に減圧することが重要である。
穀物粒を急激に減圧するのに要する時間は、0.00001〜10秒間であり、この範囲内で、減圧方法に応じて適宜選択するとよい。例えば、前記大気を容器内に流入させる方法では、0.00001〜10秒間、好ましくは0.5〜5秒間、より好ましくは0.1〜1秒間である。また、前記容器内の穀物粒を大気中に放出する方法では、0.00001〜0.1秒間、好ましくは0.0001〜0.08秒間、より好ましくは0.001〜0.05秒間である。
【0017】
上記減圧後、穀物粒を冷却することが好ましい。冷却方法としては、水冷、空冷等の方法が挙げられ、チラー水又は冷却ファン、サイクロン等で速やかに40℃以下に冷却することが好ましい。
【0018】
本発明の減菌穀物粒の製造方法を実施するのに好適な装置として、国際公開第2009/145198号パンフレット(前記特許文献3)に記載された下記の殺菌装置を挙げることができる。
原料供給部と、加熱凝縮性気体供給部と、該原料供給部と該加熱凝縮性気体供給部を繋ぎ合わせてなる接合部と、該接合部の下流に接続される加熱気流管と、該加熱気流管の下流に配される減圧手段と、該減圧手段がその途中に連結される冷却気流管と、該冷却気流管の上流に接続され冷却気流管に非凝集性気体を送り込む冷却手段と、該冷却気流管の下流に接続される粉粒体分離装置とからなる粉粒体の殺菌装置。
この殺菌装置は、粉体殺菌装置 Sonic Stera(商品名、株式会社フジワラテクノアート製)として市販されており、本発明の前記(1)工程の加圧加熱処理及び前記(2)工程の減圧処理を連続して行うことができるので好ましい。
また、上記装置として、株式会社シンワ機械製の「4食用加圧殺菌装置(商品名)」を用いることもできる。この装置も、本発明の前記(1)工程及び前記(2)工程を連続して行うことができるので好ましい。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明の実施例及び比較例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0020】
実施例1〜4
株式会社シンワ機械製の「4食用加圧殺菌装置(商品名)」を用いて、外皮がついたままの小麦粒(アメリカ産 ホフイトウエスト)を表1に示す条件下で加圧加熱処理及び減圧処理を施し、減菌小麦粒をそれぞれ製造した。小麦粒は、加圧加熱処理する前に、3質量%加水した。得られた減菌小麦粒をドイツウェンガー社製のテストミルで製粉して、常法によりスポンジケーキ及び天ぷらを製造し、一般生菌及びカビ/酵母の菌数並びに二次加工適性を評価した。表1にその結果を示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1中の二次加工適性の評価基準は下記の通りである。
スポンジケーキ
○ ケーキの容積、内層、食感、食味が良好。
△ ケーキの容積、内層、食感、食味がやや良好。
× ケーキの容積、内層、食感、食味が悪い。
天ぷら
○ 外観(揚げ色、花咲き)、食感(サクミ)、食味が良好。
△ 外観(揚げ色、花咲き)、食感(サクミ)、食味がやや良好。
× 外観(揚げ色、花咲き)、食感(サクミ)、食味が悪い。
【0023】
比較例1〜4
株式会社シンワ機械製の「4食用加圧殺菌装置(商品名)」を用いて、小麦粉(日清製粉フラワー)を実施例1〜4と同一条件下で加圧加熱処理及び減圧処理を施し、減菌小麦粉をそれぞれ製造した。得られた減菌小麦粉について菌検査を実施した。表2にその結果(一般生菌及びカビ/酵母の菌数)を示す。
また、得られた減菌小麦粉を用いて実施例1〜4と同様にスポンジケーキ及び天ぷらを製造し、実施例1〜4の場合と同様の評価基準により二次加工適性を評価した。表2にその結果を示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表1及び表2に示す菌検査の結果及び二次加工適性の評価結果から明らかなように、小麦粒を粉砕せずにそのまま粒の状態で処理した実施例1〜4では、食品として十分に殺菌(減菌)処理され、且つ、殺菌(減菌)処理されているにもかかわらず、品質の低下がなく、製粉した場合に、無処理の小麦粒の場合(コントロール)と同等の品質及び二次加工適性を有する小麦粉が得られるのに対し、小麦粉を処理した比較例1〜4では、十分な殺菌効果が奏されているものの、加熱による小麦粉の品質低下が避けられず、二次加工適性が低下する。
【0026】
実施例5〜7
粉体殺菌装置 Sonic Stera(商品名、株式会社フジワラテクノアート製)を用いて、外皮がついたままの小麦粒(アメリカ産 ホフイトウエスト)を表3に示す条件下で加圧加熱処理及び減圧処理を施し、減菌小麦粒をそれぞれ製造した。小麦粒は、加圧加熱処理する前に、3質量%加水した。得られた減菌小麦粒をドイツウェンガー社製のテストミルで製粉して、常法によりスポンジケーキ及び天ぷらを製造し、一般生菌及びカビ/酵母の菌数並びに二次加工適性を評価した。二次加工適性の評価基準は実施例1〜4の場合と同様である。表3にその結果を示す。
【0027】
【表3】

【0028】
比較例5〜7
粉体殺菌装置 Sonic Stera(商品名、株式会社フジワラテクノアート製)を用いて、小麦粉(日清製粉フラワー)を実施例5〜7と同一条件下で加圧加熱処理及び減圧処理を施し、減菌小麦粉をそれぞれ製造した。得られた減菌小麦粉について菌検査を実施した。表4にその結果(一般生菌及びカビ/酵母の菌数)を示す。
また、得られた減菌小麦粉を用いて実施例1〜4と同様にスポンジケーキ及び天ぷらを製造し、実施例1〜4の場合と同様の評価基準により二次加工適性を評価した。表4にその結果を示す。
【0029】
【表4】

【0030】
表3及び表4に示す菌検査の結果及び二次加工適性の評価結果から明らかなように、実施例5〜7及び比較例5〜7においても、実施例1〜4及び比較例1〜4の場合と同様の結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)及び(2)の工程を有することを特徴とする減菌穀物粒の製造方法。
(1)穀物粒を穀物粒に対して0〜10質量%加水後、温度100〜180℃及び圧力0.01〜0.7MPaの条件下で0.001〜60秒間、加圧加熱する工程
(2)前記(1)工程で加圧加熱した穀物粒を0.00001〜10秒間内で急激に減圧する工程
【請求項2】
穀物粒が小麦粒である請求項1記載の減菌穀物粒の製造方法。
【請求項3】
穀物粒に対して0.1〜10質量%加水する請求項1又は2記載の減菌穀物粒の製造方法。

【公開番号】特開2011−212007(P2011−212007A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124916(P2010−124916)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000226998)株式会社日清製粉グループ本社 (125)
【Fターム(参考)】