説明

温度センサの製造方法、および温度センサ

【課題】温度センサにおいて、感温素子の周囲に充填される充填材に気泡が混入しないようにし、感温素子を振動から保護できるようにする。
【解決手段】温度センサ1を製造する際には、金属チューブ114にサーミスタ素子2が挿入されていない状態で、金属チューブ114にセメント110を注入する注入工程と、セメント110の硬化前に、サーミスタ素子2が取り付けられたシース部材108を金属チューブ114内に挿入することにより、サーミスタ素子2が金属チューブ114内に収納された中間形成体を形成する挿入工程と、セメント110の硬化前に、金属チューブ114の先端側を外側に向けた状態で、中間形成体に遠心力を加えることにより、セメント110中においてサーミスタ素子2の後端部よりも先端側に含まれる気泡を除去する気泡除去工程と、セメント110を硬化させる硬化工程と、を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物などの半導体からなるサーミスタやPt抵抗体等の感温部を有する感温素子を、有底筒状の素子収納部材に収納した温度センサの製造方法、および温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、感温素子と先端部に感温素子の電極線が接続され、後端部に外部回路接続用のリード線が接続された金属芯線を筒部材の内側にて絶縁保持したシース部材と、先端側が閉塞した軸線方向に延び、内部に感温素子を収納する筒状の金属チューブと、金属チューブの先端側部分を外部に露出させた状態で金属チューブを支持する取り付け部材と、を備える温度センサが知られている(特許文献1(図1、図2))。
【0003】
また、感温素子と、上記シース部材と同様のシース部材と、内部に感温素子を収納させた形態でシース部材(筒部材)の周方向にわたって接合された金属キャップと、金属キャップおよびシース部材の先端側部分が外部に露出する状態でシース部材を支持する取り付け部材と、を備える温度センサが知られている(特許文献1(図4)、特許文献2(図1))。
【0004】
これらの温度センサは、例えば、自動車の触媒コンバータ内部および排気管内等のように、振動の激しい環境下での測定対象物(排気ガスなど)の温度検出に使用される。
【特許文献1】特開2000−266609号公報
【特許文献2】特開2000−162051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記温度センサにおいては、金属チューブや金属キャップ等の素子収納部材に収納された感温素子を振動から保護する等の目的で、素子収納部材の内部、即ち感温素子の周囲にセメント等の充填材を充填させることがある。
【0006】
このように、素子収納部材の内部に充填材を充填する作業としては、未硬化の充填材が満たされた素子収納部材内に感温素子を挿入する方法と、素子収納部材に感温素子を挿入した状態で充填材を注入する方法とが考えられる。
【0007】
しかしながら、上記何れの方法を採用したとしても、充填材を素子収納部材に注入する際には、充填材中に気泡が混入してしまう虞がある。このように、感温素子の周囲の充填材中に気泡が混入した状態で充填材が硬化すると、この気泡が複数繋がって大きな空孔として多く残ってしまうため、充填材が感温素子を良好に保持することができなくなり、感温素子や感温素子の電極線とシース部材の金属芯線との接続部分が振動により破損する虞がある。
【0008】
そこで、本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、内燃機関の排気管や吸気管、燃料電池車の水素流通管等の振動の激しい環境下での測定対象物の温度を検出する温度センサにおいて、感温素子の周囲に充填される充填材に気泡(空孔)が残留しないようにし、感温素子を振動から保護できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために成された請求項1に記載の発明は、温度によって電気的特性が変化する感温部と、前記感温部と接続される電極線とを有する感温素子と、先端部に前記電極線が接続され、後端部に外部回路接続用のリード線が接続される金属芯線と、前記金属芯線の該先端部および該後端部を突出させた状態で、当該金属芯線を絶縁保持する筒部材とを有するシース部材と、軸線方向に延び、先端側が閉塞した筒状をなし、内部に前記感温素子を収納する素子収納部材と、前記感温素子と前記素子収納部材との間の空間に充填される充填材と、を備えた温度センサの製造方法であって、前記素子収納部材に前記感温素子が収納されていない状態で、前記素子収納部材に未硬化状態の前記充填材を注入する注入工程と、前記充填材の硬化前に、前記感温素子が取り付けられたシース部材を前記素子収納部材内に挿入することにより、前記感温素子を前記素子収納部材内に注入された充填材中に配置させた中間形成体を形成する挿入工程と、前記充填材の硬化前に、前記素子収納部材の先端側を外側に向けた状態で、前記中間形成体に遠心力を加えることにより、前記充填材中に含まれる気泡を除去する気泡除去工程と、前記充填材を硬化させる硬化工程と、を実施することを特徴としている。
【0010】
即ち、温度センサの製造方法においては、気泡除去工程にて、感温素子を素子収納部材内に注入された充填材中に配置させた状態の中間形成体の先端側を回転の外側に向けた状態で、この中間形成体に遠心力を加える。すると、気泡に対して比重が大きな充填材は、中間形成体の先端側に移動し、反対に気泡は中間形成体の後端側に移動して、素子収納部材の後端から外部に放出される。このため、感温素子の周囲の気泡を排除することができるのである。
【0011】
従って、このような温度センサの製造方法によれば、製造工程(注入工程や挿入工程等)の途中において、感温素子の周囲に気泡が混入したとしても、この気泡を感温素子の周囲から良好に除去することができる。このため、充填材中に大きな空孔が多く残留するのを無くすことができるので、感温素子を振動から保護することができる。また、この温度センサの製造方法によれば、中間形成体に遠心力を加えて気泡を除去させているため、充填材は先端側に移動して充填効率が向上する。その結果、硬化後の充填材の充填密度が向上し、感温素子を効果的に振動から保護することができる。
【0012】
ところで、請求項1に記載の温度センサの製造方法においては、請求項2に記載のように、挿入工程と気泡除去工程との間に、シース部材の筒部材と素子収納部材とを固定する収納部固定工程を実施するようにしてもよい。
【0013】
このような温度センサの製造方法によれば、収納部固定工程を実施することにより、シース部材と素子収納部材との位置関係を一定にすることができるので、製造される温度センサの個体差を少なくすることができる。
【0014】
さらに、請求項2に記載の温度センサの製造方法において、収納部固定工程では、請求項3に記載のように、素子収納部材の外周の一部分をシース部材の筒部材に向けて加締めることにより、シース部材の筒部材と素子収納部材とを固定するようにしてもよい。
【0015】
このような温度センサの製造方法によれば、加締め工程にて素子収納部材の全周ではなく、素子収納部材の外周を部分的に加締めるので、気泡が抜けるための経路を素子収納部材と筒部材との間に確保した状態で、素子収納部材とシース部材とを位置決めすることができる。
【0016】
また、請求項1〜請求項3の何れかに記載の温度センサの製造方法においては、請求項4に記載のように、素子収納部材は、シース部材の筒部材を挿入可能な筒状の形状をなす第1胴体部と、シース部材の筒部材を挿入不能で且つ先端側が閉塞した筒状の形状をなす第2胴体部と、第1胴体部および第2胴体部を接続する段差部と、を備え、シース部材は、筒部材の少なくとも先端部の外側に気泡を通過させるための経路を備え、挿入工程では、シース部材の筒部材の先端を素子収納部材の段差部内周に当接させることにより、シース部材と素子収納部材との相対位置を定めるようにしてもよい。
【0017】
このような温度センサの製造方法によれば、挿入工程において、シース部材の筒部材の先端を素子収納部材の段差部内周に当接させるので、シース部材と素子収納部材との位置決めを確実に行うことができる。
【0018】
また、シース部材の筒部材の少なくとも先端部外側に気泡を通過させるための経路が形成されているので、気泡除去工程では、この経路を用いて素子収納部材の後端側に確実に気泡を抜くことができる。
【0019】
次に、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のシース部材、素子収納部材、および充填材を備えた温度センサであって、素子収納部材を充填材が充填される位置にて軸線方向と平行な任意の平面で切断したときにおいて、感温素子の電極線とシース部材の金属芯線との接続部分よりも先端側における充填材中には、任意の第1方向の寸法が0.3[mm]以上、且つこの寸法が前記第1方向とは直交する第2方向に0.6[mm]以上である四角形領域を配置可能な大きさの空孔が全く存在しないか、或いは感温素子の電極線とシース部材の金属芯線との接続部分よりも先端側における充填材中には、空孔が3個未満だけであり、且つ各空孔は、各空孔の最長部の寸法を示す最長寸法と、最長寸法を採寸した方向と直交する方向における最大寸法との和の平均寸法が2.3[mm]以下であることを特徴としている。
【0020】
つまり、本願発明の温度センサは、請求項1に記載の温度センサの製造方法で得られた温度センサである。即ち、請求項1に記載の温度センサの製造方法においては、遠心力により気泡を除去する工程が実施される。この工程を実施して製造された温度センサであれば、充填材中には全く空孔が存在しないか、空孔が存在したとしても、その数は3個未満となる。また、各空孔において、最長寸法と最大寸法との和の平均寸法は2.3[mm]以下となる。
【0021】
一方、遠心力により気泡を除去する工程が実施されない場合には、相当の確率(具体的には、70%)で上記空孔が3個以上となったり、空孔における最長寸法と最大寸法との和の平均寸法が2.3[mm]より大きくなったりすることを本願出願人は実験により確認している。
【0022】
つまり、本発明(請求項5)の温度センサによれば、本願請求項1〜請求項4の何れかに記載の製造方法を用いて製造された温度センサであることを特定することができる。
なお、この温度センサによれば、請求項1に記載の温度センサの製造方法を実施しているので、充填材中に含まれるに気泡を良好に除去することができる。従って、感温素子を振動から良好に保護することができる。
【0023】
また、本発明においては、感温素子を振動から保護し難い空孔の定義としては、「任意の第1方向の寸法が0.3[mm]以上、且つこの寸法が第1方向とは直交する第2方向に0.6[mm]以上である四角形領域を配置可能な大きさのもの」とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明の好適な実施形態を説明する。
〔温度センサ1の概要〕
図1は、本発明の実施の形態である温度センサ1の構造を示す部分破断断面図である。
【0025】
温度センサ1は、一対の金属芯線7を外筒27の内側にて絶縁保持したシース部材108と、先端側が閉塞した軸線方向に延びる筒状の金属チューブ114と、金属チューブ114を支持する取り付け部材304と、六角ナット部251およびネジ部252を有するナット部材205を備えて構成されている。なお、軸線方向とは、温度センサの長手方向であり、図1においては上下方向に相当する。また、温度センサ1における先端側は図における下側であり、温度センサ1における後端側は図における上側である。
【0026】
そして、温度センサ1は、金属チューブ114の内部にサーミスタ素子2を感温素子として備えており、例えば、内燃機関の排気管などの流通管に装着されて、サーミスタ素子2を測定対象ガスが流れる流通管内に配置させて、測定対象ガス(排気ガス)の温度検出に使用することができる。なお、サーミスタ素子2は、温度によって電気的特性(電気抵抗値)が変化する感温部(サーミスタ焼結体)9と、この感温部9の電気的特性の変化を取り出すための一対の電極線3とから構成される。
【0027】
金属芯線7は、先端部が抵抗溶接によりサーミスタ素子2の電極線3と接続されており、後端部が抵抗溶接により加締め端子11と接続されている。これにより、金属芯線7は、自身の後端側が加締め端子11を介して外部回路(例えば、車両の電子制御装置(ECU)等)接続用のリード線12と接続されている。
【0028】
なお、一対の金属芯線7は、絶縁チューブ15により互いに絶縁されており、また、一対の加締め端子11は、絶縁チューブ15により互いに絶縁される。リード線12は、導線を絶縁性の被覆材にて被覆したものである。リード線12は、耐熱ゴム製の補助リング13の内部を貫通する状態で配置される。
【0029】
ここで、シース部材108の断面形状を図2に示す。
シース部材108は、図2に示すように、金属製の外筒27と、導電性金属からなる一対の金属芯線7と、外筒27と2本の金属芯線7との間を電気的に絶縁して金属芯線7を保持する絶縁粉末28と、を備えて構成される。
【0030】
また、外筒27は、略円形に形成されているが、この外筒27の先端部の一部分には径方向内側に入り込んだ形状を有する凹部29が形成されている。なお、本実施形態の外筒27においては、この凹部29は外筒27の2箇所に形成されている。
【0031】
このようなシース部材108の外筒27の先端は、金属チューブ114の段差部55内周に当接されるが、外筒27の先端部には、凹部29が形成されているので、外筒27と金属チューブ114の段差部55とが隙間なく密着することがない。
【0032】
このようにしているのは、後に詳述するが、この凹部29による隙間からセメント110に混入した気泡を排除するためである。即ち、シース部材108の外筒27に形成された凹部29は、気泡が移動するための経路として機能する。
【0033】
次に、図1に戻り、金属チューブ114は、耐腐食性金属(例えば、耐熱性金属でもあるSUS310Sなどのステンレス合金)からなり、鋼板の深絞り加工によりチューブ先端側131が閉塞した軸線方向に延びる筒状をなし、筒状のチューブ後端側132が開放した形態で構成されている。金属チューブ114は、チューブ後端側132が取り付け部材304の第2段部46の内面に当接するように、軸線方向寸法が設定されている。
【0034】
金属チューブ114は、内部にサーミスタ素子2およびセメント110を収納しており、セメント110は、サーミスタ素子2の周囲に充填されることで、サーミスタ素子2の揺動を防止している。また、金属チューブ114は、先端部分が、径が小さく設定された小径部57とされており、この後端側が、径が小径部57よりも大きく設定された大径部58とされている。なお、セメント110は、非晶質のシリカにアルミナ骨材を含有した絶縁材よりなる。また、小径部57と大径部58とは、段差部55により接続されている。
【0035】
取り付け部材304は、径方向外側に突出する突出部341と、突出部341の後端側に位置すると共に軸線方向に延びる後端側鞘部42と、を有している。
そして、取り付け部材304は、少なくとも金属チューブ114の先端が外部に露出する状態で金属チューブ114の後端側の外周面を取り囲んで金属チューブ114を支持する。
【0036】
突出部341は、先端側向き縮径状のテーパ形状となる取り付け座345を先端側に有する環状に形成されている。取り付け座345は、図示しない排気管のセンサ取り付け位置における後端側向き拡径状のテーパ部に対応したテーパ形状である。
【0037】
つまり、取り付け部材304は、排気管のセンサ取り付け位置に配置される際には、取り付け座345がセンサ取り付け位置のテーパ部に直接密着することで、排気ガスが排気管外部へ漏出するのを防止するよう構成されている。
【0038】
後端側鞘部42は、環状に形成されると共に、先端側に位置する第1段部44と、第1段部44よりも小さい外径を有する第2段部46と、を備える二段形状をなしている。このうち、第2段部46は、加締めによる変形が可能となるように、厚さ寸法(環状の内径寸法と外径寸法との径差寸法)が薄く設定されている。
【0039】
このような金属チューブ114を取り付け部材に304に組み付ける際には、少なくとも金属チューブ114の先端側部分が取り付け部材304の外部に露出すると共に、取り付け部材304の取り付け座345の後端位置から金属チューブ114の先端までの軸線方向における先端突出寸法が45[mm]となるように、取り付け部材304と金属チューブ114との相対位置が設定される。
【0040】
〔温度センサ1の製造方法〕
ここで、温度センサ1の製造方法について説明する。
本実施の形態の温度センサ1を製造するには、予め形成された金属チューブ114、シース部材108、取り付け部材304、サーミスタ素子2等の部品を公知の手法により準備する。そして、サーミスタ素子2の一対の電極線3を、各々シース部材108の一対の金属芯線7先端部に重ね合わせて溶接する。
【0041】
次いで、取り付け部材304の内部に金属チューブ114を挿通し、第2段部46に対して、径方向内向きの加締め作業および溶接作業を行うことで、金属チューブ114と取付部材304とを一体化する。
【0042】
なお、溶接作業により、第2段部46と金属チューブ114とに跨る後端側溶接部363が形成される。
続いて、サーミスタ素子2が溶接されたシース部材108と取り付け部材304が溶接された金属チューブ114とからなる先端部品25を組み立てる。
【0043】
この作業については、図3および図4を用いて説明する。図3は先端部品25の製法を示す流れ図、図4は遠心脱泡装置31を示す説明図である。
先端部品25を製造するにあたっては、図3に示すように、まず、サーミスタ素子2が挿入されていない状態における、取り付け部材304が溶接された金属チューブ114の先端部分の中にノズル21を挿入し、ペースト状、即ち未硬化状態のセメント110を注入する。
【0044】
そして、サーミスタ素子2が溶接されたシース部材108を、セメント110が注入された金属チューブ114の内部に挿入する。このとき、シース部材108の外筒27の先端部は金属チューブ114の段差部55内周に当接させて、サーミスタ素子2をセメント110内に配置させる。なお、この状態において、サーミスタ素子2が溶接されたシース部材108と取り付け部材304が溶接された金属チューブ114とからなる部品は、本発明でいう中間形成体に相当する。
【0045】
そして、シース部材108を金属チューブ114の内部に挿入した状態で、金属チューブ114に径方向外側から板状の金型22を対向させた状態で押し当てる長孔加締を行う。この長孔加締は、金属チューブ114における段差部55よりも後端側の大径部58に対して周方向に2箇所実施され、この長孔加締の結果、シース部材108の外筒27は金属チューブ114に狭持され、金属チューブ114とシース部材108とは完全に位置決め固定される。またこのとき、金属チューブ114には長孔56(図1参照)が形成される。
【0046】
このようにして、先端部品25が出来上がる。そして、この先端部品25に対して、図4に示す遠心脱泡装置31を用いて遠心脱泡処理を実施する。
即ち、遠心脱泡装置31は、図4に示すように、回転軸33を中心に回転する回転体32と、回転体32の両端部に取り付けられたホルダ部材34とを備えている。
【0047】
ホルダ部材34は、一端部が開口した筒状に構成されており、回転体32の回転に応じて揺動可能とされている。
つまり、ホルダ部材34は、回転体32が回転していないときには、図4の実線に示すように、上部が開口した状態となっている。ここで、先端部品25をセンサ先端部が下向きの状態で、ホルダ部材34に上部から挿入して固定する。
【0048】
そして、回転体32を回転させる。ここで、ホルダ部材34は、回転体32が回転しているときには、図4の破線に示すように、回転軸33側が開口した状態に変位し、先端部品25をセンサ先端部が回転の外側に向いた状態となる。
【0049】
ここで、本実施形態の遠心脱泡処理においては、先端部品25に、加速度800〜1300[G](ただし、1[G]=9.8[m/s2])を30秒程度以上加える。なお、先端部品25に加える加速度が1300[G]の場合には、金属チューブ114に注入されるセメント110の粘度は、例えば、5[Pa/s]に設定される。
【0050】
このように、センサ先端側が外側に向いた状態で先端部品25に遠心力を加えると、気泡がセメント110中にあった場合には、この気泡はセンサ後端側に移動する。そして、この気泡がシース部材108の外筒27と、金属チューブ114との当接部分(つまり、段差部55の部位)に移動すると、気泡はシース部材108の外筒27に形成された凹部29を通り、さらにセンサ後端側(即ち、金属チューブ114の後端側)に移動する。このようにして、サーミスタ素子2の周囲からは良好に気泡が除去される。
【0051】
そして、この遠心脱泡処理が終了すると、この先端部品25を800℃で熱処理し、セメント110を乾燥(硬化)させる。
このようにして、熱処理後の先端部品25が得られる。
【0052】
次に、先端部品25とその他の部品との組み付けを行う。即ち、継手部材6は、加締め端子11、絶縁チューブ15、補助リング13を内部に収容した状態で、補助リング13に対応する部分が径方向内向きに丸加締め或いは多角加締めされることで、補助リング13との間の気密性を保ちつつ補助リング13と加締め接合される。
【0053】
また、取り付け部材304は、継手部材6の周囲にナット部材205が回動自在に嵌挿された状態で、取り付け座345がセンサ取り付け位置のテーパ面に当接するように配置された後、ナット部材205のネジ部252がセンサ取り付け位置の周囲に形成されたネジ溝に螺合されることで、センサ取り付け位置に固定される。つまり、取り付け部材304は、ナット部材205とセンサ取り付け位置のテーパ面との間に挟持される状態で固定される。また、取り付け部材304は、取り付け座345がセンサ取り付け位置のテーパ面に接することで、センサ取り付け位置での挿通方向における配置位置が決定される。
【0054】
そして、リード線12を介して温度センサ1に接続された外部回路は、測定対象物の温度に応じて変化するサーミスタ素子2の電気的特性を取り出し、取り出した電気的特性に基づいて排気ガスの温度を検出する。このようにして、温度センサ1は、外部回路に接続されることにより、温度検出に使用される。
【0055】
なお、本実施形態において、金属チューブ114は本発明でいう素子収納部材に相当し、セメント110は充填材に相当する。また、大径部58は、本発明でいう第1胴体部に相当し、小径部57は第2胴体部に相当する。また、凹部29は、本発明でいう経路に相当し、外筒27は筒部材に相当し、サーミスタ素子2は感温素子に相当する。
【0056】
〔本実施形態の効果〕
以上のように詳述した温度センサ1においては、先端部に温度によって電気的特性が変化するサーミスタ素子2の電極線3が接続され、後端部に外部回路接続用のリード線12が接続される金属芯線7を外筒27内に絶縁保持したシース部材108と、軸線方向に延び、先端側が閉塞した筒状をなし、内部にサーミスタ素子2を収納する金属チューブ114と、サーミスタ素子2と金属チューブ114との間に充填されるセメント110と、を備えている。
【0057】
そして、この温度センサ1を製造する際には、金属チューブ114にサーミスタ素子2が収納されていない状態で、金属チューブ114に未硬化状態のセメント110を注入する注入工程と、セメント110の硬化前に、サーミスタ素子2が取り付けられたシース部材108を金属チューブ114内に挿入することにより、サーミスタ素子2を金属チューブ114内に注入されたセメント110中に配置させた中間形成体を形成する挿入工程と、セメント110の硬化前に、金属チューブ114の先端側を外側に向けた状態で、中間形成体に遠心力を加えることにより、セメント110中に含まれる気泡を除去する気泡除去工程と、セメント110を硬化させる硬化工程と、を実施する。
【0058】
このような温度センサ1の製造方法によれば、サーミスタ素子2の周囲のセメント110中に気泡が混入したとしても、気泡除去工程を通してこの気泡をサーミスタ素子2の周囲から良好に除去することができる。このため、セメント110中に大きな空孔が多く残留するのを無くすことができるので、サーミスタ素子2を振動から保護することができる。
【0059】
また、このような温度センサ1の製造方法により製造された温度センサ1は、金属チューブ114をセメント110が充填される位置にて軸線方向と平行な任意の平面で切断したときにおいて、サーミスタ素子2の電極線3とシース部材108の金属芯線7との接続部分よりも先端側におけるセメント110中には、空孔が全く存在しないか、或いは空孔が3個未満だけ存在し、各空孔は、各空孔の最長部の寸法を示す最長寸法と、最長寸法を採寸した方向と直交する方向における最大寸法との和の平均寸法が2.3[mm]以下となる。
【0060】
なお、本実施形態においては、空孔の定義を「任意の第1方向の寸法が0.3[mm]以上、且つこの寸法が第1方向とは直交する第2方向に0.6[mm]以上である四角形領域(図6の斜線にて示す領域)を配置可能な大きさのもの」としている。
【0061】
上記の事項を言い換えると、サーミスタ素子2の電極線3とシース部材108の金属芯線7との接続部分よりも先端側におけるセメント110中には、
(1).0.6[mm]×0.3[mm]の矩形の領域(空孔)が存在しないか、
(2).0.6[mm]×0.3[mm]の矩形の領域(空孔)が存在する場合には、空孔の数は3個未満であって、
各空孔の最長寸法をX[mm]、最大寸法をY[mm]とすると、各空孔は、
(3).(X+Y)/2≦2.3[mm]
の関係を満たしている。
【0062】
ここで、本実施形態では、上記特定空孔の大きさの測定方法を図5および図6に示す方法に設定した。なお、図5は研削例を示す説明図、図6は空孔の採寸例を示す説明図である。
【0063】
本実施形態においては、温度センサ1の先端部品25の一部分を切削し、セメント110を露出させ、その内部の空孔の有無を目視により確認した。
より具体的には、図5に示すように、金属チューブ114を金属芯線7(厳密には2本の金属芯線7が位置する仮想平面)に平行になるよう、金属チューブ114の外周部から0.5〔mm〕、軸線方向に7.0〔mm〕切削し、金属芯線7に平行な平面を露出させた。また、サーミスタ素子2を挟んだ反対側も同様に切削した。つまり、図5に示す斜線にて示す部位を切削したのである。
【0064】
そして、各切削部分において、空孔の大きさおよび数を測定した。
このときの採寸方法としては、例えば図6に示すように、各空孔のうち、最も長く採寸できる部位の寸法(最長寸法:図6のX)を測定し、この寸法を採寸した方向と直交する方向において最も長く採寸できる部位の寸法(最大寸法:図6のY)を測定した。
【0065】
この結果、本実施形態の製造方法を用いて製造した温度センサ1においては、空孔は3個未満であって、空孔のうち、上記(3)式を満たさないものは存在しなかった。
しかしながら、本実施形態の製造方法を用いていない(つまり、遠心脱泡処理を実施していない)温度センサ1においては、空孔が3個以上であったり、空孔のうち、上記(3)式を満たさないものが相当の確率(例えば、70%)で存在したりした。
【0066】
つまり、本願発明の温度センサ1の製造方法を実施して製造された温度センサ1であれば、充填材(セメント110)中には全く空孔が存在しないか、空孔が存在したとしてもその数は3個未満となる。また、各空孔において、最長寸法と最大寸法との和の平均寸法は2.3[mm]以下となるのである。
【0067】
〔その他の実施形態〕
なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0068】
例えば、本実施形態においては、シース部材108の外筒27に凹部29を形成することにより遠心脱泡工程にて気泡を移動可能にしたが、例えば、金属チューブ114に切欠部等の経路を設けることにより気泡を移動可能にしてもよい。
【0069】
また、シース部材108の外筒27に凹部29を形成する場合には、この凹部29の数は、任意の数にすることができる。例えば、図7に示すように、凹部29を4箇所に形成してもよい。
【0070】
さらに、この凹部29は、加締め加工や、引き伸ばしながら凹部29を形成し得る所定の型を通過させる絞り加工や、研磨加工等により形成してもよい。
研磨加工の具体例としては、例えば図8に示すように、対向する2箇所にシース部材108の外筒27を研磨した研磨部36を形成しておけばよい。
【0071】
或いは、シース部材108は、図9に示すように、外筒27を多角形(例えば6角形)にしてもよい。
このようにしても、シース部材108の外筒27の先端と金属チューブ114の段差部55内周とが密着することを防止することができるので、シース部材108と金属チューブ114との隙間部分から良好に気泡を除去することができる。
【0072】
また、本願発明は、図10に示す形態の温度センサ101にも採用することができる。
即ち、図10に示す温度センサ101は、上記実施形態の金属チューブ114に換えて、金属キャップ14を備えている。この金属キャップ14は、先端側71が閉塞した軸線方向に延びる筒状をなし、筒状の後端側72が開放した形態で構成されている。
【0073】
また、金属キャップ14は、先端側の内部にサーミスタ素子2およびセメント110(充填材)を収納しつつ、後端側72の内周面がシース部材108の外筒27の外周面に重なり合った状態で、周方向に対して部分的に加締められ、この状態で遠心脱泡処理が実施される。その後、全周溶接されることで、シース部材108に固定される。
【0074】
なお、溶接作業により、金属キャップ14の後端側72とシース部材108(詳細には、シース部材108の外筒27)とに跨るキャップ溶接部64が形成される。
また、この温度センサ101における取り付け部材4は、詳細は省略するが、シース部材108と直接組み付けられるような形状を有している。このような取り付け部材4は、自身の内部にシース部材108が挿通されたあと、接合部43および第1段部44よりも小径に形成された第2段部46のそれぞれに対して、径方向内向きの加締め作業および溶接作業が行われることで、シース部材108の外筒27の外周面を取り囲んでシース部材108を支持する。つまり、シース部材108は、接合部43および第2段部46に接合されることにより、取り付け部材4に固定される。
【0075】
なお、溶接作業により、接合部43とシース部材108(詳細には、シース部材108の外筒27)とに跨る先端側溶接部62が形成され、第2段部46とシース部材108(詳細には、シース部材108の外筒27)とに跨る後端側溶接部63が形成される。
【0076】
このような温度センサ101においても、遠心脱泡処理が実施されることにより、サーミスタ素子2の周囲のセメント110に空孔が存在しない状態にすることができるので、上記実施形態の温度センサ1と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施形態の温度センサの構造を示す部分破断断面図である。
【図2】実施形態のシース部材の先端部を示す断面図である。
【図3】先端部品の製法を示す流れ図である。
【図4】遠心脱泡装置を示す説明図である。
【図5】金属チューブの研削例を示す説明図である。
【図6】空孔の採寸例を示す説明図である。
【図7】変形例のシース部材の先端部を示す断面図である。
【図8】変形例のシース部材の先端部を示す断面図である。
【図9】変形例のシース部材の先端部を示す断面図である。
【図10】変形例の温度センサの構造を示す部分破断断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1…温度センサ、2…サーミスタ素子、3…電極線、4…取り付け部材、6…継手部材、7…金属芯線、9…感温部、11…加締め端子、12…リード線、13…補助リング、14…金属キャップ、15…絶縁チューブ、21…ノズル、25…先端部品、27…外筒、28…絶縁粉末、29…凹部、31…遠心脱泡装置、32…回転体、33…回転軸、34…ホルダ部材、36…研磨部、43…接合部、44…第1段部、46…第2段部、55…段差部、56…長孔、57…小径部、58…大径部、62…先端側溶接部、63…後端側溶接部、64…キャップ溶接部、71…先端側、72…後端側、101…温度センサ、108…シース部材、110…セメント、114…金属チューブ、131…チューブ先端側、132…チューブ後端側、205…ナット部材、252…ネジ部、304…取り付け部材、341…突出部、345…取り付け座、363…後端側溶接部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度によって電気的特性が変化する感温部と、前記感温部と接続される電極線とを有する感温素子と、
先端部に前記電極線が接続され、後端部に外部回路接続用のリード線が接続される金属芯線と、前記金属芯線の該先端部および該後端部を突出させた状態で、当該金属芯線を絶縁保持する筒部材とを有するシース部材と、
軸線方向に延び、先端側が閉塞した筒状をなし、内部に前記感温素子を収納する素子収納部材と、
前記感温素子と前記素子収納部材との間の空間に充填される充填材と、
を備えた温度センサの製造方法であって、
前記素子収納部材に前記感温素子が収納されていない状態で、前記素子収納部材に未硬化状態の前記充填材を注入する注入工程と、
前記充填材の硬化前に、前記感温素子が取り付けられたシース部材を前記素子収納部材内に挿入することにより、前記感温素子を前記素子収納部材内に注入された充填材中に配置させた中間形成体を形成する挿入工程と、
前記充填材の硬化前に、前記素子収納部材の先端側を外側に向けた状態で、前記中間形成体に遠心力を加えることにより、前記充填材中に含まれる気泡を除去する気泡除去工程と、
前記充填材を硬化させる硬化工程と、
を実施することを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項2】
前記挿入工程と前記気泡除去工程との間に、前記シース部材の前記筒部材と前記素子収納部材とを固定する収納部固定工程を実施すること
を特徴とする請求項1に記載の温度センサの製造方法。
【請求項3】
前記収納部固定工程では、前記素子収納部材の外周の一部分を前記シース部材の前記筒部材に向けて加締めることにより、前記シース部材の前記筒部材と前記素子収納部材とを固定すること
を特徴とする請求項2に記載の温度センサの製造方法。
【請求項4】
前記素子収納部材は、
前記シース部材の前記筒部材を挿入可能な筒状をなす第1胴体部と、
前記シース部材の前記筒部材を挿入不能で且つ先端側が閉塞した筒状をなす第2胴体部と、
前記第1胴体部および前記第2胴体部を接続する段差部と、
を備え、
前記シース部材は、前記筒部材の少なくとも先端部の外側に前記気泡を通過させるための経路を備え、
前記挿入工程では、前記シース部材の前記筒部材の先端部を前記素子収納部材の段差部内周に当接させることにより、前記シース部材と前記素子収納部材との相対位置を定めること
を特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の温度センサの製造方法。
【請求項5】
温度によって電気的特性が変化する感温部と、前記感温部と接続される電極線とを有する感温素子と、
先端部に前記電極線が接続され、後端部に外部回路接続用のリード線が接続される金属芯線と、前記金属芯線の該先端部および該後端部を突出させた状態で、当該金属芯線を絶縁保持する筒部材とを有するシース部材と、
軸線方向に延び、先端側が閉塞した筒状をなし、内部に前記感温素子を収納する素子収納部材と、
前記感温素子と前記素子収納部材との間の空間に充填される充填材と、
を備えた温度センサであって、
前記素子収納部材を前記充填材が充填される位置にて軸線方向と平行な任意の平面で切断したときにおいて、前記感温素子の前記電極線と前記シース部材の前記金属芯線との接続部分よりも先端側における充填材中には、任意の第1方向の寸法が0.3[mm]以上、且つこの寸法が前記第1方向とは直交する第2方向に0.6[mm]以上である四角形領域を配置可能な大きさの空孔が全く存在しないか、
或いは前記感温素子の前記電極線と前記シース部材の前記金属芯線との接続部分よりも先端側における充填材中には、前記空孔が3個未満だけであり、且つ該各空孔は、該各空孔の最長部の寸法を示す最長寸法と、該最長寸法を採寸した方向と直交する方向における最大寸法との和の平均寸法が2.3[mm]以下であること
を特徴とする温度センサ。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図10】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−170952(P2007−170952A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368003(P2005−368003)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)