説明

温度制御システム

【課題】ヒータをスイッチ素子を介して行/列方向に複数配置して配線の簡素化を図った温度制御システムにおいて、任意ヒータにおける他のヒータからの漏れ電流の影響を緩和する。
【解決手段】熱板7上に複数行/複数列配置した複数のヒータ8i,jを各行ごと、各列ごとに配線9i,10jに共通接続する。各行の配線9iそれぞれをスイッチ素子4iを介して交流電源6一極側に共通接続する。各列の配線10jそれぞれをスイッチ素子5jを介して交流電源6他極側に接続する。目標ヒータ8i,jに対して最適サイクル制御により点弧パルス出力(点弧指令)を出力する。目標ヒータ8i,jにおける最適サイクル制御内の出力誤差累積Σi,j(n)更新に際して、干渉操作量MVIi、j(n)を出力誤差累積Σi,j(n)から減算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱物を載置して加熱処理する熱板に対して、複数行/複数列で配線により相互接続した複数ヒータを備えた温度制御システムにかかり、より詳しくは、前記温度制御システムにおいて、目標となるヒータへの駆動電流が配線を介して他のヒータに漏れ電流として流れて当該他のヒータが発熱し、その発熱が目標ヒータの温度制御に干渉してしまうことを抑制できるようにすることに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、被加熱物を、熱板上に載置して加熱処理するような温度制御においては、温度調節器は、熱板に配設された温度センサからの検出温度に基づいて、熱板の温度が設定温度になるように、熱板に配設されたヒータの通電を制御することにより行われる(特許文献1参照)。
【0003】
このような温度制御システムでは、熱板領域を複数行/複数列に領域分けすると共に、それら各領域ごとにヒータおよび温度センサを配設し、熱板をそれら領域ごとに温度制御を行なう場合には、各ヒータの配線や各温度センサの信号線の配線数が増大することになる。
【0004】
そこで、本発明者らは、特願2008−332717(平成20年12月26日出願)で、熱板を行/列方向複数の領域に分け、それら各領域ごとにヒータと温度センサを配置する場合にそれら配線の簡素化を図った温度制御システムを提供した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−274069号号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが提供した前記温度制御システムは、熱板上に複数行/複数列で配置した複数のヒータに対して各行ごとのヒータを各行ごとに配線で共通接続し、また、各列ごとのヒータを各列ごとに配線で共通接続し、各行配線をスイッチ素子を介して、各列配線をスイッチ素子を介して、それぞれ交流電源の各極に共通接続した構成として配線の簡素化を可能としている。
【0007】
しかしながら、前記熱板上で複数行/複数列で配置した複数のヒータの内、制御対象とする目標ヒータに対しそれに対応した行側と列側配線に駆動電流を流した場合、その駆動電流の一部が配線を経由して他のヒータに対して流れてしまい、前記目標ヒータが駆動されて発熱する以外にも複数の他のヒータも駆動されて発熱してしまい、目標ヒータの温度制御に電気的干渉を及ぼし、結果、熱板全体の温度制御に影響するという課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、制御対象の一例である熱板に複数行/複数列で複数のヒータを各配置して配線の簡素化を図ってそれら各ヒータを駆動制御する温度制御システムにおいて、ヒータへの駆動電流が他のヒータに漏れ電流として流れている状態で、当該ヒータへの前記漏れ電流に基づく電気的干渉(干渉操作量)を可能な限り最小限に抑制できるようにすることを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による温度制御システムは、制御対象上に複数行/複数列で配置した複数のヒータを各行ごと、各列ごとに配線に共通接続し、各行の配線それぞれをヒータ点弧指令に応答する素子を介して電源一極側に共通接続し、また、各列の配線それぞれをヒータ点弧指令に応答する素子を介して電源他極側に接続した構成を有する温度制御システムにおいて、各ヒータに対して、前記電源の少なくとも半サイクルごとにその出力誤差累積が閾値以上か否かによりそれらに対応の素子にヒータ点弧指令の出力制御を行うと共に、前記出力誤差累積の更新に際しては、配線を介して他のヒータに流れる電流により受ける干渉操作量を上記更新値から減算する、ことを特徴とする。
【0010】
上記電源は交流電源に限定されない。
【0011】
本発明において好ましい態様は、前記出力誤差最大のヒータを選択すると共に、そのヒータに対して出力誤差累積が閾値以上か否かを判定し、出力誤差累積が閾値以上であれば、当該ヒータによる消費電力が制限電力以下か否かを判定し、消費電力が制限電力以下であれば、干渉操作量最小のヒータを選択すると共に、そのヒータに対して出力誤差累積が閾値以上か否かを判定し、選択したヒータに対応する素子にヒータ点弧指令を出力する、ことである。
【0012】
本発明において好ましい態様は、前記出力誤差最大のヒータを選択すると共に、そのヒータに対して出力誤差累積が閾値以上か否かを判定し、出力誤差累積が閾値以上であれば、当該ヒータによる消費電力が制限電力以下か否かを判定し、消費電力が制限電力以下であれば、当該ヒータと同一行、同一列のヒータについて出力誤差最大のヒータを選択し、選択したヒータに対応する素子にヒータ点弧指令を出力する、ことである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、制御対象に対して行/列方向にヒータを複数配置していることで配線の簡素化を図ることができる温度制御システムに対して最適サイクル制御を行う場合、各ヒータにおける最適サイクル制御内の出力誤差累積更新に際してその更新値から他のヒータへの漏れ電流より受ける干渉操作量を減算するようにしたので、前記温度制御システムの配線簡素化を活かすことができるように前記各ヒータに対して干渉操作量を抑制して最適サイクル制御を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の実施の形態にかかる温度制御システム全体の概略構成を示す図である。
【図2】図2は図1の最適サイクル制御部の構成を詳細に示す図である。
【図3】図3は最適サイクル制御の動作説明に供するフローチャートを示す図である。
【図4】図4はヒータ8−11に対するヒータ駆動電流の他のヒータへの漏れ電流の割合、出力電流期待値、干渉操作量MVIi、j(n)の計算を示す図である。
【図5】図5はヒータ8−11、8−32に対するヒータ駆動電流の他のヒータへの漏れ電流の割合、出力電流期待値、干渉操作量MVIi、j(n)の計算を示す図である。
【図6】図6は電気的干渉が少ないヒータ8i,jから選択するためのフローチャートを示す図である。
【図7】図7は同一行、同一列のヒータ8i,jから選択するためのフローチャートを示す図である。
【図8】図8は同一行、同一列のヒータ8i,jから選択するためのより簡単化したフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係る温度制御システムを説明する。
【0016】
図1に同温度制御システムの概略構成と共に制御対象である熱板に配設した複数ヒータの配線構造を示す。図1において、1は温度制御システム全体、2は温度調節器、3はコントローラ、4−1,4−2,4−3(代表するときは4i)は行方向各行のスイッチ素子(ゼロクロス機能付SSR)、5−1,5−2,5−3(代表するときは5j)は列方向各列のスイッチ素子(ゼロクロス機能付SSR)、6は交流電源、7は制御対象の一例としての平面視矩形の熱板、8−11〜8−33(代表するときは8i,j)は熱板7を複数行/複数列の領域に分割しその分割各領域に配置されたヒータである。これら分割各領域には図1で図示略の温度センサも配置されている。
【0017】
温度調節器2は、目標値入力手段2a、操作量算出手段2b、制御量入力手段2cを備える。目標値入力手段2aは操作量算出手段2bに目標値を入力する。制御量入力手段2cは熱板7に前記したように複数行/複数列で配置した複数の温度センサ11−11〜11−33(代表するときは温度センサ11i,j)からの検出温度を制御量として操作量算出手段2bに入力する。操作量算出手段2bは各目標値と各制御量とから各ヒータ8i,jに対する各操作量MVi,j(n)を算出し、その算出した各操作量MVi,j(n)をコントローラ3に入力する。
【0018】
コントローラ3は、入力された各操作量MVi,j(n)に応じて各行、各列のヒータ8i,jに対して交流電源6の半サイクルごとにスイッチ素子4i,5jにヒータ点弧指令を与えることによりスイッチ素子4i,5jをオンオフ制御してヒータ点弧パルス出力または出力無しを行ういわゆる最適サイクル制御により交流電源6の電力を各ヒータ8i,jに印加して駆動することができるようになっている。
【0019】
行方向において、第1行のヒータ8−11,8−12,8−13は、第1行配線9−1に、第2行のヒータ8−21,8−22,8−23は、第2行配線9−2に、第3行のヒータ8−31,8−32,8−33は、第3行配線9−3にそれぞれ、共通接続されると共に各行配線9−1〜9−3は交流電源6の一方極に対してスイッチ素子4−1,4−2,4−3を介して接続されている。
【0020】
列方向において、第1列のヒータ8−11,8−21,8−31は、第1列配線10−1に、第2列のヒータ8−12,8−22,8−32は、第2列配線10−2に、第3列のヒータ8−13,8−23,8−33は、第3列配線10−3にそれぞれ、共通接続されると共に各列配線10−1〜10−3は交流電源6の他方極に対してスイッチ素子5−1,5−2,5−3を介して接続されている。
【0021】
換言すれば、各行/各列のヒータ8i,jは、各行配線9i,各列配線10jにより、各行/各列のスイッチ素子4i,5jを介して、交流電源6に接続されている。したがって、各行/各列のスイッチ素子4i,5jに点弧パルス出力Yi,j(n)を出力印加してこれらスイッチ素子4i,5jを選択的にオンオフすることで、熱板7の温度を制御したい領域にある目標ヒータ8i,jに交流電源6を印加して選択駆動することができる。
そして、コントローラ3は、点弧パルス出力Yi,j(n)をこれらスイッチ素子4i,5jに出力することで当該スイッチ素子4i,5jを選択駆動することができるようになっている。
【0022】
図2を参照してコントローラ3による最適サイクル制御を説明する。図2には、温度調節器2、コントローラ3、スイッチ素子4i,5j、ヒータ8i,j、温度センサ11i,j、および温度調節器2が示されている。コントローラ3は、温度調節器2の操作量算出手段2bからの操作量MVi,j(n)を交流電源の半サイクル間保持するサンプル・ホールド部3aと、操作量MVi,j(n)と実際の出力値(スイッチ素子の駆動出力)Yi,j(n)との出力誤差Ei,j(n)を算出する出力誤差演算部3bと、出力誤差演算部3bで求めた出力誤差Ei,j(n)を累積する出力誤差累積部3cと、入力された操作量MVi,j(n)と出力誤差累積値Σi,j(n)とを加算する加算部(補正部)3dと、加算部3dの出力Yi,j(n)を受け、その入力値Yi,j(n)と所定の閾値Sとを比較し、入力値Yi,j(n)が閾値Sより大なる場合に100〔%〕出力、入力値Yi,j(n)が閾値Sより小なる場合に0%出力とする比較部3eとを備えている。
【0023】
図3のフローチャートを参照して、コントローラ3の動作を説明する。このフローチャートは、各ヒータ8i,j(ヒータ8−11,ヒータ8−12,8−13,8−21,8−22,8−23,8−31,8−32,8−33)それぞれのフローチャートである。ステップST1で動作の開始にあたり、先ず初期処理が実施される。ステップST2で初期処理に続いて、変数nを1インクリメントする。処理開始で先ずn=1とする。ステップST3で、加算部3dは、サンプル・ホールド部3aから第1番目(n=1)のオン比率入力である操作量MVi,j(n)を取り込む。この操作量MVi,j(n)は各ヒータ8i,jそれぞれの操作量である。ステップST4で、加算部3dは、出力誤差累積部3cから前回までの各ヒータ8i,jそれぞれの出力誤差累積Σi,j(n−1)にサンプル・ホールド部3aからの今回の操作量MVi,j(n)を加算し、今回の出力誤差累積Σi,j(n)=Σi,j(n−1)+MVi,j(n)を、各ヒータ8i,jごとに求める。
【0024】
ステップST5で、比較部3eは加算部3dから各ヒータ8i,jそれぞれの出力誤差累積ΣYi,j(n)を入力すると共に、この出力誤差累積Σi,j(n)と閾値Sとを比較する。
【0025】
前記比較の結果、出力誤差累積Σi,j(n)が閾値S以上であるヒータ8i,jに対して、ステップST6で点弧パルス出力Yi,j(n)を100〔%〕とし、逆に出力誤差累積Σi,j(n)が閾値Sよりも小さいヒータ8i,jに対して、ステップST7で点弧パルス出力Yi,j(n)を無点弧(スイッチ素子をオフしてヒータ駆動を停止すること)の0〔%〕とする。
【0026】
ステップST8で、出力誤差演算部3bは、サンプル・ホールド部3aからの今回の操作量MVi,j(n)と、比較部3eからの点弧パルス出力Yi,j(n)との偏差を各ヒータ8i,jの出力誤差Ei,j(n)(=MVi,j(n)−Yi,j(n))として求める。この出力誤差Ei,j(n)は出力誤差累積部3cに出力する。ステップST9で、出力誤差累積部3cにおいては、それまでの出力誤差累積値Σi,j(n−1)に今回の出力誤差Ei,j(n)を加算すると共に、後述する干渉操作量MVIi、j(n)をその絶対値で減算して、出力誤差累積Σi,j(n−1)を更新する。これにより、各ヒータ8i,jに対する最初の半サイクルに係る処理を終了する。
【0027】
各ヒータ8i,jごとの干渉操作量MVIi、j(n)の計算について図4を参照して説明する。各ヒータ8i,jは、熱板7上で、一例として、i(行)方向3行、j(列)方向3列に行/列(マトリクス)配置されているが、例えばヒータ8−11に駆動電流を流した場合、他のヒータ8−12,…には漏れ電流が流れ、この漏れ電流は各ヒータ8i,j相互に対して電気的干渉を発生させる。本実施の形態では、この電気的干渉の程度を量的に表現するため干渉操作量の用語を用いる。
【0028】
以下、各ヒータ8i,jにおける干渉操作量MVIi、j(n)を説明する。IMAXi,jをヒータ8i,jに操作量Mi,j(n)を100%で入力したときの最大ヒータ電流、Ii,jを各行、各列のヒータ8i,jに流れる電流、IEXPi,jをヒータ8i,jに対する目標ヒータ電流とすると、干渉操作量MVIi、j(n)は、次式(1)で与えられる。
【0029】
MVIi、j(n)=
|(Ii,j−IEXPi,j)/IMAXi,j| …(1)
前記式(1)から各ヒータ8i,jごとの干渉操作量MVIi、j(n)を求めることができる。
【0030】
例えば、図4を参照して第1行、第1列目のヒータ8−11を点弧する場合を説明する。図4では各ヒータ8i,jごとに、図3で示すフローチャートを実行し、それぞれ、出力誤差累積Σi,j(n−1)を求め、その出力誤差累積Σi,j(n−1)更新において干渉操作量MVIi、j(n)を減算する。
【0031】
すなわち、ヒータ8i,jに流れる最大ヒータ電流IMAXi,jは、図4(a)で示すように、例えば交流電源6の電源電圧を100V、各ヒータ8i,jの抵抗を100Ωとすると、1(A)である。
【0032】
スイッチ素子4−1と5−1とをオンしてヒータ8−11を選択して該ヒータ8−11にヒータ電流I11を流した場合、他のヒータ8−12,8−13,…には漏れ電流I12,I13,…が流れる。すなわち、ヒータ電流Ii,jは、図4(b)で示すように、キルヒホッフの法則に従い、ヒータ8−11のヒータ電流I11は1.0(A)、ヒータ8−12のヒータ電流I12は0.4(A)、ヒータ8−13のヒータ電流I13は0.4(A)、ヒータ8−21のヒータ電流I21は0.4(A)、である。以下、同様にして、図4(b)で示すヒータ電流となる。
【0033】
そして、各ヒータ8−11,ヒータ8−12,8−13,8−21,8−22,8−23,8−31,8−32,8−33の目標ヒータ電流IEXPi,jは図4(c)で示すようになる。すなわち、ヒータ8−11の目標ヒータ電流IEXPi,jは「1.0」、他のヒータ8−12,8−13,8−21,8−22,8−23,8−31,8−32,8−33の目標ヒータ電流IEXPi,jは「0」である。
【0034】
干渉操作量MVIi、j(n)は、前記式(1)に前記値を代入して、図4(d)で示すように、ヒータ8−11,ヒータ8−12,8−13,8−21,8−22,8−23,8−31,8−32,8−33それぞれで、「0」,「0.4」,「0.4」,「0.4」,「0.2」,「0.2」,「0.4」.「0.2」,「0.2」となる。
そして、図3のステップST9において出力誤差累積Σi,j(n−1)の更新に際して、各ヒータ8i,jごとに干渉操作量MVIi、j(n)を減算する。そして、ステップST2に戻り、ステップST4で出力閾値判定で出力誤差累積Σi,j(n−1)が閾値S以上のヒータ8i,jであれば、点弧パルスを出力してオンすると共に、閾値S以下のヒータ8i,jであれば、点弧パルスを出力しない(無点弧)。
【0035】
こうして、ヒータ8i,jごとにステップST9で干渉操作量MVIi、j(n)を減算して出力誤差累積Σi,j(n)更新を行い、ステップST2に戻り、操作量MVi,jを入力し、出力誤差累積Σi,j(n)の計算を行い、出力閾値判定で出力誤差累積Σi,j(n)が閾値S以上となれば点弧パルス出力Yi,j(n)を行い、それ以下であれば無点弧とする。こうして、ステップST9で干渉操作量MVIi、j(n)を減算する図3のフローチャートを繰り返すことで熱板7上の各ヒータ8i,jの点弧、無点弧を行うことにより、他のヒータ8i,jからの電気的干渉を抑制して、温度制御を行うことができる。
【0036】
図5を参照して2つ以上のヒータ8i,j、すなわち、ヒータ8−11,8−32が点弧する例を説明する。図5(a)で示すように各ヒータ8i,jでの最大ヒータ電流IMAXi,jを求める。ついで、各ヒータ8i,j(ヒータ8−11,ヒータ8−12,8−13,8−21,8−22,8−23,8−31,8−32,8−33)に流れるヒータ電流Ii,jをキルヒホッフの法則により求めると図5(b)で示すようになる。ヒータ8−11,ヒータ8−12,8−31,8−32のヒータ電流Ii,jは1.0となり、他のヒータ8−13,8−21,8−22,8−33は0.25となり、ヒータ8−23は0.5となる。それぞれのヒータ8−11,ヒータ8−12,8−13,8−21,8−22,8−23,8−31,8−32,8−33での目標ヒータ電流IEXPi,jは、図5(c)で示すように、「1.0」「0」「0」「0」「0」「0」「1.0」「0」となる。これにより各ヒータ8−11,ヒータ8−12,8−13,8−21,8−22,8−23,8−31,8−32,8−33における干渉操作量MVIi、j(n)は「0」「1」「0.25」「0.25」「0.25」「0.5」「1」「0」「0.25」となる。
【0037】
そして、図3のフローチャートのステップST9において各8−11,ヒータ8−12,8−13,8−21,8−22,8−23,8−31,8−32,8−33それぞれの出力誤差累積Σi,j(n−1)の更新から前記干渉操作量MVIi、j(n)をそれぞれ減算し、ステップST2に戻り、ステップST5で出力閾値の判定から出力誤差累積Σi,j(n−1)が閾値S以上のヒータ8i,jは点弧パルスを出力し、閾値S以下のヒータ8i,jには点弧パルスを出力しない。
【0038】
つまり、各ヒータ8i,jごとに、図3のフローチャートを実行すると共にステップST9で出力誤差累積Σi,j(n−1)から干渉操作量MVIi、j(n)を減算している。
【0039】
このようにして図5のフローチャートにおいても、ヒータ8i,jごとにステップST9で干渉操作量MVIi、j(n)を減算して出力誤差累積Σi,j(n)更新を行い、ステップST2に戻り、操作量MVi,jを入力し、出力誤差累積Σi,j(n)の計算を行い、出力閾値判定で出力誤差累積Σi,j(n)が閾値S以上となれば点弧パルス出力Yi,j(n)を行い、それ以下であれば無点弧とする。こうして、ステップST9で干渉操作量MVIi、j(n)を減算する図3のフローチャートを繰り返すことで熱板7上の各ヒータ8i,jの点弧、無点弧を行うことにより、他のヒータ8i,jからの電気的干渉を抑制して、温度制御を行うことができる。
【0040】
図3のフローチャートに対して、図6ないし図8は、いずれも出力誤差が最大のヒータ8i,jを選択して出力誤差を解消し、かつ、消費電力<電力制限の条件が成立するか否かを判定した後、以後のステップに進むフローチャートである。そして、図6では、干渉操作量MVIi、j(n)が少ないヒータ8i,jから選択するフローチャートを説明し、図7では、同一行、同一列からヒータ8i,jを選択することで、全部、干渉操作量MVIi、j(n)を計算する手間を解消したフローチャートを説明し、図8では、同一行、列からヒータ8i,jを選択することで行または列の重なりが全く無い場合より、漏れ電流が小さくなるようにしたフローチャートを説明する。
【0041】
まず、図6のフローチャートから説明すると、ステップST10において、変数nを1インクリメントする。処理開始で先ずn=1とする。ステップST11で、出力Yi,j(n)を初期化(=0%)する。ステップST12で、操作量MVi,j(n)を取り込む。ステップST13で出力誤差累積Σi,j(n)=Σi,j(n−1)+MVi,j(n)を計算する。そして、ステップST14で、出力誤差Σi,j(n)が最大のヒータ8i,jを選択する。
【0042】
ステップST15で、最大の出力誤差累積Σi,j(n)と閾値Sとを比較する。この比較の結果、出力誤差累積Σi,j(n)が閾値S以上でなければ、ステップST10に戻り、閾値S以上であると、ステップST16で消費電力<電力制限かどうかを判断する。ヒータ8i,jでの消費電力が電力制限を越えていなければ、ステップST17以降に移行する。
【0043】
ステップST17では、各ヒータ8i,jごとに干渉操作量MVIi、j(n)を求めると共にその総和を計算する。この干渉操作量MVIi、j(n)の計算の説明は、図4、図5で説明したので、省略する。
【0044】
ステップST18では、最小の干渉操作量MVIi、j(n)のヒータ8i,jを追加選択し、ステップST19で閾値Sを判定する。そして、ステップST16に戻り、同様のことを繰り返し、最小の干渉操作量MVIi、j(n)のヒータ8i,jを追加選択していき、最終的に、ステップST16でヒータ8i,jでの消費電力が電力制限を越えていれば、ステップST20では最後に選択したヒータ8i,jを点弧対象となるヒータ8i,jから除外する。ステップST21では選択したヒータ8i,jに対して点弧パルス出力Yi,j(n)を出力し、ステップST22で出力誤差Ei,j(n)=MVi,j(n)−Yi,j(n)を計算し、ステップST23で出力誤差累積Σi,j(n)を更新して終了する。このステップ23ではその出力誤差累積Σi,j(n−1)から干渉操作量MVIi、j(n)を減算する。
【0045】
図7のフローチャートでは、ステップST10からST16までは図6のそれと同様であり、ステップST17で、x行、y列のヒータ8i,jについて出力点弧したときの干渉操作量MVIi、j(n)の総和を計算する。それ以降のステップST18以降は図6のフローチャートのステップST18以降と同様である。
【0046】
図8のフローチャートは、同一行、列から選択し、さらに簡単化したものであり、ステップST10からST16までは図6のそれと同様であり、ステップST16の次のステップST25では出力誤差最大のヒータ8i,jを選択する。そして、ステップST26で出力誤差累積Σi,j(n)が閾値S以下であればステップST10に戻り、出力誤差累積Σi,j(n)が閾値Sを越えれば、ステップST27で点弧パルス出力Yi,j(n)を出力し、ステップST16に戻る。そして、ステップST16でヒータ8i,jでの消費電力が電力制限を越えていれば、図6のフローチャートのステップST20−ST23と同様のステップを実行する。
【0047】
以上説明したように本実施の形態では、制御対象である熱板7に対して行/列方向にヒータ8i,jを複数配置した温度制御システムであって、各ヒータに対する最適サイクル制御内の出力誤差累積Σi,j(n)更新に際して他のヒータへの干渉操作量MVIi、j(n)を減算するようにしたので、温度制御システムの配線簡素化を活かすと共に各ヒータ8i,jの温度制御に対して干渉操作量MVIi、j(n)を抑制して最適サイクル制御を行うことができるようになる。
【0048】
なお、ヒータ8i,jを点弧するヒータ点弧指令に応答する素子としては、上記スイッチ素子4i,5jに限定されるものではなく、位相制御される素子、例えば電力調整器を用いてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 温度制御システム
2 温度調節器
3 制御部
4−1,4−2,4−3 行方向スイッチ素子
5−1,5−2,5−3 列方向スイッチ素子
6 交流電源
7 熱板
8−11〜8−33 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象上に複数行/複数列で配置した複数のヒータを各行ごと、各列ごとに配線に共通接続し、各行の配線それぞれをヒータ点弧指令に応答する素子を介して電源一極側に共通接続し、また、各列の配線それぞれをヒータ点弧指令に応答する素子を介して電源他極側に接続した構成を有する温度制御システムにおいて、
各ヒータに対して、前記電源の少なくとも半サイクルごとにその出力誤差累積が閾値以上か否かによりそれらに対応の素子にヒータ点弧指令の出力制御を行うと共に、前記出力誤差累積の更新に際しては、配線を介して他のヒータに流れる電流により受ける干渉操作量を上記更新値から減算する、ことを特徴とする温度制御システム。
【請求項2】
前記出力誤差最大のヒータを選択すると共に、そのヒータに対して出力誤差累積が閾値以上か否かを判定し、出力誤差累積が閾値以上であれば、当該ヒータによる消費電力が制限電力以下か否かを判定し、消費電力が制限電力以下であれば、干渉操作量最小のヒータを選択すると共に、そのヒータに対して出力誤差累積が閾値以上か否かを判定し、選択したヒータに対応する素子にヒータ点弧指令を出力する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記出力誤差最大のヒータを選択すると共に、そのヒータに対して出力誤差累積が閾値以上か否かを判定し、出力誤差累積が閾値以上であれば、当該ヒータによる消費電力が制限電力以下か否かを判定し、消費電力が制限電力以下であれば、当該ヒータと同一行、同一列のヒータについて出力誤差最大のヒータを選択し、選択したヒータに対応する素子にヒータ点弧指令を出力する、請求項1に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−187404(P2011−187404A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54248(P2010−54248)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】