説明

温度制御装置及び温度素子用の電源装置

【課題】PCR法における所定の温度パターンに対して、DNA検体(反応溶液)の温度変化を追従させること。
【解決手段】温度素子61は、相互に離間して配置されるp型半導体72Pとn型半導体72Nとの組と、DNA検体の容器を直接装着する装着部81を有し、p型半導体72Pとn型半導体72Nとの各々に接合する金属製ウェル71と、p型半導体72Pに接合され、温度制御部62により電圧が印加される電極兼放熱板73Pと、n型半導体72Nに接合され、温度制御部62により電圧が印加される電極兼放熱板73Nとを備えている。温度制御部62により電極兼放熱板73P,73Nの各々に異なる電圧が印加されて、p型半導体72Pとn型半導体72Nとの間に電位差が生じた場合、金属製ウェル71は、p型半導体72Pとn型半導体72Nとの一方から他方へ電流を流すと共に熱を伝搬することで、ペルチェ効果を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA検体を増幅するPCR法に適用可能な温度制御装置及び温度素子用の電源装置に関する。特に、PCR法におけるDNA検体に対する温度制御の高応答性を実現可能な温度制御装置及び温度素子用の電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、DNA(Deoxyribonucleic acid、デオキシリボ核酸)を増幅する手法として、PCR法(Polymerase chain Reaction、ポリメラーゼ連鎖反応法)が知られている。PCR法は、DNA検体に対して、当該DNA検体と反応させるプライマ、酵素、及びデオキシリボヌクレオシド三リン酸を加えた反応溶液を、温度目標値の時間推移の所定パターンにしたがって加熱又は冷却する処理を繰り返すことによって、DNAを増幅する手法である。
【0003】
このようなPCR法によりDNAを増幅する従来のDNA増幅装置においては、DNA検体(反応溶液)を加熱又は冷却するために、ペルチェ効果を有する素子(以下、「ペルチェ素子」と称する)が利用されている(特許文献1,2参照)。ペルチェ効果とは、異なる導体、例えばp型半導体とn型半導体との接合に対して電流を流した場合に、その接合部で熱の吸収が発生する現象をいう。
【0004】
図1は、従来のペルチェ素子1の概略構成を示す断面図である。
【0005】
従来のペルチェ素子1は、図1中下方から順に、放熱板21Bと、電圧が印加される電極板23P,23Nと、電極板23Pに接合されるp型半導体24P及び電極板23Nに接合されるn型半導体24Nの組と、この組に接合される電極板22Aと、放熱板21Aとが積層されて構成される。
【0006】
なお、特許文献2においては、電極板23P,23Nに相当する金属板a11,a12と、p型半導体24P及びn型半導体24Nの組に相当するp型半導体a4及びn型半導体a3の組と、電極板22Aに相当する金属板a2とからなるものを、ペルチェ素子と称している(特許文献2の図6参照)。しかしながら、特許文献2でいうペルチェ素子により加熱又は冷却される被温度制御対象は、熱伝導板12,22等を介在して配設されている(特許文献2の図1参照)。即ち、図1において、被温度制御対象は容器31であり、この容器31と電極板22Aとの間に放射板21Aが介在していることと、特許文献2において、被温度制御対象(容器31に相当)と金属板a2との間に熱伝導板12,22等を介在していることとは等価である。換言すると、特許文献2における熱伝導板12,22等は、図1の放熱板21Aに相当する。同様に、特許文献2における放熱フィン51,52の下面部は、図1の放熱板21Bに相当する。以上まとめると、特許文献2には、図1の従来のペルチェ素子1をそのまま用いて、被温度制御対象に対する温度制御が実行されることが単に開示されているに過ぎない。
【0007】
以下、説明の簡略上、従来のペルチェ素子1の図1中上方の面側の部位、即ち、放熱板21A及び電極板22Aをまとめて、「A面部位」と称する。一方、ペルチェ素子1の図1中下方の面側の部位、即ち、放熱板21B及び電極板23P,23Nをまとめて、「B面部位」と称する。また、電極板23Pを基準として、電極板23Pが高電位になり、電極板23Nが低電位になるように電圧が印加されることを、以下、「従来のペルチェ素子1にプラス電圧が印加される」と表現する。逆に、電極板23Pが低電位になり、電極板23Nが高電位になるように電圧が印加されることを、以下、「従来のペルチェ素子1にマイナス電圧が印加される」と表現する。
【0008】
例えば図1に示すように、DNA検体(反応溶液)が収容された容器31が、従来のペルチェ素子1のA面部位側に、より具体的には、放熱板21Aの表面上に配置されているとする。
【0009】
この場合、従来のペルチェ素子1にマイナス電圧が印加されると、電流が、電極板23Nから電極板23Pに向けて流れる。具体的には、電流が、電極板23N、n型半導体24N、電極板22A、p型半導体24P、及び電極板23Pの順に流れる。その結果、A面部位が吸熱部となり、B面部位が発熱部となる。具体的には、従来のペルチェ素子1に印加されたマイナス電圧によって、電極板23Nから電極板23Pに向けて流れる電流の値に応じて、A面部位が低温となりB面部位が高温となるような温度差△Tが生ずる。これにより、容器31の熱がA面部位に吸熱され、容器31が冷却される。
【0010】
これに対して、従来のペルチェ素子1にプラス電圧が印加されると、電流が、プラス電圧が印加された場合とは逆方向に流れる。具体的には、電流が、電極板23P、p型半導体24P、電極板22A、n型半導体24N、及び電極板23Nの順に流れる。その結果、プラス電圧が印加された場合とは逆に、A面部位が発熱部となり、B面部位が吸熱部となる。具体的には、従来のペルチェ素子1に印加されたプラス電圧の電圧値によって、電極板23Pから電極板23Nに向けて流れる電流の値に応じて、A面部位が高温となりB面部位が低温となるような温度差△Tが生ずる。これにより、A面部位から発せられた熱が容器31に伝搬され、容器31が加熱される。
【0011】
したがって、電極板23Nと電極板23Pとの間に流れる電流の値を、温度目標値の時間推移の所定パターンに対応するように可変制御することによって、PCR法におけるDNA検体に対する温度制御が実現可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−223292号公報
【特許文献2】特開2007−198718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1や2を含む従来のDNA増幅装置を利用した場合、PCR法における温度目標値の時間推移の所定パターンに応じた電流の値の変化に対して、DNA検体(反応溶液)の温度が十分に追従して推移しない。即ち、特許文献1や2を含む従来のDNA増幅装置では、PCR法におけるDNA検体(反応溶液)に対する温度制御の応答性が十分に得られない。
【0014】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、PCR法におけるDNA検体に対する温度制御の高応答性を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の温度制御装置(例えば実施形態におけるDNA増幅装置51)は、
対象物(例えば実施形態におけるプラスチックチューブ82)を加熱又は冷却する温度制御装置において、
ペルチェ効果により前記DNA検体を加熱又は冷却する温度素子(例えば実施形態における温度素子61)と、
前記温度素子に対する通電制御を行う制御部(例えば実施形態における温度制御部62)と
を備え、
前記温度素子は、
相互に離間して配置されるp型半導体(例えば実施形態におけるp型半導体72P)及びn型半導体(例えば実施形態におけるn型半導体72N)の組と、
前記対象物を装着する装着部(例えば実施形態における装着部81)を有し、前記p型半導体は第1又は第2の面で、と前記n型半導体とは前記第1又は第2の面に対向する第2又は第1の面で各々に接合する接合部位(例えば実施形態における金属製ウェル71)と、
前記p型半導体に接合され、前記制御部により電圧が印加される第1の電極部位(例えば実施形態における電極兼放熱板73P)と、
前記n型半導体に接合され、前記制御部により電圧が印加される第2の電極部位(例えば実施形態における電極兼放熱板73N)と
を有し、
前記制御部により前記第1の電極部位と前記第2の電極部位との各々に異なる電圧が印加されて、前記p型半導体と前記n型半導体との間に電位差が生じた場合、前記接合部位は、前記p型半導体と前記n型半導体との一方から他方へ電流を流すと共に熱を伝搬することで、前記ペルチェ効果を生じさせ、
前記制御部は、スイッチングレギュレータ(実施形態におけるスイッチングレギュレータ111P1乃至111M2)とリニアレギュレータ(実施形態におけるリニアレギュレータ113P及び113M)とを併せ持つ定電流源(実施形態における定電流源装置102)を有し、
前記定電流源は、
前記スイッチングレギュレータの出力電圧の絶対値が閾値以上の場合には、定電流の出力可変制御を前記スイッチングレギュレータに担当させ、
前記スイッチングレギュレータの出力電圧の絶対値が前記閾値未満の場合には、定電流の出力可変制御を前記リニアレギュレータに担当させる、
温度制御装置であることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、温度素子に設けられた接合部位は、p型半導体とn型半導体と直接接合し、p型半導体とn型半導体の一方から他方へ電流を流すと共に熱を伝搬することで、ペルチェ効果を生じさせる機能を有している。この接合部位には装着部が設けられており、DNA検体を収容した所定の容器を当該装着部に直接装着することができる。したがって、DNA検体は、温度制御系にとって遅れ要素となるもの(例えば図1の従来のペルチェ素子1の放熱板21A)を介在せずに、接合部位により直接加熱又は冷却される。その結果、従来のペルチェ素子1を採用した場合と比較して、温度制御の高応答性が実現する。
【0017】
さらに、この発明によれば、定電流源は、スイッチングレギュレータとリニアレギュレータとを併せ持ち、スイッチングレギュレータの出力電圧の値に応じて、定電流の出力可変制御の担当を振り分けている。これにより、例えば±30A程度の大電流かつ例えば±0.3V程度の小電圧を出力することが可能になると共に、従来のリニアレギュレータを採用した場合と比較して電力効率が飛躍的に向上する。
【0018】
この場合、前記対象物は、DNA(Deoxyribonucleic acid)検体収容に用いられる所定の容器であり、前記装着部には、前記容器が装着されることになる。
【0019】
この発明をPCR法に適用することで、その温度目標値の時間推移の所定パターンに対して、DNA検体の温度を追従させて推移させることが可能になる。即ち、PCR法におけるDNA検体に対する温度制御の高応答性が実現可能になる。
【0020】
この場合、前記温度素子は、
前記p型半導体及び前記n型半導体の複数の組を有し、
前記接合部位の前記第1の面(例えば実施形態における側面71a)には、前記複数の組の各々の前記p型半導体(例えば実施形態におけるp型半導体72P1及びp型半導体72P2)が接合され、前記接合部位の前記第2の面(例えば実施形態における側面71b)には、前記複数の組の各々の前記n型半導体(例えば実施形態におけるn型半導体72N1及びn型半導体72N2)が接合されており、
前記第1の電極部位には、前記複数の組の各々の前記p型半導体が接合され、前記第2の電極部位には、前記複数の組の各々の前記n型半導体が接合されているようにしてもよい。
【0021】
或いは、この場合、前記温度素子は、
前記p型半導体及び前記n型半導体の複数の組を有し、
前記接合部位の前記第1の面(例えば実施形態における側面71a)から前記第2の面(例えば実施形態における側面71b)に至って絶縁物(例えば実施形態における絶縁物91)が挿入されることで、前記接続部位は複数の領域(例えば実施形態における領域201,202)に区分されており、
前記複数の領域毎に、前記第1の面側に前記p型半導体を接合して前記第2の面側に前記n型半導体を接合する組と(例えば実施形態におけるp型半導体72P2及びn型半導体72N2の第2組)、前記第1の面側に前記n型半導体を接合して前記第2の面側に前記p型半導体を接合する組(例えば実施形態におけるp型半導体72P1及びn型半導体72N1の第1組)とが交互に配置されており、
前記第1の電極部位(例えば実施形態における電極兼放熱板73P)には、前記第1の面に接続された所定の前記p型半導体(例えば実施形態におけるp型半導体72P2)が接合され、前記第2の電極部位(例えば実施形態における電極兼放熱板73N)には、前記第1の面に接続された所定の前記n型半導体(例えば実施形態におけるn型半導体72N1)が接合されており、
前記複数の組を直列に接合する第3の電極部位(例えば実施形態における電極兼放熱板73PN)をさらに有するようにしてもよい。
【0022】
また、この場合、前記温度素子の前記第1の電極部位と前記第2の電極部位とのうち少なくとも一方を冷却する冷却部(例えば実施形態における水冷部63)をさらに備えるようにしてもよい。
【0023】
さらにまた、この場合、前記温度制御装置は、携帯型の装置であるようにしてもよい。携帯型の装置とは、人間が自在に持ち運び可能に構成された装置をいう。
【0024】
本発明の温度素子(例えば実施形態における温度素子61)用の電源装置(例えば実施形態における定電流電源装置102)は、
ペルチェ効果により対象物(例えば実施形態におけるプラスチックチューブ82)を加熱又は冷却する温度素子用の電源装置において、
相互に離間して配置されるp型半導体(例えば実施形態におけるp型半導体72P)及びn型半導体(例えば実施形態におけるn型半導体72N)の組と、
前記対象物を装着する装着部(例えば実施形態における装着部81)を有し、前記p型半導体と前記n型半導体との各々に接合する接合部位(例えば実施形態における金属製ウェル71)と、
前記p型半導体に接合され、外部から電圧が印加される第1の電極部位(例えば実施形態における電極兼放熱板73P)と、
前記n型半導体に接合され、外部から電圧が印加される第2の電極部位(例えば実施形態における電極兼放熱板73N)と
を有し、
前記第1の電極部位と前記第2の電極部位との各々に異なる電圧が外部から印加されて、前記p型半導体と前記n型半導体との間に電位差が生じた場合、前記接合部位は、前記p型半導体と前記n型半導体との一方から他方へ電流を流すと共に熱を伝搬することで、前記ペルチェ効果を生じさせ、
前記電源装置は、
スイッチングレギュレータ(実施形態におけるスイッチングレギュレータ111P1乃至111M2)とリニアレギュレータ(実施形態におけるリニアレギュレータ113P及び113M)とを併せ持つ定電流源装置であって、
前記スイッチングレギュレータの出力電圧の絶対値が閾値以上の場合には、定電流の出力可変制御を前記スイッチングレギュレータに担当させ、
前記スイッチングレギュレータの出力電圧の絶対値が前記閾値未満の場合には、定電流の出力可変制御を前記リニアレギュレータに担当させる、
温度素子用の電源装置であることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、温度素子に設けられた接合部位は、p型半導体とn型半導体と直接接合し、p型半導体とn型半導体の一方から他方へ電流を流すと共に熱を伝搬することで、ペルチェ効果を生じさせる機能を有している。この接合部位には装着部が設けられており、冷却又は加熱の対象物を当該装着部に直接装着することができる。したがって、当該対象物は、温度制御系にとって遅れ要素となるもの(例えば図1の従来のペルチェ素子1の放熱板21A)を介在せずに、接合部位により直接加熱又は冷却される。その結果、従来のペルチェ素子1を採用した場合と比較して、温度制御の高応答性が実現する。したがって、本発明に係る温度素子をPCR法に適用することで、即ち、当該対象物としてDNA検体を収容可能な所定の容器を採用することで、PCR法における温度目標値の時間推移の所定パターンに対して、DNA検体の温度を追従させて推移させることが可能になる。即ち、PCR法におけるDNA検体に対する温度制御の高応答性が実現可能になる。
【0026】
さらに、この発明によれば、定電流源は、スイッチングレギュレータとリニアレギュレータとを併せ持ち、スイッチングレギュレータの出力電圧の値に応じて、定電流の出力可変制御の担当を振り分けている。これにより、例えば±30A程度の大電流かつ例えば±0.3V程度の小電圧を出力することが可能になると共に、従来のリニアレギュレータを採用した場合と比較して電力効率が飛躍的に向上する。
【0027】
この場合、前記装着部は、前記対象物の形状に対応した加工が施されて、前記接合部位内に形成されているようにすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、PCR法におけるDNA検体に対する温度制御の高応答性が実現可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来のペルチェ素子の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るDNA増幅装置の概略構成を示す上面図である。
【図3】図2のDNA増幅装置の温度素子の金属製ウェルの概略構成を示す斜視図である。
【図4】図2のDNA増幅装置の温度制御部の概略構成を示す構成図である。
【図5】図4の温度制御部の定電流電源装置の概略構成を示す構成図である。
【図6】図2のDNA増幅装置の温度素子であって、p型半導体及びn型半導体の2組が並列に配置される場合の温度素子の概略構成を示す上面図である。
【図7】図6の温度素子の概略構成の斜視図である。
【図8】図6の温度素子の概略構成であって、図7とは異なる構成の斜視図である。
【図9】図2のDNA増幅装置の温度素子であって、p型半導体及びn型半導体の2組が直列に配置される場合の温度素子の概略構成を示す上面図である。
【図10】図9の温度素子の概略構成の斜視図である。
【図11】同一条件のPCR法の試験を、図1の従来のペルチェ素子を備える従来のDNA増幅装置を用いて実現した場合と、図2のDNA増幅装置を用いて実現した場合との比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0031】
図2は、本発明の一実施形態に係るDNA増幅装置51の概略構成を示す上面図である。
【0032】
DNA増幅装置51は、温度素子61と、温度制御部62と、水冷部63とを備える。温度素子61は、ペルチェ効果により対象物を冷却又は加熱すべく、金属製ウェル71と、p型半導体72P及びn型半導体72Nの組と、電極兼放熱板73P,73Nと、水管74P,74Nとを備える。
【0033】
図2に示すように、電極兼放熱板73Pには水管74Pが、電極兼放熱板73Nには水管74Nが、それぞれ接続されている。水冷部63は、水管74P,74Nの各々に水を流すことで、電極兼放熱板73P,73Nの各々を冷却して一定温度に保つ。即ち、電極兼放熱板73P,73Nは、図1の従来のペルチェ素子1の放熱板21Bと同様の機能(以下、「放熱板機能」と称する)を有している。
【0034】
さらに、電極兼放熱板73P,73Nの各々は、温度制御部62と電気的に接続されており、温度制御部62により電圧が印加される。即ち、電極兼放熱板73Pは、図1の従来のペルチェ素子1の電極板23Pと同様の機能を有し、電極兼放熱板73Nは、図1の従来のペルチェ素子1の電極板23Nと同様の機能を有している。なお、以下、これらの機能を「電圧被印加機能」と称する。詳細については後述するが、電極兼放熱板73P,73Nに印加される電圧の電位差によって、電流が温度素子61内を流れる。この電流の値及びその向き(極性)が温度制御部62によって制御されると、温度素子61が対象物を加熱又は冷却する度合いが調整される。即ち、温度素子61を用いた温度制御が実現する。
【0035】
電極兼放熱板73P,73Nは、放熱板機能及び電圧被印加機能を有していれば、その素材や構造等は任意でよい。ただし、放熱板機能及び電圧被印加機能をより発揮すべく、電極兼放熱板73P,73Nの素材として、熱伝導率が高く、かつ、電気抵抗が小さい素材が採用されると好適である。本実施形態では、このような素材として銅(Cu)が採用されている。
【0036】
電極兼放熱板73Pにはp型半導体72Pの一端が接合されている一方で、電極兼放熱板73Nにはn型半導体72Nの一端が接合されている。即ち、p型半導体72Pは、図1の従来のペルチェ素子1のp型半導体24Pと同様の機能を有し、n型半導体72Nは、図1の従来のペルチェ素子1のn型半導体24Nと同様の機能を有している。
【0037】
p型半導体72P及びn型半導体72Nの組は、ペルチェ効果を奏すれば、その素材や構造等は任意でよい。ただし、本実施形態では、p型半導体72P及びn型半導体72Nの組の素材として、より大きなペルチェ効果が得られるビスマステルが採用されている。
【0038】
p型半導体72Pの他端は、金属製ウェル71の側面71aに直接接合されている一方で、n型半導体72Nの他端は、金属製ウェル71の側面71aに対向する側面71bに直接接合されている。
【0039】
ここで、本明細書において「直接接合」又は「直接装着」という用語は、温度制御系にとって遅れ要素となるもの(例えば図1の従来のペルチェ素子1の放熱板21A)を介在しない接合又は装着を意味する。従って、当然ながら、p型半導体72P及びn型半導体72Nの組と、金属製ウェル71との間には、両者を接合する目的の素材が介在する場合があり得る。具体的には例えば、本実施形態では、p型半導体72P及びn型半導体72Nの組は、その表面がニッケルでメッキされ、さらに、GaInなどの低融点合金によって、金属製ウェル71と接合される。即ち、本実施形態では、両者を接合する目的の素材として、メッキ用のニッケルと、低融点合金とが採用されている。なお、本実施形態の接合手法は例示に過ぎず、その他例えば、ニッケル以外の金属でメッキする接合手法、二重にメッキする接合手法、低融点合金として他の材料を採用する接合手法、低融点合金の代わりに半田付けにより接合する接合手法等、各種各様の接合手法を採用することが可能である。
【0040】
換言すると、金属製ウェル71は、p型半導体72P及びn型半導体72Nの組を直接接合する機能、即ち、図1の従来のペルチェ素子1の電極板22Aと同様の機能を有している。即ち、当該機能とは、p型半導体72Pとn型半導体72Nとの一方から他方へ、電流を流すと共に熱を伝搬することで、ペルチェ効果を生じさせる機能である。なお、以下、当該効果を、「ブリッジ兼電極機能」と称する。
【0041】
金属製ウェル71は、ブリッジ兼電極機能を有していれば、その素材や構造等は任意でよい。ただし、金属製ウェル71は、ブリッジ兼電極機能をより発揮するために、電気抵抗が小さい素材が採用されると好適であり、例えば銅(Cu)やアルミニウム(Al)が採用されると好適である。なお、ここでいうアルミニウムとは、純アルミニウムのみならず、アルミニウム合金も含んでいる。本実施形態では、所定のアルミニウム合金が採用されている。
【0042】
ここで注目すべき点は、金属製ウェル71の上面71uには、加熱又は冷却の対象物を直接装着する装着部81が設けられている点である。
【0043】
図3は、このような装着部81を有する金属製ウェル71の概略構成を示す図である。具体的には、図3Aは、装着部81に直接装着される対象物の一例であるプラスチックチューブ82の概略構成を示す側面図である。図3Bは、このようなプラスチックチューブ82を直接装着可能な装着部81を有する金属製ウェル71の概略構成を示す斜視図である。なお、図3に示す各種寸法(mmが記載されている箇所)は、本実施形態で採用されている寸法であって例示にしか過ぎない。
【0044】
本実施形態では、温度素子61はDNA増幅装置51に備えられているため、温度素子61により加熱又は冷却される対象物は、正確にいうと、DNA検体(反応溶液)である。しかしながら、DNA検体(反応溶液)は、直接的な加熱又は冷却が困難であるので、図3Aに示すようなプラスチックチューブ82に収容されて加熱又は冷却される。したがって、以下の説明では、加熱又は冷却の対象物は、DNA検体(反応溶液)収容に用いられるプラスチックチューブ82であるとする。
【0045】
図3Bに示すように、このようなプラスチックチューブ82の下側部分(図3A中12mmという寸法が記載されている部分)の形状に合わせた凹部が、装着部81として、金属製ウェル71の上面71uの中央から内部下方に形成されている。換言すると、装着部81は、プラスチックチューブ82を装着すべく加工が施されている。
【0046】
このように、本実施形態では、DNA検体(反応溶液)収容に用いられるプラスチックチューブ82は、装着部81に直接装着される。このことは、図1の従来のペルチェ素子1を例えとして用いているならば、容器31がプラスチックチューブ82に相当し、電極板22Aがブリッジ兼電極機能を有していることを考慮すると、容器31が放熱板21Aを介在せずに電極板22Aの内部に直接装着されるのと等価であることを意味する。
【0047】
即ち、図1の従来のペルチェ素子1を用いて容器31を加熱又は冷却する場合、容器31は、放熱板21Aを介在して、ブリッジ兼電極機能を有する電極板22Aと熱の授受を行うことになる。したがって、従来のペルチェ素子1を用いて容器31を加熱又は冷却するための温度制御系では、セラミック等で形成される放熱板21Aは遅れ要素となる。この遅れ要素の分だけ、図1の従来のペルチェ素子1を用いた温度制御の応答性は悪化することになる。
【0048】
これに対して、本実施形態の温度制御系、即ち、温度素子61を用いてプラスチックチューブ82を加熱又は冷却する温度制御系では、プラスチックチューブ82は、従来の放熱板21Aのような遅れ要素となるものを介在せずに、ブリッジ兼電極機能を有する金属製ウェル71と直接熱を授受することができる。したがって、遅れ要素が無い分だけ、本実施形態の温度制御の応答性は、図1の従来のペルチェ素子1を用いた場合と比較して高いものになる。なお、このような効果の詳細については、図11を参照して後述する。
【0049】
次に、このような温度素子61に対して温度制御を実行する温度制御部62について説明する。
【0050】
図4は、温度制御部62の概略構成を示す構成図である。
図4に示すように、温度制御部62は、温度調整器101と、定電流電源装置102と、電流計103と、別体電源104と、直流電源105とを備える。
【0051】
温度調整器101は、温度素子61の温度を検出し、その検出温度が目標温度となるように制御する。詳細についてはDNA増幅装置51の動作として後述するが、温度素子61内の電流の方向(極性)及び大きさ(値)を変化させることで、温度素子61がプラスチックチューブ82を目標温度まで加熱又は冷却することができる。そこで、温度調整器101は、温度素子61内の電流の方向及び大きさの目標値(以下、「電流目標値」と称する)を設定し、定電流電源装置102に供給する。
【0052】
本実施形態では、電流の方向として、温度素子61の電極兼放熱板73Pから電極兼放熱板73Nに向かう方向が存在する。当該方向に電流が流れると、温度素子61はプラスチックチューブ82を加熱する動作(以下、「加熱動作」と称する)をする。そこで、以下、当該方向を「加熱方向」と称する。
また、別の電流の方向として、温度素子61の電極兼放熱板73Nから電極兼放熱板73Pに向かう方向が存在する。当該方向に電流が流れると、温度素子61は、プラスチックチューブ82を冷却する動作(以下、「冷却動作」と称する)をする。そこで、以下、当該方向を「冷却方向」と称する。
このような電流の方向は、温度調整器101の出力信号の種類によって特定される。即ち、温度調整器101は、電流の方向として加熱方向を指示する場合には、制御信号SPを出力する。これに対して、温度調整器101は、電流の方向として冷却方向を指示する場合には、制御信号SMを温度調整器101から出力する。
【0053】
また、本実施形態では、温度素子61内の電流目標値は、温度制御調整器101から出力される制御信号SP又はSMの信号レベルによって特定される。具体的には例えば、制御信号SP及びSMは、4乃至20mAの範囲内で可変する電流信号である。従って、制御信号SP又はSMの電流の値によって、温度素子61内の電流目標値が特定される。
【0054】
定電流電源装置102は、いわゆる定電流レギュレータ(安定化電源装置)として構成されている。定電流電源装置102は、温度調整器101から出力された制御信号SP又はSMに基づいて出力電流の方向及び大きさを決定し、決定した方向及び大きさの定電流を温度素子61に出力する。
【0055】
ここで、本実施形態では、温度素子61の駆動範囲は±30Aであるため、定電流電源装置102は、±30Aの範囲内で定電流を温度素子61に出力するものとする。この場合、単純に±30Aの直流電流を出力するだけならば、従来のレギュレータを採用することができる。しかしながら、本実施形態の温度素子61の電源装置として、従来のレギュレータを採用することは困難である。以下、困難な理由について説明する。
【0056】
即ち、本実施形態の温度素子61の抵抗RLは非常に低いため、温度素子61に印加される電圧、即ち電極兼放熱板73P,73N間の電位差は低くなる。例えば、温度素子61の抵抗RLが10mΩならば、オームの法則に従って単純計算すると、温度素子61に引加される電圧は±0.3Vになる。このように、本実施形態の温度素子61に対しては、±30Aという大電流を温度素子61に流すと共に、±0.3V程度の小電圧を温度素子61に印加することが可能な電源装置が要求される。
【0057】
ここで、従来のレギュレータは、スイッチンレギュレータと、リニアレギュレータとに大別される。なお、リニアレギュレータは、シリーズレギュレータとも称されている。
【0058】
スイッチングレギュレータは、リニアレギュレータと比較すると、電力効率が良いというメリットがある反面、定電流源として機能する場合には定格電圧の10%程度までしか出力できない(出力電圧をそれ以下に降下させると動作保証ができない)というデメリットがある。スイッチングレギュレータは、当該デメリットにより、定電流源として機能したまま±0.3V程度の小電圧を温度素子61に印加することは非常に困難である。従って、スイッチングレギュレータを、温度素子61の電源装置として採用することは非常に困難である。
【0059】
一方、リニアレギュレータは、定電流源として機能しても0V乃至定格電圧まで連続可変できるというメリットがある反面、電力効率が悪いというデメリットがある。リニアレギュレータは、当該デメリットにより、温度素子61の電源装置として採用することは現実的では無い。即ち、電力効率が悪いということは、入力電力と出力電力の差分である損失が大きいということである。この損失は、リニアレギュレータでは熱として消費されるため、放熱器が必要になる。従って、温度素子61に対して要求される出力電圧が±0.3Vと小電圧であることを考慮すると、一般的な入力電圧のリニアレギュレータでは、損失(効率)が非常に大きなものとなり、その分だけ非常に大きな放熱器が必要になる。このような非常に大きな放熱器を設けることは、スペース等の設置環境の観点からもコストの観点からも現実的でない。
【0060】
そこで、本実施形態の定電流電源装置102は、スイッチングレギュレータとリニアレギュレータとを併せ持ち、スイッチングレギュレータの出力電圧の値に応じて、定電流の出力可変制御の担当を振り分けている。例えば、スイッチングレギュレータの出力電圧の値が閾値以上の場合には、スイッチングレギュレータが定電流の出力可変制御を担当し、スイッチングレギュレータの出力電圧の値が閾値未満の場合には、リニアレギュレータが定電流の出力可変制御を担当する。ここで閾値は、スイッチングレギュレータが定電流源として動作保証可能な最低電圧値以上であれば特に限定されず、本実施形態では1Vが採用されている。
【0061】
ここで、上述した説明では温度素子61における電圧及び電流に着目しため、温度素子の抵抗RLのみを考慮してきた。しかしながら、スイッチングレギュレータに着目すると、配線抵抗等もさらに考慮する必要があり、その結果、温度素子61に印加される電圧が±0.3Vの場合であっても、スイッチングレギュレータの出力電圧は±1Vを超えることは適宜ある。また、詳細については後述するが、複数のプラスチックチューブ82を同時に加熱又は冷却させるために、複数の金属製ウェル71が直列接続等されて温度素子61の抵抗RLが増大して、スイッチングレギュレータの出力電圧が±1Vを超えることは適宜ある。このように、温度素子61を用いた温度制御では、スイッチングレギュレータの出力電圧が±1Vを超える場合が適宜ある。このような場合には、定電流の出力可変制御の担当はスイッチングレギュレータになるため、電力効率が良い温度制御が可能になる。
【0062】
また、本実施形態の定電流電源装置102においては、リニアレギュレータは、入力電圧(スイッチングレギュレータの出力電圧)が1V以下の場合に定電流の出力可変制御を担当すれば良いので、従来のリニアレギュレータと比較すると電力損失も小さくなる。このため、放熱器も小さくて済むため、リニアレギュレータを、定電流電源装置102内に低コストで容易に設置することが可能になる。
【0063】
なお、定電流電源装置102のさらなる詳細については、図5を参照して後述する。
【0064】
電流計103は、定電流電源装置102の出力電流を監視し、監視結果をユーザに提示する。別体電源104は、図示せぬ商用交流電源の交流100Vを直流12Vに変換して、定電流電源装置102の駆動用電源として供給する。直流電源105は、図示せぬ商用交流電源の交流100Vを直流12Vに変換して、定電流電源装置102の内部用電源として供給する。
【0065】
次に、このよう構成の温度制御部62のうち、定電流電源装置102の詳細について説明する。
【0066】
図5は、本実施形態の定電流電源装置102の概略構成を示す構成図である。
【0067】
図5に示すように、定電流電源装置102は、スイッチングレギュレータ111P1乃至111M2と、ダイオード112P1乃至112M2と、リニアレギュレータ113P,113Mと、カレントループ電流電圧変換部114P,114Mと、を備える。
【0068】
図5に示すように、スイッチングレギュレータ111P1及びダイオード112P1の直列接続と、スイッチングレギュレータ111P2及びダイオード112P2の直列接続とが並列接続されて構成される並列回路121Pが、定電流電源装置102に設けられている。並列回路121Pのうち、スイッチングレギュレータ111P1,111M側の一端は、別体電源104の正極出力端に接続され、ダイオード112P1,112P2側の他端は、リニアレギュレータ113Pの入力端に接続されている。リニアレギュレータ113Pの出力端は、電流計103を介して、温度素子61の電極兼放熱板73P(図2)に接続される。温度素子61の逆側の電極兼放熱板73N(図2)は、定電流電源装置102を介して別体電源104の負極出力端に接続される。
【0069】
従って、詳細についてはDNA増幅装置51の動作として後述するが、温度素子61が加熱動作をする場合、電流は、別体電源104の正極出力端、並列回路121P、リニアレギュレータ113P、温度素子61の電極兼放熱板73P及び73N、並びに、別体電源104の負極出力端の順に流れる。
【0070】
スイッチングレギュレータ111P1,111P2は、例えばいわゆるDC−DCコンバータとして構成されており、別体電源104により印加された直流12Vの電圧を、12V以下の直流電圧に変化して出力する。スイッチングレギュレータ111P1,111P2は、定電流源として機能しているので、カレントループ電流電圧変換部114Pによって指示された値の定電流を出力する。即ち、スイッチングレギュレータ111P1,111P2は、カレントループ電流電圧変換部114Pの指示に従って、定電流の出力可変制御を実行する。ただし、スイッチングレギュレータ111P1,111P2の出力電圧が閾値(1V)未満となった場合には、定電流の出力可変制御の担当は、スイッチングレギュレータ111P1,111P2から、リニアレギュレータ113Pに移行する。
【0071】
ダイオード112P1,112P2の各々は、スイッチングレギュレータ111P1,111P2の各々の出力電圧を降下させると共に、スイッチングレギュレータ111P1,111P2の各々の出力電流の逆流を防止する。
【0072】
図2に示すように、ダイオード112P1,112P2の各々の出力電流は合算されて、リニアレギュレータ113Pに出力される。即ち、本実施形態では、スイッチングレギュレータ111P1,111P2の定格電流は15Aとされている一方で、上述したように、温度素子61の定格電流は30Aとされている。このため、定格電流が15Aの2台のスイッチングレギュレータ111P1,111P2を並列接続することで、温度素子61の定格電流である30Aを出力するようにしている。
【0073】
換言すると、定格電流が30Aのスイッチングレギュレータを採用できる場合には、並列回路121Pの代わりに、1台の当該スイッチングレギュレータを定電流電源装置102に搭載すればよい。この場合、ダイオードは特に必須ではないが、当該スイッチングレギュレータの後段に直列接続してもよい。
【0074】
逆に、温度素子61の定格電流が30Aを超える場合、例えば45Aとなる場合、図示はしないが、スイッチングレギュレータ111P3及びダイオード112P3の直列接続を、並列回路121にさらに並列接続させればよい。要するに、スイッチングレギュレータ111PKの定格電流と温度素子61の定格電流との各々の大きさに応じて、並列回路121の並列数Kを可変すればよい。なお、Kは1以上の整数値であって、図2の例では2である。
【0075】
リニアレギュレータ113Pは、例えばFET(Field effect transistor)を用いて構成されており、上述の如く、スイッチングレギュレータ111P1,111P2の出力電圧が閾値(1V)未満となった場合に、定電流の出力可変制御を実行する。リニアレギュレータ113Pはまた、いわゆるFETスイッチの機能も有しており、カレントループ電流電圧変換部114Mの制御により、オンオフ状態を切り替える。即ち、詳細についてはDNA増幅装置51の動作として後述するが、温度素子61が加熱動作をする場合には、リニアレギュレータ113Pはオン状態となる一方、温度素子61が冷却動作をする場合には、カレントループ電流電圧変換部114Mの制御により、リニアレギュレータ113Pはオフ状態となり、並列回路121Pの出力を遮断する。
【0076】
カレントループ電流電圧変換部114Pは、温度素子61が加熱動作をする場合に温度調整器101から出力された制御信号SPを入力する。制御信号SPは、上述の如く、4乃至20mAの電流信号である。そこで、カレントループ電流電圧変換部114Pは、制御信号SPを、4乃至20mAの電流の形態から1乃至5Vの電圧の形態に変換して、スイッチングレギュレータ111P1,111P2及びリニアレギュレータ113Mに供給する。スイッチングレギュレータ111P1,111P2は、カレントループ電流電圧変換部114Pから供給された電圧の値(1乃至5Vの範囲内の値)に応じて、0乃至15Aの範囲内で出力電流の値を変化させる。リニアレギュレータ114Mは、カレントループ電流電圧変換部114Pから電圧が供給されると、オン状態からオフ状態に切り替えて、並列回路121Mの出力を遮断する。
【0077】
並列回路121M及びリニアレギュレータ113Mは、並列回路121P及びリニアレギュレータ113Pと基本的に同様の構成及び機能を有しており、接続形態も同様である。ただし、並列回路121M及びリニアレギュレータ114Mの駆動タイミングは、並列回路121P及びリニアレギュレータ113Pの駆動タイミングとは逆である。即ち、温度素子61が加熱動作をする場合には、上述したように、カレントループ電流電圧変換部114Pから電圧が供給されてリニアレギュレータ113Mがオフ状態となるため、並列回路121M及びリニアレギュレータ113Mの駆動は停止する。一方、温度素子61が冷却動作をする場合には、リニアレギュレータ113Mがオン状態となるため、並列回路121M及びリニアレギュレータ113Mは駆動する。
【0078】
カレントループ電流電圧変換部114Mは、温度素子61が冷却動作をする場合に温度調整器101から出力された制御信号SMを入力する。制御信号SMは、上述の如く、4乃至22mAの電流信号である。そこで、カレントループ電流電圧変換部114Mは、制御信号SMを、4乃至20mAの電流の形態から1乃至5Vの電圧の形態に変換して、スイッチングレギュレータ111M1,111M2及びリニアレギュレータ113Pに供給する。スイッチングレギュレータ111M1,111M2は、カレントループ電流電圧変換部114Mから供給された電圧の値(1乃至5Vの範囲内の値)に応じて、0乃至15Aの範囲内で出力電流の値を変化させる。リニアレギュレータ114Pは、上述したように、カレントループ電流電圧変換部114Mから電圧が供給されると、オン状態からオフ状態に切り替えて、並列回路121Pの出力を遮断する。
【0079】
以上、図1乃至図5を参照して、DNA増幅装置51の構成について説明した。次に、当該DNA増幅装置51の動作について説明する。
【0080】
上述のごとく、機能的な視点では、本実施形態の電極兼放熱板73P,73Nは、放熱板機能及び電圧被印加機能を有するので、図1の従来のペルチェ素子1の放熱板21B及び電極板23P,23Nに相当する。したがって、電極兼放熱板73P,73Nは、従来のペルチェ素子1のB面部位と同じ振る舞いをする。そこで、以下、電極兼放熱板73P,73Nを、本実施形態の温度素子61における「B面部位」と適宜称する。
【0081】
一方、機能的な視点では、金属製ウェル71は、ブリッジ兼電極機能を有するので、上述のごとく、図1の従来のペルチェ素子1の電極板22Aに相当する。したがって、金属製ウェル71は、従来のペルチェ素子1のA面部位と同じ振る舞いをする。そこで以下、金属製ウェル71を、本実施形態の温度素子61における「A面部位」と適宜称する。ここで、注意すべき点は、本実施形態の温度素子61におけるA面部位には、従来のペルチェ素子1におけるA面部位の放熱板21Aのような、温度制御系にとって遅れ要素となるものが存在しない点である。
【0082】
また、本実施形態では、電極兼放熱板73Pの側を基準として、電極兼放熱板73Pが高電位になり、電極兼放熱板73Nが低電位になるように、温度制御部62により電圧が印加されることを、以下、「温度素子61にプラス電圧が印加される」と表現する。逆に、電極兼放熱板73Pが低電位になり、電極兼放熱板73Nが高電位になるように、温度制御部62により電圧が印加されることを、以下、「温度素子61にマイナス電圧が印加される」と表現する。
【0083】
即ち、温度素子61にプラス電圧が印加される場合とは、図5に示すリニアレギュレータ113Pがオン状態となって、並列回路121P及びリニアレギュレータ113Pが駆動している場合を意味する。この場合、電流は、別体電源104の正極出力端、並列回路121P、リニアレギュレータ113P、温度素子61の電極兼放熱板73P及び73N、並びに、別体電源104の負極出力端の順に流れる。なお、リニアレギュレータ114Mはオフ状態となっているため、並列回路121M及びリニアレギュレータ113Mの駆動は停止している。
一方、温度素子61にマイナス電圧が印加される場合とは、図5に示すリニアレギュレータ113Mがオン状態となって、並列回路121M及びリニアレギュレータ113Mが駆動している場合を意味する。この場合、電流は、別体電源104の正極出力端、並列回路121M、リニアレギュレータ113M、温度素子61の電極兼放熱板73N及び73P、並びに、別体電源104の負極出力端の順に流れる。なお、リニアレギュレータ113Pはオフ状態となっているため、並列回路121P及びリニアレギュレータ113Pの駆動は停止している。
【0084】
このような温度制御部62により、温度素子61にマイナス電圧が印加されると、電流が、図2中右方から左方に流れる。具体的には、電流が、電極兼放熱板73N、n型半導体72N、金属製ウェル71、p型半導体72P、及び電極兼放熱板73Pの順に流れる。その結果、A面部位である金属製ウェル71が吸熱部となる。即ち、A面部位である金属製ウェル71に直接装着されたプラスチックチューブ82(図3)から発せられた熱は、金属製ウェル71に直接吸熱され、これにより、プラスチックチューブ82が冷却される。
【0085】
詳細には、温度素子61を流れる電流の値(絶対値)に応じて、A面部位である金属製ウェル71が低温となり、B面部位である電極兼放熱板73P,73Nが高温となるような温度差△Tが生ずる。
【0086】
ここで、A面部位が低温とは、絶対的な意味で低温というのではなく、B面部位の温度に対して相対的に低温という意味である。即ち、上述したように、B面部位である電極兼放熱板73P,73Nは、水冷部63により水冷されて一定温度を保っている。以下、このようなB面部位である電極兼放熱板73P,73N側の一定温度を、「基準温度」と称する。したがって、A面部位である金属製ウェル71は、基準温度よりも温度差△Tだけ低い温度になるように冷却される。
【0087】
この温度差△Tは、一定のリミットは存在するものの、温度素子61を流れる電流の値(絶対値)が高くなるほど大きくなる。温度素子61を流れる電流の値、即ち、定電流電源装置102から出力される電流の値は、図4の温度調整器101から出力される制御信号SMの信号レベルに基づいて制御される。従って、温度調整器101は、制御信号SMの信号レベルを高くすることによって、定電流電源装置102から出力されて温度素子61を流れる電流の値を大きくし、その結果、温度差△Tを大きくしていくことができる。このように、温度調整器101は、制御信号SMの信号レベルを高くすることによって、A面部位である金属製ウェル71の温度を降下させることができる。この場合、プラスチックチューブ82は金属製ウェル71により直接冷却されるので、従来の図1の放熱板21Aのような遅れ要素を介して冷却される場合と比較して、温度制御の応答性は高いものになる。
【0088】
その後、温度制御部62により出力電圧の極性が反転された場合、即ち、温度素子61にプラス電圧が印加された場合、電流が、マイナス電圧が印加された場合とは逆方向の図2中左方から右方に流れる。具体的には、電流が、電極兼放熱板73P、p型半導体72P、金属製ウェル71、n型半導体72N、及び電極兼放熱板73Nの順に流れる。その結果、A面部位である金属製ウェル71は、今度は発熱部となる。即ち、A面部位である金属製ウェル71から発せられた熱は、プラスチックチューブ82に対して直接伝播され、これにより、プラスチックチューブ82が加熱される。
【0089】
詳細には、温度素子61にプラス電圧が印加されると、A面部位である金属製ウェル71は、基準温度よりも温度差△Tだけ高い温度になるように加熱される。この温度差△Tは、一定のリミットは存在するものの、温度素子61を流れる電流の値(絶対値)が高くなるほど大きくなる。温度素子61を流れる電流の値、即ち、定電流電源装置102から出力される電流の値は、図4の温度調整器101から出力される制御信号SPの信号レベルに基づいて制御される。従って、温度調整器101は、制御信号SPの信号レベルを高くすることによって、定電流電源装置102から出力されて温度素子61を流れる電流の値を大きくし、その結果、温度差△Tを大きくしていくことができる。このように、温度調整器101は、制御信号SPの信号レベルを高くすることによって、A面部位である金属製ウェル71の温度を上昇させることができる。この場合、プラスチックチューブ82は金属製ウェル71により直接加熱されるので、従来の図1の放熱板21Aのような遅れ要素を介して加熱される場合と比較して、温度制御の応答性は高いものになる。
【0090】
このように、温度制御部62は、出力電流の方向及び大きさを変化させることで、温度素子61を用いたプラスチックチューブ82に対する温度制御を実行することが可能になる。したがって、温度目標値の時間推移の所定パターンとして、出力電流の時間推移の所定パターンが温度制御部62の温度調整器101に与えられることにより、PCR法が容易に実現可能になる。即ち、プラスチックチューブ82に収納されたDNA検体(反応溶液)が、当該所定パターンに従って変化する温度素子61の熱サイクルにより加熱又は冷却され、その結果、DNAが増幅する。
【0091】
なお、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0092】
例えば、p型半導体及びn型半導体の組の個数は、図2の実施形態ではp型半導体72P及びn型半導体72nの組といった1組だけとされていたが、これに限定されず、複数組とすることができる。
【0093】
例えば、図6乃至図10に示すように、p型半導体72P1及びn型半導体72N1の第1組と、p型半導体72P2及びn型半導体72N2の第2組といった2組を採用することもできる。
【0094】
図6は、このような第1組及び第2組が並列に配置される場合の温度素子61の概略構成を示す上面図である。図7は、当該温度素子61の概略構成の斜視図である。図8は、当該温度素子61の概略構成であって、図7とは異なる構成の斜視図である。ただし、図7及び図8においては、電極兼放熱板73P,73Nの図示は省略されている。なお、図7と図8との構成を個々に区別する必要がある場合、図7の構成の温度素子61を特に「温度素子61a」と称し、図8の構成の温度素子61を特に「温度素子61b」と称する。
【0095】
図6に示すように、第1組のp型半導体72P1及び第2組のp型半導体72P2は、一端が電極兼放熱板73Pに接合され、他端が金属製ウェル71の側面71aに接合される。一方、第1組のn型半導体72N1及び第2組のn型半導体72N2は、一端が電極兼放熱板73Nに接合され、他端が金属製ウェル71の側面71bに接合される。
【0096】
このような第1組と第2組との配置の関係は、並列であれば特に限定されず、例えば図7の温度素子61aにおいては垂直方向に第1組と第2組とがそれぞれ配置され、例えば図8の温度素子61bにおいては水平方向に第1組と第2組とがそれぞれ配置される。また、組の並列数は、図6乃至図8に示す第1組及び第2組の2組に特に限定されず、3組以上であってもよい。
【0097】
図9は、このような第1組及び第2組が直列に配置される場合の温度素子61の概略構成を示す上面図である。図10は、当該温度素子61の概略構成を示す斜視図である。ただし、図10においては、電極兼放熱板73P,73N,73PNの図示は省略されている。
【0098】
これらの第1組と第2組とを直列に接合する場合、第1組と第2組との各々の電流が、他組の電流と混在せずに、相互に独立して流れる必要がある。このため、図9や図10に示すように、金属製ウェル71の側面71aから側面71bに至って、金属製ウェル71を分断するように絶縁物91が挿入される。これにより、金属製ウェル71は、2つの領域201,102に区分される。
【0099】
図9や図10の実施形態では、第1組は領域201に接合され、第2組は領域202に接合される。具体的には、第1組については、n型半導体72N1が、金属製ウェル71の側面71aの領域201側に接合され、p型半導体72P1が、金属製ウェル71の側面71bの領域201側に接合される。これとは逆に、第2組については、p型半導体72P2が、金属製ウェル71の側面71aの領域202側に接合され、n型半導体72N2が、金属製ウェル71の側面71bの領域202側に接合される。
【0100】
この場合、第1組のn型半導体72N1及び第2組のp型半導体72P2に対して電圧が印加されるので、第1組のn型半導体72N1に対して電極兼放熱板73Nが接合され、第2組のp型半導体72P2に対して電極兼放熱板73Pが接合される。また、第1組と第2組とを直列に接合すべく、即ち、第1組のp型半導体72P1と第2組のn型半導体72N2の一方から他方へ電流を流すべく、第1組のp型半導体72P1及び第2組のn型半導体72N2に対して、電極兼放熱板73PNが接合される。
【0101】
これらの第1組と第2組との配置の関係は、電気的に絶縁されている領域201,202の金属製ウェル71内の形成位置に依存する。例えば図10の例では、左右方向に領域201,202がそれぞれ形成されているので、水平方向に第1組と第2組とがそれぞれ配置される。例えば図示はしないが、上下方向に領域201,202がそれぞれ形成されている場合には、垂直方向に第1組と第2組とがそれぞれ配置される。換言すると、領域201,202の金属製ウェル71内での形成位置を任意に変更することで、それに応じて、第1組と第2組との配置の関係も任意に変更することができる。
【0102】
また、組の直列数は、図9や図10に示す第1組及び第2組の2組に特に限定されず、3組以上であってもよい。ただし、この場合、金属製ウェル71には、電気的に絶縁されている領域が組数分だけ形成される。そして、複数の領域毎に、側面71aにp型半導体72Pを接合して側面71bにn型半導体72Nを接合する組と、側面71aにn型半導体72Nを接合して側面71bにp型半導体72Pを接合する組とが交互に配置される。そして、側面71aに接合された所定の組のn型半導体72Nに対して電極兼放熱板73Nが接合され、側面71aに接合された別の組のp型半導体72Pに対して電極兼放熱板73Pが接合される。また、電極兼放熱板73PNのような複数の組を直列に接合するための電極兼放熱板も1つ以上設けられる。
【0103】
以上、本発明の実施形態として、p型半導体及びn型半導体の組の視点で幾つかの実施形態について説明した。当然ながら、その他の視点でも、本発明は様々な実施形態を取ることが可能である。
【0104】
また例えば、温度素子61の基準温度を維持するための電極兼放熱板の冷却手法は、図2の実施形態では水冷部63による水冷式の手法が採用されていたが、これに限定されず、その他例えば、水以外の液体を使用した冷却手法を採用してもよいし、空冷式の手法を採用してもよい。
【0105】
また例えば、温度素子61により冷却又は加熱される対象物は、図2の実施形態ではプラスチックチューブ82、より正確にはそれに収納されたDNA検体(反応溶液)とされていたが、金属製ウェル71の装着部81に直接装着可能な物体であれば特に限定されない。換言すると、金属製ウェル71の装着部81の形状や個数は、図3の例に特に限定されず、冷却又は加熱の対象物体に応じて任意に変更することが可能である。ただし、この場合、装着部81は、対象物の形状に対応した加工が施されて、金属製ウェル71内に形成されていると、対象物に対する加熱又は冷却の応答性がさらに一段と高まるので好適である。
【0106】
換言すると、例えば、複数のプラスチックチューブ82を加熱又は冷却すべく、複数の金属製ウェル71を接続してもよいし、或いはまた、金属製ウェル71に形成させる装着部81の数を複数にしてもよい。
この場合、例えば、複数のプラスチックチューブ82が行列状に配置されているときには、金属製ウェル71を上述したように絶縁体で区切り、電流を流す方向を行方向と列方向とに区分することができる。これにより、行方向と列方向との各々に対する個別の温度制御が相互に独立して実行可能になる。
具体的には例えば、N行(Nは2以上の整数値)1列状、即ち直線状にN個のプラスチックチューブ82を接続することができる。この場合には、列方向に対する温度制御によって、N個のプラスチックチューブ82全体の温度制御(粗調整の温度制御)を実現できる。一方、行方向に対する温度制御によって、N個のプラスチックチューブ82各々に対する個別の温度制御(微調整の温度制御)を実現できる。
このように、複数のプラスチックチューブ82を加熱又は冷却する場合には、温度素子61の金属製ウェル71についての抵抗分が増加するので、定電流電源装置102のスイッチングレギュレータ111P1乃至111M2の出力電圧も増加して閾値(1V)を超えることが多くなる。このような場合には、スイッチングレギュレータ111P1乃至111M2が定電流の出力可変制御を担当するので、温度制御時の電力効率が向上する。
【0107】
本発明は、このような各種各様の実施形態によらず、例えば次の(1)乃至(4)のような効果を奏することが可能である。
【0108】
(1)本発明に係る温度素子61に設けられた金属製ウェル71は、p型半導体72Pとn型半導体72nとを直接接合し、p型半導体72Pとn型半導体72nの一方から他方へ電流を流すと共に熱を伝搬することで、ペルチェ効果を生じさせる機能を有している。この金属製ウェル71には、冷却又は加熱の対象物を直接装着可能な装着部81が設けられている。したがって、当該対象物は、温度制御系にとって遅れ要素となるもの(例えば図1の従来のペルチェ素子1の放熱板21A)を介在せずに金属製ウェル71により直接加熱又は冷却される。即ち、金属製ウェル71は、p型半導体72Pとn型半導体72nとの一方から他方へ流れる電流と共に伝搬される熱の経路になっている。従って、当該経路を伝搬する熱が対象物に直接供給されることによって、当該対象物が加熱され、また、当該対象物から発生られた熱が当該経路に直接供給されることによって、当該対象物が冷却される。その結果、従来のペルチェ素子1を採用した場合と比較して、温度制御の高応答性が実現する。
【0109】
(2)本発明に係る温度素子61は、その構造から、従来と比較して一桁近く温度精度を向上させることが可能になる。即ち、図1の従来のペルチェ素子1は、説明の簡略上、p型半導体24P及びn型半導体24Nの組を1組だけ有する構造とされたが、PCR法に適用する従来のペルチェ素子は、このような組を複数組有し、その複数組を直列に繋げる構造を有している。このため、従来のペルチェ素子では、p型半導体又はn型半導体と放熱板との各界面(接触面)の電気抵抗及び熱抵抗が揃っておらず、このことが、位相がズレて熱応答性を鈍らせる要因となっていた。これに対して、本発明に係る温度素子61は、図6乃至図10を用いて上述したように、その構造から、p型半導体72P又はn型半導体72Nと金属製ウェル71との界面の数が極めて少ないため、熱応答性を鈍らせる影響度合が従来と比較して遥かに低くなる。その結果、従来と比較して一桁近い温度精度の向上が可能になる。
【0110】
(3)ペルチェ効果による熱応答性は、電流が大きいほど高くなることが原理的に知られている。ここで、本発明に係る温度素子61は、図1の従来のペルチェ素子1を含む従来のペルチェ素子と比較して、p型半導体72Pとn型半導体72Nとの組数を減少させ、1組当たりの金属製ウェル71との界面の面積(接触面積)を増大させたため、より一段と大きな電流を取り扱うことが可能である。このため、本発明に係る温度素子61に対して大きな電流を流すことによって、さらに一段と熱応答性が高くなる。
【0111】
(4)このような本発明に係る温度素子61を駆動させる定電流源としては、±30A程度の大電流かつ±0.3V程度の小電圧を出力することが要求される。しかしながら、従来のスイッチングレギュレータを単に適用しても、当該要求に応えることは困難である。一方、従来のリニアレギュレータを単に適用しても、当該要求に応えること自体は可能になるが、電力効率が悪く現実的でない。そこで、本発明に係る定電流電源装置102は、スイッチングレギュレータとリニアレギュレータとを併せ持ち、スイッチングレギュレータの出力電圧の値に応じて、定電流の出力可変制御の担当を振り分けている。例えば、スイッチングレギュレータの出力電圧の値が閾値以上の場合には、スイッチングレギュレータが定電流の出力可変制御を担当し、スイッチングレギュレータの出力電圧の値が閾値未満の場合には、リニアレギュレータが定電流の出力可変制御を担当する。これにより、±30A程度の大電流かつ±0.3V程度の小電圧を出力することが可能になると共に、従来のリニアレギュレータを採用した場合と比較して電力効率が飛躍的に向上する。
【0112】
このような各種各様の効果を奏する温度素子61をPCR法に適用することで、即ち、当該対象物としてDNA検体収容に用いられるプラスチックチューブ82を採用することで、PCR法における温度目標値の時間推移の所定パターンに対して、DNA検体の温度を追従して変化させることが可能になる。即ち、図11に示すように、PCR法におけるDNA検体の温度制御の高応答性が実現可能になる。その結果、1工程に要する時間が短縮され、処理効率の向上や省電力性の向上が達成可能になる。
【0113】
図11は、同一条件によるPCR法の試験を、従来のペルチェ素子1を備える従来のDNA増幅装置を用いて行った場合と、本発明に係る温度素子61を備えるDNA増幅装置51を用いて行った場合との比較を示す図である。
【0114】
図11Aは、従来のペルチェ素子1を備える従来のDNA増幅装置を用いてPCR法の試験を行った場合における、DNA検体(反応溶液)の温度の時系列変化を示す図である。図11Bは、本発明に係る温度素子61を備えるDNA増幅装置51を用いてPCR法の試験を行った場合における、DNA検体(反応溶液)の温度の時系列変化を示す図である。図11において、縦軸は温度(度)を示し、横軸は時間(秒)を示している。
【0115】
この両試験におけるPCR法における温度目標値の時間推移のパターンは、次の(A)乃至(C)のとおりである。
(A)最初に、温度目標値を94度として、94度まで加熱させて、94度で30秒間保持させる。
この期間が、図11Aにおいては期間201aであり、図11Bにおいては期間201bである。
(B)次に、温度目標値を55度に切り替えて、55度まで冷却させて、55度で30秒間保持させる。
この期間が、図11Aにおいては期間202aであり、図11Bにおいては期間202bである。
(C)次に、温度目標値を72度に切り替えて、72度まで加熱させて、72度で60秒間保持させる。
この期間が、図11Aにおいては期間203aであり、図11Bにおいては期間203bである。
【0116】
また、この試験条件は次の(a)乃至(c)のとおりである。
(a)両試験とも、0.2mlの標準品のプラスチックチューブ82、及び、穴径が96mmの装着部81を2つ有する金属製ウェル71が用いられた。ただし、従来のペルチェ素子1を採用した試験では、金属製ウェル71は、放熱板21Aの表面上の所定位置、即ち図1に示す容器31の描画位置に配置された。即ち、従来のペルチェ素子1を採用した試験では、金属製ウェル71は、ブリッジ兼電極機能を発揮せずに、単にプラスチェックチューブ82を装着する装着部としての機能のみを発揮する。一方、本発明に係る温度素子61を採用した試験では、金属製ウェル71は、図3Bに示す寸法のサイズよりも肉薄にしたサイズ、即ち容積を小さくしている。また、温度調整機101内の温度検出部(センサ)は、本願出願時点において、可能な限り高精度で高応答なものを採用した。
(b)DNA検体(反応溶液)の温度は、両試験とも、同一の熱電対をプラスチックチューブ82内に挿入することで測定された。
(c)なお、本発明に係る温度素子61を備えるDNA増幅装置51を用いたPCR法の試験において、温度制御部62の出力電流は次の通りとなった。即ち、図11Bの期間201bのうち、加熱期間(94度まで温度を上昇させている期間)は19.6Aであり、温度保持期間(94度で保持させている期間)は10.4Aであった。図11Bの期間202bのうち、冷却期間(55度まで温度を下降させている期間)は18.1Aであり、温度保持期間(55度で保持させている期間)は5.4Aであった。図11Bの期間203bのうち、加熱期間(72度まで温度を上昇させている期間)は18.5Aであり、温度保持期間(72度で保持させている期間)は7.3Aであった。
【0117】
従来のペルチェ素子1を備える従来のDNA増幅装置を用いてPCR法の試験を行った場合には、図11Aの期間201a乃至203aの何れにおいても波形が鈍っていることから明らかなように、温度目標値の時間推移のパターンに対して、DNA検体(反応溶液)の温度が追従して変化していない。即ち、DNA検体(反応溶液)の温度が、温度目標値(期間201aにおいては94度、期間202aおいては55度、期間203aにおいては72度)に到達するまでに遅れが生じている。その結果、温度目標値の時間推移のパターンの(A)における「94度で30秒間保持させる」という目標に対して、図11Aの期間201aでは、94度±0.5度以内の時間が26秒と当該目標が達成できていない。以下同様に、温度目標値の時間推移のパターンの(B)における「55度で30秒間保持させる」という目標に対して、図11Aの期間202aでは、55度±0.5度以内の時間が20秒と当該目標が達成できていない。温度目標値の時間推移のパターンの(C)における「72度で60秒間保持させる」という目標に対して、図11Aの期間202aでは、72度±0.5度以内の時間が56秒と当該目標が達成できていない。
【0118】
このように、従来のペルチェ素子1を備える従来のDNA増幅装置では、温度目標値の時間推移のパターンに対してDNA検体(反応溶液)の温度が追従できない理由は次のとおりである。すなわち、上述したように、従来のペルチェ素子1のA面部位での温度変化、即ち、ブリッジ兼電極機能を有する電極板22Aでの温度変化は、遅れ要素となる放熱板21A(図1参照)を介在して、金属製ウェル71に装着されたプラスチックチューブ82に伝達されるからである。
【0119】
これに対して、本発明に係る温度素子61を備えるDNA増幅装置51を用いてPCR法の試験を行った場合には、図11Bの期間201b乃至203bの何れにおいても波形が急峻になっていることから明らかなように、温度目標値の時間推移のパターンに対して、DNA検体(反応溶液)の温度がほぼ追従して変化している。即ち、DNA検体(反応溶液)の温度が、温度目標値(期間201bにおいては94度、期間202bにおいては55度、期間203bcにおいては72度)に到達するまでに遅れがほぼ生じていない。その結果、温度目標値の時間推移のパターンの(A)における「94度で30秒間保持させる」という目標に対して、図11Bの期間201bでは、94度±0.5度以内の時間が30秒と当該目標が達成できている。以下同様に、温度目標値の時間推移のパターンの(B)における「55度で30秒間保持させる」という目標に対して、図11Bの期間202bでは、55度±0.5度以内の時間が30秒と当該目標が達成できている。温度目標値の時間推移のパターンの(C)における「72度で60秒間保持させる」という目標に対して、図11Bの期間203bでは、72度±0.5度以内の時間が60秒と当該目標が達成できている。さらに言えば、±0.5度という目標が達成されただけではなく、それよりも遥かに高精度の±0.01度が達成できている点にも注目すべきである。さらにまた、図11bの期間204bの分だけ、PCR法の試験のトータル時間が短縮されている。
【0120】
なお、図11Bにおいて、温度上昇または下降時においてプロット点の間隔が空いているのは、温度勾配が急峻になったため、即ち、温度制御の応答性が向上して短時間で温度上昇又は下降ができるようになったためである。また、一定温度の時のプロット線幅が細く見えるのは、温度制御の精度が向上し、ブレが小さくなったためである。なお、金属製ウェル71として、図3Bに示す寸法のサイズよりも肉薄にしたサイズ、即ち容積を小さくしたものを採用したことも、温度精度の向上の一因になっていると推測される。
【0121】
このようにして本発明に係る温度素子61を備えるDNA増幅装置5では、温度目標値の時間推移のパターンに対してDNA検体(反応溶液)の温度が追従できるようになる理由は次のとおりである。すなわち、上述したように、金属製ウェル71自体がブリッジ兼電極機能を有していてA面部位として動作するため、A面部位での温度変化が、放熱板21Aのような遅れ要素となるものを一切介在せずに、プラスチックチューブ82に直接伝達されるからである。
【0122】
以上、本発明に係る温度素子61を備えるDNA増幅装置51について説明した。このため、図5の定電流電源装置102は、温度素子61の電源装置として採用された。しかしながら、図5の定電流電源装置102は、温度素子61の電源装置のみならず、直流で動作する各種電気電子機器を負荷とする電源装置として広く採用することができる。
【0123】
ここで、図5の定電流電源装置102においては、スイッチングレギュレータ111P1乃至111M2の出力電圧が閾値(上述の例では1V)以上の場合には、スイッチングレギュレータ111P1乃至111M2が定電流の出力可変制御を担当することで、電力効率を高めるようにしている。一方で、スイッチングレギュレータ111P1乃至111M2の出力電圧が閾値未満の場合には、リニアレギュレータ113P,113Mが出力電流の可変制御を担当することで、大電流かつ小電圧(特に閾値未満の電圧)が求められる負荷に対しても安定して定電流を供給することが可能になる。
【0124】
したがって、大電流かつ小電圧が求められる負荷の電源装置として、図5の定電流電源装置102を採用すると好適である。例えばこのような負荷として、本願出願人が先に出願した特願2009−56483号に開示された「生体組織切断・接着用装置(図1参照)」が存在する。
【0125】
即ち、特願2009−56483号の願書に添付した明細書等によれば、生体組織切断・接着用装置は、対向させて配置した半導体部2、3と、半導体部2、3の各々に配置された電極兼熱交換部5、6と、半導体部2と半導体部3との間に介在されて該半導体部2と半導体部3とを接合するもので熱伝導性を有する接合部4と、電極兼熱交換部5と電極兼熱交換部6とに各々配置された電極8、9とから少なくとも構成され、接合部4には半導体部2、3よりも外部に突出した切断・接着用部位15が形成されたものとしつつ、電極8、9から半導体部2、3に直流電流を供給する電流源18及び電流の向きを変える変換器20を備えた電気回路10と、水等が循環して流れる熱交換媒体循環路20と、この熱交換媒体循環路20上に配置されたポンプ28及び貯液槽29とを有し、熱交換媒体循環路20は電極兼熱交換部5、6の内部を通過する経路が採られたものとしている。この場合、「電極8、9から半導体部2、3に直流電流を供給する電流源18及び電流の向きを変える変換器20を備えた電気回路10」として、図5の定電流電源装置102を採用すると好適である。
【符号の説明】
【0126】
51 DNA増幅装置
61,61a,61b 温度素子
62 温度制御部
63 水冷部
71 金属製ウェル
72P,72P1,72P2 p型半導体
72N,72N1,72N2 n型半導体
73P,73N,73PN 電極兼放熱板
74P,74N 水管
81 装着部
91 絶縁体
101 温度調整器
102 定電流電源装置
103 電流計
104 別体電源
105 直流電源
111P1,111P2,111M1,111M2 スイッチングレギュレータ
112P1,112P2,112M1,112M2 ダイオード
113P1,113M リニアレギュレータ
114P,114M カレントループ電流電圧変換部
201,202 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を加熱又は冷却する温度制御装置において、
ペルチェ効果により前記対象物を加熱又は冷却する温度素子と、
前記温度素子に対する通電制御を行う制御部と
を備え、
前記温度素子は、
相互に離間して配置されるp型半導体及びn型半導体の組と、
前記対象物を装着する装着部を有し、前記p型半導体とは第1又は第2の面で、前記n型半導体とは前記第1又は第2の面に対向する第2又は第1の面で各々に接合する接合部位と、
前記p型半導体に接合され、前記制御部により電圧が印加される第1の電極部位と、
前記n型半導体に接合され、前記制御部により電圧が印加される第2の電極部位と
を有し、
前記制御部により前記第1の電極部位と前記第2の電極部位との各々に異なる電圧が印加されて、前記p型半導体と前記n型半導体との間に電位差が生じた場合、前記接合部位は、前記p型半導体と前記n型半導体との一方から他方へ電流を流すと共に熱を伝搬することで、前記ペルチェ効果を生じさせ、
前記制御部は、スイッチングレギュレータとリニアレギュレータとを併せ持つ定電流源を有し、
前記定電流源は、
前記スイッチングレギュレータの出力電圧の絶対値が閾値以上の場合には、定電流の出力可変制御を前記スイッチングレギュレータに担当させ、
前記スイッチングレギュレータの出力電圧の絶対値が前記閾値未満の場合には、定電流の出力可変制御を前記リニアレギュレータに担当させる、
温度制御装置。
【請求項2】
前記対象物は、DNA(Deoxyribonucleic acid)検体収容に用いられる所定の容器であり、
前記装着部は、前記容器を装着すべく加工が施された
請求項1に記載の温度制御装置。
【請求項3】
前記温度素子は、
前記p型半導体及び前記n型半導体の複数の組を有し、
前記接合部位の前記第1の面には、前記複数の組の各々の前記p型半導体が接合され、前記接合部位の前記第2の面には、前記複数の組の各々の前記n型半導体が接合されており、
前記第1の電極部位には、前記複数の組の各々の前記p型半導体が接合され、前記第2の電極部位には、前記複数の組の各々の前記n型半導体が接合されている
請求項1又は2に記載の温度制御装置。
【請求項4】
前記温度素子は、
前記p型半導体及び前記n型半導体の複数の組を有し、
前記接合部位の前記第1の面から前記第2の面に至って絶縁物が挿入されることで、前記接合部位は複数の領域に区分されており、
前記複数の領域毎に、前記第1の面側に前記p型半導体を接合して前記第2の面側に前記n型半導体を接合する組と、前記第1の面側に前記n型半導体を接合して前記第2の面側に前記p型半導体を接合する組とが交互に配置されており、
前記第1の電極部位には、前記第1の面に接続された所定の前記p型半導体が接合され、前記第2の電極部位には、前記第1の面に接続された所定の前記n型半導体が接合されており、
前記複数の組を直列に接合する第3の電極部位をさらに有する
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の温度制御装置。
【請求項5】
前記温度素子の前記第1の電極部位と前記第2の電極部位とのうち少なくとも一方を冷却する冷却部
をさらに備える請求項1乃至4の何れか1項に記載の温度制御装置。
【請求項6】
前記温度制御装置は、携帯型の装置である
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の温度制御装置。
【請求項7】
ペルチェ効果により対象物を加熱又は冷却する温度素子用の電源装置において、
前記温度素子は、
相互に離間して配置されるp型半導体及びn型半導体の組と、
前記対象物を装着する装着部を有し、前記p型半導体と前記n型半導体との各々に接合する接合部位と、
前記p型半導体に接合され、外部から電圧が印加される第1の電極部位と、
前記n型半導体に接合され、外部から電圧が印加される第2の電極部位と
を有し、
前記第1の電極部位と前記第2の電極部位との各々に異なる電圧が外部から印加されて、前記p型半導体と前記n型半導体との間に電位差が生じた場合、前記接合部位は、前記p型半導体と前記n型半導体との一方から他方へ電流を流すと共に熱を伝搬することで、前記ペルチェ効果を生じさせる
温度素子であって、
前記電源装置は、
スイッチングレギュレータとリニアレギュレータとを併せ持つ定電流源装置であって、
前記スイッチングレギュレータの出力電圧の絶対値が閾値以上の場合には、定電流の出力可変制御を前記スイッチングレギュレータに担当させ、
前記スイッチングレギュレータの出力電圧の絶対値が前記閾値未満の場合には、定電流の出力可変制御を前記リニアレギュレータに担当させる、
温度素子用の電源装置。
【請求項8】
前記装着部は、前記対象物の形状に対応した加工が施されて、前記接合部位内に形成されている
請求項7に記載の温度素子用の電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−188749(P2011−188749A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55031(P2010−55031)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】